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[21908] 恋姫と使い魔【クロス作品 本人投稿作品よりスピンオフ】
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:c5df10ff
Date: 2010/09/19 16:23
以前、††恋姫無双演義††というSSを「その他SS投稿掲示板」に投稿させいて頂きました、投稿名きららです。

その後、長編には届かずとも、せめて中編くらいには続くものを、とは想いながらも、
小ネタや短編・小編に片寄った投稿を断続させて来ました。

そんな短小編の1つだった『ゼロの使い魔』とのクロス作品が、ある程度までは続きそうな、
そんな妄想が起こり始めました。

そんな風に反省も無しに書き始めて、何話か書き溜まったものの中から投稿し始めたのが、今回の拙作です。
尚、短編の書き直しから始めているため、最初の部分には、元の短編からの「転用」が混じりますが、
あくまでも「本人作」からの転用です。
また、続く限りは続かせたいですが、何とか完結させる事が出来た場合でも、
『ゼロの使い魔』原作の既刊までは進行せずに「落ち」が付くだろう、と思います。

そんな、何時までも勝手きわまる投稿ですが、余り凹まない様に温かく見守って頂ければ幸いです。

それでは、第1席『恋姫と使い魔』から、講釈を始めさせて頂きたいと思います。


※ 2010/09/15 修正UPしました。


※ 2010/09/17 投稿済み分を含めて、誤字指摘に対応しました。


※ 2010/09/19 投稿済み分を含めて、修正に対応しました。



[21908] 第1席『恋姫と使い魔』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:c5df10ff
Date: 2010/09/17 23:47
宇宙の果ての何処かに居る、私の僕(しもべ)よ……
神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ……
私は心より求め訴えるわ。わが導きに答えなさい!

爆発…そして、煙が散った後に出現したもの「たち」

「誰なの?あんた“たち”」
そう、彼女「ゼロのルイズ」の目前に出現しているのは、
見慣れない服装と見慣れない武器(長い柄の付いた片刃の剣)と見慣れない豊かな黒髪の美少女、
そして、その少女の足元で目を回してヒックリ返っている、これも見慣れない青い服装と黒髪の少年の「2人」
周囲を取り囲んだ同級生たちも、余りに非常識な(2人という)結果に、何時もの揶揄(やゆ)すら忘れた様だった。
その中で最初に起動したのが「炎蛇」だったのは、流石に元軍人であり、教師としても又ちゃんとした責任感の持ち主だった、とでも言うべきか。

「ミス・ヴァリエール!コントラクト・サーヴァントを」
「でも!どちらと?」
流石に戸惑(とまど)っている間に、黒髪の少女の方が1歩進み出た。

「これは貴公らの仕業か?」
このセリフに「貴族とは、かくあるべし」という建前に自尊を賭けているルイズは反発したが、
「炎蛇」の方は、経験が教えてくれた。「この」相手は危険だ。

「お待ちなさい、ミス・ヴァリエール」
黒髪の少女に向き直って
「貴方は軍人、それも百戦錬磨の強者(つわもの)でしょう」
「ほう、分かるか」かすかに機嫌を直した様だが、
ここまでのやり取りを聞いていたルイズが有頂天(うちょうてん)に成って仕舞った。

「すばらしいわ!こんな使い魔を引き当てるなんて!最初は『どうして平民?』なんて思ったのに!」
「使い魔?」
聞き咎(とが)める相手に気付かず、有頂天のままに
「使い魔と言うものは……」などと並べ立て始めたが、
「ふざけるな!」
相手が最後までは言わせなかった。
動態視力を超えた速度に、かえって一瞬、何をされたのか気が付かなかったが、
気が付けば、大刀の切っ先を眉間に突き付けられていた。
流石に、その瞬間には絶句、硬直したが、
元々、気を突っ張らせて来た彼女だ。しかも、相手は“平民で使い魔”だと思い込んでいる。

「何よ!ご主人様に無礼な」
「無礼なのはどちらだ!この関雲長!!この命を!この武を!そして、我が真名を捧げた御主君は既(すで)にある!!!」
「!?!」
「私が「ご主人様」などと呼ぶのは、主君たる「天の御遣い」様のみ!」
「だ…誰って?」
「今、御1人、主君たる御方はあるが、それは「同年同月同日に死せん」との誓いを分かち合った姉上だ」
未だ、大刀を付き付けたまま、
「もし、もしもだ!姉上でも無く「天の御遣い」様でも無い何者であろうとも、私と御主君を引き裂こうとするならば…」
元軍人の「炎蛇」でもなくても感じられる程の明確な殺気を感じさせ、
「わが主君の敵だ!わが前に立ち塞がるな!!私が御主君の下に帰ろうとする道を邪魔するならば…」
風メイジかと疑わせんばかりの旋風と共に大刀を振りかぶり、
「斬る!!!」

始めて、野次馬(やじうま)どもが騒ぎ始めていた。
「何て物騒なのを召還したんだよ」「迷惑過ぎるぞ。いつもの爆発の方がマシじゃないか」

迷惑どころか「炎蛇」の経験が教えてくれる限り、これは「メイジ殺し」だ。
ドットやせいぜいラインメイジが数を頼んでかかっても、何人かは死ぬ。
それこそ、必死になって対策を考えていたが、状況を見渡して気付いた。

「ミス・ヴァリエール!もう一度、サモン・サーヴァントを」
「は…はい?…宇宙のどこかに……」

空中に鏡の様な魔方陣が出現した。その位置は、
未だ、目を回していた少年を間に挟んで、黒髪の「メイジ殺し」の反対側。
「そ…そうでしたか」何故かホッとする「炎蛇」

「どうやら、ミス・ヴァリエールが召還したのは、あちらの少年の方でしょう。こちらの軍人は、何かの事故に巻き込まれた様です」
「そう…なんですか」
「兎に角(とにかく)!コントラクト・サーヴァントを」

未だ、目を回したままの少年だったが、左手に「使い魔のルーン」が刻まれるショックで覚醒した。
「ここ…どこ?あんた…誰?」
平賀才人は、先ずは目の前のルイズに赤面し、それから周囲を見渡して、
「やっぱりアキバ?どこのコスプレ会場なんだ…」とかブツブツ言っていたが、
やがて関羽を見付けた。

「やっぱコスプレかコミケの会場だな。いやあ、それにしても似合っている。だからって、いくら似合っていても…」
誤解と言うものにも命に関わる場合がある、などとは「平和ボケ」した現代日本の高校生は経験してはいない。
「他の作品の会場に入っちゃマズいだろ。ここは「ハリポタ」の会場じゃないの?「恋姫」じゃ無くってさ」
「今度は何だ。また訳の分からぬ事を」
「いや、そっくりだよ。愛紗ちゃん…わっひゃああ!?!」
主人公補正、恐るべきと言うべきか。さも無かったら、ルイズは召還のやり直しが出来ていたかも知れない。

それでも、モノの見事に伸びてしまった黒髪の少年は「炎蛇」が浮かび上がらせて、とりあえず、その場から移動した。
「前代未聞の事態には違いありません。とりあえず、学長室に移動して協議しましょう」
肩を落としながらも、教師の後からトボトボとルイズも歩き出した。
確かに、ヒラの教師の責任や権限で処理出来る“程度”の異常事態でも無い。
この奇妙な使い魔それ以前に「何時もの」失敗が、どれ程「異常」かも気付かずに、
只、ルイズをあざ笑っただけで飛び去った教え子たちの、未熟を確認する思いの「炎蛇」だった………。

……。

…学長室。
先ずは「炎蛇」が関羽と目を覚ました少年に対して、オスマン老人を紹介した。それから一通り説明する。
“ここ”が「何処の大陸」に在る「何処の王国」から説明して。
魔法学院。
使い魔の召喚。
如何に神聖な儀式かを繰り返して。
「どうでしょう?理解出来ましたか」呆然とする才人と、毅然(きぜん)とする関羽。

「では、今度は」オスマン老人が対話を引き継いだ。
「そちらの言い分を聞かせてもらおうかの」
「承知しました。老師」礼儀は守る。武人の“ぷらいど”として。

「私は関雲長。我が御主君、劉玄徳様と「天の御遣い」様に仕える「五虎将軍」が一の大刀」
「主君持ちの騎士を巻き込んだか。これは純然たる、こちら側の失敗じゃの」
オスマン老人ほどの大ムジナならば、判断の元となる経験も豊富だ。

「では、私を送還していただけますか?」単刀直入だ。
「出来れば、そうしたいがのう。問題は「何処」まで「帰る」つもりか、じゃな」
ヨーロッパもどきと中国では、大陸の東と西である。
「ともかく、送還の手段は研究して置く。杖に賭けて誓約しよう」
「杖」の例えは知らなくても、重い「何か」を賭けた事は理解出来た。

一方の才人は、すでにルイズと契約して仕舞っている。
当然、才人は「自分も返せ」と主張したが、年の功で言い包(くる)められて仕舞った………。

……。

…一夜、明けて。
関羽もとい愛紗は、学院の警備詰所で目を覚ました。
敵や強い相手には容赦しないが、弱者や「礼」や「義」をもって約束する相手には、自分もまた「礼」も「義」も守る。
そこで、警備の手伝いを申し出た。
正し、こういう相手はダマして利用したら、バレた時が余計に恐ろしい。
オスマン老人ほどの大ムジナが、その程度の経験値も無い筈もない筈だが?

「さて、朝飯にするか」
学院の食堂。建前としての利用者は、学生と職員、つまりは貴族=メイジだが、
学院には、平民身分の使用人も、数だけなら負けないくらい住み込んでいる。
彼らの食事は、原則として、食堂の厨房で「平民用」の食事を取る。
愛紗自身の待遇としては「しばしの同僚」と成る警備の兵士たちと同様で好しとした。いや、
「わが主君以外からの、余計な御心使いは御無用。無礼は御許しを」
が、愛紗の信念だった。

厨房に来て見ると、昨日の少年が、使用人たちに混じって食事を取っていた。

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反省も無しに、またしても無謀な投稿を始めてしまいました。
それでも、続くだけは続かせたいと思ってはおりますので、温かく見守って頂ければ幸いです。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第2席『桃園起義』~我ら三人 姉妹の契りを結びしからは~の予定です。



[21908] 第2席『桃園起義』~我ら三人 姉妹の契りを結びしからは~
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:c5df10ff
Date: 2010/09/17 23:47
昨日、愛紗が秘書に案内されて学長室から立ち去ると、平賀才人もルイズに連れて行かれた。
元々、本日の授業は「召喚」だけだ。後は「使い魔との親睦を深める」と言う事に成っていた。

とは言え、余りにも予想外な使い魔。
とりあえず「何が出来るか」の問答の結果、ルイズの身の回りの世話をさせる事には成ったのだが。
今度は、サイトの方から「寝る場所とか食事とか」の質問が出て、またもルイズは困惑した。
「だって…動物とか、幻獣とかが出て来るとばっかり思っていたのに…」
それから小声に成って「(あんな危険物よりはマシよね。それに逃げられたんじゃ、元も子も無いし)」
「分ったわよ。これでも「ご主人様」なんだから、どうにかするわよ!」

どうにかとは、適当な人物に質問する事だった。
「分りました。ミス・ヴァリエール。しかし…」教師の口調に成っている「炎蛇」だった。
「ご実家の御屋敷にも使用人は居ましたでしょう?」そんな「些細な事」に気を回した覚えが無かった。

それでも「炎蛇」は、使用人たちの宿舎(これまでのルイズには立ち入る「機会」が無かった)の方へと案内してくれた。

ルイズには威厳不足に見える教師の「説教」に口を尖らせながらも、案内には付いて行く。
「当然ですが、学院にはメイジ=貴族である学生や教師の他にも、多くの使用人たちが住み込んでいます」今更ながら説明する教師。
「これも当然ながら、身の回りの世話をするメイドのみならず、厨房とか馬屋とか力仕事とかで、男性の使用人もいます」
当然ながら、学院内に宿舎も存在すれば、食事もする。厨房での「賄い食」だが。
とりあえず、その中に混じって生活する事に成った。
「だからと言って、ご主人様の世話が優先だからね。今晩は、私を寝かせた後に宿舎に戻るの。そして、明日の朝、起こしに来なさい」
「へいへい」

宿舎から厨房へと同行し、男性の使用人では「先輩」筆頭に当るマルトー料理長に引き合わせてから、
教師は自分の仕事に戻り、ルイズと才人は、ルイズの私室に帰った………。

……。

…そして、翌朝に至る。
「ご主人様」を起こして、着替えさせて、食堂まで御供をしてから厨房へ回って、やっと朝食である。
才人は「そんな事」をブツブツ言いながら、周囲の使用人たちと同じ食事をパクついていた。

「おやおや」苦笑いしつつ、自分も食事にする愛紗。
「好いですよね。あ…(真名の重さは昨日、思い知った)…関…いや、雲長さんは、ご主君が優しくて」
「当然だ」
「と、劉…玄徳さん、でしたね?」
「昨日、答えたはずだが?」
その辺を追求されると、少しばかりややこしい。「真名」の件とか。出来ればウヤムヤにして欲しかった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

早い話、才人が「オタク」だったのだが。

尚、高校生である平賀才人が何故『真・恋姫†無双』というゲームのキャラクターを知っていた、かは「禁則事項」である。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

何気なしに、才人の隣で朝食にしながら、愛紗は才人に語るとも自分に語るとも不明なまま語り始めた。

「私は、かつて、たった1人で、自分の武力で救える人を救おうとしていた」
だが、しょせん個人の武力などでは、目の前の何人かを救えるだけだった。
武力でならば私に負けず、そして心根ならば真っ直ぐな「妹」が出来ても……

そんな時、「天の御遣い」様から引き会わせて頂いたのだ。
姉上に。
確かに「あの」乱世では、人の好過ぎる御方かも知れない。敵からは偽善とも言われた。
だが、それでも御自分の理想を1歩でも現実に近付けようと、なされておられた。
「力の無い弱い人たちが笑って暮らせる世の中のために」
その理想のために、御自分の出来る限りの事をされようとされた。

そう、知ったのだ。
あの御方の、あの理想のためにこそ我が武力が存在する意味があった、のだと。
「あの日の『桃園』で「同年同月同日に死せん」との誓いを分かち合った時から、この命を捧(ささ)げて来た」

そんな会話の間にも、食事は進んでいた。
実の処「平民」向けの「賄い食」だから「マナー通りにナイフとフォークを使って」などといった事は無い。
なまじ「貴族」向けだったら「現代人」の才人は兎も角(ともかく)箸が当然の愛紗には、面倒だったかも知れなかったが………。

……。

…食事を「詰め込む」と才人は
「洗濯、洗濯。洗濯機とか無いよなあ…」とか言いながら戻って行った。
愛紗も、警備の責任者の所へと、仕事を受け取りに行ったのだが。

「やはり、昨日の今日では、な。それに、身元も不審だろうし」
そんな微苦笑をしながら、行く所も無げに学院内をうろつく羽目に成った。
どちらかと言えば生真面目な愛紗としては、居心地が好いとも限らない。

「さて、警備の受け持ちが決まるまで、何をするべきかな?」
そんな事を考えていた時、思い出した事があった。
その辺りのメイドに、馬屋の場所を質問してみた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「どうどう」「どう思うよ?」「何がどうよ?」
馬屋では、馬番たちが当惑していた。
昨日、突然に出現した、馬の専門家である彼らには分る「名馬」
どう見ても、野良馬なんぞには見えない。どこの貴族様の乗馬だとしても「迷子」では厄介だ。
「昨日は、確か「召喚の儀式」だったろう?もしかすると」だったら、余計に厄介だ。

そこへ遣って来た、大きな刀を下げた兵士らしい美少女。
「私は、昨日から当学院で御世話に成っている。一応、今日からは警備の手伝いをする事に成っているが」
そんな事を言いながら、馬屋に入り込んで来ると、例の「名馬」に呼びかけた。
「赤兎」
はっきりと名馬が喜んでいた。

「この子は、さびしがりでな。何せ、私の前に乗っていた将は、犬だの何の動物だの何十も家族や友だちにしていたからな」
そんな事を、言い出した。
「昨日「事故」に巻き込まれた時には、この子に乗っていた。その時には見失っていたが、さびしがりだから、仲間の居る所に居るかと思った」

「あんた、傭兵か何かか?それにしちゃ、好い馬じゃないか」

「この馬は、もらい物でな」
私は、ご主君とは別の君主の元に、さる事情で一時、身を寄せざるを得ない事があった。
その君主は、私を過分に評価してくれてな、自分に仕官させようとアレコレと気を使ってくれたが、
しかし、自分が仕えると決めた御主君以外から、身に余る温情を受ける事は出来なかった。
只、この馬だけは別だった。
「この『千里の名馬』で、我が主君の下まで一駆けに帰る事が出来た」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

その後も、警備の受け持ちを受け取るまで「自主的」に見回っていた。が、
突然、愛紗の態度と行動が切り替わった。武将のそれに………。

……。

…愛紗に、武人としての条件反射をとらせた突発事態は、彼女が介入するまでも無く終わった。
その場の限りでは。

ゾロゾロと、授業が中止に成った教室から出て来る学生たちの言葉と、
見事にメチャクチャに成った教室の片付をさせられている、才人とルイズ主従の対話から、
「何」が起こった、かは理解出来た。
更に、この少女が何故「貴族」と言うものに、これ程に執着しているのかも。
だが、納得であって、共感ではない。愛紗には愛紗の“ぷらいど”(「天の御遣い」曰く)が存在した………。

……。

…今は昼時。
愛紗は厨房に居て、才人はルイズの昼食の用事で食堂に呼ばれて行った。

しばらくして騒ぎが起こった。
「諸君。決闘だ」

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もしかすると、違和感を持っていらっしゃるかも知れませんが、
クロス元と成っておりますのは、ゲーム版「原作」『真・恋姫†無双』ではなく、拙作††恋姫無双演義††です。
そのため、例えば回想の内容などで「原作」とは異なる設定が現れたりもします。

時系列としては、同作「講釈の38『成都爛漫』~阿斗ちゃんは天の落とし子~」の少し後辺りを想定しました。

そんな勝手きわまる拙作ですが、せめて始めた以上は完結だけはさせたいです。

最終席(予定)についてもサブタイトルだけは「仮」ながら考えてはみました。
その「最終席『帰りなん愛しき人よ』(仮)」までは、何とか辿(たど)り着きたい、
とは想ってはおります。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第3席『伝説のカケラ』の予定です。



[21908] 第3席『伝説のカケラ』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/19 16:23
『ゼロの使い魔』特に(無印)に描かれているメイジたちの行動と、
「恋姫」ヒロイン愛紗以前に『三国志演義』描く処の関羽雲長の武人としての「プライド」とでは、
どうしても<説教>になりかねません。
そして、関羽ならば実力で説教を通せます。
結果は、今回の講釈の様になりかねません。

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武人としての単純と言えば単純な好奇心から、決闘の場に遣って来た愛紗だったが、
彼女の基準からすれば「これ」は決闘などでは無い。
「魔法」と言う暴力に酔った子供が暴力を玩具にしているだけにしか、愛紗には見えない。
そもそも、事の発端からして「二股」がバレて女に振られた腹いせらしい。
「こんな」ヤツらは何人となく、後漢時代から叩き直して来た愛紗だ。

それに「実力」も見切った。
成程、愛紗の「常識」からは「妖術」とでも思えそうな青銅の「人形」を操っているが、愛紗が大刀を振るえば敵では無い。
そろそろ介入しようかと思い、前に出ようとした。

トン、と大刀の石突を付いて、ヒックリ返って居る平賀才人の直近に立った。
「立てるか?」
「ああ」
大刀の柄を杖の代わりにして、立ち上がろうとする。
「心が折れてはいない様だな」
「当たり前だ!」

そして、1人言の様に、心の中を吐き出す。
…元の世界に戻れないなら「使い魔」として生きていくしか無い。だが…
「下げたくない頭は、下げられねえ!」
そう叫んで、立ち上がろうとした。
それまで柄に摑(つか)まっていた利き手とは反対側の手でも、柄を手繰り寄せる。
そう「左手」でも。
「その」左手が輝いた。

「好好」
才人が、大刀を杖に立ち上がると同時に、愛紗は柄を手放した。
「?!」
戸惑いながらも「左手」で持ち上げる。
「何だ。レプリカか」
「“れぷりか”?」この一言だけには、愛紗の方が戸惑った。何故か「天の国」の言葉の様に思えた。
「だって軽いぜ。関羽の『青龍偃月刀』と言えば重さは82斤(約18kg)で有名だろ」
そんな事をホザきながら「左手」1本で振り回す。

「おや「剣」を持ったね。そう言う事なら…?」絶句。
そんな風に、ギーシュ・ド・グラモンが格好をつけている間に、自慢の青銅ゴーレム「ワルキューレ」を一振りで両断していた。
それこそ、愛紗以外の何人の動体視力で認知出来た、かと言う程の早業で。

ギーシュは混乱していた。
突然、そう突然に反撃された。それまで、一方的に「制裁」していた筈の「平民」に。
混乱しながらも、切札を切る。同時に「錬金」出来る限り最大数のワルキューレを錬金しての総攻撃。

だが、才人は「当るを幸い」とばかりに、片っ端から両断していく。
(…驚いたな。技や駆け引きは完全に素人。だが、動き・速さ・力などは、まるで恋か鈴々だ…)
なまじ「動体視力」に捕らえられるだけに、愛紗も驚愕していた。

一振り1体どころか、最後の一振りでは、残り3体を一薙(な)ぎに薙ぎ倒すと、もはや自分を守る「盾」も無いギーシュへと突進。
大刀を振りかざす左手に相手の視線が向いている隙に、逆の右手で「グー」を叩き付ける。
ヒックリ返ったギーシュの目前に切先を突き付けて宣告した。
「まだ、やるか」
そう質問でも確認でも無かった。勝利宣言だった。

流石に心根は好いギーシュは、負けを認めて杖を手放した右手を、握手のために差し出した。
一旦、その手を取った才人は、次にルイズと愛紗に向かってサムズ・アップを決めると、大刀を愛紗に返した。
ところが、左手を柄から話した瞬間、魔法効果を止められたゴーレムみたいにヒックリ返ら……

なかった。空いている方の手で愛紗が救い上げると、そのまま肩に担ぎ上げる。
「医者は何処だ?」
一通り周囲を見回すと、才人を担いだまま歩き出そうとしたが、

「ちょっと、それは私の使い魔よ!」
「お主の?」微妙に半眼に成っている。
「ならば、なぜ守らなかった?」
「?」困惑。
「お主には守る力が有った。先刻、あれだけ広い部屋を見事に吹き飛ばした程の力がな」
「あれは…失敗…」
「それは、お主を認めぬ者どもが言い立てておる事だろう。少なくとも、今この場で「あの」力を使っておれば…」愛紗は言い切った。
「こんな銅人形どもは、一撃で吹き飛ばせた筈だ。こ奴が傷付くまでも無くな」
「!」絶句。
「まあ、今は差し迫った問題が在る。医者は何処だ?」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

学生寮のルイズの私室。
流石に「公爵家」の資力で入手出来た「水の秘薬」の御蔭で、才人は「全治数日」の診断を受けていた。
その才人を看病しつつも、ルイズには心に刺さったトゲが残っていた。
「お主の?ならば、なぜ守らなかった? お主には守る力が有った筈だ」
何処の軍人か知らないが、アイツもアイツで貴族に対する態度がなっていない。
だが、どうしても、気になる。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

その愛紗の方は、赤兎馬に乗って学園の近くの草原を駆けていた。
それ自体は、ただ単純に馬屋に預けっ放しには出来ないから、という理由に過ぎない。
しかし、愛紗も心の中には憂鬱が無い訳でもない。
「東へ向って駆けたら、蜀の国が在るならば……」空を見上げる。
「どれほど遠くとも、この赤兎馬で帰れるものを。だが、月が2つ在ってはな」

さて、適当な処で赤兎馬を馬屋に戻し、自分も警備に戻ろうとした愛紗が例の決闘騒ぎの広場を通りかかると………。

……。

…ギーシュ・ド・グラモンは、心根は好い。決闘で自分に勝った「平民」の様子を一度くらいは見に行こうとした。
すると、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールから妙に真剣な頼み事をされてしまった。
元々「ゼロ」などと呼ばれて居るためか、周囲から孤立している彼女だったが、レディには弱い少年でもある。

「爆発!」
ギーシュがワルキューレに呼び出す度に、杖を向けては短く唱える。
その度に、綺麗さっぱり吹き飛んで消失した。
「もう、気が済んだかい?」
「ええ」杖を降ろしながら考え込んでいた。
そこへ、目立つ大きな赤い馬が近付いて来るのに気付いた。

「あんたの言う通りだったわ。それだけは認めてあげる」
「素直ではないな」
「あんた「も」貴族に対する、態度を知らないからよ!」
多少、派手な爆音を聞き付けたか、何時の間にか何人かの学生が集まっていた。
彼ら彼女たちをチラリと見回してから、問い返す。

「それだけは、逆に問いたいな。貴族とは力無き弱者を、ただ力だけで踏みにじる者の事か?」
「今度は何を言うつもり?!」
「私の世界にも居たな。日頃そんな風に振る舞いながら、いざ賊軍が押し寄せれば、守るべき民衆を捨てて逃げ出す奴らが」
「それこそ貴族なんかじゃないわ!」
「『力の無い弱い人たちが笑って暮らせる世の中のために』それが我が主君の理想。そして、この関雲長の武力が存在する理由」
「!」絶句。
「ついでだがな。同志の誓いとして『姉上』と呼ばせて頂いているが、本来一度は天下を統一した皇帝に繋がる高貴な血筋を引く御方だ」
言いたいだけ言うと、馬屋の方へ行って仕舞った。

「ものすごく説得力があるな」
元帥の末息子は、歴戦の軍人らしい相手には素直らしい。
ふと、集まって来た数人の中に「愛しのモンモランシー」が居る事に、気が付いた。
「ああ、僕の薔薇よ。これは単なる頼まれ事だよ。彼女には、使い魔の件でも断われない義理があって……」
などと言いながら近付こうとする。この辺りは変わりそうもない。

そんなギーシュとモンモランシーの「漫才」を見物するよりも、何とか言うメイドに看護を押し付けて来た使い魔が心配に成って来た。
「ヤジウマ」どもを黙殺するように歩き出そうとしたが「香水」の方が、思い出していた。
「そうそう、例の「水の秘薬」の追加、ちょうど届けようと持っていたの」
「有り難う」
礼儀だけは守って受け取ろうとしたが、ふと気が付くと、差し出した杖の先で香水ビンが浮かび上がっていた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「これは?」
流石は魔法学院の学院長室と言うべきか、室内では「遠見の鏡」に広場の光景が映し出されていた。
「他言無用じゃよ。コルッパゲ君」
「私の名前は…いえ!今は、それどころでは。もしかすると…」

元々、余りにも異常過ぎたのだ。「ゼロのルイズ」の爆発魔法は。
「炎蛇」と呼ばれた昔の経験からすれば疑惑があった。あの爆発威力は「魔法の使えない無能」には、出せる筈が無い。
何故、未熟な学生は兎も角(ともかく)他の教師、いや、オスマン老人ほどの「大魔道師」が気付かないのか?
そして「爆発」を「爆発」として、積極的に試した途端に「基本魔法」まで爆発しない様に成った。
これは、もしかすると……

「君の言いたい事は何じゃな?「炎蛇」の」
「その2つ名は捨てました」
「そうじゃろう。だから分るじゃろう。他言無用で好いのじゃ。少なくとも宮廷の戦争ゴッコ好きどもの玩具よりはな」
やっぱり、オスマン老人は大ムジナだった………。

……。

…赤兎を馬屋に預けると、愛紗は「宝物庫」の扉に背中を預けて座り込んだ。
なんでも、近頃「怪盗」とかの予告状とかが舞い込んだそうで「この」宝物庫の警備を補強するかどうか、が検討されていたらしい。
「好好「一宿一飯」の義理は返さざるを得ないからな」

予告を出した「怪盗」の方は、密かに困惑していた。
「ふん。けっこう、あの女も「お人好し」じゃないか。だったら、上手く口説いてみれば…」

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説教くさいSSは「上の目目線」に感じられるかも知れませんが、
『恋姫』愛紗というキャラクターと「この」クロスならば、書いていて「これで」自然だと、
あくまで私見ですが想っています。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第4席『土くれのユーワク』の予定です。



[21908] 第4席『土くれのユーワク』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/19 16:23
「何処の野蛮国の軍人かは知らんが、このハルケギニアで、魔法も使えないくせに、生意気な」
「相手が落ちこぼれの『ゼロ』だから、見逃してやっていたが、それでも貴族のありかたなどを語るな」
宝物庫の警備で一夜を明かした愛紗が「さて、朝飯にして一眠りするか」と引き上げようとしていた処を、有象無象と取り巻いて来た………。

……。

…結果は、記述するまでもない。
平賀才人とギーシュ・ド・グラモンの「決闘」の再現。
より正確に言えば、才人の「左手」が輝いてからの展開の再現だった。
愛紗の方にはミネウチの余裕すら在った。
結局の処がドット、せいぜいラインメイジが4・5人程度では。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「何て女だ。完全に「メイジ殺し」かよ」
物陰から見守っていた何処の誰かが、他人に聞かれない様に囁(ささや)いていた。
「何とか、騙(だま)くらすしか無いのかよ」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

虚無の曜日
すっかり全快した才人を御供に、ルイズは王都へと出かけた。
兎も角(ともかく)自分の使い魔を「護衛の役には立つ剣士」としては認めたため、剣を買い与える事にしたのだが。
「考えてみると、平民用の武器の目利き、なんて知らないのよね」
実は、使い魔本人に目利きが出来る、とは気付いてはいない。お互い様で。
「頼めるかしら」「承知」
愛紗の方も、数日ぶりに赤兎に乗って遠出させたい、とは思っていた………。

……。

…武器屋の方としては不本意だったろう。
「これは儀礼用の装飾剣だな。柄とか鞘などの拵(こしら)えは立派だが、本来、そう言う目的の剣だ。刀身の方は、実戦向きである必要が無い」
「そうなの?」
「姉上も、王族の身の証として「伝家の宝剣」をお持ちだったが、実戦用の剣とは別で、結局は両腰に挿しておられた」
「劉備の双股剣か」平賀才人はオタクだった。

「だーから言ったろうが、ソイツは見れくれだけのナマクラだーって」
「黙れサビ介」
突然「大売り出し」用の古刀を積んだ辺りから、人影も無いのに言葉が聞こえた。

「へーっ、しゃべる刀かよ?流石、ファンタジー世界!」才人は大ハシャギだが。
「それで好いの?」ルイズは少し引き気味な感じだった。
「面白いじゃねえかよ」
結局、手持ちの金貨と、とりあえずならば「コレ」でも好いか、という辺りで決めた様だった。
ところが、ルイズたちが武器屋の在った路地奥から表通りに出たところで、青と赤の2人組にぶつかってしまった。
特に「赤」の方は、何を思ったか(?)才人がベッドを離れた後あたりから誘惑し始めていた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「何処かで見た様な騒ぎだな」
「その手」の騒ぎには、イササカ引く理由が有った(?)愛紗は、少しばかり都見物をする事にした。
例え迷子に成ったところで、赤兎を預(あず)けて来た「馬預け場所」さえ見付けられれば学院には戻れるだろう。

その愛紗に近付いて来た人物。偶然をよそおってはいたが。
「老師の秘書殿か。貴女も都で買い物か?」
「まあ、そうかも知れませんが」

その秘書(?)が愛紗を案内した場所。いささか「品」の悪そうな店。
何時の間にか、口調や態度も、店の品に似合った風に成っていた。
「アンタは騙されているよ」

元々「使い魔の召喚」は、呼び出す一方で、戻す「やり方」などは存在していない。
それに、今更、研究している様子も無い。

「それで?」
「結局、アンタを体よく番人に利用しているだけだよ。お人好しにも、そんな奴らに義理立てする事も無いだろう」
「それとこれとは、別な話ではないかな?それに」微妙に流し目に成っている。
「貴女の方が私を利用してはいない、とは誰が保障してくれる?」けっこうスゴみのある微笑。
「!」絶句。
根っからの武人であっても『伏竜鳳雛』と『乱世の姦雄』の騙し合いを見続けていれば、学習位するものだった。

……私はかつて、一度、御主君や仲間たちから引き離された事があった。
その時は、相手の君主に「義」を守らせて、帰る事が出来たがな。
「天の国」に伝わる伝説とかでは、私は、関所5ヶ所を破り守備の武将6人を斬り殺して通り抜けた、と言う事に成っているらしい。
まあ、実際には誰かが諫言(かんげん)してくれたらしく「そんな」大惨事は避けられたがな。
もしも、私に罠を仕掛ける積もりならば、それ位の覚悟をしてもらいたいな……

秘書(?)は溜息だった。
「アンタは頑固だねえ。それに、アンタの御主君は相当の御人好しらしいけれど、お似合いだよ」
自分の分の銅貨だけを残して、サッサと愛紗は店の外に出た………。

……。

…その夜、例によって宝物庫の扉に背中を預けて座り込み、胡坐の上に大刀を載せている愛紗。
何やら、外の気配がアヤしく成ったのを感じ取った。

宝物庫の外は、例によって、ちょっとした広場に成っている。その広場に降る双月の光の下まで進み出た瞬間
「それ」は襲い掛かって来た。
「それ」が何かを認知する前に、最初の一撃を回避する。
そして、大刀を構え「物陰」から様子をうかがう何者(?)に向い直った。
黒いフードに顔を隠し、無言のまま、杖を振った。

二撃目。身長30メイル程の土ゴーレムが、身を屈める様にしてコブシを落として来る。
「そこ」には愛紗はいない。派手に土煙だけを巻き上げた。
「ふん。チョコマカと」
「“その”チョクマカを叩くには、返って身が大き過ぎたかな」
「ならば」とばかりに、踏み潰しに来た足へと大刀を一振、スネから切り落としていた。

残った片足でバランスを取りながら、土くれに戻った足を修復して行くが、
修復が終わるよりも速く、もう片足にも追撃。
流石にヒックリ返っていた。

それでも、両足を修復すると、器用に起き上がる。
同時に、低く成っていた姿勢を利用して片腕を薙ぎ掛けるが、その手首を切り落としていた………。

……。

…そうした攻防が繰り返されていた。
ゴーレムが攻撃しようとすればカウンターを取り、すきを見せれば先手を取る。
その度に、手足を切り落とされては修復していた。

戦況は膠着状態に成っていた。いや
「どうした。呼吸が乱れているぞ」誤解しないで欲しいが「これ」は愛紗の科白だ。
確かに、修復する度に魔法を使っているのだから、力を消費している筈だ。
「はふ…すばしっこい…ねえ」
「赤兎に乗っておれば、もっと疾いぞ」

当然ながら、これだけ派手な立ち回りを続けていれば「ヤジウマ」を呼んでしまう。
ワラワラと、あるいは恐々(こわごわ)と集まって来たが、その中にルイズたちが居た。
「何よ?これ」
巨大なゴーレム。明らかにトライアングル以上の土メイジが「錬金」した代物を相手に「大きな剣」1本で戦っている。
「見物か?」今も、殴りかかるゴーレムのコブシを手首から切り落としながら、反動で宙返り。同時にニヤリと笑いかけて来た。
ルイズには挑発にすら感じられた。

思わず、恐々と取り巻く「ヤジウマ」たちから半歩、前へ出て杖を抜いていた。
「ほう?勇気を試すつもりか」戦いながらだから、余裕と言うべきか?
「手柄を横取りされるとは思わないの」
「どうせ我が主君の手柄には成らん!それに」才人の方に視線を移す。
「見切った。お主“たち”2人がかりなら、お主たちの真の力を出し切れば、何とか成ろう」
才人にしてみれば、愛紗とルイズで「何、勝手な相談をしているんだよ!」だった。

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今回のバトルの決着も含めまして、
それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第5席『踊る双月の下』の予定です。



[21908] 第5席『踊る双月の下』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/19 16:41
ブツクサ言いながらも、平賀才人は、無駄に(?)ニギやかな「しゃべる剣」を抜き放った。
愛紗と入れ替わり、巨大なゴーレムと「踊っ」ている。
そして、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは……

杖を構え、ゴーレムを睨み付けて、何かを待っている。今は、周囲の揶揄(やゆ)も聞こえているか、どうか?
「私の力…そう、私だけが使う事の出来る力…力を溜(た)めて…溜めて…」
そして、大きく杖を振り上げて、振り下ろす。
「!爆発!!」
杖の向けた先、ゴーレムの、人間ならば心臓が存在する辺りから閃光が迸(ほとばし)って……

身長30メイルの土ゴーレムが、文字通りに「大」爆発して、広場一面に破片と爆風が飛び散った………。

……。

…土煙が収まってみると、ゴーレムは土くれの山に戻っていて、2度と再生する気配も無い。
数瞬の間、何が起こったかを理解するのに時間を費やした後、ルイズは歓喜に心身を委ねた。
何時の間にか、側に戻って来ていた「使い魔」に飛び付き、明日の舞踏会が、もう始まった様に踊り出す。
一方、広場を取り巻いていた「ヤジウマ」たちは……
「まさか、ゼロのルイズが…」
「嘘だろ?こんな事、有り得る筈が無いだろう…」
「そうだ。有る筈が無い!僕は信じないぞ」

ところで、今まで先頭に立って「ゼロ」を言い触らして来た筈の「微熱」の言い分は、
「ま、コレぐらいは無いとね。我がツェルプストーの宿敵たるヴァリエールの直系としては」だった。
一方で「赤青」の相方の反応は
「ゴーレムを操っていたメイジは、何処?」その心配は無用だった。
土煙が収まってみると、黒フードの首根っ子を、愛紗が引っ掴(つか)んでいた。
そのフトコロから出て来たカードに書かれていた署名は『怪盗「土くれ」のフーケ』何故か貴族専門の盗賊だとか………。

……。

…とりあえずフーケを監禁しておいて、さて事後処理のため、一同は学院長室に集合した。

「ところで、あのコソ泥は、何を狙ったんだ?」話の合間に、そんな疑問を提出した誰かが居た。
「『破壊の杖』と『世界扉の銅鏡』らしいの」
「?銅鏡?」何故か愛紗が反応した。
「どうかしたかの」
「もしや…以前、ご主人様から伺(うかが)った事が…老師、その鏡を見せて欲しい」

ここで愛紗を怒らせては、流石に恐ろしいオスマン老人は、鏡を持って来させた。
実の処『真・恋姫†無双』というゲームのある「世界」から来た才人にも、なんとなく見覚えがある様な鏡。

その鏡を手中で捏(こ)ね繰り回していた愛紗だったが、何かの拍子に、窓から差し込む双月が鏡面に写った。
突然、鏡の中の虚像の双月が天空の実像を無視する如く動き出し、互いに接近した瞬間、鏡が眩(まぶ)しい白光を発し始めた。
「な…何だよ、この光」
「おお!これは」愛紗は白光の中に何かを見付けていた。
「ご主人様…姉上…鈴々…みんな。私の…私の帰るべきところが…」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「うにゃ?」最初に張飛(鈴々)が「姉」の気配を感じ取った。
「どうしたの?鈴々ちゃん」「どうしだんだ?」
今度は「妹」の異変を感じ取った劉備(桃香)と北郷一刀が、問い質そうとする。
そして、ついに一同が気付いた。空中の1ヶ所に浮かんだまま、鏡の様に白光を発している「何か」に。
その「鏡」の方に一同が振り返った。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「老師。教えて欲しい。どうすれば、この鏡を通り抜けられる?」
「その鏡を使ったら、帰れるのかよ!」
白光に目を細くしながら才人は、鏡を持っている愛紗の方へと、歩み寄ろうとする。
眩しさに躊躇(ためら)いながらも、一歩また半歩と近付こうとする使い魔に対して、唖然(あぜん)としていたルイズが起動した。
「勝手に何処へ行こうとするのよ!!」自分で自分の声の大きさに驚いていた。

「帰るんだよ!当たり前だろうが」疑いすら持っていそうも無い才人。
「あんたは私の使い魔よ!」
「それこそ、お前の勝手だろうが!」

「老師?!」『漫才』は黙殺して、愛紗はオスマン老人に問い質そうとする。
「あーうー」などと、大ムジナらしい返答をしている「老師」
「また呼び出せばいいだろう。今度こそ、使い魔らしいのが来るかも知れないぜ」もうほとんど買い言葉だった。
「また、あんたが出て来るかも知れないじゃない」こちらも無意識に売り言葉だ。
「兎に角(とにかく)!邪魔すんな」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「はわわあわあわ。もしかすると、これは何かの妖術かも知れましぇん。私だって愛紗さんは心配ですが、無用心に近付かないで下しゃい」
軍師の警告に頷きながら「天の御使い」は「この」世界での「パートナー」を抱き止めていた。

一同それぞれに、空中の白光から、それぞれの想う距離を考えて近付くか距離を取ろうとした時、
ちょうど「不幸」の周期だったか、メイド姿にメガネの1人の少女が何かに躓(つまず)いて、コケた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

一瞬、何かに弾(はじ)かれた様に、愛紗の手元から鏡が跳ね飛び、白光に視界が眩(くら)んで次の瞬間……
何時の間に来たのか、メイドが1人床に突っ伏して居て、その両側に2つに割れた鏡だけが転がっていた。
「痛…た…あれ?愛紗」「お主か。詠」

「知り合いかの」最初に立ち直ったのは、やっぱり大ムジナだった。
「私の同志の1人だ。“めいど”とか言ったな、この侍女姿は世を忍ぶ理由が有るためで、これでも優秀な軍師の1人だ」
「あの…もしかして」流石に詠は聡(さと)い。何かに気付いた様だ。
「すまぬな」流石に三国無双の関羽も、微妙な泣き笑い顔だった。
「どうやら、今度は御主を巻き込んだらしい。月とかには何と言って詫びれば好いものか」

「そんな・・・コンチキショー!」
割れた鏡の片割れを拾い上げた才人は、
事態を悟ると、がっくりと膝を付き、恥も外聞も無く泣き始めた。

直前の愛紗の歓喜。そして、いま失望の中で泣き続ける才人。
その姿に、ルイズですら、
「貴族とは平民に対して、あるいはメイジは使い魔に対して、かくあるべし」と思い込んでいた彼女にすら、
どれ程、才人に対して残酷な事をしてしまったか、という事実を付き付けられていた。
そして、少しだけ気付いていたかも知れない。
そんな建前よりも、目の前の少年の方が大切だと………。

……。

…その後、例の怪盗が狙った、もう1つの秘宝が持ち込まれたが、
「破壊の杖」の正体は、平賀才人の世界に存在した「武器」だった事が判明しただけ。
オスマン老人が告白した入手の事情からすると、以前にも才人の世界から迷い込んだ「誰か」が居た事が判明しただけだった。

「あらためて杖に賭けて約束しよう。兎に角、送還の方法の研究はしてみよう」
結局は、それが精一杯の誠意だと、認めるしか無かった。

「さて、納得して貰えたらならば、とりあえず目先に楽しい話が在ったのう」
唐突な話である。『異世界』組には、とりあえず「?」な話でしか無い。
「明日の晩は『フリッグの舞踏会』じゃ。今回の手柄は王宮にも申請して置くし、お主らが舞踏会の主役じゃよ」
何をノンキな……とでも思った何人かが居たかも知れなかったが、
例え深刻ぶった処で、今日、明日に帰る事が出来る訳でも無い事だけは納得するしか無かった。
そう納得してしまえば、確かに当面の舞踏会を楽しんだ方が、まだ得だと考えるしか無かった………。

……。

…今夜も、ハルケギニアの空には双月が光り輝く。その空の下。
如何にも公爵家の「お姫さま」らしいドレスで着飾ったルイズは可愛らしい。それこそ、才人が見取れて仕舞う程に。
そんな使い魔を「パートナー」にして踊りながら、何故かルイズは、ホンの少しだけ才人に優しく成っていた。

そんな“かっぷる”を見守る愛紗の方は、と言うと
昨日の今日でドレスを借りる当ても無く、それ以前に自分は着飾った処で似合ってはいない、と思い込んでいる。
周囲に言わせれば、自分が美少女だ、という事に気付いていない。
そのため、着慣れた服装のまま、もっぱら御馳走に成っていた。
その合間に、ふと眺めた空。

「月が2つと言うのも、それなりに美しいものだな」
この同じ空の何処かを漂っている浮遊大陸の上では、陰謀と戦争が進行しているなどとは信じたくない程に、
今夜も天空は美しい。

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第6席『天空を漂う王国』の予定です。



[21908] 第6席『天空を漂う王国』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/20 20:23
「たくっもう!「天の国」には「種馬」しか存在していないのかしら!」
そんな事をブツクサ言いながら、賈駆(詠)は「女子」寮の廊下にモップを掛けていた。
「ご主人様から伺(うかが)った通りならば、むしろ「天の国」の方が、後宮とかは無いそうだがな」
苦笑しながら、愛紗は平賀才人をズルズル曳(ひ)こずる。
「あんの種馬!やっばり「女たらし」か何かの罪で天界を追放されて「天の御遣い」の役目を押し付けられたんじゃ無いの」

数分前に、さかのぼれば、
「なあ、やっぱりルイズは俺にホレているよな。この前の舞踏会の時のあんな様子とか、こんな様子から」
「そうだぜ、相棒。今頃、娘っ子の方でも相棒を待っているぜ」
背中の剣と、そんな勝手な相談、というよりも扇動を言い合いながらアヤしさ大爆発な態度でコソコソ前進中なのを発見された。
当然「警備」としては、見逃せなかった。

「向こう側」ならば「秘書」としての実力も実績も有る詠だし、しかも丁度「老師」の秘書は空席に成っていた。
正し、空席に成った理由が理由でもあるし「秘書」とは本来『秘密文書』が由来である。
突然に出現した「何処の誰か」を行き成り秘書にする事も躊躇(ためら)われた。
特に「前任者」採用の経緯からも「老師」本人よりも周囲から慎重論が出た。当人含めて。
結局、格好そのまま「こちら側」でもメイドを続ける事に落ち着いた。
そして、今朝も掃除をしていて「発見」した訳だった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「だからさあ…ルイズは俺に…」
厨房で「賄い」をパク付きながら、まだブツクサ言っている才人に、何故かシエスタとかいったメイドが不満そうだ。

「例」の決闘騒ぎ以来、学院の使用人たちには、才人は人気者らしい。
「貴族=メイジに勝った平民の剣士」と言う事で。
結局の処、貴族、特に経験少量な若い貴族の平民に対する態度、振る舞いや考え方と言うものについて、身近で経験し過ぎていたのだろう。
どちらかと言えば、この学院の使用人たちは、収入とか身の安全とかでは大多数の平民よりは恵まれているのだが。
それでも、貴族たちに聞こえない処では「こう」成ってしまうのだから、複雑といえば複雑、単純といえば単純な問題、と言うべきか。
そんな訳で、厨房で使用人に混じって「賄い食」を食べている筈なのに、何気に良く焼けた肉とかを当てがわれていたりする。

そんな才人に微笑しながら、さて朝食を済ませた愛紗は「夜勤」明けだった。
そんな訳で、この機会に少しばかり見学してみようか、と思った。
元からの使用人に比較すれば客人扱いだから、こう言った時には融通が利いたりする………。

……。

…さて、ハルケギニアのメイジたちが使う4系統の魔法の中で「どの」系統が最強か?
メイジでもハルケギニア人でも無い愛紗に言わせれば「意味が無い」
例えば「風」メイジが「火」メイジに勝ったからと言っても、
それは勝った方のメイジ本人が強かったか、戦い方に慣れていたか、戦術が上手だったからに過ぎない。
まして「第4段階」のメイジが「第3段階」に勝つのは、当たり前らしい。

成り行きが悪いと言うか「風が最強」と主張する教師は「紛(まぎ)れ込んでいた平民」に話を振って仕舞った。
愛紗も正直と言えば正直、融通が利かないとも言う。
「それでは、君は『最強の風』である私に対しても戦い方が在る、と主張するのかね?」
「無論、魔法を使う相手と戦うなら、それなりに工夫はする。例えば「対魔法用」の武器を用意するとか」
「それでは、君が「メイジ殺し」の魔剣でも用意すれば『最強の風』に勝てるつもりなのかね?」
どうやら、引っ込みが着かなく成って来た。

丁度、ルイズの御供をしていた才人から「魔剣」を借りて「模範」を見せる事に成って仕舞ったが、
幸か不幸か、実現はしなかった。
その時、カツラを被った「炎蛇」が授業の中断を告げに来た………。

……。

…白雪の1角獣が曳く馬車に乗って『姫君』が遣って来た。
才人などは、見た目からして本当に「お姫様」だと騒いで、ルイズに抓(つね)られたりしていたが、
愛紗や詠には、それぞれ自分基準の「お姫様」が存在した。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

さて、その翌朝
どういう用件か、愛紗と詠が学院長室に呼び出されてみると、鶴の様に細い人物が居た。
「ほう、この王国の宰相?」

この時点で愛紗は、昨夜ルイズと幼馴染である王女との間の「密談」を知らされた。
「お待ち頂きたい」愛紗の反論は、先ずは「この」点からだった。
「確かに「王国」の秘密に直結するからこそ、幼君から国政を預(あず)かる宰相が知らない訳には行くまい」
「その通りね」詠も頷(うなず)く。
「同時に、現在この学院に属している者を関わらせる以上、老師にだけは秘密にする訳にも行くまい」
更に頷く詠。
「だが、私たちに教える利点があるのか?秘密を守るためには、秘密を知るものが少ない事が絶対の条件の筈だ」
「その通りじゃよ」オスマン老人は泰然として答えた。
「ワシは御主を信頼しておるぞ。お主から秘密が漏れるとも思っておらん。そもそも、秘密を洩らす相手が『こちら側』に居るまい?」
「お褒め頂いた、と思うべきかな」
「言い方は悪いがの『都合の好い』相談相手なのじゃよ」

「しかし、私は「こういった」陰謀策略の相談は苦手だが」
「ワシは御主をを信頼しておる。お主は(詠の方を見て)この娘を信頼しておる。そして、この娘は「こういった」相談が得意らしいの」
元々<不幸体質>さえ無ければ「伏竜鳳雛」だの「何処か」のネコミミだのに匹敵する軍師なのだ。
「正史」ともなれば『乱世の姦雄』ですら、一度ならず殺されかけている程の。
「辻褄(つじつま)は合っておらんかな?」
「合ってなさそうで、何となく合っていそうですな」

ここで改めて、オスマン老人と宰相が互いに持ち寄れる限りの情報が交換され、優秀な軍師らしく詠が検討した結果………。

……。

…愛紗は赤兎に乗って、街道を駆けていた。

ルイズと、王宮から派遣された護衛は、“ぐりふぉん”とか言う「大鳥の“もんすたあ”」で出立したらしい。
いくら「千里の名馬」でも流石に「向こう側」が速いだろうが、馬で同行している者もある以上は追い付けるだろう。
まだまだ、馬に乗り慣れない「使い魔」も混じっている事だし。

それに、出船の都合上、港で宿泊せざるを得ない様だ。
「行先は、空の上を漂う大きな島。向こうから近寄って来るのを待たねばならぬか」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

その「港町」の宿屋に集まっているルイズたち一行。
「使者」であるルイズ、才人、そして「王宮から派遣された護衛」ワルド子爵。
何故か「密談」に乱入したギーシュ、何処で嗅ぎ付けたか追いかけて来たキュルケとタバサ。

現在、何をしているか、と言えば「部屋割り」の相談だった。
と、言うより、年長者のワルドが取り仕切っているのだが。
そのワルドが「自分とルイズは婚約者だから2人で一部屋だ」と主張し出した。
更に「大事な話がある」と言い出し、ルイズの手を取って部屋に上がろうとした時、
宿の玄関が外から開かれて、入って来た。それも、もう1人を肩に担いで。

「誰だね?」
貴族が平民に、それも王族の「親衛隊」を努めるエリートが、初対面の「流れ者の傭兵か何者か」に対する態度としては、
まだ寛容なつもりだったろう。行き成り、杖を向けなかっただけでも。
しかし、ワルドを除く一行には、見覚えが有った。担いで入って来た方にも担がれて来た方にも。
入って来たのは、愛紗こと関羽だった。
そして担がれて来たのは、元の学院長秘書、いや「当局」に引き渡された筈の「怪盗」だった。

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今回のサブタイトルは、あくまで「目的地」への出発と言う意味です。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第7席『誰のために「神の左手」は光り輝く』の予定です。



[21908] 第7席『誰のために「神の左手」は光り輝く』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/23 15:53
「正史」『三国志』曰く、
『乱世の姦雄』曹操ですら「旧」董卓軍の残党を指導していた軍師、賈駆の罠に掛かって殺されかけた。
この時、曹操を逃がすために「親衛隊長」悪来こと典韋が玉砕。
その最後は、後の日本に伝わって「弁慶の立ち往生」の元ネタに成ったとも言う。
更には、曹操本人の長男までが戦死。
後日談ながら「この」事が原因で、当時の第1夫人とは離婚。
後に後継者と成る曹丕は「この」結果、第2夫人から昇格した新しい第1夫人との子だったりする。

曹操の妻子の事だけなら、酷な事を言えば一身上の問題だったろう。
だが「魏」の君主としても、典韋ほどの部下を失った事は後悔し続けた。
後半生の曹操は戦場だった場所を通り過ぎる度、典韋を祭った祠に詣でた、と伝えられる。

ここからが『乱世の姦雄』のスゴ味なのだが「これ」程の目に会わされながら、いや「これ」程までの智謀と思い知ったから、と言うべきか、
後に曹操は、賈駆を自らの軍師に迎えた。いや、重用すらした。
「王佐の才」とまで呼んだ軍師を死なせてからは、例えば、曹丕を後継者に決定する場合に賈駆の助言を求めていたりする。

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愛紗は詠との打ち合わせを、しっかり済ませてから、赤兎で追いかけた。

そして、一仕事してから、ルイズたち一行の前に出現したのだった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

とりあえず、ルイズたちは、愛紗とワルドを互いに紹介した。
「ふむ。余りぺラぺラと秘密を広めて欲しくは無かったな」とヒゲが言えば、
「同感だ」と黒髪が返す。
「こう言う変なヤツらがウロウロしている事だからな」
「変なヤツら?「土くれ」のフーケでしょ?」ルイズだけの感想でも無いだろう。
無論、愛紗にも説明を惜しむつもりは無かった………。

……。

…未だ、馬には乗り慣れない平賀才人を「千里の名馬」で追いかければ、何時かは追い付く。
しかし、あえて愛紗は合流せず、後方から見守っていた。

「そりゃ無いぜ」才人が口をアヒルにした。
「無論、本当に助けが必要な時には、間に合わせたがな」

しかし、愛紗が介入するまでも無く「赤青」が乱入した。
そして、逃げ出した山賊どもを愛紗は追跡した。

やがて、賊どもが寄り集まっている場所を見付けた。
正面に黒フードの人物が居て、何や、かやと言い合っている。
どうやら「これ」が依頼主らしかった。
そこまで見て取ると、愛紗は赤兎に乗ったまま突入した。先制攻撃である。
学院から走り続けて来た事すら感じさせない「千里の汗血馬」の疾走で、
蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す賊どもは黙殺して、正面の「黒フード」に突入する。
とっさに杖を抜いて、何やら呪文を唱える前に、赤兎の巨体ごと体当たりして跳ね跳ばした。
愛紗の後方で錬金されかけたゴーレムが、崩れて土くれに戻った………。

……。

…そこまで説明すると、さて、愛紗は肩に担いだままのフーケを見やった。
「こ奴には色々と語ってもらいたいな。あの賊どもが偶然、金を持っていそうな旅人を襲った」
「その期待は危険」タバサは何故か慣れていそうな事を言う。
「あるいは、単なるコソ泥の意趣返しなら好し。しかし、お主らには「密命」が有るのだろう?」
「だから危険。彼女は尋問すべき」
「それに、こ奴は「官」に引き渡した筈だな。もっとも、今回の「密命」を知っていそうな誰かなら、逆に逃がすのは簡単そうだ」
「『誰』だと言うつもりかね?」何故かワルドが興味深そうだ。
「今から吐かす」

そう言って、肩の上の「土くれ」を宿のホールの床に放り出そうとした瞬間……
先程からの成り行きで、ワルドはルイズの片手を取ったままだった。その手を引き寄せると同時に、
「ユビキタス…」何やら(その場のメイジたちにも)聞き慣れない呪文を唱え始める。
唱え終わり、ルイズを捕まえているのとは反対の手で杖を振ると、
宿の「ホール」の四隅に「4人のワルド」が出現した。合計5人。
「ほう?傀儡(かいらい)か。魔法使いが貴族をしている世界だと、何でも在りだな」異世界人の方が先入観が無い。
「『偏在』風のスクウェアスペル。トライアングルの私でも使えない」

四隅の『偏在』とからしいワルド(?)が一斉に杖を振り上げた。
「ちょっと!こんな狭い場所で4方向からの攻撃魔法?!全員、只じゃ済まないわよ!それどころか同士討ち」
何時もは自信満々の「微熱」ですら、この急展開には付いて行けずに動揺までした。
「命の遣り取りなら何でも在りだ」修羅場にも慣れて仕舞っている愛紗は、すでに大刀を振っていた。
四隅からの<風の刃>が「ホール」内をメチャクチャにする。が、
愛紗の大刀と、一呼吸遅れながらも「魔剣」を抜いた才人が、4体の『偏在』を切り伏せる。
魔法らしく(?)切り裂いた『偏在』は「消失」する。幸いにしてケガ人はいなかった。

だが、その時には、ルイズとワルド(おそらく本物)の姿が見えない。
「る、ルイズ?!どこ行っちまったんだよ?ご主人様…うわっ!?」
行き成り、才人の視野にヒゲ面が映った。それも何故か左目だけに。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「ワルド様…いえ!ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!貴方は裏切り者なの?」
「ああ、僕の可愛いルイズ。僕は君を裏切ってなどいない。それどころか、君に世界をあげたいんだよ」
ワルドはルイズを抱え込んだまま、魔法で飛翔していた。
高度を上げる代償に、速度を優先して、街中の街道沿いに高速で水平飛行して行く。
「世界?いったい、何を言っているの」

君は何も知らない。何も教えられていない。自分の価値がどれだけ大きいのか、すらも。
4系統の何れでも無い魔法。そうでありながら、異常なまでの力の強大さ。
人の姿の異常な使い魔。しかも「伝説」の「神の左手」「神の盾」の如き剣士。
余りにも異常だろう。そう、君は只のメイジですらない。
始祖ブリミルを受け継ぐ「虚無の担い手」なのだよ。
ラ・ヴァリエール公爵家は「現在」の王家からこそ傍流に貶(おとし)められているが、
間違いなく始祖の血統。君こそが、始祖を受け継ぐ「正統」の王なんだ。
僕は、裏切り者なんかじゃ無い。“本当”の正統の王に全てを取り戻そうとしているだけなんだ。

ワルドの目の色。表情。しゃべり方。幼いルイズが憧れていた「許婚のワルド様」とは別人に成っていた。

「ふざけるな!」「才人?!」
ワルドには聞こえなかったかも知れない。だが、確かにルイズは才人の言葉を聴いていた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

ルイズが視て聴いた、その全ての知覚を才人は共有していた。
難しい事は分らない。どうせ「使い魔」には、こんな事も有るのだろう。
それよりも「共有」を通して聴いた、ワルドの言い分に腹を立てていた。

ルイズが「正統」の王だって?つまりは「あの」お姫様を追い出して、ルイズを「お神輿」にしたいだけだろう。
そんなヤツにルイズを勝手にさせて堪(たま)るか!
許婚?あんなヤツと婚約なんかさせた親の目の方が、いったい何処を見ていたんだよ?!

とまで、才人は腹を立てていた。

「そうだ。相棒。心を震わせろ。その心の震えが相棒の力に成るんだ」
手の中の「魔剣」が楽しげに囃(はや)し立てる。
「思い出したぜ。そうやって「担い手」を守ろうとして、心を震わせる。その時「伝説の使い魔」は最強になるのさ」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「浮遊大陸」向けの船が出る港は、独特の構造を持っていた。
巨大な大樹の形をした「桟橋」が「空飛ぶ船」を鈴生りに付けている。
その「大樹」を目指してワルドは飛翔していた。

定期船の出航は明後日の予定だったが、それは「浮遊」して来る「行先」が近寄る日だからだ。杖で脅せば、出航はさせられる。
だが、ワルドの脇を赤い大きな影が追い抜いて「大樹」に登る階段の入り口を、その巨体で塞いだ。
「あの部屋の狭さでは、4体以上の傀儡は無理だったな」
「こんな事もあろうか」と、愛紗は宿の直ぐ前に赤兎を待機させていた。
ちなみに、ワルドが乗って来たグリフォンは、と言うと
偏在と切り結びながら、とっさに愛紗は、タバサに指示を出していた。結果、
「きゅい!きゅい!きゅい!」風竜にグリフォンは押さえ付けられていた。

更には「千里の名馬」にも追い付かんばかりに加速しながら「伝説の使い魔」が追いすがって来る。
軽く舌を打つと、振り向きざまにルイズを抱えているのとは反対の手で杖を振り「風の刃」を放った。
だが「伝説の使い魔」は見えない筈の「風」を「魔剣」で切り裂いた。いや「魔剣」を命中させると同時に「消失」させた。
「ヒァッハーッ!思い出したぜ。相棒の心が震えているから、俺様も本当の力を思い出したぜ」
ワルドが放つ「風の刃」は尽(ことごと)く「魔剣」を命中されられては消失されられていく。
「俺っちは魔法を吸収するのさ。吸収しただけ俺っち自身の魔力に変換出来るのさ」
サビだらけに「偽装」していた刀身が「魔剣」本来の輝きを取り戻していた。

正しく、前方には「メイジ殺し」後方には「伝説の使い魔」
もはや、詠唱が少しばかり長い『偏在』を呼び出す余裕も無い。と見て取るや、ワルドは魔法を切り換えた。
自分の身体を、ルイズを抱えたまま「大樹」の上の「空飛ぶ船」目指して浮かび上がらせる。
「風」のスクウェアメイジに相応しい上昇速度だったが、
最大限に「左手」を光り輝かせた「伝説の使い魔」は、ここまでの疾走を助走に転用して、自分の両足で跳び上がった。
そして、空中で追い付いた。

如何にスクウェアメイジでも、魔法で浮かび上がっている最中には、他の攻撃魔法などは使えない。
それでも「魔力の刃」を纏(まと)わり付かせた杖で、一度は「魔剣」を受け止めたものの、
魔力を吸収され、そのまま「刃」の消失した杖を両断されて仕舞った。

返す刀で、もう片手、ルイズを抱えている方の片腕を肩から切り落とす。
ワルドから離れて、空中に放り出されたルイズを抱き止めると自由落下した。
そのまま、両足でショックを受け止めてルイズを庇(かば)う様に転がる。
これだけの離れ業をしてのけて、尚、全身数ヶ所の打撲擦過傷で済んでしまう。ルイズに至っては無傷、と言うのが、
流石は「左手」を全開に光り輝かせた時の「伝説の使い魔」だった。

一方のワルド子爵は、片腕を切り落とされた衝撃と激痛、バランスの消失に耐えながら、何とか残る魔法で着地したが、
今度は愛紗に大刀を突き付けられていた。

「ククク…ハ―ッハッハ!」切り落とされた片腕を、もう片手で押さえながらのワルドの高笑いの意味を、サイトやルイズが理解出来たか。
少なくとも、百戦錬磨の愛紗には、初めて聞く笑いでも無かった。

「グスッ…フウェエエーン!!」
あるいは、ルイズはワルドが笑っている事にも気付いてはいなかったかも知れない。
今は、ひたすら才人の胸の中で泣きじゃくっていた。

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第8席『汗血流転』~駆け抜ける千里の道~の予定です。



[21908] 第8席『汗血流転』~駆け抜ける千里の道~
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/24 21:29
「さて、とりあえず、どうしよう?」
「こんな事も、あろうかと」愛紗は詠つまり軍師賈駆との打ち合わせは詳細に済ませて来た。

「連れて行くのは論外だな」
一同、同感である。
「兎に角(とにかく)送り返しておいて、今度こそ逃がさない様に拘束してもらうしか無いな。色々と吐かせる必要もあるしな」

それでは誰が、捕虜を連れて引き返すか?
ゲルマニア貴族やガリヤ王族(内緒だが)が、それもトリステイン王女の「密命」を受けた訳でも無いのに「乱入」しておいて、
王宮から付けられた護衛を「裏切りました」と言って連れ戻っても、受け取る側の立場が無い。
逆に言えば「密命」を直接受けて来たトリステイン貴族が送り返すしか無い事に成る。
「そ…そんなあ」正直に情けなさそうな「薔薇」の色男もどきの「青銅」
これで「姫様」に良い格好をする機会も「ここまで」に成った様だった。

「『荷物』の事ならば、馬車でも借りるしか無いな」こう言う場合、あくまで実務的な進め方をするのが愛紗だ。
「コヤツが乗って来た“ぐりふぉん”とやらは論外。宿で預(あず)かってもらって、後で引き取りに来てもらうしか無いだろう」
「そう…だろうね」
「幸い“わるど”とかやらから資金は没収してあるしな。御者付きの馬車が借りられそうなだけは在るだろう」
「それで。僕だけ、ここから引っ返せと?東方のレディ」
「見張りの人手とかが心配か?確か、お主の「使い魔」とかは力持ちに見えそうだったが?」

結局、巨大モグラの両肩にグルグル巻きにされたワルド&フーケを担いで馬車に押し込み「青銅」のギーシュは魔法学院に引き返して行った。

そして、残る一行は「予定通り」に船出して行った。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

その後「空賊」に化けた王子様、とかが待ち伏せたりしていて、
現在位置は、アルビオン王国の最後の拠点である。

「使命」自体は簡単に終わった。

問題は、脱出のタイミングだった。
明日にも「反乱軍」の総攻撃が予想されている。
すでに、その時は全員戦死を覚悟して、今夜は「別れのパーティ」だった。

「殿下。それでは、どうしても」
「大使殿。有り難い申し出だと思う。だが…」
アルビオン側の心尽くしのドレスで着飾ったルイズは、もう一度だけ王子に亡命を勧めようとしていた。

「俺には、やっぱ分からねえよ」
平賀才人は「現代日本の男子高校生」の価値観とか正義感とか感性で、物事を理解しようとして仕舞う。
そんな才人の主張する事は、ハルケギニアの貴族の「常識」からすれば「非」常識も好い処だった。
真摯(しんし)に成れば成る程。
とうとう、プイと横を向いた処に、ちょうど愛紗が居た。
「『ご主人様』がおっしゃりそうな事を言う。やはり「天の国」は平和なのだな」
そんな愛紗を見て、ふと思い付いた事が在った。

「殿下。俺の言う事は、こっちでは通じないみたいです。だから最後に、もう1つだけ違う話をします」
「何かね?」王子様らしく鷹揚(おうよう)に対する。



俺が居たのとは隣の国に、1800年ほど前から伝わる話です。

その頃、その国は3つか、もっと多くの小さな国に分かれて互いに戦争をしていた時代です。

ある小さな国が戦争に負けて、王様や家来たちも散り散りに成って仕舞いました。それこそ生死すら不明に。
城を守っていた、その国の「一の武将」も、主君の家族を人質に取られて降参するしかありませんでした。
それでも「その」武将は信じていました。必ず、自分の主君は再び起つと。

降参させた相手の王は、その武将を高く評価していました。
だから、自分に仕えさせようと、ずいぶん好い待遇をしたそうです。
何かと招待して接待をしたり、その度に金銀財宝とか、ついには「千里の名馬」とかをプレゼントしたり。
でも、武将は全ての贈り物を無礼に成らない様に受け取って置いて、自分のためには使いませんでした。
ただ「名馬」だけは、これで主君の下に帰る事が出来るから、と受け取りました。

そして、受けた待遇や恩義を返す分だけは、別の敵と戦う時に活躍して、何度か勝利した後に立ち去ったそうです。
ちょうど、やっぱり生きていた主君が仲間たちを再び集めていると、風の噂に聞いたか、密使と会うかした事もありましたから。
そして「千里の名馬」に乗り、他の贈り物は全て残して立ち去りました。

それから、本当に「千里の道」を踏み越えて、主君との再会を果たしたんです。



「何だか、奇妙な説得力が在る話だね。そちらの黒髪のレディの前だと」
それは、そうだろう。

「使い魔君。君の言いたい事は理解できるよ」パーティ会場を見回して、
「彼らを死なせないために、彼らの帰れる場所に成るために、あえて生き恥を晒(さら)す途も在る、と言いたいのだろう」
「殿下?もしや…」ルイズもハッと顔を輝かせたが、
「だかな。彼らを死なせるのは、やはり私と父王なのだよ」
そう言ってから、ふと愛紗の方に向き直った。

「黒髪のレディ。貴女は先程の話を、どう思うかね」
「何と申し上げるべきか、口下手を御許し下され。ただ…」
何だか、何時ものハッキリとした愛紗にしては、微妙な態度。
「私の御主君の御先祖は、100回戦えば100回逃げる羽目に成った最強の覇王を相手に、最後の只一度の勝利で、天下に太平をもたらしました」
この愛紗の言葉に対しては、只レディに対する礼儀だけで答えて、王子は父王の側に歩み去った。

「だめなの?…姫様に何て言ったら…」才人も、もうルイズに掛ける言葉が無かった………。

……。

…やがて、王と王子の演説が始まった。
先程のルイズと王子の問答で、才人たちも散々に聞かされた内容が、会場を埋める臣下たちに告げられていた。
「やっぱ、だめかよ」

ところが、
「……私は、あえて卑怯者に成ろう。この最後の城に止まり、王としての最後の務めを果たそうとする父王すら見捨てる恥知らずにも成ろう」
「!?」これは才人たちだ。
「そんな恥知らずな私でも、諸君が生き残る理由に成るのならば」ここで会場を見回して、
「諸君。必ず、また会おう」

演説を終え、父王と名残惜しげに抱擁した王子が、ルイズたちの佇(たたず)んで居る辺りに遣って来た。
「急に慌(あわただ)しい事に成って済まない。大使殿たちも支度を急いで欲しい」
「それでは、殿下」
「今夜の内にも、件の「空賊船」イーグル号で脱出する」
「有り難う御座います。姫様も、きっと御喜びに」
「トリステインには行けない理由は変わっていないよ。大丈夫。君たちが何とか帰れる様にはするから」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

その夜遅く、と言うよりも、翌日の夜明け前。
秘密のドックから「アルビオン王立海軍」イーグル号は、密かに出航した。
最後に、王と王子は、しっかりと敬礼を交換して。

同乗していた大使一行はルイズ、才人、愛紗、キュルケとタバサ。
さらには、赤兎をはじめ、それぞれが港まで乗って来た馬。タバサの使う風竜は、自力で船の後から飛んでいた。

ドックをでた「イーグル」号は「反乱軍」を避けて、雲から雲へと隠れながら、機会を捕らえて急降下した。
下の大地は、ハルケギニア大陸の何処かの森のはずれ。
「そこ」にルイズたちを降ろすと、何処とも告げずに、何処かへと飛び去った。

「で、俺たちは何処にいるんだ?」
「“とりすていん”とかとは地続きな場所だろう」愛紗の言う通りだろう。
「好好。旅費なら“わるど”とやらから没収した分とか、王子殿下の心尽くしの餞別(せんべつ)とかもある」
「簡単そうに言うわね」これは「微熱」の言い分である。
「地続きならば、馬で帰れる。(…東へ向って駆けたら蜀の国が在るならば、赤兎で帰れるのだがな…)」

幸いにも「異世界人」ながら旅慣れた愛紗と、王族にしては何故か旅慣れたタバサか同行していた。
それに、判明してみれば、辺境ながらトリステインの国内だった。

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第9席『復命と情勢と新たな目的地』の予定です。



[21908] 第9席『復命と情勢と新たな目的地』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/26 16:06
「姫様。きっと殿下は生きておいでですわ」
「有り難う。私の「お友達」」
当然ながら、ルイズ(と才人)は、魔法学院に帰る前に王宮に辿(たど)り着いて復命していた。

まさか王宮、それも王女の御前まで同行も出来ない愛紗や「赤青」たちは、王都の街中で待機していた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

さて、合流して学院に戻ってみると、
「機嫌を直しておくれ。僕の薔薇よ」
突然、全寮制の学院からギーシュがいなく成っていて、しかもルイズだのキュルケだのタバサだのもいなくて、
とりあえず使用人あつかいの「使い魔」は眼中には無いが、しかし身元不明の軍人でも綺麗(きれい)な愛紗は別な話で、
と、ここまでの話に成れば、恋人(?)としては面白くない。
そこへ、ギーシュだけがノコノコ帰って来たのである。

「困っていたんだよ。姫様からの密命だから説明も出来なくて」
尚、悪い事に、密命の主が「姫様」つまりは可愛い女性だった。
「仕方が無いわね。まあ「密命」も無事終わったし、“せくはら”ジイさんの許可は取ったわ」
今回の事が切欠に成ったか、何時の間にか秘書らしき仕事をしていた詠が、そんな事を言った。ちなみに“せくはら”とは「天の国」の言葉らしい。
女の子1人の機嫌の前に『今回』の件に関わった面子に限っても、情報を共有する必要があった。
そんな訳で、アルビオン行き一行+2名ほどが広場の一隅に集まって、座談会らしきものをする事に成った………。

……。

…愛紗が詠に訊(たず)ねた。
「あの子爵とやらは、どうした?」
「さあ、件のコソ泥の看病をしているんじゃないの」

「吐かせる事は幾らでも在ったけれど、吐かせ方は相手によるわ」
「そうだな。私自身の目では一瞬しか見ていないし、裏切り者だが、それなりに覚悟は出来ていそうだったな」
「そういうのはね、直接に拷問しても殺して仕舞うだけね。でも、そういうのに限って、むしろ自分の身体は無傷だから心が折れる場合が在るの」
「つまり、目の前で見せ付けて…余り、私の好みとかには合いそうも無いな」
「ボクだって趣味じゃ無いわよ。それに月みたいな甘い主君に仕えていたんだから、ま、月のためなら手を汚す覚悟はしていたけれどね」
「私だって、ご主人様や姉上のためならば、自分の手くらい汚すぞ…今回みたいな遣り方は、出来れば御免だがな」
「仲間同士だけで、何、分かり合ってんだ?」才人も質問していて、自分で想像してしまった。
「つまり、ワルドの目の前で、フーケが看病の必要な状態に…何だか想像したくねえな」

* XXX版では御座いませんので、これ以上は自主規制。

「ま、吐かせるだけの事は吐かせたわ。もっとも魔法の世界だし、魔法で吐かせる方法も在ったみたいだけどね」
「心を操る魔法は禁制よ」専門の「水」メイジが指摘した。
「それは兎も角(ともかく)けっこう吐かせる事が在った事は確かよ。今頃、王宮にも報告が届いているでしょうし」
「未だ報告していなかったのか?」愛紗たちは「その」間に使命まで果たして来ている。
「それだけ吐かす事が在ったのよ」

「まさか、未だ「この」学院に居るのかよ?」才人だけの質問でも無いが。
「引き渡しても一度は逃げられているからね。皮肉だけど例の宝物庫が役に立ったわ。宝物の方は教師たちが分担して一時保管しているみたい」
「そう…」ルイズの反応に、才人の態度が微妙だ。
「何の心配か知らないけれど、あれだけ熱心に看病している様子なら『許婚』的には問題無しね。もう」と言ってから溜息。
「ま、どうせ破談でしょうし。それに「また」逃げられない限り、首が飛ぶでしょうけれど」
この辺りが「天の国」ならぬ『三国時代』の感性だろう。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

王宮では、宰相が有力な貴族や軍人、具体的にはラ・ヴァリエール公爵とかグラモン元帥とかを呼び出していた。
王国の大事、特に戦争とも成れば無視出来ない筆頭貴族の1人でもある公爵と、軍部代表の元帥を呼び出したのは、
戦争の可能性が在ると言う事だ。

同時に、公爵はルイズの父親でもあり、ルイズとワルド子爵を婚約させた当人でもある。
あくまで軍部代表である元帥を招き入れる前に、宰相と公爵は「この」件に関しても話し合った。
「不幸中の幸いでしたな。公式には両家の口約束の段階で」
当然ながら、すでに子爵家は「断絶」である。
「破談」と子爵家の断絶に関して、公爵の同意を取り付けると、宰相はグラモン元帥を同席させた。

ワルド子爵の音声が記録されたサザエ型の「マジックアイテム」が、元帥の前でも改めて再生された。
「彼」が語る限り、アルビオンと言う1つの国の内戦ですら、もはや無くなっていた。
トリステイン王国の側から宣戦布告しようが、アルビオンの王子が亡命して来ようが、結果は同じ事。
どうせ、陰謀を仕掛けても「向こう側」から戦争を始める計画が「自白」されていた。
そして「国内」で呼応する「同志」として、大物小物の貴族の名前が次々に出て来ていた。

「参りましたな。結局、戦争ですか」専門家だからこそ、ウンザリした態度の元帥。
「しかも、戦争の先に「これ」だけの裏切り者に対処しなければ成りません」宰相の言い方に苦い思いの公爵。
本来、こうした摘発の場合に活躍すべき魔法衛士隊だが、隊長が真っ先に裏切ってしまったため、肝腎な時に役に立たなく成ってしまった。
公爵にしてみれば「灰かぶり」の頃の悪夢を思い出してすらいた。
「残念ながら、非常事態です。そこで、公爵と元帥にも御賛同頂きたいのですが」

宰相の提案は、確かに前代未聞だった。
現在の情勢。つまり、宮廷の有力貴族が信頼出来ない。
この現状に対する、王女の心情。
更に、宰相自身が、魔法の使えない出自でありながら「始祖の使徒」として現在の地位を得た人物である事。
これら全てが助長しあってこその提案であり、したがって一応は信頼出来る貴族の代表である公爵と、
軍部代表であると同時に、やはり伯爵の爵位を持つ貴族でもある元帥の、最低でも黙認が必要だった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「それにしてもゾッとしないわね」“吐かせた”側の詠の言い方も微妙だった。

ワルドが「今回」の密命に潜入した目的としては、アルビオン王子の暗殺まで狙っていたらしい。
しかも「死後」王子の「死体」を利用しての、トリステイン王女の拉致まで企(たくら)んでいたと言う
「何でも『向こう側』の首領は、そんなバカげた事が可能になる魔法を使うらしいわ」
死者に偽りの命を与え、同時に心を奪う事が可能だと言う。
ハルケギニアの貴族=メイジが用いる4系統魔法の何れでも異なる、もっと強大な魔法。
それを『首領』は「始祖」から受け継いだ『虚無』の魔法であり、自分がアルビオン王家に変わる「祝福」を受けた証だ、と主張していた。

「少なくとも、ワルドは、そう言ったわ」
「ルイズも出来るのかよ?爆発以外にも、そんな真似」
「アンタこそ、ご主人様を何だと思っているのよ」
「だって、ワルドのヤツ。ルイズの事を虚無(?)とか言っていたんだろう」
「知らないわよ」

ところが、一座の中に顔色を変えている1人が居た。
「どうした?何か思い当たる事でも」愛紗がそう言い、
「心配な事があるのかい?僕の薔薇」ギーシュがモンモランシーにイチャついた。
「死者に偽りの命を与え、同時に心を奪う…『ラグドリアン湖の水の精霊』が持っている『アンドバリの指輪』なら可能な筈よ」
「へぇ。詳しいのな、モンモン」
「当たり前よ!モンモランシ家は、代々、水の精霊との交渉役を王国から任されてい“た”のよ」
「水の王国に於ける水メイジの名門なのだよ。ド・モンモランシ家は」自分の事の様に自慢する。
「それにしちゃ、貴族なのに、時々金持ちらしくねえの」
「うう…あの時、精霊を怒らせなければ…」

「それならば…今は、お主の家が交渉役では無いのだな」愛紗が急に何かを言い出した。
「貴女には不幸中の幸いね。『今』の交渉役には大災難でしょうけれど。もしかして、汚名返上の機会かも」
詠も、そう言い、それから愛紗に向って
「貴女も経験を積んだ様ね。根っからの武人だったのに」
「『伏竜鳳雛』と『乱世の姦雄』の騙し合いを見続けておればな」
「何なのよ?仲間同士でだけで分かり合っていて」ルイズが少しイラだった。

「“キョム”とやらが「本物」であろうが、どうであろうが「その」何とかの指輪を湖のヌシらしいのから奪えば、成り済ませる事が出来る」
「「「!」」」一同絶句。

「もしかしたら、件の首領は成り済まし者かも知れぬな」
「大変じゃない、もしそうだったら…」ルイズが立ち上がっていた
「モンモランシ家が、今もラグドリアン湖に関係していたら…下手したら取り潰し…」またも顔色が変わるモンモランシー。
「成程。ツイてたな、モンモン」しょせん、才人には他人事(?)
「何ノンキな事を!これは放置なんて出来ないわ」ルイズの声が高く成った。

ヤレヤレと言う仕草をして、
「詠。老師から許可を取ってくれぬか」
「そうね。そろそろ「秘書」の仕事に戻る頃合だし」

数日後、この時の「座談会」の一行が、オスマン老人から借り受けた馬車で出発して行った。

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第10席『湖の精霊』の予定です。



[21908] 第10席『湖の精霊』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/28 21:37
「ひょっとして、あの村ってヤバいんじゃねえのか?」
初めて来た才人ですら、そんな感想を持つくらい、その村は水没スレスレに見えた。
「私の家が交渉役だった時には、もう何メイルかは確実に水位が低かった筈だわ。誰かが精霊を怒らせたのよ」
「どうやら悪い予感が当ってしまったな。しかし「これ」が湖のヌシの仕業なら、残念ながら徒労だ」
「そうね」詠も愛紗に同調した。
「指輪を使って成り済ましている当人は、空の上に浮かんだ大島に居るのよ。この国を水没させても無意味ね」
「無責任な事を言わないでよ!!」交渉するのはモンモランシーである。
「僕が付いているよ。愛しのモンモランシー」「有り難う(とりあえず)」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

トリステイン高等法院の長でもある有力貴族のリッシュモンが、宰相からの相談を受けていた。
「遺憾ながら、魔法衛士隊の現状では、その穴埋めが出来そうなメイジ出身者にすら事欠きます」
「だからと言って、平民の兵士上がりに、恐れ多くも姫様の護衛を?」
「あくまでも現状に対処するためです。女性を優先して選抜しているのも、対象が恐れ多くも姫様におわしますからです」
「ですが。流石にコレは」
「ラ・ヴァリエール公爵とかグラモン元帥にも御賛同頂けました。後は法院長からも、隊長級の人材の推薦を頂きたいのです」
「私の推薦?」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「単なる者よ。我は、もう単なる者を信じる事が出来ない。したがって、奪われた秘宝を取り返すまで水を増やし続ける」
モンモランシーが呼び出した水の精霊は、取り付く島も無かった。

「だからさあ…それは無駄なんだって。信じてくれよなあ」後ろの方で、勝手な事を言っている。
とは言っても、交渉役の頭ごなしに割って入る事も出来ない。

結局の処、平賀才人は「現代日本の男子高校生」の価値観や正義感で行動してしまう。
この場合も、水没しかけている村々を見捨てるのは、気分が好いとも限らない。
つい、交渉役の後ろまで踏み出しかけて、自分の「ご主人様」に引き戻された。
「何、勝手な事をしているのよ。メイジでも交渉役でも無いくせに」
「でもよ。結局、あの精霊とか何とかは、モンモンの言っている事が信じられる、信じられないで、堂々巡りしているだけだろ?」
「だから、何?」
「誰か、話を聞いて貰(もら)えそうな、正直そうなのが出た方が好いんじゃないか?とりあえず、あそこに呼び出してはいるんだし」
「だからって、アンタなんかじゃ、余計に怒らせるだけよ!」
「そうかなあ…」

ここまでの問答を側で聞いて、愛紗が何故かニッコリしていた。
「私の『ご主人様』が言いそうな事を言うな。やはり「天の国」の考え方なのかな」
そう言うと、モンモランシーの隣まで歩み出る。全くの自然体で。
そして、片膝をつきコブシを握り合わせた中華の礼を示した。
その膝が、偶々(たまたま)水辺に触れた。

「ム…お前は、我が知って来た単なる者とは異なるのか…」精霊が考え込むとも取れる(そんな人間的な事をするとしたらだが)仕草をした。
「お前の心には、我を偽る心が無い。好いだろう。お前は信じよう。異なる単なる者よ」
「謝々」

それからが、やっと真面目な情報交換に成った。

やはり精霊から秘宝を盗んだのは、現在のアルビオンで反乱を起している首領一味だと、ほぼ断定出来た。
2年近く前に盗まれてから、秘宝を捜し求めて、精霊は湖水を増やし続けていた。
元々「単なる者」よりは遥(はるか)に長い時を生きる精霊の事、何時か大陸全体を水没させれた時には、秘宝に辿(たど)り着くと想っていたのだ。

「2年近く?!交渉役も領主も怠慢ね!」むしろ詠は呆れた。
「蜀の国だったら「これ」だけでクビだな。いや、わが御主君たちは、まだ甘い。魏や呉だったら、本当に1つしか無い首が飛ぶ」
「愛紗。桃香や「天の御遣い」は甘くても、補佐する貴女や朱里たちは信賞必罰でしょ?まあ、命までは取られないでしょうけれどね」
「1つ確認して置きたいんだけど」ここでルイズが口を挟んだ。
「姫様を悪く言ってはいないわよね」
「残念ながら、貴女の御主君の責任にも成りかねない。ご自身で実権を握っておられたなら。いや…」愛紗は真剣だった。
「こんな怠慢な権力者に権力を持たせて仕舞った時点で、王としては罪なのだ。そして、苦しむのは」水没しかけている村に大刀を向けて「民だ」
「『どうせ平民』なって言わないでよね。今更」詠が追い討ちをかけた。

「単なる者たちよ。お前たちだけの話には我は関係ない」
そう精霊に言われて、再び情報交換に戻った。

「好かろう。お前たちの命の間に秘宝を取り戻して来るならば、その時までは水を増やさないでいよう」
「いいのかよ?それで」異世界人で無くても疑問だろうが
「我と単なる者とでは、時が違う」

精霊は湖の中へ戻って行った………。

……。

…そして、ルイズたちは馬車を王都へ向けた
愛紗が「ショク」とか言う国の法を持ち出しての責任論は置いといて、王宮に報告しない訳にもいかない「真相」だった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

公爵令嬢だからと言って、行き成り王女に拝謁出来るとも限らない。
正し「前回」の密命のために受けた、王女直属の「資格」は、未だ活きていた。

ルイズ(と才人)の他に、今回は「当事者」のモンモランシーと付き添いのギーシュが御前に出た。
ちなみにタバサは、実は湖の対岸に在った実家が心配とかで、キュルケと別行動を取って行った。
それはそうとして、ルイズたちが王女に報告すると、同席していた宰相が肩を落としていた。
「承知しました。実は「それ」どころでは無い、とばかり思い込んでいたのです」宰相は公爵令嬢に対する言葉使いをした。
「実際「そちら」に回す人手が本当に無かったのです。少なくとも信用出来る人手は」
「有り難う。ルイズ。本当に助かりました」王女からの感謝は受け取ったが。

結局の処「水害」に関しては現状以上に深刻に成らないのであれば、優先して片付けなければ成らない「重大事項」が実在している様だった。
それでも、優先順位に従った、ちゃんとした処置は約束してもらった。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

さて、ルイズたちが拝謁している間、待機していた愛紗と詠だが、何やら深刻そうに密談している2人組を見付けていた。
「下手に聞いてしまうと、また厄介事に巻き込まれるわよ」
この場では、そう言った詠だが、後日に後悔したかどうかは定かではない………。

……。

…ルイズたちが退出するのと入れ違いに、王女の御前に見参した2人組が居た。

現在の魔法衛士隊の情勢、いや惨状を考えた結果、
とりあえず、王女の「身辺警護」を担当する特別部隊が創られた。
貴族=メイジで護衛が務まる人材が、役に立たなく成っているから「こんな」部隊が創られたため、
平民出身、それも対象が王女であるため女性でありながら、武器の扱いや戦闘に優秀な者が急遽(きゅうきょ)選抜された。
とりあえず、隊長と副隊長だけは、本当に急いで人選された。
正し、王女の身辺、と言う事は宮廷での任務であり、宮廷で貴族たちに接触する事から、少なくとも隊長だけは貴族である事が要求された。
その事もあって、一番文句の出そうな貴族たちの集まる高等法院の長に、隊長「候補」の推薦が依頼されていた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「さあてメシ、メシ!そう言えば、ここの「賄い」もしばらくぶりみたいな気もしたりして?」
とか言いながら才人が遣って来た厨房の雰囲気は、どうしたのか少しばかり変だ。
「どうしたんですか?親父さん。なあ、何か知らないか?シエスタ。あれ?」

「くそーっ!だから貴族なんてのは、どいつもこいつも」
「そりゃ、シエスタは可愛いさ。綺麗だよ。だけどよ、気紛れな貴族様のために可愛い訳じゃねえ!」
「だから、いったいどうしたんです?」

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第11席『待ち受けていた運命』の予定です。



[21908] 第11席『待ち受けていた運命』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/29 21:25
もはや、背中の「魔剣」に手をかけた状態で、平賀才人は押しかけた。
「あのコルッパゲ先生だけは、貴族にしちゃマトモだと思っていたのに、それがシエスタを名指しで呼び出した、だって」
それが「あーんな事とか、こーんな事」に成ってしまうのは、直接にはシエスタが美少女だからだが、
間接的には「この」世界の貴族が、どう思われている、かと言う事だった。
憤慨しているのは才人だけでは無い。残念ながら愛紗も、他の事なら兎も角(ともかく)「こうした」事では沸点が低い。
「魔剣」に手をかけたまま、扉を「蹴り」開けるなどと言う才人の振る舞いにも、無礼を咎めない位。

そして、問題の「研究室」の中では、シエスタがヨヨとばかりに泣き伏していた。
「先生!シエスタにナニ(?)をしたんですか?!」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

誤解が解けてみれば、もっと大真面目な問題だった。

シエスタの故郷は、例の「港町」に近いタルブと言う、どちらかと言えば余り発展していない村である。
実は「港町」との位置関係とか、地形とかの地理的条件のため、
例えば、アルビオンから空陸両用の軍隊が侵略して来た時、着陸作戦の好適地と見なされていた。
そのため、王都との街道などの陸上交通を、意図的に不便にしている傾向もあったりした。
そのため、結果として余り発展していない、ワイン以外に特産の無い村だったりする。

「実は例の「自白」によると、アルビオン反乱軍は、このトリステインに戦争を吹っかけるための陰謀と同時に」シエスタの方に視線を移して
「タルブ村への着陸作戦も、相当、真剣に検討していたらしい」
「そ…れって」
「黙っておれなく成ってね。例え利己主義であっても、彼女の親族や知人だけでも今の内に疎開してはどうか、と言ってみたのだよ」
「事は戦争だ。卑怯などとは言えない。力の無い民衆には逃げる事しか出来ない」愛紗は断言していた。
「その力の無い民を守るのが、王国であり貴族だろうがな」
才人を追いかけて来ていたルイズには、挑発にすら聞こえた………。

……。

…結局の処、数日後には「ラグドリアン湖行き」一行+コルベール+シエスタで、タルブ村に行ってみる事に成っていた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

港町ラ・ロシェール
トリステインとアルビオンは「正式」に戦争状態に成っては、未だいない。
そのため「現在」も尚、アルビオン行きの船が「大樹」に生ってはいた。

その中で、最初に出航する予定の船を、鷹揚(おうよう)に借り切ろうとしていた如何にも大貴族一行を、
何と女性兵士の部隊が引き止めようとしていた。
「裏切り者め!」「どちらが?だ!」

高等法院長リッシュモンが王女の「護衛」隊長に推薦したのは、10年ほど前に貴族の地位を剥奪され傭兵に身を落としていた女性だった。
彼女を拾い上げた上に、今度は「家名復興」の機会を与えた恩を売っておいたつもりだった。が、
平民から抜擢された「副」隊長候補。実は、こちらが王女と宰相が意図していた「本命」だったのだが、
彼女は、個人的理由からリッシュモンの「旧」悪を(彼女の年齢からすれば)長年、追跡していた。
そのため、隊長「候補」の両親を失脚させ、死に追いやったスキャンダルの「真」の黒幕はリッシュモンだと確信していた。
確信であって、平民出身の兵士の身で、高等法院長たる大貴族を告発できる程の確実な証拠までは入手できなかったが、
そこへ「今回の人事」が起きた。

元々、リッシュモンが推薦してくる隊長「候補」を「ワルド子爵の自白」を利用すれば何とか説得出来ないか、と王女と宰相は考えていた。
だが、リッシュモンを裏切れない理由、何かの恩義とか共犯関係とかのある側近を送り込んでくるものとばかり予想していた。
その場合は、本命の「副」隊長候補に「はしごをはずさせる」つもりだった。
宰相などは「残念ながら」排除する可能性まで考えていた。
結果として、リッシュモンの選択は、考えが浅かったかも知れない。
もっとも「平民」上がりの「副」隊長候補の、自分に対する「怨念」までは想像もしていなかったのだろうが。

散々、隊長「候補」ミシェルと「副」隊長候補アニエスで密談した末、
ミシェルはリッシュモンよりもアニエスや王女たちを信じる決心をしたのだった。
とは言っても、ミシェルやアニエスが憎むリッシュモンの罪を暴こうにも「高等法院長たる大貴族」の権力の壁は厚かった。
その厚い壁に安住していた、とも言える。
だが「ワルド子爵の自白」は、もはや話が別だった。
これ程の王国に反する陰謀の、それも決定的な証人の証言を王政府に握られてしまっては。

しかも、王女と宰相は最大の大物を最初に狙った。戦術に例えれば、正面中央からの突破で一気に勝負を賭けたのだ。
その上「スパイ」に送り込んだ筈のミシェルまでが、復讐者の1人に成っていた。
わずか数日の間に事態は急展開して逆転した事を悟ったリッシュモンは、国外逃亡を最後に狙ったのだが。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「兎に角」ルイズは主張していた。
前回より人数が増えた分だけ大型の馬車をオスマン老人から借りて来た、その車中である。
「公爵令嬢が来れば、タルブ伯爵だって、聞く耳くらいは有るわ」

タルブ村への経路は、交通事情の上から、ラ・ロシェールを経由する街道を最寄まで進んでから街道を外れる経路に成る。
当然の様に、一行はラ・ロシェールを経由するつもりだった………。

……。

…ラ・ロシェールから王都へと通じる街道。それが魔法学院へと分かれる「ポイント」を通り過ぎて、馬車は進んでいた。
そして、王都の方角へ向う騎馬隊と擦れちがう寸前、
先頭を駆けていた2騎の片方が、突然に方向を変えた。

「ちょっと何よ」交代で御者をしていた学生の1人、この時はキュルケだったが、進路を妨害されて早速に文句を付けた。
「何用かな?」馬車には同乗せずに、赤兎で同行していた愛紗が問い質そうとしたが、黙殺された。
「その馬車に乗っている男…忘れたとは言わさんぞ!ダングルテール!!」
1人を除いて、何を言われたかは全く思い当たらない、が
その1人、コルベールは落ち着いた態度で馬車を降りた。

「そうだ。覚えていたか。流石に忘れる事は出来ないだろうな。貴様が気紛れに助けた小娘だ」
「やはり、あの少女でしたか」
「そうだ。ついに、この時が来た。ふん。やはり新教徒にも始祖の加護は在ったのだな。1人を倒した帰りに貴様を見付けるとは」

「訳が分かんねえよ?!」これは才人。
「訳を聞かせてもらえるかな?」これは愛紗。
そして、当人にも隠すつもりは無かった。

私は20年前、王立魔法研究所の開発した攻撃魔法を実験する、実験小隊の1つを指揮する小隊長だった。
ある時、とある村が疫病に襲われ、その被害を食い止めるためには村ごと焼き尽くすしかないとの命令を受けた。
そのために、新開発の火の攻撃魔法を使う、私たちの小隊が命令を受けた。

だが、命令を実行するために現地に到着してみると、そこは疫病など存在しない普通の村だった。
後で知ったのだが、その村は新教徒の村だった。
ロマリア宗教庁の一部が高等法院を買収して「新教徒狩り」を狙った偽装命令を出していたのだ。
「そうだ。それだけで…始祖を信仰するのにロマリアの坊主どもを介入させないと言う理由だけで、私たちは焼かれたのだ」
だが私は命令を取り消すことも、実行を止める事も出来なかった。
そして、思い知らされたのだよ。魔法、特に攻撃的な「火」の魔法の力を持て遊べば、こうした罪を簡単に犯してしまう事を。

「信じられないわ。攻撃的な筈の「火」のメイジ、それもトライアングルのくせに攻撃的で無い、貴方みたいな腑抜(ふぬ)けたメイジに、そんな過去が」
「そんな過去が在るから、私は腑抜けたのだよ。ミス・ツェルプストー」むしろ淡々と続ける。

『火』のメイジだから『火』のトライアングルだから攻撃的であるべきだ、と言う考え方は、私の様な罪を犯す。
未来を担う若い諸君は、私の様な過(あやま)ちを繰り返さないで欲しい。

「もしや、貴方は「その」ために教師に」これは愛紗だ。

そうだ。私は軍を捨てた。親と祖先から貰った名を捨てた。
そして、私の過ちを繰り返さないために残りの人生を捧げようとした。
出来れば「火」の魔法は攻撃だけでは無く、人の幸福のために役立つ方法が在るかも知れないと思い「発明品」の研究にも手を伸ばした。
そんな事で、私の罪が償えると思うのは、傲慢だろうがね。
しょせんは、私の自己満足に過ぎない事は分かっている。

「そうだ。貴様の罪を償え。たった1つの方法で」アニエスは銃を構えた。
「平民でもメイジを殺せる。例えば、この銃と言う武器を使えばな」

それを見て、キュルケたちの何人かは杖を抜こうとしたが「炎蛇」当人が制止した。
「止(よ)したまえ。これは、私と彼女の問題だ」

平賀才人は「現代日本の男子高校生」の価値観や正義感で行動してしまう。
「先生!先生も騙されたんでしょう?ニセの命令で」
「そうだ。その命令を出したリッシュモンは殺した」
アニエスは平然としていた。
「殺した?高等法院長を?!」
トリステイン貴族としては、ルイズは驚かざるをえない。

リッシュモンは王国を裏切った逆賊に成り下がった。アイツに相応しくな。
そして、今の私は、王女殿下からヤツを捕らえる正式の権限を頂いた。
私だけでは無い。ここに居る私の同志は、ヤツのために両親も貴族の地位も失った。
そして傭兵に身を落としていたが、今や、王女殿下の護衛を勤めている。
そして、リッシュモンは王国を裏切り国外逃亡を図った罪人として、私たちに撃たれて死んだ。
メイジで大貴族が、平民の傭兵上がりの銃で穴を開けられてな。

コルベールに銃口を向けたままのアニエス。
「どうした。リッシュモンの様に杖を振り回して魔法で反撃するか、逃げ回れ」何故か焦(あせ)り始める。
「それとも、そうやって無抵抗の振りをすれば、私が撃たないとでも?お前たちは、無抵抗の私たちを焼いただろうが!」

ついに銃声が響いた。

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第12席『異界に眠る』の予定です。



[21908] 第12席『異界に眠る』
Name: きらら◆729e20ad E-MAIL ID:f9298a57
Date: 2010/09/30 21:31
銃と言う武器は、特に支柱を大地に立てて支えずに手に持って発射した場合は、
どうしても銃口が上へと跳ね上がって仕舞う。
それでも弾丸を命中させられる様に、射手や銃兵は訓練される。
だが、この時のアニエスは、何故か訓練の時よりも動揺していた。
銃口は跳ね上がり、弾丸はコルベールの頭上を飛んで行った。

硝煙と時間が過ぎ去った後、その場で凍っていた群像が解凍した。
「私の銃口が、お前の背中を狙っている事を忘れるな!」
そう言い残して、王都の方へと駆け去った。

「アレは弩(ボーガン)の類だろうか?確か、朱里が改良した連弩(連発式ボーガン)とかは、弓の弦を内蔵していたが?」
愛紗は詠に尋ねてみたが、
「何故か忘れた方が好い気がするわ」

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

公爵令嬢の訪問に、タルブ伯爵も門前払や居留守は使わなかった。が、
「残念ながら、王政府からの正式の命令も無しに領地を放棄は出来ませんな」「忠告」に対する返答は、こうだった。
「同時に、勝手に領民が逃げるのならば、むしろ取りしまらなければ」

「だったら、姫様に御願いして「正式の命令」を持って来てやるわよ」
だからと言って、今日そのまま引き返すわけにも行かなかった。学院からも王都からも、馬で2日はかかる辺りなのである。

「貴族様たちを御泊め出来る様な村では、ありませんが」
村長からして、そんな事を言いながらも、村に案内してくれた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

広々とした、タルブ村の草原。
「空飛ぶ船」で侵略して来る、と言う戦争の経験こそ無いが、百戦錬磨の愛紗と軍師としてなら歴戦の詠である。
「『ここ』に降りて来るのね」
「詠…もしも、わが御主君や仲間たちが、今ここに居たならば…」
「見捨てるなんて出来ないでしょうね」



「海軍少尉 佐々木武雄 異界に眠る」
「才人?あなた読めるの」
「これは、俺の国の文字だ」

切欠は、シエスタが冗談交じりに言った言葉だった。
その前に一行の内の誰かが
「何も観光する様なモノが無い村ね」と言った事に対して
「私のひいおじいちゃんの御墓に、何故か貴族の人でも読めない文字が書かれているんです」とかシエスタが答え、
「それでも、何も無いよりはマシかも」とか言い合いながら見物に来てみた。
その結果「何と」才人だけが読めた。ハルケギニアの読み書きは出来ない筈の。

「ひいおじいちゃんの遺言では「この」文字が読めた人に『竜の羽衣』を…」
今度は、そう言われて案内された場所は
「神社?」才人には、どう見ても『日本の神社』に見えた。
そして、その「神社」の中に安置されていた『竜の羽衣』とは……
「ゼロ戦?!」零式戦闘機だった………。

……。

…才人1人が主張した。
「これは「俺の世界」の空を飛ぶ機械だ」
全員が、完全に信じた訳では無い。
だが、余りにも才人は真剣であり、その態度だけでも奇妙に説得力があった。
結局、才人に協力して、飛ぶかどうかだけでも試してみる事に成った。

「この「ゼロ戦」は飛ぶ。そうじゃ無くって、戦える」
才人の左手に刻まれた「神の盾」のルーンが教えてくれた。
才人自身が「ゼロ戦」とは”戦闘“機つまりは「兵器」だと認識していた。だからだろう。
「あらゆる武器に反応する『神の盾』のルーン」が反応した。
シエスタの曽祖父の時代から保管されていたが「そのまま」の状態だった。「固定化」の魔法の御蔭で。
曽祖父の時代以降、飛んでいなかったのは、単純に「ガス欠」だった。
逆に言えば「ガソリン」さえ補給すれば、飛べるのである。
幸いにして、物質を変化させる「土」メイジも、液体が専門の「水」メイジも、指導教官まで居た。こう成ると、魔法は便利だ。

正し、直ぐの話では無かった。

「この「ゼロ戦」が飛んだら、アルビオンが攻めて来たって”無双”だぜ」と才人1人は主張したが、
他の全員の意見が一致してしまった。ルイズが一度、王宮へと参上する事が優先だと。
タルブ村の件で、王女に訴えるためである。

「上手く行かねえな。ガソリンさえ間に合えば「ゼロ戦」の方が早く姫様に会えるのによ」
「本当に飛んでも、王都まで飛べるの?馬でも2日はかかるのよ」
街道沿いに百数十キロメイルといったところだろう。(古代ローマ皇帝の「伝令」は1日70kmを騎馬や馬車で走る義務があった、と伝えられる)

「ゼロ戦」は落下式の増加タンクを付けずに、機内の固有タンク分の燃料だけでも千数百kmを飛ぶ。燃料満タンの必要すら、実は無い。
しかも、巡航速度(長距離を目的とする最高速度より遅い速度)でも時速300km以上だ。タルブ村を飛び立って数十分の後には、王都の上空だった。
「やっぱり、話が大き過ぎるわね。例え信じてあげたくても」

結局「ガソリン」を魔法で生成している間に、偶々(たまたま)同行していたタバサの風竜で王都に着くだろうと計算された。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

翌日、ルイズが「押しかけて」来た時、ちょうど王女は「ある」書類を決裁していた。

「アニエス。これで貴女を隊長として「銃士隊」が正式に発足する事に成ります」
隊長「候補」だったミシェルは「残念ながら」推薦者の不祥事で、副隊長に収まる事に成った。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

王女に、それも急に会える「資格」が有るのはルイズだけだ。
そのため、タルブ村からの帰路はルイズと才人だけがタバサに送ってもらい、学院ではなく王宮へ向かう。
コルベールたちは「ゼロ戦」を輸送する手配をしてから学院へ戻る事に成った………。

……。

…2日後、馬車で同乗している詠たちよりも、1人だけ早く赤兎馬で学院に戻った愛紗は、
すでに前日、王女と掛け合って来たルイズから結果を聞いた。

*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*・・*

「件の『自白』の中に、タルブ伯爵領の件も、確かに在りました」
王女は書きかけの書類のペンを止めて、ルイズに答えた。
「実は、密かにグラモン元帥が、この件で動いているのです」
「グラモン?ああ…ギーシュパパか」「(小声)無礼よ」
とりあえず「この件」は、ルイズたちの手を離れた。

「姫様?ご無礼で無ければ、その御手紙は?」
「ああ、そうですわね。貴女には、何時までも秘密にして置く事は出来ませんね」
ペンを手放すと、何処からか本らしきものを取り出した。
「実は、この手紙とも関係した理由で、ルイズに預(あず)かって欲しい物があるのです」
そして、その“本らしきもの”をルイズの方に差し出した………。

……。

…ルイズと才人から結果を聞いた愛紗は、何故か、がっかりしていた。
「出来れば、拝謁の機会が欲しかったのだが」
「どうしたのよ?急に。姫様に何の用が有るのよ?」
「最悪の場合は、私の勝手にさせてもらう。この王国に仕官しているわけでは無いからな。しかし」
瞬間だけ、遠くを見る様な仕草をした。
「わが主君たちに、叱られる様な真似だけは出来ん」

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それでは続きは次回の講釈で。
次回は 第13席『「ゼロ戦」飛翔』の予定です。


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