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[22067] CLANNAD 古河早苗の一人旅~新しいパンを求めて~
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/21 20:01

夏の日の夜。お盆を前にしてだいぶ暑さも和らいできました。夜風も涼しいと感じる時が増えてきましたし、秋はもうすぐのようです。

「ありがとうございました~。」

古河パン店にいらっしゃるお客様を笑顔で送り出します。さて、もう八時ですか。そろそろ店じまいの時間のようですね。

「おい、早苗。店閉めるんならこれ貼っとけ。」

夫の秋生さんが貼り紙を作って持ってきてくれました。二人で店の後片付けをして、最後にシャッターを閉めて紙を貼ります。

『まことに勝手ながら明日から五日間お盆休みをいただきます。週明けから営業を再開します。』

このあたりは観光客がいるわけでもないので、お盆シーズンになると地方に帰省する人が増えて商売になりません。少量作って売れば利益を出せないことはないのですが、それだったらと毎年長期休暇にしています。

「これでよし。」

風で落ちたりしないようにしっかりとガムテープで固定し、家の中に戻ります。これで仕事はおしまい。水曜から日曜までお休みをいただけます。





「秋生さんはお盆お休みの間、何か予定があるんですか?」

お茶の間で麦茶をいただきながら、主人の秋生さんに聞いてみました。

「そうだな~。ちょっと実家の親父とお袋に顔を出しに行くくらいだな。渚は夏期講習があるから、どっか遊びに連れて行ってやることもできねえし。暇だな。」

「そうですか。古河塾も来週の火曜日までお休みですから、私も暇です。」

「なら、二人でどっか行くか?」

「いえ、実はそのことで少しお話があります。」

私は姿勢を正して秋生さんに向き直りました。

「なんだ、改まって。言ってみな。」

「実は、明日から五日間、お暇をいただきたいんです。」

「おう、お前も実家に帰りたいのか。悪いが、俺はお前の両親が苦手だ。だから、一人で行ってくれ。」

「いいえ、違います。それはもう済ませてしまいました。」

「そうなのか?なら、なんの理由だ。」

「パンを研究する一人旅に出たいんです。」

「はっ?」

「ですから、パンのアイディア探しに行きたいんです。最近秋生さんがパンのアイディアで困っているようですし、新しい分野を開拓したいんです。」

秋生さんは頭を抱えて険しい顔をしています。やっぱりこんな理由で一人旅というのはおかしいんでしょうか?

「(早苗のことだ。前同じことがあった時のように必ず創作パンのための余計な知恵も付けてくるはず。絶対阻止せねば。)」

「何か言いました?」

「早苗よ。俺はなあ、お前の手料理がないと生きていられない体になってるんだ。だから、行くな。」

「実家に帰るんだったら好きに行って来いって言ったばかりじゃないですか。それに、私がいなくても渚がご飯を作ってくれます。」

「進学校だから盆でも夏期講習がある。渚と小僧が学校に行っている間は俺が家で一人になっちまって寂しい。だから、行くな。」

「普段から家の仕事をしないで遊んで回っているじゃありませんか。一人でふらふら出かけたり、バットを持って遊びに行ったり。」

「他にはそうだなあ、あ~、う~、え~、とりあえず行くな。」

どうやら秋生さんは私がいないと寂しいから引き留めているだけのようです。

「お母さん、旅に出るんですか?」

お茶の間に入ってきて話に加わったのは、娘の渚とその彼氏の岡崎朋也さんです。

「はい。パンのアイディア探しに行くんです。」

「なんすか、これ?」

岡崎さんが私の持っていた一枚の雑誌を覗き込むように見ています。内容に興味を持ってくれているのは嬉しいことです。

「パン屋巡りの本ですか。早苗さん、これを食べに?」

「口コミで評判だったり、テレビや新聞で紹介されたことのあるパン屋さんに行って、秋生さんのパン作りの参考になればと思って。」

「お母さん、えらいです。ぜひ行ってきてください。お父さんのお世話は私がします。」

「俺もできることがあればやります。あと、オッサンが悪さをしたら厳しくしておきますから。」

「よろしくお願いしますね。私も毎日一回は家に連絡を入れるようにしますから。」

「渚~、小僧~。俺をいじめるようなことを言わないでくれ~。」

秋生さんは珍しく泣きながら弱音を吐いています。まったく、この歳になっても少し私と離れるだけで寂しいなんて、まだまだ子供ですね。

「では、私は自分の部屋で着替えや持っていくものの準備をしますね。」

そう言って、私は立ち上がりました。机に突っ伏して嗚咽しだす秋生さんを残して。





次の日の朝。日が昇る前に起き、身支度をして家を出ます。朝早くなので家族は起こさないつもりでしたが、みんなで見送ってくれました。

「朝一番の飛行機で行くんだろ?」

「はい。北海道まで行きます。そこで昔の友人に会ってきます。後は気分次第で電車やバスを乗り継いで東京に戻ってくるつもりです。」

急に思いついた旅行ですし、お盆のこの時期なので飛行機のチケットが取れるか心配でしたが、知り合いにコネで安く譲ってもらえました。そのかわり、始発の飛行機ですが。

「まあ、お前ならなんも心配はないだろうし、気をつけて行ってこいや。」

秋生さんは渋い顔をしながらも、あきらめがついたのか餞別の言葉をくれました。

「お土産たくさん買ってきますね。」

「いっぱいお勉強が出来るといいですね、お母さん。」

「頑張ります。」

「元気で戻ってきてください、早苗さん。」

「はい。任せてください。」

腕時計の時間を見ると、そろそろ時間のようです。

「それでは、行ってきます。」

この旅で私は何と出会い、何を学ぶことができるのでしょうか。とても楽しみです。私の足取りは自然と軽くなりました。



続く



[22067] 水曜日 Part1
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/23 00:54

千歳空港で飛行機を降り、札幌に着いた頃には午前10時を回っていました。駅前の商店街のお店も開き始める時間です。

「(このパン屋のジャムパンは雑誌によれば三星評価。ジャムの水分は古河パンより一割ほど少なめ。)」

「(この店のチョココロネはパンの巻加減が古河パンより大きく、ボリュームがある。)」

「(食パンにもちもち感がある。お店の人の話を元にして考えると、秋生さんが作る時よりも成型する時の力を四分の一程度弱めている、と。)」

パン屋さんをいくつか回ってみて、気づいたことを私なりにまとめてノートに書き留めていきます。ただの観光旅行ではありませんから、しっかりお勉強しませんと。

「わざわざ東京から勉強に来るなんて偉いね~。うちの旦那なんてゴロゴロしてばっかりだよ。」

お店の人との会話も欠かしてはいけません。こういう他愛もない会話の中に役立つヒントがあったりしますから。

「私の主人は○○の水を使っていますが、そちらでは何を使ってらっしゃるんですか?」

「うちは○?○がいいってことでそっちを使ってるよ。」

こういうことをどんどんノートに書き足していき、今後のパン作りに役立てていければいいんですが。





十軒ほどお店を回ったところで十二時を回りました。友人との約束は三時ですし、まだ時間があるうちにお昼ごはんを食べたほうがいいでしょう。

「あれは・・・ワグナリア・・・ですか。洒落ていてよさそうなお店ですね。あそこでお昼をいただきましょう。」

見た目は赤い屋根の平屋建て、普通のファミリーレストランのようですが、なんとなく親しみやすさを感じさせてくれます。

「いらっしゃいませ~。一名様ですか?」

自動ドアをくぐると、メガネをかけたバイトの男の子でしょうか、笑顔で出迎えてくれました。

「はい。一名です。」

「禁煙席と喫煙席、どちらになさいますか?」

「私は煙草は吸いませんので、禁煙席でお願いします。」

「かしこまりました。では、こちらにどうぞ。」

窓側の二人掛けの席に案内されました。パンばかりで少し飽きが来ていたので、何か別のものを・・・。

「では、このパスタランチセットを一つお願いします。」

「ソフトドリンクがつきますが、何になさいますか?」

「アイスティーで。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

バイトの子は端末を操作して下がっていきました。料理を待っている間、暇なのであたりを見てみます。店内は清潔、掃除は行き届いているようですね。店員の態度もバッチリ・・・・

「(ガシャガシャガシャッ)」

厨房からお皿がたくさん落ちて割る音がしました。なんでしょう?

「山田~!!」

「ご、ごめんなさい~!!」

なんだか裏では騒がしいようですね。まあ、大量にお皿を割ったら怒られるのは当然でしょうが。

「パスタランチセットとドリンクをお持ちしました~。」

今度は先ほどとは違う女の店員さんがご飯を持ってきてくれました。えっと、腰に差している日本刀はなんでしょう?

「温かいうちにどうぞ。」

「ありがとうございます。」

その腰のものは何か聞きたいと思いましたが、プレイベートに関わるかもしれないのでやめておきましょう。





食事を食べ終えてお会計へ。どうやらレジを打っているのは店長のようです。

「780円になります。」

「これでお願いします。」

800円を払って20円のお釣りを受け取り、外へ出ようとすると後ろで声が。

「なんだ音尾。何か用か?」

「白藤店長、仕事のことで話があるんだ。ちょっと奥へ・・・。」

あれ、この声どこかで聞き覚えが・・・。振り返ってみると、旧知のあの人が。

「音尾さん?ファミリーレストランでマネージャをされている音尾兵吾さんですよね?」

「おや、まさか古河パンの奥さん?いや~、奇遇ですね~。その節はお世話になりまして。」



そんなこんなで奥に通されてしまいました。約束の時間まで少しあるのでいいのですが。

「お茶をどうぞ。」

左前にヘアピンをつけた女の子のバイトさんがお茶を持ってきてくれました。

「じーっ。」

他には部屋の入口から頭だけを出してこちらを見ている女の子が二人います。誰でしょうか?

「何やってるんだい、種島さん、山田さん。入っておいで。」

「バイトの子ですか?」

「ええ、まあ。盆休みで人手が欲しいので学生の若い子たちに入ってもらってるんですよ。こっちが種島ぽぷらさん、こっちが山田葵さん、でこっちの子が伊波まひるさんです。」

音尾さんが一人ひとり紹介してくれます。小さいポニーテールの子が種島さん、長い黒髪の子が山田さん、ショートカットの子が伊波さん。

「あの、音尾さん。この人、一体誰なんですか?私や種島さんや山田さんに分かるように説明してください。」

「いや~、古河さんは僕の恩人でね。妻を探して旅をしている時に寄ったパン屋の奥さんなんだ。」

「なんでパン屋の奥さんが恩人なんですか?」

「その店でアンパンを買ったんだけどね、見ていたら妻の顔を思い出してしまってね。」

初夏の頃の話です。夕方お店にいらしたこの方が、店の商品のアンパンを見ていきなり泣き出してしまったのです。それで色々話をさせていただいた仲でした。

「音尾さんの奥さんって正体はアンパンマンだったんですか!?」

「葵ちゃん、つっこむところはそこじゃないよ!」

山田さんに種島さんがつっこみを入れました。

「僕に同情した古河さんとご主人に話を聞いてもらって妻の写真を見せたら、近くの商店街で見たって言われてね。結局妻に会えはしなかったんだけど、恩に感じてるんだ。」



「皆さん、休憩室で何をしているんですか?」

話しながら先程のメガネをかけた男のバイトさんが入ってきました。

「イヤ~、男~!!」

伊波さんのパンチで男のバイトさんが吹き飛んでいきました。秋生さんに匹敵する腕力かもしれません。

「かたなし君、大丈夫!?」

「小鳥遊君、ごめんなさ~い!!」

しばらくして落ち着いてから事情説明。伊波さんは男性恐怖症で、今まで音尾さんを我慢して鬱屈していたエネルギーが小鳥遊さんにいってしまったようです。

「なるほど。古河さんは音尾さんの恩人で、今はパンのアイディア探しに出ているんですね?」

頬をさすりながらもあの攻撃から立ち直る小鳥遊さんの体力は凄まじいものがあるようです。

「はい。何かアイディアとかありませんか?最近の若い子たちのアイディアで新しいパンを作ってみたいと思います。」

「そうですね~。なら、ミニパンなんてどうでしょう?普通の大きさのパンを凝縮して小さくてかわいい感じを出すんです。」

「山田、水戸納豆をわらの袋ごと入れた水戸納豆パンが食べたいです。」

「胸が大きくなるように誰かのおっぱいを型どった巨大おっぱいパン、とか・・・。」

「なら、私は身長が大きくなるように願をかけたポプラパンがいいと思います!それを毎日食べて、古河さんのような立派な大人になります!」

この店のバイトさんたちは独創的なアイディアをお持ちのようです。とりあえずメモせねば・・・

「ああ、小鳥遊君。白藤店長と轟さんと佐藤君と相馬君を呼んできてもらえるかな?」

音尾さんは頭を抱えています。何かあったのでしょうか?

「分かりました。ホールに戻るついでに呼んできます。」



というわけで、メンバー交代で今度は先程よりは年上の方々になりました。

「・・・と、古河さんとの縁はこういうわけなんだ。それで、何か恩返しができればということで、みんな彼女のパン作りの参考になるアイディアを出してくれないかな?」

四人はしばし熟考。考えをまとめているようです。

「私はこの世にパフェ以上の食べ物はないと思っている。だから、パフェをパンで包めば最高のパンになるんじゃないか?」

「さすがです、杏子さん。私もそれなら世界最高のパンになると思います。」

「アホか、お前ら。そういう変なアイディアに走って成功したやつなんて見たこと無いぞ。基本に忠実に水やら材料の分量やらを工夫して普通のパンだけ作ればいいんだ。」

佐藤さんが白藤さんと轟さんにチクリと小言を言っています。なぜでしょう?私は普通にいいアイディアだと思いますが。

「古河さんは今までにどんな創作パンを作ってきたんですか?」

相馬さんに聞かれたので、例として思い出したものをいくつか挙げてみました。おせんべいパン、たこさんパン、レインボーパン、などなど。なぜか聞いている皆さんの顔色が変わっていきます。

「(おもしろそう・・・)それは他の人には真似できないアイディアですね。なら、こういうのはどうです?もうすぐ秋ですから、季節感を出して旬のキノコや魚を使ってみては?」

「なるほど。今までそういうのをパンに取り入れたことはありませんが、面白い組み合わせかもしれませんね。」

生の秋刀魚をパンで包んで焼いたり、山型にこねたパン生地にしいたけの山を作って焼いたり、色々と工夫のしようがあるかもしれません。

「(おい、相馬。この人、多分本当にやるぞ。そして犠牲者が必ず出る。)」

「(あはは、人聞きが悪いなあ、佐藤君。成功する可能性だってゼロじゃないよ。俺は失敗の確率の方が高いと思うけど。)」






楽しくおしゃべりしているうちに一時半を回ってしまいました。秋子さんの家に行くにはもうここを出ないといけません。

「では、音尾さん。長くいさせてもらって、その上パンのアイディアまで頂いてありがとうございます。」

「いやいや、こちらこそわざわざ引き留めてしまって申し訳ありません。少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。(多分無理だと思うけど)」

「それと、このレストランのお食事、美味しかったですよ。」

「ありがとうございます。」

「今度うちにまた遊びに来てください。今度は奥さんを連れて。」

「はは、いつになるか分かりませんが、善処します。」

店を出る時に山田さんが新しいお姉さんになってくれとせがんできましたが、小鳥遊さんのおかげで事なきを得ました。

さて、水瀬家にお邪魔するのももう何年ぶりになるでしょうか。早く目的地行きのバスに乗らないと・・・・。



続く



[22067] 水曜日 Part2
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/24 21:47

だいぶこのあたりも街並みが変わりましたね。前来た時とは様変わりしています。

「この道を曲がってまっすぐ・・・ありました。」

表札に水瀬と書いてあります。この家は以前と同じ。前に来たときは冬でしたが、今回は夏なので雪はありません。

「は~い!」

チャイムを押すと、玄関の扉が開きました。

「古河のおばさま、お久しぶりです。」

「名雪ちゃん、ですよね?随分と大きくなりましたね。秋子さんはいらっしゃる?」

「はい。今お茶の用意をしていますよ。さあ、上がってください。」

「失礼します。」

以前と変わらない玄関。以前と変わらない廊下。変わったのは名雪ちゃんだけ。渚と同い年なので、今年で十九。今は大学で陸上部の期待の新人になっていると聞いています。

「お母さん、祐一、あゆちゃん。おばさまがいらしたよ~。」

リビングには秋子さんと・・・・えっと・・・・。

「もしかして、祐一君ですか?」

「お久しぶりです。十年も会っていないのに分かるんですね。」

「名雪ちゃんが祐一って言いましたからね。そちらの可愛いお嬢さんは?」

「ボク、月宮あゆっていいます。えっと・・・・祐一君の彼女です。秋子さんと名雪さんにはいつもお世話になっているんです。」

「そうなんですか。もう祐一君もガールフレンドを持つ歳になりましたか。」

月日が経つのは早いものです。この前までこんなに小さいと思っていた祐一君が秋生さんより大きくなって、彼女まで作っているなんて。

「名雪ちゃん、振られちゃいましたね。」

「あはは、その話はなしですよ、おばさま。」



「でも、本当に久しぶりですね。早苗さんと会うのはもう五年ぶりくらいでしょうか。」

「そうですね。秋子さんが古河パンに来てくださった時、渚は中学二年生でしたからね。」

秋子さんがおいしいお茶を入れて下さり、クッキーと一緒に頂きます。相変わらず料理の腕は天才的ですね。

「ご主人と渚ちゃんはお元気ですか?渚ちゃん、体が弱くて心配していたんですが。」

「はい。二人とも元気です。最近、渚にもボーイフレンドができて、今うちで一緒に暮らしているんですよ。」

「うわっ、それって同棲ですよね?都会ってそんなに進んでるんですか?」

名雪ちゃんが目を丸くして驚いています。家は都会じゃありませんし、岡崎さんが滞在しているのも家庭の事情があってのことですし・・・。

「ところで、祐一君とあゆさんはどんなお付き合いをしているんですか?」

無理やり話を変えてみます。ところが、二人は顔を赤くしてしまいました。

「キ、キス、とか・・・・ハグ、とか・・・。色々だよ、うぐぅ・・・。」

ああ、こちらの方が進んでいますね。渚と岡崎さんはまだ手もろくに繋げないというのに。



「早苗さん。甘くないジャムを作ってみたんですけど、いかがですか?」

「はい。いただきます。」

秋子さんと会う時にいただく恒例のジャム。今回はどんな味がするんでしょう?

「今回はあまり自信がないんですけど。どうぞ。」

秋子さんがロールパンにジャムを塗って渡してくれました。いつも不思議な色をしていますが、今回もそれは同じです。

「モグモグ・・・・」

相変わらず独創的な味をしていますね。ですが、その中にも洗練した食感と香りがあり、材料が何かなどという無粋な問いを跳ね返すいくつもの味わいがあります。

「とても美味しいですよ、秋子さん。」

「ありがとうございます。」

なぜか名雪ちゃんと祐一君とあゆさんが顔を真っ青にしています。

「どうしたんですか、三人とも。顔色が悪いですよ?」

「ちょっと冷房が効き過ぎなんじゃないんですかね~。食欲もわかないし。お母さん、ちょっと冷房の温度上げていい?」

「ええ、いいけど。」

なんだか名雪ちゃんの動作もぎこちないです。

「(名雪さんの言ってたこと本当だったんだ・・・。本当に食べちゃったよ・・・。)」

「(ああ。秋子さんの謎ジャムを平然と食える唯一の人らしいからな。)」

祐一君とあゆさんは何を話しているんでしょう?私を珍しいものを見る目で見ていますが。

「早苗さん。よかったら、まだストックがありますので、お一つどうぞ。パン作りの参考になさってください。」

「ありがとうございます。では遠慮無く頂きますね。」

このジャムを使った新商品ですと、何がいいでしょう。この前作ったレインボーパンに混ぜてみるのがいいかもしれません。帰ったら作ってみましょう。

「(お母さんとおばさまがタッグを組んだら、世界を滅ぼせるよ・・・。)」

名雪ちゃんも何やら言っていますが、何を言っているんでしょう?





「いただきま~す!」

晩ご飯は結構豪華な料理にしてくれました。しかも名雪ちゃんと祐一君のお友達も呼んで、盛大です。賑やか好きの秋子さんらしいです。

「早苗さん、この後のご予定はどうなさるおつもり?」

「夜行列車に乗って青森に行こうと思っています。そこでどうしても会わなくてはならない人がいるんです。」

既に連絡はとってあり、了承も得ています。明日の朝九時にあちらに到着する手はずになっています。そうだ、時間もあるし、新作パンのアイディアを聞いてみましょう。

「うぐぅ、ボクはたい焼きをパンにしたらいいんじゃないかな、って思います。」

「う~ん、お母さんの普通のイチゴジャムをジャムパンにすれば結構いけると思うんですけど。あ、でも、百花屋のイチゴサンデーの味でも食べてみたいです。」

あゆさんと名雪ちゃんは自分の好きな料理からアイディアを出してくれました。

「牛丼パン。牛肉とタレの味をしっかり染み込ませれば美味しいはず。」

「あははー。舞は相変わず牛丼が好きだね~。」

舞さんと佐祐理にもヒントを頂きました。最近ではそれと似たようなパンも発売されたと聞きますし、私も挑戦してみるのも悪くはないでしょう。

「私、アイスがあればご飯を何杯でも食べられます。なので、アイスとパンがセットになれば、百個でも食べる自信があります。」

「それじゃただの凍らせたシュークリームじゃない、栞。」

シュークリームとパンでは作り方がまるで違いますよ、香里さん。栞さんのアイディアもとてもいいと思います。

「俺は香里が作ったものならなんでも・・・って、香里!?ちょっと、人の話聞いてる!?」

北川さんは何だか春原さんと同じタイプの人のようで、幸が薄そうです。





夜も遅くなり、そろそろ出発の時間です。玄関で皆さんが見送ってくれました。

「もう行ってしまわれるんですか?」

「そろそろ行かないと列車に乗り遅れてしまいますから。わざわざお食事とお風呂まで頂きまして、ありがとうございました。」

「おばさま、またうちに遊びに来てくださいね。」

「はい。もし機会があれば、今度は逆に古河パンにも遊びに来てください。」

そして家を辞して駅に向かいます。夏とはいえ、北海道の夜はかなり涼しいです。さて、次の目的地の青森までは夜行列車で行きます。

「(岡崎さんには何も言っていませんでしたが、私がやらなければいけないことでしょう。)」

恐らく、娘の彼氏の人生に大きく関わるようなアクションに後々なっていくはずです。自然と私の足取りは緊張のためか重くなっていきました。



続く



[22067] 木曜日 Part1
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/26 08:39

寝台列車には電話もついているので助かります。自宅に一日一回はかける約束でしたからね。

「はい、古河です。」

「その声は渚ですか?お母さんです。」

「あ、お母さんでしたか。今、どこにいるんですか?」

「札幌です。夜行列車に乗って本州に向かいます。そちらは一日どうでしたか?」

「私は朋也君と学校に行って、お父さんは一日子供たちと野球をしていました。」

「・・・・?なんだか後ろが騒がしいですね。」

「お父さんがプロレスごっこを始めて、朋也君が付き合わされています。」

なんだか後ろで人が転がる音とガラスの割れた音がしました。皿が割れちまっただの、早苗に怒られるだの、あんたのせいだの聞こえてきます。

「早く止めに行ってください。私は大丈夫ですから。」

「分かりました。おやすみなさい、お母さん。」

「おやすみなさい、渚。」

そこで受話器を置きました。まったく、しょうのない人たちです。





青森県の竜飛岬。昨日はあの反対側の北海道にいたのかと思うと、随分遠くに来た気がします。さて、目的の場所に行きませんと。この近くのはずですが。

「仲里・・・・手塚・・・・岡崎・・・・ここですね。」

昔の作りの家らしく、私の自宅と比べるとかなり大きいです。その門前に今日お会いする約束をしていた方が立っていらっしゃいました。

「古河早苗さんですね?」

「はい。岡崎史乃さんですね?」

「遠くからお越しでさぞ疲れたことでしょう。大したおもてなしもできませんが、どうぞお上がり下さい。」

岡崎史乃さん。朋也さんのお祖母様です。朋也さんには内密にということで直幸さんからこの実家の場所を聞き出し、こうしてやってきたのです。

「まさか直幸と朋也さんのことで話をしたいという方がいらっしゃるとは思いもよりませんでした。」

「突然押しかけてきて申し訳ありません。ですが、どうしてもあなたとお会いして、お話をさせていただきたかったのです。」

「私もそれは望んでいたところです。家を出てかれこれ十年以上連絡一つ寄越さぬ愚かな息子でしたから。孫の近況も分かりますしね。」

私は客間に通され、そこで私が知る限りの朋也さんと直幸さんのことをお話しました。史乃さんは話をゆっくり理解しながら聞いているようです。

「なるほど。状況はだいたい飲み込めました。直幸と朋也さんがそんなことになっているとは思いもよりませんでした。ですが、明るい光もあるようですね。」

「はい。朋也さんには不肖ながら渚という恋人がいます。恐らく、我々の助けを借りなくても自立していけると思っています。」

「なるほど。では、今しばらくご迷惑をおかけすることになると思いますが、あなたのご家族で朋也さんの助けになってあげてください。」

「もちろん、そのつもりです。」

そこで話を一旦切り、史乃さんがため息をつきました。

「私は愚かな母親です。息子の育て方を間違え、あげくは駆け落ちの末、息子の人生と孫の人生までメチャクチャに変えてしまいました。その上、こうしてここで待っていることしかできない老いぼれです。」

「そんなことはありません。直幸さんは自分を産み育ててくれたあなたに感謝しています。」

「そうでしょうか。あの、古河さん。こんなことをあなたにお願いするのは筋違いなのは分かっていますが、いいでしょうか。」

「はい。なんなりと。」

「その機会が来たら、直幸に実家に帰るように言ってください。大して裕福ではありませんが、老いた息子一人くらい面倒をみるだけの蓄えはあります。」

「その機会というのは?」

「分かりません。ですが、もし朋也さんに子どもができ、親として自立できれば、直幸の親としての使命は終わったと言えるのではないでしょうか。」

「分かりました。胸に留めておきます。」

これでここでの私の役目は果たせました。朋也さんと直幸さんの親子の不仲は他人が踏み入ることができない領域。恐らくは家族である史乃さんの力が不可欠になるはず。その楔を打ち込むというわけです。



その後、史乃さんが駅まで送ってくれました。何もない駅でしたが、見送りの方がいらっしゃるだけで賑やかです。

「これからどこへ行かれるおつもりですか?」

「東北にはもう一人知人がおりますので、そちらへ向かいます。朋也さんの友人の実家があって、その妹さんがぜひ来て欲しいと言っていますので。」

「そうですか。あなたはパンのお勉強も道中なさっているんでしたね。そちらの方も良い結果が得られることを祈っています。」

「ありがとうございます。それでは。」

何かあったらお互いに連絡すること、今日二人があったことは朋也さんには内密にしておくことを約束し、別れました。さて、次の目的地まではだいぶあります。到着は夕方頃でしょうか。

「(向こうに着いたら芽衣ちゃんと一緒にパン屋巡りをすることにしましょう。)」

秋生さんのため、そして私の創作パンのための旅はまだまだ続きます。



続く



[22067] 木曜日 Part2
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/26 15:56

「早苗さ~ん!ここですよ~!」

夕方、電車を降りて駅を出ると、芽衣ちゃんが待っていてくれました。

「お久しぶりです、芽衣ちゃん。」

「お久しぶりって、まだ古河パンに遊びに行ってから一週間くらいしか経ってないじゃないですか。」

そういえば、そうでしたね。この前東京に来たばかりです。

「パン作りの研究なんですよね?だったら、私が少し案内しましょうか。」

「はい。ぜひお願いします。」

このあたりにもパン屋さんはたくさんあります。自分でチェックしていた以外のお店も芽衣ちゃんが紹介してくれて、とても助かります。

「ここのメロンパン、すごく美味しいんですよ~。」

「あの店のソーセージパン、テレビで紹介されたの知ってます?」

「カレーパンっていったら、私はここのしか食べられませんね。」

芽衣ちゃんは社交的でお店の人たちとも仲がよく、いろいろ話も聞けて好都合です。

「はあ~。お腹いっぱいになりましたね。」

「そうですね。でも、芽衣ちゃんは困りませんか?家で夕ごはんがあるでしょう?」

「あれ?言ってませんでしたっけ。うちの両親はお盆旅行で外国に行っていていませんよ?」

というわけで、ご両親の許可もとってあるとのことで、芽衣ちゃんの家にお邪魔することになりました。

「お兄ちゃん、みなさんにご迷惑をおかけしていませんか?」

「心配いりませんよ。お兄さんは皆さんにとってなくてはならない人です。」

「本当にそうだといいんですけどねえ。」



芽衣ちゃんと一緒にお風呂に入りました。よく人とお風呂に入ると、色々と体を触られて困惑してしまいます。

「いいなあ、早苗さん。私も早苗さんみたいにスタイル良くなりたいです。」

「芽衣ちゃんはまだこれから大きくなりますよ。心配はいりません。」

さて、お風呂から出たら今日のパン屋さん巡りで得たデータをまとめないといけません。二日間で結構量も増えてきましたし。

「早苗さん、結構たくさん回ってるんですね。しかも分析が細かい。」

「一応商売でやってますからね。これくらいはやらないと参考にならないんですよ。」

「秋生さん、遊んでいるように見えてパンを焼く仕事はちゃんとやってますもんね。」

秋生さんは昼間は遊んでばかりですが、いつも朝は私より早く起きてパンを焼いてくれますし、夜の仕込みも全部やっています。岡崎さんにはそれでも不真面目に見えるようですが。

「あの、早苗さん?ここに書いてあるこれってなんですか?」

芽衣ちゃんが創作パンのアイディアをまとめたページを見て聞いてくれました。興味を持ってくれてとても嬉しいです。

「私の創作パンのアイディアです。旅先で出会った方たちがいい人で、たくさんヒントをくれたんですよ。」

「そ、そうなんですか。美味しいパンが作れるといいですね。(無理だと思うけど)」

「はい。頑張ります。今度芽衣ちゃんが遊びに来てくれた時に食べさせてあげますね。」

「あはは・・・。楽しみにしています。」

不思議と芽衣ちゃんの声に元気が無いように感じます。もう夜遅いからでしょうか。



「お電話を借りてもいいですか?」

「はい。そこにあるので使ってください。」

古河家の番号をプッシュします。

「はい、古河です。」

「その声は岡崎さんですか?早苗です。こんばんは。」

「どうも。今どこにいるんですか?」

「芽衣ちゃんのおうちに泊めていただくことになりました。」

「芽衣ちゃんの?ああ、春原の実家は東北にあるって聞いたことありましたね。」

「こちらは特に変わったことはありませんでしたが、そちらは何かありましたか?」

「そうですね・・・。春原がまた悪さをして美佐枝さんにプロレス技をかけられていました。今日はサソリ固めです。」

春原さんはまた今日も災難に遭ってしまったようです。杏ちゃんに殴られ、智代ちゃんに蹴られ、その他にも数限り無い攻撃を受けています。

「また明日連絡しますね。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

今日は電車での移動時間が長く、あまりパン屋さんを回ることができませんでした。そのかわり、岡崎さんの今後のためにはなりましたが。明日こそはちゃんとパン屋さんを回ってアイディアを集めましょう。



続く



[22067] 金曜日 Part1
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/27 17:04
「では、そろそろ行きますね、芽衣ちゃん。」

朝食を食べ終えた後、身支度をして春原家の玄関を出ました。芽衣ちゃんが見送ってくれます。

「あの、早苗さん。もしよかったら、これ。」

芽衣ちゃんから一枚の紙を受け取りました。地図のようです。

「これは?」

「私のペンフレンドの家が喫茶店をやっているんです。もし良ければ、東京までの途中にあるので行ってみてください。すごく美味しいパンもあるんですよ。」

「分かりました。行ってみます。」

よく見てみると、とても有名なお店です。この街だと、他の場所を回ってからのほうが移動の効率がよさそうですし、着くのは午後でしょうか。

「ありがとうございます、芽衣ちゃん。またうちにも遊びに来てくださいね。」





目星をつけて立ち寄った街。このあたりもパンが豊富で参考になります。

「バターロールのバターを塩味を抑えめにしたものに変えてみるのも悪くはなし、と。」

こうして秋生さんのために少しでも情報を集めます。もう七、八軒は回ったでしょうか。

「さて、と。この辺でお昼にしましょうか。」

パンばかりで胃がもたれるので、お昼は軽いものにしておきましょう。あのお店は・・・喫茶店『ラ・ペディス』ですか。クレープが美味しいと評判のところでしたね。

「いらっしゃいませ。」

私は窓側の席に座り、クレープとコーヒーを頼みました。店内はいたって普通・・・ではありませんでした。

「このブタめ!!よくも抜け抜けとこの店に来られたものです!!成敗します!!」

「待って清水さん!!僕は決して美波にやましいことは・・・・ぎゃああああああああっ。」

「マイドーーーーオーーーーターーーーッ!!」

「ちょっと、三人ともやめなさい。他のお客さんの迷惑でしょっ!?」

この店のマスターらしき男性と高校生らしき三人が取っ組み合いの喧嘩をしています。

「あの、あれは一体?」

クレープとコーヒーを持ってきて下さった店の奥様に聞いてみました。

「ああ、あれはいつものことです。放っておけばじきに収まりますのでお気になさらないでください。」

とはいっても、フォークやナイフが乱れ飛んでいます。しかも一人の男の子にばかり全ての攻撃が当たっています。止めに行った方が良さそうですね。

「皆さん、喧嘩はよくありませんよ。他のお客様にも迷惑です。平和に話し合いましょう。」

まずは殴り合いをやめさせます。私の突然の出現に面食らったのか、おとなしく言うことを聞いてくれました。

「このブタが大好きなお姉さまと美春の目の前でいちゃつくのが悪いんです。」

「ウチはアキに脅しを・・・頼んだらクレープおごってくれるっていうから。」

「僕は何にも悪くないんですよ~。」

「我が娘・美春を誑かすものを地獄にたたき落とそうとしたまでです。」

つまり、ポニーテールの女の子をめぐっての三角関係と、それを快く思わない父親との二重の喧嘩のようです。なんだか変ですが。

「喧嘩の原因はなんですか?とにもかくにも暴力はよくありませんよ。」

私は厳しく叱ったりはせずに、優しく諭すようにしています。喧嘩中で興奮している相手にはその方が効果的です。

「むう~、今日のところはこの奥様に免じて殺しは勘弁してあげましょう。命拾いしましたね、吉井明久。」

「ねえ、ちょっと清水さん!?今殺しって言ったよね!?これって殺人未遂だよね!?」

「アキは黙っていなさい。話がまたこじれるから。」

アキと呼ばれた男の子がまた殴られました。なんだかまた春原さんと同じタイプの男の子に出会ってしまったようです。



そんなこんなでお店を出て、三人で商店街を歩きます。

「(巨乳のポニーテール・・・・。アキの一番好みのタイプじゃない!!)」

ポニーテールの女の子・・・島田美波さんといいましたか。彼女はなぜか私を見ながら不機嫌な顔をしています。もしかしてヤキモチを焼いているのでしょうか?かわいいですね。

「島田さんは吉井さんのこと、好きなんですか?」

「へっ!?な、なんでいきなりそんなことを?」

「だって、これってデートじゃないですか。二人でクレープを食べに行っていたんでしょう?」

「ウ、ウチは別にそんな・・・。ただの高校の友達です。あと都合のいい飼い犬。」

「待って、美波。僕って扱いは犬と同じだったの!?」

「うるさいわね。ゴキブリとかハエとか言わないだけましだと思いなさい。」

「僕って元々はそうい評価だったの!?」

あらあら、島田さんは素直じゃありませんね。微笑ましいことです。

「お~い、明久!」

後ろから声が近づいてきます。吉井さんを呼んでいるようです。

「あ、秀吉。こんなところで会うなんて奇遇だね。」

「演劇部のトレーニングでジョギングをしておっての。んっ?そちらのご婦人は誰じゃ?」

吉井さんが事情を説明して私を紹介してくれました。

「ご紹介に預かった古河早苗です。可愛らしい男の子ですね。あっ、すみません。男の子にかわいいだなんて・・・。」

「いや、男の子と分かって頂けただけで光栄じゃ!この木下秀吉、今まででこんなに嬉しく思ったことはないぞい。」

なぜか握手を求められてすごく喜ばれてしまいました。よく分かりません。




途中で三人と別れ、駅前に向かいます。それにしても、この街は変わった方が多いですね。全身を縛られて女の子に引きずられている男の子や常に鼻血を噴出させながら写真撮影をしている男の子がいます。

「えっと、あと冷やし中華に必要なのはハバネロといちご牛乳ですか・・・。」

紙を見ながら独り言をつぶやく少女とすれ違いました。一体、彼女は何を作るつもりなんでしょう?

「あの、そこのお嬢さん。」

「はい、私ですか?」

ピンク色の髪をした女の子を呼び止めてなんの買い物をしているのか聞いてみました。

「今日は暑いので、冷やし中華です。私のクラスメイトの男の子が今日は家で一人なので、作りに行ってあげようかと。」

「そうなんですか。でしたら、私がお手伝いしてあげましょうか?」

「でも、見ず知らずの方にそこまでして頂くわけには。」

「構いませんよ。私も少し暇を持て余していたところですから。」

冷やし中華を作るはずなのに、赤ピーマンと豆板醤とコーンポタージュとトマトベースが買い物袋に入っているのは偶然には思えませんから。

「では、お願いします。私、料理があまり得意ではないので助かります。」

得意不得意以前の問題と思いますが、触れないでおきましょう。姫路瑞希と名乗った女の子と、近くのスーパーで麺、きゅうり、卵、もやし、焼豚を一緒に買いました。

「ありがとうございます、古河さん。これで明久君・・・高校のクラスメイトなんですけど、彼のために美味しい冷やし中華が作れそうです。」

「明久君?もしかして、その方の名字って吉井って言いません?」

明久という名前はそうざらにある名前はありませんし、多分同一人物でしょう。

「明久君を知っているんですか?もしかして明久君のお母さん!?」

「違いますよ。私も先程ラ・ペディスという喫茶店で知り合ったばかりです。」

「ラ・ペディス・・・・。では、美波ちゃんと一緒だったんですね。」

「島田さんのことですね?はい。あの子もあなたと同じくらい可愛らしくていい子ですね。」

「こうしてはいられません・・・。すぐに明久君の家に行かなくては。あの、これ良ければどうぞ。お礼です。では、失礼します!」

姫路さんはお辞儀をして慌てだしく駆けていきました。ふふ、好きな男の子を二人で取り合っているんですか。若い子たちは青春を謳歌できて羨ましいですね。

「これは・・・・。」

姫路さんに渡されたのはパソコンで文書をまとめてホッチキスで止めたらしい一冊のノート。中には様々なパンの作り方が書いてあります。私がパン作りの旅をしていると言ったからくれたのでしょうか。

「(彼女には悪いですが、これは封印したほうがよさそうですね。)」

さすがにアイディアパンを作るためでも、クロロ酢酸や濃硫酸は使えません。もし私が助言しなければ、彼女はどんな冷やし中華を作っていたのでしょうか。

「さてと、芽衣ちゃんが教えてくれた次の街に行きましょう。」

私は今度こそ駅に入り、ちょうどやってきた電車に飛び乗りました。



続く



[22067] 金曜日 Part2
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/29 01:22
海鳴市。海岸沿いに広がる静かな街です。海と山に囲まれ、中心街を抜ければ豊かな自然が広がっています。

「藤見町・・・・。これなら歩いていける距離ですね。」

芽衣ちゃんのペンフレンドがいるお店は全国に名を轟かせる名店です。喫茶店兼洋菓子店『翠屋』は、厳選された材料を腕を凝らして作り上げた数々のお菓子が並んでいます。

「駅を出て大通りを東・・・。」

ああ、見えてきました。あの雑誌で見た建物。あたりに甘い匂いが広がっています。店を扉を開いて中に入ると、その匂いはさらに強くなりました。

「いらっしゃいませ~。」

店のご主人と奥様が中にいらっしゃいました。芽衣ちゃんから紹介を受けた旨を伝えると、上に上がってペンフレンドの女の子を呼んできてくれました。

「芽衣ちゃんのお知り合いなんですか?」

「古河早苗と申します。」

簡単に芽衣ちゃんとの関係とこの店に来た経緯を説明しました。

「私は高町なのはといいます。14歳の中学三年生です。芽衣ちゃんとは十年来の付き合いなんですよ。」

サイドポニーの彼女は芽衣ちゃんに似てとても笑顔の素敵な女の子です。いいお友達のようですね。

「あの、もうすぐ私の友達が来て一緒にお菓子を食べるんで、良かったらご一緒にいかがですか?」

「そうですね。それでは、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。」

若い子たちとの会話はいろいろ新しい刺激があって良いものですからね。




高町なのはさん、フェイト・T・ハラオウンさん、八神はやてさん、アリサ・バニングスさん、月村すずかさん。私だけ一人おばさんですね。

「わざわざパン屋さん巡りのために東日本を縦断してるんですか!?」

「はい、そうですよ、フェイトさん。お店を開いているとなかなかお休みが取れないので、行ける時に一気に行ってしまったほうがいいんです。」

本当は去年の夏に行きたかったんですが、渚が体調不良でお休みをしていて無理でした。ですが、今年は体調も今のところいいですし、岡崎さんもいますし。

「でも、パンって結構高カロリーじゃありません?その、太ったりしませんか?」

「大丈夫ですよ、アリサさん。私、極端な量でなければ太らない体質なので。」

それにしても、このケーキも飲み物も美味しいですね。実を言えば昨日芽衣ちゃんの家に泊まったおかげでお金に余裕があるので、少し多めに食べても財布の中身が大丈夫だったりします。

「私、趣味で新商品も作っているので、年頃の女の子の好みが分かると助かります。」

「う~ん、残念ながら私はお役に立てそうにありませんね。運動のことならお役に立てるんですが。」

すずかさんは見た目の穏やかさに似合わず、スポーツ万能少女だそうです。話を聞く限り、智代ちゃんと互角かもしれません。

「そうやな~、うちのシャマルに聞けば、色々奇抜なアイディアを思いついてくれるかもしれへん。ちょっと電話してみますわ。」

はやてさんはそう言って携帯電話でご自宅に電話しました。なんでも、親戚の人で一緒に暮らしているけど、ドジっ子さんなんだそうです。

「・・・・・。あかん、シャマル。その案は没や。」

はやてさんは携帯のスイッチを切って私に申し訳なさそうな顔をしました。

「すんません、古河さん。電話してみましたけど、なんもいい案がないそうですわ。」

とても人様に言える内容の案ではなかったらしいです。

「うちのお母さんはケーキが専門だし、お父さんは洋食が専門なので、あんまりパンのことは詳しくないですね。」

「うちの使用人にもパンが専門の人はいないし~。」

皆さん、必死に考えてくれていますが、やはりそう簡単にはいい素材はありませんよね。まあ、こんなにおいしいお菓子を毎日食べていれば、それで満足でしょうし。





翠屋の扉が開いて、カランコロンと音が鳴りました。中にご婦人が一人入ってきます。

「いらっしゃいませ~。あら、リンディさん。」

「桃子さん、モンブランといつもので。」

「はい、分かりました。」

桃子さんとリンディさんと呼ばれた方が短い会話で要件を終えました。常連さんのようです。

「あら、みんな、ここでお茶していたのね。」

「か、母さん!?今日は仕事じゃ!?」

フェイトさんのお母さんのようです。あまり顔が似てはいないようですが、父親似なのでしょうか?

「あら、そちらの方はお客様?私にも紹介してくれる?」

お互いに自己紹介。どうやらリンディさんのほうがうちの娘よりも年上のお子さんがいらっしゃるそうです。

「うちの上の子なんて、生真面目で全部自分のことは自分でやっちゃうから可愛げがなくって。早苗さんのお子さんの方が可愛らしそうで、羨ましいですわ。」

「いいえ、子供に手がかからないのは育て方が良かった証拠です。体が弱くて手のかかる子になってしまったのは、親のせいです。」

母親同士の会話だとどうしても子育てや子供の学校の話になってしまうものです。他の女の子たちのためにも軌道修正を、と考えていると、桃子さんがケーキとお茶をちょうど持ってきてくれました。

「はい、リンディさん。」

「ありがとう、桃子さん。」

美味しそうなモンブランケーキと、グリーンティーのようです。しかし、その横に置いてある角砂糖と大量のミルクはなんでしょう?

「はあ、これがあると落ち着くわ~。」

リンディさんは角砂糖をつまみ上げると、グリーンティーの中に入れました。

「あの、それグリーンティーですよね?角砂糖を入れるんですか?」

「ええ。美味しいんですよ。」

角砂糖四つを入れ、その後にミルクの入ったポットをかたむけ、全部流しいれてしまいました。

「はあ~、甘くて美味しい~。」

他の五人はげっそりした顔をしています。

「母さん、人前でそういう飲み方はあれほどやめてくださいと言ってるじゃないですか!!」

「なんでよ、美味しいんだからいいじゃない。」

「美味しくてもなんでも、私は恥ずかしいんです!!」

「何よ、この味が変わらないなんて子供ね。」

「子供は母さんの方です!!」

怒るフェイトさんと美味しいと言い張るリンディさん。そんなに美味しいんでしょうか?

「あの、すみません。私も同じものを注文してもいいですか?」

桃子さんに注文したんですが、驚かれてしまいました。

「へっ?あ、あの、グリーンティーリンディスペシャルをですか?」

「はい。なんだか美味しそうに飲むリンディさんを見て私も飲みたくなってきました。」

「そ、そうですか・・・。それでは今すぐお持ちします。この分のお代は結構ですから。」

お代は払うと言っても、どうしても奢らせてくれというのでお言葉に甘えることにしました。そんなに危険なものなんでしょうか?

「あの、無理しない方がいいですよ?過去に挑戦してダウンした人がたくさんいますから。」

「アリサちゃんの言うとおりです。ダメだと思ったら吐き出してくださいね。」

「厨房からボールを持ってきました。危険だと思ったらここに捨ててください。」

皆さんが私を心配そうに気遣ってくれます。

「では、いきます。」

運ばれてきたグリーンティーに角砂糖とミルクをよくかき混ぜました。ゆっくりとカップに口を近づけていきます。

「(ゴクリ・・・・)」

口の中に一口含んでみます。お茶の苦い成分を圧倒的に凌駕する砂糖とミルクの甘み。グリーンティーという名称にも関わらず、主従が逆転しています。

「(ゴクリ・・・・)」

でも、味わえばとても不思議な感じのするお茶です。なんだか病みつきになりそうな甘さです。一気に飲み干してしまいました。

「とても美味しいですね、このお茶。」

「そうでしょう?この子たちったら飲まず嫌いで飲んでくれなくって。分かってくれる人がいてくれて嬉しいですわ。」

「リンディさん、茶飲み友達ができてよかったですね・・・。」

なのはさんが拍手をして祝福してくれますが、その笑みがひきつっているのは気のせいでしょうか。





「大変ごちそうになりました。ありがとうございます。」

会がお開きになったので、そろそろ引き際です。リンディさんのおかげでいいアイディアもとれましたし、桃子さんにケーキを美味しく作るコツも少しだけ教えてもらえました。

「またお会いできると嬉しいです。私とフェイトちゃんとはやてちゃんは中学を卒業したら遠くに行かなければいけないんで。」

「海外留学をなさるんですか?」

「ええ、まあ。そんなところです。なので、芽衣ちゃんとの文通も今年いっぱいでお別れになるかと。」

「でも、ずっと帰ってこないわけでもないでしょう?帰ってきた時にでも芽衣ちゃんに連絡してあげてください。」

「はい。もちろんそのつもりです。」

私も古くからの友人が多くいますが、みんな別々の生活を持っています。いつもはばらばらですが、たまにつながりを感じていられるといいものです。

「では、皆さん。またお会いできる日を楽しみにしています。」

翠屋を出ました。さて、今日の宿を探しませんと。ああ、そうそう。古河パンにも電話をしないと、みんなが心配しますし。やることはたくさんありますね。



続く



[22067] 土曜日 Part1
Name: アルファルファ◆f15e0d74 ID:2de55f33
Date: 2010/09/29 21:42

次の日の朝、私はビジネスホテルを出て電車に乗り、降りた駅で路面電車に乗り換えました。そのまま街の中心街まで行きます。

「このあたりのパン屋は・・・・。」

さて、今日もお勉強に出かけましょうか。パン屋さん巡りも四日目。今日も秋生さんに持って帰るネタを探しませんと。

「(コッペパン、ぶどうパン、アンパン。それぞれ私たちとは違う作り方をしています。)」

商売なので、食べれば聞かなくてもある程度材料や成分は分かります。それをさらさらとノートに書いていきます。今日も順調です。

「あら、あんた東京から来たんかい?偉いな。」

「同業者さんがうちの店に来てくれるなんて光栄だね~。」

商売エリアが違うこともあってか、相手も色々と情報を教えてくれます。こちらも分かる範囲であちらの質問にお答えもしてますけど。

「ふう・・・。」

十軒ほど回りました。そろそろ別の町に行きましょうか。そう思って歩いていると、何かを踏みました。見てみると、財布が落ちています。

「桜が丘高校三年・・・。」

勝手ですが中身を見させていただくと、学生証が入っていていました。どうやら近くの学生さんのようです。住所を見ると学校が近くのようですし、届けてあげましょう。



そこら辺を歩いている制服姿の子たちに少し聞いてみました。桜が丘高校ではどうやらお盆の土曜日でも生徒がいるようです。無駄足にならなければいいのですが。

「すみません。ちょっとお尋ねしたんですが・・・。」

学校の昇降口を入ってすぐのところにある警備室で事情を説明しました。

「はい、今日の登校者に・・・来ていますね。部活で音楽準備室にいますね。」

せっかくここまで来たので直接本人に渡したいと思います。警備員さんにお願いして、音楽室まで案内してもらうことになりました。

「こんにちは。」

とても礼儀正しい学校です。すれ違う先生が皆さん丁寧に挨拶をしてくださいます。

「ああ、山中先生。ちょうどよかった。」

階段ですれ違った若い女の先生を警備員さんが呼び止めました。とてもきれいな先生です。

「こちらの方が音楽準備室にご用があっていらしたんですが、今生徒たちはいますか?」

「はい、いますよ。では、私がご案内しますわ。」

「よろしくお願いします。」

山中先生という方にバトンタッチされ、私は階段を上って行きました。

「すみません、わざわざ届けていただいて。」

「いいえ、こちらこそ突然押しかけてすみません。」

ただ、私の経験からすれば、警察に届けた場合はその後の手続が非常に面倒だったと記憶しています。この方が手っ取り早くていいんですよね。



「みんな~、ちょっといいかしら?」

音楽準備室の扉を山中先生が開きました。中には五人の女子生徒が机に座っています。

「さわちゃん?どうしたの?」

「お客様よ。平沢さんに財布を届けに来てくださった方がいるの。」

「えっ!?財布!?ほ、本当だ・・・・。無い!」

平沢さんと呼ばれた子は、自分のポケットに手をやってぺたぺた触っていましたが、財布がないことに気づいたようです。

「はい、これがあなたの財布です。もうなくしたりしたらいけませんよ?」

「ありがとうございます。えっと、お礼の一割、受け取ってください。」

そう言って財布から百円玉を取り出して私にくれました。

「って、唯先輩。まさか、お財布の中に千円しか入ってないんですか?」

「だって~、夏フェスとかお祭りとかでお金使っちゃったから。今月ピンチなんだよ。今のマイナス百円で残り財産が873円。」

「あの、良かったらアイスコーヒー飲んでいってください・・・。」

見かねたブロンドの髪の女の子がそう言ってくださいました。



山中先生が席を外し、六人でアイスコーヒーを飲んでいます。

「冷たくて美味しいですね。コーヒーの淹れ方は私もある程度は知っていますが、あなたはとてもお上手ですね。」

「ありがとうございます、古河さん。」

琴吹さんはお嬢様育ちにも関わらず、そういうのが得意だそうです。

「全く、唯はしょうのない奴だな。財布を落として気づかないなんて。しかも入っていたのがそれっぽちとは。」

「律だって人の事言えないだろ。唯以上にお金の使い方が荒いじゃないか。」

「なんだと~!」

「やめて下さい、先輩方。お客様の前ですよ。」

中野さんが田井中さんと秋山さんの喧嘩を止めています。後輩の子のほうが先輩っぽいですね。ふと、皆さんの目の前に置いてある本に目をやってみました。

「あら、それは宿題ですか?それとそちらは受験問題集?」

「はい、高三ですから。梓だけは二年ですけど。」

「よろしければ、少しお勉強を見て差し上げましょうか。数学なら教えてあげられますよ?」



「あ、こうやって解けばいいんですか。結構簡単なんですね。」

「秋山さんは他の単元はできていますが、積分の問題が少し苦手のようですね。でも、不定積分と定積分をしっかり理解しておけば、その後の他の勉強ももっと楽になりますよ。」

「はい、分かりました。ありがとうございます。」

学力のレベルは秋山さんが一番高く、少し下で琴吹さんのようです。ですが、二人とも十分国立を狙えるレベルにあります。

「あの、この問題はどう解けばいいんですか?」

「落ち着いて考えれば簡単に解けますよ、琴吹さん。ひねってはありますが、公式を応用すれば簡単に分解できます。ほら、こうすれば。」

「古河さん、すごいですね。一体何者なんですか?」

「私は昔、中学校で数学を教えていましたから。」

このくらいの問題までならなんとか対処できますが、最近の大学入試は結構進んでいるんですね。昔の大学入試試験はもっと簡単だったはずです。

「はい、古河さん!三角関数を含む方程式が分かりません!」

「私はベクトルが分かりません!」

どうやら平沢さんと田井中さんには基礎的なことから教えないとだめなようです。

「唯先輩と律先輩は受験生ですよね?」

中野さんが呆れています。ちなみに、同じ数学のテストを解かせたら平沢さんと田井中さんより中野さんの方が恐らく上の点数を取るでしょう。





お昼の十二時のチャイムが終わりました。あまり一度に詰め込みすぎても効果は上がりません。今日はこのへんにしておきましょう。

「ふう~、終わった終わった~。」

「あの、古河さん。お昼はどうなさるおつもりなんですか?」

秋山さんが私を気遣って聞いてくれました。

「そうですね。まだ何も決めていませんでしたね。このあたりにお店はあるんですか?」

「近くのお店はお盆で休みのところが多いですよ。良かったら、私たちパンを買っているんで、食べてください。」

「パンですか?それは助かります。私は家でパン屋をしているので楽しみです。」

北海道から東北を経てこちらまでやってきたお話をしました。皆さん熱心に聞いてくれます。

「へえ~、すごいんですね。私もそんな風に一人旅してみたい~。」

「お前はやめとけ、唯。遠くまで行って道に迷わずに家まで帰れるのか?」

「簡単だよ、りっちゃん。ヒッチハイクだよ。」

「どこが簡単なんだよ、唯・・・。」

さて、そろそろお暇しないといけませんが、その前に・・・。

「私、本来の仕事は別に創作パンを作っています。何か奇抜なアイディアがあったら教えていただけませんか?」

「はいはい!」

「はい、平沢さん。」

「マシュマロ豆乳パンがいいと思います!」

「それはどういうものなんですか?」

平沢さんに詳しく話を聞いてみました。とても面白いアイディアだと思います。帰ったら早速作ってみましょう。





山中先生の車で駅まで送っていただくことになりました。軽音部の皆さんを見送りを受け、軽自動車に乗り込みます。

「さようなら~。」

「またお会いしましょう。」

見えなくなるまで五人は手を振ってくれました。あれ、そういえば、あの子たちは軽音部のはずなのに練習は全然していませんでしたね。受験勉強はともかく、夏休みの宿題や今度野球大会に出る話ばかり。

「あの、山中先生。あの子たちはいつ練習しているんですか?」

「ちゃんとする時はしてますよ。集中力はある子たちですから。追い込まれると実力を発揮するタイプみたいですから。」

それなら大丈夫でしょう。学生生活も部活も、そして受験勉強も。私のこの街での仕事は終わりのようです。次の街へ思いを巡らせましょう。



続く


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