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[21843] 【ネタ】マッスル×マッスル~こんな転生は嫌だ~【テンプレ展開満載】
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/28 21:05
 腹が立つ程に晴れ渡った青空の上で、鬱陶しい陽光がこれでもかとばかりに存在を主張する。
 ジリジリとした熱気が降り注ぎ、道行く人々の水分を容赦なく垂れ流させる。
 ビルの立ち並ぶコンクリートジャングルに風は吹かず、ただひたすらに真夏の猛威を人々に思い知らせ、夏にしかその声を聞かせてくれない夏の虫……セミが耳障りなBGMを添える。
 だが生真面目な日本のサラリーマン達はそれでもいつも通りの明朝出勤をする。

 見渡す限り人、人、人。
 右を見ても左を見ても人が歩いており、皆汗を垂れ流している。
 なんと暑苦しいことか。

 男……山田政人、39歳。
 来年には四十代になり加齢臭の厳しいおっさんの仲間入りをしてしまう、妻子持ち男は思う。
 ああ、何故俺はこんなクソ暑い中出社せねばならんのだ、と。
 今日が休みならばどれだけよかったか、と、この真夏の朝はいつも思う。

 いっそ仮病でも使って欠勤し、扇風機の前で麦茶を飲んでいたい。
 ああ、あのコンビニなど涼しそうだ。
 冷房の効いた図書館で一日本を読んでいるなどどうだろう。
 
 そんな誘惑がいくつも頭を過ぎり、頭を振って打ち消す。
 だが暑さにやられた頭は現実逃避を止めようとはしない。

 そういえば年下の同僚に最近進められた二次創作、というものがあった。
 あまり興味もなく、休憩時間に進められて流し読みした程度だが内容はなんとなく覚えている。
 確か、何の特徴もない現代日本の若者がトラックにはねられてあの世に逝き、神様に漫画の世界に送ってもらう話だった。
 漫画の名前は……確か魔法先生玉葱……だったか?
 いや、魔法生徒会ネギ、だった気もするし魔法少女リリカルネギ、だった気もする。
 まあどちらにせよ幼い頃に見たサリーちゃんやアッコちゃんと似たようなものだろう。
 最近の若者の見る漫画やアニメにはあまり詳しくないが、きっとそうだ。
 もしかしたら娘が詳しいかもしれない。魔法だのなんだのは偏見だが、何と無く女の子の読む本な気がする。
 しかし最近娘は反抗期で口をあまり利いてくれないし、自分が入った後の風呂の湯を捨てる。
 仕事から帰る度に「おかえりー!」と言って抱きついてきた、昔の姿を思い出すと涙が出てくる。
 きっとこんな話をしても聞いてくれないだろう。

 ……話がずれた。

 とにかく、その二次創作とやらで読んだ話は“死んだら新しい人生”というものだった。
 全く羨ましい話だ。
 いっそ自分もこの現実から逃げ出してもう一度人生をやり直せたらどれだけ幸せなことか。

「……何を考えてるんだ、俺は」

 馬鹿馬鹿しい、と苦笑。
 そして政人はいつも通りバス停にまで辿り着き、足を止めた。
 後はバスが来るのを待つだけ。
 そんな、いつも通りの朝。
 だが、変なことを考えていたからだろうか……。

 その日は、いつも通りでは、なかった。



 異変に気付いたのは、大きなクラクションの音が聞こえたときだ。
 見れば前方からトラックが突っ込んできているではないか。
 幸いこのバス停に人はいない。だから被害者は出ない。
 ……自分を除いて!

(……これ、なんていうんだっけ……。
……ああ、そうだ! “てんぷれーと”だ!)

 トラックによって命を終え、そして新たな人生を迎える。
 そうだ、確か同僚に見せられた二次創作であった展開だ。
 同僚が言うにはそれは“テンプレート”というらしい。

(そうか、俺……死ぬのか)

 思えば、ロクな人生ではなかった。
 社会の歯車として働き、国に血税を搾り取られ。
 可愛かった娘はいつの間にか反抗期。楽しみといえば仕事帰りのビールくらい。
 そんな人生。
 ならばここで閉じてしまってもいいじゃないか。
 そんな考えすら浮かんでくる。

 ああ、もし、だ。
 もし、可能ならば……。

 あの二次創作のように、生まれ変わってみたいなあ……などと。





(ふ ざ け る な !!)





 ――そう、思いかけた思考を振り切った。



 自分が死んだら誰が家族を養う!?
 誰が家族を守る!?
 俺は一家の大黒柱だ! 俺はあいつらの夫であり父だ!
 それにまだ、娘の花嫁姿を見ていない!

 こんな所で……死ねるかッ!!



「おおおおッ!」

 それは、覚醒だった。
 死を跳ね除け、無様でも生に縋り付こうとする意志。
 それが彼に、一度限りの奇跡を与えた!

 素早く後ろにステップを踏み、後方に跳躍!
 2メートル程高く飛び上がり、後方宙返り!
 そして後ろにあった建物の壁を蹴り、三角飛び! この時点で5メートルの跳躍!

 直後、轟音。

 トラックがバス停を破壊し、建物に突っ込む。
 だが危険は去っていない。
 トラックが破壊したバス亭の破片。それが政人に飛来した。

(――見える!)

 だが、政人は見付けた。
 一瞬! 一点!!
 己が唯一生存できるスペース、飛来する破片の間にある、人一人がギリギリ無傷で通過できる“安全地帯”!

「はッ!」

 身体を空中で捻り、横回転!
 その一瞬後に破片が政人のいた場所を通過するも、政人は無傷だ。
 彼は見事バス亭の破片を回避してのけたのである。

 だが危険は過ぎ去ってはいない。
 政人の着地地点を狙ったかのように二台目のトラックが突っ込んできている。
 このまま地面に降りれば潰れたトマトの出来上がりだ。

「何のおッ!!」

 だがまたも彼は見付ける。己の生存するべき唯一つの道を。
 それは近くにあった道路標識! それを踏み台に、彼は再度跳躍!
 突っ込んでくるトラックの上を通過し一回転。トラックの後ろへと華麗に着地。

「ホアアアアアッ!」
「ッ!」

 だが今度はトラックから降りてきた男が政人目掛けて走る。その手に握られているのは包丁だ。
 ……これも同僚が話してくれた。
 確かトラックの次くらいに使い古されている死に方。……通り魔!

 ――すなわち、これもテンプレート!

 政人は考える。
 相手は武器を持っているが自分は素手だ。
 今のままでは戦えない。
 何か……何でもいい! 武器が欲しい!

 咄嗟にポケットを探り……見付ける。
 金色に輝く玩具……ゴールデン・ビーダマンを!

 娘がまだ幼かった頃、好んで遊んでいた玩具だ。
 そして父の日に贈ってくれた大事な大事な宝物だ。
 いつからか使わなくなったその玩具を、政人はずっと持ち歩いていた。
 時代遅れ、そして流行後れの古びた玩具。
 だが、娘からもらった、世界でただ一つの掛け替えの無い大切な宝物。
 それは彼にとって最高のお守りだったのだ。

(力を借りるぜビーダマン!)

 腹の部分にビー玉を詰めて通り魔に照準を合わせる。
 そして発射!

 無論、ビー玉に通り魔を撃退する力などない。
 漫画などでは雷だの炎だのが出ているがそれは所詮創作の中での出来事。
 本当にビー玉からそんな超常現象が発生するわけがないのだ。
 もしそんなのがあれば、それはもはや奇跡という他ない。

 そして、政人の生への執念が成したのだろうか。
 ……奇跡は、そこに為った。

「いけええッ!」

 放たれたビー玉。
 それは雷のごときスパークと、この炎天下すら上回る炎の二つを宿し、音速すら上回る速度で通り魔へと襲い掛かる。
 だが通り魔は素早く横にステップ。
 いかに強力な攻撃も当たらなければどうということはない!

 それを見て、政人は……笑った。



 ゴールデンビーダマン。
 その性能の特筆すべき点は、頭部に内臓されているダイアルだ。
 それを回転、調節することでビー玉に回転をかけ、好きな方向へのカーブショットを可能とする!
 そう……この黄金のビーダマンの放つ玉は“曲がる”のだッ!

「ッな、にい!?」

 カーブしたビー玉。
 それは通り魔の包丁に直撃し、その刃を根元から叩き折る。
 あり得ない現象、あり得ない出来事。
 それに通り魔が呆然とした……その、わずか一瞬。
 政人はすでに通り魔の懐にまで飛び込んでいた!

「チェストォォォーッ!!」
「――っ!!?」

 一撃!
 政人の両手から放たれた掌底が通り魔の胸を圧迫した。
 免許取得の際に行ったような気がする心配蘇生法の練習。
 そのときに聞いた気がする。
 心臓マッサージは、普通に息のある人にやると大変危険だということを。
 それだけで逆に殺してしまいかねない危険な凶器だと。
 政人が行ったのはそれだ。
 徒手空拳、そして素人。
 その政人が相手を一撃で戦闘不能に至らしめることのできる“救命技術”!
 その一撃で通り魔は膝を付き、地面に崩れ落ちた。

 ※大変危険ですので悪い子でも決して真似しないで下さい※



(……勝った……)

 政人は周囲を見渡し、そしてようやく自分が助かったことを確信した。
 自分は勝った。
 この連続で身に降りかかった“死亡フラグ”を見事やり過ごしたのだ。
 そして思い出すと同時に身震いする。
 さっきまでの自分はどうかしていた。
 あんな跳躍にあんな動き、そしてあろうことか玩具で刃物に立ち向かうなど……。

 だが、自分は生きている。
 生きてここにいる。
 このくだらない、だが素晴らしいいつも通りを守りきれたのだ。

 そう思えば、ああ、世界は何と美しいのだろう。
 先ほどまで鬱陶しかった暑さも、今は生きている実感となって彼に感動を与えてくれる。
 今まで自分はどこか半分死んでいるような状態で何と無く世界を生きていた。

 だが、今からは……今なら、もう少し生きている喜びを存分にかみ締めて、感謝して生きていける。
 そんな気がする。



「おおっと、早くしないと遅刻だ! へい、タクシー!」



 ああ。
 世界は、こんなにも美しい。



*



「あ、あの野郎……やり過ごしやがった!?」

 先ほど倒されてしまった通り魔が悔しそうに拳を握り、だがすぐにそれをとく。
 その横では最初に突っ込んだトラックの運転手が微笑んでいた。

「ああ、我々の完敗だな。……この生きることに疲れている現代社会で、久しぶりに生きる執念を見た気がするよ」
「しかしどうします、兄貴。これじゃ俺ら閻魔様に怒られちまわあ」

 彼らは……この世界の住人ではなかった。
 人間で言うところのあの世の遣い、魂の回収役だ。
 その日を寿命と定められている人間を適当な方法で殺し、その魂を回収する、死神。
 それが彼らだった。
 昔は骸骨ルックに鎌を持って人を殺していた彼らだが、時代が変われば方法も変わる。
 科学が席巻し神秘と幻想が失われた現代社会。その中で彼らが目をつけた方法が交通事故、及び通り魔による不幸な事件だった。
 彼らは今までそうして数多の人間をあの世へと送り、気が向いた時などには別世界などに転生させたりしている。
 そして今日はあの男、山田政人がターゲットだったのだが……。

「構うもんかい。閻魔などたまには困らせてやればいい」
「兄貴、人が悪いですぜ……」

 今日、死神二人は任務を失敗した。
 山田政人の生への執念に敗北したのだ。
 だが二人の顔にもはや悔しさはない。それどころか、久しぶりに“生きた”人間を見れたことに対する喜びすら浮かんでいた。

 多くの人間が無気力に生きている、この現代社会。
 だがそんな中で時々いるのだ。生に執着し、死の運命をも跳ね除けてしまう者が。
 その姿は何と滑稽で何と無様で、そして何と美しいことか。

 そんな彼らの前で……。





 山田政人はバナナの皮で滑って転んで頭を打った。

 何と呆気ないことか。

 即死だった。





「…………」
「…………」





 山田政人は風になった。

 死神二人が無意識のうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった。

 涙は流さなかったが、無言の男の詩(うた)があった。



 ――奇妙な友情があった。





「……さて、魂を回収するか」
「……兄貴……なんか切ねえっす」










                                        END




















殺人容疑で逮捕!/             \ キリキリ歩く!
 ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄イヤ、オレタチハネ シニガミデシテ  ̄∨ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧       ∧_∧    炎     ∧_∧
 ( ´∀`)      (・∀・ :) (・∀・ :)  (´∀` )
 (つ ☆ つ ―――⊂-⊂―)-⊂-⊂―)―⊂ ☆ ⊂)
  | 警察 |        | | |    | | |    |.警察 |
 (__)_)     (_(__) (_(__)  (_(__)
   ※日本警察に逮捕される死神二人の図※

どうも皆様お久しぶりです。
初めての方ははじめまして。
ちょっと聞いて下さいよ奥さん。最初は転生物を書こうとして、オープニングを書いたんですよ。
で、ありきたりなのもアレなので、ちょっとテンプレートを踏まえつつ、そこから私なりに捻ってみたんです。
そしたらこの通り、意味不明なカオスになってしまいまして、物語の導入としてはとても使い物にならない代物と化してしまいました。
嗚呼、人はこうやって失敗を繰り返して成長していくんですね……。

や、まあ、私は常に失敗し続けていますが。



[21843] こんな能力クロスは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/13 19:02
「生まれました!」
「元気のいい男の子ですよ!」

 目が覚めて、山田政人が最初に聞いた言葉がそれであった。
 視界に映るのは、数人の巨人達だ。
 でかい。軽く自分の5倍はある。
 政人の身長は170センチ。平均的な日本人の身長だ。
 そしてその五倍だから、約8メートルか。

(馬鹿な)

 それはない、と政人は己の考えを否定する。
 そんな巨人がいればとっくにニュースになっているだろう。
 報道規制、という言葉も浮かんだが何かそれもしっくりこない。
 政人は混乱のただ中にありながらも、まず己の置かれている状態を認識することから始めることにした。
 何がなんだかわからない、この状況下。
 まずは不明瞭な部分を明確とし、己の置かれている状況を知らなくてはいけない。

(確かバナナの皮で滑ったな)

 バナナの皮で滑って転んだ。記憶はそこで途切れている。
 きっと自分は気絶したのだろう、と政人は考えた。
 次に現在地。
 白い天井に白い壁、清潔感溢れる部屋だ。
 ここは恐らく病室だろう。
 きっとあの後、親切な誰かが119番してくれたに違いない。
 何はともあれ、まずは起きなければいけない。
 そう思い身体に力を入れたところで、政人は己の異常に気がついた。

(手足が動かない)

 いや、正確にはそれは正しい言い方ではないだろう。
 動くには動く。
 だがそれはほんの少し、力を入れれば指がわずかに動く程度だ。
 圧迫感は感じないから、何かで拘束されているわけではないだろう。

(参ったな、結構重症のようだ。……目も、悪くなってるな)

 視界は霧がかかっているかのように不鮮明だ。
 そういえば自分は頭から地面に激突した。
 もしかすると脳に異常をきたしてしまったのかもしれない。

(暗い材料しか見えてこない……)

 次に気になるのはやはり周囲の巨人達だ。
 常識的に考えればこんな巨人がいるわけがない。
 だが、と政人は思う。
 きっと彼らがおかしいわけではないのだ、と。
 きっとおかしいのは、自分のほうだ。

(本格的に目がイカれちまったらしいな)

 恐らく、これはあくまで想像だが。
 きっと彼らは巨人などではないのだ。
 自分の目が、間違えた情報を脳に送っているのだ。
 いや、脳が間違えた映像を目に送っている、か?
 頭を打っておかしくなってしまった自分が見ている、意味不明な光景。
 それがこれなのだろう。

 参った。
 これは本格的にお先真っ暗である。
 いっそこれならば、まだ死んだほうがよかったくらいだ。
 それなら少なくとも保険金が出て、妻と娘は金を得ることができる。
 しかし生きて半身不随ではそれもできない。

 だが、そんな彼の勘違いは次の言葉によって正されることとなる。

「ほーらケインー、お母さんですよー」

 一人の女性が政人を抱き上げ、母を名乗ったのだ。
 ありえない、と政人は思った。
 たしかに“生まれ変わりたい”などと思ったりはした。
 それは決して否定しない。
 今までの自分に嫌気が指していたし、あの時そう考えたのは紛れもない事実。
 しかし、同時にそれはあり得ないことだと思っていた。
 所詮は物語の中のことだ、と。

 混乱する政人。
 その頭の中に突如声が響いた。

『よお、混乱してるな』
(誰だ?)

 男の声だ。
 静かで、落ち着きが感じられる。
 長い年月を過ごし、人生の酸いも甘いも経験した、そんな声。
 それが政人の脳裏に響いた。

『死神だ。お前に向かって突っ込んだトラックの運転手、と言った方がわかりやすいかな』
(ああ、あのバス亭破壊した……)
『お前も不運だな。せっかく死の運命を乗り越えたのに、不慮の事故で死んじまうなんざ』

 死、という単語に政人は反応した。
 トラックと通り魔はやり過ごしたはずだ。
 だがやはり、バナナの皮で滑って転んで気絶した後に止めを刺されたのだろうか?

(あの後、止めを刺されたのか……念入りだな)
『うんにゃ。お前さんの死因はバナナの皮だよ。俺は何もしちゃいない』
(ジーザス)

 どうやら即死だったようだ。あんまりすぎて泣けてくる。
 これなら止めを刺されて死んだほうがまだ格好がついた。

『まあ、そう悲観するものじゃない。お前さんの転生を祝して俺からスペシャルサプライズだ。
ま、ありきたりなテンプレートで悪いがね』
(サプライズ?)
『そ。何か好きな漫画とかアニメとかあるだろ? そこに登場する能力を一つくれてやるよ』

 そのサプライズに、政人は内心困惑した。
 アニメとか漫画とか、そういうのは見なくなって久しい。
 正直最近人気のあるアニメが何かすらわからないのだ。
 自分が子供の頃大好きだったアニメといえば……“ドクタースランプアラレちゃん”だっただろうか。

(思いつかないんだが)
『おいおい、何かあるだろ。魔力ランクSSSとか、闇の魔法とか』
(何それ)
『……ああ、すまん。そういや世代違うんだっけ』

 政人は39歳である。
 リリカルなのはとか、ネギまとか、ゼロの使い魔だとか、そういう最近の流行には弱い。
 更に言うと、そもそも何かと戦うという発想がないのだ。

『とりあえずさ、何でもいいから覚えてるの片っ端からあげてくれ。
いいのあるかもしれないし』
(じゃあ……アラレちゃんのんちゃ砲)
『無理。俺より強い奴の能力は与えられない。一撃で地球壊すとかマジありえない』
(ゴルゴ13の狙撃力)
『あれ能力じゃない、技術』
(ウルトラマンに変身)
『ウルトラマンと融合しないと無理。で、この世界にウルトラマンはいない』
(仮面ライダーに変身)
『あれは改造されたからああなっただけだ。能力のカテゴリには入らない』

 この自称死神、意外と出来ない事尽くしである。
 まあ、世の中そう都合よくはいかないということか。

(というか、今思ったんだがこの世界は戦わなきゃいけないのか?)
『そりゃな。ここ、ハンターハンターの世界だし』
(……また知らない名前だ)

 山田政人。この男、どこまでも流行後れであった。
 ジャンプ漫画は黄金世代の時の連載陣しか知らないのである。

『ほら、あれだよ。幽々白書の作者、富樫氏の作品』
(おお、それなら知ってるぞ)
『とりあえず早く連載再開して欲しいもんだ。ゴンさんの行く末が気になって仕方ない』

 何か意味不明のことを言っているがひとまずスルーして政人は考える。
 幽々白書なら知っている。そしてここは同作者の作品世界。
 ならば、もうこれでいいんじゃないか、と。

 次に能力だが、これは戸愚呂の爆肉鋼体が欲しい。
 別に妖怪を殴り殺したいわけではないが、鍛え抜かれた肉体美は男としてちょっと憧れる。
 それにあれなら肉体労働とかお手の物だし、力を調節できるから誤って相手を殺してしまうこともない。

(戸愚呂の爆肉鋼体で)
『……マジ?』
(マジ)
『え、いや、もっと華やかなのあるだろ? もっとこう、なあ?
なんだってそんな、むさっくるしい能力……』

 そもそも華やかである必要が政人にはわからなかった。
 いいじゃないか筋肉、最高だ。
 最近の若者の好みと政人の好みは根本からずれていた。

『まあ、お前さんがいいって言うならそれでいいけどさあ……』
(ところで、何故そんなに親身になってくれるんだ?)

 政人はここで気になっていたことを尋ねてみた。
 この死神からすれば政人など多く居る死者のうちの一人に過ぎないはずだ。
 こうして気にかける理由がわからない。

『まあ、俺自身のため、かな?』
(?)
『お前さんは俺の鎌を避けきり、死の運命を越えてみせた。これはな、本当にすげえことなんだぜ。
なのにそのお前さんが、何の力もねえバナナの皮で死んじまった。こりゃあちょっと、納得できんだろうよ』
(そんなものだろうか)
『そんなもんなんだよ。で、だ……納得できねえ我侭な俺はお前さんにリベンジマッチを仕掛けたいわけだ。
どうせ死ぬならバナナの皮なんかじゃなくて、ちゃんと俺の手にかかって死んで欲しいわけよ』

 はあ、と政人は曖昧に返事を返す。
 なんともこの死神、損な性格の持ち主のようだ。

『だからあんたには前世の記憶を与え、生き延びるための能力も授けた。
俺が殺す前に死なれちゃ困るんでな。
……命のリミットは、前世と同じく39歳の夏。俺はそのとき再びお前さんの前に姿を現し、今度こそ、その魂を頂いていく』
(抵抗するのはありなのか?)
『勿論だ。力の限り足掻いてみせろ』

 なんとも難儀な理由で自分も生まれ変わったものである。
 とはいえ、二度目の生を与えくれたのだから、この死神は自分にとって恩人だ。
 ここは素直に感謝したいところだろう。

(あ、ところで爆肉鋼体ってどうやるんだ? 全身に力を入れればいいのかな)
『!? あ、こら、馬鹿! こんなところで……!』





 爆肉鋼体60%!!
 母の腕に抱かれていた赤ん坊は一瞬にして3mを越えるマッチョへと姿を変えた!!

 逞しいその肉体は鋼の如く。ボディビルダーのような見せる筋肉とは違う、戦うための筋肉美がそこにはあった。
 極めたパワー。それはあらゆる技や小細工を打ち砕く絶対無比の強さ。
 そびえ立つその巨体は、山の如し。
 そこには、全身から強者の威圧を漲らせる、筋肉の巨人が立っていた。





「…………」
『…………』
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 全員が、無言だった。
 政人も死神も、母も父も、医者も看護婦も。
 全員が全員、あんまりすぎる事態に沈黙せざるを得なかった。
 その中で、やっちまった、と思いつつも政人はとりあえず口を開く。
 なんとかこの止まってしまった空間を動かさなければならない。

「……やあ、母上様。おはようございます」
「…………」

 母は、無言で逃げ出した。
 父も医者も看護婦も、一切の迷いなく駆け出した。
 赤ん坊を捨てて逃げる罪悪感はなし。ここにいるのは赤ん坊ではなく巨大なマッチョだ。



『……お前、馬鹿だろ』
「…………」



 政人は、生まれてすぐに一人になった。




                                                            END



















       / ̄ ̄\
      /   _ノ  \
      |    ( ●)(●)
     . |    (_人_)  いきなり孤児になっちまった……
      |    ` ⌒´ ノ
     .  |         }
     .  ヽ        }
       ヽ     ノ
  __  _ノノ ヽ、  ,仆---、__
⌒ヽ.        \     / ⌒ヽ
   Y´ ̄ ̄ ̄ ̄ `Y´ ̄ ̄`ヽ   `、
 `ヽ |          |      }    i
   ノ          |      |  丿|
   )、          人   / ̄ ̄``ン
※AAはイメージです。実際にやらない夫の容姿をしているわけではありません※

山田政人(現世の名前はケイン)
生後0歳
身長:306cm
体重:150kg
分類:転生者
能力:爆肉鋼体

どうも皆様こんばんわ。
一発ネタのはずが図に乗って少し続いてしまいました。
彼がこのあとどうなったのか? それは私にもわかりません。



[21843] こんな受験生たちは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/20 12:43
 全国のハンター志願者の野郎共こんばんわ。
 俺の名はトンパ。ハンター試験受験生だ。
 受験こそしているが、実の所俺は合格する気なんざ全く無い。
 それ以上の楽しみを知っちまったからだ。
 へへ……なんだと思う?

 ……わからないかい?
 しゃあない、ヒントをやろう。
 俺はこのハンター試験にかれこれ35回受験していてな、まあそれなりに顔と名前は知られているんだ。
 で、だ。俺のことを知る連中が俺につけたあだ名なんだがな。
 “新人潰しのトンパ”っていうんだぜ。どうだい、イカすだろう。
 もうわかっただろう? 俺の楽しみ。

 そう、俺は新人を追い詰めて潰すのが大好きなのさ。
 これが生き甲斐と言ってもいい。
 最高だぜ? 夢と希望に満ち溢れていた顔が一瞬で絶望に染まり、奈落へと落ちていく瞬間。
 それを一番近い特等席で見れるんだ。
 もう病みつきってもんよ。
 だが流石の俺もちょっと、な……今年の新人潰すのは諦めるしかないか……なあ。

 わかりやすく、順を追って説明しようか。



 まずは受験番号19番、山田・K・政人。
 もうこいつはヤバイ。何がやばいって、筋肉がやばい。
 まず、でかい。身長は3メートル以上か。
 筋肉も鍛えただけの飾りじゃねえ。今まで見たどんな肉体よりも“敵を壊すこと”に特化した、いっそ芸術的とすら言える筋肉だった。
 近づけば殺される、と思ったよ。
 せっかく用意した下剤入りジュースも、あんなのに渡せるわけがねえ。
 てか、多分効かない。
 まず俺は、こいつを潰すのは早々に諦めた。
 ……時々な、いるんだよ。こういう怪物じみた新人が、よ。

 次の奴はもっとやばい。
 身長は、2メートルってとこか。前の奴に比べれば小さい。
 筋肉も凄いが、それも前の奴と比べれば大したこたない。
 じゃあ何がやばいって、その格好そのものがやばすぎた。
 まずな、黒いんだ。
 黒いヘルメット被っててな、更に黒いマスク付けてる。
 手には黒い爪だ。
 で、何考えてるのかわからねえ。
 ただ「コーホー」「コーホー」ってよ。不気味に呼吸してるんだぜ。近づけるかよ、あんなの。
 名前は……そう、確か受験番号103番、ウォーズマンだ。
 後で調べてわかったことだが、本名はニコルっていうらしい。

 次は更にやばい。
 受験番号405番、ゴン・フリークス。
 まずな、髪の毛がやばい。
 13キロくらい……かな。怒髪天っていうんだろうな、あれ。
 信じられるか? 逆立った髪の毛が天井に届くどころか突き破ってんだぜ。
 顔には幼さが残ってるんだが、迫力は前の二人を遥かに凌ぐ。
 顔に影があってな……ゾッとしたよ。目が合った瞬間殺されるかと思った。
 あれは人間の目じゃない。全てを犠牲にして飲み干して、その上で進んできた怪物の目だ。
 一体……どれほどの犠牲を払えばあれだけの殺気を……。
 服装は……突っ込み所満載だな。
 なんで子供用のシャツとズボンなんぞ着てるのやら。
 明らかにサイズ合ってなくてパッツンパッツンじゃないか。
 え? 教えてやらないのかって?
 ……無理無理、近づいたら殺されちまう。

 最後に受験番号382番ウボォーギン。
 一言で言うとゴリラ。
 髪をオールバックにした男で、上半身には獣の毛皮を被ってる。
 腕や胸からは毛がボーボー生えててむさい。
 なんてーか、原人と間違えそうな風貌だな。
 身長は250くらいかな。こいつも見掛け倒しじゃねえって一目でわかる。
 俺なんざ一秒で殺せる猛者だ。
 声? かけるわけねーだろ。食い殺されそうじゃねえか。



 俺の楽しみは新人潰しだが、今年は無理だと悟ったね。
 むしろ俺が潰されちまう。
 だからな、俺は開始前にリタイアしたよ。

 今年はやめる。俺は死にたくないからな。



*



 ウォーズマン。本名、ニコル。
 彼は元々、この世界とは違う世界に生きている42歳の会社員だった。
 好きな漫画はキン肉マン。好きなキャラクターはウォーズマン。
 いつもいつもかませ犬にされるウォーズマンの扱いに嘆き、俺ならもっと活躍させるのに、などと毎日考えていた。
 そんなある日だ。彼はニコルという少年になっていた。
 何と見ず知らずの少年に憑依してしまったのだ。
 最初の頃こそ元に戻る術を探していたが、いつしか彼はこの世界の危険性に気が付いた。
 力が無い者は淘汰される。
 弱い者は理不尽に全てを奪われる。
 強くなくては己の平和を掴めない。ここは、そんな世界だったのだ。
 だから彼は強くなるために修行をし、天空闘技場にいき、そして念の洗礼を受けてしまった。
 その時の影響で顔は醜く、人前に見せれないものとなり、しかしそれを代償として彼は力を得た。
 系統は、具現化系。
 彼は欲した。醜い素顔を隠す仮面を。
 そしてイメージした。最強のヒーローの姿を!
 するとどうだろう。
 黒いヘルメットに黒い仮面。黒い肩当。膝当て。肘当て。そして最強の武器であるベアークローが出現したではないか!
 こんな醜くなった顔ではもはや家族の前には戻れない。
 彼はその日、ニコルという名前を捨てて新たな名を名乗った。
 それは己が最強と信じる無敵のヒーローの名。
 すなわち……ウォーズマンである。



 ゴン・フリークス。
 彼には未来の知識があった。
 と、いうよりは“実際に体験した”といったほうが正しい。
 彼は一度このハンター試験を受けている。
 そしてハンターとして合格し、念を覚え、多くの経験を積み。
 そしてキメラ・アントという怪物のせいで大事な恩人を失った。
 その憎しみと、力を求める心。そして他の追随を許さない怪物的な天才性。
 それが彼を強くした。
 「もう二度と念能力が使えなくなっても構わない」。
 それほどの強い覚悟を以て命を圧縮、肉体を急激に成長させた。
 そして怨敵ネフェルピトーを葬った、まさにその時だった。
 目の前が真っ白になり、気が付いたらクジラ島にいたのだ。
 ハンター試験に出る前の、あの日のクジラ島に!

 何故自分がここに、しかも念能力を以前と変わらず使える状態のままいるのかはわからない。
 神の奇跡か、悪魔の悪戯か。
 だが、そのどちらでもいい。
 今ならば、助けられる。やり直せる。
 あの忌まわしい出来事からカイトを守れる!
 そのためならば、たとえ相手が何であろうと打ち砕き前進する。
 その覚悟が、ゴンにはあった。



 ウボォーギン。
 彼は、幻影旅団だ。
 A級賞金首として恐れられ、多くの命を奪った殺人者。
 その中でも彼は格闘戦闘力でトップを誇る。
 ……いや、誇っていた。

 最強の座を奪われたのは奴……ヒソカがきてからだ。
 奴は強者との戦いを求める戦闘狂だった。
 そしてクロロやマチ相手に欲情していることをウボォーギンは知っていた。
 だがヒソカは自分を全く見ない。
 見て欲しい、と思ったわけではない。だが、強者との戦いを望んでいるはずの奴が自分を気にかけないのが気に食わなかったのだ。
 だからある言ったのだ「俺が戦ってやろうか?」と。
 その時返された返答は今でも忘れない。

「君じゃつまらないよ♠」

 それは挑発でもなんでもなく、心の底から放たれた言葉であった。
 ヒソカの目は自分を全く見ていなかった。
 完全に格下だと舐められていた!
 許せるはずがない。己を最強と自負し、己の強さに自信を持つウボォーギンは激怒し、ヒソカに殴りかかった。
 結果は、惨敗。
 バンジーガムとヒソカの巧みな体術の前に翻弄され、一方的に打ち倒された。
 彼は言った。

「君はパワーだけだ♦ そんなんじゃ、ちょっと弱点を突かれたら格下にだって負ける♠ そんな相手に興味はない♦」
 
 屈辱だった。そして惨めだった。
 ウボォーのプライドはそこで一度砕け散り、しかしウボォーは折れなかった。
 その日から己を一から鍛えなおし、強くなるためになんだってやった。
 天空闘技場にいった。グリードアイランドに入った。数多のハンターと戦った。
 そして今、彼はここにいる。
 生まれ変わった己の強さをヒソカに思い知らせるために!



 その4人を見て、他の受験生が同時に思った。
 暑苦しい……と。



*



 第一次試験。その場に現れたのはサングラスの男だった。
 本来ならばここは髭の紳士が出てくるはずなのだが、それを知るのはこの場ではゴンだけだ。

「俺の名はモラウ! 第一次試験の試験官を勤めるぜ!」

 名乗りをあげ、ふと、モラウは気が付いた。
 受験生の中に紛れ込んでいる、4つの圧倒的な存在感を。
 山田・K・政人。
 ウォーズマン。
 ゴン……さん。
 そしてウボォーギン。

(な、なんてえ筋肉だ……!)

 負けていられない、とモラウは思った。
 自分は試験官なのだ。
 その自分が気圧されてどうするか。

(筋肉なら俺だって負けやしねえ!!)

 爆 肉 鋼 体 !!
 全身に力を入れてオーラを漲らせる。
 そして全ての筋肉を活性化し、モラウは一時的に彼らと並ぶ肉体を手に入れた。

 5人は、互いの姿を見比べた。
 目を合わせた。
 そして、互いを強敵と認め、不敵に笑った。







「……すっかり萎えちゃった……♠」

 その頃ヒソカは、あまりのマッチョ比率にやる気をなくして早々に帰路に着いていた。
























ウォーズマン(ニコル)
年齢:18歳
身長:210cm
体重:150kg
分類:憑依転生者
超人強度:100万パワー
特徴:筋肉が凄い

ゴンさん
年齢:12歳
身長:13km(髪含む)
体重:148kg
分類:逆行者
能力:ジャジャン拳
特徴:筋肉が凄い


ウボォーギン
年齢:不明
身長:258cm
体重:189kg
分類:魔改造原作キャラ
能力:ビックバン・インパクト
特徴:筋肉が凄い

  炎
(´・ω・`)   n  マッスルジョークwww(挨拶
⌒`γ´⌒`ヽ( E)
( .人 .人 γ /
=(こ/こ/ `^´
)に/こ(

どうも皆様こんばんわ。
実は前回で普通に終わりのつもりでしたが、どうやらキリが悪すぎた様子。
これはいけないと思い急遽第三弾登場。ますます収集のつかない事態に。
いや、でもまあ、ハンター試験に沢山トリッパーとか出てくるのもお約束ですし。
これはこれで、充分テンプレといえるはず。
そう私は信じます。

あ、まだクロスオーバーキャラ出してないや。



[21843] こんな第一次試験は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/16 21:59
 暗殺者一家ゾルディック家。その三男として俺は生を受けた。
 生まれてからずっと、来る日も来る日も拷問じみた訓練ばかりを繰り返し、人を殺すための技ばかりを教えられた。
 俺と同じ年頃の子供が親に甘えているとき、俺は実の母に電撃を浴びせられていた。
 日の当たる場所で同年代の子供が友達を増やしているとき、俺は日陰で命を奪い、減らしていた。
 ククルーマウンテンを降りた先で子供達が友達とはしゃぎ回っている時、俺は血の海の上で独り立っていた。

 自由に、生きたかった。

 もう、殺しなんてしたくなかった。
 兄貴や親父達に作られた殺すための人形などではなく、俺は俺として生きたかった。
 もっと普通に遊んで、友達を作って、笑って過ごしたかった。
 だから俺は兄貴とお袋を刺して家を飛び出し、外の世界へと足を踏み入れたんだ。

 ……けど。

 俺は今、そのことを猛烈に後悔していた。
 正直、ハンター試験に出たことは完全に失敗だ。
 もう、なんていうか……どういうことなの。
 大多数の受験生は別にいいんだ。俺から見ればそこまで大したことない連中だし、問題ない。
 試験内容も別に問題ない。先頭を走っているモラウとかいうおっさんの後について走るだけだ。
 問題は、文字通り頭一つも二つも飛びぬけている4人。
 ……比喩ではない。本当に身長的な意味で飛びぬけているのだ。
 特にあのゴン……さんとかいう奴。
 何あの髪の毛。おかしい。
 とにかくあんな連中とは関わりたくない。だから俺は一番先頭を走っていたんだ。
 先導しているモラウとかいうおっさんも鬱陶しい筋肉をしているが、あの4人よりはまだマシだ。

 ……だが……。

 一番前を走ったのは……正直大失敗だった。





 政人達は、互いに対抗心を燃やしていた。
 他の受験生など、もはや眼中になし。己の強敵は、この侮れない筋肉を持つ猛者達だ。
 たとえ少しであろうとも、この強敵にリードを許してはいけない!
 そう思い、政人、ウォーズマン、ウボォーギン、ゴンさんの4人は先頭を奪い合う。
 身体と身体をぶつけ合い、一歩も譲らずにトップを奪い合う。
 ゴンさんが先頭に出れば、その横をウォーズマンがスクリュー・ドライバーで抜いていく。
 かと思えばウボォーギンがウォーズマンを後ろへと放り投げ、その隙に政人が先行する。
 筋肉の塊が四人、己の筋肉の誇りにかけてのぶつかり合いだ。

(お前ら俺を取り囲んで戦うんじゃねーよ! 暑苦しいじゃねーか!)

 運悪く、4人の丁度中央を走っているキルアにとってはたまったものではない。
 飛び散る汗が雨のように彼の頭に降り注ぎ、巨体同士がぶつかる余波だけで何度も体勢を崩す。

(ねえなんなのこれ!? 俺なんか悪いことした!?)

 政人が殴る! ゴンさんが蹴る!
 ウボォーがタックルし、ウォーズマンが投げる!
 4人の超人は巻き込まれてしまった可愛そうなキルアに気付くことなく、デッドヒートを続ける。

「はっ! いいねえ、ゾクゾクしてきたぜ!」
「コーホー!」

 ウボォーの拳をウォーズマンが避け、素早く背後に回りこみ、相手の両腕を掴む!
 掴んだ腕を後ろへと引き、さらにウボォーの膝の上に自身の足を絡めて、彼の腰の上に股を置くようにしてウボォーの上に立つ!
 これぞ伝家の宝刀!

「パロ・スペシャル!」
「う、うおおおお!?」

 ウォーズマンの技が決まってウボォーが叫ぶ、その横でゴンさんの蹴りが政人に直撃!
 ボ! という盛大な爆音と共に政人が上空へと吹き飛ばされるが、彼はすぐに体勢を立て直して着地した。

「40%では手に負えないか……70%でいくぞッ!」

 言うや否や、政人の筋肉がボン! と爆発するように膨れ上がる。
 本当はゴンさんの強さを考えれば80%くらい出したいところなのだが、80%は周囲の毒だ。
 弱い者は政人の近くにいるだけで消えてしまうのである。
 周囲にギリギリ被害を出さず、なんとかゴンさんに対抗できるだけの強さ。
 それが70%!

「うおおおおおお!」
「…………!」

 政人の大木のような腕と、ゴンさんのこれまた大木のような腕がキルアの頭上で衝突!
 ビリビリと空気を振るわせる。

(俺の頭上で戦うなあああ!!)

 キルアはもはや生きた心地がしない。
 心境的にはゴジラ、モスラ、キングギドラ、デストロイアが戦う街中に取り残された一般人の気分だ。
 正直他所でやって欲しい。
 そう切に願うが巨人4人はおかまいなしだ。

 スクリュー・ドライバーがキルアの頭上を飛んでいく。
 ウボォーの蹴りがキルアの横を掠める。
 ゴンさんの拳がすぐ後ろで炸裂し、政人の張り手が目の前を横切る。
 終わりが見えない怪獣大決戦だ。



(兄貴助けて超助けて)



 もはやキルアは、心が折れかけていた。



*



 走り続けて数時間。
 彼らは濃い霧が出ている湿地帯へと足を踏み入れた。
 “詐欺師のねぐら”。
 日々多種多様な魔獣や植物、動物が互いを騙しあい、そして喰らいあっている危険地帯だ。
 そしてここで一度はぐれてしまえば、戻っては来れない。
 そのため、後ろを走っている受験生達は先頭を見失わないようにしなくてはいけない。
 とはいえ、彼らは見失うとは微塵も考えていなかったのだ。
 それはそうだろう。
 あんな遠目でも目立つマッスルをどう見失えというのだ。

 そう、思っていた。

 だが次の瞬間前を走っていた筋肉の塊がこちらに近づいてきたではないか!
 そして見た。
 それは前を走っていたあのマッスル四人ではない!
 そこにいたのは……キノコ!?

 マッスルーム。

 その怪物は、一言で言えば手足の生えたキノコだった。
 傘のすぐ下に目がついており、竿の部分から太い手足が生えている。
 逞しい、肉体だ。
 鍛え抜かれた逞しい上腕二等筋! 腹筋! 背筋!
 その逞しい肉体美を誇る怪物が次々と出現し、受験生達を取り囲んでいく。
 その瞬間、受験生達は死を覚悟した。
 見てわかった。このキノコは強い、と。
 まとも戦って勝てる相手ではない、と。
 はぐれたものは死ぬ。騙された者は死ぬ。ここのルールだ。
 後はそのルールに従って食われるのみ。そう、考え諦めた。
 ただ一人を除いて。

「……ざけんなよ」

 一人の、男の呟き。
 小さな、だが力強い言葉だ。

「俺はこんなとこで死ねないんだよ……」

 その男の名は、レオリオ。
 金のためにハンター試験に受験した男だ。
 だが、金のため、というのは建前に過ぎない。
 本当の目的は、医者になること。

 かつて、彼には親友がいた。
 かけがえのない親友だ。
 ある日、その親友が病気になった。……決して治せない病気ではなかった。
 足りなかったのは、金だ。
 莫大な治療費、それを払うことができず、親友は死んでしまった。

 彼は、単純だった。
 自分に親友を救える力さえあれば、と思った。力を願った。
 医者に、なろうと思った。
 そして医者になって、親友と同じ病状の子を治療してやりたかった。
 そして言うのだ。「金なんかいらねえ」と。

 夢のような話だ。
 そんな医者になるためには更に見たこともないような大金が必要となる。
 結局何をするにも金、金、金だ。
 だから彼はこのハンター試験に参加した。金がなくては叶えられない、尊い夢を実現させるために。

「絶対、ハンターになるんだ……!」

 諦められない。
 こんなわけの分からないキノコなんかに、躓きたくない。
 生への執念。折れない心、そして意地。

 それが、レオリオをとんでもない行動へと駆り立てた!



「絶対ハンターになったるんじゃあああああ!!」



 跳躍!
 レオリオは不意をついてマッスルームへと飛びつき……。

 マッスルームに噛り付いた!!!

 ……何故そんなことをしたのか、それはレオリオ本人にもわからない。
 だが、なんとなくこれが正しい行動に思えた。
 こうしなければいけない、と思えた。
 それは、もしかしたら危機に瀕して目覚めた本能かもしれないし、あるいは何かしらの念能力だったのかもしれない。
 どちらにせよ、今言えることは一つだけ。

 それは、正しい行動だった、ということだ。

 マッスルームは元々この世界に生息するキノコではない。
 “エリンディル”と呼ばれる、こことは違う世界より迷い込んだ存在だった。
 そしてその外見とは裏腹に、その身は美味であり、また特殊な効果を秘めていた。

 その効果とは、マッスルームを食した者の筋力を増加させ、ムキムキにすること!!

「う、お、お、おおおおおおおッ!!」

 弾け飛ぶ、レオリオのスーツ!
 腕は丸太のように太く、腹筋は割れ、背筋は発達し!
 足は太くなり、首筋は太くなり、鋼のような筋肉を得る!

「だらっしゃあああ!」

 マッスルと化したレオリオはそのパワーを早速発揮し、次々とマッスルーム達を蹴散らしていく。
 凄まじい暴れぶり、そして強さだ。
 マッスルームがまるで相手にならない!
 それを見て、諦めかけていた受験生達の目にも光が宿った。

「そ、そうだ……俺達だって、こんな所で諦めるわけにはいかねえ!」
「その通りだ!」
「生きるぞ! たとえ泥水を啜り、あのキノコを喰らってでも生きてやるぞ!」

 立場逆転。
 人を喰らいにきたマッスルーム達だが、ここにきて逆に受験生に食われる立場と成り下がった。
 次々と受験生達はマッスルームに喰らいつき、逞しい肉体を得ていく。
 一人、二人、三人……。
 十人、二十人、三十人!
 百人!! 二百人!!! 三百人!!!!

 なんということだろうか。
 あっとういう間に、その場にいたほとんどの受験生が優れた力と筋肉を手に入れ、マッスル化してしまったではないか。
 マッスル化せずその場に残っていたのはクラピカと、ポンズを初めとする数少ない女性受験生達、そして先行しているキルアにギタラクル、ハンゾーだけだ。

 見渡す限り筋肉の山。
 どこを見ても暑苦しい筋肉男。
 そのあまりにも恐ろしい光景を見て、クラピカは一言呟いた。

「あ……悪夢だ……」





 もう、このハンター試験は駄目かもしれない。
 そう、クラピカは心の底から思った。













         \          _                          /
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.         __         ,/  ノ        ~ `、  \        _
        /  ヽ         `、  `ヽ.   /炎\ , ‐'`  ノ      /  `j
.       ト ´‐j‐|___      \  `ヽ( ´∀` )" .ノ/    /  /`ー'
       YV竺}|    ̄"⌒ヽ   `、ヽ.  ``Y"   r '      〈  `ヽ  /´ ̄ヽ
     /) ー┘/    、 `、   i. 、   ¥   ノ       `、  ヽ|-r -  }
    γ  --‐ '    λ. ;  !     `、.` -‐´;`ー イ         〉,  ヾニフ /     ,-、、
    f   、   ヾ    /   )    i 彡 i ミ/         / ノ  └‐'⌒ヽ    「  〉
    !  ノヽ、._, '`"/  _,. '"     }    {         ノ  ' L     `ヽ./  /
    |   ̄`ー-`ヽ 〈  < _ ヽ.    /  ■  `\      / , '    ノ\  ´  /
     !、__,,,  l ,\_,ソ ノ /   /ヽ、  ヽ.     (     ∠_   ヽ、_, '
         〈'_,/ /   /   /  ノ    ヽ.   )     i  、      ヽ
             | |  イ-、__  \  `ヽ    {   f  _,, ┘  「`ー-ァ   j
          l.__|   }_  l    \ \   |  i  f"     ノ   {  /
          _.|  .〔 l  l    ノ  _>  j  キ |  i⌒" ̄    /  /_
          〔___! '--'     <.,,_/~  〈   `、ヾ,,_」       i___,,」
                            `ー-‐'
             み ん な で マ ッ ス ル ! ! !


ナイスバディ!(挨拶
クロスオーバーキャラはノリで考えた末、アリアンロッドTRPGからマッスルームを登場させました。
こいつ、結構便利なもので食べるとそのシナリオ中筋力が+2されてムキムキになれるんです。
これだ! と思った私は彼らを早速詐欺師のねぐらに出演させ、受験生達に食べて頂きました。
これで即席量産型マッスルの出来上がり!
さて、これ本当にどうしよう。

あ、ところでこれ、一発ネタじゃなくなってしまったので本板進出を考えてるんですが、果たしてこんな作品が本板に踏み入ってもいいものでしょうか。



[21843] こんな第二次試験は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/18 19:39
 世界中のグルメ共こんばんわ。
 私の名前はメンチ。美食ハンターよ。
 もうすぐ第一次試験会場から、この第二次試験会場に受験生達がやって来るわ。
 ん、ふふふふ。
 実の所、ね。私は今回試験官ではなく一料理人として来ているつもりなのよね。
 出す課題はもう決まっているわ。
 寿司っていってね、新鮮な魚肉を生のままライスの上に載せて食べる一口サイズの食べ物。
 ジャポンっていう国にしかない、マイナーな食べ物だけど、これがまた美味いのよ。
 勿論受験生達はプロじゃないわけだから、そんな美味いのが出てくるとは思えない。
 でも、もしかしたら凄い一品が出てくるかもしれないじゃない。
 なにが起こるのかわからないのがハンター試験。
 それが私は楽しみなのよ。

 と、そろそろ来た様ね。
 今私達はシャッターの裏側に隠れていて、受験生達から姿は見えない。
 ふふ、きっとあいつら、ブハラの姿を見たら驚くわよお。
 盛大にお腹を鳴らしてる3メートル越えの太っちょだもの。
 驚いた受験生の顔見るのも、ちょっと楽しみだったりするのよねえ。
 では、そろそろ第二次試験開始といきましょうか。
 シャッター、オープン!!
 そしてシャッターを開き、私の目の前に現れたのは……。

 右を見ても筋肉!

 左を見ても筋肉!!

 どこを見ても上半身裸のマッスルしかいない、見渡す限りのマッスル密集地帯!!!



 い、いやあああああああああああああああああああ!!!??



*



 受験生達は困惑していた。
 シャッターを開いて第二次試験の試験官が出たと思えば、その試験官がいきなり泣き出してしまったのだ。
 「お家帰るう!」などとごねているのを、近くにいる巨漢がどうどうと宥めている。
 なかなかに彼も苦労人のようだ。

「マサトよ、試験官が泣き出してしまったぞ」
「これは予想外だな」

 ウォーズマンの言葉に政人が「これは困った」と言いながら顎に手を当てる。

「かっかっか、おい、ウォーズマンよ。お前の格好が怖いんだろうぜ」
「ぬ、そ、そうか……?」

 ウボォーギンがゲラゲラ笑いながらウォーズマンの外見を指摘し、ウォーズマンが首を捻る。

「ゴンさん、貴方はどう思います?」
「……大丈夫、怖くないよ」

 政人が尋ねると、ゴンさんは静かな声で答えた。
 そう、ウォーズマンは別に怖い存在などではない。きっとあの試験官が何か間違えているのだ、と。
 そのあまりにズレた会話を聞いていたキルアがそこに突っ込みを入れた。

「怖いのはお前ら全員だボケェェ! そりゃ受験生の9割が筋肉の塊だったら誰でもびびるわ!」

 キルアが思わず発してしまった突っ込みに4人は止まり、そしてなるほど、といった顔になった。

「そ、そうだったのか!」
「お前頭いいな」
「天才か」
「さすがキルア」

 もうやだ、この脳筋共。
 キルアは頭を抱え、そもそも何故こうなったのかを思い出す。
 少なくとも、第一次試験のとき、こいつらは互いに敵対していたはずだ。
 それが変わったのは完走しきったとき。
 それまで敵対していたとしても、それが終わったとき4人の中では友情が生まれていたのだ。
 互いに全力を尽くし、身体と身体でぶつかり合った。
 戦いの後には熱い友情が芽生える。古来から変わらない漢の間の絶対の法則だ。
 不幸なのはやはりキルアか。
 たまたまその中心にいただけだというのに、何故かゴンさんが「彼も友達だ」などと実に余計なことをぬかしてくれた。
 そのせいでキルアまで彼らの輪の中に勝手に入れられてしまったのだ。
 具体的には輪の中心辺りに。

(兄貴助けてマジ助けて。もう二度と我侭言いませんから、助けにきて下さい)

 キルアは切に願った。
 縛られるだけの暗殺人生最高だ。あそこにはスリムでまともに見える家族がいる。親父はマッスルだけど。ミルキは豚だけど。
 もう自由なんて求めない。クソくらえである。
 だからキルアは、このマッスル地獄から早く抜け出したいと心の底から願っていた。



 数十分の時間を費やし、ようやくメンチは立ち直った。
 彼女が出した課題は寿司。
 ヒントは「寿司は寿司でも散らし寿司は認めない。握り寿司のみ認める」というものだ。
 これは余談だが、本当はメンチの試験を行う前にブハラのほうで豚の丸焼きを出す予定があった。
 この付近に生息する獰猛な豚、「グレイトスタンプ」。それを狩れるかどうかである程度のふるいをかけようとしたのだ。
 だがどうせ、このマッスル達ならやるだろう、と判断し余計にグレイトスタンプを減らさないために試験を省略した。
 300人以上のマッスルがハントをしてしまってはグレイトスタンプが一気に死滅に近づいてしまう。

「寿司か」

 政人の前世は日本人である。
 前世というか、実は生まれ変わってからまだ一ヶ月も経っていないので本当につい最近まで日本人だった。
 当然寿司も知っている。
 この試験はもらった! そう確信して政人は河から魚肉を狩り、米を手に取る。
 そして、握り始めて……その時、見た。
 鬼気迫る表情で寿司を握る、ゴンさんの姿を!

 手首のスナップ!
 握り!
 力加減!
 その全てがパーフェクト!

「なん……だと……」

 ゴンさんは寿司の素人だ。
 だが料理を作るのに必要なのは真心!
 それをスパイスに、ゴンさんは全力で寿司を握る。

 二度と寿司が握れなくなってもいいという『覚悟』!

 米とネタを犠牲にして辿り着ける境地!!

「一体……どれだけの犠牲を払えばあれだけの寿司を……ッ!!」

 負けていられない!
 そう、政人は思い寿司を握る手に力を込める。
 そのときだ。
 ウォーズマンの姿が目に入ったのは。

 彼は寿司のネタを二つ持っていた。
 に、二刀流!?
「いつもの二倍の寿司ネタで美味×2の200万美味パワー!」

 跳躍! その高度は高く、天井を突き破って天まで飛んでいく!
「いつもの2倍のジャンプで更に二倍の400万美味パワー! そして!」

 回転! 空中で身体をドリルのように回し、そのまま地上まで突っ込んでくる!
 そのあまりの速度にウォーズマンの身体が光に包まれ、光の矢と化した!
                                    
「いつもの3倍の回転で……試験官メンチ! お前も大満足の1200万美味パワーだーーー!」
「何だよその計算! わけわかんねーよ!?」

 あまりにもトンデモな理論である。キルアが突っ込みを入れてしまうのも決しておかしくはない。
 だが彼は知らない。
 ありとあらゆる物理法則を越えた力があることを。
 彼は知らない。
 全ての常識を否定し、根本から台無しにする理論があることを。

 その名は“ゆで理論”!
 世界の常識すらも書き換える、恐るべき法則ッ!!

「ゲェー!? なんて見事な寿司なんだあー!?」

 政人の驚いたような声。
 その言葉の通り、ウォーズマンの作った寿司はどういう理屈かは不明だが、見事なまでに仕上がっていた。
 サーモンピンクの輝く魚肉がライスの上にふんわりと載せられ、完璧なバランスを保っている。
 いっそ芸術とすら呼べる出来だ。

「ありえねえ……なんなの、こいつら」
 
 キルアが頭を抱える横で、今度は政人が暴挙に出た。
 魚肉とライスを空中へと放り投げ、自らも跳躍!
 一瞬のみ100%の力を発揮し、寿司を殴りつける!!

「確かにお前たちの技術は見事! だが!
技を越える絶対無比の強さ! それがパワーだ!!」

 殴った寿司は吹っ飛び、その飛ぶ過程の中で魚肉とライスが一つに重なり合う!
 少し潰れた寿司。それは一直線にメンチへと飛んでいき、その口の中へとダイブ!

「むがっ……!?」

 何と美食ハンターが無理矢理食わされてしまった。
 全く、このアホンダラ、と思いつつもとりあえずメンチは口の中にある寿司を咀嚼する。
 思ったより悪くない、とメンチは思った。
 あんなやり方で作られたにしてはやけに美味いし、魚肉とライスのバランスもいい。
 わずかな塩味がそれを引き立てるのもグッドだ。

(……塩……味?)

 まて、とメンチは考えた。
 塩味? 塩味だと?
 塩味をもたらすものが一体どこにあったというのだ。
 まだ醤油にも漬けていないというのに。

(まさ、か……)

 答えに行き当たり、メンチは青ざめた。
 あるのだ、一つだけ塩味を与えるものが、あそこに。
 それは汗!
 マッスルの身体から出る、輝く漢汁!

「ぎゃあああああああ!!!?」
「メ、メンチー!?」

 メンチは倒れた。
 今まで色々なゲテモノ料理を食べてきたし、時には魔獣の脳味噌や内臓だって料理した。
 だが、そのメンチをもってすら、これほどおぞましいものを食べた記憶はなかった。

「メンチさん、次は俺の寿司を……」
「やかましい!!」

 ウォーズマンが皿を持って来ていたが、もうこれ以上この場にはいたくない。
 この暑苦しい空間に、一秒だっていられるものか!



「合格! もうあんたら全員合格よ! だから私もう帰るう!」



 メンチは泣きながら逃げ帰った。
 もう二度とハンター試験に試験官として参加することもないだろう。
 この心の傷を癒すにはしばしの休息が必要だ。

「……泣いて全員合格にするほど美味かったのか」
「絶対違え」





 政人のズレた言葉を、キルアが疲れたように否定した。


















   ∧ヘ∧ヘ
    (ニニ@ニ
    .( ミ`д´)  メンチは犠牲になったんだってばよ……。
   .U__.||_iつ 政人ェ……。
    [l__.ハ_i
    ∪.∪
今日のテンプレート
『本来全員不合格になる寿司試験で合格者になる』



[21843] こんな大惨事試験は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/19 20:55
※キルア君から大事なお知らせ※

 ……マッスルが増えた。
 何言ってるかわかんねーかもしれないけど、原作一巻を読み直したらハンター試験の受験者総数が405人だったらしい。
 つまりマッスルは300人じゃなくて400人だったわけだ。
 何の脈絡もなく後付けでいきなり筋肉が100人も増えたのに誰も気にしない。マジ何なの、これ。
 もう何ていうか……何なの?



ハンター×ハンター
マッスル×マッスル

 ……遂にタイトルまで侵略されてるし。
 ……誰かこいつら止めて……。





 トリックタワー。
 それは地上から高度数キロを誇る、天をも突く巨大な塔だ。
 東京タワーの数倍、ゴンさんの髪の毛の数分の一、といえばどれだけ長いかわかるだろうか。
 その実体は凶悪犯を収容する収容所であり、ここに繋がれている犯罪者はいずれも懲役数百年を誇る札付きの悪党共だ。
 塔の周囲は人肉を好む人面鳥が旋回しており、外壁を伝って行こうものなら彼らの餌となってしまう。
 まさに脱出困難、世界最大の監獄なのである。
 その頂上に受験生達は集められていた。

(狭い、暑苦しい、汗臭い……!)

 そしてその頂上に立つ400人以上の受験生。そのうち9割9分が逞しい肉体を誇る巨漢だ。
 当然暑苦しく、キルアは居心地の悪さを存分に味わっていた。
 正直汗臭さで卒倒しそうである。
 その彼らの前へ、一人の男が現れ、キルアはその男の容姿を見るなりげんなりした。

「~~~~~~~ッッ!!!」

 キルアとは逆に、受験生達は絶句した。
 いずれ劣らぬ筋肉を持つ戦士達。その彼らを驚愕させたのは、彼らをも遥かに上回る筋肉の塊だたのだ。

「肥満……? いや、違う……ッッ!」

 それは、一見すると肥満に見えた。
 太く、硬く、広く、浅黒い、肉体。
 だが彼らは気付く。それは、限界まで圧縮された筋肉だということに。

「ヨウ……」

 彼こそ、この第三次試験の試験官にしてトリックタワーの管理人。
 そしてあろうことか、彼自身が犯罪者ッッ!
 だが、犯罪者という身分にありながら、その身にまとう服はどうだ。
 囚人服などとは到底かけはなれた、金糸を贅沢に使った服ではないか!
 収容されている罪人というには、その振る舞いはどうだ?
 まるで、縛るものなど何一つないかのように、堂々として、自由そのものではないかッ!

 それは、束縛されない男。
 犯罪者でありながら、このトリックタワーを自由に出入りできる唯一の男!
 世界最自由!
 故に人は彼をこう呼ぶ――。

 ミスター・アンチェイン。
 その男の名は、ビスケット・オリバ。

「聞イタゼ。今年ハ大豊作ナンダッテナ」

 見るからに高そうな上物の葉巻を口にくわえたまま彼、オリバは受験生達に語りかける。
 重く、鼓膜にのしかかるような声だ。

「本当ハ、72時間以内ニ降リレバ合格ダッタンダガ……。ネテロ爺サンニ、少シ数ヲ減ラセッテ言ワレチマッテナ」

 今度は懐から何かを取り出す。ポッキーというお菓子だ。
 それは以前までこのトリックタワーの管理人をしていた彼の前任、リッポーから巻き上げたものだ。
 いや、前任……という言い方は正しくない。リッポーは今でもここの管理人だ。
 だが、実質上その権利はオリバに奪われている。

 モニュ……モニュ……と。

 袋から出したポッキーを纏めて口に放り込んで咀嚼。
 飲み込んでから再び話を続ける。

「30時間デ降リテコイ」

 それは余りにも過酷にして熾烈。
 72時間でも厳しいこの塔の攻略を、半分以下の30時間で成し遂げなければいけないのだ。
 数をここで一気に減らす算段なのだろう。

「ジャア、頑張レヨ。俺ガココカライナクナッタラ、スタートダ」

 そう言い残し、彼は床に沈んだ。
 いや、沈んだというのは正しくない。
 隠し通路へと入ったのだ。
 そしてそれと同時に、全員が一斉に動いた。



*



 タワーの攻略法は、様々だった。
 100人は、怪鳥を恐れず塔から飛び降りた。
 別の100人は、怪鳥に飛び乗り果敢に技を仕掛けた。
 また、ある100人は外壁を伝ってのロック・クライミングを開始した。

(お前らマトモに攻略する気ねーの!?)

 そう内心で叫びつつ、しかし冷静な部分がキルアに告げる。
 これはチャンスだ、と。
 マッスル共がふざけた方法で塔を降りるならば、きっとあいつらも同じに違いない。
 なら自分は隠し通路の方に行けばあいつらから離れることができる!
 冴えてるね、俺。そうキルアは自分を褒め、迷いなく隠し通路に飛び込んだ。

 そこは、多数決の道だった。
 5人の受験生が揃わなくては進めない、そんな難儀な道だ。
 だが幸か不幸か……いや、キルアにとっては間違いなく不幸なことに、4人はキルアのすぐ後、一秒後に同じ通路へと入っていた。

 ゴンさん!

 ウボォーギン!

 ウォーズマン!

 そして山田・K・政人!

「なんでだああああああああ!!?」

 キルアは涙すら流して絶叫した。
 別れるためにわざわざここに着たのに、何ですぐに合流してしまうのか。
 しかも状況はより最悪だ。何せこのトリックタワーを出るまではこの4人と一緒に行動する以外ないのだから。

「本当は塔を壊す気だったんだけど、キルアが入るのが見えたからね。
追ってきたんだ」
(畜生、余計なことしやがって! 追ってこなくていいよ!)

 ゴンさんの言葉にキルアは内心で猛反発し、頭を抱える。
 もう涙が止まらない。

「涙を流すほどに嬉しかったか。だがそんなに感激することはない。
俺達は熱い友情パワーで繋がれたアイドル超人! 仲間の下に集うのは当然だ!」
(いらねえよそんなパワー……アイドル超人って何だよ畜生……)

 地面に手をつき脱力したキルアを政人が掴み、彼らは駆け出した。





 それから、いくつもの多数決を迫られた。
 右に行くか左に進むかを問われ、ゴンさんが地面をぶち抜いて下に下りた。
 階段を登るか降りるかを問われ、政人が壁をぶち抜いて横に走っていった。
 ピラニアが大量に放し飼いにされているプールを泳ぐか回り道するかを問われ、ウォーズマンがプールの上を走っていった。
 扉を開けるか開けないかを問われ、ウボォーが文字の表示されているパネルを破壊した。

「やれよ、多数決! 何で全部壊してんだよ!?」

 もはや多数決の道である意味すらなし。
 どこまでも常識を投げ捨てる4人にいい加減我慢の限界がきたのだろう。キルアが血管を額に浮かばせて怒鳴る。

「多数決を越える純粋な強さ! それこそがパワー!」
「うるせえよ畜生! それ二次試験でも聞いたよ!」

 政人が全然答えになっていない返答をし、キルアが更に怒鳴る。
 このままだと彼の胃にはストレスで穴が開いてしまうかもしれない。
 そのくらいの怒りっぷりだ。
 そのうち頭の血管が破裂して血が出るかもしれない。

 そんな彼らを横目にゴンさんは何かを見つけたようで、どんどんと先行してしまう。

「ゴンさん。どこにいかれるんですか?」

 ウボォーが彼に全く似合わない敬語で尋ねる。
 ゴンさんの圧倒的な存在感と威圧感は不思議と敬語を使わずにはいられないのだ。
 呼び捨てなどにしたらデコ助確定である。

THIS WAYこっちだ
FOLLOW MEついてこい

 何故か英語で仲間達を招き寄せ、ズンズンと先へ進む。
 彼はいち早く感じ取っていた。この先にいる強者の空気を。
 戦いの予感を。

 出た先は、闘技場だった。
 四方をどこまで続くかわからない奈落に囲まれた、四角いリング。
 その中央には5人の男が待ってましたと言わんばかりに立っている。

「……強いな」
「ああ」

 政人が一瞬で相手の強さとマッスルを見抜き、ウォーズマンが同意する。
 とてつもない強さ、そして筋肉だ。

「あ、あいつらは……!」
「知っているのかウボォーギン!」
「ああ、間違いない! 奴等は死刑囚! そっちの筋じゃ有名だぜ!」

 この中でただ一人、ウボォーギンだけが彼らの正体を理解した。
 聞いたことがある。死刑を受けたのに死ななかった男のことを。
 恐ろしいほどに凶悪で、強く、そして逞しい男達の噂を。

 スペック!
 水面下数百メートルの潜水艦に設けられた監獄から脱走し、生身で深海から脱出した男!
 懲役1458年!

 ドリアン!
 死刑執行時に10分間の吊首に耐え、太平洋を泳いでジャポンに渡った男!
 懲役1501年!

 ヘクター・ドイル!
 電気椅子にかけられたにもかかわらず、生存してみせた男!
 懲役1406年!

 シコルスキー!
 常軌を逸した握力を持ち、一度はこのトリックタワーからすら脱出してのけた男!
 懲役1600年!

 リュウコウ・ヤナギ!
 体格こそ160cmに満たないものの、「クウドウ」という格闘技を極めた天才!
 懲役1566年!

 その5人が、開始の合図すら待たずに同時に飛び出した!
 これは試合ではない! 戦争である!
 戦う運命にある両者が出会ったとき、すでに戦いは『始まっている』のだッ!



「最初は…ROCK……」



 だが5人は早計だった。
 彼らは知らなかったのだ。自分達を上回る怪物がいることを。
 彼らは理解していなかったのだ。ゴンさんという、恐るべき化け物の存在を。

 ビキビキ、と音がする程に腕に力を込め、オーラを高める。
 その圧倒的に暴力的なオーラは大気すら振るわせ、嫌が応にも恐怖を呼び覚ます。

 そして、怪物はゴンさんだけにあらず。
 他の3人も同時に己の必殺技を繰り出した!



「ジャン! ケン! ROCKッ!!」
超破壊拳ビックバン・インパクト!!」

「スクリュー・ドライバー!!」

「60%ってとこかな……!!」



 一瞬……だった。
 両雄が空中で交差し、着地した時すでに死刑囚達は動けなくなっていた。
 彼らは決して弱くはない。
 だが相手が強すぎたのだ。

「フ……オ、オ前達5人ノ熱イ友情パワー……見事ダッタゼ」
「おいこらあああ!? 何俺まで数に入れてんの!?」

 唯一意識の残っていたドイルが気絶する前にゴンさん達の強さと友情を称えるが、それに納得いかないのはキルアだ。
 彼としてはこのマッスル4人と一緒に扱われるのは我慢ならない。

「お前の目は節穴かこらあ! 俺今何もしてなかったじゃねーか! 数に含むんじゃねーよ!」

 彼は狂ったようにドイルを揺さぶるが起きる気配はなかった。
 キルアはあまりに理不尽な現実に泣いた。



 それから、約20時間後のことである。
 ネテロ会長のもとへ、第三次試験通過者の数が伝えられたのは。





 ――通過者、405名。
 脱落者、いまだ2名(ヒソカとトンパ)のみ。





















              ,,.-‐─-:..、
            /   ;;;;;;;;;;ヽ
           /      ;;;;;;;;;;;;;、
           l       .;;;;;;;;;;;;ヽ
           {0}/¨`ヽ{0}    ;;;.;;;;;ヽ    よお会長。惨事試験での脱落者は0だ。
            ヽ._.ノ       i;;;;;;;;ヽ、
             `ー'′  ;;;;;;;//;;;;;;;;;i;;;;;;ヽ、_
         /)    ヽ、;;;/;;l;;;;;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`‐-、
    _   / :/      |;;;; /;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;  ヽ、
   ノヾ `‐-" l    , -‐"i  /;;;ノ;;;;;;;/;;;;;;,-‐;;;;;;;;;;;;;;;;;;;゙ヽ,
   ノヽ      |  /  .ヽ!;;:/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;li
   l      ,  :l / ,    ;/       ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
   (      ヽノ .i i;    ;l     ,,    ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|
   ヽ、      \l/_,-‐ 、:;|     :;\,,-‐;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
    ヽ、i      \i;;;;;:));|    ;;;;;;;;;/  ;;;;;;;;;;;;;;;;;;‐、;;;;;;;;;;/
      \      \´);;|    ;;;;;;;/  ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\;;;;;i
       : : : /  ヽ!ヘ:l: ー‐ヘ〉ー‐ヘ:l: l/{!:./: .:.:::/r':.::/
       :::.ノ    ヽ:`ー―‐!r‐‐、ノ::::! ヽ!:..::/::l:.::/

ネテロ会長「誰だよオメー」



人数に関する説明。
原作での試験参加人数は405人。
そのうちヒソカとトンパが抜け、代わりにウボォーと政人参入で数に変動なし。
(ウォーズマンは憑依で元はニコルなので変動に含まれません)
マッスル化していないのはキルア・クラピカ・ポンズ・スパー・ハンゾー・ギタラクルのみなので実にマッスルの数は399人ということになります。

そして今回のクロスは刃牙からビスケット・オリバさんでした。
ビスケット繋がりでビスケと何か関係持たせるのも面白いかもしれません。



[21843] こんなレオリオは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/20 23:41
 狩る者と狩られる者。
 それが第4次試験の内容だ。
 まずタワーを脱出した順にクジ引きを引く。
 クジは405枚。すなわち、今残っている受験生の数だ。
 その引いたクジに記された1から405までの番号(ヒソカとトンパの分だけ除く)、それこそがターゲット。
 奪うのはターゲットのナンバープレートだ。
 獲物となる受験生のナンバープレートは3点、自分自身のプレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点。
 そして最終試験に進むために必要とされる得点は6点。
 ゼビル島滞在期間一週間の間に、受験生は6点を集めなくてはいけないのだ。



 クラピカはゼビル島の林の中を、草を掻き分けて進んでいた。
 息を潜め、気配を消し、プレートもポケットへ隠している。
 ターゲットは255。レスラーのトードとかいう男だ。
 レスラー……実に嫌な予感しかしない。

(一人では無理だな……)

 クラピカは悔しさを顔に滲ませ、考えた。
 一体どういうインチキなのかは知らないが、今ハンター試験に参加している連中の中で確実に自分より弱いと言い切れるのは二人の女性受験生だけだ。
 それ以外は正直、戦うとまずい。
 クラピカは決して弱くない。むしろ、このハンター試験でも間違いなくトップクラスの実力があった。
 それが覆ったのは一次試験の中盤。全員がマッスル化してからだ。
 マッスル化した受験生達は笑えるほどに強くなってしまい、最早クラピカでもそう簡単には手出しできない。
 そして万一徒党を組んで襲われたら終わりだ。
 だからクラピカはまず、仲間を得る事から始めようと思った。
 チームプレイはハンター試験では常識だ。この過酷な試験を乗り越えるためには、よほどの達人でもない限り一人の力では限界がある。

 仲間の有力候補はレオリオだ。
 彼もマッスルになってしまったが、それでもとりあえず一番信頼できる男ではある。
 初めて会ったときは金に汚い男だと軽蔑もしたが、一次試験の道中で彼の本当の意志を聞き、尊敬の念が芽生えた。
 他のわけがわからないマッスルと組むよりは、まだ彼と組んだほうがいいだろう。
 そう考え、クラピカはレオリオを探した。

 レオリオを見つけるのは、想像以上に難しい事だった。
 木を隠すには森の中、とはいうが成程。ではマッスルを隠すにはどこが最適か。
 答えはマッスルの中だ。
 何を考えているのか、受験生達はどいつもこいつも身を隠すことなく堂々と闊歩しており、頻繁にエンカウントしては互いの札を見せ合ってターゲットかどうか確認している。
 まさかこいつら、自分のターゲット以外は狙わない気だろうか。

(それはまずいんじゃあなかろうか……)

 ターゲット以外は狙わない。
 それはつまり、一人につき一人しか倒さないということだ。
 これでは下手をするとかなりの数が残ってしまう。
 どうすればこれを食い止めてマッスルをもっと減らせるのだろうか。

 考えても答えは出ない。
 クラピカはそこで一度思考を捨て、レオリオを見付けることに集中した。
 そうして探すこと数十分。手に鞄を持った男をクラピカは見付けた。
 その男は倒れているマッスル(多分彼のターゲットだったのだろう)を治療しているではないか。

「レオリオ!」

 見間違えるはずもない。あの鞄は間違いなくレオリオのものだ。
 クラピカは彼がレオリオだと確信し迂闊に近づいていく。

「ん~? 間違ったかな?」

 レオリオ、と思わしき男はクラピカの方を振り向き……その瞬間クラピカは確信した。
 あ、こいつレオリオじゃねえや、と。
 黒い長髪。まずこの時点で違う、レオリオは短髪だ。
 暗い、狂気を孕んだ瞳。不遜に歪んだ口元。
 逞しい肉体(まあ、これは全員共通か……)
 どこからどう見ても、完膚なきまでに別人だった。



「俺は天才レオリオだ」



「お前のようなレオリオがいるか」

 クラピカは冷静に否定した。
 なんていうか、どこからどう見てもレオリオではない。
 どこの誰が見てもわかる完璧な偽者である。
 むしろこれで騙される奴がいたら、そいつは馬鹿だ。

「おいおい信じろよ。天才的な医療の腕を持つ俺はマッスルームによって超進化したのさ」
「そんな嘘に騙される奴がいたら逆に私は尊敬する」

 冷たく突き放し、クラピカは武器を構える。
 二本の刀を紐で繋いだ、クルタ族のみが使う特殊な双刀だ。
 今まで数多の戦いを共に潜り抜けてきたクラピカの相棒でもある。

「何故わかった……俺の、この完璧な変装を」
「誰でもわかる」

 よくよく考えれば、そもそもレオリオが医療鞄を持っているわけがない。
 彼は第一試験の途中で鞄を捨てているのだ。
 ならば、鞄を持っていることこそ、逆にレオリオでない証拠だ。

「なるほど、油断ならん切れ者のようだ」
「だから誰でもわかると言っただろう」
「よかろう! ならば貴様には我が北斗神拳をお見舞いしてやろう!」
「人の話を聞け」

 「ヒョオアッ!」などと意味不明な奇声を上げてレオリオ(偽)が飛び立つ!
 クラピカはそれを迎撃するため刀を投擲するもレオリオ(偽)は素手で防御。
 だが防御されると同時にクラピカが腕を引くと、投擲した刀がクラピカの手元へと吸い寄せられ、再び手の中に納まった。
 これこそが、この武器の特徴。
 二本の刀は紐で繋がれているため、一つを手放しても、もう一つさえ手元にあればまた引き戻せるのだ。

「はあ!」

 今度はクラピカ自身が跳躍して接近、刀を振るう。
 対するレオリオ(偽)も蹴りで応戦。両者が空中で交差した。
 互角……ではない。
 技のキレはクラピカが上だ。
 レオリオ(偽)の腕から血が噴出す!

「ぎゃあああああ! て、天才の俺の腕があああ!」

 クラピカは笑みを浮かべ、この男が大した使い手ではないことに安心する。
 マッスルームを食してこの程度ならば、この男は元々大したことがなかったのだろう。
 勝利を確信し、だがその直後レオリオ(偽)はとんでもない行動に出た。
 何と、自分の身体を自らの指で突き刺したのだ。

「アミバ流北斗神拳!」

 今コイツ自分でアミバって言った。もう絶対レオリオではない。
 そう呆れるクラピカの目の前で彼は変わった。
 元々筋肉質だった肉体はより巨大になり、その全長はいまや5メートルを超える。
 とんでもない変貌である。

「え……」

 流石のクラピカもこれには開いた口が塞がらない。
 さすがに生身の人間がここまで大きくなるのは予想外すぎる。
 その呆気に取られているクラピカへ、アミバは遠慮なく蹴りを打ち込む!

「しまっ……!?」

 咄嗟に防御したものの、腕は軋み、身体ごと吹き飛ばされる。
 2度、3度地面をバウンドし、すぐに起き上がるも、すでにアミバは目の前にまで迫っていた。

(まずい……!)

 ここまでか!
 いや、まだだ!
 クラピカはこの期に及んでまだ諦めることはしない。
 咄嗟にカウンターで切り落とすべく刀を振り切る。



「やめろ二人とも……命は投げ捨てるものではない」



 だが、その刀が届くことはなく、逆にアミバの拳もクラピカには届かなかった。

「な!?」
「え?!」

 二人を止めたのは、髭を生やした一人の男だった。
 白い髪に、痩せこけた頬。
 悟りきったかのような、静かで、穏やかで、底知れぬ深い理知的な瞳。
 一見細身でありながら、しかしその肉体はどうか。
 引き締まり、一切の無駄なく鍛えられた芸術の如き肉体ではないか。
 それでいて、何と静かな佇まいだろうか。
 まるでそれは静かな静水をイメージさせる姿ではないか。

 昔、その姿をクラピカは見たことがある。
 そう、その様はまさに……神の子と言われた聖者! その肖像画に描かれた姿そのものではないか!

「危ないところだったな、クラピカ」
「……その、すまないが、ええと……誰だ?
ていうか……うん、誰?」

 全く見覚えがない。
 というか、こんな印象に残る姿の人間、一度会えばまず忘れないだろう。
 自分の記憶違いということはないはずだ。

「わからぬのも無理はない。私は一度比類なき剛拳を目指し、だが静流こそ激流を制すと悟って今の姿となった」



――私だ。レオリオだよ。



「お前のようなレオリオがいるかァァァ―――――――ッッ!!!!」

 そう、クラピカは心の底から叫んだ。
 ない。いくら何でもこれはない。
 もうこれは、成長したとか変わったとか、そういう次元ではない。
 原型を留めていないにも程がある。これでは最早完全に別人だ。
 むしろ髪が黒い分、まだアミバのほうがマシだ。

「レオリオォ! ここで会ったが百年目だぜえ!」
「哀れな……」

 アミバがレオリオに飛び掛る!
 クラピカはもう戦いを見ていない。
 頭を抱えて「これは嘘だ」とブツブツ呟いている。

「せめて慈悲の拳にて葬ってやろう」

 レオリオは静かに呟くと、流れるような動作でその場に胡坐をかく!
 そして両手を頭の位置にまで上げ、五指をピンと伸ばす。
 それと同時に両手から発射される、白い光! それがアミバを捕らえ、その動きを奪った!

「北斗! 有 情 破 顔 拳 !! はぁーーーんッ!!!」

 目にも見えない速度で腕を振り下ろし、光の刃を解き放つ!
 その刃はアミバの身体を通り過ぎ……しかし何も起こらない。

「……は、ははっ! 何も起こらないじゃないか! 脅かしやがって!」

 アミバは笑い、再びレオリオに飛びかかろうとする。
 だが動かない。
 それはそうだろう。今彼の足は捩れに捩れ、歩ける状態ではなくなっているのだから。

「あ、あれ……? お、俺の脚……なんで……。それに、痛くない……!
むしろ……き、気持ちいい……!?」
「有情拳は死の間際に痛みではなく、天国を与える慈悲の拳……」

 彼の足は捩れ、千切れていた。
 いや、足だけではない。
 腕が、足が、首が、胴が、肘が、膝が!
 次々と捩れ、壊れていく。
 だが痛くない。この世のものとは思えない快楽だけが脳髄を焼いていく!

「うわちにゃらば!!!」

 やがて身体の限界を迎えて彼は木っ端微塵に弾け飛び、奇声を最後にこの世を去った。
 その姿を見つめ、レオリオは笑うでも悲しみでもなく、ただ穏やかに言った。

「安心しろ。まだ秘孔を突き切ってはいない」

 そのレオリオの広い背中を見ながら、クラピカは微笑みを浮かべる。
 もう、怒りも嘆きも沸いてこない。
 何が何だか、もうわけがわからない。
 だが、たった一つわかったことがある。
 それがわかったから、クラピカは全てを悟って微笑んだのだ。





 もう、このハンター試験は駄目だ。
















    北斗有情破顔拳
   \   テーレッテー     /
    \   炎   /
     |∩( ・ω・)∩|   
    / 丶    |/  \
  /   ( ⌒つ´)    \
ついに世紀末参戦でますます事態は混沌の坩堝に。
私自身、もうどう収集つければいいのかがわかりません。
まあ、完結はさせますけどね。

レオリオについては……ほら、いるじゃないですか。
逆行SS最盛期の、名前だけ同じでほとんど別人にカスタマイズされているキャラ。
特にシンジ君とか、銀髪紅目になったりして容姿まで別人になることありますし。
今回のレオリオはその延長線上と思っていただければ。

北斗有情破顔拳
系統:放出系
制約:胡坐をかかなければならない
効果:相手は死ぬ



[21843] こんな第四次試験は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/20 20:04
「まさか貴方と戦う事になろうとは……」
「…………」

 二人の男が、林の中で対峙していた。
 一人は山田・K・政人。
 生後1ヶ月でありながら強靭な肉体を持つ漢。
 一人はゴンさん。
 圧倒的なオーラと肉体、そして髪の毛を持つ漢。
 このハンター試験の中でも桁外れに強い二人が正面から相手を見据える。

「100%でいこうか……!」
「本気でいくぞ……!」

 政人のターゲットは405番、ゴンさん。
 ゴンさんのターゲットは19番、政人。
 互いが互いにターゲットだ。

 政人の筋肉が膨れ上がり、周囲の木々や小動物が次々と死に絶えていく。
 100%の彼は酷く腹が減る。
 そのため周囲の生物のオーラを無差別に喰らっていくのだ。
 相手が弱ければ、100%になっただけで勝利を手にすることが出来る、前代未聞の能力だ。

 だが対するゴンさんも負けてはいない。
 彼は政人へ頭を向け、髪にオーラを込める。
 それと同時、政人は横へ飛び、彼のいた場所を髪の毛が貫いていった。

「長いな……一体どれほどあるんだ、その髪の毛は」



「13kmだ」



 ゴンさんの口から出た酷い長さに驚くも、まあそのくらいあっても不思議ではない、と妙に納得してしまった。
 そしてその髪の長さは最大の武器ではあるだろうが、短所でもある。
 その長さでは小回りは効くまい!
 そう判断し近づいた政人だが、そこで目を見開いた。
 ……髪の長さが1メートルほどになっている……?

「俺の髪の毛は最長の髪の毛ではない……最速の髪の毛なんだ」

 ゴンさんの髪の毛の最大の脅威は、何と言ってもその伸縮の早さ!
 その速度、実に音速の500倍。
 政人といえど、見てから避けては間に合わない!

「伸びろ……髪殺槍かみしにのやり!」
「髪の毛で俺を止められると思うな!」

 ゴンさんが髪の毛を伸ばすも、政人はそれに正面からタックル!
 髪の毛が千切れ飛び、距離を詰める。

「ふん!」

 政人の100%の拳がゴンさんを捉え殴り飛ばす。
 普通ならばここで、諦めなくても試合終了だ。
 だがゴンさんもまた、政人に劣らぬ強者。
 空中で一回転、何事もなかったかのように着地した。
 そして政人は見た。
 先ほど千切った髪の毛がすでに再生しているのを。

「ジャブでは流石に倒せんか……」
「ネフェルピトーの一撃が児戯に見えるナックルだった……あれをジャブと言うか」

 やはりこの目の前の相手は強い。
 そう互いに認識し、二人は同時に地を蹴った。

 ゴンさんの振るう髪の毛が周囲を薙ぎ払う。
 政人が動くたび、周囲の生物が死滅していく。
 まさに動く破壊兵器。この二人が戦い始めてからまだ30秒しか経っていないにも関わらず、辺り一体は荒野と化している。

 そしてそれは、ここだけではなかった。



「嬉しいぜ、ウォーズマン! お前とは一対一で戦ってみたいと思っていた!」
「ならば俺の全力をもって挑んでみせよう、ウボォーギン!」

 同時刻。
 草原で戦う二人の影があった。
 黒い超人ウォーズマンと幻影旅団ウボォーギンだ。
 こちらも互いに手加減などはない。
 ウォーズマンは最初からウォーズマンスマイルを浮かべ、ウボォーもオーラを全開にしている。

「二刀流スクリュー・ドライバー!」
「ビックバン・インパクト!」

 回転しながら突っ込むウォーズマンを、ウボォーの拳が迎え撃つ。
 衝突! 衝撃! そして破壊!
 周囲一体が余波で消し飛び、二人は距離を取る。

「アレでいくしかなさそうだな!」
「本当のビックバン・インパクトを見せてやるぜ!」

 ウォーズマンが高く跳躍!
 二刀流で200万パワー! いつもの二倍のジャンプで400万パワー!
 そしていつもの3倍の回転を加えて1200万パワーだ!!

 対するウボォーが行ったのは【硬】!
 元々ビックバン・インパクトはただの【凝】だった。
 これは彼の仲間の台詞だが「ぶっちゃけると念を込めただけの右ストレート」、それがビックバン・インパクトの正体。
 つまり【発】でもなんでもない!
 だがこの新しいビックバン・インパクトは違う。
 【硬】によってその威力を跳ね上げ、さらに【発】とすることで更に強化。
 通常の【硬】の二倍の威力を引き出している!

 本来のビックバン・インパクトのパワーは200万パワー!
 【硬】によって3倍の600万パワー!
 さらに【発】によって更に2倍の……1200万パワー!!

「コォォォーホォォォーーーッ!!!」
「オオオオオオオオーーーッ!!!」



 彼らを中心とした、半径30メートルが塵と化した。



*



 戦いは、同時刻にあちこちで行われていた。
 島に解き放たれたマッスル達がそれぞれの獲物を見つけ、あるいは見つけられ、全てが一斉に戦闘へ突入したのだ。

 筋肉と筋肉がぶつかり合い、汗が飛び散り、そして木々が被害を受ける。
 マッスルが動くたびに地面が揺れる。
 筋肉が躍動するたびに自然が壊れる。
 その戦いをモニターで見ていた試験官……ビスケット・オリバは「ヒュウ」と口笛を吹く。

「コリャ凄エ、受験生ヨリ先ニ島ガ減ッチマウゼ」

 モニュ……モニュ……。
 ゾブ……。
 とても囚人とは思えない、貴族の如き部屋で、テーブル一杯に並べられた豪勢な食事を口へ運ぶ。
 最高級の霜降肉をナイフで切り分け、齧る。
 ワインも最高級だ。
 それを手にしようとし……だが、横から伸びてきた手がそれを奪い取った。

「……姉サン」
「今年のハンター試験はえらい事になってるじゃないよのさ」

 オリバが姉と呼んだその存在は、小さな、愛らしい少女だった。
 茶色の髪の毛はツインテールに結ばれ、その顔立ちは人形のように整い、大きな目がクリクリとしている。
 服装は赤を基調としたゴスロリ服だが、この少女にはこの上なく似合っていると言えるだろう。

 ビスケット・クルーガー。
 見た目こそ幼い少女だが、その実年齢は57才。
 最強のブラックリストハンターであるオリバがこの世で唯一頭が上がらない彼の実姉だ。
 本名はクルーガー・ビスケットだが、オリバのような筋肉達磨と姉弟だということを知られなくないためファーストネームとセカンドネームをあえて逆にしている。
 勿論それはオリバも同様だ。

「クルーガー姉サン、ドウシ……」

 何故ここにいるのか、を聞こうとしたオリバだが、その顔面に拳がめり込んだ。

「ビスケと呼びなさい」
「……ス、スマネェ……」

 ふん、と鼻を鳴らしビスケはモニターを見る。
 そこでは大勢のマッスルが己の肉体をぶつけ合っていた。

「いい身体してんじゃないの」

 彼女はこう見えて大の筋肉好きである。
 これはゴンさんの逆行前の世界での話であるが、彼女はゴンとキルアが修行しているとき、男の裸(マッスル)が掲載されている雑誌を堂々と読んでニヤついていたのだ。(第20巻・31P参照)

「筋肉ニ惹カレテキタカ……」

 やれやれ、とオリバが苦笑する。
 彼女は自分自身や自分の身内がマッスルと思われるのは嫌うクセに、見るのは好きなのだから困ったものだ。
 だがオリバは知っている。
 何を隠そう、そのビスケ自身こそが他の何者をも越える超絶なマッスルであることを。
 今の愛らしい姿などカモフラージュに過ぎない。

「で、どうするの? このままじゃ島がなくなっちゃうわよ。
さすがに試験一つのために島を消しちゃったんじゃ後であちこちからクレームが来るんじゃない?
自然保護団体とか」
「ソイツハ面倒臭エナア」

 面倒だが、充分にあり得ることだ。
 このマッスル達は強すぎる。
 どう考えても過半数の脱落者を出す前に島が消える。
 それでも続行しようものなら、また別の島を生贄に捧げるしかないだろうが、それでもやはり島が先に消えるだろう。
 本当はここで数を減らしたかったが、それまでに出るだろう被害を考慮すると、これ以上の続行は愚行にしかならない。

「ヤレヤレ……」

 オリバは携帯電話を手に取り、電話をかける。
 相手はハンター協会の会長、ネテロだ。

「ヨウ、会長」
『オリバか。試験の方はどうじゃね? そろそろ200人くらいにはなっとると嬉しいんじゃが』
「マダ3人シカ脱落シテナイゼ」

 脱落したのはアミバとポンズ、スパーだけである。
 他のマッスル達は依然健在だ。
 そしてここで遂に貴重な女性受験生が壊滅したことになる。

「ソシテ、ビッグ・ニュースダ」
『なんじゃ?』
「コノママジャ、ゼビル島ガ壊滅スル」

 携帯電話のカメラ機能でモニターに映ったゼビル島を撮影。
 その写真を転送した。

「御覧ノ有様ダヨ」
『ば、馬鹿者! 早く止めんか! ゼビル島は自然保護地域なんじゃぞー!?』
「マダ402人モ残ッテルゼ」
『……。か、構わん! 島のほうが大事じゃ!』

 数秒悩んだような沈黙の後、ネテロは遂に折れた。
 第4次試験はここで強制的に終了させ、最終試験へとシフトするしかない。
 それは実質上、402人の第4次試験突破を意味している。





 かくしてここに、前代未聞、最終試験人数402人が実現したのである。












        *'``・* 。
        |     `*。
       ,。∩ 炎    *    もうどうにでもな~れ
      + (´・ω・`) *。+゚
      `*。 ヽ、  つ *゚*
       `・+。*・' ゚⊃ +゚
       ☆   ∪~ 。*゚
        `・+。*・ ゚
遂に最後まで残ってしまったマッスル398人。
そして数少ないスリム側からポンズとスパーがリタイアしてしまいました。
スパーは原作通りギタラクルに殺され、ポンズは……。
まあ、原作で彼女をターゲットにしていたのが誰か、を考えればポンズが残れるわがないということに気付いてもらえるはずです。

あ、死んではいませんよ。



[21843] こんなネテロ会長は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/21 20:17
 小さな和室の中に、一人の老人が座っていた。
 ピカピカに添った頭の上にチョコン、と結った白い髪が乗っている。
 眉毛は同じく白く、長い。
 顔には長い年月を生きてきたことを証明するかのような深い皺が刻まれており、年季を感じさせる。
 その目は思慮深く、穏やかだ。
 服装は、奇妙な格好だ。
 “着物”と呼ばれるジャポンの民族衣装である。

 ハンター協会会長、ネテロ。
 それが老人の名だった。

「…………」

 ネテロは静寂が支配する和室の中、一人考えていた。
 最終試験参加人数402人。
 優秀な数字だ。
 ……優秀“すぎる”数字だ。
 今年こそ、こんな数の受験生が最後まで残ってしまったが本来ハンター試験は超難関のはずなのだ。
 毎年数万、数十万の人間がハンターになることを夢見て応募し、しかし試験会場まで来れるのはほんの一握り。数百人程度だ。
 試験会場に来るだけですでに困難。百分の一程度の数しか残れないのだ。

 試験内容は更に過酷だ。
 数万人の中から辿り着けた、そのたったの数百人ですら次々と脱落する厳しい試練が次々と容赦なく受験生を襲う。
 普通に脱落すればまだ来年がある分幸せ。
 再起不能に精神崩壊、最悪死亡だって珍しくない。
 そうして最終試験に来る頃には受験生の数は一桁にまで減っている。
 いや、一人も来れないことだってある。

 そうして、その過酷な試験全てを乗り越えた者だけがハンターになれるのだ。
 合格者は一年につき、3人いればいい方だ。
 5人もいれば、もうその年は豊作といっていい。

 対して……今年のハンター試験は402人!

 とんでもない数字である。
 例年のハンター試験合格者の実に100倍に匹敵する。
 このままだとハンター試験100年分の合格者が出てしまうわけだ。

 最後の試験の傾向は決まっている。
 実のところ最終試験は実力を試すための試験ではない。
 ここまで来れた以上、十分な強さを持っていることなどわかっているからだ。
 最後に見たいもの、それは心の強さ。
 何が何でもハンターになるんだという、その芯の強さを見せて欲しい。
 故に毎年、最終試験はそれを試すような内容と決まっている。

 そして今年は負け上がり式トーナメントの予定だった。
 相手を死亡させれば失格という条件のもと、勝利条件は相手に「まいった」と言わせることのみ。
 10カウントダウンもKOもポイントもない。
 相手の心を折る。ただ、それ一つのみ。

 ……しかし、だ。
 このやり方では失格者は一人しか出ない。
 残りの401人が合格してしまう。
 前代未聞の3桁合格が実現してしまうのだ。

 勿論優秀なハンターが増えることは大歓迎だ。
 例年よりも多くの合格者が出ることは普通ならば実に喜ばしいことだ。
 だが、さすがに400人は多すぎる。

「どうしたもんかのお……」

 ネテロは考える。
 ここまでこれた以上、彼らの実力は疑うべくもない。
 ネテロとしても、景気よく合格にしてやりたい。
 だがこの数はあまりにも、かつてなさすぎる。

「いいんじゃないの?」

 悩むネテロへと、声がかけられる。
 いつの間にそこにいたのか、そこには一人の少女……ビスケット・クルーガーが立っていた。
 彼女は凄腕のハンターだが、それでもこんな近くに来るまで気付かないとは余程思考に没頭していたらしい。

「優秀なハンターが増えるのはこっちとしては大歓迎だわさ。
それにどうせここで落としても来年また来るんだから同じことでしょう。
予定通りやっちゃいなさいよ」

 今年落としても同じこと。
 そうだ、とネテロは内心同意する。
 ここで仮に大多数を落としたとしよう。
 その落とした連中はそこで諦めるか? 否だろう。
 ならば来年結局またこの悩みに直面することとなる。
 ここで落としても問題を先延ばしにするだけなのだ。

 それに、だ。
 あの集団を見ていると思い出す。
 かつて、まだ未熟だった頃。
 ただ一心不乱に己を鍛えてきた時のことを。

 あれはもう……100年は昔のことだろうか。





 ネテロは当時、一人で山篭りをしていた。
 深い意味はない。
 ただ、己をここまで鍛え育んできた己の肉体に何か恩返しがしたかったのだ。

 辿り着いた答え。
 それは“感謝”であった。
 朝起きて、座る。
 そして両手を合わせて祈り、その手を地面へとつく。

 そして一日一万回、感謝の腕立て伏せ!

 一日中腕立てをし、終わったら寝る。
 そして起きたら今度は一万回の腹筋をし、その翌日には背筋。
 更に翌日にはスクワット、その翌日には反復横飛び。
 そして一周してその次の日にはまた腕立てだ。

 山に篭って、数年が過ぎた時、気付く。
 一万回を終えても、日が沈んでいない!
 そしていつからか、一日のメニューに腕立て、腹筋、背筋、スクワットに反復横飛び全てが入り、それら一連の作業全てを入れても3時間経たなくなっていた。

 山を降り、ネテロはその当時の心源流空手師範に勝負を申し込んだ。
 勝負の前に出された条件は「それに見合う力を見せること」。

 ネテロは、師範の前で全裸になり反復横飛びを披露。
 音を、置き去りにした。

――か、観音様が……!――

 光り輝くネテロの股間……ではなく、筋肉。
 それに当時の師範は神を見た。

――看板は、さしあげます……ですから、私を弟子にして下さい――

 戦わずして己の敗北を認めた師範は土下座をし、ネテロに懇願をする。
 その姿を見たネテロは満足げに笑い、そしてこう言ったのだ。

――いいよ。プロテインを奢ってくれたらな――



*



 最終試験。
 その試験会場は運営が経営するホテルのロビーだ。
 そこに集まり、ぎゅうぎゅう詰めになったマッスル約400人。
 汗臭く、むさ苦しい空間だ。真夏の満員電車より酷い。
 全員の熱気が湯気となり、ロビーを白く染め上げる。

 そこに、ネテロが入ってくる。
 いや、入ろうとしたがスペースがなかったため、仕方なくロビーの外に立った。

「……ビューティフル」

 それは、誰の言葉だったか。
 いや、あるいは全員の代弁だったかもしれない。(一部除く)
 入ってきたその老人は、上半身裸であった。

 まるで一流の芸術家が彫った彫刻のような、その肉体。
 細く、しなやかに、だが力強さを感じずにはいられない四肢。
 それはまるで、大理石で作られた彫像のようだった。

――これが、ハンター協会会長……ネテロッ!!

 戦慄する全員の前で、ネテロは口を開いた。

「諸君、よくぞここまで残った。
さて、最終試験のルールを説明しよう。
……最終試験は一対一のトーナメント形式で行う」

 ネテロは近くに置いてあった、布をかぶせられたホワイトボードに手を伸ばし、布を剥ぎ取る。

「その組み合わせは、こうじゃ」

 そこに書かれていたのは、実にかたよったトーナメントだった。
 通常トーナメントは公平を期して全員が均等に戦うようになっているはずだ。
 だがホワイトボードに書かれたそれは戦う回数がてんてバラバラ。
 シード選手が何人もいるような、極めて不公平な配置となっている。

「さて最終試験のクリア条件だが至って明確」

 ネテロは人差し指を立て、全員に聞こえるように言う。

「たった一勝で合格である」
「ふざけんなァァァ! 正気かてめー!?」

 でかい声で異議を唱えたのはキルアだ。
 マッスルのぎゅうぎゅう詰めで意識が朦朧としていた彼だが、ネテロの暴言を聞いて我に戻ったのだ。

「このマッスル共がほとんどハンターになっちまうじゃねーか!
もっと落とせよ、何やってんだ!」
「私も異議を唱えたい! この試験は間違っている!」

 キルアに続いてクラピカも異議を唱える。
 彼らとしては一人でも多くマッスルを減らして欲しいのだ。
 なのに、その大半が合格するとはどういうことか。

「俺も納得いかねーな! どう考えてもおかしいだろうがよ!」

 続いてジャポンの忍者ハンゾーが不平を口にした。
 彼もまた、ここに残った数少ないスリムの一人。
 マッスル反対派だ。

「諸君らが何を言おうと覆ることはない。
何か質問は?」

 哀れ、キルア、クラピカ、ハンゾーの異議は受け入れられることはなかった。
 悔しがる三人を尻目にポックルという青年が手を上げる。
 三角の帽子を被った猫目の男で、上半身は裸。
 マッスルームの恩恵により、その肉体はガチムチだ。

「組み合わせが公平でないわけは?」
「うむ、当然の疑問じゃな」

 これは誰もが抱いた疑問だろう。
 当然それに対する答えも用意してある。
 ネテロは説明した。
 この組み合わせは今までの成績を元に決められている、と。
 簡単に言えば成績のいいものに多くのチャンスが与えられているのだということを。

 審査基準は大きく分けて三つ。
 まず身体能力値。
 敏捷性・柔軟性・耐久力・五感能力などの総合値によって判断される。

 次に精神能力値。
 耐久性・柔軟性・判断力・創造力などの総合値によって決まる。

 だが重要なのはそこではない。
 いずれもここまで残った猛者なのだ。ある程度優れているのは当たり前である。

 重要なのは印象値!

 これはすなわち前に挙げた二つでは図れない“何か”!
 そしてこの印象値で突出しているのはゴンさん、政人、ウォーズマン、ウボォーの4人!
 嫌が応にも目立つ4人だ。印象に残るなという方が無理である。
 それに追随する印象を試験官に与えたのはレオリオ!
 途中、完全に顔が変わってしまったせいで「こいつ誰だっけ?」などと思われたものの、1次試験の途中で見せた執念や4次試験で見せた北斗神拳のインパクトはでかい。

「戦い方も単純明快! 反則なし武器OK、相手に“まいった”と言わせれば勝ち。
ただし、相手を死に至らしめてしまった者は即失格。その時点で残りの者が合格、試験は終了じゃ。
よいな?」



 第1試合。
 ハンゾーVSゴンさん。

 ハンゾーはゴンさんを見てこう考えた。
 どう考えてもパワーでは勝ち目などない。
 だがあの図体だ。スピードならばこちらが上のはず。
 速さでかき回して勝機を見つける!

「それでは、始め!」

 審判の声と同時にハンゾーは横にダッシュ!
 幼い時より過酷な忍者の訓練を受けてきたからこその、目にも留まらない速度だ。
 そのハンゾーの目の前。
 ゴンさんが、あっさりと追いついた。

「おおかた足に自信アリってところか……認めるよ」



ボ!



 そんな爆音が響き、ハンゾーは蹴り上げられ、天井に突き刺さった。
 手加減はしたが、それでももう動くことができなくなる一撃だっただろう。
 そのハンゾーへ、ゴンさんは慈悲なく告げた。



「筋肉がないにしちゃ上出来だ」






















       _炎__
     /ノ   ヽ、_\
   /( ○)}liil{(○)\
  /    (__人__)  \   ハンゾォォォォォ!!!
  |   ヽ |!!il|!|!l| /   |
  \     |ェェェェ|    /
字を大きくして擬音を出す方法はあまり好ましくはないのですが、ゴンさんのキックのインパクトを出す方法としてはこれが最適でした。
やはりあの「ボ」音はかかせません。

ところで最近気付いたんですけど、ここってタグ編集しても再編集すると勝手にそのタグが消えてたりすることあるんですよね。

あ、ハンゾーは生きてますよ。念のため。



[21843] こんな最終試験は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/22 19:50
「ぐ、おおお……」

 なんとか天井から降り、ハンゾーは痛む頭を抑える。
 受けた攻撃はたったの一撃だったが、それだけでもうグロッキーだ。
 悔しいが正直実力では太刀打ちできない。格が違いすぎる。

「まだやるか?」

 頭上から、声。
 それはハンゾーを見下ろすゴンさんが発したものだ。
 もう降参してしまうか? 弱気がハンゾーの心を支配しかけ、ハンゾーは首を振る。
 まだ戦いは始まったばかりだろう。こんな早く折れてどうするか。
 それに実力では勝てずとも、方法がないわけではない。

 毒だ。

 忍者であるハンゾーは常時毒を持ち歩いている。
 即効性の猛毒、自白剤に遅効性の毒。
 遅効性の毒を刃に塗って掠らせ、解毒剤を駆け引きの材料として降参を迫る。
 この実力差ではそれがベスト!
 だが正面からやりあっても通じないだろう。
 ならば取る手段は不意打ち!

「へっ……お前が、強いのは、わかったが……だ、だからといって……諦めるわけにゃあ、いかねーんだよ……!」

 ゼエゼエと荒く息をし、足を生まれたての小鹿のように震えさせる。
 「もう戦う力なんかありませんよ」という演技で相手の油断を誘うのだ。
 ……いや、割と演技抜きでまずいかもしれない。さっきのキックはそれ程の威力だ。
 ゆっくりと、ゆっくりとハンゾーはゴンさんに近づいていく。
 油断させる振る舞いに加えて泣き落としも加えれば、一撃くらい掠らせることはできる。

「まっすぐ自分の忍道は曲げない! それが俺の忍ど……」



ボ!



 何をされたのか理解したときには、意識が朦朧としていた。
 台詞を言う間すらなくゴンさんのキックで今度は壁にめり込んだのだ。
 無意識のうちに身体に染み付いた反射で受身を取ったからよかったものの、そうでなければ死んでいたかもしれない。

(天さん……僕の泣き落としが通じない……あ、天さんはどっちかーつうと俺か……ハゲ的な意味で)

 しかしこのゴンさんという対戦相手、相手を殺してはいけないということをちゃんと理解しているのだろうか?
 さっきから即死してもおかしくない攻撃ばかり繰り出してくる。まだ二発しか喰らっていないが。
 ハンゾーは理解した。
 こいつは駄目だ。下手をするとルールそのものを理解していない。
 このままでは殺されてしまう。
 それゆえ、勝利を諦め彼はこの場での最善の選択を口にした。

「ま、参った……俺の負けだ」



*



 それから試合は続き、キルアは尽く負けた。
 1回戦ではいきなり政人とぶつかってしまい、試合開始と同時に降参。
 2回戦では何故かウォーズマンと衝突。
 なんでも、1回戦でウボォーとぶつかったらしく、互いにダメージを受けないうちに勝ちを譲ったらしい。
 当然勝てるわけがないので泣く泣くキルアは降参を宣言して次へ進む。
 続く3回戦、今度はレオリオという名前の聖者のような男だ。
 彼は1回戦では友人であるクラピカとぶつかって、勝ちを譲り、続く2回戦ではハンゾーとぶつかり、彼が可哀想だったので勝ちを譲りったらしい。
 キルアはレオリオに果敢に挑んだものの、まるで勝負にならず惨敗。
 壁際に追い詰められた挙句、30秒に渡り延々とバスケットボールのように空中遊泳をさせられた。
 まるで格闘ゲームのハメ技である。いや、それより酷いか。
 こんなバランスの壊れた格闘ゲームがあるものか。

 そして涙目で進んだ第4回戦。
 対戦相手はギタラクルなる全身を針で刺した奇妙な男だった。

 マッスルでないなら勝てるかもしれない。
 そう挑もうとしたキルアの前で、ギタラクルは言った。

「久しぶりだね、キル」

 懐かしい声だ。
 そして、何度も心の中で助けを求めた声でもある。
 まさか、と期待に目を見開くキルアの前でギタラクルは針を抜いていく。

 現れたのは、艶やかな黒髪を伸ばした男だ。
 感情を感じさせない猫のような目に、整った顔立ち。
 ゴツゴツとしたマッスルばかりを見てきたキルアにとって、その見慣れた顔はやけに新鮮に見えた。

「あ、あ……兄貴ィィィィィ!!」
「え?」

 キルアが思わず取った行動。それは抱きつくことであった。
 我を忘れて走り、久しく見た兄の胸へ飛びついたのだ。
 ああ、いつもなら怖く、近づきたくない兄の、今は何と心強いことか!

「兄貴! 兄貴! 会いたかった!」
「……うん、その……予想外の反応だよ、キル」

 キルアに嫌われていることを知っていた兄ギタラクル……いや、イルミ・ゾルディックとしてはこの弟の反応は予想外すぎた。
 てっきり反発されるか、あるいは恐れられると思っていたのにまさか涙を流して抱きついてくるとは。

「……キル、ハンター試験は楽しかったか?」
「最悪だったよ! もう二度とこねえ!」
「……母さんとミルキを刺して家を出たんだってね。母さん泣いてたよ」
「土下座して謝る! もう二度と外出ない!」
「…………」

 イルミは言葉につまってしまった。
 どうしよう、予想外に素直すぎて逆に言うことがない。

「キル、お前にハンターは向かないよ」
「わかってる! 俺の転職は殺し屋だ! マッスルを皆殺しにしてやる!」
「…………じゃあ、帰ろうか?」
「ああ!」

 キルアはその場で「参った」と降参してあっさり負けを認めた。
 さらにネテロに向かって「俺帰るから! 他全員合格でいいよ!」などと言う始末だ。
 彼としてはもう、この場に一秒だっていたくなかった。
 本当はすぐにでも帰りたかったのだ。
 だが母と兄を刺して家出してしまった手前、今更一人で家に戻るのも躊躇われ、一人でしばらく生きるためにはハンター資格が必要だったのだ。
 だが、向こうから連れ戻しにきてくれたのだ!
 ならばもう、ハンター資格などに用はないッ!!

「さあ兄貴帰ろうすぐ帰ろう今すぐ帰ろう!」
「あ……うん」

 グイグイとイルミの手を引き、汗臭い空間を後にする。
 ああ、外はなんて素晴らしい! 空気がなんと美味い!
 己の進むべき道が見えた。心は実に晴れやかだ!

 こうして、キルアのハンター試験は幕を閉じた。



*



 家に帰るなり、もう一人の兄であるミルキからの鞭の洗礼を受けた。
 鉄の鎖で両手足を拘束されて鞭で何度も打たれ続けるのだ。
 幼い頃から慣れしたんだ拷問。
 そこに苦痛はない。むしろ安心感すら感じる。
 ああ、俺は帰ってきたんだ……と。
 汗臭いという意味ではミルキもマッスルと大差ないが、こいつはただの肥満だ。
 マッスルのような鬱陶しさがない。

「兄貴」
「なんだよ?」
「ごめんな、腹、痛かっただろ」

 普段なら絶対にしない心からの謝罪に、相手を気遣う言葉。
 それが今なら自然に口から出る。
 人は最悪の後ならば容易く最高を感じることができる。
 キルアは今、家族に対してこの上なく優しくなれる、そんな気がしていた。

「なっ、なにを言って……!?」
「ところで兄貴さあ、痩せたらどうだ?
きっと格好いいと思うぜ。いや、マジで」

 ミルキは体重150を越える肥満男だ。
 だが実のところ顔立ち自体は決して悪くない。
 鋭く細い目に、形のいい鼻。
 もし痩せればキルアやイルミにも負けない美形となるだろう。

「……な、なんか調子狂うな」

 毒気をすっかり抜かれてしまったのだろう。
 ミルキは舌打ちを一つすると鞭を床に捨ててその場を立ち去ってしまった。
 その後に今度は祖父……ゼノ・ゾルディックが入ってくる。
 逆立った白髪が特徴のベテラン暗殺者だ。
 服の前掛けには「一日一殺」と書かれている。

「キルア、もういいぞ」

 何が「もういい」のか普通はわからないだろう。
 だがこの暗殺一家で生まれたキルアにはわかる。
 この場合のもういい、とは「もう拷問を受けなくてもいい」ということだ。

「はーい」

 軽く力を入れて鎖を引きちぎり、容易く自由を得る。
 キルアにとってこの程度の拷問は簡単に抜け出せる程度のものだ。
 それをあえて大人しく受けていたのは、本当に自分が悪いと思っていたからだ。

(やっぱ我が家は落ち着くなあ)

 キルアは今、かつてない安心感に包まれていた。
 他の一般家庭から見れば狂ってるように映るだろうこの家庭こそが自分の家だ。
 今までは嫌悪しかなかったが、今は違う。

 ああ、我が家って素晴らしい。
 そうキルアは心より思っていた。



 ――だが、彼は知らない。



「キルアのあの様子、絶対変だったぜ!」
「かすかだが念を感じた! きっとありゃ操作系だ!」
「何!? と、するとキルアは操られて……!? ゆ、許せん!」



 ――このとき、ククルーマウンテンに、複数の巨大な影が近づいていたことに。



「キルァァァァ! 宇宙一素敵な仲間達が今助けにいくぞおおおお!!」



 ――悪夢はまだ、終わっていない。















         |
     \  炎    /
         ( ゚д゚ )
    ─   O┬O   ─    今いくぞ! キルァァァ!
        ( .∩.|
     /  ι| |j  \
          ∪



[21843] こんな侵入者は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/26 23:09
 時間は、少々遡る。



 キルアが去った後、試験会場では大きな変化が訪れていた。
 それは奇跡の時間、その終了の瞬間だ。
 受験生達は今、人智を超えた筋力を手に入れているが、それはマッスルームの効果によるものだ。
 そしてマッスルームの効力は永続ではない。
 所詮これは、一時のみの強化に過ぎない。その終わりの時がきたのだ。

 試験終了と同時に一斉に縮み、元のサイズに戻る受験生達。
 彼らはさぞ弱ったことだろう。
 この試験をここまで簡単に突破できたのは、間違いなくマッスルームのおかげだ。
 だがその効果を失った今、ハンターとして果たしてやっていけるのか?

「そうだ、もう一度詐欺師のねぐらへ行こう!」

 誰かが口にした言葉。
 それに受験生達は次々と賛同した。
 そうだ、もう一度マッスルームを食べればまた俺達は強くなれる!
 行こう、詐欺師のねぐらへ!
 そう、浮き足立った受験生達だが、次の瞬間静かな声が彼らを諌めた。

「よせ、お前達。あれは所詮一時の奇跡に過ぎない」
「レオリオ、何故お前だけ戻っていない」

 彼らを止めたのは“銀の聖者”レオリオだ。
 横でクラピカが何か言っているが北斗神拳の歴史の中で最も華麗な技を持つ男は、やはり華麗にこれをスルーした。

「確かにマッスルームを食せば強くなれる。だがそれは与えられた紛い物の力……いつまでもそれに頼っていてはいずれ身を滅ぼす」
「正論だ。だからお前も戻れレオリオ」

 マッスルームの恩恵は確かに魅力的だろう。
 だが永遠のものではない。それは一時の夢のようなもの。
 そんなものに頼っていては本当の強者とは呼べないのだ。
 クラピカが何か言っているが激流ではレオリオに通じない。

「そこの男の言う通りだな。借り物の筋肉で満足してるようじゃ半人前だ」

 政人が受験生全員を見渡し、告げる。
 彼の筋肉も死神に与えられた借り物だったりするのだが、自分のことは棚に上げるのがトリッパークオリティだ。
 昔から続く伝統である。

「俺達は待っているぞ、同胞達よ」

 今度はウォーズマンが力強く言葉を引き継ぐ。
 友情を語るならば正義超人である彼以上の適任はいない。

「お前達が再び、今度は借り物ではない筋肉を手に入れることを!
俺達のいる頂へまた来ることを!」
「登ってきな!」

 最後にウボォーギンが告げ、5人は同時に背を向ける。
 そしてサムズアップ!
 別れの言葉は必要なし! この383人の仲間達とは再びまた会える!
 だからこれは別れではなく、再会を誓っての宣誓!



 ――頂上で待つ!



 383人の漢達はその言葉に対し、全員が全員不敵に笑った。
 そして同じくサムズアップ!
 今は遠い、しかし必ず追いつくべき背中を見て各々が心の中で己に誓う!



 ――必ず辿り着く!



 これがハンター試験の苦楽を共にした戦士達のしばしの別れだった。
 もはや振り返る必要はなし。
 顔を合わせるのは、頂上に再び辿り着いた時だ。
 だから戦士達は振り返らずに走った。

 また会おう、我が同胞達よ!





「……何故私まで連れて行かれるのだ」

 そしてクラピカはレオリオに引きずられていった。



*



 ゾルディック家の掃除夫、ゼブロは箒を掃いていた。
 掃除……といえば、そこまで恐ろしいイメージは沸かないかもしれない。
 だが彼が今掃いているものを見れば、その認識は覆るだろう。
 彼は今、骨を掃除しているのだ。
 それも動物や鳥のものではない。人間の骨だ。

 ゾルディック家の敷地に入るには、巨大な“試しの門”を潜らなければならない。
 だがこの扉は片方2トンを誇り、そこいらの力自慢などに開けれる代物ではない。
 そのため侵入者などはもう一つある鍵付きの扉から入るわけだが、これこそが対侵入者用の罠。
 この鍵付きの小さな扉から入ったが最後、ゾルディック家の番犬である“ミケ”に食い殺されてしまうのだ。

 そして今日もまた、ゾルディック家を倒して名声を上げようとした馬鹿がここから入り、ミケに食い殺された。
 試しの門を開くことすら出来ない者は領地に入る資格なし。
 ゾルディック家の誰かと出会うことすらなく、番犬によって食い殺されるのだ。
 これが、住所を堂々と公開しているにも関わらず誰一人としてゾルディック家の人間を見たことがないと言われる理由だ。



 いつも通りの狂った日常。
 だが、今日は違った。
 その日常を壊す化け物がやってきたのだ。

 それは、凄まじい筋肉を誇る4人の巨漢と白髪を生やした細身の男。そして諦めたような顔をした金髪の美青年だ。
 彼らはゼブロが止める間もなく試しの門へと突っ込み……。

 門が、砕け散った。

「……は?」

 ゼブロは我が目を疑った。
 この試しの門の強度と重さは尋常ではないはずだ。
 片方2トン、とは先ほど表記したがそれは実は正しくはない。
 この扉は1の扉から7の扉まであり、数字が上がるごとに重さが倍になっていくのだ。
 片方2トンとは1の扉の重量に過ぎない。
 そして7の扉に至っては256トンというふざけた重さとなる。
 単純計算、この扉は256トンの衝撃までならば余裕で耐え切れるのだ。
 だが彼らはその扉を一撃で破壊してしまった。
 これはどう考えても人間技ではない。

 門を壊し走る6人の前に、一匹の巨大な犬が現れる。
 ゾルディック家の番犬、“ミケ”。
 過去数多の侵入者を無残な骨に変えてきた、完全に訓練された猟犬だ。
 その実力はプロハンターですら遥かに凌ぐ。
 彼は、“試しの門から入ってきた者は攻撃するな”という命令を受けている。
 だが“試しの門を破壊して入ってきた者を攻撃するな”とは言われていない。
 故にミケは彼らを侵入者と判断し、飛び掛る!

「北斗破流掌!」

 だがここでレオリオの当て身によるカウンター!
 判定のおかしい1フレ発生当て身技によってミケは吹き飛ばされ、木に叩きつけられる!

「ゆくぞッ!」

 北斗無想流舞!
 ナギッ、という妙な音と共に一瞬にしてミケの目の前にワープ!
 もはや彼に念能力の常識だとかメモリだとかは関係ない!

「はあ!」

 そのままミケの足元へパンチ、更に続けて蹴り上げ、すぐに自身も上へ移動。
 北斗無想流舞!
 その場で急上昇、急下降する上にこの技を発動した瞬間はあらゆる攻撃を無効化する無敵状態となる!

「天翔百裂拳! はああああ!」

 そのまま上空でミケをたこ殴り!
 更にそこから再び地上へ戻り、再度蹴り上げて上空へ移動!

「天翔百裂拳! はああああッ!」

 再び地上に戻り、蹴り上げて殴る!

「天翔百裂拳! はああああー!」

 蹴り上げて殴る!

「天翔百裂拳! はああああ!」

 殴る!

「天翔百裂拳! はああああ!」

 いつまでも続く世紀末バスケ!
 もうやめて! ミケのライフは0よ!

「天翔百裂拳!」
「天翔百裂拳!」
「天翔百裂拳!」
「天翔百裂拳!」
「天翔百裂拳!」



 ……。



「もういい、ここまでだ……!」
「ミ、ミケェェェェェェーーー!!?」



 それから数分後。
 悲しみをたたえた瞳でレオリオがそう言い放ち、戦いは終わった。
 彼の前にはボロ雑巾のようになったミケが転がっており、ゼブロが絶叫している。

 その惨状の前で、クラピカは一人内心で思う。



 ここまで、というかその前にやめてやれよ、と。



*



 執事見習いカナリア。
 彼女が立っているのは“外”と“内”を分ける境目といっていい。
 確かにゾルディック家の領地は試しの門を越えた場所からだが、それでもまだ、そこは外に分類される。
 “門を潜れる”だけでは、ゾルディックに仕える一員と認められるわけではない。
 あそこは所詮、いくらでも替えの利く掃除夫の場所なのだ。
 そして、その掃除夫達も今カナリアが立っている場所以上先に進んだことはない。
 何故か? それは認められていないからだ。
 彼らは所詮庭先の掃除人。領地の一番外側だけを掃除するのみの存在だ。
 しがたって、ここから先には入れない。
 ここより先に入れるか否か。その境目こそが“ゾルディック家の使用人”と掃除夫の差。
 ある意味、ここより先こそが真のゾルディック家領地と言っても過言ではない。

 そのカナリアの視界には、こちらに向かってくる愚か者の姿が映っていた。
 愚かな連中だ、と思いカナリアは愛用の杖を振りかぶる。
 まずは一度言葉で警告し、もしそれでも立ち入ってくるならば実力で排除する。
 そして彼らが高速でカナリアの攻撃射程内へ入り……。

「げぶふおあっ!?」

 カナリアは、交通事故に遭った被害者のように撥ね飛ばされた。

「ん? 今何か轢いたか?」
「なんか門番っぽい子がいたな」
「門番は投げ捨てるもの」

 先頭を走っていた政人が不思議そうに皆に聞くと、ウォーズマンとレオリオから答えが返ってきた。
 どうやら誰かを轢いてしまったらしい。これは悪いことをしてしまった。
 帰り際にもし会えたらそのとき謝ろう。
 そう政人は心に決め、尚走り続けた。

 ちなみにカナリアの名誉のために言っておくが、彼女はちゃんと攻撃をしたのである。
 だが政人の鋼の肉体の前に通じず、撥ねられてしまったのだ。
 想像して欲しい。
 アクセルを全開にして走る戦車。その前方でバットを振りかぶる人間を。
 結果は目に見えているだろう。
 政人と少女の実力差はそれほどのものだったのだ。



 少女を撥ね飛ばし、尚マッスル達は止まらない。
 友をこの手に取り戻すまで、ただ走るのみだ!














○□= ←カナリア



 ((;;;;゜;;:::(;;:   炎 '';:;;;):;:::))゜))  ::)))
 (((; ;;:: ;:::;;⊂( ゜ω゜ )  ;:;;;,,))...)))))) ::::)
  ((;;;:;;;:,,,." ヽ ⊂ ) ;:;;))):...,),)):;:::::))))
   ("((;:;;;  (⌒) |どどどどど・・・・・
          三 `J
進めー! キルアはこの奥だー!!



[21843] こんなミルキは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/26 23:10
「キル、お前の友達、とうとう執事室の近くまで来たそうだぜ」

 携帯電話を片手に持ったミルキの言葉。
 それにキルアは反応し、ガバッと上体を起こした。
 久々の帰宅による安心感や、ソファーでくつろいでいたことによる眠気も一発で覚めてしまう。それほどの衝撃を今の言葉は持っていた。

「どうするキル? 俺がママに頼んで執事に命じてもらえば5人とも……」

 言葉は、最後まで続かなかった。
 キルアがソファーを殴り壊し、その音で台詞を中断させたからだ。

「ミルキ、5人に手を出したら……ゴトー達が死ぬ」

 それは、“友達”を心配しての言葉ではなかった。
 むしろ逆だ。あのマッスル達を殺せる奴がいれば貯金全額をはたいてでも頼みたい。
 だがゴトー達程度では駄目だ。
 間違いなく返り討ちにあう。

 キルアは考える。
 奴等が来てしまった以上、ここも決して安全とは言えない。
 奴等に対抗できる強さ、それは確かにゾルディック家にある。
 ゼノ、マハ、シルバ、イルミの4人だ。彼らの強さはよく知っているし、負ける姿など想像できない。
 だがそれと同時に、あのアホマッスル達が負ける姿もまた想像できない。
 恐らく、よくて互角というところだろう。
 そしてマッスルの数は5人。仮に互角だとしても止めれるのは4人までだ。
 残る一人が必ず自分の元へ来てしまう。

(……逃げるしかねえ……)

 せっかく帰ってきた我が家から早くも出て行かなければならなくなった。
 畜生、あのマッスル達と関わってからロクなことねえ。
 キルアはさめざめと涙を流しながら裏口へと急いだ。



「……へえ、そんなに強いのか」

 だからキルアには聞こえなかった。
 その、ミルキの一言が。



*



 カナリアを轢いた後、変わらず爆走する5人。
 その前に一つの大きな影が現れた。

「なんだあ?」

 ゾルディック家の使用人だろうか?
 そう思う彼らの前で、その影は突如突進。
 驚くべきことに距離を一瞬で詰め、あろうことか政人を弾き飛ばした!

「なっ……!?」

 咄嗟に着地した政人が見たもの。
 それは、奇妙な格好をした太った男だった。
 服は何も身に纏わず、付けているのは褌によく似た奇妙な腰巻。
 両足をガニ股のように開き、両手は太ももへ置いている。

「な、なんだこのデブは?」
「ゾルディック家次男……ミルキ・ゾルディック」

 驚くウボォーの前で太った男……ミルキは小さく己の名を答える。
 彼は普段戦わない。
 彼は暗殺の時でも己で戦おうとはしない。
 キルアはそれを弱いからだと解釈している。
 彼は肥満体質だ。筋肉など全く付けず、ぶくぶくと太っている。
 キルアはそれを、たるんだ生活をしているからだと考えている。
 だが真相はそうではない。

 彼は決してただの肥満などではあらず。
 これこそが彼のバトルスタイル。
 普段己で戦わないのは、この誇り高き技を汚さないため。
 己の愛するこの競技を血で濡らしたくない。だから彼は道具を使うのだ。
 道具とはミルキにとっての武器ではない。むしろ、それは本当の力を隠す枷に過ぎない。

「あれはまさか、“まわし”!?」
「知っているのかレオリオ!?」

 そしてミルキが付けているのは褌ではない。
 こそれこそが、聖なるその技を振るう際の誇り高きバトルスーツ。

「だとすると……まさか奴は“RIKISHI”!」
「ふっ、よく知っているな」



 SUMOU。
 それは世界で最もマイナーで、世界で最も強く、世界で最も危険な格闘技。
 RIKISHIが動く時、大地は割れる。
 RIKISHIが四股を踏めば山が砕ける。
 HARITEの威力は、鍛え抜かれた肉体を容易く貫通する。
 念能力すらも凌駕した究極の体術。それがこそがSUMOUである。

                                             民明書房より抜粋



「聞いたことがある。我が北斗神拳や南斗聖拳とも互角に渡り合える究極の国技……。
だが、まさか実在したとは……!」

 レオリオの額から汗が流れ落ちる。
 目の前のこの肥満男から発する神気の、何と強大なことか。
 SUMOUは神を宿すと言われているが成程、まんざら出鱈目ばかりでもないらしい。

「こいつは危険だ。だが、私の北斗神拳ならば奴のSUMOUの激流だろうと……」
「待て!」

 構えをとったレオリオを押しのけて前に出たのは政人だ。
 前世でトラック相手に執念を見せた所からも分かるとおり、実は負けず嫌いな性格をしている。
 やられっぱなしでは終われないのだ。

「俺が相手をしてやろう……!」

 同意など必要なし。
 政人は全身を筋肉の鎧で覆うと、地を蹴って飛び出した。
 遠慮などしない。いきなり100%だ。
 そして先制の右ストレート! ビックバン・インパクトにも勝る一撃だ。

 対し、ミルキがHARITEで迎え撃つ!
 紫電を纏った掌が政人の拳と正面からぶつかり、衝撃波で空間が歪む!

「ふんッ!」

 続けて左ストレート!
 その破壊力は山をも容易く打ち砕く!

「!」

 だが何と空振り。
 ミルキは残像を残し、すでに政人の背後に回っている。
 これこそがRIKISHI歩行術の真髄。その素早い動きで相手に残像を見せることも可能な“SURI-ASHI”である。

 そして掌から雷を放つも、政人もまた常識を投げ捨てた強者。
 素早く身体を反転させると雷を気合で弾き飛ばす。

「おおおおおおッ!」
「どすこーい!」

 筋肉の塊と脂肪の塊。
 相反する二人は一歩も退かず正面衝突!
 さらにそのまま跳躍!

「らあああ!」
「ふんぬあああ!」

 空を超え。

 雲を超え。

 成層圏を超え。

 遂に戦いの舞台は宇宙へと移行する!!

「砕けろ!」

 政人が隕石を掴み、ミルキへと投げる!
 だがミルキは背中から光り輝く翼を出して飛翔、これを回避。
 遥か遠くへ飛び去り、月に着陸。
 そして月を踏み、突進! 政人にタックル!
 ミルキのタックルを受けた政人は火星に激突!
 だが今度は彼が火星を強く踏み込み、ミルキへとタックル!

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 繰り出される拳の雨。対するはHARITEの雨。
 その常軌を逸した破壊力の衝突は空間さえも歪曲させ、その場に重力場を作る。
 これは後の話だが、この時発生した重力場は数年後、地球に接近した大惑星を飲み込み、世界を救うこととなる。

 重力の縛りから解き放たれた宇宙空間で二人は戦う。
 殴り、殴られ、何度も何度も互いに傷を与えながら地球の周回軌道に入る。
 そして地球の重力に引かれ、落下。
 政人は二本の足で。ミルキは多少体勢を崩すも、それでも膝をついただけで。
 二人は再び元のゾルディック家領地へと舞い戻った。

 さあ、仕切りなおしと行こう。
 そう心の中で思い、再び駆け出そうとした政人だが、その耳に意外すぎる言葉が響いた。



「……参った。俺の負けた」



 まさかのミルキの敗北宣言。政人は我が耳を疑った。
 ダメージはまだ、それほど深くはないはずだ。
 なのに降参とはどういうことか?
 そう考え……そして政人は気付いた。

「そうか! SUMOUのルールは……!」
「そう、SUMOUは膝を付くことを恥とする。
俺はそれをしてしまった。……RIKISHIとしてあるまじき事だ」

 心底悔しそうに、ミルキは唇を噛む。
 戦いで負けたのではない。SUMOUで負けたのだ。
 これほどの屈辱があろうか。

 だが一方で清々しくもあった。
 よもや真剣勝負で己を下す者はいるとは。
 ミルキは暗殺者としては家族の中で下位に位置するが単純な戦闘力ならばイルミの比ではない。
 その自分を負かしたのだ。
 これほど天晴れなことがあろうか。

「名は?」
「山田・K・政人」
「……いい名だ。そしてお前もその名前に恥じず、強く、逞しい」

 ミルキには心配事があった。キルアのことだ。
 キルアは天才だ。それはもう、長いゾルディックの歴史の中でも他に類を見ないほどに。
 きっとあの才能を開花させれば彼は、自分などよりも強いRIKISHIになれるだろう。
 だがキルアは甘い。
 まだ子供だから仕方がないが、それでも兄として心配であった。

 だがその心配は今、薄れている。
 何故なら政人が、そしてその仲間達がいる。
 こんなにも素晴らしい友人に恵まれているのだ、キルアは。
 ならばきっと、彼は強くなれる。
 ゾルディック家を離れても、彼らと共に歩けばキルアは成長できる。
 それが分かったからこそ、ミルキは安心し、そして政人に聞いた。

「キルアは、お前達の何だ?」
「仲間だ」
「友達だ」
「固い友情で結ばれた同志だ!」
「ま、ツレだわな」
「乱世に光をもたらす者だ」
「被害者」

 迷いなく言われた彼らの言葉。
 上から順に政人、ゴンさん、ウォーズマン、ウボォー、レオリオ、クラピカだ。
 一人だけ的外れなことを言っているが気にしてはいけない。

「そうか」

 政人達の答えにミルキは満足気に笑い、その場をどく。
 道を開けたのだ。
 尚、今の返答のどこに満足する要素があったのかはミルキにしかわからない。

「あいつに世界を見せてやってくれ」

 強敵の頼み。
 それに政人達は歯を見せて笑い、迷いなく頷いた。



 ――応よ!!



 このとき若干一名だけ、何か突っ込みを入れていたのだが彼の突っ込みは、レオリオに投げ捨てられた。






















   *``・*。        。*・``*     *``・*。       。*・``*
もう|   `*。 `  。 *`    |☆  |    ` *。  `。*`    |
  ,。∩ ∧,,∧ *` ☆   ∧,,,/∩  ☆∩ ∧,,,∧   ☆ `* ∧,,/∩。,
  + ( ´・ω・)*。+゚ + (・ω・` )*。+゚+。*( ´・ω・) + ゚+。*(・ω・` ) +
  `*。ヽ   つ*゚*☆・+。⊂   ノ。+ ☆ +。ヽ   つ。+・☆*゚*⊂   ノ 。*` どうにでも
   `・+。*・`゚⊃+∩∧,,∧・+。*+・` ゚ `・+*。+・炎 ∩+ ⊂゚`・*。+・`
   ☆ ∪~ 。*゚ . (´・ω・`)∪ ☆    ∪(´・ω・`) . ゚*。. .~∪ ☆
   `・+。*・ ゚ ☆ `・+。  つ─*゚・ ☆・゚*─⊂  。+・`☆ ゚ ・*。+・`
           ⊂  `・+・*+・`゚  ゚`・+*・+・ `  ⊃
             ~∪    なーれ♪  ∪~



[21843] こんな天空闘技場は嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/29 21:49
「いくぞお前ら! ここが最終防衛ラインだ!」

 配下の執事4人に怒声を飛ばし、ゴトーはゾルディック家、その屋敷の前に立つ。
 ここより先は死地。敵はかつてないほどに強大。
 そしてもはや後はなし。ここを抜かれれば敵は遂にゾルディックの屋敷へと踏み込むだろう。
 故に決死の覚悟で執事5人はそこに仁王立ちする。

 纏うオーラは実力者のそれだ。
 一流のハンターと比べても遜色のない【錬】が彼らの身体を覆っている。
 来るならば来い。
 ここに仕えてから十数年。一度として外敵の侵入を許したことなどない。
 そしてそれは、これからも変わらない!

「我ら執事、これより死地に入る!
我らが手足は剣にして、この身は盾!
いかなる敵が来ようとも、命を賭して主を守護する僕なり!」

 誇りをかけた宣誓。
 それを口にし、彼らは駆け出した!



 そしてマッスル達に正面衝突し、全員揃って撥ね飛ばされた。



「ん? 今なにか轢いたか?」
「さあ?」
「執事は投げ捨てるもの」

 飛び出すな、マッスルは急に止まれない。
 哀れ、ゴトー達はマッスル達と戦闘に入ることすらできずに最後の防衛ラインを突破されてしまった。



*



 ゾルディック家の屋敷へと突入した6人を出迎えたのは一人の婦人だった。
 花の付いた麦藁帽子を被り、上品なドレスを着ている。
 手元には扇子を持ち、いかにも「貴婦人」という出で立ちだ。
 だが奇妙なのはその顔に巻かれた包帯に、目元に付けられたスコープのような機械。
 上品さをも感じさせる身なりと、あまりに不釣合いだ。
 そしてそれが、何とも言えない不気味さを彼女に与えている。

「気味の悪い奴だ」
「貴方に言われちゃおしまいです」

 ウォーズマンが婦人に対する素直な感想を述べるが、婦人はそれを一言で切って返した。
 確かに不気味さではウォーズマンも負けていない。

「何者だ?」
「キルアの母、キキョウと申します」

 屋敷内にいるのだから、少なくともキルアの関係者なのは理解できる。
 だがそのあまりにも奇妙な格好から関係がまるで推測できない。
 そのため政人が尋ねると、何と母というとんでもない答えが返ってきた。
 
「キルアはどこだ?」
「キルは私を刺し、兄を刺し、家を飛び出しました。
しかし反省し自ら戻ってきました。
今は自分の意思で独房に入っています。したがって、いつキルが出てくるかはわかりません」

 ゴンさんの記憶にある過去の台詞と全く同じ返答だ。
 ただ一つ違いがあるとすればそれは、今度は嘘でもなんでもなく、正真正銘本当のことだということだ。
 だが強化系を極めたゴンさんの単細胞脳味噌は一秒とかからずキキョウの言葉を嘘と確信した。

「見え透いた嘘だな」
「え゙?」

 ゴンさんの断言にキキョウが硬直。
 更にそこにウォーズマンが追い討ちをかけた。
 
「俺たち正義超人の信頼がその程度で揺るぐと思ったか!」
「いや、本当のことなんですが……」

 駄目だこいつら、話にならない。
 そうキキョウは判断し、指を鳴らす。
 するとその傍にイルミが現れた。

「イルミ、殺りなさい」
「…………」

 キキョウの指示。
 だがイルミはそれに従わずにマッスル達を見回す。
 そして、首を振った。

「無理だよ母さん」
「なんですって?」
「俺は自分より強い奴とは戦わない」

 “自分より強い者とは戦うな”。
 それはイルミがキルアに教え込んだ教えであり、暗殺者の心構え。
 そしてイルミ自身も徹底していることである。
 別に恐怖などがあるわけではないのだが、勝てないとわかっている相手に正面から挑みはしない。
 無駄死にするだけだからだ。

「あなた! あなた、来て!」

 イルミは使い物にならない。
 ならば、とキキョウは夫に助けを求め、妻の声に応えてゾルディック家当主、シルバ・ゾルディックがそこに姿を現す。

「なんだ、騒々しい」
「キルを狙う悪漢よ! 片付けて!」

 ヒステリックに叫ぶキキョウの声に耳をおさえつつ、シルバは全員を見回し、一歩前へ出る。
 それに合わせて前に出たのは政人だ。
 二人は互いに一定の距離を保ち、相手を見据える。

 強い。
 政人は相手をミルキ以上の強敵と判断した。
 鍛え抜かれたその筋肉は、政人と比べても何ら見劣りしない。

 かつてない好敵手だ。
 そうシルバは目の前の政人を評価した。
 かつて殺した幻影旅団などとは格が違う。

「……いくぞ」
「こい……」

 距離を一定に保ったまま、二人は少しずつ動く。
 右回りに、少しずつ移動し、やがては一周。
 場は、まだ動かない。

 ピリピリとした緊張感が辺りを支配し、誰も言葉を発せない。
 二人の放つ闘気だけで木の葉が弾け飛び、クラピカが気分を悪くし、そして怪我を推して駆けつけてきたゴトー達が有情破顔拳でKOされた。

 そして二人が、同時に動く!



 ダブルバイセップス・フロント!!

 サイドチェスト!!

 ダブルバイセップス・バック!!

 アドミナブル・アンド・サイ!!

 そしてモスト・マスキュラーッ!!!



 一瞬にして行われた5連続のポージング!
 あまりの美しさにマッスル達も手に汗握る!

「…………」
「…………」

 ポージングをしたまま、政人とシルバは無言で睨み合う。
 そしてポーズを解除、互いに歩み寄り、熱い握手をかわした。

「キルアを頼む!」
「任せてくれ!」

 長く、苦しい戦いだった。
 間違いなく今までで最大の強敵。そして戦いによって芽生えた友情。
 それにその場のマッスル達全員が涙し、惜しみない拍手を送った。

 そして場に取り残されてしまったクラピカ、キキョウ、イルミは同時に思った。



 何がなんだかわからない……と。



*



 裏口から逃げたキルアが向かったのは天空闘技場、という場所だった。
 地上251階、高さ991メートル。
 ヨークシンの遥か下の大陸に存在する、世界第4位の高さを誇る、天にも届く塔だ。

 ここは野蛮人の聖地だ。
 力さえあれば全てが手に入る。
 金も、名誉も、そして地位も。
 ハンターライセンスもなく、無一文で家から出たキルアが一人で生きていくにはうってつけの場所というわけだ。

 到着と同時に早速申し込み、初戦を楽々突破。
 その実力が認められ、いきなり100階へと登る。
 100階闘士ともなれば個室が用意される。至れり尽くせりだ。



「っあーーー! 解、放、感っ!」

 用意された自室のベッドに転がり、キルアは身体を伸ばして歓喜の声をあげる。
 久しく感じていなかった自由だ。
 暗殺者としての家のしがらみから、運命から、そして何よりマッスルから解放された時間。
 至福の一時だ。
 キルアは今、かつてない幸福感に包まれていた。

「さって、後はこのまま上まで登っていけば金は入るし力も鍛えられる。
明るい未来が見えてきたって感じだぜ」

 上機嫌のあまり独り言まで口に出る。
 このままだと鼻歌でも歌いだしてしまいそうだ。
 これはいけない、気を引き締めなければ。
 そう思い、ニヤついた顔のままキルアはテレビの画面をつけ、今行われている試合を見る。
 娯楽ではない。どんな奴がいるか確認するためだ。

『退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!』
『ぬうう! 南斗鳳凰拳侮りがたし! だが天を掴むのはこのラオウよ!』

 キルアは無言でテレビを消した。

「…………」

 今のは一体何だろう。
 何か、どう見てもあいつらの同類にしか見えない筋肉が二人、戦っていたのだが。
 いやいやまさか、そんなはずはない。
 よく考えればここは野蛮人の聖地天空闘技場。筋肉質な男くらい別に珍しくもないだろう。
 要はあいつらのような規格外のマッスルでさえなければいいのだ。
 そう気を取り直し、キルアはテレビを点けた。

『俺も悲しみを背負おう……!
北斗神拳究極奥義! 無想転生!』
『フフハハハハ! 何人たりとも宙を舞う鳳凰を捕らえることはできぬ!
南斗鳳凰拳究極奥義! 天翔十字鳳!!』

 キルアは再びテレビを消した。

「…………」

 今北斗神拳とか聞こえた。
 絶対北斗神拳と言っていた。
 まさか、アレだろうか?
 ハンター試験でキルアをボコボコにしたあのレオリオの、あの変な拳法だろうか?

 ゲキリュウニミヲマカセドウカスル、ゲキリュウニミヲマカセドウカスル、ゲキリュウニミヲマカセドウカスル。
 セッカッコー!!テーレッテー、ホクトウジョウハガンケン!!ハァーン!!フェイタルケイオウ、ウィーンレオリオォ。イノチハナゲステルモノデハナイ。

「北斗神拳嫌だ、北斗神拳嫌だ、北斗神拳嫌だ……」

 キルアは布団を被って丸まり、ガタガタと震えた。
 もう何も聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
 テレビで何か「北斗」だの「南斗」だの言っているが、聞こえない。

「凄まじい技のキレだな」
「間違いない……これは南斗鳳凰拳! 我が北斗神拳と対を成す南斗聖拳、その最強の流派!」
「コーホー」

 聞こえないったら聞こえない。
 聞きなれた声など聞こえ……。



「って、なんでお前らがここにいるんだああああああああ!!!」

 キルアの叫びが天空闘技場に木霊した。






















  _____
 |∧ ∧.||  .| |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 |(;゚Д゚)||o | | .< だ、誰か助け・・・!!
 |/  つ  | |  \______
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  パタン
ヾ'_____
 ||    |   |
 ||o   .|   |<離せー!
 ||    |   |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



[21843] こんな天空闘技場は嫌だ2
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/26 23:08
 よう、野蛮人の諸君こんばんわ。
 俺はサダソ。天空闘技場、200階の闘士だ。
 実力は……まあ、中の中ってとこか。
 この闘技場の200階クラスとして考えればそこまで強くはないが、弱くもないレベルだ。
 ここに来て数年でようやくこのレベルってことを考えると……まあ、才能ってやつがないんだろうな。
 最初にここに来たとき、俺は自惚れていた。
 数多の闘士を倒し、200階という選ばれた者しか立ち入れない領域に踏み込んだ時、俺は強いんだ、と思った。

 今にして思えば、とんでもない勘違いだ。
 天空闘技場は、200階に入ってからが本番だった。
 自惚れの代償は……腕一本。
 200階についてすぐ試合を組んだ俺はそこで初めて“念能力”というものを知り、そして念を纏った相手の攻撃で腕を失った。

 それから、必死に自分を鍛えた。
 しかし俺は弱かった。
 なかなか思うように勝ち星を稼ぐこともできず、焦りが募った。
 だが俺は見付けたんだ。
 俺のような者でも勝ち星を手に入れる方法を。
 フロアマスターへの道を切り開く、その方法を!

 それは新人狩り!
 かつての俺のように、200階に来たばかりの奴とばかり試合を組み、念を使って勝つのだ。
 いかに相手が強く、才能に溢れていても関係ない。
 念能力者とそうではない者の差は絶大! 少しの差など簡単に覆せる!

 そして今。
 俺の前には200階に踏み込んできたばかりの新人がいる。
 美味しいカモだ。
 こうやって新人を狩り続け、俺の勝ち星は5となっている。
 後5勝。
 そうすれば俺はフロアマスターへの挑戦権を得て、それに勝てば一生の富と名声を約束される。
 才能に恵まれなかった俺の目の前に、ゴールが見えてきたのだ。

 目の前の相手に恨みはない。
 だが、俺の栄光のための礎となるがいい!

「貴様に相応しい死に場所が用意してある」

 あれ?
 ……あれ?
 その、なんだ……どう説明したらいいのかわからないんだが、俺は何故か今、頂上が欠けたピラミッドの上で頂上部分を手で支えて立っている。
 な、何故……?
 俺間違いなく天空闘技場のリングの上にいたよな?
 試合中だったよな?
 ……え? え?

「撃て!」

 ぎゃあああああああああ!!?
 なんか撃たれた!?
 どっから出てきたのかわからない弓兵に弓で撃たれた!?
 まて! まて!!
 こいつは念能力者じゃないはずだろう!? 事実今もオーラは感じない!
 なのに何で、俺はこんな不可解な状態になっている!?

「とどめだ!」

 最後に対戦相手が、これまたどこから出したかわからない槍を投げてきた。
 ノォォォォォォ!!?



『しょ、勝負あり! 勝者、サウザー選手!』

 試合を見ていた全員が、絶句していた。
 目の前にあるものが信じられないのだ。
 200階に上がってきたばかりの新人にサダソが敗れたこともそうだが、何より問題なのはそのピラミッドだ。
 どこから出てきたのかわからないそれはサダソを潰し、そのままリングの上に残ってしまったのだ。
 このサウザーという男、リングの上に勝手にピラミッドを立てたのである。

「フフハハハハハハ!!!」

 サウザーの笑い声が、リングの上に響き渡った。



 だが、これは序章に過ぎなかった。
 次の日には新人潰しで有名なリールベルトが、ラオウという男に敗れた。
 車椅子から落とされた挙句、足に短刀を刺されて小パンチ連打されてのKOであった。

 更に次の日にはギドまでもが敗れた。
 対戦相手のユダという男が「ユダ様は本当に頭のよいお方」などと言いながら何故かリングの上に津波を起こし、ギドを飲み込んだ。

 挙句の果てに、フロアマスターに最も近い男と呼ばれたカストロまでもが敗れた。
 相手はジャギという名のヘルメット男であり、リング上にガソリンをばら撒いた挙句それに火を付けてカストロを消毒してしまったのだ。

 ハンター暦2×××年。時はまさに世紀末!
 天空闘技場は天を狙う猛者達がひしめく乱世へと姿を変えた!



*



 キルアは天空闘技場の廊下にある椅子に一人、座っていた。
 自販機で買ったジュースを飲みながら、どうしてこうなった、と考える。
 つい先日まで、この闘技場は普通だったはずだ。
 なのに今はどうだ?

 右を見てもモヒカン。
 左を見てもモヒカン。
 廊下をオフロードバイクで爆走し、「ヒャッハー!」などと叫ぶ。そんな連中で溢れている。

「どういうことなの……」

 俺の平穏の地は何処?
 そう嘆くキルアの前を今度は巨大な馬が横切っていく。
 通常の馬を遥かに超える巨躯を誇る、黒王という馬だ。
 そしてその上に乗っているのは世紀末覇者を自称する男、ラオウ。

(なんで200階闘士がこんなとこを馬に乗って歩いてるんだよ)

 もうわけが分からない。別世界に迷い込んでしまったような錯覚さえ覚える。
 反対側からは趣味の悪い金ピカの、玉座のついた聖帝バイクに乗ったサウザーが向かってくるし、他を見ても、筋骨隆々の男達が闊歩しているし、自販機では斧を持った巨大な二足歩行の鰐がジュースを買っている。
 その横には黒い外套を着たポニテの美少女がいて何やら楽しそうに会話していて余計腹が立つ。

(畜生、なんで鰐がいるんだよ。てか、鰐でさえあんな可愛い子と一緒にいるのに、何で俺はマッスルばかりに囲まれてるんだよ。世の中理不尽すぎるだろくそったれ)

 キルアは己の不幸を嘆いた。
 何故自分ばかりがこんな目に合わなくてはならないのか。
 涙を流すキルアへ、ふと、横からジュースが差し出される。

「どうしたのだ? そんなに嘆いて」

 いつからそこにいたのだろう。
 隣に座っていた男がキルアに声をかけたのだ。
 それは白髪の、やはりというか逞しい体躯の老人であった。
 またマッスルかよ。そう内心でゲンナリしつつ、キルアはジュースを受け取る。
 オレンジジュースだ。とりあえずドーピングコンソメスープではないらしい。

「色々あってさ……」
「何やら苦労している様子だな。この私に話してはくれんか?」

 初めて会う老人。それもマッスルだ。
 だが、キルアのストレスは相当なものだったのだろう。
 誰でもいいから不満をぶちまけたかったのかもしれない。
 キルアは、感情の任せるままに今まで起こった理不尽を話した。
 一度話せば口は止まらず、溜め込んでいたもの全てを吐き出すようにキルアは話し続けた。
 そしてその間、老人はずっとキルアの言葉を聞き続けてくれていた。



「……辛い思いをしてきたのだな」

 話し終わったキルアの頭を、老人は優しく撫でた。
 それは今までにない対応だ。
 その初めて受ける優しさはキルアの心を温かいもので満たし、磨耗していた心を癒していく。

「……その、すまないな爺さん……初めて会う相手なのにこんな事話しちまって」
「何、構わぬよ。少しでも役に立てたのならば何よりだ」

 老人は静かに笑い、キルアの肩を叩く。
 キルアは照れ恥ずかしさを感じるものの、抵抗はしない。

「その、すまなかった……」
「ん?」
「俺、あんたを誤解してたよ。マッスルだからきっとロクな奴じゃないだろうってさ」

 ああ、きっと自分は偏見を持っていたのだろう。
 そうだ、体格で性格などが決まるわけではない。
 たまたま今まで出会ったマッスルがロクでもなかっただけなのだ。
 何故ならば、ほら。こんなにもいい奴だっているではないか。

「キルアよ」
「ん?」
「今は苦しく困難かもしれない。だが、荒野の先には必ず平穏の地があるはずだ。
お前はいつかきっと、必ず平穏を手に出来るよ」

 老人はよっこいしょ、と言いながら椅子から立つ。

「ほ、本当か? 本当に俺はいつか、あのマッスル達から解放されるのか?」
「ふふ、こう見えて私は遥か先を見通す予見の眼を持っている。その私が言うのだから間違いない」

 そうか、とキルアは微笑む。
 自分の人生にはもう、絶望しかないのかと思っていた。
 だが希望が見えてきた。
 この老人の言葉を信じるならば、自分はいつか平穏を手に出来る。
 ……信じよう。
 俺は絶対マッスル達から解放されると。

「おっさん、名前教えてくれよ!」

 この老人は恩人だ。
 ここで付き合いを終わりにしたくないし、また会いたい。
 だからキルアはその名前を尋ねる。
 それに老人は笑い、そして答えた。己の名前を。





「私の名前はリハク。人呼んで“海のリハク”だ」













           从
          从从
           从从从                _
       / ____ヽ           /  ̄   ̄ \
       |  | /, -、, -、l           /、          ヽ
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   , ―-、 (6  _ー っ-´、}         q -´ 二 ヽ      |
   | -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ          ノ_ ー  |     |
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「残業で9時帰宅! でもさっさと仕上げれば問題ないよ!」
「君きっと、このサイトで一番いい加減な作者だよ」
「クオリティと内容を犠牲にして辿り着ける境地!」

後で修正加筆とかするかもしれません。
とりあえず何とか今日も更新終了。

クオリティがいつも以上に低いのは時間がなかったからだとか、そんな言い訳するわけではありませんよ!
ほ、本当ですよ!?



[21843] こんなバトルオリンピアは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/28 21:06
 バトルオリンピア。
 それは選ばれし戦士の祭典。
 世界各地からの腕自慢が集う野蛮人の聖地、天空闘技場の中において尚頭一つ飛びぬけた戦士のみが立ち入ることを許される200階フロア。
 その200階フロアにて10度の勝利を手にした者のみが掴める栄光、フロアマスター。
 まさにそれは選ばれし戦士といえよう。
 そして天空闘技場にいるフロアマスター達が一同に介し、最強を決めるために技と技、力と力を競い合う頂上決戦。
 それこそが、バトルオリンピア!

 その試合会場である天空闘技場の屋上。
 地上991メートルを誇るその建物の頂上から見渡す景色は絶景。
 まさに天に最も近き戦場と言えるだろう。
 観客席はすでに満員だ。
 この試合を観戦するために必要とされる額は100億。
 常人に出せる額ではないし、富豪でもこれ程の大金はおいそれと用意できないだろう。
 にもかかわらずの満員。
 この祭典がどれほどの価値を持つかわかるというものだ。

 最強を決める祭典を観戦する権利。それを得た幸運な観客達は口々に誰が優勝するかを予想しあう。
 最近フロアマスターになった拳王は優勝候補だろう。
 いいや聖帝も捨てがたい。
 おっと、ゴンさんを忘れてないかい?

 そんな観客達へと、声をかけるものがいた。
 それはリング中央に陣取っている審判だ。
 彼は手を顔の前でヒラヒラと振り、観客達へと告げた。

「いやいや、貴方達はワカってない。
誰が最強のマッスルなのかを」





『全選手入場ッッ!!』

 響き渡る、実況の大声。
 それをかき消すかのような、観客達の大歓声。
 応え、入場してくるのは地上最強の男達。
 いずれ劣らぬ強者であり、いずれ劣らぬ精神の持ち主。
 俺こそが最強だッ!!
 それを証明するために、誇りをかけて漢達は入場する。

『魔獣殺しは生きていた!! 更なる研鑚を積み百式観音が甦った!!!
ハンター協会会長!! ネテロだァ――――!!!』

 最初に入場したのは、かつて最強の名を欲しいままにした老人だ。
 本気のときしか着用しないという“心”Tシャツを身に纏い、入場する。

『念能力はすでに我々が完成している!!
実力派ハンター、モラウだ――――!!!』

 上半身裸の、巨大なキセルを持った男がネテロの後に続く。
 今日は上司と部下ではない。
 一人の男と男。ライバルとしてここに臨むッ!!

『天に輝く将星は唯一つ!! 南斗最強の男、聖帝サウザー!!! 』

 いつの間に建設したのか、ピラミッドの上から鳳凰が飛び降りる!
 天に輝く将星、バトルオリンピアに参戦!

『北斗神拳こそが地上最強の代名詞だ!!
まさかこの男がきてくれるとはッッ 世紀末覇者ラオウ!!!』

 黒王に乗ったラオウがゆっくりと入場し、サウザーと睨み合う。
 どちらが真に天を掴むに相応しいか。その決着の時が来たのだ。

『バーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い!!
北斗の三男、ジャギ様だ!!! 』

 ヘルメットを被った男がバイクに乗ったまま、爆走する。
 今日こそ兄貴達に己の技を認めさせるのだッ!!

『力の時代は終わりを告げた!! これからはこの妖星の知略が物を言う!!
美しき妖星、ユダがきてくれたぞッ!!!』

 女を大量に引き連れた男が入場し、中央で服を脱いで褌一丁になる。
 肉体美を見せ付けているのだ。

『闘いたいからここまできたッ キャリア一切不明!!!!
山田・K・政人ォォォォォ!!!』

 圧倒的な筋肉を誇る男、政人が天から舞い降り、リングの上に降り立つ。
 今日こそくるのだ、100%を越えた力で戦える日が!

『ルールの無いケンカがしたいから盗賊になったのだ!!
蜘蛛のケンカを見せてやる!! ウボォーギン!!!』

 ウボォーが雄たけびをあげながら走って入場する。
 このかつてない舞台に興奮が止まらない。

『トリックタワーから世界最自由が上陸だ!! ビスケット・オリバ!!!』

 巨大な筋肉の塊。それが第一印象だろう。
 何にも縛られないミスターアンチェインが不敵に笑う。

『たまには本気を出すのも悪くない!!
ここで見たことを他言したらぶち殺す!! ビスケット・クルーガーッ!!!』

 ピチピチに張り詰めたゴスロリ服を着た巨大な女が入場してくる。
 彼女こそがビスケット・オリバの姉、ビスケだ。

『ナガァァァァァいッ説明不要!! 髪の長さは13km!!!
ゴン・フリークスさんだ!!!』

 文字通り天にも届く怒髪天を持つ男、ゴンさん。
 彼が威風堂々と入場をする。

『暗殺拳四百年の拳技が今ベールを脱ぐ!! ククルーマウンテンからシルバ・ゾルディックだ!!!』

 ゾルディック家の長、シルバが無言で入場する。
 伝説の暗殺者の拳に一体何人沈むのか。

『医者の仕事はどーしたッ 闘士の炎 未だ消えずッ!!
治すもテレッテも思いのまま!! レオリオだ!!! 』

 静かなる柔拳の使い手、レオリオ。
 ナギッという妙な音と共に彼が瞬間移動で出現する。

『特に理由はないッ SUMOUが強いのは当たりまえ!!
ミルキ・ゾルディックがきてくれた―――!!!』

 まわしを付けたミルキがSHIOを巻きながら入場する。
 彼の手で撒かれたそれは聖なる光を放ち、周囲を浄化していく。

『流星街で磨いた実戦ドッジボール!!
グリードアイランドのデンジャラス・ゲームマスター!! レイザーだ!!!』

 一見穏やかにも見える細目の男がドッジボールを手にしたまま入場した。
 その見た目に騙されてはいけない。
 彼は死刑になっていてもおかしくない元犯罪者である。

『ぶるわああああ!! アイテムなぞ使ってんじゃねえ!!
狂気の英雄キラー、バルバトス・ゲーティアだーッ!!!』

 青い髪をなびかせた、巨大な戦斧を持った男。
 かつて4人の英雄を次々に血祭りにあげた狂戦士が周囲を見回し獰猛な笑みを浮かべた。

『ゆで理論はこの男が完成させた!!
正義超人の切り札!! ウォーズマンだ!!!』

 コーホー……コーホー……と。
 スマイルを浮かべた不気味な超人、その呼吸音が静かに響く。

『暑苦しき王者が帰ってきたッ!!!
どこへ行っていたンだッ!!! 超兄貴ッッ!!!
俺達は貴方を待っていたッッッ!!』

 ここに来て会場のボルテージが更に上がり、選手達に緊張が走る!
 彼こそ、伝説の男。
 聖なるプロテインを持つ者にして、あらゆるマッスルの頂点に立つ男。
 生きる伝説!
 永遠のイケメンマッスル!
 超兄貴ッッ!!



『イダテンの登場だ――――――――ッ!!!!!』





*





 キルアは遠い目をして、そこに立っていた。
 目の前にあるのは、完全崩壊した天空闘技場……だった残骸だ。
 なんというか、もう、当たり前の結末である。
 宇宙にすら飛び出し、小惑星すら砕くアホ共が一同に介して大暴れしたのだ。
 たかだか991メートルしかない建造物が耐え切れるわけがない。

「……て、天空闘技場が……」
「……久しぶりに来てみたら闘技場が崩壊していた♠
何を言っているのかわからないと思うけど、僕も何がなんだかわからない♦
頭がどうにかなりそうだよ♣
念能力だとか特質系だとかチャチなものじゃ断じてない♦ もっと迷惑極まりないしいマッスルの片鱗を味わった♠」

 キルアの横では久しぶりに天空闘技場に来たヒソカが呆然としていた。
 野蛮人の聖地であるこの場所は彼にとってのお気に入りの場所だったのだ。
 それがマッスル達によって世紀末にされた挙句破壊されてしまった。
 晴れなのに何故か雨が降っている気がするし、この雨は妙にしょっぱい。

「あんた、強そうだよな。
あのマッスル達、ぶち殺してくれない?」
「……やだ♣ 僕もアレには関わりたくない♥」

 キルアは一縷の望みをかけてヒソカに殺しを依頼してみるが、当然のように断られた。
 まあ、仕方のないことだ。
 自分だって関わらずに済むなら関わりたくないのだから。

 ため息をついて空を見る。
 天空闘技場は崩壊したがマッスル達の戦いが終わったわけではない。
 彼らは戦場がなくなるや、今度は宇宙に飛び出してしまったのだ。
 もう何でもアリである。
 今頃はキン肉星辺りで戦っているのではないだろうか。

「…………」
「♠」

 はあ、と二人はため息をつく。
 ため息をつくと幸せが逃げていくと言うが、もう逃げるだけの幸せなど残ってはいまい。

「……グリードアイランドっていうゲームがあるんだ♠」
「?」

 ヒソカが遠い目をしながら、キルアへと話しかける。
 本来ならばこの才能豊かな少年に欲情するべき場面だが、彼があまりにも可哀想すぎて欲情する気にはなれない。
 むしろ救いの手を差し伸べたくなってしまう。

「念能力者しか出来ないゲームでね♣ ゲームの世界に入れるんだ♥
マッスル達には非念能力者も多い♦
そこなら、追ってこないかもしれないよ♥」
「…………!」

 キルアは目を見開き、ヒソカを見る。
 彼は微笑みを浮かべて懐からゲームを取り出し、キルアへと渡した。
 グリードアイランドだ。

「あ、あんた……!」
「あげるよ♥」

 キルアは、涙が止められなかった。
 見ず知らずの自分などに(実際はハンター試験で一度会っているのだが)こんな貴重品をくれる目の前の道化の優しさが嬉しくて嬉しくて、仕方がない。

「あんた……なんていい人なんだ……!」
「♣」

 キルアはヒソカの手を強く握り、そして心の中で誓う。
 いつか必ず恩返しをしよう、と。
 今はまだ何もできないが、必ず、きっと。

「すまない! 恩に着る!」
「頑張ってね♣ マッスルになっちゃ駄目だよ♦」
「ああ!!」





*





 グリードアイランドに入ったら、そこにはマッスルが5人立っていた。





「……え?」

 キルアは全身から嫌な汗を噴出し、周囲を見る。

 ゴンさん。
 政人。
 ウボォーギン。
 レオリオ。
 ウォーズマン。

 見たくもないマッスル達が、そこには立っていた。

「おお、キルア! お前もこっちに来たのか!」

 政人がキルアに気付いてこちらに駆け寄り、他のマッスル達も駆け寄ってくる。
 キルアはもう、大口を開けて呆然とするばかりだ。
 ここはゲームの世界のはずだろう?
 なんでこんな所にまでこいつらはいるんだ!?

「なん、で?」
「うむ、宇宙で戦っていた我らだが、イダテン様の放ったメンズビーズで全員が散ってしまってな。
墜落した場所がここだったのだ」

 ウォーズマンの説明にキルアはまたも頭を抱えた。
 なんだよメンズビームって。そもそもイダテンって誰だよ、宇宙で戦うなよ。
 次から次へとツッコミ所が生まれ、キルアは地面に手をついた。

「キルア、イダテンとは偉大なる天界の神にして超兄貴だ」
「……俺、今日から悪魔とか魔王とかを崇めようと思う」

 レオリオの説明を聞いてキルアはこの世に絶望しかないことを悟った。
 本当に神なのかどうかは激しく疑わしいが、というか間違いであって欲しいが、なんかこいつ等が言うと本当の気がしてくる。
 というか、多分本当なのだろう。
 理不尽な事程真実。それが今までの事でキルアが学んだことだ。



 俺の中の最後の信仰は今死んだッ!!





オマケ



 クラピカが目を覚ました所は、白い清潔な部屋だった。
 何故こんなところにいるのか、と考えて思い出す。
 たしかマッスル達の戦いで天空闘技場が崩れてしまったのだ。

(……よく生きてたな、私は)

 見れば頭には濡れたタオルが置いてある。
 誰かが救助し、看病してくれたのだろう。
 一体誰が、と思うと同時、マッスルだったら嫌だな、とも思った。

「あら、目が覚めたのね」

 声が聞こえた。
 女性の、透き通るような声だ。

 やった! マッスルじゃない!

 そう内心でガッツポーズを取り、クラピカは礼を言うべく起き上がる。
 そして。
 絶句した。



 そこにいたのは緑色の怪獣だった。



 丸っこいフォルムに、半開きの大きな目。
 口元からは出っ歯が生えていて、腹には黄色とピンクの模様が付いている。
 偏見だが、何か子供に向かって「食べちゃうぞ」とか言いそうな感じである。

「私の名前はセンリツ。貴方は?」

 むしろ戦慄だよ。
 その思考を最後に、クラピカは意識を失った。












   〆⌒ヽ
  ( Θ_Θ)<た~べちゃ~うぞ~
  (  目 )
  | | |
  (__)_)
イダテンの口調がイマイチ掴めなかったので結局登場をカットしました。
ごめんよ超兄貴。
というか「やらない夫の超兄貴」イメージが強くてイダテンが美形ってことを本気で忘れてました。

どこかに漫画版超兄貴転がってないかなあ。



[21843] こんなグリードアイランドは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/29 23:54
 グリードアイランド。
 1987年発売のハンター専用ハンティングゲーム。
 58億ジェニーという史上最高価格での販売にもかかわらず、注文が殺到した。
 その後グリードアイランドは全く市場に姿を現さず、電脳ネット上で様々な情報だけが飛び交う伝説のゲームとなる。
 1988年、ゲーム自体に170億ジェニー、クリアデータ入りのROMカードに500億ジェニーという高額懸賞が富豪バッテラから懸けられたが名乗り出る者は一人も現れず、幻のゲーム伝説が不動のものとなる。

 製作者は複数おり、その目的は一切不明。
 彼らは100本のゲームソフト全てに念を込め、このゲームを製作したが、どうやって製作したかは知られていない。
 このゲームが稼動している間本体のジョイステーションはコンセントを抜いても動き続け、いかなる方法をもってしても破壊することはできない。
 ゲームをスタートすると念が発動し、プレイヤーをゲームの中に引きずり込む。

 1990年、ゲームクリアのために50名のハンターが雇われ(そのうち3人はライセンスを持つプロだった)攻略に臨んだが、結局誰一人として帰ってくることはなかった。

 更に1992年、プロハンターのジェイト・サリが6人の仲間を連れてグリードアイランドに挑戦。
 いずれもライセンスを所持するプロハンターだったが、8年が経過した2000年現在でも、未だ彼らは帰ってきておらず、そのうち二人はゲームオーバーが確認されている。

 このゲームでのゲームオーバー。
 それは現実での死と同義だ。
 生半可な覚悟でのプレイは死に直結する。
 安易な気持ちでのプレイはおススメできない。

 最低落札価格は89億ジェニー。
 総合入手難易度はG。
 幻のゲームと呼ばれているが、それはあくまで一般人レベルでの話。
 公の競売にも姿を見せ始めたことから「探す」意味での何度は最も易しいH、金額面を考慮に入れ総合はGとした。
 何しろ100本というソフト数は貴重品というには多すぎる。
 現存するプロハンターの6人に一人は所持できる計算になるのだから。

 しかしこれは昨年度までの話だ。
 第288期ハンター試験、つまり今年にて、402人という前代未聞の数が合格したことで10人に一人しか所有できなくなってしまったからだ。
 このため入手難易度には大幅な修正が加えられ、現在では難易度Eにまで上昇してしまった。

 

                                           以上。民明書房より抜粋。



 見られている、と全員が同時に気付いた。
 しかし、どのみちこの距離で気付かれているようでは大した連中ではないだろう。
 無視しても問題なし、と結論を出しマッスル達は歩き出す。

「む、上から音が……」

 レオリオが真っ先に音に気付き、見れば上空から一筋の光がこちらに向かってきている。
 そこで動いたのはゴンさんだ。
 光が地面に着地すると同時に駆け出し、蹴りを繰り出す!

 ボ!

 という毎度お馴染みの爆音と共に光……いや、光になって飛んできた男を蹴り上げ、跳躍。
 頭を鷲掴みにして着地した。

「ひ、ひでぶ……」

 男の名はラターザ。
 今飛んできたのはカードの力によるものだ。
 ゲームに入ってきたばかりの初心者は絶好のカモであり、彼はずっとこの場所を張っていたのだ。
 そして入ってきた政人達の元へ来たわけだが、ご覧の有様だ。

「レオリオ、こいつから情報を聞きだせるか?」
「任せろ」

 ラターザをレオリオに向かって投げ、レオリオが指先でラターザの秘孔を突く。
 解唖門天聴!
 この秘孔を突かれた者は自らの意思とは関係なく口を割る!

 それから数分後、ラターザからゲームついての基本概念や攻略法、カードの種類に豆知識などの全ての情報を聞き出した上でカードを全て奪い解放した。
 マッスルにかかわったのが彼の失敗である。

 その後彼らは懸賞都市アントキバへと向かった



*



 ゲンスルー。
 操作・放出・具現化の3つの系統を使いこなす、極めて特質系に近い能力者。
 このゲーム内において多数のプレイヤーを殺し、爆弾魔と恐れられている存在だ。
 いや、その名を広めた、といったほうが正しいか。
 彼の能力は対象に『ボマー』というキーワードを共に触れて、見えない爆弾をセットする。
 その後自分の能力を喋ることで発動。
 カウント式の爆弾が完成し、その後は殺すも生かすも自由となる。
 その能力の特性上、「ボマー」という単語を広め、会話に出しても不自然ではない状況を作る必要があった。
 故に彼は定期的に他プレイヤーを襲ってボマーの名を広めていたわけだが……。

 今回は相手が悪すぎた。

「フフハハハハ! この聖帝サウザーに向かってくるとは愚かな奴よ!」

 南斗最強の男にして、天に輝く南十字星!
 将星の宿命を持つ男、聖帝サウザー!

「南斗爆星波! そこまでだ!」

 跳躍して腕をクロス、そのまま振りぬき×の字の形をした衝撃波を放ち、地上に降りてまたも腕をクロス。
 二発目の、今度は十字架の形をした衝撃波を発射。
 更に自らも踏み込む!

「え、ちょ……!」

 前に進めば爆星波に当たる。
 防御していてもやはり爆星波が飛んでくる。
 一瞬の判断。ゲンスルーは後ろに下がり、距離を取ることを選択。
 だがそれは聖帝の前においては最大の愚行!
 ゲンスルーは自ら壁際に向かってしまったのだ。
 世紀末の男を相手にしたとき、壁を背負ってはいけない!

「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」

 一瞬にして放たれた3連撃。
 それがゲンスルーを打ちのめし、続けて拳で上へと跳ね上げる。

「フフハハハハ!」

 一体どこから出したのか、何故かサウザーの手には槍が握られており、それが容赦なく投げつけられる!
 避けることなど出来るわけもなく、ゲンスルーは槍に貫かれ、地上に墜落する。
 だがそこにサウザーの追い討ちが入る!

「南斗爆星波! そこまでだ!
滅びるがいい! フフハハハハ!
南斗爆星波! そこまでだ!
フフハハハハ!」

 終わりの見えない世紀末バスケ!
 もうやめて! ゲンスルーのライフは0よ!
 
「貴様に相応しい死に場所が用意してある!」

 最後にはどこから降ってきたのか不明のピラミッドの頂点がゲンスルーの頭に直撃。
 足元からはピラミッドが出現し、周囲の光景は一瞬にして世紀末へと早変わりする。

「撃てーッ!」

 どこからか沸いて出てきた赤い外套を纏った弓兵が一斉に弓矢を発射!
 27本の弓矢が次々とゲンスルーを打ち抜き、その身体から力を奪う。
 そしてピラミッドを支えることもできなくなり、彼は聖帝十字陵に潰されてしまった。

「ワーハハハハハハ!!!」

 サウザーの嘲笑が響き渡った。



*



 サブとバラ。
 ゲンスルーの仲間であり、実力派の念能力者だ。
 彼らは今、二人一組でカードを集めており、ゲンスルーのカードも一時的に彼らが預かっている。
 二人は今、焦燥していた。

「お前らがプレイヤーを狩り続けているボマーか……」

 目の前の男、それはサブとバラを遥かに凌ぐ強さだった。
 黒い、ラッキョのような妙な髪型。
 太い眉毛に、開かれた誇り高き瞳。
 ガッシリとした身体に、男らしさを感じさせる濃い腕毛。
 黒いノースリーズのシャツに、下は白いGパン。
 その右に控えるのは、50メートルを超える黒いゴリラ……キング・コング。
 更に左に控えるのはこれまた巨大な白いキング・コング。
 名をホワイトゴレイヌ、ブラックゴレイヌという。

「これ以上の犠牲は出させん……ここで止める!」

 そう吼え、男……ゴレイヌは跳躍! 続けて黒いキングコングも跳躍!
 空中でブラック・ゴレイヌに蹴りを放ち、その瞬間に能力発動!
 黒いゴリラとサブの位置が一瞬で入れ替わり、ゴレイヌの蹴りがサブにヒット。
 そのまま地面へと急降下、衝突。
 一撃でKOしてしまった。
 これがブラック・ゴレイヌの能力。
 他人とブラック・ゴレイヌの位置を入れ替える究極にして最強の強制転移能力だ!

 続けて今度はホワイトゴレイヌの能力を発動。ゴレイヌとホワイトゴレイヌの位置が入れ替わり、一瞬で地上へと戻る。
 ゴレイヌは地を蹴り走る、が、あまりにも馬鹿正直すぎだ。
 バラがゴレイヌの突進に合わせて右ストレートでカウンター!
 だがここでブラックゴレイヌの後ろにホワイトゴレイヌが立ち、ゴレイヌの能力が発動!
 バラが転移し、ホワイトゴレイヌの前に転移。
 何もない空間に拳を繰り出してしまった。
 続けてバラの後ろに立っているホワイトゴレイヌの能力を発動。
 ゴレイヌはバラの背後に出現する!

「終わりだ!」

 両拳にオーラをかき集め、ゴレイヌは連続で拳を放つ!

「ゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレ
ゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレ!!!」

 ラッシュラッシュラッシュラッシュ!
 目にも留まらぬ速度で拳の弾幕を張り、バラを打ちのめす!

「ゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレ
ゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレゴレイヌゥゥーーーッ!!!」
「ヤッダーバァァーーー!!」

 勝負あり。
 バラは全身を滅多打ちにされ地面を転がった。
 殺してはいないがもう戦えまい。
 後はカードを全て取り上げた上で元の世界に帰すだけだ。



 この日、G・Iを脅かし続けたボマーの一行は人知らず壊滅した。















                   lヽ ∧
                  i / W V| ,,rl
                \ヽ!゙' r'   ~゙ └r''
                 ヽ 'l l゙l /-   ゙>
                  )wr..,,   -、  ̄ソ`ヽ、
                 /   ゙゙''z  ,  - く
                r<_,.~'-‐ーi,,, z  - 、  r'
.               _ >'゙ \-''´  ~ζ)  ヽ.>
.      r‐、       ヽ 、      ν!/ヽゞ /゙
   r‐-、/ /       ぐ=-、、   /ヽ-' /ベ'l゙  …俺、G・I編のラスボスだったんだけどなあ…
  /゙__,_ノ /.        )     /   /  |
 ( ̄  , )/.       <´    ,,..-'   /   lフ"フ
ノ  ´`ヽ< !        ヽ-‐'"´).   /   // ``ヽ、
゙i  ``ヽv /        ,ノ' |( 《   /  /// _,,..-''"\
,|  Y /Y゙       _,,-'''\ ヽ l     /   ,,.-''゙\    `ヽ、

主人公達が何もしてないのに爆弾魔一行が壊滅したでござるの巻。



[21843] こんなゴレイヌはナイスガイ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/29 21:59
 グリードアイランドに入って数日。
 政人達は順調にカードを集めていた。
 山道で「病気の子供がいるから持ち物を恵んでくれ」と言われればレオリオが秘孔を突いて治療し“奇運アレキサンドライト”を入手した。
 アントキバでは懸賞金のかかっている犯罪者(勿論ゲーム内でそういう位置づけをされているだけのゲームキャラだ。実際の犯罪者ではない)を片っ端から捕らえて金とアイテムを稼いだ。
 カヅスール率いる一味にカードを狙われたり、やたら人数だけは多い一味(後にわかったことだが彼らは古参プレイヤーで、一部では“ハメ組”と呼ばれていた)からの襲撃を受けたりしたが、レオリオが胡坐をかいたまま回転、全方位に有情破顔拳を発射して返り討ちにした。
 途中までは確かに順調だった。それは間違いない。
 事実、集めた指定カードはすでに80を超えている。
 このゲームは指定ポケットカードを100枚集めればクリア……と、いうことを考えるとすでに8割クリアしているわけだ。
 だが最後の方に来て、残すところレアカードのみ、となった所で攻略の難易度が跳ね上がった。

 しかし、この状況を打開できる知識がゴンさんにはあった。
 何故なら彼は逆行者。
 一度このゲームを“クリアしている”のだ。



「仲間を集める?」
「そうだ。俺たちを含めて合計15人になるようにしたい」

 このゲームの中でも最もレア度が高く入手困難なカード“一坪の海岸線”。
 その入手イベントを発生させるために必要なのが15人という人数だ。
 やはりこのカードだけは手に入れておきたい。

「つまり後9人か」
「やっぱ俺も数に入ってるのな……」

 残り9人。少ないようで多い数だ。
 ましてや、このゲームは他プレイヤーとのカードの奪い合いが頻繁に行われる。
 他プレイヤーは全てライバルといっても過言ではない。
 そんな状態で仲間を集めるのは決して簡単ではないのだ。

「勧誘するプレイヤーに心当たりはあるのか?」
「バトルオリンピアに出てた奴の何人かはこっちに来てるはずだが、あいつら本持ってないしなあ」

 レオリオの当然の質問に、ウボォーが首を横に振って答える。
 正規の手続きを踏んでいないものは本を持っていない。
 これではどこにいるかも分からないので、誘いようがないのだ。

 キルアはため息をつき、“通信”のカードを取り出して本にセットする。
 このグリードアイランドでは「ブック」の呪文で本を呼び出し、その本にカードをセットすることで魔法が発動できる。
 今使った“通信”はランクFの弱い魔法だ。
 その効果はゲーム内で一度会ったプレイヤーの誰か一人を選択し会話することができる、というものだ。
 だがこのカードの利用価値はもう一つある。
 それは、会話する相手を選択する選択画面そのもの。
 そこで自分が今まで何人に出会ったのかを確認することができるのだ。
 ちなみに本は全員が所持している。
 政人達はこのゲームに入る際に正規の手続きを踏んでいない。
 だが、ウボォーギンはかつてこのゲームに入ったことがあり、グリードアイランドを所持していたのだ。
 そのため、一度島から出て、正規のルートで入りなおすことが出来た。
 そしてマルチタップを使えば6人くらい余裕で入れる。

「ところで……あれ、何だ?」

 キルアが指を指す。
 1キロほど離れた位置だろうか。
 そこには黒と白の巨大なゴリラが見えた。

「ゲームのイベントじゃないか?」

 そう言ったのは政人だ。
 その言葉は決しておかしなものではない。
 事実、このゲームでは数メートルの怪物などが現れるのだ。
 そのうちの一つと考えるのはむしろ当然の思考だろう。
 だが、その言葉に異議が唱えられた。

「違います。あれは念能力ですよ」

 鈴を転がすような、女性の……否、少女の声だ。
 それに真っ先に反応し、振り向いたのは当然の如くキルアだ。
 そして見た。
 茶色の髪をポニーテールにした、愛らしい顔立ちの少女を。
 どことなく胡散臭さを感じるとか、ゴスロリ服だとか、ツッコミ所はあるが些細なことだ。

(やったッ! マッスルじゃない!
神様、俺は今貴方の存在を信じる!
信仰は死んだとか言って悪かった!)

 どう見てもマッスルとは縁遠い存在だ。
 服の下に凄い筋肉を秘めているようにも見えない。
 外気に晒されているその二の腕は白く、細い。
 間違いなく、普通の体型の少女だ。

「貴女は?」
「名乗るほどのものではありません」

 レオリオの質問に少女は笑顔を浮かべて、名乗る。
 一見愛らしい少女の、愛らしい仕草に見えるだろう。
 だがこの時、キルアを除く全員が同時に気付いていた。
      
 俺には理解わかる!
 外見には現れない、限界を超えた鍛錬の結晶!
 間違いない。
 こいつは、あのバトルオリンピアに出ていた……。

「ビスケット・クルーガーッ!!」

 政人が少女の名を呼び、彼女は舌打ちする。
 からかう気で来たのだが、こうも早くバレるとは。
 気付いていないのはキルアという少年だけか。

「ちっ……隠す意味もないわね」
「え?」

 爆 肉 鋼 体!

 可憐な少女は一瞬にしてその姿を変える!
 キルアより低かった身長は、彼を見下ろす山のような巨躯に。
 細い手足は丸太のように太くなり、大きくクリクリしていた瞳は気高きアマゾネスの如き鋭さに。
 小鼻は高くなり、唇は分厚く。
 触れば柔らかそうだった肌は、ゴツゴツとした岩のように硬質に。
 先ほどまでは似合っていたゴスロリは、その巨躯にサイズが合わず今にも破れそうだ。

(お、女版ゴンさん……!?)

 キルアは数秒沈黙、何も映さない瞳で虚空を見上げ、ガクリと膝をついた。
 そして何度も何度も、地面を叩く。

(畜生! 畜生! ちくしょおおおお……!
前言撤回! やっぱ神なんてロクなもんじゃねえ!)

 もうキルアの心は怒りと悲しさではち切れそうである。
 もし彼がサイヤ人ならば今頃確実に伝説の戦士に覚醒しているだろう。

「ねえ、こいつ何やってるの?」
「気にしないでやってくれ」

 突然地面を殴り始めたキルアの行動を疑問を持つのは当然だろう。
 ウボォーギンがそれを気にしないように言うが、これではまるでキルアが変人であるかのような扱いだ。
 おかしいのはお前らだ、俺じゃねえ。とキルアは内心で叫ぶもそれが届くことはなかった。

「よく俺達の場所がわかったな」
「そりゃわかるわよ、そんな目立つ頭してりゃ」

 当たり前のことだがゴンさんは目立つ。
 何せその髪の長さは13km。
 世界最長にして最速の斬魂髪なのだ。
 しかもその霊圧は隊長クラス。目立たないわけがない。

「目的は?」

 どうやってここまで来たのかはわかった。ゴンさんの髪を目指して真っ直ぐ来たのだろう。
 だがここに来た理由がわからない。
 その事を政人が聞くと、ビスケはニヤリと笑みを浮かべた。

「一坪の海岸線」
「!」

 どうやら彼女も気付いていたらしい、一坪の海岸線の入手条件を。
 知っていたのか? 否。
 辿り着いたのだ。恐らくは自力で。情報を一つ一つ洗い出し、推理しながら。
 そしてそれが正しいとしたら、何という洞察力の持ち主なのか。

「報酬は?」
「クリア報酬を一枚」

 このゲームのクリア報酬。
 それは指定ポケットカードを現実に持ち帰ることだ。
 若返る。
 性別を変える。
 上半身だけがマッスルになり、鉄の鍋をクシカツできる。
 その他にも様々な恩恵を持つ指定カード。そんな夢のようなアイテムを持ち帰れる。
 そしてその数は3枚。
 協力する代わりにそのうちの一枚を選ばせろと言っているのだ、彼女は。

「…………」

 政人は仲間達にアイコンタクトをし、仲間達も同意し頷いた。
 敵に回すべきではない。
 味方に引き込むほうが有利。
 彼女の頭脳は自分達にはない武器だ。
 そう判断し、彼らは彼女と手を組むことを決めた。



*



 歩くこと数十分。
 彼らはゴリラの足元にまで到着していた。
 そこにいたのは……ゴリラ! ではない!
 ゴリラのような男だ。

 ゴレイヌ。

 彼こそ、このグリードアイランドで最も優秀な存在だ。
 グリードアイランドは通常のカード集めの難易度もさることながら、守ること、そして何よりもカードの管理が難しい。
 指定カードを入れる空きが100枚。
 フリーポケットが45個。
 合計で145。それが一人で持てるカードの上限だ。
 そしてクリアのためには指定ポケットカードを集めなければいけないわけだが、当然ダブることもあるし、カードの数が増えるほどバインダーに入れることの出来るカードの数は減る。
 それはつまり、優秀な効果を持つ指定ポケットカードだろうと何枚も所持できない、ということだ。
 最初はまだいいだろう。だが後半になればそうはいかない。
 カードナンバーを揃えるためにはレアカードだろうが強力なカードだろうが捨てなければならない。
 更に厄介なのが他プレイヤーからの攻撃。
 相手は様々な手段でカードを奪いに来る。それを限られたカードだけで防衛しなければならないのだ。
 その難易度は半端ではない。
 加えて、指定ポケットカードを入手する条件が曲者だ。
 カードの中には“特定の指定ポケットカードを使わなければ入手できない”ものが複数存在する。
 そのために当然カードをダブらせる必要があるが、少し間違えばバインダーはすぐに埋まってしまう。

 更に、フリーポケットですら決して自由に使えるわけではない。
 生きるために食料は必要だ。それをカードにして持ち歩かなければならない。
 喉を潤すためには水が必要だ。これもカードにしなければならないだろう。
 買い物のためには金が必要だが、このゲームでカードにできる金は一万が限度。
 仮にフリーポケット全てに金を入れても45万しか持ち歩けない。
 更に目新しいものを入手したときのための空きも常に空けておかなければならない。
 そのことを考えると自由に使えるフリーポケット数は精々20……いや、それ以下だ。
 
 そのことから単独での攻略は極めて困難とされ、大抵のプレイヤーはチームを組んで行動する。
 そして、100人以上で徒党を組んでいるチームですら、何年もかけて未だに攻略できていないのが現状!
 だがゴレイヌは違う。
 彼は、たった一人だった。
 たった一人で、誰の協力も借りずにカードを集めたのだ。

 その数、実に76枚!

 所要時間、わずか数日!

 これほど優秀な男、他の何処にいるだろうかっ!?

「……よう、待っていたぜ」

 ゴレイヌは政人達を見ると不敵に笑った。
 彼もまた、一坪の海岸線の入手条件を知る一人だ。
 つい先日、カヅスールという者に呼ばれ、その際に一度一坪の海岸線入手に挑戦していた。
 だが結果は散々。
 ゴレイヌが最強にして最優なのは疑うべくもないが、カヅスール達が弱すぎた。
 これではお話にならないと判断したゴレイヌはチームから離れ、そして探した。
 共に一坪の海岸線攻略に臨める仲間を。

 そして今、その仲間はここにいる。
 その仲間とゴレイヌ、そして政人達を合わせた数は……ぴったり15!

 そのメンバーを今ここに、紹介しよう。



 山田・K・政人!

 ゴンさん!

 ウォーズマン!

 ウボォーギン!

 レオリオ!

 キルア!

 ビスケット・クルーガー!

 ゴレイヌ! 

 ラオウ!

 サウザー!

 ミルキ・ゾルディック!

 シルバ・ゾルディック!

 ジャギ!

 モラウ!

 そしてレイザー!

 以上15人でゲームマスター・レイザーに挑む!

「おいこら、まてやテメェ」





 当たり前のように紛れ込んでいたゲームマスター。
 キルアは彼の顔面に、容赦なく蹴りをお見舞いした。















   ご`ヽ、<えげつねぇな
  ら,り⌒\
   /  ノ  ゙ヽ
    { /`Y´ _)
    ヽ'^) >. )



[21843] こんなレイザーは嫌だ
Name: ファイヤーヘッド◆99432fa5 ID:6407878d
Date: 2010/09/30 19:47
 15人のメンバーを揃えた政人達は「同行アカンパニー」を使用し、ソウフラビへと飛んだ。
 「一坪の海岸線」入手条件。
 それはレイザーと14人の悪魔を倒すことであり、そのためこちらもそれと同数の人数を揃えていかなければならない。
 “15人でソウフラビへと飛ぶこと”それがイベントの発生条件だ。

「こっちだ」

 レイザーに案内され政人達が到着したのは岬だ。
 灯台を改造した要塞。その中で勝負は行われる。
 中に入って最初に思ったことは“体育館のようだ”だった。
 2箇所に取り付けられたバスケットのゴールに、床に設置されたバレーのコート。
 他にも跳び箱やマットなどがある。
 その体育館の中には海賊達がたむろしており、全員が黒い帽子を被っている。

「ここでレイザーと戦うわけだ」
「いや、レイザーってあんただろ」

 レイザーの説明にキルアが横槍を入れる。
 戦うはずのボスキャラがこちらにいるわけだが、これでゲームが成立するのだろうか。

「ま、問題ないさ」
「いや、大アリだろ」

 明らかにおかしい状況だが当の本人は気にしていないらしく、キルアをスルーしてルールの説明を開始する。
 ゲームは互いに15人ずつ代表を出して戦い、一人一勝。同じ代表が何度も勝ち星を稼ぐことはできない。
 勝利条件は先に8勝することで、負けた場合のデメリットは同じチームで挑めなくなることだ。
 とはいえ、一人でも代えればそれで済む話なのでかなり軽いデメリットだ。

 勝負の形式はスポーツ。
 海賊達がそれぞれ得意なスポーツで勝負を挑む。

「俺が一番手だ。勝負形式はボクシング!」

 海賊のうちの一人、細長い男が名乗りをあげる。
 対し、こちらから先陣を切ったのは世紀末覇者ラオウ!
 二人はリングの上へと登り、グローブを付けて向かい合う。

「1ラウンド3分間判定なし! どちらかがKO負けとなるまで何ラウンドでも続ける! ファイト!」

 試合開始のゴングが鳴り、それと同時にラオウが踏み込む!

「俺の剛拳、いつまで受けきれるかな!?」

 北斗羅烈拳!!
 神をも屠る剛の拳が連続で海賊を打ちのめし、血の海に沈める。
 ガードなど最初の一発で弾かれてしまった。格が違う。

「そこまで! 勝者ラオウ!」



 続く第2戦はSUMOU!
 海賊の中で最も太くでかいボポボという男が土俵に立ち、ミルキが迎え撃つ!
 互いにSHIOを巻き、周囲を浄化。
 四股を踏み、正面から見合う。

「はっけよい、残った!」

 開始の合図。それと同時に両者は飛び出し、DOHYOU中央で衝突する。
 衝撃。
 突風。
 二人の激突により体育館内を嵐が吹き荒れ、窓が割れる。

「ふん!」

 ミルキが腰を落としHARITEの連打。
 空間すら捻じ曲げ、光速すら越えた攻撃が何度もボポボを滅多打ちにする。
 だがボポボは倒れず、それどころか頭から突進!

「どすこい!」

 人間ミサイルと化したボポボの突進を、しかしミルキは正面から受け止め、空中に放り投げる。
 だがRIKISHIにとって空中に投げられることは敗北を意味しない。
 RIKISHIにとっては空中すらもDOHYOUに過ぎないのだ。
 ボポボが飛ぶ。
 ミルキも飛ぶ。
 割れた窓から二人は飛び出し、グリードアイランドそのものをDOHYOUとして戦い続ける!

 アントキバ!

 アイアイ!

 マサドラ! ドリアス!

 リーメイロ! ルビキューダ!

 カード不要の空中戦。場所を変え、空を変え、二人は戦う。
 HARITEが炸裂し、竜巻が巻き起こる。
 TUPPARIによって空が割れ、雲が吹き飛ぶ。
 雷が鳴り響き、地震が大地を揺らし、台風がグリードアイランドを覆う。
 そして一周して二人は要塞上空へと戻り、遂に決着の瞬間が訪れた。

「はあ!」

 ミルキがボポボを掴み、急降下!
 要塞の屋根を突き破り、体育館床を突き破り、大地を突き破り、地核をも突き破って地球の反対側へ!
 そしてリターン!
 再度地核を貫いて再び体育館へ。
 そして空中へ放り投げ、落ちてきたところへHARITE!
 派手な轟音と共にボポボは弾き飛ばされ、体育館の壁を突き破って吹き飛んでいった。

 OSIDASI!
 ミルキの勝利だ。

 ちなみに、ミルキが突き破った地核などはGYOUJIが修復した。



 第3戦。リフティング。
 出るのはジャギだ。

 勝負開始と同時に銃声! ジャギの凶弾が海賊のボールを破壊した!

 ボールがなくてはリフティングもできない。
 この時点でジャギの勝利が決定した。

「いや、今のどう考えても反則だろ……」

 スポーツの基準って何だっけ?
 キルアは己の中の常識が崩壊していくのを感じていた。



 第4戦。ビーチバレー。これにはサウザー・モラウがコンビで挑んだ。
 まずモラウが念能力で煙の兵士を量産し、コート内の人数を増やし、数の有利を築く。
 続いてサウザーが敵コートに聖帝十字陵を建設。相手を一人潰し、更に相手コートを埋めてしまった。
 こんな状態で勝負になるわけもない。
 モラウ・サウザーコンビはあまりにも一方的な勝利を収めた。



「俺が相手になろう」
「あんたこっち側じゃなかったっけ」

 ここに来て遂にゲームマスター・レイザーが動いた。
 しかしレイザーはこちらのメンバーだ。戦えるわけがない。
 そのことをキルアが指摘すると、レイザーは不敵に笑った。

「少年、“14人の悪魔”とは何だと思う?」
「は? そりゃここの海賊のことだろ?」

 レイザーと14人の悪魔、なのだから当然それはレイザー以外を指すはずだ。
 ならばここにいる海賊達以外ないだろう。
 そうキルアが言うとレイザーはチッチッチッ、と指を振った。

「違うな。14人の悪魔、とは……俺の念能力のことさ!」

 言って、レイザーは己の念能力を発動する。
 現れるのは具現化された念。
 レイザーのオーラで作られた自立式念人形。



 コートに立つ、14人のレイザー!!!



「はあ!!?」
「“最終鬼畜・14人の悪魔ぜんぶレイザー”!! これが俺の念能力だ!」

 なんだよ、その反則能力。キルアは念能力がわからなくなった。
 メモリって何だっけ? 系統って美味しいの?
 オーラ総量とかどうなってるの?
 様々な思考が脳内を飛び交い、最終的に出した結論は“こいつらに常識は通じない”だった。

「なるほど、そういうゲームか。えげつねェな」

 ゴレイヌが真っ先に気付き、呟く。
 このゲームは結局のところレイザー一人がボスであり敵なのだ。
 このドッジボールで勝てば8勝が手に入り勝利条件達成。
 逆に負ければいくら他の雑魚に勝っていても意味がないわけだ。

「さあ、8人の代表を選ぶんだな」

 メンバーを選べというレイザーの言葉に政人達は顔を見合わせる。
 間違いなくこのゲーム最強の敵。ならばこちらも最強のメンバーで挑むべきだ。

 まず、レイザー! それからレイザー!
 レイザーにレイザー、更にレイザー! ついでにレイザー!
 後レイザーは入れたいところだし、レイザーも必要だ。
 そして最後にキルア!
 ゲームにはこの8人が挑む!

「ふざけんなァァァァ!!!!」

 キルアの怒声が木霊した。

 レイザーチーム
 外野・レイザー
 内野・レイザー×7

 マッスルチーム
 外野・レイザー
 内野・レイザー×6、キルア

「馬鹿じゃねーの!? 何だよこのアホな布陣! どれが敵かわかんねーだろ!」

 右を見てもレイザー、左を見てもレイザー。
 敵も味方も全部レイザー。
 こんな場所にいては狂ってしまう。そう考えたキルアは強引にメンバー変更を強行。
 以下のメンバーへと変えた。

 レイザーチーム
 外野・レイザーA
 内野・レイザー×7

 マッスルチーム
 外野・レイザー
 内野・政人、ゴンさん、ウボォー、ウォーズマン、レオリオ、キルア、ゴレイヌ

 ゼーゼーと荒く息をつきながらキルアはとりあえず平静を取り戻す。
 マッスルの中にいるのは嫌だが、さっきよりはマシだ。
 本音を言えばメンバーに自分を入れたくなかったが、何故かそれだけは出来なかった。
 そんなキルアの、マッスル達にすら容赦なく突っ込みを入れる程に逞しくなった姿を見てミルキとシルバはうんうん、と頷く。

 やはりマッスル達に任せて正解だった、と。



 その二人の顔面へ、キルアの蹴りが炸裂した。












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