「・・・・なぜだ」 口をついて出る言葉。自分の耳に届いた声に思わず周囲を確認した。 誰もいない。 その事実を確認して、ふうと安堵の息を漏らす。 「こんなん聞かれたらまた何か言われるもんな」 「なにが?」 「いや、なんで俺がこんな事をやらなくちゃいけないんだろうってさ」 そう言って、抱えている荷物に視線を落とす。そんなに屈強じゃない俺の両手で抱えられているのは紙袋に入れられたパンと缶コーヒーの山だ。もちろん、これは俺一人で食う物じゃない。俺は小食なんだ。それ以前に俺は弁当持ちだから買うのは飲み物だけで十分だ。だというのにこんなにも買わされているのには当然訳がある。 「こんな事?」 「だから、買い出しなんて自分で行けばいいのに何で俺が行かされなくちゃいけないんだ・・・・・よ・・・・・」 そこまで言って気が付いた。俺は一体誰と話しているのだろう? 嫌な想像が頭をよぎる。恐る恐る視線を隣に移すと、そこには悪夢の権化が立っていた。 「あ・・・う・・・・・あ・・・・・」 聞かれた――― 恐怖に言葉にならない声が漏れる。 俺の隣に立っていた椎名はにっこりと笑いながら、俺の腕から缶コーヒーをとりあげる。 ぱきゅっという音と共にプルトップを開けると、くいっと一口、口内へと流し込んだ。 「いやなの?」 ジッとこっちを見てぼそりと問いかけてくる椎名。 その視線に晒されて、逃げ出したい気分で一杯になる。 「そ・・・・んな・・・こと・・・ない・・・よ」 湧きだしてくる恐怖を抑え、心で思っていることとは正反対の言葉を絞り出す。 嫌だと言えればどれだけ良いか。だが、そんなことは言えるはずがない。目の前の相手はそれほどの人物だ。 「ふん」 そう息を漏らすと、椎名は俺の体をがしっと掴み教室へと連行していく。そして、勢いよく戸を開き、椎名は俺を教室の中へと放り込んだ。 「わ、わわっ」 つんのめるようになりながらも何とかバランスを取る。そして、首筋の辺りに突き刺さる不穏な空気に恐る恐る顔を上げた。視線の先には数名の少女達。皆一様にじろりと俺を見ていた。 後ろで戸の閉まる音。おそらく、椎名が閉めたのだろう。そして、椎名は俺の抱えていた荷物を奪い取り、少女達の話の中に入っていった。 一瞬だけこっちを睨んで。 「・・・・・・」 ワイワイと姦しく話をする少女達の輪をみて、はあとため息を吐く。 「飯、たべよ」 そのまま立っていても、時間が過ぎていくばかり。俺はとぼとぼと自分の席に戻り、弁当を拡げた。 キーンコーンカーンコーン。 時刻を告げるチャイムが教室内に響く。 黄昏に染まる教室の中、立っているのは俺一人だった。いや、教室に残っているのが俺一人だと言った方が正しい。校庭では部活に励む生徒達の声が響き渡るが、そんな外の声とは正反対に教室の中を静寂が包み込んでいた。 「はぁ・・・・」 何度目になるか分からないため息を吐く。最後の机を戻し、教室の清掃を終える。掃除用具入れに箒やちりとりを片づけ、教室を後にした。 そしたら、廊下で突然声をかけられた。 「あっれー? 今里じゃん。こんな時間までなにしてんの?」 「あ、鈴木」 声の方を向くと鈴木が立っていた。部活中なのか、体操着のままこっちに近づいてくる。 そして、廊下に設置してあるロッカーの中からタオルを取りだして、汗を拭いていく。 汗を拭きながら鈴木はこっちを見ると、話題を探している俺に問いかけた。 「あんた、帰宅部でしょ? 何だってこんな時間までいるのよ?」 「いや、別に・・・」 怪訝そうな顔で問いかける鈴木に小さな声で答える。 掃除を全部押しつけられましたなんて、恥ずかしくて言えた事じゃない。 だけど、鈴木は俺の反応を見て、一発で答に辿り着いてしまった。 「あ、そっか。お嬢だね。掃除押しつけられたんだ」 にまにまと笑いながら、図星だろと表情で聞いてくる鈴木。 「ああ、そうだよ。掃除一人でやれって言われたよっ」 その表情がたまらなくむかつくから、逆ギレ気味に声を荒げた。 そんな俺の反応に鈴木は勝ち誇った様な表情でこっちを見る。やっぱりぃ〜なんて心の声が聞こえてきそうだ。 「あははっ、ご愁傷様♪ 何だったら私が手伝っても良かったけど・・・・教室見た感じ、もう終わってるよね?」 「ああ、終わってるよ」 「お疲れ様。じゃあ、今里も気をつけて帰りなよ」 そう言って、鈴木は去っていく。 じゃあ、なんて呟いて、俺は廊下を後にした。 「手伝って・・・くれるのか・・・・」 太陽は殆ど沈み、夕闇が支配を始める道を歩きながら、さっきの鈴木の言葉を反芻する。 粒ぞろいのうちのクラスの中でも可愛い方の鈴木。当然、そんな鈴木はもてる。だけど、鈴木はごめんね攻撃の連発で連戦連勝だと聞く。それは何でかなんて考えたことなかったけど・・・ ・・・・・・・もしかして、鈴木は俺に気があるのか? ま、まさか・・・・ね。だって、鈴木だぜ? 椎名とか堀内とかとは違う出来た人間。明るくて優しくて、そんでもって美人だし。もう何回もネタに使わせてもらった鈴木がこんなオタ入ってて、椎名にパシられてる俺なんか好きな訳ないだろ? そんな風に否定をしても、期待と願望が胸の内から込み上げてきて、思わず頬が緩んでいく。 今日は鈴木をネタに楽しもう。 視界の端に俺を指さして笑っているガキ共がいるが、そんなことは気にならないくらいハイな気分で家に帰っていった。 『はっ・・うんっ・・・ぁっ・・あぁっ・・・・今里のっ・・・・いいっ・・・・』 鈴木は窓ガラスに手を突いて、喘ぎ声を漏らしていく。大きくないが形の良い胸が窓ガラスに押しつけられて、形を変える。 鈴木っ、鈴木は淫乱だなっ。こんな風に教室で犯されて感じるなんてっ。 『そうっ、気持ちいいのっ・・・! 今里のがっ・・・・・今里のが気持ちいいのぉっ!!』 ビクビクと体を震わせて、鈴木は悶える。 これが俺の力。相手を思い通りに変えられる力。この力があれば椎名も鈴木も堀内も幸村も俺のモノに出来る。この力さえあれば俺は全てを支配出来るんだ。 『い、今里ぉ・・・・』 鈴木が微かに俺を呼ぶ。弱々しくこっちを見ている瞳ははっきりと物欲しそうな色をしていた。 『ねぇ・・・・今里・・・最後はちゃんと・・・今里を見たいな・・・・』 うるうると瞳を潤ませて鈴木はねだる。こんなヤバイくらいに可愛いお願いを断れる奴がいたら、そいつは鬼畜に違いない。 鬼畜じゃない俺に断れるわけもなく、鈴木の願い通りに鈴木の体を反転させた。 って、やべぇ。反転させる時の刺激で出しそうになっちまった。鈴木の中はヤバイくらいに気持ちいいけど、こんなんでイッたなんていったら恥ずかしすぎる。 落ち着け、俺。落ち着け。もうちょっとの我慢だ。 目を瞑って、暴発しそうなモノを落ち着かせてから、鈴木を見る。鈴木は頬を赤く染め、瑞々しい唇を緩く閉じてこっちを見ていた。 やっぱ、鈴木は可愛い。そしてエロい。形の良い胸も、その表情豊かな顔も、俺のモノが差し込まれている所も。全てが高水準でヤバイくらいのエロさだ。 これで良いか、鈴木? 『うん・・・・今里・・・ううん、友也・・・・好き・・・・』 俺の問いに恥ずかしそうに答えて、鈴木は更に恥ずかしいことを言ってのけた。 俺もだぜ華子。 窓枠に鈴木の背中をもたれかけさせて、ズンと下から突き上げる。一突き、二突きする度にビクビクと体を震わせる鈴木の中は外の反応とは逆、いや、同じようにうねうねと俺を受け入れていく。 やばいって、これやう゛ぁいって。鈴木がこんなに気持ちいいなんて。やう゛ぁいって。 『ああああっ、イッ、イクッ! 友也っ、イイッ、だめっ、イクッ』 俺もだ華子。俺もイク。 『いっ、一緒っ! 一緒にっ!!』 ああ、一緒に、一緒にいこうっ! ビクビクと震える華子へと深く深く突き入れる。そして、きゅぅっと締め付けてくるまんこに見立てたティッシュの中へと勢いよく射精した。ティッシュを押さえている手に嫌な感触が走る。そして数秒、射精が収まったのを確認して、チンコ回りを拭き取り、ティッシュをゴミ箱へと放り込んだ。 ふぅ。すっきりした。やっぱ、鈴木は良いな。妄想だけど。 当たり前だ。鈴木は俺の彼女じゃないんだから。ていうか、俺に彼女なんていないんだってば。 別にイケメンって訳でもなく、スポーツや勉強が出来るわけでもない。ディープじゃないけどオタには変わりないし、学校では女子にパシリにさせられてる。こんな俺のことを好いてくれる奴なんて、世界に一人くらいはいるのかも知れないけど、今まで生きていて一度も目にかかったことはありません。 そんなわけで妄想で満足しているわけだ。いや、満足している訳じゃないけど。だって仕方ないじゃん。彼女なんていないんだから。 「ぷふぅーっ。なんかオナッてたと思ったら、百面相。こいつおもしれぇー」 「ぶふぅーーーっ!」 突然聞こえてきた声に盛大に咽せる。 み、みられたっ!? 一体どこから!? ドアに鍵はかけたし、ここ二階だぞ!? 「ぶっ!?」 声の聞こえてきた方を見て二度驚いた。 ガラリと全開に開かれた窓に女の子が座っていた。どうやって二階に上がったか以前に、その女の子の格好がきわものだったからだ。 金髪ツインテールのロリ少女。胸も当然ぺったんでって、ちげーよ。そこも見るとこだけど、それより注目すべきなのはハイレグな黒のワンピースを着て、同じく黒の手袋と靴。そしてピコピコと動く真っ黒な翼と何か先が突き刺さりそうな形の黒いしっぽ。 女の子はどうみてもコスプレな衣装に身を包んでいた。 「な・・・・・な・・・・・」 「よっと」 にやにやしながらこっちを見ていた女の子は、土足のまま部屋に入るとつかつかと俺の目の前までやってきて、見下ろしながら問いかける。 「お前、名前は?」 「い、今里友也・・・」 「ゆうや・・・・友也か」 事態を飲み込めず、想わず答えてしまった俺に女の子はにこりと無邪気そうな笑みをむけた。 「喜べ、友也。このアタシ、悪魔アリス様がお前の願いを叶えてやりに来たぞ!」 へ・・・・・? 今なんて言いましたこの子? あくま? アクマ? 亜熊? 悪魔? 悪魔って言いましたこの子? 「悪魔ーーーーーーーーー!?」 「その通りだ。どんな願い事だって叶えてやるぞ。無論、報酬はもらうけどな」 ちょ、悪魔って、悪魔ですよ? 悪魔ってあれですよ? 何か悪いモノ。 すげー、俺悪魔にあってるよ。今まで一度も見たことなかったのに。 おお、すげー。すげーすげー。 「すげー、すげー、すげー」 翼も本物みたいだし、尻尾だって自由に動かせるみたいだし。 「おお、すげぇ。ホントに悪魔だ!」 「だから、悪魔だっていってんだろーっ」 バキィッ!! 「ぐはぁーーーーーっ!」 起こったことをありのままに言うぜ。 瞬間、女の子の姿が消えたと思ったら、顎と首に凄い衝撃が走って、気が付いたら仰向けに寝てた。 これは超スピードや催眠術みたいなちゃちなモノじゃ・・・って、超スピードだよ。 全然わかんなかったけど、きっと小さい体を活かしたカエル跳びアッパーを食らったんだよな・・・・がく。 「痛つつ・・・・あれ?」 何分気絶していたのか、じんじんと痛み続ける顎と首の痛みに目を覚ました俺の目に飛び込んできたのは、何故か体育座りでこっちをじっと見ている悪魔の姿だった。 え? 何? 何なの? 何で体育座りなの? 「やっと起きたか」 悪魔はやれやれなんてため息を吐いて、もう一度立ち上がる。 そして、先程と同じように俺を見下ろす体勢になった。 「さあ、なんでも願いを言ってみろ」 いや、ちょっと。願いを言ってみろって、唐突すぎるんですけど。 「えっと・・・あの・・・質問・・・なんですけど」 「何だ?」 あ、めんどくさそうな顔になった。絶対、頭わりーな、さっさと事情を飲み込めよとか思われてる。 「あの、悪魔・・・・」 「アリス」 へ? 「えっと、悪魔さ・・・」 「アリス」 ハイ? 「悪魔さん・・・」 「だから、アタシの名前はアリスだって言ってんだろがぁー!」 あ、ああ、名前か。 「あの・・・アリスさんは俺の願いを叶えに来たって言いましたよね?」 「ああ、その通りだ。願いを叶えて、魂を頂くのがアタシの使命だからな」 自信満々に言ってぺたんこの胸を反らすアリスさん。 いや、使命って言われてもさ・・・ 「願いって、どれだけかなえてくれるんですか?」 「そんなもん一つに決まってるだろ。魂は一つしかないんだから、願いも一つ。それが等価交換ってものだ」 「ええと、それじゃ願いを言った瞬間に魂を持って行かれるって事ですか? 例えば俺が世界征服を願ったとして、次の瞬間には世界征服が達成されて、そんでさらに次の瞬間には魂を持って行かれるって、全然願いが叶ってないじゃないですか」 「安心しろ。それぐらいは考慮に入れてやる。そのたとえで行くと世界征服が達成されてから一年は待ってやろう」 おお、それなら一年は王様気分が味わえるって事だな。 でも、正直世界を支配するなんて興味湧かないなぁ。ハーレムには憧れるけど。 「ほほう、ハーレムか。どこの世界でもやはり男の望みは変わらないんだな」 「え? ちょ、俺何も言ってないよね・・・・って心読まれたーっ!?」 「何を驚くことがある。アタシは悪魔だぞ。心を読むなんて朝飯前だ。なんだ、ハーレムが望みか?」 ふふんと得意そうにアリスさんは俺を見下ろしながらピコピコと尻尾を振っている。 流石悪魔ってところなのか。すげー。 「や、ちょ、まって。ハーレムは自分で作るから・・・・」 そう言って、願い事を考える。 っても、思いつくのなんて一つくらいしかなかった。 「相手を操る力が欲しい」 そう、相手を操る力。肉体操作も精神操作も含んでいるのがいい。日頃から下のお世話になっている抹茶色の背景のウェブサイトの小説の様な事をしたいんだぜ。 相手を好き放題に操る力。これさえあればハーレムも思いのままだしな。 「相手を操る?」 アリスさんはジッと俺を見て聞き返す。どういう風に操るのかはっきりと想像出来ないんだろう。 そう言う時こそイメージで伝えるんだ。さあ、俺の心を読んでくれ! ジッと見つめ合うこと数秒。にやりとアリスさんの顔に悪そうな笑みが浮かんだ。 「ふふん、そういう力が欲しいのか。良いだろう。ちょっと目を閉じていろ」 言われた通りに目を瞑る。 俺の額にナニカが当てられる。そのナニカはひんやりして気持ちが良かった。 「・・・・・・・・・・」 アリスさんが何かを喋り出したのと共に、ひんやりとしていたナニカは徐々に熱くなっていく。 つーか熱い。 「あちちちち。熱い、熱いってばっ」 「我慢しろ、あと数秒で終わる」 そうはいっても、熱いモノは熱い。これ、ホットの缶コーヒーとかの熱さだよね。だから熱い、熱い熱い熱い! 「ほら、終わりだ」 熱いナニカが額から剥がされる。熱していたモノがなくなって熱せられた額を空気が徐々に冷やしていく。思わず額をさすりながら、アリスさんを見た。 「えっと、これで終わり・・・・?」 「ああ、そうだ。お前にはもう相手を操る力が付いた。使い方は簡単。操りたい相手に向かって手を広げたまま突き出して、その相手の名前を言って、捕まえたって言いながら手を握る。友也にだったらこう」 そういって、アリスさんは俺に向かって手を翳す。 ちょっとまて、どうする気だよ。 「今里友也、捕まえた」 言って、アリスさんの手がギュッと握られた。俺に変化はない。 目を閉じて、構えてしまったが、何も起こらなかったことに安心した。 「わかった? そうしたら、相手が催眠状態みたいな状態になる。その間に暗示を入れればいいんだ。ん? どうした。友也」 「いや・・・・別に」 「そうか? これで契約は完了だ。お前の願いが満了したと判断するまで共にいてやる。アタシのことはアリスと呼ぶがいい」 はい? 一緒にいる? それってどういう・・・・ 「じゃあ、アタシは寝る。眠いのだ。友也も適当にねなよ」 そう言って、アリスは俺のベッドで寝息を立て始めた。 え? ええ? 俺はどこで寝ればいいの? ああ、太陽が黄色い・・・・・ ふらふらと足をふらつかせながら俺は家を出る。 結局、ベッドはアリスに占領され、ソファで寝たせいもあるけれど、一番の理由は昨日の出来事にあった。 わきわきと手を握る。手には何も感じないが、この手で俺は誰でも操ることが出来る。 その興奮と誰を操ってやろうかという期待で全然眠れなかったのだ。 最初の相手はもう決まっている。 くらくらと揺れる頭を何とか支えて、学校へと足を進めた。 ちなみに、アリスはまだ寝ていたので放置しておいた。 朝の教室はザワザワと騒がしい。 昨日のテレビを見たかとか、誰が結婚しただとか。そんなどうでもいい話題は他でやってくれ。完徹の頭にズキズキと響くんだ。 眠い・・・・・ 頭が眠れと強制してくる。 だが、寝て何ていられない・・この楽しい力を使って・・あいつを・・ 俺にはやることがあるんだ・・・・・あの・・・・むかつく・・・・・椎名を・・・・ぐぅ。 「・・・・・さと、・・・・・今里」 んぅ。なんだ。もう朝か? 心地よく寝てたのに、気持ちいい睡眠の邪魔をする奴は誰だ? 「今里、今里・・・」 お母さんか? 体が揺すられる感触がまたいい感じだけど、俺はもっと寝ていたいんだ。 「後五分〜」 「いや、後五分じゃないから。起きなって、今里」 ゆらゆらと揺すられる。絶え間なく続いていく振動に負けて、俺は重い瞼を押し上げる。そして、俺の目の前に合った顔は予想していたモノとは違った。 「・・・・・す・・・ずき?」 「あ〜、やっと起きた。今里、いつまで寝てんのさ。もう下校時刻回ってるよ?」 は? 今何て言いました? 反射的に時計を見る。 ・・・・六時。 六時!? オレンジ色の光が世界を染め上げていて、その中で鈴木は呆れ顔で俺を見下ろしていた。 「えーっと・・・つかぬ事をお聞きしますが、俺はどれくらい寝てたのかな?」 「確か一時間目・・・いや、ホームルームの時から寝てたから・・・いちにぃさんしぃ・・・・九時間と半・・・かな? よく寝てたねー。先生もお嬢も呆れてたよ」 九時間・・・・そんなに寝てたのか・・・当然、椎名の姿なんかない。つーか、俺と鈴木だけしかいない。 「あ・・悪ぃ、鈴木。面倒かけたな」 「流石に起きてるかと思ったんだけどねー。教室に戻ってきたついでだから気にしなくてもいいよ」 あははと笑いながら鈴木は言う。そして、きょろきょろと辺りを見回してはあとため息を吐いた。 「それにしても、誰も起こさないとはね〜。面白がってんのかな?」 「鈴木が起こしてくれたじゃん」 俺がそう言うと、鈴木はあははと笑った。 「だってねぇ。一人ぽつんとまだ寝てんだよ? 同じクラスなんだしさ。起こしてあげよって気にはなるでしょ」 そんな鈴木の言葉に俺はハッとする。やっぱり、鈴木は俺に気があるんじゃね? この恥ずかしげな表情。俺を直視せず、いや、出来ずにそっぽを向いている鈴木。これって、俺を好きだってサインじゃね? 好きだけど、恥ずかしいからそれを表に出せないとか? マヂで? マヂデカ? 「じゃ、今里もさっさと帰りなよ」 言って、鈴木はくるりと背を向ける。 え? ちょっ、なに? 期待させておいてそれ? 二人っきりだよ? 二人っきり。告白にはぴったりじゃん? どうなのよ? パタンと閉められる引き戸。 よく解らないまま手を出した姿勢で、茫然としてしまった。 「おっそぉぉぉぉいっ!」 「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!!!」 さっきの結果を引きずったまま家に帰った俺を待っていたのはジミー・シスファーばりのJOLTだった。ものすごい勢いのボディブロー(アリスは背が足りないので真っ直ぐ拳を打ち出すと見事に俺の鳩尾にはいるのだ)に俺は腹を押さえて悶絶する。 そんな俺を見下ろして、アリスはギロリと俺を睨んでいた。 え? ええ? 俺何かした? きゅるるるぅぅぅ。 次の瞬間、盛大な音が聞こえて、がくぅとアリスが崩れ落ちた。 え? 今の音・・・・ 「お、お腹すいたぁ〜」 情けない声が同じ高さから聞こえる。見るとアリスはお腹を押さえて弱々しくこちらを見ていた。 ・・・・・はぁ。 「ふぅ〜、食べた食べた」 俺が食う三倍の量をたいらげて、アリスは満足そうに言った。 聞けば、アリスは起きてから俺が帰ってくるまで何も食べてなかったらしい。別にアリスが遠慮していたわけではなくて、すぐに食えるモノがなかったからだ。寝てなかったこともあって、今日は俺も朝飯を食わなかったし。今、この家にはアリスと俺以外に誰もいないんだから当然と言えば当然か。 「まったく、アタシが死んだらどうしてくれるんだ? お前のせいだぞ」 「わかった。わかりました。今度からはちゃんと食べられるものを入れておくから、今日みたいな事は勘弁してくれよ。こっちが死ぬかと思ったよ」 じろりと睨んでくるアリスに両手をあげながら答える。 いや、冗談じゃなく、目の前に三途の川が見えたかと思ったし。それこそ光の中の神の姿を見せられそうになったぜ。 「で? どうだった?」 にやにやと口の端を持ち上げて、アリスは唐突に聞いてくる。 え? ちょっと、それは俺の台詞じゃないのか? 俺が飯作ったんだから。 「違う、力は使ったのかと聞いてるのだ」 あ、また心読まれた。それはそうとそっちの話か・・・・。 はぁ・・・・・。 どうせ隠していても心を読まれるんだから、あったことを包み隠さず全て離した。 「というわけで、結局誰にも使えなかった」 ピクピクとアリスの眉が動いたかと思ったら、アリスはナニカに耐える様にしながら辺りを見回す。そして、お目当てのモノをみつけたようでそれを手に取った。 ちょっと待て、それポスターじゃねぇか。しかも、今度貼ろうと思ってたやつ! アリスはこっちへ来ると、にっこりと笑ったまま丸めてあるポスターを振りかぶる。 「あほかぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 怒号一閃。 振り下ろされたポスターは俺の頭に当たり、スパァンといい音を響かせた。そんなに小さく丸められてなかったので、叩かれた痛みがあまりないが、勢いよく叩かれたポスターは見るも無惨な姿になっていて、精神的に大ダメージを受けた。 「脆い」 そう吐き捨てる様に言って、アリスはぽいっとポスターを投げ捨てる。 ああ・・・・・俺のポスター・・・ 「で、その鈴木とか言う女は可愛くなかったのか?」 鈴木? 何で鈴木? 椎名の話じゃなかったのか? 「お前、その鈴木ってのと二人きりだったんだろ? お前の妄想はどうでもいいけど、力を使う絶好のチャンスじゃん」 「・・・・・・・あ」 間の抜けた声を出した俺の顔はさぞかし間抜け面だったに違いない。が、そんな意識は再びポスターを選び出したアリスの姿に一気に吹っ飛んだ。 「ちょっと待てぇぇぇぇっ」 俺の叫びが家中に響き渡った。 ああ・・・・また太陽が黄色い・・・ ふらふらとしながら俺は道路を歩く。 あの後、深夜2時くらいまで説教は続き、さらにまだ貼っていないポスターを片っ端からハリセン代わりにしようとするアリスと、それを阻止せんとする俺との攻防が明け方まで続いた。両者力尽きて寝落ちしていたらしく、気がついたら目の前でアリスが俯せに寝ていた。 そんなアリスに布団を掛けてやり、昨日みたいな目には遭いたくないのて、簡単に食えるモンを用意してから家を出た。時間はぎりぎりだが、まあ、何とか遅刻せずにいけるだろう。 それに、今日こそは。 手のひらを見て、ぎゅっと握る。 昨日は不覚にも寝てしまったが、今日こそは椎名でも鈴木でも、他の奴でも好きなように操ってやる。 そんな風に思って、T字路を曲がろうとした時だった。 ドンッ 「わっ」 「うわっ」 突然の衝撃が身体を走る。俺は何かと激突し、吹っ飛ばされたようだった。 「つつ・・・」 勢いよく俺にぶつかってきたそれは俺とは反対側に吹っ飛んでいた。 ってー、誰だよ。つーか、なんなんだよ。お約束? 「あいたたた・・・お尻打ったぁ〜・・・」 聞いた事ある声が吹っ飛ばされた相手から聞こえてくる。よく見るとそれは鈴木だった。 「鈴木!?」 「あーい、鈴木でーす。って、そう言うあんたは今里じゃん。ったー・・・」 鈴木は尻をさすりながら立ち上がると、放り出された鞄を拾い、俺に手を差し出してきた。その手を掴み、立ち上がる。地面に擦ったか、ズキリと手の甲が痛んだので、その傷をぺろりと舐めた。 それを見られたのか、鈴木が近寄ってきて手の甲の傷を見る。 「大丈夫?」 「大丈夫だよ。舐めときゃ治んだろ」 「ま、そうだね。とりあえずこれでも貼っとけば」 そう言いながら鈴木は、鞄の中から絆創膏を取り出す。って、何で持ってんだ? 「まーなんとなくかな? 私、昔からよく怪我するんだよねぇ。だから、常に絆創膏を持っているのが癖になっちゃって、持ってないと逆に気になんだよね」 「って、お前まで心を読めんのかっ!? お前はどっかの悪魔様かっ!?」 「いや、昔からよく聞かれてるし、今里思いっきり顔に出てるし。っていうか、悪魔様って誰?」 「あー、いや、別に気にしないで―――」 キーンコーンカーンコーン。 学校からそう遠くないここにまで聞こえてくる鐘の音。予鈴か? いや、もしかすると本鈴かも。 「あーあ、鳴っちゃった。あとちょっとだったのになぁ〜。仕方ない。ほら、今里。行こ」 そう言って、鈴木は前を歩き出す。俺はそんな鈴木の背中を茫然と見ていた。 「・・・・・あれ?」 蛍光灯を消され、窓から差し込む光だけが光源の教室。その中に俺は一人ぽつんと立っていた。 ちょっと待て、俺は何でこんな事をやってんだ? えっ・・・・と、朝、鈴木とぶつかったせいで遅刻して・・・・アリスのせいで寝てないから、やっぱり今日も寝ちまって・・・・今日は起こされたと思ったら、教室の掃除を押しつけられて・・・あれ? デジャヴ? なんか最近同じような目にあったような・・・ 「あれ? 今里?」 がらりと戸を開けて、鈴木が教室に入ってくる。 あれ? デジャヴ? 「なに? また、掃除押しつけられてんの? なに? 好きなの?」 にやにやと笑いながら、鈴木は俺に近寄ってくる。 ちょっと待て、それは何か? 俺が掃除押しつけられて喜んでるとでも言うのか? 「なんでだよ。俺はMか。こんなんむかつくだけだろ」 「あははっ、そりゃそうだよね。でも今里も律儀というか真面目だね。押しつけられたならほっときゃいいのに。で、これもう運んじゃっていいの?」 そう言って、鈴木は寄せられている机を持ち上げる。 「鈴木?」 「あれ? まだ掃いてなかった? 後は机を戻すだけだと思ったんだけど」 「いや、そうだけど。手伝ってくれんの?」 「一昨日そう言ったじゃん。それに誰かに押しつけて、さっさと帰るのなんて私は嫌なんだって」 鈴木は机を持ち上げて元の位置へと戻していく。 ちょ、マジで? 俺に押しつけるのが嫌だって言ったか? やっぱり鈴木って俺の事好きなんじゃね? 「ほら、さっさと終わらせよ」 「あ、ああ」 鈴木の言葉に押されて、俺も慌てて机を動かす。鈴木だからと言うわけではないが、一人より二人の方が精神的にも時間的にも楽になり早めに終わらせられる事が出来た。 「ふう、これで終わりだね」 最後の椅子をおろして鈴木は言う。ふうーなんて息をつきながら、身体を伸ばす仕草が健康的な鈴木にはよく似合っていた。 「ああ、悪いな鈴木」 「いいって、いいって。さっきも言ったでしょ。私が嫌なんだって」 あははと笑いながら鈴木は手を振る。この恥ずかしげな表情、やっぱ、鈴木って俺の事好きなんじゃね? だけど恥ずかしくていえないから、こっそり俺の事を助けてくれるんじゃねえ? 「じゃ、私はこれで」 って、ええ、マジかよ。またそれ? それは勘弁してくれよ。いい加減にはっきり言ってくれよ。 つーか、そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。辺りを見回す。昨日や一昨日と同じシチュエーションと言う事は俺達の他には誰もいないと言う事だ。昨日アリスに言われて気がついたけど、力を使うのには絶好のシチュエーションな訳だ。右手を鈴木に向けて手を開く。 そして―――― 「鈴木華子、捕まえた」 アリスに教えてもらった言葉を唱えて、ぐっと手を握る。 ドサッ。 瞬間、鈴木が俺の視界から消えた。 えっ!? ちょっ、消えたっ・・・・て、違う。倒れただけか。びびった。消えてたらどうしようかと思った。催眠状態みたいなものになるって、アリスが言ってたじゃん。いや、どっちにしても鈴木は大丈夫か? 慌てて鈴木に駆け寄り抱き起こす。鈴木は完全に脱力しぐったりとしていた。 マジ? マジで? マジで催眠状態になってんの? 鈴木の目の前で手を振ってみたり、頬をつついてみたりするが鈴木は何の反応も示さない。むしろ、頬の柔らかさに俺がびっくりした。 「マジで意識がないのか・・・」 馬鹿。意識がないんじゃ催眠状態じゃないだろ。催眠状態って言ってんだから暗示入れられるだろ。えっと、こんな時はどうすればいいんだっけ? 日頃の妄想を思い返せ、いつも見てるネット小説を思い出せ。 まるで寝ているかのような鈴木をみているとどきどきと胸が高鳴る。いや、どきどきなんてモンじゃない。バクバクと言うくらいに心臓が高鳴り、うるさいくらいに耳に響く。落ち着け、落ち着け俺。 「鈴木さん・・・聞こえますか?」 「・・・はい」 おお、答えた!? ホントに催眠状態になってるのか!? すげー、すげーぞ、悪魔の力! やべえ、すげえやべえ。 口にたまった唾を飲み込む。知らず、呼吸が荒くなっていた。だから、落ち付けって。興奮すんのはまだ先だろ。 「いいですか、鈴木さん。今から三つ数えると、あなたはとても素直になる。どんな質問にも素直に本当の事を答えてしまいます。どんな事でも、どんな恥ずかしい事でも素直に答えてしまいますよ。わかりましたか?」 「はい・・・私はとても素直になる・・・」 鈴木が復唱する度にブルッと身体が震える。あの明るさが魅力的な鈴木が静かに答えるだけでこんなに蠱惑的に感じるなんて、誰も知らない事なんだぜ。それに、鈴木の顔がとても近い。普段こんな距離で話した事なんて無いからどきどきしっぱなしだ。 緊張でのどが渇いていく中、ゴクリと息を飲み、そして、いきなり核心をついた。 「鈴木さん・・・・あなたは私・・・今里友也の事をどう思ってますか?」 「今里・・・別に・・・何とも思っていません」 ・・・・・・はい? ちょ、ちょっと待て。どういう事? 鈴木は俺が好きなんじゃないの? 「鈴木さん・・・あなたは・・・今里君の事を好きじゃないんですか? 声が震える。答えを聞きたくないと頭の片隅で叫んでいたが、口が勝手に動いていた。 「はい・・・別に好きというほどじゃないです・・・」 「・・・・っ」 聞きたくなかった。あーもー、マジでー。ふざけんなー。好きじゃないんだったら勘違いさせるような事すんなよ−。あーくそ。 恨みを向けるような思いで鈴木を見る。俺の腕の中で静かに目を閉じている鈴木の姿に現在の状況を思い出した。 そうだよ、鈴木はアリスからもらった力で催眠状態になってんだよ。鈴木は今俺が支配してるんだ。どんな風にするのも俺の思い通りなんだよ。その事実が俺を落ち着かせた。 さて、どうするか・・・やっぱり、鈴木には恋人になってもらうか? いや待て、それじゃさっきの俺の悔しさが晴らせない。鈴木には鈴木のまま俺のセフレになってもらうか。 「鈴木さん、よく聞いてください。今から三つ数えると、鈴木さんは目を覚ましますが、目を覚ました後、鈴木さんは今里君とエッチする事が当たり前になります。いつでもどこでも、今里君が求めたら拒まずエッチします。わかりましたか?」 「・・・はい、私は今里とエッチする事が当たり前になります。いつでもどこでも今里が求めたら拒みません・・・」 復唱する鈴木の声にぞくぞくする。早く鈴木のエロい声も聞いてみたいぜ。 「では三つ数えると鈴木さんは目を覚まします。一、二、三っ」 鈴木を抱きかかえたまま三つ数え、鈴木の耳元で指を鳴らした。その音にピクンと鈴木は身体を震わせると、降りていた瞼をそっと持ち上げた。数秒、茫然としていたが、鈴木は自らの状況に気づき、慌てて俺から離れた。 「ちょっ、今里。え、なに? どうして?」 俺に抱きかかえられていたという状況は理解しても、どうしてそう言う状況になったかというのを把握しきれていない鈴木は自分の身体を守るように肩を抱き、警戒するように俺を見る。 「今里、あんた何したの?」 まるで威嚇する猫のように全身で俺を警戒する。だけど、鈴木。お前は何に対して警戒してるんだ? 「別に、何もしてないよ。これからするんだしさ。なあ、鈴木。キスしていいよな?」 「え? あ、うん。別にいいけど・・・何も、してないのよね・・・」 「だからそう言ってるだろ」 そう言いながら鈴木に近寄り、くいっと顎を持ち上げる。鈴木の赤い唇が鮮烈に俺の瞳に焼き付いてくる。柔らかそうな鈴木の唇。鈴木はキスした事あるのかな? 俺、した事ねえんだけどどうすりゃいいんだ? 馬鹿か俺は。キスなんだから唇を合わせりゃいいんだろ? 「・・・・・・・・・・」 「どうしたの今里? キス、するんじゃないの?」 「あ、う、うるせーなっ。今からするんだよっ」 ああ、もう! 何だよ、なんでこんなにどきどきすんだよ! ただ唇をつけるだけだろ。あほか俺! 「今里。もしかして、キス、した事無いんじゃないの?」 「う、うるせーって言ってんだろ! なんだ、キスぐらい、唇つけるだけじゃねーかっ」 ぐっと鈴木の顎を引き寄せる。 ガチン。 「っーーーーーー」 歯が、歯がぁっ〜。 「っつぅ〜。今里、あんたがっつきすぎ。歯打ったじゃない。やっぱりキスした事無かったんでしょ」 口を押さえながら鈴木が言う。悪かったな。こちとらキスもまだだったし、童貞だよ! ちらりと鈴木の身体を見る。堀池ほど胸は大きくないが、陸上で鍛えた身体はぱっと見とてもスレンダーだ。この身体を好きに出来るんだよな・・・・? 何で疑問系なんだ? できるんだろ? キスした時だって鈴木は別に変だと思ってなかったじゃねえか。 「す、鈴木」 「ん?」 まだ歯が痛むのか、口元を抑えながら鈴木は答える。そんな鈴木の身体を抱きしめ、後ろから覆うようにして鈴木の胸へと手を這わせた。 「さ、触って・・・いいん・・・だよな?」 「ん? 何言ってんの? 当たり前じゃない。そもそも、触ってから聞いてどうすんのよあんた」 「あ、そ、そうか・・・当たり前だよな。あははは」 「? 変な今里・・・・ん」 うあ、柔らけぇ。こ、これが女の胸かっ。まるでゴムボールのような感触。ふにふにと俺の動かすように形を変え、力を抜くと元に戻るとか。すげえとしか言いようがない。 つーか、あれだよ? 椎名にぱしられてる俺が、クラスでも有数の美人で人気の高い鈴木の胸を揉んじゃってんだよ。鈴木の匂いもいいし、興奮すんなってほうが無理だ。しかも、鈴木自身はそれを何とも思ってないとか。やばすぎる。 それでいて、揉まれているという認識もそれに対する刺激もあるのか、俺が手を動かす度に「ん」とか小さく漏らして、身体をくねらせていた。 反応・・・してんの? 鈴木が? マジで? ドキドキと高鳴る心臓が俺の興奮度合いを示している。それはやばいくらいにレッドゾーンに突入していて、今からレッドゾーンじゃこれからどうなるんだとか、もう抑えてられない気もする。だけど、既に暴走を始めだしている俺の頭はそんな事を考えるわけもなく、次の行動へと出ていた。 制服の中へと腕を差し入れる。すべすべな鈴木の肌を滑るようにして手を鈴木の胸へともっていった。しかし、そこには強敵が待ち構えていた。鈴木の胸を守る最後の砦の感触が俺を生乳に至るのを妨害する。ぴっちりと胸をガードしていて、俺の手が直接触れるのを防いでいた。ぴっちりとガードしている分、より生に近い感触が手に広がるが、俺が求めているのはそんなんじゃない。生の感触なんだよ! こ、これが・・・ブラジャーという奴かっ。胸を守る最後の砦は流石に強いぜ。だが、つけれると言う事は外せると言う事でもあるんだぜ? 聞いた話じゃどこかにホックがあって、それを外せば外れるんだったな。 そう言うわけでホックを求めて、俺の手は鈴木の胸回りを這い回る。背中から始まり、腋、胸へと一蹴するが、ホックの存在が見つからない。ちょっと待て、どういう事だ? ブラジャーってこう、胸を隠す部分に紐をつけたものじゃないのか? どうして紐の結び目や接続部が存在しないんだ? 「今里、さっきからなにやってんの? ブラの周り弄って」 「え、あ、いや・・・その」 いきなり話しかけてきた鈴木に俺はどう話していい物か戸惑った。いや、鈴木は気にしてないにしても、ブラの外し方を聞くなんてなんかかっこわるい。鈴木は普段の鈴木だし、絶対に馬鹿にされそうだし。もうこうなったらこのままで行くか? いや、でも、ここまで来て直に触れないとか、最悪だし。なんて、戸惑っていたら、鈴木が話しかけてきた。 「今里・・・もしかして、ブラを外そうとしてんの?」 「っ」 ぐあ、核心・・・・。超能力者かこいつ。 「あ、なに? 図星? マジ?」 「わるかったな、マジだよ。ブラジャーなんてつけた事も外した事もねーんだよ。そんな簡単に外せるかよ」 「あー、いや、そう言う事じゃなくてさ・・・制服の下だから見えないと思うけど、私、スポーツブラだからホックとか無くてシャツとかみたいに上から着るだけなんだよね」 ハイ? こやつは今なんて言いました? 「・・・・・マジ?」 「うん」 「ってことは外すとかじゃなくて脱ぐとかずらすみたいな感じ?」 「うん」 ・・・・・マジで? つーか、さっきの俺の苦闘はいったい何だったんだ。 「鈴木・・・」 「ん、なに?」 「俺の苦労は何だったんだ?」 「無駄骨って奴かな?」 あははと快活に笑い、鈴木は俺の苦労を即断しやがった。あーくそ。なんか腹立つ。仕返しにゴムかなんかでピッタリとフィットしている布を持ち上げて、鈴木の胸を露出してやった。いや、服の下で露出も何もないし、仕返しも何も次にやろうとしていた事だけど。 そして、いい感じに俺の手のひらに載せられた鈴木の胸をぐっと直に揉み上げた。すると、ビクッと鈴木の身体が震えた。なんだ? もしかして、感じた? 感じてる鈴木の顔を見ようと覗き込んだら、顔をしかめた鈴木に睨まれた。 「っぅ〜。今里、あんた力入れすぎ」 「え、あ、ああ。わりぃ」 「女の子はデリケートなんだから、もっと優しく揉みなさいよね」 「わかったよ」 なんだ、痛かったのか。もうちょっと優しく揉んでやらないといけないのか。 言われた通り、優しく鈴木の胸を揉み上げた。すべすべの肌と引き締まった肉がいい感じに俺の触覚を刺激していく。興奮で心臓がドキドキ言ってるし、呼吸もハアハアと荒っぽくなっていった。 っていうか、これじゃ変態だ。いや、変態で何が悪い。こんな状況で興奮しないとか、そいつは男じゃねぇ。しかも、何度も言うように当の鈴木は何とも思ってないんだぜ。 左手で胸を揉みながら、右手をスカートへと伸ばしていく。短めのスカートの裾を持ち上げて、スカートの中へと手を侵入させていく。陸上をしているだけあって、見事に引き締められた太股の感触を楽しみながら、その付け根へと指を進ませる。ゴールには胸の時と同じく布の砦が待ち構えていた。とはいえ、下の砦は男も女も似たようなものなので問題なく攻略していく。パンツのゴムによる圧迫感を手の甲に感じながら、男にはない溝に辿り着いた。 「んっ」 辿り着いた溝に指をそっと這わすと、ピクンと鈴木が震えた。また痛くしちまったか? 「鈴木、大丈夫か?」 「う、うん。大丈夫」 怒られるのを覚悟で聞いてみたら、予想に反して鈴木は顔を赤くしていた。 あれ? もしかして感じたのか? 俺は鈴木を感じさせたのか? 「な、なあ、鈴木・・・」 「なによ?」 「お前・・・今、もしかして・・・感じた・・・のか?」 「ぶっ、なっ、何聞いてんのよっ!? そんな事いえるわけ無いでしょっ」 俺の質問に鈴木は顔を真っ赤にして答えた。やっぱり感じてたんだな。よし、じゃあもっとお前の感じる姿を見せてくれ。 やさしく、やさしくと頭で何度も繰り返しながら指を上下に動かしていく。その度にピクッピクッと鈴木の身体が震え、くぐもった声が鈴木の口から漏れた。左手にのった胸も忘れずに動かしていく。柔らかな胸を掌で転がすようにしていたら、掌の中心部になんか固い者が出来ているのに気がついた。気になったのでそれを指でつまんでみる。瞬間、鈴木が「んっ」とくぐもった声を上げた。っていうか、これ、位置といい鈴木の感じ方といい、乳首じゃん! いつの間にか硬くなっていた乳首をつまんだ指でころころと動かしながら、股間の溝をこすっていく。その動きに合わせて鈴木の身体の震えがおおきくなっていった。 「ん・・ぁ・・・・くぅ・・・」 ビクッビクッと震える鈴木の身体はトロリと熱い液体を零れさせ、俺の右手にかけてくる。。そして、鈴木は顔を赤く染めながら、俺と同じくハアハアと呼吸を荒くし始めていた。 鈴木が俺の手で感じてる。俺が鈴木を感じさせている。その事実は俺の興奮を煽るのには十分すぎてお釣りが来るぐらいだった。 胸は触った。アソコも触った。次は・・・。 日頃読んでるネット小説を思い出しながら、指を動かしていく。クチュッという音がするアソコに人差し指を差し入れた。 ビクンと鈴木の身体が震える。アソコの中はまさに別世界だった。ぎゅうぎゅうに締め付けてくる周囲の肉に肉の持つ熱。そして、奥から零れ出す熱い液体が俺の指を熱していく。鈴木の興奮がその熱に、その熱が俺の興奮に変わっていく。これがずっと想像していた男と女の違う場所なのかと思うと感動にも似た感情が俺を走る。 もっとだもっと。もっと楽しみたい。 その思いが俺の手の動きを活発にした。砂場で穴でも掘るように肉をかき分けて指を進めていく。ビクンビクンと身体を震わせ、鈴木が前屈みになっていく。それに覆い被さるようにして、くっついたまま、鈴木の身体を弄っていった。 「ふ・・・んんっ・・・・ぁ・・・・ぅっ・・・」 鈴木の口からくぐもった声が漏れる。それに呼応するようにアソコから零れ出す液体の量が一気に増えた。 甘く漏れる声、沸き立つ匂い、感じる快感を求めるよう拒むようにくねらせる身体。そして、溢れ出る熱い液体と味覚以外の五感を総動員して感じさせてくれる鈴木の痴態に俺の下半身は痛いくらいに勃起していた。 入れたい。入れたいとぎんぎんに勃起したアレが叫ぶ。そんな本能に従って、俺は鈴木の身体から手を放した。 「ぁ・・・・」 鈴木の声が漏れる。それはうたた寝を起こされた様な、夢中になっていたものを突然取り上げられたようなそんな声だった。 ズボンとパンツを下ろし、勃起したアレを取り出す。それをスカートの中、まだパンツに覆われている鈴木の尻辺りに擦りつけた。その瞬間、ピクンと鈴木の身体が震える。これからの事を予想して緊張しているのだろうか? 鈴木の返答が決まっているのを知っていて、それでも鈴木に聞いてみた。 「鈴木・・・入れたい。セックスしたい・・・いいかな?」 「はぁ? 何言ってんの?」 驚いたような鈴木の言葉。一瞬、催眠が解けたのかと慌てた。 「いいに決まってるじゃない。さっきから言ってるでしょ。当たり前だって」 「そ、そうか・・・わり」 「まったく・・・何度も言わせないでよね」 そう言って、鈴木は自分からパンツをずらすと、手近な机に身体を預けてこちらへと尻を向けた。 「ほら、入れるんでしょ? さっさといれなよ」 「お、おう・・・」 鈴木の声に押され、俺はアレの先を鈴木のアソコへと突きつける。 「そこ違う、もうちょっと下」 「え、ここ?」 「じゃなくて、今度は行き過ぎ、もうちょっと上」 「え? え?」 「だーかーらー。違うって言ってるでしょ」 そう言って鈴木は俺のを掴むと、そっと自分の入り口に押しつけた。 「ほらここ。しっかりしなよね」 「お、おう」 普段過ぎるだろ鈴木。いや、そうなるように俺が仕向けたんだが、さっきの緊張っぽいものはどこに行った? 「い、行くぞ」 「ん」 つーか逆に俺が緊張してるじゃねぇか。仕方ねえだろ、初めてなんだよ。い、いくぞ。 誰に対して言っているのかわからない気合いを入れて、俺は腰を前に突き出した。その瞬間、鈴木が絶叫をあげる。 「くぅ・・・・あ、あ、あ、あ、あ、あっ!」 ちょ、きつっ。きついぞ鈴木! ぎゅうぎゅうでまるで紐で縛られてるみたいだ。だけど、それがやばいくらいの快感になって、腰骨から脊髄へと上っていく。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 声にならない声を上げたのは俺じゃなく、鈴木だった。 だけど、鈴木を気遣う余裕なんて俺にはない。つーか、きつくて気持ちよすぎてどうしようもない。まだ全く動いていないというのに出してしまいそうだった。 鈴木は苦しそうな表情で机にしがみつくが、ぎゅうぎゅうに締め付けてくる鈴木のアソコは本人の意志とは関係なく中に出せと命令してくる。 馬鹿野郎。一回も動かさずに出せるか。だけど、真面目にやばい。こうしてるだけでもかなり気合い入れて我慢をしている。そうでなければ入れた瞬間に出してしまっていた。つーかジリ貧だ。こうしている間にも鈴木のアソコは出せ出せと命令している。うねうねと俺のアレを刺激してくるアソコの前にはもって後数分といった所だろう。もうこうなったら、せめて一回でも動かすしかない。気合い入れろ。歯ぁ食いしばれ。よっしゃ行くぞっ! 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 「くぁぁぁぁぁっ!」 びりびりと腰を走る快感。メリメリと締め付ける肉をかき分けて無理矢理突き進む。ブチブチという何かを突き破る感覚。その瞬間、鈴木が絶叫を上げた。 「あああああああああああっ!!!」 大きく背を反らし、肺の空気を全部吐き出すように大声を上げる。誰かに聞かれてないかと俺がびっくりしてたら、一気に締め付けが強くなった。 うあっ、ちょ、マジ!? ま、待っ―― 「ーーーーーーっ!」 ビクビクとアレが震え、中から白濁液が絞り出される。鈴木の中から抜く暇なんて無かったので、白濁液は当然の如く鈴木の中へと注ぎ込まれた。 ふぅ〜〜〜〜〜。やっちまった。やばすぎだろ。全然我慢できなかった。 「・・・終わった?」 ぼそりと鈴木が訪ねてくる。その声に鈴木を見ると、鈴木は顔をしかめたままじっとこっちを見ていた。そして、んっと小さく呻いて俺の物を引き抜くと、乱れた呼吸を整えながらポケットからティッシュを取り出して、アソコから溢れる白濁液を拭い取る。 あっという間に乱れた服を整えた鈴木は周囲にまき散らされていた少量の情事の跡を拭き取り、ここに俺以外に情事の後はなくなった。それを未だ茫然とした頭で見ている俺に、鈴木はとんでもない言葉を投げかけてくる。 「今里って・・・早漏?」 「ちょっ!?」 ちょっと待て、何で早漏なんだ! いや、確かに我慢できずに出しちまったけど、鈴木の締め付けも反則だろ! それに俺は初めてなんだよ! 女の中があんなに締め付けてくるなんて思わなかったよ! あれは反則だろ! つーか、俺は早漏じゃねぇーっ!! などと、鈴木の言葉に言いたい事が頭の中を荒れ狂ったが、それは一言も言葉にならず、頭の中で荒れ狂っているだけだった。 「あはっ、あははははっ」 突然、鈴木が笑い始める。俺が早漏だとそんなに可笑しいのか! 鈴木も他の奴らと一緒だと言う事か! 「あははははっ、はははっ、あはははははははははっ・・・・ごめん、ごめん。いや、前から思ってたけど、めっちゃ百面相してたからさ。今里って、思いっきり顔に出るね」 ひとしきり笑った後、鈴木は目尻に浮かんだ涙を拭い取りながら言った。 百面相? そういやアリスも同じような事を言ってた様な・・・ 「そんなに顔に出てる?」 「出てる出てる。もう何考えてるのかわかるくらいに出てるよ。それに今の今里の姿と言ったら・・・あははははっ」 よっぽどツボにはまったのか、ぺたぺたと頬を触る俺をみて、また笑い出す。 姿? 姿って・・・うぁ・・・・そういや、そうだった・・・鈴木の奴はさっさと後始末してたっけ。教室の後始末もしてた。俺だけアレ丸出しで、間抜けな姿を晒したままだった。そんな姿で百面相・・・・他人だったら確かに笑えるけど、自分の事だと恥ずかしいだけだ。慌ててティッシュでアレに絡みついた液体を拭い取り、ズボンを引き上げる。ギュッとベルトを締めてるといつの間にか声を上げて笑うのをやめた鈴木がにやにやしながらこっちを見ていた。 「なんだよ」 「べっつにぃ」 さっきまで教室で喘いでいたとは思えないような声を出し、鈴木は自分の鞄を取ると、つかつかと扉の方へと歩いて行く。 「お、おい・・・どこ行くんだよ」 「どこって、帰るのよ。もう用はないんでしょ?」 何を当たり前な事をという表情で鈴木は言う。 あー、そうだよな。何にも用事がないのに学校にいる必要なんて無いか。 などと俺が納得している間に鈴木は扉へと歩いて行く。 「じゃ、また明日」 なんて、普通に挨拶をして鈴木は教室を出て行った。あまりにも普通に出て行ったので、俺は面食らって返答もせずに茫然としていた。が、すぐに重大な事に気づき、鈴木の後を追っていった。 「鈴木っ!」 俺の叫び声が廊下の静寂を打ち破る。階段へと行きかかっていた鈴木はめんどそうな表情でこちらを振り返った。 「なに? まだなんかあんの?」 「あ、ああ。今あった事、誰にも言わないで欲しいんだ」 「はぁ? なんで? だって、今里とスルのは当たり前じゃん」 鈴木に近寄ってから切り出した俺の言葉に、案の定鈴木は訳がわからないという顔をする。 「何ででも。頼むよ」 「はぁ・・・仕方ないわね。わかったわよ。で、もう無いよね?」 「ああ、悪かった。明日な」 「うん、じゃね」 そう言って、鈴木は階段を下りていった。鈴木が完全に見えなくなるのを確認して、ふぅ〜と大きく息を吐く。 あっぶねぇ〜。鈴木は俺とするのが当たり前と思ってる。思ってるから、何の気もなしに話してしまいかねない。先に釘を刺しておいて良かったぜ。 ふぅともう一度息を吐き、鞄を取りに教室へと戻る。誰もいない教室、整然と並べられた机の中にただ一つかかっている鞄が今までの俺を表しているようだった。 けど――― 右の掌を見つめる。 夢じゃないんだ・・・・ここで、鈴木を抱いたんだ。現実ではあり得ないと思っていた能力。妄想の中でしか存在しなかった能力がここにある。二つの喜びがじわじわとこみ上げてくる。 「っしゃぁ」 オレンジ色に染められていく教室で俺は一人、小さくガッツポーズを取った。 < 続く >
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