【社説】三代世襲から目を背ける左派はニセモノ

 北朝鮮の朝鮮労働党代表者会は28日、金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男ジョンウン氏を、党中央軍事委員会副委員長と党中央委員に選出した。中央軍事委員会副委員長というポストは、今回新たに設けられたものだ。この前日に軍での経歴がまったくないまま大将の称号を受けたジョンウン氏は、わずか1日で権力のナンバー2に抜てきされたことになる。さらに、金総書記の実の妹でジョンウン氏の叔母に当たる金敬姫(キム・ギョンヒ)氏は朝鮮労働党政治局員に、その夫の張成沢(チャン・ソンテク)氏は政治局員候補に選出された。血縁が力を合わせ、三代世襲に向けて押し切ろうとしているようだ。

 北朝鮮の最高権力の三代世襲に対する世界の反応は、「共産主義ではなく、極度の貧困状態にある君主制」という一言に要約できるだろう。クローリー米国務次官補は、「北朝鮮で展開されている『最高のリアリティーショー(実際の状況をそのまま放送するテレビ番組)』」と皮肉混じりに評し、また米国の北朝鮮研究者たちは、「世界的なコメディー」などと表現した。北朝鮮を擁護し続ける中国でさえも、三代世襲を称賛することはできず、「北朝鮮国内での事務」というコメントにとどまっている。

 ところが韓国の野党勢力だけは、この問題からあえて目を背けている。民主党の朴智元(パク・チウォン)院内代表は、「三代世襲というのはまさに常識外れのことだが、政府は北朝鮮をただ閉鎖的なものとして見るのではなく、平和の実現に向けて努力しなければならない」と発言した。民主労働党は口頭での論評で、「重要なことは、ジョンウン氏に与えられた称号(大将)ではなく、韓半島(朝鮮半島)の平和と緊張の緩和だ」とコメントした。こうした発言は、火事が起こった家の前で、「問題は火事が起こったことではなく、今後どのような家を建てるかだ」と悠長に語っているようなものだ。

 つまり左派勢力は、あえて目と耳を塞いでいるのだ。「韓国政府による哨戒艦『天安』沈没をめぐる調査結果には問題がある」などと国連に対して書簡を送った参与連帯も、突然黙り込んでしまった。2001年に北朝鮮を訪問し、芳名録に「万景台の精神を継承し、統一の偉業を成し遂げよう」というメッセージを書き込んだ東国大学の姜禎求(カン・ジョング)元教授は、28日に行われたインターネットメディアとのインタビューで、「これまで(北朝鮮の世襲問題に関しては)追跡してこなかった。そのため、この問題についてわたしがコメントするのは適切ではない」と述べた。また、姜元教授が共同代表を務める団体は、世襲問題に一切触れないまま、「(韓米両国は)西海(黄海)での対潜水艦演習を直ちに中断し、北朝鮮体制の急変に備えた計画を廃棄せよ」と主張した。

 米国産牛肉の輸入に反対するろうそくデモが行われていた当時、集会を擁護する数々の発言で注目を集めたソウル大学の禹希宗(ウ・ヒジョン)教授は、ハンギョレ新聞への寄稿で、「北朝鮮では金氏一家の内部で、韓国では強大国になびいて親日と親米を叫びながらぜいたくな暮らしをしてきた勢力の間で、(同じように)世襲が行われている」と訳の分からない両非論を展開した。

 三代世襲という北朝鮮政権の奇怪な動きが、「金王朝」の内幕を世界に知らしめたとすれば、この世襲体制とその下で苦しむ北朝鮮住民たちの悲惨な状況に目を背ける韓国の左派勢力は、左派としての根本精神を失った、形だけのものにすぎないことを示した。つまりニセの左派、形だけの左派という事実を自らさらけ出した格好だ。『狭き門』を書いたフランスのアンドレ・ジッドや、反戦平和主義者として生涯を貫いたバートランド・ラッセルなども、若いころは共産主義思想に傾倒していた。しかし、彼らはスターリンが支配するソ連に足を踏み入れると、すぐさま仮面の下に隠された悪の実態を目の当たりにし、帰国すると同時に共産主義から背を向けた。これこそが左派の良心というものだ。ところが韓国の左派は、もし目と耳が正常に機能しているのであれば、その良心をすでに売り払ったと言わざるを得ない。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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