医療機関で処方された向精神薬を大量に飲んで自殺を図る人が増えている問題で、厚生労働省は9日、「薬物治療のみに頼らない診療体制」への転換を目指すための対策をまとめた。医師の過剰な処方について薬剤師が照会・助言したり、かかりつけ医が投薬を続けても症状が改善しない重症患者を専門医に円滑に紹介できる仕組みを充実させる。自殺と過量服薬をめぐり、国が総合的な対策を打ち出すのは初めて。
毎日新聞の報道を機に同省の自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム(PT)が7月以降、専門家へのヒアリングを通じて検討してきた。自殺を減らすためにはさらに対策が必要だとして、向精神薬の処方実態や不適切な処方をしている医療機関の把握、患者を十分に診察できる診療時間の確保について、今月中に専門家らによるワーキングチームを設置し、検討を進める。
対策の一つは、患者が向精神薬を受け取る窓口であり、医療機関の処方内容を把握する薬剤師の活用。多種・大量の向精神薬を処方する医療機関に対し、薬剤師が処方内容の照会・助言を積極的に行うよう日本薬剤師会に要請する。薬の乱用目的で医療機関を重複受診する患者についても、薬剤師と医師の連携した対応を進める。
また、症状が重い患者をかかりつけ医から精神科医にスムーズに紹介するために神戸市医師会が設立した「神戸G-Pネット」などを参考に、一般科と精神科が連携する仕組みを普及させる。
このほか▽多種・大量処方を防ぐため、診療や処方に関するガイドラインを作成し医療機関に普及させる▽過量服薬のリスクが高い患者への対応で有効とされる多職種チームをつくるため、精神保健福祉士や臨床心理士など医師以外の人材を育成する▽過量服薬に関する医療従事者への研修を充実させる--ことを挙げた。【奥山智己、江刺正嘉】
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◆厚生労働省がまとめた過量服薬の防止対策◆
(1)医師に対する薬剤師の処方内容の照会や助言
(2)かかりつけ医と精神科医の連携システムの普及
(3)診療や処方に関するガイドラインの作成・普及
(4)多職種チームによる医療推進に向け、精神保健福祉士や臨床心理士などを育成
(5)過量服薬に関する研修の充実
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毎日新聞 2010年9月10日 東京朝刊