「阪神5‐7巨人」(28日、甲子園)
球史に残る偉大な数字も、阪神・マートンのうたうフォア・ザ・チームの精神に及ばない。クラブハウスへ続く試合後の通路。報道陣に囲まれたマートンは、沈んだ口調で記念打の感慨を絞り出した。
「勝敗が一番大事な状況だったからね…。個人的な記録ができたことは、神様、そして1年間サポートしてくれたチーム、家族に感謝したい」
負ければあとのなくなる伝統の一戦。序盤に背負った重いビハインドをはね返すべく、マートンのメモリアル打が追撃の口火を切った。
5点を追う六回。先頭で打席に立った背番号9が内海の浮いたスライダーを右前にはじき返した。初回に続くこの日2本目の安打は、歴代3位タイとなる64度目のマルチ安打。これが今季205本目の安打に達し、07年にラミレス(当時ヤクルト)が記録したセ・リーグ最多安打記録の204本を上回った。
マートンの記念打が風穴をこじ開け、平野の三塁打、2点差に迫る鳥谷の2ランを呼び込んだ。2得点を挙げるなど、先頭打者として貴重な役割を果たしたが、追撃も一歩及ばず痛恨の敗戦。いよいよ窮地に追い込まれた。マートンは前向きな言葉のなかに悔しさをにじませた。
「勝てなかったので悔しい。九回に同点になるチャンスにまで持ち込めたし、あきらめずに最後まで戦えたと思う。勝つために最大限の努力をするけど、きょうは巨人が上回ったということだ」
活躍の裏には僚友を思いやる精神がある。4月23日に一時登録を抹消されたメッセンジャー。4月9日・ヤクルト戦(甲子園)で1回3失点を喫した。その試合後、マートンはロッカールームで1時間以上、うなだれる右腕の肩を抱き、勇気づけた。この夜はスタンリッジの背信投球が響いたが、マートンには、勝敗はチーム全員で背負うものだという信念がある。
「今は勝つことが一番大事なので、それができなくて残念だ」。残り8試合。イチローの持つ日本記録210安打超えが現実味を帯びてきたが、勝利より価値のある偉業はないと、マートンは信じている。
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