[掲載]2010年9月26日
■浮かびあがる日米の戦争観の違い
670頁(ページ)に及ぶ大著の最終頁を閉じたあとに、すぐに二つの感想を反芻(はんすう)することになる。ひとつは、日本軍の2人の特攻隊員の自爆によって、アメリカの最新空母バンカーヒルがどのような被害を受けたか、乗り合わせていた将兵3400人のその生と死を検証することで、日米間の戦争観、文化、倫理の違いをくっきりと浮かびあがらせたことだ。もうひとつは、1965年生まれの著者が〈戦争〉をどのような姿勢で語り継ぐべきかを教えていることである。
とくに評者は、日頃から記憶を父とし、記録を母として、教訓という子を生むべきだと主張しているが、本書はその典型的な書として感動を覚えた。
著者は、1945年5月11日という日までの日米軍の軍事衝突をなぞりつつ、日本がしだいに特攻作戦を採る道筋を説明する。この辺りの描写は日本人から見れば十全とはいえないが、著者の視点そのものは理解できる(評者の印象ではチャーチルの『第二次世界大戦』の日本人観に影響を受けている)。とくに学徒兵特攻隊員の小川清の出自や大学生活、昭和隊の隊員になるまでを遺族や戦友の証言で裏づける労には頭が下がる。
一方でバンカーヒルというアメリカ海軍の「驚くべき最新技術の結晶」であるこの空母がなぜ建造されるに至ったか、その内部はいかに戦闘用に設計されているか、そこで「戦争」に参加している多様な職種の兵士たちの作業内容、さらには個々人のその意識までを調べつくしている。1943年11月のタラワ島への攻撃以後、バンカーヒルはサイパン、硫黄島での戦い、そして戦艦大和の撃沈など幾つもの戦果を挙げていく。だが5月11日に安則盛三と小川の特攻機2機がこの空母に体当たりしてからは、戦線を離脱する。
特攻隊のこの攻撃による被害の大きさや乗組員の犠牲、生存者のその後などを200頁余にわたって描写しつづける。「アメリカ軍にとって、戦略上、非常に重大な敗北」だったからである。著者が公開させたと自負する文書や写真がこの書のテーマを一層映えさせている。
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中村有以訳、Maxwell Taylor Kennedy 65年米国生まれ。ケネディ元大統領のおい。
著者:マクスウェル・テイラー・ケネディ
出版社:ハート出版 価格:¥ 3,990
著者:ウィンストン・S. チャーチル
出版社:河出書房新社 価格:¥ 1,260
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