人民元切り上げと米国のプレッシャー
かねてより中国バブルのピークは北京オリンピックから上海万博にかけて、というシナリオを描くのが大勢を占めていたこともあり、今後の中国景気に対して疑心暗鬼という雰囲気が漂っている。中国バブルはピークを迎えたのか? 結論を先に申しあげれば、中国バブルがピークを迎えるのはこれからであると考える。その根拠として、為替レートと国際情勢、そして歴史的経緯と相場の特性という点を踏まえ、考察をしてみたい。
2010年6月19日、中国人民銀行は第二回目となる人民元相場の弾力性を高める方針を表明した。具体的な方法としては、それ以前の2005年7月に行なわれた第一回目の切り上げの際に採用した通貨バスケット方式となる。これは中国の貿易相手国の複数通貨を加重平均して基準値を算出、一日の変動幅は基準値の上下0.5%を限度として、それ以上の動きがある場合は通貨当局が市場介入を行ない、限度内に留めるというオペレーションである。当然のことながら、市場で圧力がかかるのはドル(他通貨)売り・人民元買いなので、通貨当局はドル(他通貨)買い・人民元売り介入をひたすら行なうしかない。たとえ0.5%と小幅といえども、前回、三年間継続された結果、元は20%切り上がった。
その後、人民銀行は2008年7月から1ドル=6.83元水準で一時的にドルペッグ制(自国の貨幣相場を米ドルと連動させる固定相場制)に戻していた。サブプライム危機以降、悪化する世界経済に鑑み、とくに加速するドル安に歯止めをかけるべく、協力していたというのが中国側の言い分である。にもかかわらず、気を遣った相手の米国は産業界を筆頭に、そして各国からも人民元切り上げ要求は強さを増していった。
今回の弾力化について、中国当局はあくまでも裁量は自分たちにあり、自国で判断した結果という立場を崩してはいない。しかしながら実際のところは、6月下旬に控えたG20の直前の6月16日に、オバマ大統領が人民元切り上げを要求した書簡を参加各国の首脳に送付し、その事実を18日にホワイトハウスが公表した経緯がある。人民元レートの調整をG20という国際協調の場でメイン・トピックにすれば、米国から中国への一方的なトーンを牽制しつつ、為替操作国指定の可能性をちらつかせながら、中国にプレッシャーを与えることができる。
それ以前になるが、米国は昨年の秋口以降、あの手この手を使い中国の弾力化への基礎を築いてきた。強行策に打って出たいのはやまやまだが、戦略国家の中国が、自国経済にとってマイナスとなる急激な元高を米国の思惑どおり受け入れるわけがない。突如として米国は中国製品に関税をかけ、台湾への武器輸出を行ない、ダライ・ラマ14世との会談まで間髪入れず仕込む入念さであった。そこには中国国内の反米感情を焚き付け、貿易戦争や米ドル・米国債の不買運動といった中国世論の形成を試みる、米国の姿が浮かびあがる。中国世論が嫌米化すれば、中国当局が人民元の切り上げにも動きやすいという点で、米国には非常に有効である。国内世論を誘導し、外圧には屈しない中国を囲い込むことで即座に動かせた、ということになる。
段階的な切り上げのために、そしてドルペッグ制を維持するために実施された元売り・外貨買いの介入で、中国の外貨準備高は2010年6月末時点で2兆4500億ドルにまで増加している。ちなみに、わが国の外貨準備高が1兆ドルを超えたのが2006年末であり、あっという間に世界最大の外貨準備保有国となった経緯がグラフ(次ページ上段を参照)からも認識されよう。
中国当局の買い込んだ外貨に相対する元は、市場に大量に放出されたわけである。第一回目の元切り上げの時期と重なる2005年から2008年までの上海の変貌ぶりをご存じの方も多いであろう。それは余剰資金が市中に流れ、確実に人びとがそれを手にしている背景があればこそ、ということになる。さしずめ日本が米国の借金棒引き政策をのまされた1980年代のプラザ合意で過度の円高が進んだのち、日銀による為替介入が実施された結果、市中に円が放出されバブル景気を生み出した様相とまったく同じだ。つまりペッグ制にしろ、切り上げにしろ、元買い圧力に対して段階的な水準訂正しか中国政府が認めず、通貨当局が大量の元売り介入を継続するかぎり、これからも内需を拡大するバブルの原資は大量に市中に出回り続けることになる。2005年以降、大量の為替介入が行なわれた期間の中国経済の隆盛を考えれば今後、数年にわたって元の為替レートの水準訂正が終了するまでのあいだが、中国バブルがピークを迎える時期となる可能性はきわめて高い。
欧州は“ユーロ安を演出”したのか?
為替レートと国際情勢という点について、米国の中間選挙と為替政策とのあいだには強い相関関係がある。現職大統領の支持率が景気後退と重なって低下してくると、支持率回復を狙って米国内企業に配慮したドル安政策が11月の中間選挙に向けて採用される、というのが変動相場制以降のパターンである。サブプライム危機の影響を引きずるオバマ大統領は本年年初の一般教書演説にて、向こう5年間での輸出倍増計画を打ち出しているわけであるから、米国の輸出増のためのドル安を推進、いつものように中間選挙に向け、ドル安のシナリオは容易に描けよう。あえて極論と承知のうえで単純計算すれば、輸出を倍にするならドルの価値を半減すればいい、ということにもなる。
温室効果ガスの削減など、環境問題に注目が集まるなか、石油はともすれば「悪しき要因」としてばかり取り上げられがちである。しかし、無資源国であるわが国にとって…
人類の歴史は常に「危険への挑戦」の連続であった。それを一つ一つ真摯に受け止め、一歩一歩確実に克服してきたからこそ今日のような豊かで多様な文化があり…
悩める個人投資家に朗報!
元為替チーフディーラーの両雄が!)下落相場でも勝てる!)投資法を徹底指南!
コンプライアンスは一般に「法令遵守」と訳されている。「その“遵守”が間違い」だと郷原氏は指摘する。ただし、それは法令遵守だけでは足りないという意味ではない。とにかく法令を守れ、違反するなというだけでは、何のために、なぜ守らなければならないのか…
木内博一 (農事組合法人「和郷園」代表理事)
当連載が本になりました!
『最強の農家のつくり方』(定価1,470円)
「農業界の革命児」が語る成功の方程式と日本再生への構想をぜひ、ご一読ください。
野口悠紀雄(早稲田大学教授)
「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?