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2010年9月29日(水)付

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強硬な中国―大国の自制を示せ

尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で逮捕、勾留(こうりゅう)された中国人船長は釈放され、自宅に戻った。にもかかわらず、中国政府は日本側に謝罪と賠償を求めるなど、強硬な姿勢[記事全文]

北朝鮮―世襲3代、変わらぬ難局

北朝鮮に大きな変化が現れた。その情勢は日本をふくむ北東アジアの平和と安定に深くかかわっている。金正日総書記の三男、ジョンウン氏の名が北朝鮮のメディアに初めて登場したのだ[記事全文]

強硬な中国―大国の自制を示せ

 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で逮捕、勾留(こうりゅう)された中国人船長は釈放され、自宅に戻った。にもかかわらず、中国政府は日本側に謝罪と賠償を求めるなど、強硬な姿勢を示した。

 中国側は強腰で臨めば、日本はさらに譲歩してくると思ったのだろうか。それは思い違いであり、中国の長期的な利益にもならない。

 中国は経済の改革開放により、日本を抜いて世界第2の経済大国になるのが確実だ。その経済力を背景にアジアやアフリカなど世界で存在感を強めている。

 中国政府は経済的な余裕を、軍事力増強にも向けた。その結果、海軍は太平洋などで活動を広げている。尖閣諸島だけでなく、南シナ海でも周辺各国と領有権をめぐって対立している。

 その注視の中で、今回のようななりふり構わぬ振る舞いは、国際社会から異様と受け止められている。

 中国は長らく、中国の発展は世界の脅威ではなく、あくまでも平和的な道を歩むと国際的に訴えてきた。その姿勢が変わったかのように見えるのは、極めて遺憾だ。

 指導部の入れ替えがある2012年の共産党大会を控えた微妙な時期に、胡錦濤総書記をはじめとする指導部は、火種になりかねない日中関係で弱腰になるわけにはいかないのだろう。大国意識の強まる世論を無視できないことも容易に想像できる。

 とはいえ、世界のリーダーにならんとする中国が、隣国との関係でここまでかたくなになるのはやり過ぎだ。

 米国がかつてのような国力を誇れぬ今、中国はアジアの安定を保つ方向に動くべきだ。調和のとれた国際関係は中国外交の目標のはずだ。ならば、大国の自制を示すべきだ。

 釈放について国内に批判がある。

 だが、「平和的で外交的な手続きをとることがいかに重要かという洞察力と見解を示した」(キャンベル米国務次官補)という評価もある。平和的な手段こそ、日本のとるべき道だ。

 菅直人首相は10月4、5両日にブリュッセルで開かれるアジア欧州会議首脳会議に出席すると決めた。

 1日から臨時国会が始まるが、尖閣沖の事件を受けて、首脳会議を優先する。当然の選択だ。外交の重要さをあらためて認識したい。

 各国に日本の立場への理解を求めるだけでなく、中国との対話も探るべきだ。少なくとも、事件再発を防ぐ話し合いを始めなければならない。

 38年前のきょう、日本と中華人民共和国は外交関係を樹立した。

 北京で署名された「日中共同声明」で、双方は両国間の恒久的な平和友好関係の確立に合意した。中国はこれを忘れてはいまい。

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北朝鮮―世襲3代、変わらぬ難局

 北朝鮮に大きな変化が現れた。その情勢は日本をふくむ北東アジアの平和と安定に深くかかわっている。

 金正日総書記の三男、ジョンウン氏の名が北朝鮮のメディアに初めて登場したのだ。

 20代後半の彼に、金総書記が人民軍大将の称号を与えた。44年ぶりに開かれた労働党代表者会で、党中央委員などの役職に就くかも注目される。

 金総書記を継ぐのはジョンウン氏だろう。かねてそう見られてきたが、後継体制の構築に本格的に動き出したといえる。3代続けての異様な世襲に向けた準備である。

 今回は、金日成時代だった1970年代から20年余りかけてじっくりと基盤を固めた前回の世襲と比べ、かなり焦りの見える展開だ。

 切迫した事情がある。2年前の夏に金総書記が倒れた。翌年初めまでに、総書記は後継問題の決着へ腹を固めたといわれる。健康問題が事を急がせている。

 ジョンウン氏について、公的な活動歴も人となりも、確かな年齢さえも、公式には伝えられていない。

 北朝鮮が「金日成生誕100年」の節目と位置づける2012年に向け、今後実績を積ませるはずだ。今回の軍人事では親族も登用して後見体制を敷いた。金総書記に万が一のことがあった場合に、いわば安定装置を確保する意味合いがあろう。

 その12年は、世界もまた大きく動く。北朝鮮問題に密接にかかわる米国や韓国、ロシアで大統領選があり、中国では共産党の新指導部が発足する。

 北朝鮮はそうした動向をにらみながらの権力移行に入る。後継作業をうまく進めるには、それなりにしっかりした経済が欠かせない。

 だが、金正日氏への世襲を決めた70年代とは、取り巻く環境は激変した。旧社会主義圏の崩壊によって今や後ろ盾は中国以外にない。韓国との経済格差は広がる一方である。

 そういうなかで、危機的な経済を再生させるにしろ、食糧を確保するにしろ、国際社会とかかわっていくことなしに、展望は開けない。後継問題にめどをつけたにしても、抱える難題に変わりはない。

 そこを打開するために北朝鮮が問われるのは、核兵器やミサイルの開発をやめ、拉致問題を誠実に解決するなど、求められている多くの課題に具体的な行動をおこすことだ。

 日本をはじめ周辺国にも大きな課題がある。北朝鮮を国際的な交渉の舞台へ引き出す努力を続けねばならない。

 いずれ確実に金総書記からの完全な権力交代を迎える。その時、起こり得るさまざまな事態を想定して、いかに混乱を抑えるか。関係する国々が力をあわせて準備することが重要だ。

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