後継者問題:キム・ジョンウン氏、前途は多難

金総書記が早期に死亡した場合、「権力闘争の嵐」が吹き荒れる可能性も

 ファン・ジャンヨプ(86)元朝鮮労働党秘書は今年3月に訪米した際、ある講演で、金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者、三男ジョンウン氏について語った。ファン氏は「ジョンウン氏に会ったことはないが、彼に何ができるというのだろうか」「金正日を上回ることはないだろうし、自分一人では何もできないだろう」などと述べた。韓国政府のある高官は28日、「ジョンウン氏が後継者として定着するには、内部から“あんなヤツ”と言われないよう、まずはコンプレックスを克服することがカギとなる」と述べた。

ジョンウン氏後継、金総書記の余命に懸かっている

 北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋や脱北者などによると、ジョンウン氏に対する北朝鮮での評価はほぼ落第で、「あのガキ」「小僧」「関心もない」といった反応がほとんどだという。消息筋は、「幹部たちは以前、崔英健(チェ・ヨンゴン)副主席や金聖愛 (キム・ソンエ)氏=金日成(キム・イルソン)主席の2番目の妻=などが、金総書記の後継に公の席で反対し、粛清されたことを目撃しているため、誰もジョンウン氏に対してあからさまに反対はしていない。しかし内心は、“北朝鮮もついに終わりか”と考えている」と述べた。「ハナタレ小僧(ジョンウン氏)は親父(金正日)がいなければすぐに消えるだろう」と、皮肉たっぷりに語る住民も多いという。しかし、「金王朝」と運命を共にする以外にない平壌の上流階層について、韓国政府の安全保障関連部処(省庁)の当局者は、「ジョンウン氏を中心に団結するだろう」と予想する。

 中央大学のイ・ジョウォン教授は、「ジョンウン氏の後継が成功するかどうかは、最終的に金総書記の余命に懸かっている」と指摘した。金総書記が今後長生きし、ジョンウン氏が政治、軍事、経済面で成果を出せるよう後押しすれば、ジョンウン氏は自然に権力を継承するかもしれない。しかし金総書記が早く死去し、それまでにジョンウン氏が権力を掌握できなければ、このことが権力闘争の火種となる可能性もある。金総書記は1974年に後継者になることが決まってから80年に公式デビューするまで、6年にわたり後継者としての教育を受けた。一方、ジョンウン氏は2009年1月に後継者として内定してから、わずか1年9カ月で公式に名前が登場した。また金総書記は、94年に金主席が死去するまで、十分な保護を受けたが、ジョンウン氏については、「金総書記の寿命は3年ほどしか残っていないだろう」とキャンベル米国務次官補が語るように、十分な時間は残されていないみられる。

軍の掌握がカギ

 統一研究院のパク・ヒョンジュン先任研究委員は、「ジョンウン氏が権力を掌握するには、まずは巨大化した軍の影響力を小さくしなければならないだろう。その過程で、軍とジョンウン氏後見勢力の間で対立が表面化する可能性もある」と述べた。軍は金総書記の先軍政治で力を拡大したが、今後、金総書記の急死など状況が突然変化した場合には、逆にジョンウン氏に反対する勢力に一変する可能性もあるとみられる。西欧の北朝鮮研究者の間からは、「金総書記は軍の機嫌をうかがっている」という指摘も出ている。金総書記がジョンウン氏の宣伝を軍からスタートさせ、ジョンウン氏に「大将」という称号を与えると同時に、41人の軍将校クラスの人事を断行したのは、軍の影響力を考慮に入れたためという見方もある。

 また、ジョンウン氏の後継に懐疑的な専門家は、最悪の経済難をその理由として指摘する。高麗大学のチョ・ヨンギ教授は、「今にも餓死者が続出しそうな状況で、金総書記の後継者が好意をもって迎えられるだろうか。そのためジョンウン氏は、コメを配給するか、あるいは最低でも経済改革への希望を示す必要があるはず」と述べた。しかし、ジョンウン氏が経済難の解決に向けた改革・開放に乗り出すかは未知数だ。

アン・ヨンヒョン記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
関連記事 記事リスト

このページのトップに戻る