【社説】三代世襲王朝の喜劇と北朝鮮住民の悲劇(下)

 2008年に脳卒中で倒れ、健康不安説がささやかれている金総書記にとっては、金日成主席が与えてくれた権威ももはや消え去っている。金総書記が今手にしているのは、国民の苦しみを無視し、国の力を搾り取った資源を軍に投入する先軍政治によって得た銃口しかない。この金総書記から、わずか27歳の息子に権力を継承させる作業が簡単にすすむことなど絶対にあり得ない。そのため世襲王朝による軍への依存はさらに深まり、すでに破綻している経済は出口を見出すことができないまま、さまようようになるだろう。軍での経歴がまったくない妹とその夫に取り巻きの使命を与えただけでは、到底信頼には値しないはずだ。主体と自主の国の首領という金総書記が、先回の中国訪問に息子を同行させ、中国の指導部と顔合わせをさせたのは、危険と隣り合わせの世襲体制構築に対する中国の後ろ盾を期待したからだろう。しかし北朝鮮では今も、住民が飢えの苦しみから逃れるために、国境を越えて自らの身体を売るようことが現実に起こっている。このような悲惨な体制を永遠に保障するような方法などどこにもない。金総書記が国を息子に相続させるのに成功したとしても、それは一時的なものに過ぎないだろう。そのため北朝鮮は内部の不満を外部に向けさせるため韓国に軍事的な挑発を仕掛けてくる可能性も高く、また北朝鮮の体制そのものも予告なく急変するに違いない。われわれはこれらに対して国家的な知恵と力を結集し、万全の備えをしておかなければならないのだ。

 われわれが回答を見出さねばならないもう一つの課題は、北朝鮮に住む同胞を、地獄のような生活からいかにして救い出すかということだ。北朝鮮の同胞たちは、金王朝の権力継承の見返りとして、同時に苦痛を継承せざるを得ない立場に置かれている。数日前には米議会で、北朝鮮から逃げ出して再び捕らえられ、収容所に入れられた妊婦の惨状を描いたイラストが公開された。それによると、妊婦の腹の上には板がのせられ、二人の男がそこに上がって足で踏みつけるという、まさに獣のような拷問が行われていたという。この生き地獄を終らせる根本的な対策は、金一家による世襲王朝を終らせるしかない。しかし北朝鮮の口には、世界第2位の経済大国である中国が提供した延命装置がとりつけられている。この延命装置は同時に、北朝鮮住民の苦痛を延長させるものでもある。この状況からもたらされるジレンマは、こちらが北朝鮮に圧力を加えると、北朝鮮の権力はその痛みを住民に転嫁するということにある。北朝鮮の権力は韓国の対北朝鮮政策におけるこのジレンマを巧みに利用し、対話と挑発を順番に繰り返してきた。また北朝鮮に追従する勢力も、このジレンマを人道主義という美辞麗句を使って覆い隠しながら、政府を攻撃してきた。金王朝による三代世襲が仮想のシナリオから現実となった今、われわれは将来、北朝鮮同胞に「あの時に苦痛を和らげるため最善を尽くした」と自信をもって言うことができるようにしなければならない。そのためには北朝鮮体制の変化を後押し、あるいは誘導しながらも、それが北朝鮮同胞の苦痛を重くするような結果とならないような方法を何としても見出さなければならないのだ。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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