● 特捜部の検事として
私は,幼いころから知りたがりで,子供のころは「何で?」が口癖でした。そのせいか修習生時代,一番興味を持ったのが検察官の仕事,その中でも取調べでした。それまで新聞やテレビなどで見聞きするだけだった生の刑事事件について,自ら相手に疑問をぶつけ,真実を解明していくことにやり甲斐を感じました。その後,私は,検察官になり,たくさんの被疑者,参考人の取調べを経験しましたが,実際の取調べでは,ストレートに「何で?」などと疑問をぶつけても必ずしも真実を語ってもらえるとは限りません。取調対象者の当該事件における役割,生活環境,性格等いろいろな要素を考慮し,質問の内容やタイミングを考えながら取調べにあたっています。
特捜部では,脱税事件や証券取引法違反事件など,国税局や証券取引等監視委員会の告発を受けて捜査を行う事件以外は,他の捜査機関の力を借りずに独自捜査を行います。この独自捜査では,検察庁で一から被疑者や参考人の取調べを行うことになります。取調対象者に関する情報が少ない状態で取調べを行うことになるため,事前に,押収した証拠物を分析するなどして,その人物像を思い描きながら第1回目の取調べに臨みます。さらに,私は,第1回目の取調べにおいて,最初に作成してもらう身上申立書の記載時の態度を観察し,対象者の性格や心情を推し量る材料の1つにしています。不満を述べながらも,1つ1つの項目について時間をかけて丁寧に記載する人,虚勢をはっていても,記載する手が震えている人,丁寧な態度でも,促さないと個々の項目の記載をしない人など,その態度にはその人の真の姿や心情が表れるものです。頑なさが感じられた場合には,核心にはふれず,心を開いてもらえるまで何日も雑談をすることもあります。それでも真実を語ってもらえない場合は,その理由について,あれこれと推測し,思い悩みます。捜査を行っている間は,担当している取調対象者のことで頭がいっぱいになり,「なぜ?なぜ?」が頭の中にうずまきます。それでも,その「なぜ?」という疑問が取調べや押収した証拠物の分析で解明されると,それまでの苦労も全て忘れられます。特に,特捜部の独自捜査では,まさに目の前で真実が解明されていき,私が修習生時代に検察官の仕事としてやり甲斐を感じた点が存分に経験できるため,忙しいながらも充実した毎日を送っています。