中国の戦術は裏目に出る危険性も
(フィナンシャル・タイムズ 2010年9月24日初出 翻訳gooニュース)
中国の漁船船長逮捕をめぐり日に日に緊張の高まる外交紛争で、最初にまばたきしたのは日本だったかもしれない。船長は24日に釈放され帰国する予定なのだから(訳注・24日に釈放・帰国)。
おかげで日本政府は、高まる中国の圧力に屈したと、国内でたちまち非難された。
しかし今回の強硬姿勢は中国政府にとって裏目に出る恐れもある。世界第2位の経済大国として日本を追い抜いたばかりの中国は、アジアで影響力を増している。その中国に対してアジア各国の懸念はただでさえ高まりつつあるのだ。
日中が揉めているのと同時に、中国とアジア各国の関係もほころび始めている。温家宝首相はこのほど、日本と領有権を争っている尖閣諸島(中国名・釣魚島)は中国の「神聖な領土」だと発言し、領土権をますます強気で主張する意図を示唆した。
「中国が強硬姿勢を強めており、なかなか交渉や譲歩をしようとしない。アジアではそう懸念する声が多い」 米シンクタンク「ニクソン・センター」の中国専門家、ドリュー・トンプソン氏はこう言う。「なのでそういう国々は、今まで以上に頻繁に、アメリカの方を見るようになっている」
南シナ海では、中国、ベトナム、マレーシア、台湾、フィリピン、ブルネイの各国がそれぞれ、全部か一部の領有権を主張する島々がある。そして東南アジア諸国の間では、中国に態度に不安が増しつつあるのだ。
アジア諸国が中国に対して不満を募らせる現状は、アジアの外交と安全保障でアメリカが存在感を取り戻す、恰好の機会となった。
ヒラリー・クリントン米国務長官はベトナム・ハノイで7月に開かれた地域会合を利用して、中国との紛争でアメリカが仲介役を務める用意があると表明。これに中国当局は多いに気色ばんだ。バラク・オバマ米大統領も24日、南シナ海についてアジア各国首脳と話し合う予定だ(訳注・米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は24日、首脳会談を開いた)。
中国は過去18カ月間にわたりインドとも、外交上の小規模な揉め事を繰り返してきた。加えて今年3月に北朝鮮が韓国の哨戒艦を撃沈した際には、中国が北朝鮮を非難しなかったため、韓国の怒りを買った。
中国の強硬姿勢が強まっているのは、共産党指導部に大幅な人事異動が予想される2012年の党大会に向けての動きだと見るアナリストもいる。他方で、経済力を政治や外交上の影響力に利用したいと中国指導層が考えていることの表れではないかと見る人たちもいる。
アジアにおける政治の潮流が変化している。日本はその典型だ。民主党が昨年政権をとって以来、日本は中国との関係改善に努めてきた。慣例を破って習近平国家副主席に天皇会見を認めたほどだ。
しかし漁船船長の逮捕に対する中国のきつい反応はむしろ、新しく外相となった前原誠司氏をはじめとする民主党関係者たちの主張に勢いを与えるだろう。日本は自国利益防衛のための軍事力を今まで以上に発揮できるよう、その能力を獲得しつつ、アメリカとの同盟関係を深化させていくべきだというのが、前原氏たちの考えだ。
一方で、日本はアジア情勢において比較的受け身で、かなりの経済力があるにもかかわらず、外交力はそれをはるかに下回り、安全保障はアメリカとの同盟に頼り切りだというのが、従来の日本のイメージだが、◆(簷の竹かんむりを取る)其雄(ジャン・キション)船長を釈放するという日本の検察の判断は、このイメージをさらに補強してしまいかねない。
「今回のことが、圧力に弱い日本というイメージを作り出してしまうのは、間違いない」。安全保障問題に詳しい岡本行夫氏はそう話している。
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(翻訳・加藤祐子)
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