*監禁/病んだ静→臨











愛は狂気であり、狂気とは快楽であり、快楽とは罪であり、罪とは愛のことである。




殺してやる、とかさかさに乾いて皮の剥けた唇が憎々しげに動いた。重力に従って、俺の髪先にかろうじてついていた汗の珠が彼の白く痩けた頬に落ちる。随分と、痩せたな。強くきつい光を宿した二つの目玉がぼんやりとした顔の俺を映していた。もう一度唇が動く。今度は声にならず、その恨みの言葉は空気に溶けて消えた。何も聴こえない、聴いていない。

首輪の痕で赤く擦れている首筋に吸い付く。擦り傷と俺のキスマークで、こいつの皮膚はもうぼろぼろだ。今までつけたキスマークを一個一個優しく指でなぞっていくと、不意に腕が伸びてきて、俺の首を掴んだ。じゃらりと鎖の鈍い音が遅れてついてくる。たちまち押し倒され、体勢を逆転された。すっかり細くなってしまった体が俺に馬乗りになる。

少し前まであんなに飄々と笑って人を見下すような目をして生きていた折原臨也という人間は、もうその影をとっくに潜め、濁った二対の獣染みた憎しみを滲ませる瞳を俺だけに向けるようになっていた。綺麗だった艶やかな黒髪も、乱れて傷んでばさばさになっている。唇からは全てを諦めたような俺への憎しみの言葉と、喘ぎしか出なくなった。

首には首輪。手には手枷。こうしておくことでしか、俺は、愛を表現出来なかった。こんなにも愛しいのにこいつには一ミリも伝わらない。だから飼うことにした。

手を伸ばし、いきなり突っ込まれることに慣れてしまった後孔に指を突き立てる。ひゅ、と臨也が息を呑んだのが聴こえた。馬乗りになったままで、ぺたりと俺の胸に頭をつけてしまう。
一本、指を中に挿し込むだけでこのざまだ。ビクッと背中を震えさせて、締め付けてくる。

「あ、ぁ、――ひぅっ」
「情けねえなあ、ほんと、手前はデカい口叩く割には淫乱で早漏で、」
「言うな、黙れ、しねっ…!あああっ」
もう覚えてしまった臨也の良いところを引っ掻くように押すだけで、だらしのない性器は液をぼたぼたと俺の腹に垂らす。生温いそいつを舐めろと命じると、ぎろりと睨まれた。

「調子乗ん、な、よ」
「………いい加減自分の立場弁えろよ。舐めろ」
「―――っ、」

指を引き抜いて、髪を掴む。そのまま俺の腹と、胸にも飛び散った精液へと顔を押し付けた。しばらく臨也はじっとしていたけれど、観念したようにのろのろと舌を出して青臭い自分の体液を舐め始めた。まるで本当に獣を飼っているような気分になる。
ちろちろと彼が舐めている隙に、俺は再び後孔へと指を忍ばせた。今度は三本一気に。慣れとは怖いもので、監禁した初日は一本挿れるだけで悲鳴を上げて暴れたのに、今では指だけでは足らないとひくついて収縮を繰り返すのだ。

「んっ、あ、アぅ、ひゃああ!」

長い手足を痙攣させて、衝撃に感嘆の声を上げる淫乱な獣は完全に檻の中だった。確かめるみたいに首輪を引っ張る。口の周りをべたつかせた臨也が、恍惚の表情を大きく歪ませた。

「ぐ、ぁ、んん」
「首絞めたらケツが締まったんだけど、これどういうことだよ臨也くん?」
「や、違っ……待っ、指、動かさないで……!あ、ん!」
「勃ってるしな。痛めつけられて感じるとかどんなマゾなんだよ?あ?」
「あ、あ、やだ、…!」

臨也が息を呑んだのが見えて、眉をしかめた。きっと今の沈黙には、シズちゃん、と俺の名前を呼ぶ声があった筈なのに。なあ頼むから、昔のようにシズちゃんって、その間抜けなあだ名を呼んでくれ。そんなの無理だって知ってるけど。もう戻れないのも知ってる。

けれど切に願うのだ。まだ何も知らずにこの醜い独占欲さえもなくて、この池袋という街で再びお前と殺し合えたら、と。

叶わない。分かってる。だけど、夢だけ、見させて欲しい。何も俺だって、臨也が笑って俺のものになってくれたならこんなことはしなかった。手前が悪いんだ、臨也。手前が俺の気持ちに少しも気付かないから。

なんて、とんだ責任転嫁だ。自嘲が零れ落ちる。


「挿れるぞ、」
「待って、お願いだから、……あああああっ!!」

仰け反る首筋にもう一度口付ける。またじゃらりと鎖が鳴った。
いきなり挿れた衝撃で裂けて伝ってきた血が、シーツを汚す。そいつに白濁が混ざって、汗が混ざって、ああ、このぐちゃぐちゃになったシーツさえもこいつがここにいた、俺の罪の証拠になってしまう。

「あっあ、ふぁ、ひ…、ろして……殺して、や、る、んああっ!、ろし、やる……!」
「………俺が憎いか、殺したいか、俺は」

譫言のように繰り返す彼に続きを囁こうとして、しかし口をつぐんだ。俺は愛してるよ、お前に愛されたいよ、また、一緒に殺し合いたい。同じぐらい憎くて嫌いだったけど、けど、その距離が心地よかった。この関係を崩したのは紛れもなく俺なのだけど。

愛しているからこうするしかなかった。

またシズちゃんって呼んで、笑ってくれよ。叶わない願いを胸に押し込めて、俺は一心に臨也を揺さぶった。

殺してくれ。いっそ、もう、平和島静雄という人間の形がなくなるぐらいぐちゃぐちゃにして殺して欲しい。手前の心が手に入らないなら、それでもいいさ。










(下落、快楽、アア恋慕とは狂ったものよ)

(どうしてこうなっちまったんだろう、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい)(薄汚れた世界の端に、滲んだ視界の端に、お前がいた)










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