*静←臨←ドタ
正しい恋愛というものは何なのだろうか。
ぼんやりとした頭でふと疑問に思った。正しいとは一体何なのだ。何が正しくて何がおかしいのか。俺にはさっぱりわからないし、わからない代わりに正解もきっと何もないのだろうとは気付いていた。
ただわかることは、これが世間一般にいわれる恋ではないということだ。
「ぁ、あ、ひんッ……!!」
ごぷりと俺のものを呑み込んだ臨也は、噛み締めた歯の奥で隠し切れない声を上げた。女とは数えるぐらいしかセックスなんてしたことはないけど、こいつの体は女みたいな扱いを受けても快楽を拾えるらしい。
「い、ざや」
「ひ、ぅあ、ド、タチン、動いていー…よ」
何かに耐えるように顔を隠して肩を震わす男の肩にそっとキスを落とした。唇にはしない。それが二人の暗黙のルールだった。
いつから、こんな歪な関係が出来上がっちゃったんだろうなあ。
後悔しているかと訊かれれば、俺は、―――何と答えればいいのだろう。していないと言われれば嘘になるけれど、この臨也とのセフレという名目のお互いを貪り合うだけの関係は、楽で心地よかった。それに気持ち良い。気持ち良いセックスというのは、愛なんてなくたって出来るんだ、知ってたか。
確か始めは臨也が誘ってきたんだと思う。よく覚えてはいないけれど。
ねえドタチンさぁ、きもちいいことしない?俺とセックス。そうそう、絶対悪いようにはしないからさぁ、え?タチでもネコでもいいけど、ドタチンもしかして掘られたいの?あ、違うんだ。じゃあ俺がネコね、受け身側。それでセックスしよう。いいじゃん俺最近溜まってるんだよ。
確かそんな誘い文句だった気がする。最初はそれこそ声も出ない程吃驚して硬直していたけれど、気づけば俺は臨也に手を伸ばして、誰もいない教室で臨也を組み敷いていた。自分の中に住んでいる、獣を初めて見つめた瞬間だった。
そう、そこからだ。セックスだけする関係が始まったのは。
「―――あ!あ、ぁっ、ん…!」
臨也の手が宙にさ迷って、結局俺の背中にすがりついた。制服がくしゃくしゃになるのも構わず、優しく抱き寄せる。すると臨也はたちまち泣きそうなぐらい顔を歪めて胸元に顔を埋めてきた。
そっと背中を撫でてから、未だ俺のものにねちっこく絡みつく中を勢いよく突く。
「――――あ!」
背を反らして喘ぐ姿は、水中で溺れて藻掻いているようにも見える。ぐちゅりと卑猥な水音は結合部から厭らしく響いて、無人の教室に吸い込まれていく。
このまま何も考えずにずっとこうやってセックスだけをしていれればいいのに。臨也の物憂げな表情なんて見ていたくなくて、ひたすら律動に意識を集中させた。
「あ、あ!だ、め、ぁあ…ぅあ」
「っ、臨也…」
「もっ、…イく、………ゃん」
シズちゃん。
彼が呼んだある男の名前を、聴こえなかったことにした。
耳を塞げばいい。目を塞げばいい。そうすれば臨也が誰を見ているのか、俺を誰と重ねているのか分からなくなるだろう。俺が、訳もなく泣きたくなることもないよ。
口を閉じることも出来ず、口端から涎を伝わせて喘ぐ臨也の肩にまたキスをして、ぐり、と中を思い切り抉る。大袈裟に痙攣した体は弓なりに反って白濁を吐き出した。どろりとしたそれが、臨也の腹までも汚す。
「ぁ、んん、ッ」
イったばかりで敏感になっているらしく、少し俺が動いただけでびくびくと反応する。しがみついて動かないでと視線で訴えてくる臨也を無視して、俺は腰を突き上げた。だって俺、まだイってないし。今日は優しくしてやれる程、余裕もないんだよ。お前が、また、―――。
「ぁっ、あ、ああ!ダメだっ、てばぁ!シズちゃッ…あ、」
そいつの名前を呼ぶから。
「まっ、て、またイっちゃ――ひああ!」
「臨也、俺、も、…っく、」
臨也の中で達しながら、どこか冷静な頭が、いつまでこんな関係が続くのだろうと自嘲気味に疑問を問いかけた。そんなの知らねえよ。臨也の気が済むまでだろう。
シズちゃんのこと?すきだよ。好きで好きで仕方なくて、だから嫌いだ。俺のものになってくれないんだもん。あいつは、化け物のくせに、人並みの常識とか優しさとか持ってて、…俺にないものをいっぱい持ってる。だから嫌いだ、でも好き、好きなんだよ。ごめんねドタチン、嫌だよね、俺セックスの時、シズちゃんの名前ばっか呼んでてさ。
それでも構わないと言ったのは俺だった。俺に静雄を重ねてくれて構わない。だから、セックスしよう。そんなことでしか臨也の体を繋ぎ止めておけなかった俺を嗤ってくれよ、なあ。
「っは、ドタチン……」
「いいから」
潤んだ目で此方を見上げてくるのが苦しい。その赤い目は俺を通して、あの金髪を見ている。何がいいのか分からないけど、それ以上此方を見て欲しくなくて、俺は臨也の目を塞いだ。これなら何も見えないだろ、臨也。軽く開いた唇にキスしたって、誰だかわからないだろ。それでも口付けることが出来ない俺は、とんだ阿呆なんだ。
好きとか、愛とか、…そういうものじゃない。ただセックスの時ぐらいは、心も一緒に剥ぎ取って暴いてやりたいと思うのだ。生意気に俺を誘惑するくせに、静雄に対してはひたすら臆病で想いさえも告げられない、このクラスメートを。
「、ぁ」
ずるりと中から俺のものを引き抜いて、脱力した臨也をそっと抱き締める。俺を利用していることぐらい知ってる、けど、このひたすら不器用な男を愛しいと、感じてしまうのだ。
ただ、ただ漂流
(目の前にあるのに掴めない、目の前にあるのに手に入らない、俺もお前も)(だって傷付きたくないから、意気地無しだから、俺もお前も)