世界一嫌いな人間は誰かと問われれば真っ先にこのノミ蟲が浮かぶ。
「……へぇっ、そ、れで?俺がそんなんで傷つく、と思っ、た?……はぁ、んっ!」
俺の体に跨がって喘ぐ男にそう告げると、そいつは強がるように口元をつり上げた。俺はベッドに寝転がりながら、獣のように腰を振る臨也の目が一瞬伏せられたのを見た。
俺の勃ちあがったそれは、今臨也の胎内にくわえ込まれ締め付けられている。あ、あ、あ、と断続的に声を上げる臨也を気まぐれに下から突き上げてやれば、一際高い声で鳴いて白濁を撒き散らす。
「はっ、ああああああん、っ!」
白濁が顔にまで飛んできて、黙って舐め取る。俺の腹に手をついてまだ足りない、とでも言うかのようにまた腰を振り始める姿はひどく卑猥で犯罪的に美しい。そんなこと死んでも言ってやらないけど。
「動き、鈍ってんぞ」
「る、っさい!ぃ、あああっ」
のろのろとした動作で臨也が再び俺のものをきつくくわえ込んだ。何回イったんだか分からないぐらいヤり続けているというのに、とんだ淫乱だ。
俺もまた、飽きることなく臨也の中を突いてやる。今度は明確に、何度も。
いいところを連続して突かれた臨也は、体をびくびくと震わせて、ギブアップといった風に俺の胸にくたりと倒れ込んだ。
「おい、」
「無理っ…はぁ、あ…騎乗位とか、…シズちゃんとヤって、ると体もたないっつのッ…」
「体力ねえなあ」
「シズ、ち、ゃんが、ああっ、化け物なのっ!ひぅっ」
仕方なく体を起こして腰を抱き抱えてやる。すると更に深く繋がって、臨也が耐えられずに高い声を上げる。
汗やら精液やらで汚れたシーツに、また白濁が零れ落ちるのを見て、明日洗濯しなきゃなあなんて呑気なことを考えながら首筋に吸い付く。痕を残しながら、だんだんと唇を上に移動させてだらしなく開いた臨也の唇に噛み付いた。意外と柔らかい髪に手を差し込んで、口付けを深める。
「ん、んん」
飲みきれない唾液を顎に伝わせながら、臨也が拒絶するように首を振った。なんだよ、キスで勃たせてるくせして。
「嫌いな奴にッ、よく、キスできるねっ?」
眉を寄せてどこか悲しげな顔をした臨也に、え、と聞き返して、俺はさっき言った言葉を思い返した。そういや俺は嫌いっつったんだっけ。まさか気にしてるとは思っていなかったが。
「なに、笑ってんだっ、よ?ん、あっ、ひああ」
不機嫌そうな臨也には敢えて答えずに、腰を打ち付ける。その衝撃に耐えきれず、臨也は俺にしがみつき、殺しきれない喘ぎを奥歯から洩らした。
なんだ手前、意外と可愛いところあるんじゃねえか。少し潤んだ瞳が悲しそうに揺れているのを見逃さずに、俺は無意識に口の端をつり上げた。瞼にそっと唇を押し当てる。
「っ、ん」
臨也の勃っている自身に指を絡ませ、握り込む。びくっと反応して逃げようとする腰を繋がったまま引き寄せ、強く奥まで突き上げる。快楽に反り返った体がぶるりと震えて、臨也は静かに精を吐き出した。
「っふ、あ、はぁっ…シズちゃんなんか嫌い、大嫌い」
仕返しのつもりかは知らないが、若干涙目で俺を嫌いと吐き捨ててくる唇を塞ぐ。だからやだっつってんじゃん、と震える声で拒否されて、呆れとも何ともつかない溜め息が洩れた。
「あのなぁ、さっき言ったことまだ気にしてんのかよ」
「何の、ことさ」
しらばっくれている臨也の中にまだ入ったままの自身を引き抜いて、また溜め息をつく。ひぁ、と小さく声を上げて、ぬるぬるの後孔からそれを引き抜かれた臨也は獣のように俺の胸元にしがみつきながら荒い息を繰り返した。
「俺はな、臨也」
「なにっ、」
「手前のことが世界一嫌いだ」
「…………知ってる、っていってるでしょ。だから何?そんなんじゃ傷付かないっつーの、精神的な攻撃ならもっとアグレッシブにいかなきゃ」
黙れ、と人差し指でひっきりなしに動く唇を制した。こいつが悲しい時ほどよく喋るのは知っている。事実赤い瞳の奥には悲しそうな光がゆらゆらとたゆたっていた。
「最後まできけ」
臨也の情けない顔がちょっと笑えて、噴き出ししそうになるのを寸でのところで耐えた。ここで笑ったらきっと殺される。
結構単純なんだな、こいつ。そんなことを思いながら耳元で続きを囁いた。
「世界一好きな奴を訊かれて真っ先に思い浮かぶのも、手前なんだよ」
「……………なに、それ」
そっぽを向いてしまった臨也の耳が赤いのに気付いて、またおかしくなってしまう。駄目だ笑う、いや駄目だ。本当に単純なんだな。
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(それでおあいこ)