飲みきれない唾液が顎を伝った。だらしなく口を開けた目の前の宿敵は、弱々しく肩を揺らして俺にしがみつく。
どうしてこうなった。
数分前にとつぜん訪ねてきた世界一嫌いな人間は、いつものように俺に喧嘩を売ってくることはなく、潤んだ瞳で此方を見上げ寄りかかってきたのだ。
「おい手前臨也、何の冗談――」
「っは、シズ、ちゃ、ん」
ぎゅっ、としがみつかれる。玄関先でそんなことをされて、誰か唐突に訪ねてきて見られたらどうするつもりなのだろう。
へなへなとしゃがみ込んだノミ蟲は、荒い息を吐きながら体を震わせた。
「ん、ん、―――ふ」
「どうしたってんだよ…」
あまりに様子がおかしい故に殴る気も起きない。自らの体を抱き締めて小さく喘ぐ臨也にほとほと困り果ててしまった。とりあえず立たせようと肩に手を置くと、大袈裟にびくつく。
「ぁ、触んないでッ…!」
「………あのなぁ…。事情説明しねえと永久ここに放置すんぞ手前」
女みたいに甲高い声を上げて拒絶される。ちょっとイラッときた。いや、こいつの姿見てぶちギレないだけ偉いと思う。
潤んだ赤い目で見上げられて、う、と息を呑んだ。なんだこいつ、何がしたい。そんな媚びるような目で見上げられても困るっつーの。
「――――くすり」
「は、ぁ?」
「媚薬だよ媚薬!!…っん…!ちょっとその辺で盛られて、俺の貞操守る為に逃げてきた、のッ…」
「………あー、そう」
畜生おさまんねえ、と苛立たしげに自分の体を更にきつく抱き締めてドアに寄りかかるノミ蟲。こいつを輪姦しようなんて奴ら間抜けとしかいいようがないのだが、それに引っ掛かるこいつもこいつで相当間抜けだ。つか、はぁ?媚薬?冗談になんねえだろ、それ。
馬鹿にする気力もなく、俺は臨也の腕を掴んで引っ張った。力無く全てを委ねられて少しだけ拍子抜けする。
「で、なんでうちに来やがった」
「………たまたまッ、逃げてる最中そこにシズちゃんの家があったからだよ…ぁ、もう触んな馬鹿、!」
「嘘つけ」
「嘘なんて吐いてな――ひぁっ!」
軽くズボンの上からそれをなぞると、びくびくと反応が返ってくるのが面白い。あの、人をいつも小馬鹿にしたような態度で飄々と笑っている臨也が今はこんな痴態を晒してるなんてなあ。あ、もう勃ってやがる。
コートを脱がせて、インナーを捲るとピンと硬く主張する胸の尖りが現れた。ゆっくりと舌でなぞって刺激するだけで、下半身のそれがまた大きくなる。
「ぁ、ダメっ、何してん―――んんん!触んなっ、つー、の…!」
「臨也ぁ、なんでうちに来たんだ?たまたまじゃねぇだろ?ちゃんと答えてみろよ」
耳を噛んで、舌を差し込む。それだけで充分に感じてしまうのか口元から唾液を伝わせ涙を溢しながらぎゅっと目を瞑って体を強張らせた。
痛そうなぐらい張った乳首を爪で引っ掻く。片方だけを集中的に攻め立てると、見事に左右色が違くなった。
「ぁ、っあ、はぅっ……!」
辛そうに頭を振る臨也に最早言葉を紡ぐ余裕なんてなさそうだ。
片方の乳首に舌を這わせて、もう片方は指で押し潰してやる。本来ならそれだけで痛い筈なのだが、今のこいつにはどんな行為も快楽にしか変換できないらしい。
自分がどんな禁忌を犯しているのかは分かっていた。分かってはいたものの、それを食い止める理性は頭の隅で小さく蹲っている。
知るものか。今はこの憎くて憎くて仕方ない宿敵を貶めて辱しめることにしか興味はない。そう、誘われた訳じゃないんだ、これは復讐である。
鈍く痺れた頭は言い訳を繰り返す。違うのだと、これは、普段の仕返しなのだと。
「や、ん……ふぁっ、あっ、…あああ!!」
一層強く勃ちきった乳首をつねると、それだけで臨也は甲高い声を上げて白濁を吐き出した。汚れたズボンと下着を一気に脱がせて、
「何だよ手前、胸だけでイったのか?」
「ん、ん、あああっ、ひぅああ、収、まんないッ………!」
まだまだ硬度を保ったまま、勃ち上がるそれを見て嘲笑う。誰だかわかんねえけど、こいつに媚薬を飲ませた奴に心から礼を言いたい。お蔭でこいつのこんなあられもない姿を見られたという訳だ。
ぴん、と蜜を溢れさせるそれを弾いてやると顔を真っ赤にさせた臨也が更に大きく喘ぐ。最近の媚薬ってやつはこえぇな。
「まだ質問に答えてねぇだろ。なぁ臨也、手前なんでうちに来たんだよ?答えたら助けてやるよ」
「〜〜〜ッ……!な、んで、襲われそうになっ、て、逃げてき、た、のに、っはぁ、襲われなきゃなんないのさぁっ…!」
「襲ってねぇよ、助けてやるんだっつーの。おら、答えろ」
「…あ、…んんっ…!」
ふるふると震えるそこに触れてやると、それだけなのにまた白濁を吐き出す。とんだ淫乱だな、と鼻で笑うと耳まで真っ赤にしやがった。
あれ、今、ちょっと可愛かった、なんて嘘だ。男に可愛げがあってどうすんだっつの。しかも臨也にそう思うとかありえねえ。
「…ぁっ、あああっ…や、また、…イっ……!」
止まらない射精に、もう嫌だと泣き出す臨也の頭を乱暴に抱き込んでやる。何だこれ。何だこの動作。まるで、恋人同士みたいで気持ちが悪い。
それでも臨也がしがみついてくるから、俺はその頭を優しく抱き締めたままでまた自身に触れる。もう太股まで精液でぐちゃぐちゃにさせていて、どこのAV女優かと思わせるぐらい卑猥だった。
「答えろ、っての。気持ち良くなりてぇんだろ?なぁ、臨也ァ」
「っあ、あ、ぁうっ、」
耳元に口を寄せてなるべく優しい声で囁いてやる。涙と唾液と汗で濡れた顔を上げて、不安げに俺を見上げてくる臨也は、熱に浮かされたように唇を開いた。
「はぁっ、シ、シズちゃ、にっ」
「俺に?」
「抱かれ、たかっ、たからァっ、好き、だ、から……!」
文法的にアウトな言葉を繋ぎ合わせて答えを理解する。
ああそうかよ。そりゃあ光栄だな。別に俺はお前がホモだったって構わねえよ。俺はお前が嫌いだからな。
(本当に?)
(ああ、本当だよ。本当に―――嫌いだ)
自問自答に頭を振った。どうでもいい。どうだっていい。今はこいつを辱しめることに集中するんだ。こんな感情、いらない。
そうだ理性なんて捨てちまえ。
頭がおかしいから、仕方ない。事前に言い訳しといて、俺は臨也の唇に噛み付いた。
モラル崩壊
(そんなもの、とっくの昔に捨てたから)(愛とか恋とか、何も知らない)