*大人の玩具
胎内で、例のものがまた振動を始める。不意討ちで動いたそれに、思わず肩が震えた。弱いところを確実に抉られて耐えきれず前屈みになってしまう。浅く息を吐き出す。
相手に勘づかれないように、奥歯で洩れそうになる嬌声を噛み締めた。幸い自分の話に夢中らしい目の前の男はさして気にもしていない。
額から吹き出る汗が前髪を塗らしていく。無機質な振動に耐えるべく、俺はズボンをぎゅっと握りしめた。
「―――で、例の物を―――折原くん?どうかしたんですか?」
俯いたままぶるぶる震える俺をさすがに不審に思ったのか、来客は顔を覗き込んできた。脂汗を垂らす様子を見て、不思議そうに眉を寄せる。
大切な仕事なのに。胎内に埋め込まれた大人の玩具、所謂バイブというやつが俺の思考を妨げる。これをつけたまま仕事をしろというのだ。無茶なことを楽しそうに言ったあの忌々しい男を思い出して、怒りのあまり意識を飛ばしそうになった。
そう、そんなことを俺に強制するのはただ一人しかいない。平和島静雄、ただ一人しか。
全くシズちゃんったら無茶言うよねーなんてレベルじゃ済まないだろこれ。俺のイイトコロに当たって揺さぶり続けるバイブは時折遠隔操作によって振動を最大に引き上げられる。その度に俺は小さく喘いで耐えなければいけなかった。
機械風情が、この俺をここまで追い詰めやがって。
限界まで勃ち上がった自身には戒めにぐるぐると紐が巻き付けてあり、達するに達せず先走りを溢れさせてはめられたコンドームから零れてしまいそうだった。勃っていることがバレないようにと俺は室内でも分厚いコートを着てひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
もう客の話なんて聞いている場合じゃない。むしろよくここまで耐えたと思うぐらいだ。駄目だ、イきたい、お願いシズちゃん助けて助けて。
「………折原くん、聞いているのか?」
ヤバい物の処理先を尋ねにやって来たらしい客は、不愉快そうに声を荒げた。慌てて謝ろうと口を開いた瞬間―――突如、バイブの振動がまた最大に引き上げられた。
「――――っは、ん、」
腕で自らの体を抱いて、ひたすら快楽の波に耐える。真っ赤な顔で荒い息を吐く俺をどうとったのか、客は片眉を上げて静かに立ち上がった。
「具合が悪いようなので、ここで失礼しよう。折原くん、お大事に」
「お待ち、くださっ…申し訳ありません、!」
早い歩調で玄関に向かってしまう客を引き留めることもできずに床に倒れ込む。衝撃でまたバイブが深いところをえぐった。冷たいフローリングに蹲りながら、玄関のドアが閉まる音を聴いた。
「っあ、っあ、あ、あ、ぅあ、もうやだっ…」
情けなさと快楽に涙が滲んでくる。必死に喘ぎながら、床に爪を立てた。イきたい。もどかしい。苦しい。ぐちゃぐちゃになった脳は俺の胎内を蹂躙し続けるバイブに集中した。
「大事な仕事の客怒らせやがって。それでも情報屋かよ、手前」
煙草をくわえながら遠隔操作のリモコンを片手に、俺の家の奥の部屋から出てきたシズちゃんは、接客間の床に芋虫のように転がっている俺を見下ろして蔑んだ。
どう考えたってお前のせいだろ変態。
悪態でも吐いてやろうと開いた口からはだらしなく唾液と喘ぎしか洩れない。惨めな俺の姿を見て、シズちゃんは鼻で笑った。
「まだケツに突っ込んでるバイブだけだろ?そんだけで死にそうになられちゃ困るんだよ」
「ふっ、んんんあ、あぅっ!」
仰向けにされて、コートを脱がされインナーを捲られる。露になった胸にはひやりとした感触の、沈黙したままのローターが貼り付けられていた。こいつもいつ動くかとずっと冷や冷やしていたのだ。
「っん、うああっ、いっ、イきたいぃっ!お願ッ…シズちゃぁっ…!!」
「じゃあちゃんと俺に頼んでみろよ。可愛くおねだりしてみな」
ピン、と乳首を指で弾かれてまた喘ぎ声が零れた。そんなこと言われたって、痺れた脳にはなかなかシズちゃんの言葉が届かず、咄嗟には何も浮かばない。
早く何か言わなきゃ。言わなきゃきっとシズちゃんは本当にイかせてくれないだろう。プライドが高いと自負している俺だが、これから解放してくれるんだったら何でも言うし何でもする。
「し、ずちゃッ…!!」
「はーい残念でした臨也くん。時間切れです。お仕置きだなァ、」
ニヒルな笑みで手に持っているリモコンとは別のリモコンをポケットから取り出す。まさか、それは。俺が顔面蒼白になったのを見て、正解とばかりにシズちゃんはその電源を入れた。
「っ、ああああああああああ!!あんっ、あ、いあああ!!」
突如振動を始めた胸のローターと、後ろで動き回るバイブに攻め立てられ、視界が真っ白になった。死ぬ。本当に、死ぬ。
透明な液をだらだらと自身に絡み付かせ、空イキした俺をせせら笑い、シズちゃんは腰を上げた。ついでとばかりに俺の腕を紐で後ろに縛り上げながら。
―――え?ちょっと、待ってよ。
「じゃあな。俺コンビニで煙草買ってくるからよ。お利口にして待ってろよ」
「っあ、えっ、あああああ、ひぅああ!!待っ、あああっ、て、待ってシズちゃ………ッお願いだからァぁ!」
無情にも去っていく背中。床に転がされ振動し続けるバイブとローターに攻め立てられ、自身は戒められ。悶絶しながら、ここで暫く耐えてろと?
「、ぃああああっ!」
縛られた両手は戒めをほどくことさえ許されない。これから数十分襲いくるであろう快楽に耐えなければならないのだ、と思うと、次から次へと涙が流れ落ちた。助けて、ほんとに、死んじゃう。
揺さぶられる
………………
続く、とおもいます