がたがたと震える体は寒さのせいにしてしまいたかった。冷たいフローリングに転がされた背中がゆっくりと冷えていく。
「シ、シズちゃ…ぁ」
舌が体を這っているのは分かる。だけど俺の視界は目隠しで真っ暗で、何も見えない。だから次はどこを撫でられて刺激されるのかが分からない。唐突に乳首に歯を立てられて、びくっと体が跳ねた。
「ね、お願いだから…シズちゃん、これ取って、怖い、怖いから」
媚びるような声を出す。手探りでシズちゃんの頭を探して意外と柔らかい金髪に指を通した。
視界が遮断されたセックス程怖いものはない。少なくとも俺はそうだ。見えないことに底抜けの恐怖を感じて、見えないからこそ高まる快感に飛びそうになる理性を必死で押し留めていた。
怖い。堪らなく怖い。大嫌いなシズちゃんに怖いと打ち明けるのは腹立たしかったが、そうでも言わないとこの目隠しを取ってくれはしないだろう。
「嫌だ」
いきなり耳元で囁かれて、熱くなった体が更に火照るのを感じた。ぼそりと呟かれる低音はひどくいやらしくて、俺を興奮させるだけ。
俺の懇願は聞き入れられないまま、性急にだらしなく蜜を垂らし続ける自身を握り込まれて体が再度震えた。駆け巡る快楽に、逆らう術なんて、知らない。
「あっあっあっ、やら、それっ」
生暖かい口内に自身をくわえ込まれる。そのまま小さく吸い上げられると、どうしようもないぐらい気持ち良くて、どうやら人一倍感度の良いらしい俺はそれだけで吐精してしまう。
「もうイったのかよ…だらしねえな」
「んんんん!いや、っぁん、お願いだからァ、…これ、取って…」
「何言ってやがる。嬉しいくせによ」
「違っ…シズちゃ…!!うぁ、」
指がごぷりと水音を立てて中に沈み込んでくる。一本、いや、二本か。閉ざされた視界では確認することなんて出来なくて、ただひっきりなしに喘ぐ。口端からは飲みきれない唾液が溢れて落ちた。
「さて、」
またシズちゃんの声が耳元で囁く。俺はそれどころじゃなくて、恐怖と快楽に意識が持ってかれそうになるのを耐えた。
「涎なんざ垂らしてあんあん喘ぐ臨也くんに問題です」
ぐちゅり、とまた指が中を掻き回す。羞恥を引き出すような言葉をやけに優しい口調で続けられて、これで感じるなと言う方がおかしいのだ。前も後ろも弄られて、頭がパンクしそうだった。
「あ、あぅっ、あ、んぅ!やッ」
「今指は何本入っているでしょうか?」
ばらばらに動く指に意識を集中させることなんて、出来る訳ないだろう。また白濁を床に散らして、俺は腰を揺らめかせた。後孔が物欲しそうにひくついている。欲しい、欲しくて仕方ない。
「ぁ――ん、ん、あ?!」
「とっとと答えろよ……」
頭をもたげる自身を、射精出来ないようにと握られる。じんと痺れる痛みに涙が出てきそうだった。
答えようにも目隠しをされて何も見えないし、ばらばらに動く指に惑わされて数を冷静に数える程理性も残ってはしない。
けれど、きっと、答えないとずっとこのままだ。競り上がってくる射精感を塞き止められているもどかしさに悲鳴を上げながら、俺は必死に言葉を紡ごうと魚のように口を開く。
「はぁっ、ああ、いぁっ…!ゆ、び、二本…ッ?!ぁ、さんぼ、ん」
「……………ああ、残念だな。タイムアウトだ」
「――――え、?ッああああ!」
射精を止める手はそのままに、指を一気に引き抜かれる。そしてひくつき続ける後孔にシズちゃんは猛った自身を突き立て、俺を貫いた。
息が止まる程の圧迫。快楽。込み上げる射精感は白濁となって吐き出されることはなく逆流していく。もどかしさに気が狂いそうだ。上手く酸素を取り込めなくてまた唇を開けると、すべてを呑み込まれそうなキスが振ってきた。それがまた快楽となって体を刺激する。
イきたい。本能は、それしか叫ばなかった。
「お願っ、おね、がいだからァあぁっ、イき、たい…!ぃあっ…ひんっあっあっ!」
見えない。怖い。おかしくなってしまう、壊れてしまう。必死でシズちゃんの背中にしがみついて懇願する。まるで聴こえないかのようにシズちゃんは律動を続け、俺を揺さぶった。
「や、ああああっ!イきたい、やだやだやだ、イかせてッ…!許し、て、よぉ、はっ、ぁ、」
「臨也、」
「め、目っ、隠しも取っ……て!んぅ、あっシズちゃんの顔、見たいっ、のぉ!」
媚びを売るような声しか出ない。ただただ恐怖に蝕まれて俺は娼婦のように叫び続けた。
「………阿呆が」
するりと布が外れて、ようやく視界が明るくなった。涙で霞んではいるけれど。
がたがたと震える俺の体を抱き締める腕が見える。綺麗に引き締まった体が見える。そして、俺を見下ろす、困ったような顔をしたシズちゃんの顔が見える。
ゆっくりと、自身を束縛していた手が離れた。律動が再開される。
「ッ、ノミ蟲が、変なこと言いやがって」
「ん、ん、あああああ!」
「手前の俺を見てくる目が、嫌だから隠したのによ―――ちくしょう、」
「シズち、ゃん、シズちゃん、あっ、ひぅ、」
言われている台詞は半分も理解出来なかったけど、シズちゃんが俺を抱き締めてくれているのは感じていた。がくがくと揺さぶられ何回も精を吐き出す。好き、ねえ、シズちゃん、好き。救えないぐらい好き。うまく言葉に出来なくてもどかしいぐらい、好きなんだ。
「ひぅ――ぁあ、んっやらぁっ、もう壊れ、ちゃっ!助け、死ん、じゃう、シズちゃん、はあっ、あああ…んあ!」
「臨也、……っ、」
気持ち良すぎて死んじゃうんじゃないか。縋った手はやっぱりシズちゃんの背中に回されて、俺は女みたいなぼろぼろに泣きながら本日何回目かも分からない射精を果たした。シズちゃんも俺の中で果てたのを感じる。
このまま融けて一つになればいいのになんて、俺はとんだロマンチストだ。
「とんだ、マゾだな」
床に落ちた目隠しを手に取って、シズちゃんがどこか自嘲気味に、優しく俺を嗤笑した。
沈澱
(俺のこの赤い目が、抉りとってしまいたくなる程愛しいのだと彼は言った)(憎くて憎くて、愛しいのだと)