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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
今回は新たに幻想入りした大尉の視点でお送りします。
注!しゃべります。 口調や思考は完全に作者のイメージです。オリジナルです。
ある大尉の物語
side Hauptmann

「......」

 ここはどこなのか。幻想郷と教えられたが、そんな場所は自分は知らない。聞いたこともない土地であり、死んだと思えばいつのまにかここに来ていた。

「大尉さん。どこ見てるんですか?」
「......」

 じっと隣の少女を見る。自分に比べればあきらかに小さい少女だが、その身と、腰に差した二本の刀に秘めた力はかなりのものだろう。自分を打倒したあの吸血鬼よりも、大成すればあの吸血鬼よりも強くなるだろう。

「星を見るにしては、やけに遠いところを見ているような目だったので声をかけたんですが...迷惑でしたか?」

 自分が見ていたのは、一体どこなのだろうか。月でもない。星でもない。ましてや過去でも未来でもなく、自分を殺してくれたあの吸血鬼と、中身の男。おそらく死亡したであろう少佐、ドク、ゾーリン・ブリッツ中尉、リップヴァン・ウィンクル中尉。それらを見ていたのかもしれない。

「......」
「迷惑じゃなかったですか。よかった...でも、少しは何か喋ったほうがいいと思います。しゃべれないわけじゃないんですから」

 ふと思う。自分は言葉を話せたのか、それとも話せなかったのか。話せたのなら言葉を忘れたのはいつだったか。純粋に戦闘のみを楽しんで生きてきた身なので、言葉もいらなかったのだろうが...

「ああ、そうそう。夕食の用意ができたので呼びに来たんでした。早くしないと幽々子様が全部食べてしまいますよ?」

 試しに喉を震わせて言葉を発してみる。

「あ、あ......」

 どうやら言葉が話せないわけではないようだ。声は出る。

「っ!? しゃ、喋った!!」

 そこまで驚くことだろうか。こうして人の姿をとっているのだから、人にできることは自分にもできておかしくはないはず。

「そ......こ...ま、で、おど、ろくことか?」

 試行錯誤しながら声を出してみる。慣れれば普通に会話もできそうだ。

「喋れたなら最初から何かしゃべってくださいよ! てっきり話せないのかと思ってたじゃないですか!!」
「しゃべれると、おもっていたと、さっき言っていなかったか?」

 やはり慣れないことはするものではない。のどが疲れる。普段は咀嚼したものを飲み込むか、呼吸程度しかしないので、知らない間に声を出すという機能が退化していたのか。

「いや、確かにそうですけど...」
「......」

 のどが疲れたのでしゃべるのをやめる。食事と言ったが、今日の夕食は何だろう。先日のように主が全て食いつくしてしまったのでドッグフード。ということにならなければいいのだが。

「って、また黙っちゃって...」

 メモ帳に、『のどがつかれた』と書いて渡す。漢字は未だに習得できていない。

「ああ、そうでしたか。食事はできますよね?」

 一度頷いて妖夢の後ろをついて歩く。夕食が楽しみだ。


「あらあら、遅かったじゃない。待ちくたびれて食べちゃうところだったわ」
「......」

 すでに食べ始めているというのは言わないでおく。空いた皿が山のように積み重なっている。すさまじい食欲だが、自分と妖夢の腹を満たせるだけの量は残しておいてくれているのはありがたい。

「幽々子様......太りますよ?」
「亡霊だから太らないわよ~」

 亡霊だろうとなんであろうと、これが今の自分の仕える主であるこちには変わりない。どれだけ大食らいであろうと、それは変わらない。

「ああ、あと大尉君だったかしら? 閻魔様があなたのことで話があるって。客間に待たせてあるから、夕食を食べ終えたら行ってらっしゃい」
「......」

 閻魔? 聞いたことはあるが、どのような存在かは知らない。だが、自分の主が様付けで呼ぶということは、それなりに高い地位にある存在なのだろう。

「え、閻魔様ですか......」
「そうよ。生前外で悪いことでもしたのか、それとも勝手にここに連れてきたことで文句があるのかは知らないけど、とりあえずありがた~いお説教を受けることは覚悟しておいてね」

 使い慣れない箸という食器を使って食べ物を口に運ぶ。塩を振った魚を焼いただけだが、これはいつも食べていたドッグフードよりも美味い。

「聞いてる?」
「......」

 顔をあげて主人のほうを向く。

「あら、御飯がついてるわよ」

 白く細い指が、口の横に付いていた米粒を取り、

「美味しい」

 そのまま口に運んだ。人の分をとるとは、よほど食欲が旺盛なようだ。

「幽々子様! なにしてるんですか!!」
「あら、したいなら妖夢もすればいいんじゃないの?」
「わ、わたしはそんな!」
「顔が真っ赤よ? 熱でもあるのかしら?」
「違います!!」

 非常にドタバタとしているが、食事も終えたことだ。閻魔のところへ行ってこよう。