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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
今回は原作とは違い、アーカードが生き残ります。そして執事は死んだことになって幻想入り。
英国訪問録 九話
side Hujiwara

 なにが起きている? 否、なにが起きた? なんだこの禍々しい空気は...さっきまでの戦乱の空気とはまるで違う。炎と血の臭いではない。怖い、恐い。

「色が増えた」
「色?」

 色ってことは、数が増えたってことか? 

「うん。そういうこと」
「まあ、ここは水の中だし、御柱を基点とした結界も張ってあるからなにがあっても大丈夫だろ」

 核でもこない限りは大丈夫だろう。

「黒やんは大丈夫かな」

 黒羽は...あいつならきっと大丈夫。あいつは必ず生きて帰ってくる。

「それに、俺にはあいつが死ぬところが想像できん」

 水の中から燃え上がるロンドンを見ながら呟く。人に想像できないことは起こりえない。だから、あいつは必ず帰ってくる。

「そだね」
「まあ、朝になるまで待とうや。日が昇るころには全て終わってる」

 川の底でのんびりと全てが終わるのを待とう。全て終われば、日本に帰って何事も無かったかのようにまたのんびり焼き鳥を焼きながら暮らせばいい。幻想郷で薬をもらいに永遠亭へ行って、てゐのいたずらに引っ掛かって怪我をして、永琳さんに治療してもらってついでに薬をもらって、そんでもってNEETの相手をして過ごそう。
 全ては一夜の夢だ。

 side out

 side Toya

「これが本当の数の暴力か」

 飛んでくるトランプを、軌道を変えながら飛んでくる弾丸を避けながら夜の空を飛ぶ。地上はアーカードの開放した、わけのわからない亡者の群れで覆い尽くされている。吸血鬼も、カトリックも、関係なく亡者の群れに蹂躙されている。あれが全てアーカードの飲み込んできた生命だとすると、とてつもない数だ。あれだけの命を吸っていたんだから、あの強さも頷ける。
 食った分だけ強くなる。それが吸血鬼というものだ。

「上も下も大混乱。これだと生存者は...居ないだろうな」

 拾えるものは拾った。零れ落ちるものは捨て置く。この地獄の最中、一体誰が生き残るのか。否、誰も生き残りはしないだろう。

「全く、どこまでもふざけた化け物だ」

 幻想郷でもあんなふざけた化け物は居ない。幻想郷の住人が、どれだけ束になってかかろうとも、勝てる相手ではないだろう。それなのに自分から死に行く、できそこないの化け物共。

「右を向いても左を向いても化け物だらけ。ここは海外版の幻想郷か?」

 ある程度街の中心から離れると、攻撃の手が止まったので、その場にとどまる。改めて状況を確認すると、地面は茨と亡者で阿鼻叫喚の地獄絵図。空には巨大な飛行船と攻撃ヘリ。

「なんとも最悪な状況だな」

 一つの飛行船の上に飛び乗る。恐らくはここが一番安全だろう。

「おや、君は誰だ? 君のような客を呼んだ覚えはないのだが」

 どうやら既に先客。というよりも、この飛行船の持ち主が居る。小太りで眼鏡をかけた小さい男だ。

「ここが一番安全そうだと思ったから勝手に上らせてもらった。あの出来損ないの吸血鬼共を街に放ったのはお前か?」
「いかにも」

 大きく頷いて答える小太りの男。

「なにが目的でこんな地獄を作った?」
「目的。目的か。そんなものはありはしないよ。戦争をしたかったから地獄を作った。それだけだ」

 目的ではなく、手段そのものが目的? 略奪や、占領などではなく?

「...理解できんな」

 目的のためなら手段を選ぶなという言葉は聞いた事があるが、手段のためなら目的を選ぶなという言葉は聞いた事が無い。

「戦争はこんなにも楽しい。戦争はいいものだ。だからそんな君に聞こう。楽しいことが嫌いな人間が居るのか?」
「居ないな」 
 
 即答する。確かに、楽しいことが嫌いな人間などこの世界のどこを探しても存在しないだろう。そう考えると、この男の言っていることはなんとなくだが理解できるような気がする。

「結果ではなく過程そのものを楽しむ。正しい遊びだ」

 その過程で人が死ぬ。こいつにとってはそれが楽しいのだろう。

「だが同意はできんな」
「なにも同意を得ようと思って言っているわけではない。我々はただ戦争を楽しむためだけに存在する」

 戦争に取り憑かれた化け物。人とはこんなにも化け物になれるものなのか。

「その楽しんだ結果が死でもか?」
「それが目的だ」

 わからないな。全く理解できない。

「どれだけ抗おうとも、全ての存在は死へ向かっている。歩むスピードこそ違えど、それは全てに言える事。だから死ぬまでに最大限に楽しもうと思うのが人間だろう?」

 ...例外があるな。蓬莱人。

「死を待ち望むのは人間ではないと思うぞ」
「いいや、私は人間だよ」
「俺の友人のほうがよっぽど人間臭いな。化け物と神と人が混ざってはいるが」

 やはり俺にはこいつの頭の中が理解できん。

「とりあえず、一つ聞かせてもらおう。大量虐殺は楽しいか?」
「楽しいね」

 楽しいか。そうか。

「死ぬのが待ち遠しいか?」
「待ち遠しい。戦争の最中で死ねるのなら本望だ」
「そうか。なら...」

 神槍『スピア・ザ・グングニル』
 魔力を固めて実態となった神の槍の名を冠するスペルカードを構える。装甲を踏みしめ、体の限界を超えるほどの強化を行う。

「地獄で...閻魔に裁かれてこい!」

 真紅の槍を神速の速度を以って投擲する。真紅の槍が光の尾を引きながらデブに迫る。当たれば確実に貫かれ、跡形も無く消し飛ぶだろう。

「だが、君に殺されるのは本望ではない」
「っ!?」

 だが、槍は小太りの男に当たることなく軌道を逸らされて後ろの飛行船を貫き、爆散させるだけに終わった。だが、種は割れている。細い糸が幾重にも絡み付いて軌道を無理やりに逸らした。

「戦場では第三者による介入はよくあることだ。ならば、このような事態に備えて準備しておくのも指揮者の華ではないかね?」
「少佐、心臓に悪いのでこのようなところに出るのは止めてください」

 後ろから出てきた男。変な形の眼鏡をかけた、血で汚れた白衣を着た男。槍を逸らしたのはあいつではない。

執事(バトラー)、出て来い」

 ここイギリスで糸を使って戦うのは、一人しか知らない。

「以前から邪魔になるとは思っていたが、まさかこんなところにまで出てくるとは思わなかったな」

 だが、若いな。明らかに。今まで変装でもしてたのか?

「それでは、後は任せたぞ。そこのガキに大人の礼儀というものを教えてやれ」

 デブの男に霊弾を飛ばすが、糸でかき消された。そしてそのまま飛行船の中へと引っ込んでいった。

「全く、このようなところにまで単独でやってくるとは思いもしなかった」
「元から常識の外側の存在だ。お前ら程度には俺の行動は予測できん」

 目に見えて若くなったウォルターさんを見る。

「出来損ないの吸血鬼の出来損ないになって楽しいか?」
「自分の望んだことだ」

 自分の望んだこと。そこまでする望みは一体なんだ。
 
「主を裏切って敵方に着いてまでなにを望む?」
「あのアーカードを打倒できるのだから、これ以上素晴らしいことはない」

 アーカードの打倒。

「となると、あのデブを見捨てるのか」
「いや、あいつにはまだ礼をしていない。ここでお前を殺せばそれで解決する」

 俺を殺す? 冗談も休み休み言え。

「残念だが、俺はこんなところじゃ死ねない」
「そうか。だが、お前はここで死ぬ」

 糸が全身に絡みつく。だが、その糸が俺を引き裂くことは無い。霊力で体を強化してある。

「喧嘩を売る相手を間違えたな」
「なに!?」

 糸をつかんで無理やりに手繰り寄せ、全力で顔を殴りつける。手が切れて血が流れ出るが、そんなものは全く気にならない。治せば跡形も無く消える。

「俺はアーカードより弱い。だが、それは純粋な戦闘能力の差だ。純粋な能力だけでの勝負であれば、俺はあいつよりも強い」

 胸倉を掴み挙げて宣言する。
 過程と結果を操る能力。過程を省いて結果のみを出す能力。紫に幻想郷でも最高峰と言われたこの能力は、物事の全てを操れる。

「過程と結果が存在するのなら、俺にできないことはあんまり無い。できないことと言えば禁忌に触れる行為と、自分の要領を越えた行為だけだ」
「っぐ...!」

 飛行船の装甲をぶち抜くほど強く叩きつける。体が潰れ、再生し、俺と同じくらいの歳の外見になった。老いた執事が若くなり、さらにそこから俺と同じくらいの歳になっていくのは、かなり不思議なことだ。

「アーカードは命のストックが多すぎて殺しきる前にこちらが自爆する。だが、お前の命のストックは一つだけだ。たった一度殺すだけで死ぬ」
「それはお前も同じだ!」
「傷つかないなら死なないだろ」
 
 糸が首に絡みつくが、傷はつかない。無駄だとわかっていながらも攻撃するとは。哀れだな。

「まあ、俺は人間だ。ほんの少しだけ吸血鬼とはいえ、人間を好き好んで傷つけようとは思わん」

 手を離して開放する。さっきの二発でイライラは解消した。これ以上傷つける気にはならない。相手が反抗するなら話は別だが。

「今ならまだ執事として主の下へ戻れるぞ? 無理やり吸血鬼にさせられたことにすれば」
「まだだ! まだ少佐に借りを返していない」
「あのデブか」

 どうせあのデブは死ぬんだから、借りも糞も無いと思うんだが。

「一度主人を裏切ったんだから、二度目も裏切ってもとの鞘に収まればいいだろ」
「アーカードを殺すためには、あいつに勝つためには少佐の下である必要があるんだ!」

 アーカードに勝つか。俺には無理だな。ああ、無理だ。

「仮に何らかの手段を以ってアーカードを殺せたとしよう。その後はどうする」

 体はボロボロで半生半死。あとは死を待つだけのなりそこないの吸血鬼。日が昇って鶏が鳴けば身が崩れるだけのできそこない。死んで閻魔に裁かれて地獄へ落ちるだけだ。

「どうするって...死ぬだけだ」
「もしも勝てなかったら? 悔いはないのか?」
 
 我ながら性格が悪いと思う。だが、インテグラさんに恩は売っておいて損は無いだろう。より安全に日本へ帰還するためには、彼女の協力が不可欠なのだから。

「それでも死ぬだけだ。勝ちたかったという考えはあるだろうが...」
「ふん。わかった。それじゃあ今ここでお前の取れる選択肢を教えてやろう。
 1.元の鞘へ収まる。
 2.ここで死んだことにして、別のところで働く。ちょうどどっかのマッドがニートの姫さまの世話役が欲しいって言ってたからな。
 どれを選んでもいいぞ。俺には関係の無いことだ」

 丁度下では決着がついた頃だ。よくわからんが、茨の化け物になった神父がアーカードに殺された。まったく、なにがなんだかわからない。

「アーカードと戦うという選択肢が無いのは気のせいか?」
「あえて省かせてもらった。その体じゃあ戦う前に死ぬだろ?」
「誰のせいだと思っている」
「他の誰でもなく俺のせいだ」
「だったら、行かせr「三つ目の選択肢だ。俺に消し飛ばされるのとどちらがいい」

 俺の能力なら人一人殺す程度は容易い。また、その逆として生かすことも容易い。

「四つ目の選択肢だ。アーカードと戦いに行く!」
「残念だが、その選択肢は存在しない」

 縛鎖『グレイプニール』
 フェンリルをラグナロクまで縛り付けたという紐。ここでは鎖にアレンジしてあるが。それを落ちていく執事に巻きつけて引っ張り挙げる。
 藤原は、相手を拘束するのに五柱鉄貫だったか? 御柱を四肢と頭の上に落として動きを止めるような攻撃というか拘束というか...

「......Fuck」
「まあ、大人しくしろ。悪いようにはせん」

 霊体を解析して、適当に弄っていく。最適化の方が正しいか。
 出来損ないの吸血鬼の出来損ないを、無理やりに人間へと戻す。禁忌にこそあたらないが、霊体を弄ることはその一歩手前なので霊力をごっそり持っていかれる。半分ほど。

「なっ!? か、体が」
「体を少しいじらせてもらったぞ。よかったな、人間に戻れて」

 改造を受けた結果のみを無かったことにした...かったのだが、それだと攻撃したという結果が消えないので、無理やりに人間だという結果を貼り付けた。

「ふざけるな! 今すぐに元に戻せ!!」
「悪い。無理」

 今ので霊力を半分以上持って行かれた。それ以前にも結構霊力を使ってたからな。治せといわれても霊力が足らん。

「で、どっちを選ぶ。吸血鬼でなくなった今、お前があいつに勝てる確立はほぼゼロ。正面に立って殴られて終わりだ。どっちの選択肢を選ぶ」
「っぐ...」

 すぐ後ろで爆発が起こる。まあ、この飛行船もすぐに落ちるだろ。

「飛ぶぞ」

 鎖を持ったまま空へと飛び上がり、落ちる前に逃げる。

「放せ!」
「断る。みかけた生存者は助けると決めていてな」

 そのまま問答無用で執事をぶら下げたまま空を飛ぶ。下で暴れているが、鎖は解けない。
 
「余計なお世話だ!」
「ははは。このまま下に落ちて死にたいのか?」

 下は死の河。恐らくはあのアーカードのものだろう。ありとあらゆる命が飲まれていく。
 一つの建物の上に上り、のんびりとその様を観察する。血の河がアーカードへ向けて流れていく。そしてその血の河がアーカードによって飲み干されていく。

「見ろ。あれだけの命を殺さないとあれは死なない。何百万という命を殺しつくさないとあれは死なない」

 鎖でぶら下げられている執事に話しかける。

「それだけ殺し続けるのは俺には無理だ」

 ふと、隣に気配を感じてそちらを向くと、いつの間にか猫か犬かよくわからない耳を生やした少年が立っていた。
 格好から見て、あいつらの仲間だろう。

「吸血鬼か?」
「違うよ」

 とりあえず、結界で囲んで捕獲しておく。そしてそのまま放置。バタバタと中で暴れているが、なにをするかわかったものではないのでとりあえず捕まえておいた。後でインテグラさんに渡して、制裁を加えてもらおうか。

「なあ執事」

 鎖でぶら下げた執事に声をかける。

「なんだ」
「俺もとある館で執事をしてるんだが、主を裏切ってまでアーカードと戦いたかった理由がわからん」

 なぜそんなことをするのかが俺には理解できん。俺の場合は主が妻でもあるからというのもあるだろうが、それを抜きにしたとしても、理由が思い浮かばない。

「あいつに腹が立ったから」
「ガキか」

 外見こそガキだが、元はジジイの癖に。器の小さい爺さんだ。

「それで、結局どうする」
「一度裏切った身だ。今更元の鞘に戻るなんて虫が良すぎる」
「だったら再就職するか?」
「いや、アーカードを打倒する」
「却下だ」

 手を放してスキマに叩き込む。送った先は幻想郷の永遠亭。紹介文として、『姫の世話係にどうぞ by 黒羽』と書いた紙を落とすのも忘れない。
 紫も何人か幻想郷へ外来人を連れ込んでいるようだし、俺が一人放り込んでもかまいはしないだろう。

 どこかで鐘が鳴り、朝日がロンドンを照らし始める。

「...日の出か」

 この戦争ももうすぐ終わる。否、もう終わった。アーカードがここロンドンの命を全て飲みつくした。吸血鬼モドキもグールも死体もクリスチャンも、全て飲みつくして終わった。

 日の光が死都となったロンドンを照らしだし、夜明けを告げる。地獄は終わった。藤原と涼子は無事だろうか。

TO BE CONTINUED ...