英国訪問録 八話
side Toya
レミリアから電話が入って、ちょうど今日で一週間を迎える。そう、今日がロンドン壊滅の日だ。というかもう壊滅している。時計塔もピカデリーの広場もパッキンガム宮殿も、何もかもが炎に包まれて燃えてしまっている。
一週間インターネットを駆使し、アメリカ国防省やCIAにハッキングしたり、テロ組織の動向を探ったり、さまざまな情報をかき集めてみたが、全くそういった行動を起こそうとするものはなかった。今現在ロンドンを襲撃している組織の詳細は全く不明。
「...まったく、情報の一つも集まらなかったとは」
アーカードなら何か知っていそうだったが、あいつは残念ながら聞こうと思った頃には海の上。スキマを使って拾おうにも、広大な大西洋のどこからしいので探すのはかなり難しい。
それにしても、まさか以前のグールを送ってきた組織がまさか本当にロンドンを火の海にできるほどの規模だったとは...夢にも思わなかった。
「参ったな...」
インテグラさんは無事だろうか。優秀な護衛が居るらしいので心配要らないとは言っていたが...彼女が死んだら俺達を安全に日本まで送り届けてくれる人間が居なくなる。
「おい黒羽、これからどうすんだよ」
どうするもこうするも、これだけあちこち燃えてたらどこに行っても同じだろう。武装ヘリが空を飛んで機銃を乱射してるし。
「ひとまず寝れる場所を探すか」
「...冗談を言ってる場合じゃないだろ」
場の雰囲気を和らげようとして言ってみたんだが、失敗だったか。ああ、それにしてもよく燃えてる。熱い熱い。まるでサウナだ。
「そうは言ってもどうもできんだろ。俺達にできることが何かあるか?」
「...いや、無いな」
結界を張って一夜過ごすにしても符がないので碌なものが張れないからな。それよりも、今追いかけてきているどっかの兵隊をどうにかして撒くことを考えないとな。
「ったく、涼子も涼子でこんな状況でよく寝られるな」
藤原が背中に背負っているのは、ヤクザの娘の涼子だ。怪我でも負わせたら確実にひどい目に会う。
「そう言ってやるな。涼子も疲れてるんだろ」
「俺達も疫病神にならダース単位で憑かれてるかもな!」
まったく、その通りだ。
「しかし、これだけ走っても撒けないとは...人間じゃないのか?」
結構なスピードで走っているにもかかわらず、一向に距離が離れない。そして銃も走りながら撃っているにしてはかなり正確な狙いだ。能力でどうにかしてなかったら今頃蜂の巣だぞ。
「っぽいな!」
目に霊力を集め、霊視ができるようにして一度だけ振り返る。赤、赤、赤...人の色じゃないな。けど妖力は感じない。吸血鬼に近いかもしれんが、それにしては力がなさ過ぎる。
「...藤原」
「なんだ!?」
全力で走りながら会話する。さっきから偶然助かった人たちが次々と捕食されているが、少しでも足を止めれば俺達もああなるのだろう。
あくまで何もしなければの話だが。
「先に行け。焼け死ぬぞ」
少し数が多い。一発で決めれるかどうか激しく不安だ...
「な、何するつもりだ?」
「見ればわかる。禁忌」
一旦足を止め、回れ右をして吸血鬼の集団の方を向く。スペルカードの存在結果を作り出して、出てきたカードを握り締める。フランのスペルカードだ。火力としては十分だろう。
「レーヴァテイン」
出てきた炎の剣を大きく振りかぶり、一気に振り下ろす。すさまじい熱波が巻き起こり、炎の波が吸血鬼、グール、死体を問わずに全てを通りごと呑み込んで燃やし尽くしていく。
「......最初からそんなの出して大丈夫か?」
「まだまだ大丈夫だ。あと十発分は残ってる。次が来る前に逃げるぞ。今のでヘリにも気づかれた」」
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことだろう。死体がグールになり、吸血鬼の軍隊が街を蹂躙し、武装ヘリが建物を破壊していき、炎が辺りを燃やし尽くしていく。生きている人間よりも死んでいる人間のほうが確実に多いはず。生きている人間を見かけたらスキマに放り込んで助けてやるか。自分が一番大切だが、助けられる人間を見殺しにするのは寝覚めが悪い。
「っ! 藤原!」
ガッと前を行く藤原の襟を掴んで無理やりに止める。
「グェッ!?」
そしてそのまま後ろへ放り投げると、何かが飛んできて爆発を起こした。俺が引かなければ藤原は確実に木っ端微塵になっていただろう。
「っち、勘のいい野郎だ」
「だけどまあすぐに死ぬんだけどな!」
「おいおい、ゆっくり生きたまま味わって食おうぜ。まだ若いんだしよ。女のほうは処女っぽいしな」
そして現れたのはまた吸血鬼。いい加減に驚くのにも慣れてきた。多分もう一生驚くことはないだろう。一生分の驚きをこの一週間で使い果たした。
しかし、俺の友人を食う? 冗談はよしてくれ。お前らなんかに食えるような奴じゃあない。
「御柱!」
そして、その吸血鬼の集団も空から降ってきた大量の御柱に押しつぶされて、神性に耐え切れずに浄化され、灰になって消えた。
「大分力の扱いが上手くなってきたな」
以前までは御柱を作り出すといってもバット程度の大きさが限界だと聞いていたが、いつの間にか本家と同じくらいの大きさの柱が出せるとは。しかもそれを雨のように降らせることができるようになっていたとはな。
「ゆうかりんに毎日毎日フルボッコにされてりゃ嫌でも覚えるっての」
「そうか。まあ結果がいいならそれでいいだろ」
世の中は結果だ。結果が全て。結果のみが評価されるわけではないが、やはり過程よりも結果のほうが重要視されるのが今の世の中。
幽香の趣味が今こうして藤原の役に立っているというのなら、まあ虐めることも許すか。
「なあ、本気出してこの街全部フッ飛ばせばそれで終わるんじゃね?」
「アホ、まだ生存者がわずかだけど残ってるだろ。それまで死んだらどうするつもりだ」
すぐ近くで倒れている女性を指差して怒鳴る。傷がひどいので傷を治してからスキマに放り込むが。
「さっき自分で通り一つ焼き払ってなかったか?」
「生存者は居なかった」
それについてはきちんと確認してある。最大火力で焼き払うからには、周りの状況もよく確認してかないとな。
「居たぞ!」
声が聞こえてきた方向に一瞬で結界の壁を作る。銃弾が次々と飛んできて、結界に当たっては弾かれて地面に落ちていく。即席にしてはなかなかの強度だ。
「だるいな」
ああ、本当に一撃で吹っ飛ばせないのが残念だ。不謹慎だが、生存者が居なければ街ごと吹っ飛ばせるのに。
「神剣『アメノムラクモ』」
税関を誤魔化して持ってきた刀をこんなところで使うことになるとはな。本当に人生は何が起こるかわからないものだ。
「藤原、涼子は任せた」
「あいよ、任せとけ」
接近する過程を一気に縮めて距離を詰め、そのまま抜刀。三体ほどの吸血鬼を一太刀で切り伏せ、返す太刀でさらに二体の首を撥ねる。そして振り向きながらさらに一閃。俺の存在に気づいた吸血鬼が距離を取り始めるが、また能力を使って距離を詰めて心臓へと一直線に突きを放ち、貫く。
「このっおぉ!」
振り下ろされる銃剣を斜めに構えた刀身で受け流し、流した勢いを利用して刀の向きを変えて胴体を真っ二つに切り裂く。飛んでくる銃弾は空間の存在結果を捻じ曲げて無理やりに逸らす。
「...これが吸血鬼? 脆いな。脆すぎる。あんまりだ。あんまりにお粗末だ。吸血鬼を馬鹿にしてるのかお前ら」
一発やられてハイ終り。これじゃあそこらの毛玉と同じだ。夜雀のほうがまだ強い。仮にも鬼とついているのだから、もう少し強くあれ。
「舐めるな人間!」
「遅いな」
霊力を固めた拳で顔面にカウンターを入れる。伝わってきたのは肉を打つ感触ではなく、骨を砕く感触。そしてそのまま霊力を炸裂させる。
「これで終わりか? ん? ほら、どうした、かかってこいよ。出来損ないの吸血鬼もどき」
刀を地面に突き刺して挑発する。
『う、うおおおぉぉぉぉぉ!!!』
「馬鹿が...領域『終焉の地』」
能力を使い、周囲十メートル以内に居る全ての物の生という過程を消し去り、死という結果を直接叩きつける。今ので三十は死んだか。
「は、ハハ、ハハハハハハ......化け物め」
乾いた笑いを浮かべる吸血鬼もどき。
「失礼な奴だな。俺は人間だ」
地面に突き刺したムラクモを引き抜き、それで最後まで残った奴の首を撥ねる。
「藤原、終わったぞ」
「乙~。にしても、どっちが化け物だかわかったもんじゃねえな」
「まあ、自覚はある」
少なくとも、俺が少し異常な性格の持ち主だということは自分でもわかっている。自分のことは自分が一番よく知っているしな。
「だがまあ、そうでなければ幻想郷じゃやっていけない」
幻想郷では常識を持っていても、それが通じる場所ではない。俺みたいな性格破綻者でもない限り、外の世界の人間は住めないだろう。
「それもそうだな。ところでさ、わざわざ地面を歩く必要があるのか?」
「空に出て砲火を受けたいなら飛べばいいだろ」
なんでわざわざ危険に身を曝すようなことをしないといけない。
「...怖いのでやめておきます」
「それに、歩きながらのほうが生存者の発見が簡単だ」
歩きながら次々と目に入った生存者達をスキマに落としていく。いわゆる神隠しだ。落とす場所は郊外の森の中。そこなら吸血鬼もいないだろう。
「空を飛んでるヘリさえ居なければ、街の中心まで飛べるんだがな...」
「落とすか?」
藤原の提案。走りながらその提案を実行した場合の状況を頭の中で組み立ててみる。
ヘリを攻撃して落とす。俺たちの居場所がより多くの敵にばれる。集中砲火を受けて逃げ切れず、霊力切れで死亡。
「却下だな」
ここで死んだら確実に映姫様に説教されて地獄いきだ。それ以前に式も挙げてないのに死ねるか。
「むぅ...なかなかいいアイディアだと思ったんだけどな」
「まあ、海か川に飛び込めば俺たちの勝ちだ。吸血鬼は流れる水に入れないし、深く潜れば弾も届かん」
呼吸は魔法を使えばなんとかなる。今は逃げなければ...死ぬ。しばらく通りを全力で走り、吸血鬼を撃退しながら川へと向かう。
「っつ! あ、ありゃなんだ!?」
川のすぐ近くまでたどり着き、川の真ん中に浮かぶ船。恐らくは...空母。甲板に飛行機の突き刺さった空母だったものが川をさかのぼっていた。
「空母...だな。アーカードもあそこに居る」
一人甲板にたたずんでいるのが見える。あちらも気づいたようで、飛び降りてこちらに近寄ってきた。
「久しいな」
俺としては会いたかったような会いたくなかったような...だが、こいつが居ればすぐにでも終わるだろう。
「吸血鬼、何がどうなってるかきっちり説明してもらおうか。あのヘリと吸血鬼もどきの集団は一体なんだ。教えろ」
「ヘリのほうは第九次十字軍。吸血鬼のほうはナチスの生き残りの戦争好きの狂った集団だ。では、主が呼んでいる。そろそろ行かせてもらおう。ついてくるか?」
手を差し伸べてくるが、その手を掴むようなことはしない。
「是非、遠慮させてもらおう。俺もまだ死にたくはない。藤原はどうする?」
「アホ。行くわけねーだろ」
「私もいやだよ~」
藤原の背中で眠っているはずの涼子が返事をした。
「まあ、そういうことだ。一人で頑張ってきてくれ」
「そうか」
さっさと川に飛び込もうとすると、腕を掴まれて止められた。
「一人ではつまらん。お前も来い」
「おい、冗談だろ...」
サーっと血の気が引いていくのがわかる。
「冗談ではない」
俺をあの戦火のど真ん中へ連れて行く気か!? いくらなんでもそれは勘弁してくれ!!
「っ!」
ムラクモで腕を切り落とそうとするが、狗の牙に挟まれて止められた。
「さあ、戦争だ!」
そのまま、俺の腕を掴んだまま跳躍し、戦争をしている最中のところへ乱入していった。
「俺を巻き込むな!!」
空中で腕を切り落とし、自分の腕を解放して空を飛ぶ。眼下に広がるのは、白衣の軍団と黒衣の吸血鬼の軍団。その中へアーカードは落ちていった。
「な、なんだ!? 人が空を飛んでるぞ!!」
「悪魔の使いだ! 撃ち落せ!!」
...ヘリに見つかったか。機銃の弾幕が襲い掛かるが、全部結界を張って弾く。
「全部落とすとなると、きついな」
仕方ない。降りよう。戦火のど真ん中だが、幸い注意はアーカードに向いてる。建物に隠れればやり過ごせるはずだ。
「閃符『スタングレネード』」
結界を張りつつ閃光で目くらまし。そのままさっさと地面へ落ちるように着地するが...少し場所がずれたようでアーカードのすぐ近くに...
「なんだ、お前も戦争がしたいんじゃないか」
「お前と一緒にするな吸血鬼」
だが、これだけ注目を集めれば...無関係とはいえないな。
「っなんだ!?」
黄色に輝く紙のページが飛び交い、一箇所に集まってそこから人が現れた。...確か、博物館で藤原を襲った銃剣神父。
「ハアァァァァァァ...久しぶりだなぁ異教徒、化け物」
もとい狂信者。と、後ろでアスファルトを割りながら着地してきた人ではない何か。外の世界に現存する幻想。三つ巴ならぬ、四つ巴か。
「......逃げていいか? もともと俺は関係ないはずだ」
流石に、これだけを相手にはできない。
「逃げられるのなら逃げるといい」
「無理だな」
完全に注意が俺にも向いている。この状況で一人にも認知されずに逃げるのは、いくら俺の能力を使っても不可能だろう。
「あるじよ!!」
「!?」
突然叫びだしたアーカードに思わず身構える。
「我が主よ!! 我が主人インテグラヘルシングよ!! 命令を!!」
どうやら、インテグラさんが近くに居るらしい。
「我が下僕、吸血鬼アーカードよ!! 命令する!!」
近くの民家の上に立つインテグラさんを発見する。婦警さんも一緒に居るようだ。
「白衣の軍には白銀の銃を以って朱に染めよ。黒衣の軍には黒鉄の銃を以って朱に染めよ。一木一草尽く我らの敵を赤色に染め上げよ。見敵必殺! 見敵必殺!!」
......まさかとは思うが、俺たちが居ることを忘れてはいないだろうか。
「総滅せよ。彼らをこの島から生かして帰すな」
どうやら忘れられているようだ。それとも、すでに死んでいるとでも思ったのだろうか。だとしたら...
「拘束制御術式零号 開放」
「了解 認識した。我が主」
ひどい冗談だ。
TO BE CONTINUED
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大英帝国王立国教騎士団
残存兵力 3名
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残存兵力3名(内一名非戦闘員)
最後の大隊の総戦力が減っているのは、藤原と主人公がぶちのめしたからです。