祝! 犬の餌!
ずっと主人公(原作、訪問録)のターンです。上手く書けてるといいんですが...
英国訪問録 五話
side Toya
「しかし、ここは涼しくていいな」
あの後何らかの封印らしきものを解いて襲い掛かってきたアーカードを、強化型対吸血鬼結界を張って閉じ込めておいて、のんびりと涼んでいる。上の階の冷房の効いた部屋よりも、こういう自然な涼しさは心地よい。
「確かにここは涼しいが...少年よ、老人を閉じ込めるとは一体何事だ」
...少女の外観で老人と言ってもなぁ...紫が聞いたら白木の杭を心臓に刺されて銀の十字架に磔にされて鎖で縛られてマリアナ海溝に沈められるぞ。
「自業自得だ。しばらく反省してろ化け物」
水の魔法で沈めてやりたいところだが、今はこいつの拘束に全霊力を注いでいるので攻撃は不可能。霊夢の数倍はあると言われた霊力ですらこいつを拘束するので精一杯。こいつの化け物具合を改めて痛感させられる。
「っ!?」
しばらく涼んでいると、急に大きな振動が館を襲った。空気の振動もあるため、地震ではないだろう。
「何だ?」
こういった振動は、決まって誰かによって何かが破壊されたときに起こるものだ。魔理沙が門や壁を破壊して突入してくるときにも似たような振動が起きる。
「襲撃か...どこの馬鹿かは知らんが、この王立国教騎士団に喧嘩を売ろうという奴だろう。全く、酔狂な奴らも居たものだ」
後ろから声がしたので振り向く。そこには、
「アーカード...」
「どうした? 私がここに居るのがそんなに不思議か?」
おかしい。だったら、俺が結界で封じ込めたほうのアーカードはなんだというんだ?
「手をよく見ろ」
「手?」
言われたとおりに結界で封じてあるほうの吸血鬼の手を見る。
「手袋がない? まさか、分身か?」
フランの『フォーオブアカインド』でも分身はしているし、同じ吸血鬼ならできてもおかしくはない。
「少し身体を切り分けただけだ。驚くほどのことでもないだろう」
意味がないと判断して符を破って結界を解除する。すると、結界で封じていた少女の姿をしていたアーカードがドロドロに溶けて俺の後ろに立っている方のアーカードの足から吸い込まれていった。
「なあ化け物」
「どうした」
「少し気分が悪くなった。友人も連れて帰らせてもらう」
スキマを開いて逃げようとするも、身体が入りきる前に腕を掴まれて引き戻される。解除するんじゃなかったと、今更後悔するが、もう遅い。
「日本人は祭り好きではなかったのか?」
襲撃を祭りと称するとは、さすが化け物。俺達とは感性が違うのだろう。
「偏見だ」
涼子や藤原はともかく、俺はお祭り騒ぎがそれほど好きなわけではない。騒がしいのは苦手だ。
「ともかく、帰らせろ化け物」
「そう言われると帰したくなくなるのが人の性というものだろう」
「人じゃなくて化け物の間違いじゃないのか?」
こうなったら、スペルカードで...
「吸血鬼アーカード。いるのだろう? 出て来い!」
地下室の入り口の方から声が聞こえてきた。若い男の声だ。
「姿はかくせても貴様の強力な『気』が地下階から立ち上ってくる」
...なんで俺はいつもこう面倒ごとに巻き込まれる。俺は能力を持っているだけの人間で、ちょっと異常な学生だぞ? なのになんで留学しに来てまで事件に巻き込まれる。
ギリギリと歯を食いしばってやり場のない怒りを押さえ込む。
「客をもてなしに行かなくていいのか?」
本心を隠しつつ俺の腕を掴む吸血鬼に質問する。
「ククク...そうだな。行ってやるか」
俺の手を掴んだまま、そのまま引きずって声の主の居る方向へ連れて行く。
「放せ」
銀のナイフを突き立てる。が、まったく放そうとしない。それどころか逆にさらに力を込めて放さないようにしてきた。
「それでは面白くないだろう」
「面白くなくていいから放せ」
「断る」
.....ここが幻想郷なら思う存分に能力を使ってこいつをマリアナ海溝に沈めることもできたのに。しかも留学に来ただけなのになんでこんなことに巻き込まれる!
「どこだ!」
「ここだ」
しばらく引きずられてようやく声の主が見えてきた。白いスーツを着込んだ白人男性。
「姿は隠せても? 私は逃げも隠れもしない。現にこうして貴様の前に姿を現したではないか」
「どうでもいいからいい加減に腕を放せ」
今度はレーヴァテインで容赦なく腕を焼き切る。だが、掴まれた腕はそのまま放さずに、逆に肉に食い込むほど力を込めてくる。
「......なんだその人間は」
「おもしr「留学に来ただけなのに事件に巻き込まれたただの日本の学生だ」
レーヴァテインを消して腕を掴んでいる手を力ずくで引き剥がす。
「...まあいい。貴様は勝利後の酒として残しておこう」
人を酒扱いか。まさか、こいつも吸血鬼か? 妖気も感じないし、特殊な能力を持っているようにも見えない。やけに弱そうな吸血鬼だな。
「ククク...仮に貴様が私に勝てたとしても、こいつには勝てんさ」
「? どういう意味だ」
さっさとスキマに入ってこの場から逃げ出す。吸血鬼どうしの争いに巻き込まれるなんてB級映画でもなさそうな展開など俺は望んでいない。
「っと、間違えたか」
座標の指定を少し間違えたので急遽元に戻す。
「ッグ!」
出る場所を間違えて白い吸血鬼の頭を踏みつけてしまった。
「貴様!」
銃を抜かれるが、それよりも早く強度のみを追求した結界を発動して閉じこもる。そして、銃弾が結界に阻まれて地面に落ちる。
「殺し合いなら二人で好きなだけやってくれ。俺を巻き込むなアーカード」
結界に符を貼り付けてさらに強化しておく。本気になった妖怪の攻撃の苛烈さはよく知っている。リボンを外したルーミア、向日葵畑から離れた場所で遭遇する幽香などがいい例だ。
「まあそう言うな」
拳銃の弾一発で結界が破壊される。強化した結界を一発で壊す?
「老人を酷使しちゃいかん。若者同士好きなだけやりあいたまえ」
「......」
ああ、叶うことなら今すぐにこいつを大西洋のど真ん中に放り出してやりたい。このふざけた吸血鬼を退治してやりたい。だが、それも外の世界で能力の使用に限界がある状態では叶わない。
「不幸だ...」
実に不幸だ。この仕舞おうにもしまえない怒りの矛をどこへ向ければいい。
「式はどこぞの馬鹿のせいで延期。家での時間は無理やり奪われた。我慢して留学に来れば吸血鬼の闘争に巻き込まれる...」
このやり場のない怒りをどこへ向ければいい? 正当な理由をつけて八つ当たりする相手が居ない。理不尽なのは俺の性格に合わない。
「アーカードとの戦いの前に、貴様を食前の酒として頂こうじゃないか」
この怒りをぶつける相手がちょうど目の前に居るじゃないか。俺の命を奪おうとしている相手が居るじゃないか。思う存分反撃して、思う存分怒りを発散するいいサンドバッグが目の前に。
「幻影『夜霧の殺人鬼』」
口元を大きく歪めて能力を発動。銀製のナイフで弾幕を構築。そのまま一気に射出する。
「っは! この程度で私が捉えられると思っているのか?」
迫り来るナイフの弾幕を簡単に避ける吸血鬼。当たれよ。
「もらったア!「結界、禁忌『レーヴァテイン』」
一気に近寄ってきて首に喰らい付こうとしている吸血鬼に、怒りの感情のままに能力を使う。首周りにピンポイントに結界を張り、牙を防ぐ。さらにフランのスペルカードを複写し、ここに存在するという結果を創造して全力で振るう。
「何!?」
ゼロ距離での使用だったのだが、不完全なレーヴァテインはスーツを焦がし、地下階を火の海にするだけで終わった。
「Dust to Dust,Ash to Ash.大人しく塵は塵に、灰は灰に還ってくれ。そして俺の平穏を返してくれ」
レーヴァテインを消し去り、次のスペルカードを構築する。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
「ッグアァ!!」
できそこないのレミリアの槍を同じように創造して、投擲。神速で迫るそれも腕を一本持っていき、通路を破壊して退路を遮断するだけで終わった。
「クソッ! クソォッ!!」
銃口がこちらに向く。
「無駄だ。『お前に俺は殺せない』」
銃を乱射してくるが、迫ってくる弾丸は当たっていないという結果に阻まれて砕け散る。
「なあ、俺の平穏な時間はどこへ行った? どこへ隠した?」
ただの八つ当たりだということはわかっている。全ては後ろで気味の悪い笑みを浮かべている吸血鬼のせいで、こいつはただ運の悪いことに最高に機嫌の悪い俺の目の前に居たということだけで八つ当たりの対象となったのもわかっている。ああ、これはただの理由の付いただけの八つ当たりだ。
「ふ、ふざけるなよ...この私が! 今までの即席とは違う、アーカードを超える存在であるこの私が貴様のような人間に!!」
「黙れよ小物」
霊撃を与えて吹き飛ばす。虫の居所が悪いとはまさにこのことだろう。
「お前からは大した妖気も感じない。特殊な能力も持っていない。まだ尻尾もとれてない、毒も持っていないカエルが大蛇に勝てるわけがないだろ」
他人から見た俺の表情は一体何なのだろうか。喜怒哀楽のどれなのだろう。自分でもわからないほどイライラしている。自分の器すらもわかっていない、相手の実力すらも見極められない愚者への怒りか、それとも日ごろの溜まりに溜まったストレスのせいかは知らない。
「ふむ、私よりも化け物臭いのは何故だろうか」
「黙れ化け物」
ナイフを額に直撃させて黙らせる。
「ふざけるな...ふざけるなよ...吸血鬼であるこの私が、貴様のようなガキに怯えるだと? フザケルナアアァァァァァァァ!!!!」
突如叫び声をあげながら突進してくる吸血鬼。フランのタックルと同じくらいのスピードだろう。だが、視認できるスピードならカウンターを入れる余裕は十分にある。
「次元の刃」
回避することも防御することも出来ない攻撃。過程を省き、結果のみを残す、スペルカードルールにおいては禁じ手の一撃必殺。外の世界に居るせいで能力に制限がかかって、普段の半分以下の効果しか発揮できないが、これで十分。突き出された右腕と両足に線が走り、綺麗に切断された。
「っぐぁ!!」
「どうした? まだ腕が一本と足が二本切れただけだぞ? 銃を拾って立ち上がれ」
銀製の武器で傷つけたわけでもなく、切れた結果で固定してあるわけでもない。この程度なら吸血鬼であれば再生するはずだ。
「吸血鬼の端くれならその程度できて当たり前だろう。もしかして、できんのか?」
後ろからアーカードの声がする。ああ、確かにその通りだ。銀や退魔、神性を纏った武器ならば再生は不可能だが、それ以外ならばいくらでも...というわけではないが、妖力の続く限りは再生できる。
「っこ、この化け物共!」
「俺は人間だから違うな」
化け物ではない。化け物の知り合いなら多数いるが、俺はまだ人間だ。
「はぁ...失望した。出来損ないのくだらない生き物め」
背筋のぞっとする声。無数のムカデが地面を這って、目が体中にある巨大な狗に睨まれているかのような感覚。
「ほざくな! 下らない人間とヘルシングのオモチャめ!!」
下らない、か。まあ確かに人間は脆いな。ナイフ一本で殺せるほど脆いから、命として下の下だな。
「で? それがどうした」
見下しながら尋ねる。罵倒したからといってなにか状況が変わるわけでもない。呪詛の類なら耐性がある。
「英国国教会の犬になり下がった貴様に吸血鬼としての「五月蝿い!!」
今の声は...確実に怒ったな。
「そんな下らない人間にすら負けたお前は、狗の肉がふさわしい。一歩だけ左に避けろ、少年」
言われたとおりに左へ一歩避けると、黒い狗のような物体が両脇を通り過ぎていった。避けなければ、食われていたな。
「うううおあああぁぁぁぁあああぁぁあ!」
その黒い物体にひたすら銃を撃つが...多分無駄だろう。銃で撃退できるような代物じゃない。
「おオ゛ごっ、げア」
あまりのおぞましさに思わず目を逸らす。その狗のような物体に頭から噛み砕かれる音と、意味のない声が耳に入ってくる。いや、もはや声ですらないか。断末魔だな。
「しょせんこんな物か、小僧。おまえはまるでクソのような男だ。犬のクソになってしまえ」
吐き捨てるように呟いた後、後ろを向いて、どこからか出てきた椅子に座った。そしてしばらくは肉と骨を咀嚼する不快な音のみが地下階に響いた。
「この調子では上の奴も程が知れるが......存外に苦戦しているようじゃあないか」
上の奴も?
「おい、まさか上にも居るのか?」
「居るぞ。大量のグールを従えた雑魚が一匹。今婦警とウォルターが応戦中だ」
...一応結界符は渡してあるが、大丈夫だろうか...