250万pv突破記念ということで、少し番外編の長編を書いてみようと思いました。
○○にはとある国名が入ります。
250万PV突破記念 番外 ○○訪問録 一話
side Toya
「ねー黒やん」
俺の隣を歩く涼子が、何かを食べながら話しかけてくる。
「フィッシュアンドチップスって、意外と美味しいね。寿司には負けるけど」
「...知るか」
勘のいい人はお気づきかもしれないが、ここはイギリスの首都、ロンドン。何で俺がこんなところに来ているのかというと、学校の夏季短期留学という企画のせいだ。今年は誰も志願者が居なかったため、英語の成績上位三人が選ばれ、強制的に行かされることになったからだ。俺は家計的な理由から断ろうとしたのだが、辻組の援助により一円も支払わずに済むことになり、そのまま飛行機に押し込まれて居間ここにいたる。はぁ...紫達と一月も会えないとは、辛すぎる。
「まあまあ、そう言うなって黒羽。イギリス留学なんてなかなかできるもんじゃないぞ?」
藤原は楽しそうに言うが、今の俺には留学なんてどうでもいい。ただ家に帰りたい。ひたすらに家に帰りたい。
「人生は楽しんだもの勝ちだよ。黒やん」
「そうそう。お前はただでさえ勝ち組なんだから、もっと楽しむ権利はあると思うぞ?」
俺にとっての至上の楽しみは、家か幻想郷で皆と他愛もない話をしてゆっくりとした時間をすごすことだ。それに勝る楽しみはない。はぁ...碌に説明もせずに出てきたから、心配してないかどうか......
「ああ、お前の心配なら多分不要だぞ。俺がゆかりんに説明してある」
軽い口調で言う藤原。だが、俺はこいつが紫に説明しているところなど見ていない。一体いつ説明した。
「飛行機に乗り込む少し前にちょっとな」
「それでよく紫が納得したな」
軽く説明する程度であの紫が納得するとは思えない。一体どんな手品を使った。
「それについては私が説明するよ」
フィッシュアンドチップスを食べ終わって口元を拭った涼子が話に割り込んできた。
「辻組が法に触れるか触れないかギリギリの薬も扱ってるのは黒やんも知ってるよね」
「ああ」
こいつの家はかなり大きな極道で、薬も扱っていることは知っている。まさか......
「そ・こ・で、お父さんに頼んで強力な精力剤と媚薬を仕入れてもらったの」
「やっぱりか」
どこからともなく取り出したハリセンで頭を引っぱたく。イタズラも程々にしておかないと、いくら俺でも怒るぞ。
「ああ、忘れるところだった。ゆかりんからの伝言、『ゆっくりしていってね』だとさ。愛されてるな~」
「羨ましいよね~」
「羨ましいよな~」
...なぜかは知らないが、ものすごくこの二人をボコボコに殴りたくなってきた。なぜかはわからない。
「!?」
そんな事を考えていると、急にどこからか嘗め回されるような、非常に不快な視線を感じた。
「黒羽」「黒やん」
「ああ、わかってる。外の世界にも力のある魑魅魍魎の類は居ることをすっかり忘れてた」
レミリア、フランの両親がいい例だ。あの二人は恐ろしいほどの力を持った、かなり古株の妖怪だ。あれほどのは珍しいが、あくまで珍しいだけ。他にも居ても何もおかしくはない。
「涼子、『見』えるか?」
この中で探知の真似ができるのは涼子だけ。この人ごみの中では、人を『色』で見分けることができる涼子が最も適任だ。
「...み、『見』えるけど...あれはマズイよ...マジでヤバイ...有り得ない数の『赤』混ざり合って『紅』になってる...」
「俺にも、こっちを見てるのがとんでもない規格外だってことはわかる...」
藤原と涼子がひどく怯えている。確かにかなり強い相手だというのはわかる。
「誰だかわかるか」
「む、向こうに居る赤いコートにサングラスの...」
涼子の指差したほうを見て、赤いコートにサングラスをかけた人物を探す。人ごみの中なので見つけるのは困難かと思ったが、かなり簡単に見つかった。しかも目が合った。
「少し話をしてくる。先にホテルに行っててくれ」
「正気か黒羽!」
「危なくなるようなことはないはずだ。化け物が活動するのは決まって夜だからな」
藤原の心配はもっともだが、俺は危なくなるようなことをするつもりはない。人ごみの中を通って赤いコートにサングラスをかけた相手の下へ向かう。
「こんにちは」
噴水のベンチに座っている男の真正面まで歩いていき、こちらから声をかける。
「私になにか用かな? 少年」
男の口元がゆがむ。それほど自分に話しかけてくる存在が珍しいのだろうか。
「さっきから俺達を観察しているが、一体何の用だ?俺達はごく普通の留学生で、あんたらみたいなのに目をつけられるような理由はないはずだ」
まあ、少なくとも普通ではないが、良識を持った民間人ではある。
「クックック...普通、普通か。これは言いえて妙だ。貴様らのような『普通』が一体何処に居る?」
「どこにも居ないな。だが、俺達はあくまで一般の留学生だ。問題を起こすつもりはない」
目の前の存在の大きさは、はっきり言って異常だ。俺が全力で戦っても勝てるかどうかわからない。負けるかもしれない。
「その保証はあるのか?」
「無いな。だが、友人が怯えてるからやめてくれ。デイウォーカーなら人間の二人や三人程度気にかけることもないだろ」
近くまで寄ってわかった濃厚な血の臭いと、涼子の『色』による判断。昼を歩く吸血鬼はかなり稀少で、力のある証拠だ。そしてこいつは、そんな吸血鬼の中でもさらに規格外ということがもう感覚でわかる。
「ああそうだ。ただの人間ならば私が気にかけることもないだろう」
さらに笑みを深くする吸血鬼。どうやら地雷を踏んだようだ。
「だが、面白い人間なら別だ。おかしな眼を持つ女に混じり物の男、そして私の同類の臭いがする貴様。十分に興味を持つに値する」
......流石は吸血鬼。隠している臭いでも嗅ぎ分けるか。
「その興味をそのままゴミ箱かドブに捨ててくれ。無理なら献血程度の血液ならやるから見逃してくれ」
こんな化け物以上の化け物に興味を持たれてもうれしいわけがない。むしろ恐ろしくて寿命が縮む。
「ほう、なかなか面白いことを言うじゃないか。自分から血を貰ってくれとは」
少量の血液で満足して消えてくれるならそれに越したことはない。それでこの化け物から逃げれるのなら安いものだ。
「だが断る」
「なぜだ」
レミリアやフランなら嬉々として飛びつくのに。飛びついてきたところをスキマ送りにしてやろうと思っていたのに。
「勝手に外食をして主人の機嫌を損ねるのは嫌なのでな。馳走が目の前にあるというのに手を出せないというのは、なかなかに心苦しい」
「......」
ここまで吸血鬼を飼いならすとは...こいつの主人の顔を拝んでみたいものだ。
「では、挨拶はこの程度にして、今日のところは帰らせてもらう。また会おう、少年」
「ちょっと待て」
背を向けて立ち去ろうとする吸血鬼を呼び止める。
「トウヤ・クロハネ、日本人だ。少年と呼ばれてあまりいい気はしない」
「ククク...そうか」
吸血鬼が消えたのを見届けてから、俺も学校の手配したホテルへと歩き始める。初日からこんなので、一月もやっていけるかどうか心配になってきた。
side out
side Hujiwara
ホテルにチェックインし、今夜泊まる部屋で涼子と共に黒羽の到着を待っている。
「......黒羽が生きて帰ってくるかどうか心配だ」
一目見ただけでわかった。アレは本物の化け物だと。アレがその気になれば小さな国であれば一発で滅亡させることができる。そんな気配がした。それに対して真正面から挨拶しに行く黒羽は、間違いなく人類至上最強の度胸を持った存在だと思う。
「危なくなるようなことはしないって黒やん言ってたし、大丈夫だと思うよ」
黒羽がそうでも、相手は化け物だしなぁ...俺らとは価値観そのものが違うから、襲われるかもしれん。
「大丈夫だって。いざとなったらスキマで逃げるはずだからさ」
「それもそうだな。あいつが死ぬところを想像できない」
ケラケラと笑いあう。きっと何事もなく戻ってくるはずだ。
「逃げてはないが、とりあえず挨拶は済ませてきた」
「おぉう!?」
いきなり現れた黒羽に驚き、腰掛けていたベッドから転がり落ちる。
「乙。で、どうだった?」
驚くことなく涼子が首尾を尋ねる。
「よく飼いならされたデイウォーカーだった。また会おうと言ってたから、絶対にまた会うことになる」
「「mjd!?」」
「ああ、本当だ」
全俺が泣いた! あんな化け物とまた会うだなんて、それなんてイジメ?
「黒羽~...退治してきてくれよ~」
幻想郷でも最強の能力を持つ黒羽なら、きっとやってくれるはず。頑張れ黒羽! 俺の胃の健康はお前にかかっている!
「無理だ。死ぬ」
「絶望した! いつもとは違う弱気な黒羽に絶望した!!」
お前にできないことなんてあんまりないんだろ!? なのになんで吸血鬼の一体程度退治できないんだよ!
「それ以前に退治するつもりもない。実害もないのに退治する理由がないだろう」
「実害ならあるじゃないか! 俺の胃に負担がかかる」
重大な問題だ。胃に穴が開けば腹膜炎になる可能性がある。
「胃薬飲んで我慢しろ」
なんという非情さ。親友の胃の安全を守ってやろうとは思わないのか!?
「俺だって命は惜しい。どうしてもっていうなら自分で逝って退治してこい」
「ちょ! 字が違う!」
「微妙に合ってるよ」
涼子まで! 俺に味方は居ないのか!?
「死にたいなら逝ってらっしゃい。私は遠くから散り際を見ててあげる」
「お前の焼き鳥が食えなくなるのは残念だ」
「いやいやいやいや、なんで行くこと前提になってんの!? 俺行かねえし!」
黒羽でも勝てない化け物に俺が勝てるわけないだろ! 何考えてやがる!
「ドアは開いたらすぐに閉めろよ」
「行かねえよ馬鹿!」
枕を投げつけるがあっさりと避けられる。こういうときには当たるのがお約束だろ。
「半分以上は人間じゃないんだから胃に穴が開くことなんてないと思うんだけど」
「精神的には人間だ!」
涼子よ、お前はいつそんなに非情になったんだ!? そして俺の胃の健康はどうなるんだ!?
side out