今回は藤原メインで、最後に主人公とおぜうさまのイチャイチャがあります。
焼き鳥屋とスキマ妖怪
side Hujiwara
「ん?」
スキマが開くとき特有の音を聞き、宿題の手をいったん止めて一息つく。
「刀弥がこの時間に来るとは思えん。ゆかりんか?」
あいつが来るのは大体昼から夕方。今の時間は宵を過ぎてもう夜中と言ってもいい時間帯。そしてスキマを使える奴はゆかりんと刀弥以外にはいない。となると残ったのはゆかりんのみだ。
「ご名答ですわ」
スキマから身を乗り出してきたのは、やはりゆかりん。はぁ...やっぱり胡散臭いな。存在するだけで胡散臭い。嫌いなわけではないのだが、好きになれるかと言われればそうでもない。
「帰ってくれ、と言っても帰るわけないだろうし...それで、今日はいったいどんな御用で?」
どうせまた碌でもない用事なのだろう。想像するのは非常に簡単だ。
「閻魔に喧嘩を売ってきてほしいの」
...冗談だな。冗談に決まってる。
「冗談に聞こえる冗談ってのはなかなか珍しいな」
冗談でもよしてほしいが、冗談だから許せる。あと美人ゆえに。
「ええ、もちろん冗談ですわ。本当の用事はまた別よ」
だよなあ。その別の用事ってのもなんかめんどくさそうだけど。
「幻想郷の子を数人ほど預かってほしいの」
「ざけんなババア」
考えるよりも早く口が動いてしまい、一瞬。一瞬で血液が液体窒素に変わり、背骨がドライアイスに変わったような錯覚を受け、この上なく寒いはずなのに真夏に暖炉に当たっているかのように汗が止まらない。歯がガチガチと鳴る。膝の震えが止まらず、まともに立っていられずにその場にへたり込む。失神しないのが不思議なほどだ。
やばい、殺される...。本気でそう思った。
「いつもなら地獄を見せてあげるところだけど、今日は許してあげるわ。今夜はこんなにもいい月ですもの。血で染め上げるのは無粋よ」
先ほどの威圧が消え去り、錯覚も消える。はぁ...寿命が縮まるってのはまさにこのことだ。
「まあ、今の一言であなたの拒否権は消えたわ」
「拒否権あったんだ」
なんだ、損した。いや、あの一言を言った時点で死ななかったのは儲けものか。
「いきなり預かれなんて言っても何にもわからないでしょうから、軽く事情の説明はさせていただきますわ。一度しか言わないからよくお聞きなさい」
少女(年齢不詳)説明中......
色々と説明されてわかったこと。ゆかりん含め四人の幻想の住民がこちらに居ても、博麗大結界に影響が出なかったため、実験のためにあちらの住民を連れてくるという話。実験によって結界の揺らぎを計測し、そのデータを元に今後の不慮の事態に備えるとのこと。
「事情は大体わかった。だがな、なんで我が家である必要があるんだ」
我が家は一般的などこにでもある核家族で、親父とお袋と俺の三人家族だ。俺は半分ほど常識の外側の存在になってるが、半分はまだ常識の内で、両親は完璧な常識人だ。幻想を受け入れられるほどの余裕はない。
「だから言ったでしょう?実験だって。実験は研究者が観測者となって初めて実験として成立するの」
意味がわからん。本気で意味がわからん。だからといってなんで俺なんだ。他にも涼子とか隆二とかいるだろうに。
「前者はジャパニーズマフィアだからあまりにも家族の規模が大きい。後者は彼女たちの貞操の問題よ」
「いや、だからなんで俺? 黒羽の家でよくね?」
あいつの家なら何一つ不自由することはないだろうし、手元に置いて観測できる。なのになんで俺の家なんだ?
「あら、私たちの蜜月を壊そうだなんていい度胸してるじゃない」
結界を張って膨大な妖力を放って威嚇してくるが、ゆうかりんのせいで強制的に慣らされている俺にはあまり意味がない。霊夢とか魔理沙とか以外の人間なら卒倒ものだろうが、この身は神と妖怪と人の要素が組み合わさっている非常識の塊。妖気にあてられて気絶することはない。
「俺の平凡で平穏で静かな生活をぶち壊しといてよく言うじゃねえか」
ならばこちらもと妖力と神力を放って反抗する。
「やる気?」
一層笑みを深くするゆかりん。だが、こちらも平穏な日常がかかっている。引き下がるわけにはいかない。
「モチ」
「では、その度胸に免じて...少し遊ばせてもらいましょうか」
八雲紫が能力を使うのがわかる。それと同時にここら一帯が異様な空気に変化したのもわかる。
「半径一キロを幻想郷とほぼ同じ状態にしたわ。これで全力で暴れても私たちの存在がバレることはない。ボコボコにしてあげるわ」
......どうやら俺は禁断の地雷を踏んでしまったようだ。
「まあ、あんまり時間もないからいきなり行くわよ。紫奥義『弾幕結界』」
「上等だ。神妖混合『マスタースパーク』!!」
出力だけなら負けん!
以下残酷すぎるシーンが続いておりますので閲覧削除...
数十分後
そうしてちょっと力が使えるからと言っていい気になっていた時期が俺にもありました...
「すみません調子乗ってました...」
体中怪我のないところを探すのが大変なほどボコボコにされ、土下座の状態でさらに足蹴にされている俺がいる。
「あら、ちょっと前までの勢いはどうしたのかしら?」
頭を踏みつけられ、地面に頭をこすりつけている状態での土下座。プライド? そんなものはとうの昔に捨てた。今は一刻も早くこの状態から解放されたい。
「それじゃあ、明日連れて来るからお願いね?」
「ハイ...」
もう嫌だ...俺に平穏な日常というものは存在しないのか...それとも、今更求めるのが間違ってるのか? 誰か教えてくれ~...
side out
side Toya
「...レミリア」
「ええ、わかってるわ。八雲紫が能力を使った」
まったく、何をしたのかは知らないが、外で暴れないでほしい。あいつのことだからほぼ無いとは言えるが、それでも可能性はゼロではない。
「心配するこっちの身にもなってほしいものだ」
そう呟きながら夜空の月を見上げる。今夜は満月なのでレミリアに月見酒につきあわされている。俺が飲んでるのは水だが。
「私としては、アイツが消えてくれた方があなたを独り占めできる時間が増えるからいいんだけどね」
「そう言うな。俺はみんな平等に扱ってるだろ?」
そう呟くレミリアに苦笑いで返す。俺は皆に一人でも消えてほしくない。欠けてほしくない。それはいつも言っていることだ。
「でもね? 平等に扱われているからこそ、特別になりたいっていう気持ちもあるの」
「悪いが、我慢してくれとしか言えない。平等に扱わないと誰かが不満を感じる。そうなれば争いになる。争いになれば誰かが傷つく。傷つくのが俺だったらいいが、お前たちが傷つくのは我慢できない。もしそうなったら俺は消える」
今迄にも何度も言った事だが、何度でも言おう。
「そんな事は言わないで」
「言わせないでくれるのが一番いいんだが...!?」
言い切ると同時にキスで口を塞がれる。
「じゃあ、言わせないわ。口が塞がれば言えないでしょう?」
「...なるほど、確かにそうだ」
お返しにこちらからもキスをする。
「ん...はぁ...ねえ?」
頬を上気させてこちらを見つめて来るレミリアだが、今日は残念ながら相手をしてやることはできない。
「悪いな。今日は少し忙しいんだ」
こちらとしても誘いに乗りたいのはやまやまだが、今日は他に用事がある。
「...むぅ...」
「また明日。な?」
レミリアの小さな体を抱きしめ、そのまま頭を撫でてやる。
「...わかったわよ。じゃあ、明日。絶対よ?」
「ああ、もちろん。俺が約束を破ったことがあるか?」
「...無いわ」
「じゃあ、今夜はおやすみ」
屋根の上に立ち、そのまま窓から家の中へ入る。困ったことに今日は課題が非常にたくさんある。徹夜覚悟で臨まなければ終わらないほどに。それが非常に残念だ。学生ゆえの悩みといったところか。
side out