魔法使い来襲 焼き鳥屋は実験材料
side Toya
「おう、邪魔してるぜ」
「...おかしいな。俺は自分の家に帰ってきたはずだが...」
テストも終わり、自分の家に帰ってきたと思うと、白黒の魔女が幻想郷でもないのに俺の家でのんびりくつろいでいた。もう何が何だかわけがわからない。
「にしても、外の世界にはこんな美味いものがあっただなんてな。羨ましい限りだぜ」
勝手に人の家に上がりこんだのはまだ許せるとしよう。だがな、
「勝手に冷蔵庫をあさって勝手に物を食って...お前には恥というものが無いのか?」
「無いぜ」
無い胸を張って言い切る魔理沙。ダメだこいつ。早く何とかしないと...
「じゃなくて、せめて恥程度は持てよ...」
「いいじゃないか。ちょっとれーぞーこだっけ?それをあさって食っただけだろ。ケチケチすんなって」
「せめて家主の許可を得ろ」
ああ、頭が痛い...こいつには常識というものが無いのか。いや、魔法使いというだけで既に常識の外にいる奴だったな。
「まあいい。話を変えるぞ」
「おう。ところで、これもう少しくれないか?」
「...好きにしろ」
たかがチョコレートの一つや二つ程度。許してやれないほど器が小さいわけではない。
「んじゃ、遠慮なく」
また冷蔵庫へ歩き、中をあさってチョコを一枚取り出し、当たり前のようにそれをかじる魔理沙。少しくらいは抵抗を持って欲しい。そして遠慮というものを知れ。
「チョコと勝手にくつろいでいたことは一旦置いといて、だ」
「流石はあのスキマの夫だ。器が大きい」
「どうも。ところで、一つ聞きたいことがあるんだが」
魔理沙を真正面に見据えて畳の上に座布団を敷いて座る。
「どうやってここに来た。いや、どうやって『外』に出てきた」
返答次第では急いで幻想郷に行く必要がある。ありえなさそうな話だが、もしも博麗大結界を突破して出てきたのならこいつを幻想郷に叩き込んですぐに結界の修復を行わなければならない。
「簡単だ。スキマを通っただけ」
...は?
「すまん、もう一度頼む」
「耳が遠くなったのか?スキマを通っただけだ」
「どこの?」
「紅魔館のお前の部屋」
そういえば...紫が設置してたな。いつでも好きなときに会いに来れるように、と言って。
「閉じたはずだが」
「開いてたぜ」
いや、それはない。俺はこっちに戻るときにきっちりと能力を使って閉じた。開いているなどありえないことだ。
「確かに閉じたはずだが」
「確かに開いてたぜ」
「いいや、絶対に閉じた」
「絶対に開いてた。決して空間に歪みがあったから興味本位でマスパを撃ち込んだわけじゃないぜ」
...やっぱりか。
「まあ、いいだろう。それで、幻想郷の外に出た感想はどうだ?」
皮肉のつもりで言ってみる。こいつに皮肉が通用しないことなどもはや分かりきったことだが、こうでもしないと腹の虫が収まらない。隆二のような頑丈な奴なら全力でフッ飛ばしても大丈夫なのだが、こいつは一応人間。いや、隆二は変態だから別だ。
「空気がまずい」
「なら帰れ」
スキマがそこにあるという結果を作り出して開く。これを通れば幻想郷だ。
「幻想郷に繋がってる。そこを潜ればすぐに帰れる」
鞄から宿題を取り出して机に置き、問題集を広げる。どうでもいいことだが、宿題はやらなければ成績に大きく影響する。特待で進学する身としては成績が下がることはあまり喜ばしくないことだ。
「いや、空気がまずいってだけで食い物は美味いぜ」
「そういう感想は聞いてない」
先生が課題として提示した問題を見る。これさえ解ければもう教えることは何もないとのことだが...問題を読み上げてみる。
『3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせがない。これを証明せよ』
高校でやる分野じゃないだろ。
「ところで、何やってんだ?」
「勉強だ。あっちで言う寺子屋で出る宿題」
「お前その歳で寺子屋なんて行って恥ずかしくないのか?」
嘲笑を浮かべる魔理沙だが、こちらとあちらに文化レベルの差があることがわかってないのだから仕方ないだろう。
「あっちとは違って、初等部、中等部、高等部。その上に大学、さらにその上に大学院とあってな。中等部までは誰もが行く義務がある。んで、これは多分大学でやる分野だ。教科書貸してやるから読んでみろ。理解できたら褒めてやる」
本棚から教科書を引っ張り出して見せる。この問題に比べればまだ優しい範囲だ。
「...うげ...なんだこれ?呪文か?」
開いたページに書いてある問題は、平均変化率の問題。公式はxの変化量分のyの変化量。
「なあ、こんなの解けるのか?」
苦笑いしながら問題を指差す魔理沙。一泡食わせたというかなんというか。小馬鹿にした相手が提示した問題を解けないのはな。
「ちょっと待ってろ」
ノートのページを破り、そこへ解を書き込んでいく。能力を使ってしまえば一発で答えが出るのだが、それは明らかに反則だろう。答え(結果)を出してからそこへ至るまでの途中式(過程)を出すなどという反則技を使ってしまえば、世の中の受験生に嫉妬心で呪い殺されてしまう。なのできちんと公式に当てはめて解を導き出す。
「できたぞ」
「おお~...合ってるのか?」
「合ってる」
「で、どういうときに使うんだ?役に立つのか?」
「聞くな。世の学生が精神崩壊するだろう」
とりあえず、目の前の課題については反則技を使うことにする。能力を発動させ、答えをまず導き出し、そこに至るまでの過程をさかのぼる......
「...頭が...」
あまりの情報量の多さに頭が非常に痛くなる。割れるように痛い。まあ、それもそうだ。何百ページもある解を複数頭の中に直接叩き込まれたんだ。仕方ない。
「お、おい、大丈夫か?」
「...これが、大丈夫に見えるか?」
もしもそう見えるのなら即座に永遠亭に赴くべきだ。そして実験台にされてこい。
「というかお前はなんでまだここに居るんだ?」
頭の中に叩き込まれた情報をパソコンに打ち込みながら視線を魔理沙に向ける。とりあえずさっさと帰ってくれ。
「いいじゃないか。ちょっと位」
「強制送還」
今度は魔理沙の真下にスキマを開く。このまま外に居られても困るだけだ。
「あ~~れ~~~~!」
妙な悲鳴をあげてスキマに落ちる魔理沙。やれやれ、これで静かになった。...しかし、頭の中にあるのを全てPCに打ち込むのにどれだけかかることやら...
side out
side Hujiwara
はぁ...最近どんどん人外化が進行してるのが自分でも分かる。いや、自分の体だからこそわかる。別に悪いことがあるわけでもないのだが、自分の体がどんどん人間からかけ離れていくのを感じるのは少し悲しいものがある。
「あの薬ホントに効果あんのか?」
最近疑問に思っている。もしかしたら身体の構成要素が半分人間でとどまっているのは薬のおかげなのかもしれない。体の変化は効果の外?
「半分人間、四分の一神、四分の一妖怪なんて事例を見たのは永らく生きてきて初めてよ。人か妖怪か神か、はっきりしてくれればもう少し効果のある薬が作れるんだけど?」
ああもう、中途半端な存在で悪うございましたね。影じゃ東洋版キメラとかなんとか言われたりしてるけど、心は人間だ畜生。
「でもまあ、それはそれで面白いからいいのよ。生まれて初めてお目にかかる三つの要素が交わって稀有な存在。久々に面白そうなモルモッ...患者だからね」
「ちょっと今モルモットって言いかけましたよね!!」
「さあ?何のことかしら。わからないわね」
まるで自分がそのような事を言った覚えが無いというような堂々とした態度。流石は月の頭脳だ。演技も天才級といったところか。
「まあ、私のところに来ないというのも一つの手よ?」
「できるわけ無いじゃないですか...」
ヒデェ、絶対断れないとわかっている上での提案だろ。あえて選択できない選択肢を出すとか、マジでヒデェ。
「なら大人しく受け入れなさい。そうすればいくらか気は楽になるわ」
「...命にかかわるような実験は、流石にしませんよね?」
「さあ?どうかしら」
「頼むからやめてください!」
胡坐をかいた状態から一瞬で土下座する。プライドだろうとなんであろうと自分の命と比べれば、天秤にかけるまでもない。
「あら?」
土下座した勢いでシャツの胸ポケットから一枚のメモが畳に落ちた。
「ずいぶんと面白そうな問題ね」
「うぇ...」
確かあれには数学界史上最大の難問と呼ばれるフェルマーの最終定理が書いてあったはず。それを面白そうと言うのは、天才の余裕という奴だろう。
「暇つぶしにウドンゲに解かさせようかしら」
「そっちかよ!」
「こんな問題はもう二百年ほど前に解いたわ」
...えーりんさん、あんた一体何歳なんですか?
「女性に歳を聞くのはやめなさい。命を落とすわよ」
「え?」
ぶつならまだ分かるけど、命を落とすって...
「文字通りの意味。薬の実験台にされたくなければこれ以上年齢を聞くのは止しなさい」
「う~い...」
幻想郷の三老の一角なだけある。歳については黙秘か。
「慈悲無く、満遍なく、平等に抉るわよ?」
「キャラが違う!」
それ別作品!
「それは置いといて、腕を出しなさい。採血するから」
「...やたらと注射器がでかいような気がするのは気のせいでしょうか」
「200ccほどもらうわよ」
...500ccほど入りそうなのは俺の気のせいでしょうか。否、気のせいのはずが無い。献血に行ったことはあるが、あそこまででかい注射器は見たことが無い。
「覚悟を決めなさい。男の子でしょう?」
「草食系男子です」
「あら、山の神社の神様を食った癖によく言うわね」
「それとこれとは話が別だ!」
「ウフフ...面白そうなモルモットを目の前にすると、ついやっちゃうのよ」
あんたはどこの教祖様だ!と、相手を指差す。
「隙あり」
「ッツ!」
突き出した腕を掴まれてそのまま注射器を刺され、注射器の中に入っていた薬物を血管に注入された。
「っくそったれ...なに注射しやがった」
何故か体に力が入らずそのまま畳に倒れることになり、こちらをマッドサイエンティストの目で見るえーりんさん絶対になにかされる。
「即効性の筋弛緩剤よ。副作用はないから安心なさい」
「信用できるかボケ!」
「あら、これでもわたしは一時は天才と謳われて褒め称えられたのよ?それをボケ扱いは無いんじゃない?」
「知らん!」
とりあえず反抗してみる。が、体が動かないのでどうしよもない。
「ま、安心なさい。血を抜くだけよ」
今度は空の注射器を刺され、そのまま血を抜かれた。
「半分はあなたの今の対組織の状態を把握するために使って、もう半分は新しい薬を作るためのサンプルとして有効活用させてもらうわ」
よかった。俺自身が危険にさらされることはなさそうだ。
「あとついでに髪の毛、皮膚、筋繊維その他諸々ももらっておきましょうか。貴重なサンプルだし」
訂正、ものすごく恐ろしいです。主に目が。マッドサイエンティストの目ですもん。想像してくれ、体が全く動かずにマッドなサイエンティストに面白い実験材料として認識された状態を。
「や、やめてくれー!」
「だが断る!それじゃ、実験室へ行きましょうか」
そのままなす術も無くズルズルと引きずられていく俺であった。