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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
焼き鳥屋と花の妖怪
side Hujiwara

「いやあ、助かったぜ黒羽」
「なに、数少ない友人の頼みだ。無視するのはちょっとな」

 目の前にそびえる結構な豪邸。そしてその玄関となる正門には達筆で大きく書かれた『藤原屋』の看板が立てかけられている。

「しかし、いくらなんでもでかすぎるだろ」
「気にするな。少しやりすぎただけだ」

 いくらなんでもやりすぎだ。この大馬鹿野郎。俺は『店を建てるから手伝ってくれ』と言ったのに、設計をロリ鬼に頼んで、木材を人里から買ってきて、梁には魔法の森に生えていた大木を数本切ってきて...

「少しってレベルじゃねーだろ...俺はもっとこう小さなボロッちい小屋みたいなのを想像してたんだぞ?」
「レミリアの影響だな。やるからには徹底的にの精神でやった。反省も後悔もしていない」

 反省も後悔もしてないって...どっちもしろよ畜生。

「まあ、結婚式の前で気が大きくなってるというのも確かだが。何か物足りないか?もしそうなら天女が博麗神社の再建してるところから適当に資材を奪ってくるが」
「不満?満足のしすぎで逆に不満だ」

 確かに自分の家を持つってのも夢だったけどな...どうやってこの屋敷を維持しろと?

「そうか。なら全部壊して一から...」
「もったいないからやめい!」

 鉄串を投げるが、それは当たらずに後ろの木に突き刺さった。

「まあ、軽い冗談だ」
「心臓に悪い冗談はやめてくれ...寿命が縮まる」

 縮んだとしてもほんのわずかなものだが。畜生、どれもこれもゆうかりんのせいだ...

「そうか。まあ、俺は帰るぞ。そろそろ仕事に戻らないとレミリアの機嫌を損ねる」
「ッケ、リア充め」

 夜中に五寸釘と藁人形を持って呪ってやる...いや、下手すれば呪詛返しを食らうな...やめておこう。

「まあ屋敷の維持はこっちから妖精メイドを派遣する。仕事するかどうか保証はしないが、多少の足しにはなるだろう」
「あの屋敷の妖精メイドか...勘弁してくれ。下手に厨房をいじられて材料が滅茶苦茶になったらかなわん」
「そうか。だったら...ちょっと待ってろ」

 黒羽がメモ帳のようなものを取り出してそれに何かを書き、書いたページを破ってスキマを開いて放り込んだ。

「誰か心当たりでもあるのか?」
「ああ、一人居る」

 開かれたままのスキマから紙が返ってきた。

「...なるほどな」
「どうした?」
「いや、もう少しだけ待て。直接引っ張ってくる」

 そう言って黒羽はスキマに潜った。一体誰を連れてくるつもりだ?美人さんだといいが...

 十分後...

「連れてきたぞ」

 スキマから出てきたのは二人。黒羽と、忘れもしない、俺の人間卒業の原因となった緑色の髪をした、赤みがかった日傘をさした女性...

「屈辱だわ...この上ない屈辱だわ。この私が脅迫されるだなんて...」

 風見幽香...!
 よし!逃げよう。幻想郷の果てまで逃げて隠れていよう。

「どこに行くつもりだ?」

 後ろを向いて全力ダッシュをしようとしていたら、回り込まれて退路を断たれた。

「俺がせっかくメイドを連れてきてやったのに逃げるとはな。親友の好意を無駄にするつもりか?」
「放せ!俺はまだ死にたくない!!」

 手を振り払って逃げようとするが、こいつの能力のせいで触れることができない。

「安心しろ。弱みは握ってあるから手は出せない。手を出したら...わかってるよな、幽香?」

 ...今、何かものすごい悪寒がしたのは気のせいだろうか...今の一瞬でこいつの本性を垣間見たような気がする。

「クソ...わかってるわよ。やればいいんでしょう!」
「なに!?あのアルティメットサディスティッククリーチャーが引き下がっただと!ありえん!!」
「有り得ないこそ有り得ない。しばらくはお前がそいつの主人だ。煮るなり焼くなり好きにしろ。あとこれは契約書。念のために忠告しておくが、くれぐれも渡したり破ったりなくしたりするなよ?死にたいなら話は別だが」

 死にたいならって...怖えよ...

「藤原、お前も頑張れよ。あと幽香、脅したりしても天狗にデータが渡るようになってるから下手な行動は慎めよ。じゃあな。俺は仕事がある」

 そう言ってスキマに潜って紅魔館へと戻った黒羽。だが...あいつが消えた途端に恐ろしいまでのプレッシャーが背後から襲ってきた。

「あ、あの...幽香様?どうかなさいましたか?」

 思わず敬語を使ってしまうほどの威圧感だ。以前なら失神していてもおかしくはないほどの威圧感。それでも気絶しないのはこちらに順応したからか...

「なんでもないわ。聞いたら殺す」
「スミマセンデシタ!」

 サラっと恐ろしいことを言われ思わず土下座する。書類上は俺が主人となっているようだが、はっきり言って俺には無理。絶対主従の関係が逆転する。というか現在進行形で逆転している。

「一月契約よ」
「は?」
「ものすごく忌々しいけど、一月の間は私はあなたのメイド。変なことを強要するようであれば、即殺すわ。心に留めておきなさい」
「いやいやいやいやいや、無理。こっちの寿命がストレスでマッハ。同じ屋根の下だなんて恐ろしくてとてもじゃなくて無理。ましてや手を出すだなんてそんな閻魔に真正面から喧嘩を売ったほうがマシなどうしようもない愚かな行動を起こすだなんて、選択肢すら存在しない。できるわけがない。そういうわけで俺は人里に逃げさせていただきます」

 背中を向けて全力疾走。地面を蹴って煙幕を張ったので少しは時間稼ぎになるだろう。

side out

side Toya

「さてと、俺はのんびり仕事をするとしよう」

 適当に妖精メイドに指示を出して仕事をさせる。執事長の権限?そうじゃなくて純粋な人徳だ。
 
「...あの向日葵畑の妖怪をメイドにするだなんて、そんなことよく思いついたわね」

 図書館の掃除に行こうとすると咲夜に声をかけられた。

「ああ、咲夜か。いつから見てた?」
「最初からよ。こういうふうに空間を繋げて離れた場所で起こっていることを見れるようにして...中国が居眠りしてないかどうかを見るために適当に試行錯誤してたらできたわ」
「...紫みたいな使い方だな」

 その内プライベートすらなくなるかもな。

「相手の場所がわかってないとわからないわ」
「そうか」

 能力を使って掃除を行う。妻にプライベートを覗かれたからといってどうということはないが、それでも少し安心した。

「発信機をつければそれで解決するわ」
「...まさかとは思うが...」
「その通り」

 能力を使って自分の体のことをある程度理解した結果を出す。

「なんだ嘘か...」
「慌てるあなたが見てみたかったんだけど、残念ね」
「演技でいいならどうにかするが」
「演技ならいらないわ」

 演技力には自信があったんだが...

「ああ、そうだ。小悪魔が探してたわよ。たぶん図書館に居るわ」
「珍しいな」

 普段はパチュリーに付きっきりの小悪魔がなぜ俺に?...まあいいか。

「ええ、珍しいわね」
「まあ、とりあえず行ってくる」
「行ってらっしゃい。適当に時間がきたら呼ぶわ」
「わかった」

 嫌な予感がするので完全武装してから行く。どうせ碌なことがないからな。図書館には。
えー...主人公について誤解しておられる方がいらっしゃるようなので軽く説明をさせていただきます。
主人公はドSではありません。普段は大人しいんです。身の危険を感じるか、怒るとドSに変貌します。要するに隠れドSなわけです。