サディストと天人
side Toya
「さて、幽香。こいつをどうする?」
逃げようとして、これでもかというほど縄に縛られた哀れな天人を指差して話す。まあ最終的に紫に引き渡すことはすでに決定事項だ。
「そうねぇ、まずは手始めに火炙りかしら。刃物は通らないらしいし」
「それはあんまりにテンプレートだ。生き埋めにして言葉責めはどうだ?」
「それもいいけど、序盤はやっぱり肉体的苦痛が一番よねぇ」
肉体的苦痛...拷問=鞭打ち。だな。
「じゃあ鞭打ちか?」
「それいいわね。採用」
本を持ち上げる要領で縄に縛られた天人を逆さ吊りにして浮かす。
「キャッ!」
「で、肝心の鞭は?」
「花の蔓で代用できるわ」
そう言って地面に手をかざすと、そのまま少し太いくらいの蔓が伸びてきて幽香の手に収まった。
「俺は革が一番だと思うんだけどな」
「代用できるんだからいいじゃない」
サディスティックな笑みを浮かべててんことやらににじり寄る。恐怖の色が浮かんでいるが、それを見てさらに笑みを深くする幽香。そしてさらに怯えるてんこ。ループだな。
「えい」
「ッアアァァァ!!」
脱力するような声だが、見えないほどのスピードで振りぬかれた蔓は的確に獲物の腕に巻きついていい音を立てた。
「うふふ...なかなかいい声で鳴くわね」
「いいぞ。もっとやれ」
控えめに声援を送る。やはり幽香は真性のサディストだ。鞭がよく似合う。
「言われなくてもそのつもりよ」
二度、三度と振りぬかれる鞭は、振られるたびに鋭さを増し、服をも切り裂くほどの鋭さになっていった。
「目に毒、というわけではないな。ガキに興味は無い」
レミリアとフラン?あの二人は例外だ。
「さてと、反省したか?」
ある程度時間がたち、何度も鞭で叩かれている天人に声をかける。ここで反省しているのなら極刑一歩手前で許してやろう。
「ふん!なんで私が反省しないといけないのよ!」
反省の色なしだな。
「幽香、ちょっとこいつ借りるぞ」
「ええ、いいわよ。私もちょっと休憩したいし」
一応許可をもらう。ここは太陽の畑。こいつの縄張りだ。その中で好き勝手するわけにはいかないだろう。
「さて...と、ヤツメウナギっていうのを知ってるか?」
「下界の人間ごときが気安く話しかけないで頂戴」
「まあ知らないならそれでもいい。その方が面白いしな。境界『スキマ送り』」
足から上をスキマで包む。つなげた先はヤツメウナギの養殖池の水面から十センチ上。水面が目と鼻の先だ。ついでに緋想の剣とやらを折ってから地面に放り投げる
「ッヒィ!!なによこれ!!」
「それがヤツメウナギだ」
あまりのおぞましい外見に拒否反応を起こしている。まあ、味はいいんだがな。
「安心しろ。死ぬ一歩手前になったら引き上げてやる」
笑顔で死刑宣告を下す。一度精神的に死んでもらおう。馬鹿は死ななきゃ直らないという諺もあるからな。
「ご、ごめんなさ「何?聞こえないぞ」
途中まで聞いて何を言おうとしていたのかはわかる。だが、最後まで聞かずに手を離した。通常の人間ならものの十秒も持たずに白骨化するだろうが、相手は天人だ。どうせ死なないからいいだろう。
「きゃああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁあぁああああ!!!!!」
そのままスキマから観察する。必死にもがいているが、集ってくるヤツメウナギに襲い掛かられてあっという間に沈められる。
「予想以上の悲鳴だな」
「...なかなか酷い事するわね...私でも思いつかないわよ?」
隣からスキマを覗き込む幽香が呟く。
「なに、俺がしたのはただの餌やりだ」
それに、まだまだ序の口。これからもっと地獄を見せる予定だ。
「酷いわね...」
「お前にだけは言われたくない」
side out
side Hujiwara
緋色の雲が消えた?
「黒羽がやったのか?」
だとすると、犯人死んだな。
「そうねえ...私が解決してやろうかと思ったりもしたんだけど、先に解決されたなら仕方ないわね」
「あんたは最初から動く気なかっただろうっと」
危ない危ない。危うく空中コンボではめられるところだったぜ。ああ、今は薬をもらって姫様の遊び相手としてゲームをやっている。
「失礼ね。巷ではNEETとか、ぐーやとか、色々言われてるけどやるときはやるわよ。ほら、隙ありよ」
「ぬおぉ!や~ら~れ~た~!」
油断しているとあっさり投げ技をくらい、そのまま軽く浮いたところを空中多段コンボを叩き込まれて一気に体力を削られて、落ちたところをまた拾われて即K.O.体力ゲージMAXで、このゲームには結構自信があったんだが...キルコンボを叩き込まれればどうしようもない。
「さすがはNEET。格が違った」
キルコンボなんて、よほどの熟練でないとできないぞ。
「天才の私にできないことなんてないのよ!」
「うっさい。ダメ人間の象徴的存在」
「何か言ったかしら?」
突如としてとてつもないプレッシャーが押し寄せてきて、思わず固まる。
「イエ、ナンデモゴザイマセンヒメサマ」
「そう。それでいいのよ」
ちくせう...厄いぜ...助けて厄神様...
side out
side Toya
「...やりすぎたか?」
殴られるたびに嬌声を上げるようになった異変の犯人を、スキマに放り込んで隔離した後に幽香と顔を見合わせる。
「ええ、そうね」
「できるだけ長く楽しもうとしたのが悪かったのか?」
確かに縄で縛って、重りを付けて湖の中に放り込んで死ぬ一歩手前で引き上げてまた落とすってのを何度も繰り返しはしたが、そこまで酷い事ではないと思う。
「そうでしょうね」
日傘をくるくる回しながら答える幽香だが、その表情には若干の不満が見て取れる。もう少し殴って楽しみたかったのだろうが、殴られて楽しむ相手をさらに殴って楽しむのは趣味に合わないようだ。
「ヤツメウナギの養殖池なんかに放り込んだから精神が壊れたんじゃないの?」
「昔は奴隷に対する拷問方法だったらしいぞ。正確には処刑だが」
あれは見ていて恐ろしかった。数千のヤツメウナギがあれに向かって突撃していったからな...まるで池の鯉に餌を撒いたが如く。五秒と経たないうちに埋め尽くされた。
「だから火あぶりにしようって言ったのに」
「縛って水攻めのほうが精神的に来るものがあるだろう」
片手でちょっとスキマの中を弄って、あの犯人を紫のところに放り出してから話を再開する。
「いいえ、縛ってから火あぶりのほうが絶対によかったと思うわ。体を常に動かしてないとすぐに焼けるもの」
「いくら動いても意味の無い水中のほうがキツイ。美鈴もそう言ってたしな」
今までに、生き埋め、寸止めフリーフォール、ナイフ投げの的、鞭打ち、等々さまざまなものを美鈴に試したが、水攻めが一番辛いらしい。その次に火あぶり、三番目に生き埋めの順だ。
「...でも一番スタンダートなのは鞭打ちよね」
「そうだな。皮膚への攻撃だからいくら体を鍛えても耐えられないし、一番アレが痛そうだった」
「...そういえば...この前はよくもやってくれたわね」
?この前というと...藤原をボコボコにしてくれたときか。
「お気に召したか?」
「屈辱よ。この私が縛られて、その上鞭で叩かれるだなんて」
結構お互いに楽しんだと思うんだが?叩かれて喜んでたようにも見えたし。こっちも藤原を人外にしてくれた御礼もできたしな。
「亀甲縛りと鞭打ち。どっちも人間の作り出した技術だ。人間も馬鹿には出来ないだろう?」
「...死になさい」
そのときの事を思い出して、羞恥か怒りかは分からないが顔を真っ赤にして襲い掛かってきた。
「境界『スキマトリック』」
てんことやらが襲い掛かってきたときと同じように、スキマをそこに『存在する』結果のみを出して幽香を飲み込む。
「短気は損気とはよく言ったもんだな」
今度はちょっとしたオマケ付きでスキマから放り出したが。
「ちょ!解きなさいよ!!」
スキマから出てきた幽香は、いつぞやと同じ亀甲縛りでスキマから放り出されてきた。残念なことに今鞭は持っていない。能力を使えば創れるが、そんなのは無駄遣いの極みだ。
「いや、こうも見事に引っ掛かってくれるとはな」
てゐが罠を仕掛ける気持ちが分かるような気がする。ついでに写真も撮っておこう。
「今すぐにそのカメラを寄越しなさい!今なら半殺しで済ませてあげるわ!!」
残念なことに、神力の宿った縄で縛られて何も出来ない状態で凄まれても怖くない。むしろ愛嬌がある。
「大妖怪風見幽香ともあろう者が、人間に縛られて鞭で叩かれる。なんて新聞の記事に載ったら面白いことになりそうだな」
「っぐ...」
ああ、なんか楽しくなってきた。他者を踏みにじるのがこんなに楽しいなんて...癖になりそうだ。
「っと危ない危ない。俺としたことが、妙な性癖に目覚めるところだった」
頭を振ってさっきの事を頭から振り出す。変わるわけにはいかない。
「解きなさいよ!」
「時間が経てば自然に解ける。じゃあな。天狗に見られないようにな」
スキマがそこにあるという結果を創り、それをくぐって紅魔館へ戻る。
「あ、刀弥さん。お嬢様が探していましたよ?」
「何か言ってたか?」
こいつが寝ずに門番をしていることには驚いた。珍しい。
「いえ、特に何も。早く行かれたほうがいいのでは?」
「そうだな。ありがとう美鈴。魔理沙が入らないように寝ずに見張っておけ」
念のために釘を刺しておく。こいつは目を離すとすぐに寝ることもあるからな。注意しておくに越したことは無い。
「そんな、まるで私がいつもいつも寝てるみたいじゃないですか」
「寝ていなければこんな事を言う必要も無いはずなんだがな」
「うぐ...すみません」
「まあ、門番とはいっても、どうせすぐに破られるから居ても居なくても大差ないがな。むしろ物的被害が無くて済む。変わりに幽香でも雇えば面白いことになりそうだな」
弱みは握ってあるし、これを条件に交渉すれば快く引き受けてくれるだろう。
「紅魔館の門番は私一人だけです!他に適任など居ません!!」
「ならせめて足止め程度にはなれ。な?」
肩をポンと叩いて、傷口に唐辛子を刷り込む。事実、足止めすらできずに突破されることがほとんどだ。なのによくクビにならない。今まで何度もレミリアの懐の大きさに感動したものだ。
「ぅぅ...どうせ私なんて居ても居なくても同じようなもんですよ...中国とかやられ役とか、門番は突破されるためだけに存在していればいいとか色々言われてますしね...うふふふふ...。欝だ。死のう」
「やめろ、映姫様に迷惑だ」
「うるさいですよ~...どうせ私は中国ですよ~...」
「...とりあえず、歯を食いしばれ」
このまま放っておいても鬱陶しいだけなので、叩いて直すことにする。叩いて直るのはメイドインチャイナじゃなくて台湾だ?別にいだろう。
「ふぇ?ッゲホゲホっ...何するんですか!!」
「壊れた電気製品には衝撃を与えて直すのが一番だ。そういうわけで腹を殴った」
「精密機器には逆効果ですよ!」
「言われてみればそうだな。だが俺はお前が精密機器だとは到底思えないんだが?」
せめて昭和のテレビくらいにしておけ。おこがましいぞ。
「すみませんでした...」
「じゃあ、俺はレミリアのところへ行く。仕事がんばれよ」
「...!はい!」
軽く手を振って屋敷の中へ入る。妖精メイドは相変わらず仕事をあまりしていないが、まあそれは気にすることは無い。いつもの事だ。