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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
てんこと兎詐欺 散る
 side Toya

 雷雲の中を飛び、そのまま天界へと上ってきた。もちろん犯人を捜すためだ。

「さて...萃香、お前が犯人、なわけないか。鬼だしな」

 桃を食べ、酒を飲んで酔っ払っている鬼に視線を向ける。

「あはは~!面白い事言うねえ」

 第一、こいつの能力ではこの異変は起こせないだろう。それに、あの女性はこの異変の犯人は日那々居てんこだと言ってた。こいつとは名前が違う。一文字たりとも合ってない。

「はぁ...わざわざ天界まで異変を起こした馬鹿を叩きのめしに来たのに、無駄骨はないだろう...」

 能力でここら一体を地上に落とすことも出来ないことはないが、そんな真似をすれば当然怒られる。しかし、ここら一帯を見回しても犯人と思わしき人物は居ない。

「う~ん、異変の犯人をお探しかい?」
「見れば分かるだろ」

 少しイライラしていたので、手近にあった桃を捥いでかじる。

「...甘いな」

 美味いことは間違いないのだが、俺には少し甘すぎる。ってことはどうでもいい。問題は、わざわざここまで来たのに異変の犯人が居ないという事だ。これではまた一からやり直しだ。

「さっきまでここに居たんだけどねえ、あんたが来るなりどこかに雲隠れしちゃったよ。ま、そんな鬼もかくやな表情をしてたら分からないこともないけどさ」
「鬼のお前が言うな」
「いやさ、怖いのは本当だよ?」

 ...まあいい。ここの近くに居るって事は、適当に暴れて炙り出せばいいわけだ。

「待った。あんたが本気を出すとここの桃がなくなっちゃうじゃないか」
「桃はどうでもいい」
「あんたがどうでも良くても私はそうじゃない。せっかくあの天人にもらった土地なのに、いきなり無茶されちゃもったいない」

 確かに、私怨で他人に迷惑をかけるのはよくないな。と、なると適当に暴れて炙り出すのはダメか。だが、わざわざ探すのも面倒だ。

「ん~、美味い!」

 すぐ隣で酒を飲んでいる鬼に視線を向ける。こいつの能力なら無理やりにでも引っ張ってこれるだろう。

「どしたの?」
「萃香、外の世界の酒は欲しくないか?」
「...酒だけかい?」

 さらに報酬を寄こせと言わんばかりに口元を歪める小さな鬼。完璧に足元を見ている。

「わかった、ツマミも付ける。どうだ?」
「おっけー。んじゃ、ちょっと待ってね~」

 萃香が天に指を立て、そのままグルグルとまわす。あまり意味のある行為には見えないが、雛様もグルグル回りながら厄を集めてるし...意味がないように見えても意味があるのかもしれない。
 そのままゆっくりと待つが、五分ほど立っても一向に現れない。

「萃香、来ないぞ」

 信用していないわけではないのだが、どうもここまで効果がないと自然と疑いの目を向けるようになる。

「う~...予想以上に粘るね...なら、こうだ!」

 何かを引っ張るような動作をすると、そのまま雲の中から一人の少女が引っ張られてきた。 

「あああああ!?」
「ほい、萃めたよ。んじゃ、約束のものはよろしく」
「ああ、約束は守る」

 そのままゆっくりと歩み寄る。相手が女だろうと容赦はしない。存分に反省してもらおう。

「ちょっとそこの子鬼!何してくれんのよ!?」
「いや、酒とツマミが」
「買収じゃない!」

 確かに買収だな。だが、そんなことはどうでもいい。

「お前が異変を起こした犯人か?」
「うっ...」

 後ずさりしながら逃げようとする。だが、逃がすつもりは毛頭ない。これで分かった。こいつが今回の件の犯人だ。

「しゅ、修羅が降臨した...」
「俺はあそこの店主じゃないぞ。紅魔館執事長兼当主およびその妹とメイド長、幻想郷管理者の夫だ」

 ニヤリと笑って、目線を目の前の少女に固定する。

「ちょ、ちょっと待って、最初からやり直すから」
「は?」

 そして、次の瞬間には少女は消え失せる。......まさか、逃げた?あれだけやっといて?人の結婚式を邪魔しておいて?だとしたら、幽香に完全に任せるか。

 ――天にして大地を制し

 ん?この声は...どこからだ?どこから攻撃されてもいいようにスペルカードを構える。

 ――地にして要を除き


 ――人の緋色の心を映し出せ!

 消えたと思った先ほどの少女が、目の前にドスンと音を立てて降ってきた。

「ふん、巫女が来るかと思ったら、どこぞの館の執事とはね。メイドに引き続き執事だなんて、送ってきた奴の格が知れるわ。異変解決の専門家じゃないと意味がないっていうのに」
「...ホウ、レミリアのことを侮辱するとは...いい度胸だなぁ天人さん」

 罪状が追加されたぞ。もうお前の未来は確定した。今の一言で、お前が勝った『結果』はなくなった。どんなにがんばろうと負けた『結果』はすでに決定されている。もはや覆すことはできない。 

「まあ、貴方が相手でも異変解決の巫女が来るまでの暇つぶしくらいにはなりそうね」
「クックック...いいだろう。そんなに苦痛がお望みか...」

 微妙な威厳を放っている少女は、先ほどまで腰を抜かして後ずさっていた少女とは思えないが、相手がなんであろうと叩き潰す。もう決めた。だがまあ、一応は確認しておくか。

「一つだけ確認しておこう。お前があの地震と変な天気を起こした犯人だな?」
「そうよ。私は天界に住む「いや、どうでもいい」日那々居天子。これは天界の宝。緋想の剣」

 こっちの言葉も無視して、取り出した剣をてんことやらは地面に突き立てる。

「っと...地震?」

 地面に刺さったと思うと、急に地震が起こった。...なるほど、あれを使って今回の異変を起こしたのか。

「この悲壮の剣で人の気質を集めて、集めた天の気で大地を揺るがす。神社の地震は小手調べ。これから幻想郷全体の大地を揺らすわ」

 ...これは、式以前に止めないとまずいな。

「Are you nuts?そんなこと許すとでも思うか?」

 幻想郷全体、となると当然紅魔館や人里も含まれる。紅魔館が倒れても死人が出ることはないだろうが、人里はさすがに出るだろう。というかどっちも許せん。

「なに言ってるのかわからないけど、とりあえず私には関係ないもの。だってここは宙に浮いてるし、あなたに私は倒せない」
「いいだろう。今のうちに懺悔しておけ。すぐに地獄に落ちるから」
「まあ人の話は最後まで聞きなさい。天界は退屈でね、毎日歌を歌ったりお酒を飲んだり踊ったり、そんなのばkk「超電磁砲『レールガン』」っきゃ!なにすんのよ!」

 セリフを遮ってスペルカードを食らわす。不意打ちの一撃だったが、避けられてしまった。

「...小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」

 どうも、こいつの考えを文字通り叩きなおしてやらないといけないらしい。
 両手にグローブをはめて、美鈴に教わった拳法の構えを取る。武器は違うが、同じ執事だ。このセリフを使ってもなんの問題もない。

「命乞い?ッハ、ありえないわね」
 
 接近する過程を短縮しながら拳を一気に突き出す。擬似的な縮地歩法だが、不意打ちにはもってこいだ。
 
「っと、下界で人間や妖怪達が遊んでいるのを見たら、とっても楽しそうで羨ましくてね。だから私もああいう遊びに参加したいなあって思ったの」

 結構自信のある一撃だったのだが、

「だから私は地震を起こした。きっと巫女が私を退治にやって来てくれると思ったからね」

 成程成程、成程...こいつはただ暇だったから結婚式の邪魔をした、と。


 ............だったら尚更、許すわけにはいかんなぁ......  

「OKOK、今の一言でお前の刑は確定した。判決は、死刑だ」
「私の行いを裁けるのは私のみよ。あなたみたいなのには無理無理」
「理屈はどうでもいいんだよ。さっさとかかって来い。ビッチ」

 普段の俺なら絶対に口にしないような事を言う。自分でも頭に血が上っているのはわかる。

「なにビッチって、美味しいの?」
「外国の言葉でな、淫売って意味だ。理解したか?」
「な!い、淫売って!!...もはや問答は無用ね...」
「ああ、ちょうどこんな下らない問答に飽き飽きしてたところだ。さっさと始めるぞ。腐れビッチ」
「ぶっ殺ーーす!!」

 今の一言で完全にキレたらしく、手に持った剣で切りかかってくる。完璧に計画通りだ。

「境界『スキマトリック』」

 目の前にスキマを開き、それを『とある場所』につなげる。

「へ?」

 突如として目の前に広がった向日葵畑に驚いたようだ。そして今、こいつはスキマを通り抜け、そこに生える一本の向日葵に剣を振り下ろしてしまった。

「パニッシュ」

 指を鳴らしてスキマの存在結果を消去する。これでもう戻って来れないだろう。安心して地獄に落ちろ。

「ブーッ!!い、今のって...」

 萃香が酒を噴出す。珍しいな、酒を無駄にするような行動を取るなんて。

「察しの通り、太陽の畑のど真ん中だ」
「それって、まずいんじゃない?」
「天人は不老不死だって話を読んだことがある。天人五衰だったか?あれだあれ。それに幽香なら生かさず殺さずでリンチするだろ。それに、後で俺もやるから殺させないし、その後紫に引き渡す」
「せめて殺してあげなよ...死んだほうがまだマシだと思うんだけど...」
「だろうな。だが、そんなことをするほど俺は甘くない」

 やる時には徹底的にやる。それが俺だ。まあ、今日ほど怒るのはよほどのことがない限り無いが...まあ、あれだ。

「あいつは俺を怒らせた。生き殺しにする理由はそれで十分だ」
「...滅多に怒らないのほど切れたら怖いって、ホントだったんだね...」

 さてと、そろそろ俺も行くか。あの馬鹿をいたぶりに。

「じゃあな。酒とツマミは来週持って来る」
「忘れたら怒るからね~」

 スキマを開いて、太陽の畑につなげる。さてと、俺もやるとしようか...

side out

side Hujiwara

 目が覚めると、そこは真っ白な天井でした。

「知らない天井、ではないな」

 この天井を見るのは二度目。俺が祝人間卒業を告げられた場所だ。

「うーむ...寝ている間に改造手術をされてましたってオチは、さすがにないよなぁ...」

 衣服もそのまんまだし、拘束もされてない。持ち物もそのまんま。どうやら気絶した後にここに運ばれたようだ。

「さすがの師匠もそこまでしませんよ。やるときは意識のあるときにやりますから」
「ヌォ!いつの間に...」
「あなたが起きてすぐですよ。はいこれ、お薬です。寝ている間に師匠が調合してくれました」

 そう言って渡されたのは、とてつもなく物々しい、蓬莱と書かれた壷だった。あきらかにこれ別の物だろ...

「中に薬が入ってますから」
「いやいや、絶対何かの間違いだ。普通錠剤とかカプセルとか、そういうのになってるはずだろ?なんで丸薬なのさ」
「薬には違いありません」
「...ッハ!わかった!これ蓬莱の薬だろ!!」

 確かに薬は薬だけど、俺は永遠という名の地獄を味わいたくはない!返品させてもらう!

「違いますよ。妖怪化の進行を抑える薬です」
「だったらなんでこんな壷になってんだ?」

 念のために聞いてみる。

「仕様です」
「そうか。仕様か。なら仕方ない...って、納得できるかー!」
 
 兎詐欺だな!?きっと兎詐欺の仕業に違いない!!

「堂々と蓬莱の薬って書いてあるじゃねーか!」
「入れ物が他になかったそうです」
「信じられるかー!」

 大きく叫ぶ。絶対に他にあったはずだ。

「うっさいわねえ...ゲームに集中できないじゃない...」

 ふすまを開いて現れたのは、絶世の美女と呼んでも差し支えない、まさに大和撫子をそのまま体現したような女性だった。先ほどの言葉で全部台無しだが..

「って、あーー!それ蓬莱の薬じゃない!!」
「やっぱりかーーーー!!!」

 壷をちゃぶ台返しのごとくひっくり返す。冗談じゃない。こんなもの飲んでたら更にランクがアップしちまうじゃねえか。

「...っち」

 小さく舌打ちをしたのを俺は聞き逃さなかった。鈴仙さんならこんなことはしない。

「まさか!てゐか!!」
「ご名答。悪戯大好きの永遠亭兎の大将軍たぁ私のことよ!」
「...頼むからその姿で言うな」

 なんというか、鈴仙さんの姿で威張っているのはものすごく違和感が...というかなんで姿が変わってんの?
 
「師匠の研究室からちょっと、姿を変える薬を借りてきたのさ」

...終わったな。後ろにでかい注射器を抱えた永琳さんがいるのに気づいてない。

「因幡アァァァァァァァ!!!」
「師匠オォォォォォォォ!!??」

 そのまま一瞬で病室の外へ出て行った。わーお、ウゼェ丸もびっくりのスピードだ。