番外編 其の五
sode Hujiwara
「あ、バb「殺すわよ?」...もとい可憐な美少女ゆかりん、お久しぶりです」
家でのんびりと親父の焼いた焼き鳥を食べていると、目の前にスキマが開いて刀弥の嫁であるゆかりんが現れた。決して野生ではないことを明記しておく。
「ええ、お久しぶりですわ。調子はいかが?」
「良くもなく悪くもなく、まあ普通といったところでしょう」
「それは重畳。妖怪化も神との交わりのおかげでかなり抑えられているみたいね」
焼き鳥をほおばりながら彼女を観察する。相手はあのゆかりん、何を考えてるのかわかったもんじゃない。...いい乳だ。性欲をもてあま(ry...じゃなくて、相変わらず何を考えてるのかさっぱりわからん。
「なぜ知ってる」
「それは私だからよ。ところで、本題に入らせてもらってもいいかしら?」
...そこはかとなく嫌な予感がする。こういうのを虫の知らせというのだろうか。
「呼んだ?」
レッドアラート、神聖なるわが家にGが侵入した。直ちに排除せよ。頭の中でブザーと音声が響き、半ば反射的にハエタタキへと手が伸びる。そして満身の力をこめてGをスキマへと叩き戻す。
「ミギャ!!」
「ミッションコンプリーート!!で、今日はどのような御用で?俺の日常を跡形も無く粉々に粉砕するような頼みならお断りですが」
「刀弥のところへ行ってきてほしいの」
「それまたどうして、夫婦喧嘩でもしたか?」
「まさか、彼と私が争うなんて天地がひっくり返ってもありえないわ」
「ならどうして俺に?」
「私はちょっと用事があってね。いくら私でも体は一つしかないの。わかっていただけたかしら?」
...うさんくせ...そこはかとなく胡散臭い。存在そのものが胡散臭いぞゆかりん。
「式がいるでしょうに」
「その式も一緒に仕事をするからあなたにお願いしたの。そういうわけで行ってらっしゃい」
そう言ってゆかりんが扇子を閉じると、突如体が浮遊感に襲われた。まさかと思って下を見ると、案の定スキマが...
「うぉ!?」
あわててスキマの縁をつかんで落下を止める。せめてどこへ落とすかくらい聞いておきたい。
「教えてほしいって顔してるわね。でもダメよ」
「ざけんなババ「何か言ったかしら?」イエ、ナンデモゴザイマセン」
「教えない理由は、その方が面白そうだからよ。それじゃ、行ってらっしゃい」
スキマに掛けていた手を蹴られ、そのまま落下していく俺。落ちる一瞬前に見たゆかりんの顔は、笑顔だった。やはりゆうかりんの友人だけあってドSだ。
side out
side Yukari
さてと、これで刀弥も寂しくはなくなるわね。いくら刀弥でも見知らぬ場所に一人だけというのも少しつらいでしょうし、旅は友がいたほうがより楽しい物となるのは火を見るよりも明らか。精一杯楽しんできてくださいな、我が愛する夫の友人殿。
「まあ、本当の目的は他にあるのだけれど。藍」
「はい。なんでしょうか紫様」
「戦いの用意よ。第一回刀弥争奪大戦のね」
「畏まりました」
事の発端は吸血鬼。あの吸血鬼が刀弥の一ヶ月分の所有権を、戦いに勝利したものが手にするというなんとも興味深い事を話したので、私はそれに乗った。乗ったからには必ず勝つ。それが八雲クオリティ。知略戦略を張り巡らし、罠という罠を十重二十重に敷き、持てる戦力の全てを投入して勝利する。この戦、私が勝たねば誰が勝つ。
side out
side Hujiwara
「イテテテテ...畜生、どこだよここ」
二十メートルほどの高さから落下して、木の枝に殴られながら地面に降りたのはいいが、ここがどこだかさっぱりわからん。それにしても、木の枝がうまいことクッションになってくれて助かった。クッションではなくいくらか文字を抜いて串になってたら洒落にもならないからな。
「イデ!?んだよ畜生...」
今度は上から何か重いものが降ってきて頭にクリーンヒットしたようだ。むちゃくちゃ痛い。
「あ?金串?」
振ってきた物は、縄でくくられた大量の金串だった。...料理でもしろってのか?
そう思って金串を拾い上げると、下に何かが書いてあった。
『護身用兼料理用』
「......」
呆れて物も言えねえ。
『Mission 1 刀弥を発見せよ』
「なんだ?電波か?」
『黙ってさっさと行け』
...ここは電波に従うか...
「おお、人間発見!」
「久々の飯だぜ兄貴!」
「あんまし美味そうじゃねえがな」
エンカウント発生、野生の妖怪が三匹現れた。じゃねえよ、妖怪ってことは幻想郷か?ここ。
「あ~、ちょっといいか?」
「オレサマ、オマエ、マルカジリ、でいいなら聞いてやろう」
健康的な白い鋭い歯を除かせながらにっこりと笑う妖怪。冗談じゃねえ...
「ここは幻想郷か?」
「最近そういう名前がついたってことは知ってるぞ。そういうわけでイタダキマス」
「そおい!」
真正面から飛び掛ってきたので、真横に跳んで避けてみた。
「むぅ...おいお前ら、やっちまえ!」
「「オッシャ~!」」
「ちょ、いきなりそれ!?」
あわてて弾幕を出して迎撃する。効果があるかどうかは微妙だが、少なくとも牽制にはなるだろう。
「ぬるいぜ!」
弾幕の間を縫ってこちらに接近する妖怪A。予想以上のスピードだ。
「しまった!と、思わせてぬるいのはそっちの方だったりして」
腕を引き寄せて、射出した弾幕を全て反転させる。当然、後ろを見ずに突進してきた妖怪Aは...
「ブヘェ!?」
肉の変わりに三十発の弾幕を全弾食らってあっけなく撃沈。そして両手に持った金串を、両手の指の間に挟んで投げまくる。半人半々神半々妖である俺の筋力によって放たれた金串は、一本一本がまるで矢のごときスピードで相手に殺到し、そのまま串刺しにする。そして...
「神妖混合『マスタースパーク』!!」
神力と妖力を同時に発射する。妖力だけでは到底本家に至るはずも無いので、試行錯誤はしていないが、考えた末に思いついたのが、足りない分は他から持ってくればいいじゃないか。という至ってシンプルな結論で神力を混ぜることを思いついた。
「ミギャアアアァァァァッァァ!!(ピチューン」
予想以上の威力が出た青白い色の閃光は、妖怪一匹をたやすく蒸発させ、そのまま雲を突き抜けていった。蝶☆オーバーキル...俺ってもう人間じゃないのね...
「や、やべえ!アニキがやられちまった!」
「ど、どうするよ!?」
妖怪Bと妖怪Cが顔を見合わせて十秒ほどすると、
「「サーセン!!見逃してください!!」」
土下座した。妖怪に土下座されるって...俺どうなの?地味に傷つくんだけど...
「去るものは追わずだからな~さっさとどっか行け」
「「Sir!yes!sir!!」」
脱兎のごとき勢いとはまさにあのことだろう。ウサギではないが、ものすごい勢いで逃げていった。
「あ、刀弥の事聞き忘れた」
まあいいか。人里へ行けばなにかしら情報も手に入るだろうし。
「おい、さっきのはお前がやったのか?」
「!!」
急に目の前に人が現れた。さすがにびっくりしたぞ。
「え~と、まあそうですね」
「ん?その格好、もしかして...この時代の人間じゃないのか?」
外の、ならまだわかるが、この時代の、というのはいささか理解に苦しむ。まさかゆかりん、過去に飛ばしたか?
「えっと、今西暦何年でしょうか?」
「さあな。一千年位じゃないか?俺にも詳しいことはわからん」
「マジですか?」
「マジだ」
あ、ありのままに今起こったことを話すぜ...『スキマ送りにされて幻想郷に落とされたと思ったら実はそこは一千年ほど昔でした』
「ネタに走ってるところ悪いんだが、一つ聞きたいことがある。黒羽刀弥という奴の知り合いか?」
「知り合いも何も、あいつは親友で且つ店の常連です」
「...まともな友人で羨ましい限りだ」
「そうでもありませんよ...あいつのせいで何度ひどい目にあったか...」
しみじみと呟く。
「ま、少なくともまともではありませんね。あいつの考え方はどちらかと言えば妖怪寄りですし。あ、そうだ。遅れましたが、俺の名は藤原流斗、半人半々妖半々神です。一応よろしく」
「えらく珍しい奴だな。俺の名は那華川紅、人間だ」
握手を交わす。
「...」
「...」
握手してわかった。この人は、かなりの腕の料理人だ。何年も研鑽を積み重ね、延々と材料をきり続け、ひたすらに鍋を振るい続けた凄腕の...一体何十年続けていたらこんな手になるのだろうか...
「焼き鳥屋か。それも結構歴史のある」
「!正解です。どうしてわかったんですか?」
「臭いだな。鶏肉と、炭火と、タレ。この三つの臭いがお前の体には染み付いてる。かなり小さい頃から続けてないとここまでは染み付かない」
すさまじい嗅覚だな。
「そっちこそ、何十年と料理人をしてるでしょうに」
「材料の臭いは消してたはずだが...」
「手を握ればわかります」
「なるほど」
「あ~、ところで、どうして刀弥の名を知ってたんですか?」
少なくとも居場所程度は知っているはず。教えてもらわないと合流できない。
「この時代にはあんまりに場違いな格好をしてたからな。もしかしたら、と思ったわけだ」
「では、どこにいるか知ってますか?」
「うちの店で休んでる。俺の友人がちょっかいをかけてな。それで霊力が完全に切れて寝てる」
あいつを寝込ませるって...上には上が居るって事か。
「それじゃあ連れて行ってもらえませんか?」
「そうだな、一つ条件がある。お前の家のタレの材料を教えてくれ」
「お断りします。門外不出の一子相伝の味なので」
「そうか...料理人として興味があったのだが、残念だ」
「すみませんね。何か別の形でならお礼ができるんですが」
そう言って後ろをついて行くと、不意に紅さんの姿が消えた。見失ったわけではなく、完全に消えた。一瞬で、音も無く。
「...もしかして、置いていかれた?」
ふと横を見ると、よだれを垂らした妖怪が目と鼻の先にいました。
「ギャアアアアアァァァァアァァァアッァァ!!!」
そして全力で逃げ出した。もっと普通の妖怪が出てほしかった。なんというか、生理的嫌悪をものすごく感じる妖怪で、ミミズが何千匹と寄り集まって、表面には血管が脈動していて...何が言いたいかというと、ものすごくキモ怖い。
「キシャアアァァァ!!!」
「こっち来んなー!!」
背中を向けて全力で逃げながら、ふと思いついた。臭い物には蓋をする。ではなく、臭い物は根元から断つべき。
「神妖混合『マスタースパーク』!死にさらせえぇぇ!!」
牽制にマスパを放ち、次にイメージするのは、巨大な柱。
「御柱!」
空から巨大な柱が一本降ってきて、大きな地響きがしてさっきが妖怪が潰されていた。
「は~...疲れた」
神力を八割がた使い切ってしまった。正直キツイ。やっぱり半分人だと、出力を全開にしたら反動に耐え切れないな。
「藤原、なんでお前がここにいる?」
地面に転がっていると、懐かしき親友の声がした。
「おお、黒羽。ゆかりんに頼まれて強制的に連れてこられた」
「...紫には後でしっかり注意しておく」
さすがは黒羽、頼もしい限りだ。その調子で奥さんを更正してやってくれ。
「ところで藤原、いつの間にあそこまで力を使えるようになったんだ?」
「神様に手取り足取り教えてもらった結果がこれだよ」
後ろのクレーターと森を貫く道を指差す。
「...本当に人間か?」
「半分はな。それと、お前が言うな」
かなり細く絞ったマスパを黒羽の頭に撃つが、あっさりと避けられて後ろに居た誰かに直撃した。
「あ...」
「気にするな。あいつはあの程度じゃ死なない。分子単位まで刻んだがすぐに復活した」
「なるほど、化け物か」
頭を焦がしてアフロになっている誰かさんを見つめながら言う。
「失敬な、俺は人間だ」
「化け物以上だな。どこの世界に分子単位まで刻まれて生き残れる人間が居る」
「ここに居る」
「なんでやねん」
小さい御柱で頭を殴ってツッコミを入れる。
「ナイス突っ込み」
「そりゃどうも」
がっちりと握手を交わす。新たな友情がここに芽生え...ない。残念ながら人外は刀弥だけでおなかいっぱいだ。