え〜、番外編其の一、其のニの続きとなっております。
飛び飛びですみません。
番外編 其の三
さて、八雲家に来たのはいいのだが、やることがない。家事を手伝おうにも、家事は全て藍がこなしているので手伝いもできない。
「暇だな...」
暇で暇で仕方ない。退屈が人を殺すというが、まさにそのとおりだ。
こういうときは体を動かすに限る。博麗の巫女に倣って理由も無く妖怪退治でもしてみるか。そう思って靴を履き、外へ出る。
「よう、昨日のナイフ返しに来たぜ」
目の前の空間が音をたてて割れたと思うと、零が嬉々とした表情でナイフを投げてきた。
「そりゃどうも」
飛んでくるナイフの柄をつかんでトランクにしまう。全く、物騒なやつだ。
「せめて手渡ししようとは思わなかったのか?」
「全然」
「そうか」
歩いてその場を離れる。こいつに付き合ってると碌な事がない。俺の第六感がそう告げている。
「なあ、結局昨日のは紅が途中で邪魔に入って有耶無耶にされたし。や ら な い か ?」
「断る。店に戻って仕事しろ」
ポケットの中に手を入れて、スペルカードをつかむ。いつでも発動できるように霊力を込めて。
「残念ながら今日は定休日だ」
「こっちの都合は?」
「そっちの都合?何それ美味しいの?」
残念ながら見逃す気はないようだ。頭を消し飛ばせば流石に死ぬか?いやいや、殺しちゃだめだろう。
「まあ、用件だけ言っておく。俺と闘え。どっちが強いか気にならないか?」
「全然」
能力的にも身体的にも不可能だろう。スペルカードのルール外の戦闘で、行動を禁止されれば俺に勝ち目は絶対にない。
「はぁ...護身『スタングレネード』」
閃光と爆音。不意打ちで且つ初見ならば絶大な効果を発揮するが、こいつにはどうなのだろう。
「ヌオオォォ!!目があぁぁぁ!!」
効果は抜群なようだ。感覚が鋭すぎるのも困りものだな。
「それじゃ俺は逃げさせてもらう」
「何!?俺から逃げることは不可能!おとなしく戦え!!」
出た。行動の禁止。だが、既に能力が発動していない結果を作ってあるのでその行為に意味はない。
相手が同系統の能力者ならば、勝敗を分けるのは、どちらの方が能力の使用に卓越しているか。どちらが先に能力を使用するかが大きな分岐
そういうわけでそのまま逃げる。過程を連続で短縮して一直線に逃げる。どこまでも逃げる。
「逃がすかあぁぁ!!」
「な!?」
足をつかまれて地面に投げ落とされた。通常なら視認できる距離ではなかったはずだ。それなのに俺を捕捉して且つ追いつくとは...
「ゲホ...」
地面に叩きつけられて思わず咳きこむ。砂埃で辺りが全く見えない。
「ッチ...仕方ない。惨劇『串刺公』死棘『ゲイボルグ』」
トランクを蹴り上げ、中から空中にばらまかれたナイフに、相手の急所を貫いた結果を付与。槍は心臓を貫いた結果を作ってから投げる。攻撃と相手の位置の補足が同時にできるのでとてもお得だ。
「グァ!」
ナイフの銀閃と槍の機動から相手の位置を割り出す。ジャッカルをホルスターから抜き、連射する。弾が切れたらマガジンを交換してまた連射。ひたすら連射。
「残念、後ろだ」
背後から声がする。だが、騙されはしない。空中に静止した一本のナイフは前方を向いているから。
「前の間違いだろ?神剣『天叢雲剣』」
天叢雲を居合の体制で構え、極限まで抜刀の過程を短縮。無駄に多い霊力を半分以上注ぎ込んで、一気に引き抜く。剣先は音の壁を引き裂き、確かな手ごたえと共に振りぬかれ、注ぎ込んだ霊力を神力に変換して超高密度の弾幕をゼロ距離で叩き込む。
「っつ~...!やってくれたな...」
今のを食らって倒れないとは驚きだ。
「あ、紫」
相手の後ろを指さす。
「え?」
「隙あり」
振り向いたところをねらって首を完全に撥ねる。紅さんには悪いが、これで完全に死んだはずだ。首を撥ねて死なないのは蓬莱人だけで充分。能力を使って体を治す。
「......ッグ!!」
体全体を鋭い痛みが貫く。視線を下ろすと、服が真っ赤に染まり、全身からナイフの刃が...。
「いやいや、ここまでされるとは予想外だったな」
声のしたほうに視線を向けると、首がしゃべっていた。おかしい...なぜ死んでない。
「なんで死んでないのか不思議って顔だな。死ぬことは不可能と設定しただけだ」
「そうか...」
主要血管および内臓の破損はあまりないが、出血が激しい。放っておけば死ぬレベルの出血だが、能力で無かったことにする。
「首を撥ねても死なないなんて、一体どうすれば死ぬんだ?」
「能力を使ってないときなら普通に死ぬぞ?」
「それすらも怪しいな...」
霊力は枯渇までは行かないがかなり減っている。そして相手はいくら殺しても死なない。やっぱり勝ち目はないな。
「俺の負けだ。降参」
残った霊力を限界まで高める。もしも降伏が拒否された時の保険に置いておく。
「昨日と同じパターンか。だが俺は満足していない」
腕を組んでふんぞり返る零。
「だろうな。だが、お前は戦意を無くした相手に手を出すのか?」
「うぐ...それを言われるとちょっとな」
どうやら交渉は成功のようだ。断られたら分子単位まで切り刻むところだったが、それはしなくて済みそう。
「けど、戦意を無くしてるならどうして霊力をそこまで高める必要がある?」
「降伏が受け入れられなかった場合の保険だ」
「もしも俺が断ってたら?」
「分子単位まで切り刻んでから逃げてた」
高めた霊力を元に戻す。警戒されては降伏した意味がない。
「...ずいぶんとえごいことを考えるな」
「勝てないのなら足止めをして逃げろ。祖父からの教えだ」
「さすがに分子単位まで切り刻まれたら再生に時間がかかるな」
「再生できるのか」
もはや化け物だな。正しく化け物だ。
「当然だ。魂を消されても用意さえしてれば復活できる。あとお前に言われたくない」
「考えてることがわかるのか」
「なんとなくな。それじゃもう一戦」
「そうか。『次元の刃-Easy-Normal-Hard-Lunatic-』とりあえず一回死ぬか頭を冷やせ」
手持ちのスペルカードを全て発動。本気で分子単位以まで刻む。そうすれば頭も冷えるだろう。
スペルカードの効果範囲内にあるものが一瞬で消滅する。当然至近距離にいた零も例外ではない。
本気になっても勝てる相手でないことは確か。なので負けでいいので逃げる。まあ、放っておけばそのうち再生するだろう。
「あ~...まずいな...」
いま思えば、ここは八雲家の庭。そして限定したとはいえ、能力の効果範囲はそれなりに広い。そして、能力の効果範囲内にあるものは分子単位まで刻まれて再生は(零を除いて)不可能。そして霊力は今ので完全に切れた。
つまり、今倒れても誰も拾ってくれる人がいないということだ。
「はあ...妖力解放。霊力が回復するまでの間、行動の補助」
一気に体が軽くなる。そして髪の色が黒から金色に...こうなるから使いたくなかったんだが...
「やってくれたな...二回目だぞこら」
頭だけ再生して言葉を発する奇妙な物体。とりあえず気色悪いので踏みつぶすことに。
「おおっと!危ない危ない。殺す気か?」
「どうせ再生するだろ?」
「そういう問題か?」
「そういう問題だ。あと、一つ言わせてもらうなら、お前が降服を受け入れるまで殺すのをやめない」
ナイフを投げるが、簡単に回避される。当てるつもりはないからいいが、それでも鬱陶しい。たとえるなら、自分の周りを人語を話す人の頭ほどある蠅が飛び回っているような感じ。
「わかったよ。降服を受け入れる。あと、その金髪はどうしたんだ?」
そういうと、完全に人型に再生した。
「霊力が完全に切れたから妖力を補助に充ててる。この状態だと、人よりも妖怪に近くなるからな。つまりはそういうことだ」
「なんだ、そういうことか...って危ねえ!!」
ナイフが勝手に飛んでいく。
「この状態だと能力の制御が不安定になるからな」
ついでに言うと、弾幕も勝手に発射される。あたりに魔法陣が展開され、そこから大量の弾幕が飛び出す。弾種は炸裂弾。イメージとしてはクラスター爆弾が近いな。
妖力を普段全く使わないので、体が勝手に排出してるのだと思う。
「まあ、しばらくすれば納まる。そういうわけでしばらく避けてろ」
「まじかよ...」
「悔いるなら自分の行いを悔いろ。ほら、よけないと死ぬぞ」
話している間にもどんどん密度を上げていく弾幕。ちなみにすべて能力のおまけつきなので絶対に回避は不可能。おとなしく弾幕の雨に打たれろ。
「なんてな。禁術『絶対領域』!弾幕及び能力の行使は不可能だぜ!」
すべての弾幕が消える。なるほど、その手があったか。
「それにしても、なんでその能力そんなに燃費が悪いんだ?」
「さあな。俺としてはそっちの能力の燃費の良さが信じられん」
「そうか?」
「そうだ」
能力で無理やり支えていた体が限界を訴える。それもそのはず。人間の体のまま人間の限界のさらに数倍の動きをして、無事でいられるわけがない。それを能力で常に修復してやっとまともに動けるというのに、能力を禁止されれば当然...
「ゲホ...」
反動が来るに決まってる。血を吐いて地に倒れる。我ながらうまいことを言った。
「おい!大丈夫か!?」
「この状態を見て大丈夫だと思うのなら、脳神経外科へ行くか永遠亭で薬の実験台にされることををお勧めする...」
「それだけ軽口が叩けるなら大丈夫だな」
「...誰のせいだと思ってやがる。あと大丈夫じゃねえ」
体は動かないが、なんとか口だけは動かせるので軽口を叩いているだけだ。
「もちろん俺のせいだ。で?」
「さっさと能力行使を解禁してくれ。でないと死ぬ」
「嫌だと言ったら?」
「さあ、どうなるだろうな」
「まあ、俺もこれ以上痛い思いするのはいやだしな。能力行使は可能」
能力で体を修復して立ち上がる。まったく、殺す気か?
「殺す気は無いな」
「......相手するのも面倒だな...霊力も切れて疲れた。寝よう」
面倒なので目を閉じる。本気でダルイ。結界を張ってから意識を落とす。
はぁ...ゆっくり休めと言われてこちらに来たのに、休まるどころか体を酷使する羽目になるなんて...紫、恨むぞ。そっちに帰ったら嫌という程相手してやるから覚悟してろ。