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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
三名様スキマツアーへご案内 中之三
「すまんな藤原。紫の悪ふざけと俺の不手際で文字通り人生台無しにして」

 縄にぶら下がっている藤原に対して謝罪の言葉を述べる。先ほどはあまり考えていなかったが、こいつが人間卒業おめでとうになった原因。直接の原因は幽香。間接的な責任は紫と俺にある。
 まあ一応悪いとは思うわけで...

「はぁ...何回目だそのセリフ」
「永遠亭を出てから二百十六回目だ」

 自信を持って言い切る。だが、実際は数えていない。数は完全に適当だ。

「きっちり数えてんのかよ…」
「いや、適当だ」
「適当だったのかよ!」

 鋭いツッコミ。縄が揺れる。

「っと、暴れるな。手が滑って潰れたトマトになってもその責任は取らないからな」
「そりゃ怖い。で、俺が人間卒業を果たしたことには責任は取らないのか?」
「そうだな...国家予算クラスの価値のある宝石をプレゼントってのはどうだ」

 二十カラットのブルーダイアを、そこにあるという結果を出して、藤原の目の前に紐をつけて下ろす。無論冗談だ。金で解決できるような問題ではない。

「やめてくれ。金で解決できる問題でもないだろう」
「その通り。もちろんさっきのは冗談だ」

 金を望むのなら本気で渡していたがな。

「償いとして、大抵の望みは叶えよう。具体的に言えば死者の蘇生、人心操作以外のこと以外はほとんどできる。殺人は受け入れない。それで、お前は何を望む?」
「そうだな、お前が自責の念で自殺しないかが心配だ」
「そんなものがあったら今頃自殺してる。九年ほど前にな」
「さすがは黒羽。言うことが違う」
「もう一度聞く。何を望む?」

 縄にぶら下がりながら一人で頷く藤原に問いかける。

「友人関係の破棄」

 なるほど、そう来たか。

「いいだろう」

 焼き鳥が食えなくなるのは痛いが、別にそれがないと生きていけないというわけでもない。もともと少ない友人が減るというのもかなり痛いが、その程度で済むのなら安いものだ。快く受け入れよう。

「ちょっと待てゐ!冗談だって!!本気にすんなよ!」

 大慌てで撤回する藤原。言っちゃ悪いが少し滑稽だ。

「そうか。本気でも別にかまわなかったが」
「ハァ...お前の慌てる姿を楽しみにしてたんだが…」
「演技でいいなら」
「演技ならいらない。願いは…そうだな。今後の友人関係の存続。これだけでいい」
「…本当にそれでいいのか?他にも一生かかっても使い切れない国家予算クラスの財産の譲渡とかいろいろとあるぞ?」

 先ほどのブルーダイアをちらつかせる。売れば確実に膨大な金額が手に入るだろう。

「使い切れないなら意味ないだろ」
「......しかし、本当にそれだけでいいのか?自分が人間卒業する原因の一端に対して何の対価もなしに許すなんて」
「俺は心が広いんだよ。それとも何か?いろいろと要求されたいのか?」
「その方が後のわだかまりが少なくて済む。無論、そういった要求で全てが解決できるというわけではないことも分かっての発言だ」

人によって差異はあるが、そういった行為で解決できるのは全体のおよそ一割と俺は考えてる。

「なるほど、何も考えてないわけじゃなさそうだな。
 そういや...反省してる割にはきれいな奥さんといちゃついてたよな。年齢=彼女いない歴な俺の前で」
「それについては全く知らなかった。すまんな」

 記憶が正しければこいつは結構人気者のはずだが…やはり家の職業がアレなのか?焼き鳥屋なのが悪いのか?

「思い出したら腹が立ってきた...降りたら一発殴らせろ。それで万事解決だ」
「了解。人里についたらな」

 しかし、本当にこれだけでいいのだろうか。直接の原因は幽香にあるが、助けなかった紫にも無論責任はある。そして幻想郷に連れてくるように頼んだ俺にもだ。

「お、あそこに居るの、涼子じゃないのか?」
「ん?ああ、そうだな」

しばらく考えながら飛んでいると、アリスと涼子を少し遠くの方に見つけた。
涼子はフラフラと風に煽られて体勢を崩しているが、隣にいるアリスに助けられながらなんとか飛んでいる。

「しかし、俺とはかなり差があるな」
「そうだな」

あっちは人形に手伝ってもらいながら。こっちは縄にぶら下がりながら。前者はメルヘンチックだが、こっちはアニメなどで怪盗が逃げる時に使うヘリに付いた縄梯子。ワイルドな感じがする。

「向こうの方が随分と快適そうに見えるな」
「見えるじゃなくて、確実にぶら下がるよりはよっぽど快適だろう」
「なあ、俺にも飛べる方法とかあったりするのか?」
「そうだな」

トブ薬なら永琳に頼めば都合してくれるだろうが…飛ぶための薬はちょっとわからないな。

「…今の所は無いな。もし飛べたとしても慣れるまでは身体能力に任せて地面を走る方が速いだろうな」

藤原が無理でも、隆二なら…あの異常すぎるテンションでどうにかしそうで怖いな。

「今お前の考えている事を当ててやろう。ずばり!俺に殴られるのが怖い。どうだ?」

何を思ったのかは知らないが、自信あり気に言い切る藤原。

「残念ながら大外れだ。一度位は幽香に殴られたんだろう?」
「あ〜、一度だけ。勘に任せてガードしたけど、腕の骨が粉々になった。それが何か関係あんの?」
「それをまともに腹に食らった事があるんだ。お前に殴られる程度が怖いと思うか?」
「なるほど…よく無事で居られたな」
「無事じゃない。内蔵が破裂した」

あの時ショック死しなかった自分を褒めてやりたい。

「…訂正。よく死ななかったな」
「能力でなんとかしたからな」
「マジで?お前能力持ちだったの!?」
「そういえば、言ってなかったな。というか驚く所か?」
「いやいや、自分の友人が能力持ちだったら普通驚くだろ!」

…確かに能力持ちは外ではほとんど居ないし、驚く事、なのか?

「なあなあ、能力の名前教えてくれよ!」
「何でだ?」
「いいじゃんよ〜」
「いや、理由を聞いてるんだが」
「ズバリ被害者の特権」
「……理由になってるのか?」
「訳もわからずに連れてこられて人間卒業して、俺ってば不幸な子…」

……幽香に襲われて生きていられるのはかなりの幸運だと思うが?

「わかったよ。言えばいいんだろう、俺の能力は「おーい!とーやー!」」

どうやら涼子もようやくこちらに気が付いたようだ。大声をあげながら手を振っている。
ナイスタイミング。能力を教えずに済んだ。

「説明はまた今度。さっさと涼子拾って人里に行くぞ」
「仕方ねえな…」
「そう言うな。また今度機会があれば話す」

飛ぶスピードを少し上げてアリスに近付く。

「始めましてお嬢さん!俺の名前は藤原流斗と言います!よろしければ僕とつk「おっと手が滑った」ギャアアアァァァァァァ!!!」

縄を持つ手を緩めて藤原を落とす。当然地面に落ちる直前に縄を握り締めて落下を止める。

「今の何?」

 誰?ではなく何?と聞くのはなかなか的を射た質問だと思う。さすがは人形遣いだ。複数の人形を一度に操るだけあって頭の回転も速いのだろうか。

「俺の友人だ」
「…随分と個性的な友人ね」
「そうだな。その点については同意する」

藤原があんな性格だったとは俺も知らなかった。もっとまともな性格だったと記憶しているが、認識を改める必要がありそうだ…

「そうだ、涼子を保護してくれて感謝する。おかげで探す手間が省けた」
「あの子の持ってたナイフと護符に興味があったから、それを対価に助けただけ。お礼を言われるような事じゃないわ」

そう言って腕を軽く振ると、人形が一体。ナイフとお守りを持ってアリスの下へ飛んで行った。

「それでも、だ。お前は対価を貰うだけ貰ってそのまま放っておくような事もせず、きちんと保護していてくれた」
「ただの気まぐれよ」
「気まぐれでも保護してくれた事には変わりない。改めて、感謝する」

頭を下げるお守りは弱い妖怪は寄せ付けないが、一定以上の力を持った妖怪(具体的に言うとリグルやミスティアクラス)が一定範囲内にいれば逆に寄って来るようになっている。外の世界で習う護身術程度で妖怪がどうにかなるとも思えないしな。

「だからお礼はいいって言ってるでしょう。私は対価が魅力的だったから助けただけなの」
「俺の意見を言わせてもらうと、過程はどうでもいい。保護したという結果があるだけで十分礼を言うに値する」
「…まあいいわ。そこの人間に貸した人形、後で返しに来てね。お礼はこのナイフと護符を譲ってもらった。それだけで十分よ」
「それでいいなら、まあいいか。涼子、人里に行くから付いて来い」

後ろで慣れない飛行にあたふたしている涼子に声をかける。

「そっちに行きたいんだけど、ちょっと上手く行かないんだよね〜。おっと!」

足を支えている人形の操作が上手くできていない。あれでよく飛べるな…

「無傷で返ってくるか激しく不安なんだけど…」
「たぶん、無理だな」

 あの調子だと、何度か木にぶつかるだろうな。

「もし壊れたら図書館の本を一冊持って来なさい」
「パチュリーが許してくれたら持ってこよう」

 たぶん、新しい魔法の実験台にされるだろうな...もしかして俺って結構不幸なのか?

「お前が不幸なら俺はいったい何なんだこのヤロウ」
「ずいぶんとお早い復帰で」
「よくも落してくれたな」

 怒りのオーラがにじみ出ているが、まあ放っておいても大丈夫だろう。自分から潰れたトマトになる自殺願望者というわけでもないだろうし。

「後でおぼえてろよ」
「断る。じゃあなアリス」
「ええ、また今度」

 別れを告げて涼子を拾う。
 そのまま飛ばせておいてもよかったのだが、見ていて不安になるので縄を掴ませて俺がそれを引っ張るという形で飛んでいる。

「黒って飛べたんだ」

 目を丸くして驚く涼子。だが、そこまで身体能力も高くないのに幻想郷で空を飛べないのは死活問題に近い。まともな道はほとんどないし、道中には獣どころか妖怪が出る。空を飛べば妖精がたまにやって来るがある程度の飛行技術があれば問題はない。

「そういえば、呼称が変わってるぞ」
「気にしない気にしない。で、流斗の雰囲気がなんかおかしいんだけど」
「この色男のせいでちょっとな。ああ、思い出したら妬ましくなってきた...」

 確かに少しご立腹のようだ。あと、妬ましいってのはなんだ?

「詳しくは人里に着いたら話す。今のうちに何を聞いても驚かないための心の準備をしておけ」
「うん、まあわかった。妖怪にでも襲われて人間卒業って感じ?」

 どうやらこいつはやたらと勘が鋭いようだ。

「百点満点中六十点だな」
「そーだなー。四分の三ぐらいは人間だ。こっちでの洗礼というか、日常茶飯事なんだろうし、黒羽を恨むのは筋違いってことはわかってる。
 だがな、やっぱり恨まずにはいられないんだよ。へこんでる俺の前できれいな奥さんといちゃいちゃしやがって...降りたら二発だぞこの野郎!」
「おい、一発増えてるぞ」
「知るか」

 まあ、一発も二発もそう変わらないか...

「私のこと忘れてない?」
「忘れてない。言っておくが、その人形、絶対に壊すなよ。一体につき何百万もする本を一冊持っていかなきゃならなくなる」

 さすがに魔導書なんて言えるわけがない。もし魔法が使えることがばれれば教えてくれとせがんでくること間違いなしだ。そんな面倒なことはもうしたくない。グリモワールも書いてないのに弟子をとるなんてできるか。

 ちなみに価格は歴史書としての価値。魔法使いとしての価値観なんて俺にはわからないからな。

「「マジで!?」」
「学術的価値、歴史的価値、あと保存状態からするとその位はする」
「へ~...」
「藤原、貰って行こうなんて考えるなよ?」

 いやな笑みを浮かべている藤原に釘を刺しておく。仕返しをされるのは構わない。だが、魔理沙二号が生まれるのは勘弁してほしい。

「人里まであとどのくらいかかるかな?」
「さあな。俺にはわからん。黒羽、お前が一番ここらに詳しいんだろう?」
「......」

 実は紅魔館と迷い家の周り以外はあんまり覚えてない。かろうじて各所への直線ルートがわかるだけだ。

「おい!」
「先に謝っとく。迷ったらすまん」