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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
 宴会編はこれで終わりです。あと何話か投降したら緋想天に入ろうと思っています
宴会 後編
 酒を運んでまわっていると、一人で月を見ながら飲んでいる美鈴を見つけた。窓から入る月の光を反射する赤い髪。そしてその愁いを帯びた表情は、不覚にも見惚れそうなほど綺麗だった。

「はぁ...俺としたことが...」

 妻がいるというのに、他の女に見とれてどうする。ましてやあの門番だぞ?いつもいつも昼寝してばかりの…確かに外ではなかなか見かけないほどの美人だというのは認めるが…
「ひゃあっ!!な、なんですかいきなり!!」

 無意識のうちに気配を消していたようで、突然後ろから声が聞こえたことに驚いたようだ。さっきまでの雰囲気は欠片も見当たらない。

「ああ、ただの独り言だ。邪魔して悪かったな。追加の酒は置いとくぞ」
「はぁ…気配を消して動き回るのはやめてください。心臓に悪いですから」
「脳天にナイフが刺さっても死なない癖に何を言う」
「私は体が丈夫なだけで、死なないわけではありません。いつかポックリ逝っちゃうかも知れませんよ?」
「一つ言わせてもらうと、お前が死ぬところが想像できない」

 体を木っ端微塵にされても死にそうにない。そんな気がする。

「む~…今に始まったことではないですけど、ちょっとひどいです。
あ、そうだ。刀弥さん、もう少し口調を柔らかくしたらどうですか?人里で子供たちに教鞭をとる時みたいに」

 口調が荒いのは確かだが、今となってはすっかり定着してしまったこの口調だ。いまさら変えるのは難しい。

「難しいが、一応考えておく」
「そうです。千里の道も一歩からと言うように、少しずつ。まずは最初の一歩を踏みしめないと始まりません。頑張ってください」

 まあ、その通りだ。言ってることは正しい。まさにその通りだと言える。だがな...

「お前と小町にだけは言われたくないセリフだな」
「あはは…今日は宴会なんですからそういうことは言わないで下さいよ」
「ああ、いつもの癖で」

 思ったことを率直に口に出す。この癖は直したほうがいいとは思う。だが、それはまあ仕方がないだろう。小さい頃からの癖だし。

「ところで、刀弥さんはいつになったら幻想郷への永住を決めるんですか?」
「永住はしない。外にも家があるし、空気は悪いが外の世界にもいいところは沢山ある。それこそ見せてやりたいくらいにな」

 レミリアとフラン、咲夜を連れて商店街に行った時には、三人とも驚いていたものだ。まず一番に人の多さ。空から見ればまるで人間が蟻の群れのように見えないこともないだろう。

 次に...まあ娯楽。騒がしいところは好きではないが、どうしてもとフランが言うので、仕方なく寄ったゲーセンで適当にガンシューティングをワンコインで一発も外さずクリアしたところ、見事ランキング一位になってしまった。そのせいで『日本のホル・ホース』などという迷惑な二つ名を周囲の観客から不本意ながらつけられてしまったが...

 三つ目、まあこちらでもあるが、学校。好きでもないが嫌いでもない。少々苦手な相手はいるが、それでも相手をしていてそれなりに楽しいというのもある。まあ、少なくとも友人が俺よりも長生きするということはない。別れはそれなりに早くに訪れるだろう。それはまあ覚悟の内に入っているからいい。だから、別れるまでは楽しい時間を過ごしたいと思う。楽しくないことも稀に...いや、結構な頻度であるが...主に隆二。たとえ相手が族だろうと本職だろうと893だろうと、自分で楽しそうと思った相手にはためらわずに喧嘩を売る。そして毎回巻き込まれるのは俺だ。
 藤原の焼き鳥は美味いから出来ることなら飽きるまで食ってみたい。仲が特別に良いわけではないが、それなりに仲は良い。友人以上親友未満といったところだ。ちなみに隆二は友人ではない。断言しておく。あれは友人などという高尚な存在ではない。
 涼子、あいつは...微妙な仲だが話をしていて楽しいと思うことはまあ少しはある。
 涼宮、はっきり言ってどうでもいい。魔法の暴発で死にさえしなければどうでもいい。
 羽葉、藤野先輩、上記と同じ。
 先生、どうでもいい。どうでもいいので早く結婚して子供作って退職して、幸せな人生を送って子供と孫に囲まれて幸せに死ね。一応、恩師に近い存在なので映姫様に話は通しておいてやる。

「結構、いいところもあるんですね」
「悪いところのほうが確実に多い」
「確かに悪い所も無い事はないですが、いい所も結構あるはずです。というかそんなに悪い所そんなにありますか?」
「いい所、例えば?」
「えっと、子供に優しいです」
「そこまで優しくはない」

気に食わないガキは現実というものの恐ろしさをたっぷり教えている。

「意外とお人好しだったり」
「……」

言われてみれば、妖怪に襲われそうになっている人を助けたりは普通にするしな…そうなのかも知れない。

「所で紫を知らないか?」
「はぁ...私に聞かれてもわかりませんよ。紫さんがどこにいるかなんて、それこそ予知能力でもない限り」

 どうも美鈴にもわからないようだ。しかし、せっかくの宴会なのにどこにいるのやら。

「後ろよ」
「っ!?」
「ゆ、紫さん!?」

 耳のすぐそばで声がしたのであわてて振り返る。予想通りそこには、いつものようにスキマから上半身だけを出した紫がいた。

「ふふ、いつものお返しよ。それにしても、よくこんな夜中に活動できるわね。私もう眠いわ...」

 小さく欠伸をしながら話す紫、いつもこの時間は寝ているだろう。無理に起きていることはないのに。

「人間二日三日眠らなくても支障はない。と言いたいところだが、本音を言うと同じく眠い」
「私べつに平気ですけど」
「いつも昼寝してるから眠くないんだな」
「そうです。あ...」

 いまさらとんでもないことを言った。という風な表情をして慌てる美鈴。酒に酔って判断が鈍ったな。まあ、いまさら訂正しても遅いが。

(紫、頼む)
(わかったわ)

 紫と声に出さずに話をして、美鈴を少しだけ処罰してもらうことにする。まあ、完全に部外者というわけでもないので大丈夫だろう。

「っつ!?イヤ~~~~~!!!」

 スキマが開き、無数の腕が出てきて一瞬で美鈴を引きずり込む。中を一瞬だけ見たが......アレはきつい。百足、蛾、毛虫、ゲジゲジ、蚯蚓などの不快感を煽るような蟲が中にびっしりと...見なかったことにしたいが、あまりにも美鈴が哀れすぎて忘れることは難しいだろう。阿求ちゃんが見たらしばらくは寝込みそうだな。絶対に忘れられないから。

「やりすぎじゃないか?」
「あら、やるからには徹底的に。それが私なりのルールよ」
「あそこまで徹底する必要は無いと思う」
「そうね。まあ、私の男を魅惑した罪という事で。これ以上やったら精神崩壊しそうだし、そろそろ出してあげましょう」

 紫が扇子を閉じて、軽く振ると、また空間に亀裂が走り、そこから美鈴が放り出される。目を回して気絶しているが、まあ問題はなさそうだ。蟲に刺されたわけでもなさそうだし、放っておこう。

「しかし、あんなに大量の蟲をどこで手に入れた?」
「蛍の妖怪を脅してちょっとだけ譲ってもらったの」

 脅しとは、あまり感心しないな。まあ、俺もよくするから人のことは言えないか。

「それはそうとして、どうして気付いてくれなかったのかしら?ずっとあなたの後ろにいたのに」
「悪かったな。隠れている相手を探すほど気が回らなくて」

 背後にいて気がつかなかったのは、紫が気配を消していたからか、スキマに潜っていたから。それは気付こうにも気付けない。霊夢のような超人的な勘でもない限りはまず不可能だろう。

「ご名答。流石は私の夫ね」
「お前のことを多少なりとも知っていれば誰でも予想がつくだろう」
「あら、そこまで私のことを知っている人はあなた以外にいないと思うわ」
「そうでも無いと思う」

 幻想郷では良くも悪くも紫のことは有名だ。性格が悪いだの式のほうがよく働くだの、確かに事実だが妻のことを悪く言われてあまりいい気がする夫はいないと思う。まあ、そういった奴にはきっちりと脅しを掛けた上で紫のすばらしさを説いてやっている。そのせいか、どうも人里では紫のファンが増えてきている。まあ、その中には一部ヤバイのもいるが...罪と書かれた袋をかぶり、全裸で人里の周りを徘徊する、ある意味妖怪よりも厄介な奴ら。人間なので駆除するわけにもいかず、仕方なく妖怪の餌にしようとしても、あまりのヤバサに虫さえも近寄らない。実に厄介だ。プリズムパー姉妹の長女の演奏で鬱になって自殺でもしてくれたら...映姫様が困るな。
 はあ...打つ手無し、か。自分の行動のせいとはいえ、やはりきついものがあるな。

「なにを考えてるのかは知らないけど、ずいぶんと悩んでるようね」
「ああ、天にも理解できない悩みだ。お前に話せばより深くなるから詮索しないでくれ」
「話しなさい。と言いたい所だけど、聞いたら聞いたで後悔しそうだから止めておくわ」
 
 そうだ。その判断は非常に正しい。聞けば間違いなく後悔する。最悪寝込むだろう。

「まあ、私は宴会をゆっくり楽しんでいくわ。今日は誘ってくれてありがとう」

 手を振ってスキマに消える紫だが、俺は感謝されるようなことはしていない。まあ、妻に礼を言われて悪い気はしないが...

「招待状を書いたのはレミリアだ」

 一人、何もない空間に向けて呟く。横で美鈴が気絶しているが、それはカウントに入れないでおく。
 しかし、心配していたことは無さそうだ。きちんと酒を持ってどこかへ行ったし、宴会を楽しめているのは間違いないだろう。

「持って行ったのはあなたでしょ?」
「確かにそうだが...って、咲夜?」

 なんでここにいるんだ?フランの話ではレミリアについて行ったと聞かされたが。レミリアに無断で勝手に行動するとも考えにくいし…

「ちょっとだけお嬢様に暇を頂いたの。不服だったかしら?」
「いや、むしろ嬉しいくらいだが…」

 様子がおかしい。いつもとなんら変わらない口調だが、身に纏う雰囲気が完全に違う。

「どうしたの?」
「そっちこそどうした」

 口調が少し荒くなる。警戒するようなことはないとわかっているが、それでもいつもと違うものに対しては仕方がないことなのかもしれない。

「ちょっとお酒を飲んだだけよ」

 そう言いながらカチューシャの外れた髪を掻き揚げる咲夜。ああ、いつもと違うと思ったらカチューシャが無い…だけではないな。咲夜が酒を飲むところを見たことが無い。聞いたことも無い。酔ってるのか?

「ええ、そうよ」

 いつもとはまた違った笑顔で肯定する咲夜。なんと言うか、妙に色っぽい…

「うふふ、可愛いわね…」

 時間を止めたのか、いつの間にか後ろから抱きしめられていた。背中に膨らみが当たっている…

「放してくれないか?」
「ダーメ、私が満足するまでこうさせてもらうわ」

 勘弁してくれ、理性が持ちそうにない。

「それじゃあ、ベッドに行きましょう」
「ちょっと待て、なんでそうなる」
「最近ご無沙汰でしょ?だからお嬢様たちが楽しんでいる間に…駄目?」

 前に回りこみ、体を預け上目遣いで見つめてくる可憐な少女。だが、

「駄目だ」

 と言えればどれだけ楽か…

「まだ仕事が「駄目?」……わかったよ…飽きるまで相手させてもらう」
「それじゃあ、行きましょう?」

 妖艶な微笑みを浮かべる咲夜に、俺はなすすべも無く連れて行かれた。はぁ…やはり逆らえないな。

 その後、朝になるまでたっぷりと絞られた。近く永遠亭の世話になるかもな…
基本的に主人公は嫁には逆らいませんし、逆らえません。能力では間違いなく最強でもやはり妻に対しては勝てません。