宴会 準備編 後編
湖の上を飛び、紅魔館に戻ると、いつもとは違い二人の門番が立っていた。
「私が門番なんです!あなたはどこか別の部署を担当してください!」
おかしいな、確か美鈴には庭仕事をやれといったはずだが?
「私は刀弥にここをやれって言われたからやってるの。あなたは庭で花の世話をしなさいと言われたんでしょう?だったらそこをしなさいな」
「確かにそう言われましたが!私はここの門番です!!」
「ルーミアが門番をしている間は元が付くがな」
喧嘩(弾幕)になる前に会話に割り込む。このままだと門が全壊しかねない。主にルーミア(EX)の弾幕で。
「あら、お帰り」
「ん、ただいま」
軽く挨拶をして、文句を言いたげな美鈴のほうを向く。
「刀弥さん!なんでこんな人を私の代役に仕立てたんですか!?」
「理由は至極単純。お前よりも確実に強いから」
より強い方が門番としては役に立つ。単純な妖力だけでも大妖怪に匹敵するほどの妖怪と、格闘だけがとりえの中国、どちらが弾幕勝負で強いか。それは人里の人間でもわかるだろう。
「私が本家です!」
「一時的な雇用だ。一ヶ月程度我慢すればそれで済む」
そういえば、一つ気になることがあったな。
「ルーミア、もしやとは思うが、寝てないよな?」
「寝てないわ。門番が寝て侵入者を通したら門番の意味がないじゃない。本は読むけれど」
「素晴らしい。今の言葉聞いたか美鈴?」
「門番が番をせずに読書をするなんて何事ですか!」
「その言葉、読書を居眠りに変えてあなたにお返しするわ」
なるほど、そう返すか。なかなか痛いところを突くな。確かにその通りだ。
「うぐ……居眠りじゃなくて「午睡?一緒じゃない。寝るなら門の前じゃなくてベッドか布団でどうぞ」うう…」
「その通りだ」
「もういいです!どちらが正しいか、手合わせで決めましょう!!」
……勘弁してくれ。後始末が大変だ。
「ええ、受けて立つわ」
「死なない程度に且つ建物に被害が行かないようにしてくれればいいぞ」
「雑魚相手に本気を出すほど落ちてないわ。十パーセント程度で十分よ」
「いいだろう。それじゃ、立会人俺で、始め」
空に火球を打ち上げて、破裂させる。まあ、単にでかい花火だ。
「行きます!三華『崩山彩極砲』!!」
轟音と共に美鈴がスペルカード宣言。一気に接近して勝負を仕掛ける。
「甘いわね」
そうルーミアが呟くと、辺りは光が一切届かない深海のような暗さになった。これは、美鈴終わったな。
「なっ!卑怯者!姿を見せなさい!!」
「ふふ…お馬鹿さん」
ゴン!と鈍い音がして闇が解かれる。あっという間だったな。
「どう?」
「文句なしでお前の勝ちだ」
闇が解かれて出てきたのは、大剣を肩に担いでいるルーミアと、頭に大きなたんこぶを作って地面に倒れている美鈴だった。血が流れていないところを見ると、どうやら大剣の腹で殴られたようだ
「それにしても、弾幕じゃなくて肉弾戦を挑んでくるとは私も驚いたわ」
「美鈴は弾幕じゃなくて格闘が本領だからな。だが、よく美鈴の気配探知から逃れられたな」
「簡単よ。闇は私の世界。闇の中は私の体内と同義。たかが気配探知なんて、闇全てが私なんだからその全てに翻弄されて役に立たないわ」
虐めだな。まあ勝負を挑んだのは美鈴だから仕方ないといえばそうだが、流石に同情を禁じえない。
「なるほど。だが、俺のときはそうしなかったよな?」
「お腹が減ってたから何も考えずに闇雲に襲い掛かってたのよ」
「今やったら負けるのは「私よ」これまたなんでだ?」
「一度種明かしをしたから対策を取られればそれでおしまい。あなたの能力ならいくらでも対抗策を練れるでしょう?」
なるほど、確かにそうだ。闇を光であるという結果で上書きすれば、なんとかなるな。世界の主要構成概念を弄るのは流石にきついだろうが…
「…そこで何をしている」
視界の隅で明らかに季節はずれな蛍が飛んでいたので、魔法で火の玉を作り出す。
「うげ!あの人間だ!」
蛍がリグルに化けたので、火の玉を握り潰して話しかける。
「なんだ、リグルか…どうしたんだ?」
俺はそこまで脅えられるようなことをした覚えはないんだが…
「さっきの火球が原因でしょう(主な原因は別だけど)」
「そうか」
これからは威嚇行動も少し控えよう。怖がられるのはどうでもいいが、変な噂が立ったら困る。
「え、宴会があるって聞いたから…」
「出たいのか?」
「…え?あ、うん…まあ…」
そうだな…酒は足りないが、ジュース程度ならたくさんある。つまみは作れば問題ないし…
「いいぞ「本当!?」ただし、少し条件がある」
「うぐ…」
顔をしかめるリグル。少々聞き方が悪かったか?
「ちょっとだけ宴会の準備と後片付けを手伝ってくれるか?」
「え?そんなのでいいの?」
「ああ。人手もそんなにないしな。足りないというわけではないが、十分というには少し手が足りない。そういうわけで、どうだ?」
「うん!」
いい返事だ。家事ができるとは思えないが、教えればなんとかなるか?
「子供には優しいのね」
「危害が無ければな。ただし、問答無用で襲い掛かってくる相手にはそれなりの対応を取る」
腕を振ってナイフを袖から取り出す。
「ふふふ…」
なぜか意味ありげな笑みを浮かべるルーミアだが、とてつもなく怪しい雰囲気がする。普通の男ならこれで落ちるだろうが、紫で耐性が付いているのでどうしても裏を考えてしまう。
この目は、面白い得物を見つけた子供の目だ…
「まあ、こちらから手を出すことは無いから安心しろ。というかそっちからも手を出そうと思うな。体が思わず反応しそうになる」
直感でそういうのを感じ取れるようになってしまったので、正直やめてほしい。殺られる前に殺れ、というこちらの常識が染み付いてしまっているのでどうしてもスイッチが意図せずに切り替わってしまいそうで怖い。
「ならいいわ。油断してて食べられちゃったりしたら大変だもの」
「肉は食べるが食用のものだけだ」
「うふふ…」
「……」
すこし気まずい雰囲気になってしまった。さて、どうするか…
「あ、あの~…」
「ん?ああ、どうした」
少しだけスイッチが入りかけてた。危ない危ない。
「その人…もしかしてルーミア?」
「そうよ。蟲のお姫様」
さっきとは打って変わり、急にやわらかい雰囲気になった。どっちが本性なんだか…
「……ルーミアだけど、ルーミアじゃない…誰?」
「封印されてた本来の姿らしいが、ちょっと捕食されそうになったところ抵抗したら、偶然、運悪くリボンがほどけてな…」
「なんでリボンが解けてこうなったのか、教えて」
「あのリボンは封印だったらしい。それをうっかり解いてしまったから、元に戻るまでの間紅魔館で保護(監視)している」
紫に任せてもいいかと思ったりもしたが、紫に任せると一緒に変なことを企みそうで不安だ…
「そーなんだー」
「衣食住もしっかり提供してくれるし、いっそ完全にここに就職しようかしら?」
「勘弁してくれ…」
ルーミアとレミリアが正式に顔を合わせたときには…胃に穴が空きそうだった…それが毎日続くとなると…心労で死ねる。
「冗談よ(半分)」
「ならよかった…リグル、付いて来い」
門を通り、庭を抜けて玄関ホールに入る。
「…ルーミア、元に戻るんだよね?」
「ああ。戻る。一ヶ月だから…もう数週間ほどだな。
それじゃあ何をするかは咲夜に聞いてくれ。なにか困ったことがあったら最寄の妖精メイドに俺を呼ばせればいい。咲夜」
玄関に備え付けのベルを鳴らすと、咲夜が一瞬で出てきた。便利な能力だな。時間の操作…
「何?」
「リグルが宴会の準備と後片付けを手伝ってくれるそうだ。報酬は宴会への参加許可」
「よ、よろしくお願いします!」
ずいぶんと緊張しているようだ。まあ、咲夜は確かに美人だし、無理もないか。
「そんなに固くならなくてもいいわよ。それじゃあ刀弥、料理お願い。リグルちゃんは…そうね。テーブルを出すのを手伝って」
「ん、わかった」
「はい!」
咲夜とリグルと別れ、厨房へ歩く。
青年移動中…
「さてと、何から作ろうか」
厨房へ着くと、結構な量の食材が並んでいた。この内のどの位が幽々子の腹の中に収まるのやら…
しかし、一人で作るには妖精メイドの手伝いがあってもきついな。レミリアは忙しいだろうし、パチュリーは論外。あいつが料理できるとは思えん。知識はあっても実践することがなさそうだ。小悪魔さん、一応呼んでおこう。フランは…微妙だな。
「そこの妖精メイド、図書館に行って子悪魔さんを呼んできてくれ」
「はーい!」
早速料理に取り掛かろうとすると、聞き慣れた音がした。
「どうしたんだ紫。宴会にはまだ早いぞ?」
後ろを向かずに材料を切り分ける。
「ちょっとだけお手伝いをしようと思ったの。愛妻料理、食べたくない?」
「興味はあるが、今日作るのは宴会の料理だ。ゆっくり味わって食べれるときに頼む。あと手伝うならちょっとじゃなくて三分の一程度はしてくれ。ついでに藍もつれてきてくれるとありがたい」
そもそも料理ができるのかも不安だ。今は藍がいるが、いないときには何を食べていたのだろうか…まあ、人もあるだろうな。だが、自分で料理して食べるというのが想像できない。一日の半分を寝て生活する紫が、そんなことをするとは思えない。
「仕方ないわね…藍」
「紫様の命令なら仕方ないな。手伝ってやる。感謝しろ」
「作り終わったら感謝するから早く手伝ってくれ」
「どうしたんですか刀弥さん?」
厨房の扉が開いて小悪魔さんが入ってきた。
ちょうどいいところに来たな。
「小悪魔さん、料理できる?」
「え?まあ、一応はできますが…」
「だったら手伝ってくれ。量が予想以上に多い」
「…失敗しても知りませんよ?」
「食えれば問題ない。紫はそっちの食材を紙に書いてある通りに調理してくれ。藍も同じく。小悪魔さんは俺が指示するからその通りに」
「人使いが荒いわねえ」
「猫…じゃない、狐の手も借りたいくらいなんだ。我慢してくれ」
「何故私が…」
「うるさい。黙ってやれ」
「はい!」
「それじゃあ、何をすればいいんでしょうか」
「ああ、それをこうして、あれをローストしてくれ。焼けすぎないように注意して」
「わかりました」
さてと、時間まであと少し。ちょっと急ごうか。