今回は「魔神三十二号様」の「平凡少年が幻想入り」とのクロスオーバーとなっております。
もちろん許可は頂いております。
番外編 其の一
「刀弥、少しお願いがあるんだけど、いいかしら?」
紅魔館で掃除をしていると、突然目の前に紫が出てきてそう言った。
「命に関わらない程度だったら何でもいいぞ」
掃除用具を片付けてシートと抹茶と羊羹を出す。
「絶対にないとは言い切れないけど……八割は無いわね。あら、美味しいわねこの抹茶と羊羹」
その程度なら、何とかなるだろう。とても不安だが。
「話を聞こう」
「過去の幻想郷に行ってきて欲しいの」
「ふむ……いいぞ」
「本当にいいのね?」
「断ってもどうせ無理やりに連れて行くんだろう?」
「その通り。よくわかったわね」
「なんとなくだ。で、いつ行けばいいんだ?」
「今すぐによ」
紫が口を開いた瞬間、スキマに飲み込まれた。
「っと、もう到着か。意外と早いな」
スキマから出た場所は森の中。魔法の森ではなく、感じる気配から察するに、人里周辺の森のようだ。
「せめて、どこへ行けばいいか位教えてから送ってくれればいいのに…ッツ~!!」
そう呟くと、頭に結構な重さのあるものが当たり、その場にうずくまる。
「何だ?一体…トランク?」
降ってきたものを確認すると、そこには大きなトランクがあった。早速開いてみる。
「…服に下着類、それとナイフが100本近く。短槍が一本、あとは、手紙?」
ともかく、今状況を少しでも理解できる情報が書いてあることを願いつつ、手紙を開く。
『刀弥へ、この手紙を読んでいるということは無事に着いたようね。あなたをそこに送った目的は、休んでもらうため。私たち全員で決めたことだから文句は無いわね?一週間ほど経ったら迎えに行くわ。
ちなみに、あなたの今いる場所は、いえ、時間はと言ったほうが正しいわね。私たちの世界の時間軸からいうと過去に当たるわ。数百年ほど昔。そっちの『私』には話をつけてあるからそこを訪ねなさい。
愛しのゆかりんより♡』
「休め、か…北海道程度ならまだしも、時間旅行は少しきついぞ。
それに落とすならもっと人里近くか『こっちの』紫のところにしてくれればいいのに」
こんなところでは妖怪に襲われる可能性もある。一刻も早くここから「グルル…」…噂をすれば影か。
魔槍『ゲイボルグ』
トランクから短槍を取り出し、体長五メートル程度の妖狼にむかって投げる。
木の幹を貫通するくらいの力で投げたが、あっさりと回避された。
「ギャン!!」
が、槍は見事に妖狼の心臓を貫通した。結果を作ってから投げたので、それも当然。
絶対に避けられない。避けても必ず当たる。
「よっと、次が来る前に、飛ぶか」
槍を抜き、血を拭いてからトランクに収納する。周りを一度見回してから、近くの木の枝に飛び乗り、それを蹴って空に飛び上がる。
「……過去だから人里もそこまで大きくはないか。全く見当たらない」
空に飛び上がれば人里も見えるだろうと思っていたが、残念ながらそうでもないようだ。見渡す限り緑の森林が広がっていた。
「はぁ…」
一度大きくため息をつき、高度を上げる。これで見つからなければ今日は野宿だ。
「ダメか……野宿決ってッツ!!」
突如爆風に襲われて、体制を崩して墜落しそうになる。
「危ないな…」
一体どこの妖k……
「ちょっ待て!話せばわかる!!頼むから抑えてくれ!!」
「知らん。死ねこの野郎」
訂正、人間だ。弾幕ごっこをしている以外は普通の人間だ。
「そこのあんた!」
「ん?」
追い掛け回されている男から声をかけられた。
「ちょっとたすk「断る」ひでぇ!」
変に介入してとばっちりを食らうのは勘弁して欲しい。
「さーて、観念したか?紅」
「ッツ!冗談じゃねぇ!!寝起きの藍がかわいすぎてついモフモフしちまっただけだろう!?」
藍?幻想郷で藍といえば一匹しかいなかったはず。過去の世界だから他の誰かが藍という名前の可能性もあるが……モフモフといえばアレしかいないはず。
「モフモフするときは二人で、という鉄則を忘れたとは言わさんぞ。とりあえず一発殴らせろ」
「いや、零、お前の一撃食らったら普通に死ねるから」
「知らん。大人しく殴られろ。話はそれからだ」
紅という人はかなり脅えている。あの脅えようだと、本当に死ぬかもしれない。
「俺の拳を避けることは『不可能』大人しく百発殴られろー!!」
「増えてるじゃねーか!」
「………」
拳の通る過程を少しだけ捻じ曲げて外させる。流石に目の前で人が死ぬのは勘弁して欲しい。
「!!」
「…あれ?殴られない?」
自分の拳が外れたことに驚いているようだ。
「あんた、何かしたか?」
「さあ、どうでしょう。避けたんじゃなくて外したんだったら自然だと思いますが」
「……紅、反省してるよな?」
「……(無言で首を縦に振っている)」
「うん。今回は許そう。
それで、あんたは何者だ?」
突然こちらを向いてそう言ってきた。
「黒羽刀弥」
「いや、名前を聞いてるんじゃないんだが」
「俺は俺だ。それ以外にどう答えろと?」
「あんまりふざけないで欲しいんだが?」
「まあまあ零、落ち着けって。さっきは何をどうしたか知らないが、助けてくれてありがとう。俺は那華川紅。よろしく」
「俺は「嘘をつくことは『不可能』」何も……」
していない。こう言おうとしていたのだが、口が動かない。言霊を操る能力か、可不可に関わる能力か、どちらかだろう。
「……したよ。だが、いきなり人に能力を使うのは失礼じゃないか?」
ナイフを一本取り出し、すぐに能力を発動できるように演算を開始する。
「零!やめろ。いくら初対面でも失礼だろ」
「そうだな。俺は八神零だ。いきなり能力使って悪かった」
「謝るくらいなら最初からするな」
ナイフをしまい、演算した式を破棄する。
「はっはっは!確かにそのとおりだ!零、もう一度あやまっとけ」
「すまない」
「…反省してるのなら許そう。ついでに言うなら素で話せ。そんなに固い話し方だと警戒されているようにしか思えん」
「…ばれた?」
「違和感がすごかったしなー。うん」
「そうだ、さっき藍と言う名前が出てきたが、それは八雲紫の式か?」
「あれ、なんで知ってるんだ?紫の知り合いか?」
「未来の世界の八雲紫にこの世界の八雲紫に世話になってこいと言われた」
「「へ?」」
大きな口をあけてこちらを見る二人。おかしな奴だな。いや、普通の反応か。
「すまん!もう一度言ってくれ!」
「未来の世界の八雲紫にこの世界の八雲紫に世話になってこいと言われた」
聞き取れなかったようなので、一字一句間違えずに先ほどと同じ文を口に出す。
「そういうわけで、迷い家がどこにあるか知っているなら案内して欲しい」
「あ~、待ってくれ。黒羽さ「刀弥でいい。苗字で呼ばれるのは慣れてなくてな」刀弥、あんたが未来の世界の住民だってことを証明できるものはあるか?」
「ふむ…ちょっと待ってくれ」
証明書なら、紫の手紙でいいだろう。たしかトランクに入れたはず。
「あったあった。零さ「零でいいぞ」紫の手紙」
「俺も紅でいい」
「はいはい」
トランクか手紙を取り出し、零に渡す。
「そんなに簡単に渡していいのか?」
「紫の妖気が体に付いているから一発でわかった」
「へえ、そんなのがわかるのか。紅、ちょっと来い」
「ん?確かに紫の筆跡だな。でも、最後の『愛しのゆかりん』っていうのは?」
「未来の紫の婚約者だからだ。ちなみにここからすると未来に当たるらしい」
「は?婚約者?誰が?誰の?」
「俺が、未来の紫の」
「「ウソダー」」
「本当よ。彼は未来の私の婚約者。『事象の支配者』黒羽刀弥」
目の前にスキマが開き、少し小さな紫が出てきた。
「この世界の八雲紫か。始めまして、でいいのか?」
いつの間にそんな二つ名が追加されたのやら…
「ええ、話は聞いてるわ。『私』からね。でも、家に招くからといってむこうの『私』と私を間違えて襲ったりしたら承知しないわよ?」
「襲わない。そっちこそ興味が湧いたからといってちょっかいを出すなよ?火傷じゃ済まないから」
「どっちが?」
「俺が」
「なかなか面白い人間ね。ようこそ幻想郷へ。歓迎するわ。零、紅、仲良くするのよ」
それだけ言うとスキマは閉じて、紫も消えた。
「刀弥、お前って意外とすごいのか?普通に紫と話してたが」
紫が消えると同時に零が話しかけてきた。
「さあ?周りからは過大評価されているようだが」
「事象の支配者ってのはなんだ?」
「能力のせいだろう。『過程と結果を操る程度の能力』と『過程を省いて結果を出す程度の能力』を持っている。燃費が悪いから多用はできないが」
「なるほど、あの時俺の拳を曲げたのはその能力か」
「いやはや、チートだな」
「さあ?チートかどうかはさておき、俺が話したんだし、そっちも話さないと不平等だ。話してくれるよな?」
拒否は許さない。そういう意思を込めて笑顔で睨む。
「おいおい、目が笑ってないぞ」
少し下がられた。だが、逃がさない。過程を縮めて肩を掴む。
「話すよな?」
「わ、わかった。わかったからその笑ってない目で睨むな。正直怖い」
「話せ」
「……『可能と不可能を操る程度の能力』だ。次、紅」
「複数能力があって長くなるが、いいか?」
「いいぞ。話してくれ」
「『時間を操る程度の能力』『空間を操る程度の能力』「咲夜と同じだな」そうだな。あとは『絶対量を操る程度の能力』あと四つ能力があるらしいが、まだ不明」
……俺が言うのもなんだが、この二人人間じゃない。人外だ。外人じゃなくて人外。
「あっはっは。お前が言うな。チート能力保有者」
零にバシバシと背中を叩かれる。地味に痛い。
「顔に出てたか?」
「全開で出てた」
「それで、今日はどうするんだ?」
「紫の家に行こうと思っている」
「今日はもう遅いから明日にしとけ」
言われてみればもう太陽は沈み、完全な夜になっている。
「……そうだな。今日は野宿しよう」
「ちょっと待て、野宿は危険、でもないか」
「助けてもらった礼だ、うちの店に泊まっていけ」
「いいのか?」
「ああ。いいよな?零」
「金は?」
「紫にいきなりこっちに送られたからな、持って来てない。作ろうと思えば作れるが?」
ナイフを一本取り出し、同質量の金塊に変える。
「ベリーグッド!マーベラス!パーフェクトだ刀弥!持つべきものは良い友だ!!」
「いつから俺とお前は友達になったのか、非常に気になるところだが?」
「偉い人は言いました、『名前を交換したらそのときから友人』「なら絶交だ。金にがめつい友人はいらん」しまった、やりすぎた…」
…そんなこの世の終わりみたいな顔をしないで欲しい。思わず踏み潰したくなる。
「……冗談だ」
「よっしゃー!みなぎってきたー!!それじゃ早速、くれ」
身代わり早いな……
「おい零、俺の命の恩人から金を取るのか?」
「貰えるものをありがたく貰って何が悪い!それに元はといえばお前のせいだろう」
「…多少の遠慮はすべきだと思うが?」
「HA!俺の辞書に自重という言葉など無い!」
……末期だな。
「今気が付いたんだが、二人ともこの時代の人間じゃないよな?」
二人の服装は明らかに現代人のものだ。紫の手紙には数百年ほど昔と書かれていた。だとすればおかしい。
「俺たちは未来から、この時代の紫に連れてこられた。刀弥と同じ時代の人間だな」
「なるほど、納得。で、泊めてくれるのか?」
「貰うもん貰っといて見捨てるってのはないよな?零」
「安心しろ。自重はしないが人の道を踏み外すようなことはしない」
「どの口がほざく。この前俺を餌にゆうかりんから逃げたくせに」
「非人道的極まりないな」
幽香に対して囮を使うとは、ひどすぎる。囮がなぶり殺しだ。
「まあ、金も貰ったし、うちに泊まれ」
「ついでに飯もいるか?」
「もらえるのなら是非」
そういうわけで今日はこの二人にお世話になることに。とはいっても対価が平等でないような気がするが、どうせ元手はタダなので気にしない。
「よし、それじゃ行くか。紅、移動は任せた」
「はいはい、人使いが荒いな」
一瞬、変な感じがしたと思うと、そこは大きな店の前だった。看板には『Fantasy village』と書いてある。
「幻想郷か。なかなかいい名前だな」
「そうか?ありきたりだと思うが」
「零、 お前も納得して決めたんだからそういうことを言うな」
「俺は結構まともだと思うが…」
少なくとも紅魔館よりは数倍まし
「まあ、それは置いといて、ようこそ、料亭Fantasy villageへ。さ、中に入れ」
とりあえず中に入る。メニューは多いが、味のほうはどうなのだろうか。
「不味かったら承知しないぞ?」
「その心配は皆無だ。なあ紅」
「ああ。腕に自信はある。好きなメニューを選んでくれ」
一通りメニューに目を通し、気になったものから一番よさそうなものを選ぶ。
「そうだな。豚カツ定食」
「ちょっと待ってな。すぐに作る。紅!」
「お待たせ!」
「全く待っていないと思うのは俺の気のせいか?」
「いや、気にするな。まあ食ってくれ」
作り置き、ではなさそうだ。湯気も立っているし、箸でつついたカツの衣もサクサクしている。
「頂きます」
ソースのかかった豚カツの一番小さいのを箸で掴み口に運ぶ。
「うん、美味い。文句なしだ」
文句を言ったやつは幽香に引き渡す。
衣もサクサク、肉はしっかり火は通っているが、それでも噛めば噛むほど肉汁があふれ出てくる。ソースにもこだわりがあるようで、この肉に合うようだけ作られている。ウス○ーソースなんて目じゃないほどだ。これは、完璧という評価を下さざるを得ない。
「「よっしゃー!」」
やたらとハイテンションでハイタッチを交わす二人。どうもこの二人には付いていけそうに無い。
「そうだ、刀弥って未来から来たんだよな?」
「そうだ」
その場に出されたお茶を飲む。緑茶よりも紅茶の方が好きなのだが、出してもらったからには文句を言うわけにはいかない。
「未来の話を聞かせてもらえるか?少し興味がある」
「ん?いいぞ。何から話せばいい?」
「そうだな、どういった経緯で紫と知り合ったか」
「永夜の異変、と言ってもわからないか」
「いや、わかる。続けてくれ」
「俺たちは未来のことも知ってるしな。そこらは気にしなくてもいい」
知っている?……紫がこっちに話をしたのか?
「ああ。それはだな…………
それから一時間程度、未来の幻想郷についての話をした。
咲夜、レミリア、フランとも婚約したと言ったときはものすごく驚いていた。
幽香はドSだという話をしたら、うんうんと頷いていた。
夜の話はするつもりはなかったが、能力を使われ強制的にしゃべらされた。
「いや~、面白い話だったよ。本当、ありがとう」
「日々のくだらない生活を話しただけだが、そこまで面白かったか?」
「いやいや、すごく面白い話だった。まさか永夜の異変の解決者が、博麗の巫女でもメイドでも魔法使いでもないことにはほんと驚かされた。これが面白くないわけ無いだろう。なあ紅」
「ああ、俺たちの知る幻想郷とはまた違う未来だしな。とても興味深い」
「ところで、二人とも何故未来の幻想郷を知っているのかが気になるのだが、話してくれるよな?」
「ああ、実はな……」
それから話されたことをまとめると、東方projectというゲームが現実に出回っていて、自分たちはそれで遊ぶことで幻想郷について知ることができた。という話だった。
そういえば、悪友が以前持ってきたゲームの中にそんなタイトルのが混じっていたような気がする。まあ、そのときにあいつが持って来たゲームの大部分はR18のゲームだったのですぐにお引取り願ったが。
「なるほど。幻想が現実に広がっているのか」
「そうだな~。で、明日はどうするんだ?」
「紫のところへ行「連れて行くわ」うわ!」
いきなり視界が沈んだと思うと、スキマに落ちていた。
いつものことだが、スキマに体が完全に入りきった瞬間、意識が消える。
「筈がない。後ろからの奇襲で意識を刈り取ろうだなんて、淑女にあるまじき事だぞ」
「あらあら、そんなのは未来の私に言って頂戴。私は少女「何百年と生きた大妖怪だろう」……怒っていいかしら?」
「少女というよりは、乙女のほうが近いと思ってな。何か気に触ったか?」
ほんの冗談なのに本気にしないで欲しい。
「乙女……なかなかいいわね。それで、未来の私から何か伝言はある?」
「無い。俺は『話は通してある』としか聞いていない」
「…私は『私の夫を一週間ほどよろしく』としか聞いてないわ」
……話は通してあるはずじゃなかったのか?
「まあ、理由はさておき、私に手を出さないことを前提になら泊めてあげるわ」
「ああ。当然だ」
浮気はしない。未来の紫とこちらの紫は同一人物ではないと認識している。いや、時間軸が違うだけの同一人物だが、やはり違う人物としてしか捉えられない。
まあ、相手が手を出さない限りはこちらも手は出さない。性欲をもてあましているわけでもないし、女に飢えているわけでもない。
「一週間も耐えられるの?こんな美女を目の前にして」
「自己の抑制には自信がある」
「本当かしら?」
「自己を抑制する理性を持つ生物が人間だ。腹がいっぱいの肉食獣がなぜ目の前にいる得物を襲わないのか。わかるよな?」
「襲う必要が無いから。
あなたが自分を人間とするのが不思議で仕方がないわ。でもまあ、信用に足るというのは確かね」
「襲った瞬間死ぬしな。ライオン一匹が巨大な象に対して狩を挑まないのと同じだ」
「私は象じゃなくて妖怪よ」
「それも大妖怪だからな。非力な人間が敵う相手じゃない」
昔とはいえ、未来の紫よりは弱いとは言え、長い永い時を生きる妖怪だ。性格も成熟していなければ、能力の使用も突然という可能性もある。
迂闊な行動はできない。気分を損ねて一瞬で心臓をズブリ、するとは思えないが可能性の一つとしては否定できない。
「あら、その能力を持ってすればそう難しいことではないわ」
扇で口元を隠しながら話すのも、未来の紫と同じだ。昔からだったのか。
「まあ、あなたが私よりも先に力を使えればの話だけどね」
「どちらが能力を早く行使できるか。能力との付き合い方が早いに決まってる」
「不意打ちではわからないわよ?」
「不意打ちでもやられるし、確実に気がつくだろう。それに俺の能力は脳内で式を組み立てる必要があるが、そっちは感覚的に使える。どちらが早いかなんて、くだらない。わかりきった結果だ」
「でも、事実私よりも強い人間が居るのよ。私の目の前にいるあなたと、もう二人」
「俺は違うとして、残った二人は店の二人か?」
「そう。あの二人は「紫!俺たちの客だぞ!横から取るんじゃねえ!」本当の意味で規格外だから…」
なるほど、スキマの中に侵入してこれるとは…普通なら不可能だが、零の能力ならば可能になる。なんともせこい能力だ。
「明日になったら家に案内してちょうだい。お礼はするわ」
「お礼なんてい「遠慮するなら俺が貰うぜ!」零、自重しろ。刀弥から十分すぎるほどの報酬はもらっただろう」
紅が断ろうとした瞬間、零が割り込んできた。
「もらえるものをもらって何が悪い!」
「「馬鹿だな」」
「何ぃ!?」
ここまで自重しないのはどうかと思う。強欲は身を滅ぼすとも言うし、多少は遠慮したほうがいいだろう。
「それにしても紅、お前とは気が合いそうだ」
「俺もそう思ってたところだ」
「……」
「……」
ガシ!っと硬く握手を交わす。未来の幻想郷にいないのが残念で仕方が無い。いっそ連れて行こうか。
「それはダメよ」
「そうか。残念だ」
「二人とも、何の話をしてるんだ?」
零がこちらに近づいて話の内容を盗み聞きしようとしていた。まあ、聞かれて困ることでもないが、適当にはぐらかしておこう。
「ん?ちょっとした世間話だ。気にするな」
「嘘だー」
「ホントだ」
「嘘だー」
「本当だ」
「そーなのかー」
…男がやっても気色悪いだけだぞ。
「同感だ。零、さっさと戻るぞ」
「よし、刀弥、行くぞ」
そのまま襟をつかまれ、引きずられて店に戻る。
「……本当にチートだな」
スキマの中を歩けたり、不可能を可能にしたり、数を操ったりと、俺の能力が小さく見える。まあ、実際に小さいのだが。
「ああ、人と話すときはナイフなんか持つもんじゃないぞ」
「ん?ああ、すまない。いつもの癖でな」
ナイフでお手玉をするのをやめて、一本の指の先に立たせる。そのまま鞘を五つ放り投げて、ナイフを一本も外さずに鞘に投げ込む。作用反作用の法則で鞘が飛んでいくが糸で飛ぶ前に回収する。
「お見事。器用だな」
「慣れれば誰にでもできるさ」
回収したナイフを懐にしまい、立ち上がる。食事を提供してもらい、さらに泊めてもらうのは少々頼りすぎだと思う。
「おい、どこへ行くんだ?」
「少しな。外の空気を吸ってくる」
本当の理由は少し違う。
よく知った気配が近くにいるのでそちらに向かおうと思っただけだ。
「で、どうしたんだ?紫」
外に出て、何もない空間に話しかける。すると、奇妙な音を立てて空間が裂け、紫が上半身だけ姿を現した。
「愛する夫がゆっくり休日を楽しんでるかどうかを見に来ただけよ。で、どう?満喫してる?」
「お前の気遣いだけで胸がいっぱいだよ」
「そう。それはよかったわ」
満開の笑顔で答える紫。皮肉のつもりで言ったんだが、どうも通じていないようだ。
「それでは、残り六日、ゆっくり過ごしてくださいな」
「今すぐに戻して欲しいんだが?」
「無理ですわ。それではごきげんよう」
……言いたいことだけ言って帰るか。まあ、六日程度なら学校も休みだし、紅魔館の掃除も咲夜とアマノがやってくれるだろう。天の世話は慧音さんに任せてあるから問題ない。
「しかし、本当に休暇を与えるだけのつもりなのか、それとも俺がいると何か不都合なことをするつもりなのか…」
どちらの可能性も否定できない。だが、できれば後者の可能性は否定したい。
喧嘩をするか異変を起こすかは知らないが、喧嘩はしないで欲しいな。双方無事ではすまないだろう。永遠亭に厄介になるのは間違いない…
異変ならまあ、霊夢が解決してくれるから問題ないはず。
「お~い、風呂が沸いたから入れ~」
…考えすぎだな。
「わかった。今行く」
深いことは考えず、とりあえず今は今を楽しもう。
残り六日、楽しまなければ損というもの。普通なら体験できないはずの過去の旅だ。ゆっくり楽しもう。
番外編は、あと何話かに分けて投稿する予定です。
ちなみに、この番外編は本編には一切関係はございません。