宴会 準備編 中編
「着いたぜ」
「ありがとう」
森の上空を、魔理沙の箒にぶら下がりながら飛んでいると、小さな一軒家が見えた。あれがアリスの家らしい。
「よっ、と」
箒を掴んでいた手を放し、重力に任せて自由落下する。地上まで百メートル以上はあるので、いちいち飛んでいくよりも、落ちるほうが早いと判断したからだ。
風が冷たい。スカイダイビングとはこんな感じなのだろうか。まあ、パラシュートがない分危険かもしれないが。
飛ぶのとはまた違う感覚を味わいながら、結構なスピードで落下していく。
「Verstärkung《強化》」
いつもよりも魔力を多く使い、全力で身体強化を掛ける。着地は結構な衝撃があるだろう。
「グッゥ…!」
予想通り。かなり大きな衝撃が体を襲う。着地の衝撃で周りに土煙が舞う。足が痛い。思わずその場にしりもちを着く。
「痛い…」
足が痺れていて立てない。いや、本当に予想外だ。
「Wind…《風よ》」
自分の足では立てないので、突風で無理やり体を起こす。どっかの天狗とかぶるから使いたくなかったが、仕方が無い。
「やれやれ、きちんと飛ぶべきだったか…」
スリルを味わってみたかったが故にやってみたのだが、こんどからはやめておこう。
「大きな音がしたから出てきたけど……えっと、誰だっけ?」
「おい…」
それはひどくないか?いくらなんでも…
「ああ、思い出したわ。二年前だったわね。黒羽刀弥、でよかったかしら?」
「正解」
「それで、何の用?」
「えっと、前略、紅魔館で明日の子の刻に宴会があるから参加しろ。以下略」
「ずいぶんと適当ね。そんなのでいいの?」
「でもな、これ読んでみてくれ」
レミリアに渡された羊皮紙をアリスに投げ渡す。
「……読んでたら日が暮れるわね」
アリスが少し険しい表情で返してきた。
まあ、その気持ちはよくわかる。細かい字でびっしりと、広げれば一メートルはある紙に書き込んである。読むのが嫌になる文章量だ。
「だから重要なところだけを抜き取って話したんだ。それで、参加するか?」
「もちろん」
「それはよかった。これは招待状。門番に渡せば問題なく入れる」
「ありがとう。そうだ、せっかくだからお茶してから行かない?」
「まだまだ行かなきゃならないところがたくさんあってな。また次の機会に頼む」
「そう。じゃあまた次来たときにはよってちょうだい。歓迎するわ」
「気持ちだけ貰っとくよ」
風の魔法で体を浮かせ、火の魔法で加速する。妹紅の火の鳥を参考にしたので、結構効率がいい。従来の数分の一程度に消費する霊力は減った。
まあ、多少の苦労はしたが…熱を逃がすのを失敗して背中に火傷を負ったり火傷を負ったり火傷を負ったり…まあ、失敗に失敗を重ねその熱を後方に逃がすことでなんとかまともに使える代物になった。本当に苦労した…
「さて、次は…映姫様と小町か。ここからだと先に冥界に行ってからのほうが早いか」
火力を上げて、炎の翼を羽ばたかせる。風の抵抗は魔法でごまかす。
「あ、ちょうどいいところに人間g…」
「ん?」
今何か焼けたような音がしたが…気のせいか。そういえば最近、藤原の焼き鳥食ってないな。
そうこうしている間に冥界の結界を飛び越え、羽を消してから中へと着地する。
「あ、刀弥さん。お久しぶりです」
白玉楼の庭に飛び降りると、妖夢が庭仕事を中断してこちらによって来た。
「久しぶり。幽々子はいるか?」
「あ、ちょっと待ってくださいね、今呼んできますから」
「そんなに急がなくてもいいぞ」
能力使用の式を脳内で組み立て、座布団がそこにあるという結果を出す。すると、何もないところから座布団が出現する。ちなみに中身は羊毛。羽毛はあまり好きではない。
「しかし、相変わらず寒い。寒いのに桜が咲いてるのは少しおかしくないか?」
そう呟きながらも、背後に現れた気配に対して質問を投げかける。
「そういう仕様なのよ~」
「なるほど、仕様か。それなら仕方がない。はいお茶」
「あら~、ありがと~」
お茶を二人で啜りながらのんびりとした時間を過ご…さない。どうも幽々子といると気が緩む。危うく仕事を忘れてお茶会になるところだった。
「今日は少し用事があって来た。明日の子の刻、紅魔館で宴会があるから。ほら招待状。門番に渡せば参加できる」
「喜んで参加させてもらうわ~。妖夢~?」
「なんでしょうか」
「あなたも宴会に参加しなさい。強制よ~」
また一人追加か…紙飛行機に一文『庭師も追加』まあ、大丈夫だろう。
「あ、そうだ」
なんで今まで気がつかなかったのか…全部紙飛行機で送れば楽じゃないか…
「人里の寺子屋、彼岸の閻魔殿、香霖堂、博麗神社、妖怪の山、滝。これでよし」
呼ぶのは、慧音さん、映姫様、こーりん、霊夢、秋の神様姉妹。あとにとり。それぞれの場所に到着した結果を付与した紙飛行機を飛ばす。招待状は封筒に入れて、紙飛行機にテープでくっつけてある。
「あら~?なにをしたの~?」
「能力の延長。物体に結果を付与することで、その物体がどうなるかを操作できる」
贈り物をするときにはとても便利だ。……効果範囲外にも影響が出るからそれなりに消費も大きくなるが……
「ふぅ…」
お茶を啜り、一息つく。あとは紫とその式二匹だけなのだが、迷い家がどこにあるのやらさっぱりだ。当てもなく探すのは非効率的なのであまりしたくない。
「幽々子」
「なあに~?」
「紫の住んでるところ、知ってるか?」
「知ってるわよ~」
「案内頼む」
「わかったわ~。ついて来てね~」
幽々子が空に飛び上がったので、俺も炎の翼を展開して空へと舞い上がる。
「どのくらいで着く?」
「そうね~、あと数分ってところかしら~?」
意外と近いようだ。これならガス欠になる心配もないだろう。
「紫~?」
「なに幽々子?」
「愛しのだんな様を連れてきたわよ~」
「あら刀弥、私に会いに来てくれたの?」
「そう、だな。まあ別件でそれもある」
「用件を早く言って頂戴。冬眠してたんだから…」
冬眠するにはまだ早いと思うんだが…
「前略、明日の子の刻に紅魔館で宴会がある。自由参加だ」
「藍と橙もいいかしら?」
「ああ。最初から呼ぶ予定だったしな」
「それじゃ、宴会は明日なんでしょう?まだ時間はあるし、ゆっくり休んでいってちょうだい」
「それじゃお言葉に甘えて」
スキマに入り、出たところはマヨヒガ。紫の家だ。
「久々だな、人間」
「藍?」
「……刀弥様、お久しぶりです…」
紫が軽くにらんだ瞬間、急に態度を改めた。急に礼儀正しくされても違和感がひどいだけなんだが…
「普段どおりでいいぞ。そこまでかしこまられたら逆に気分が悪い」
「そうか…ならそうさせてもらおう」
元に戻ったな。
「それじゃあ今日は少しだけここで休ませて貰うことになった」
「そうか。それで?」
「一応言っておいただけだ。ほら、油揚げ」
「ゆっくりしていってね!」
お茶を紫からもらい、のんびりと過ごす。こういうのも偶には悪くないか…
「藍しゃま~」
「ふふふ…橙、どうしたの?」
お茶をゆっくりと啜りながら、ゆっくりと流れ行く時間を楽しむ。思い返せば、こういう時間の過ごし方というのはしたことがなかったな。
「たまにはゆっくり過ごすのもいいものでしょう?」
「そうだな。だがお前はゆっくりしすぎだと思う。せめて週に一度は仕事をしたほうがいいと思う」
「厳しいわね」
ふう…厳しいわけがないだろう。たった週に一度程度、結界の見回り程度はしてもいいのでは?と思う。
「全部口に出てるわよ?」
「ああ、すまないな。今度からは気をつけよう」
またお茶を啜る。そうだ、弾幕はどうするか。能力での弾幕は違反だし….魔理沙のように砲撃主体というのも悪くないか。それともパチェのように魔法を使っての弾幕か….符陣術というのも悪くない。しかしトランプは数量に限りがあるし、なにより強力すぎる。
「強すぎる力を持つというのも、なかなか大変だな」
「ようやく自覚したの?」
「いや、大分前から自覚はしているよ」
結果および過程の付与。延長、短縮、歪曲、変換、上書き、そして創造。なんでもありの能力だが、それゆえに使いにくい。全ての事象を好きにできるとはいえ、やはり人が使うには過ぎたもの。譲れるものなら誰かに譲りたい。
「人間と妖怪の境界を操って妖怪にしてあげてもいいのよ?」
「それは勘弁してくれ。人間でいるからこその俺なんだ。妖怪になればそれは違う俺になる可能性もある」
「そうね。そうなればその性格もちょっとは前向きになるんじゃないの?」
「そうかもな。それじゃあ結構休んだし、まだ仕事が残ってる」
靴を履き、外へ出る。
「じゃあね~、また明日~」
「じゃあな橙。宴会では猫缶も用意しておくから、ぜひ来てくれ」
「わ~い!」
頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細める。癒されるな。
「ちぇえええぇぇぇぇぇ「ッシ!」グファア!」
突進してきた藍を強化した足で蹴り飛ばす。反射で顔を全力で蹴ったが、大丈夫だろうか…
「大丈夫よ。藍はこれくらいじゃ「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」…ね?」
「そうだな」
地面を蹴り、十メートルほど飛び上がったところで炎の翼を展開。大空へと舞い上がる。
用事も果たしたし、後は帰るだけ。
翼に魔力を注ぎこみ、速度を上げる。もう夕方、早く帰らないと準備が間に合わない。
「待て!」
紅魔館近くの湖の上を飛んでいると、やけに偉そうな声が聞こえた。
「あたいの縄張りにかってにしんにゅうするなんて!ご褒美が必要ね!」
「チルノ、『ご褒美』じゃなくて『罰』の間違いじゃないのか?」
「う~!あたいってばさいきょーなんだからね!」
……妖精の中では最強だろうが、幻想郷の中では間違いなく最下層だぞ。
それに、紫曰く能力での最強は俺らしい。
「もういい!『アイシクルフォール-Easy-』」
氷の弾幕が、非常に薄い密度で発射される。だが、氷なので翼の排熱方向を変えるだけで溶けてなくなる。
「う~!なんで当たらないのよ!」
「氷だからさ」
だいたい、火に氷は相性最悪だろう。
「この!人間の癖にー!」
新たに氷の弾幕を形成しようとするチルノ。
(迎撃するか?)
そう思い炎をチルノに向けようとする。
「こらー!チルノちゃん!」
「あ、大ちゃん!この人間が私の縄張りに入ってきたから罰を与えようと思って…」
「ダメでしょ!チルノちゃん!
ごめんなさい刀弥さん…チルノちゃんにはきつく言っておきますから…」
必死に頭を下げて謝る大ちゃん。まあ、言ったところで聞きはしないだろう。
「まあ、今言っても聞こえないと思うけどな…」
下げられた頭をなでる。呆けているが、何かされるとでも思っていたのだろうか?
「え?」
「あづい…」
さっきから炎の翼の排熱にさらされて、溶け始めている。風が吹けば飛んでいきそうなくらいまで小さくなってしまった。
「早く離さないと完全に溶けるぞ?」
「は、はい!」
あわててチルノを連れて離れる大ちゃん。まあ、溶けても自然に回復するから問題ないだろう。
日もすっかり落ちてしまった。腕時計で時間を確認すると、もう午後七時を回っていた。
「ちょっと道草しすぎたか…」
反省反省…少し急ごう。咲夜の手伝いがまだある。