EX宵闇の妖怪 後編
ルーミアをつれて紅魔館に戻ってきた。中国は仕事をしているか……してないだろうな。
「着いたわね」
「そうだな。相変わらず中国は……ハァ…」
予想通り門にもたれかかって眠っていた。そんなだから白黒に侵入されるんだ。
殺気を完全に消して、ナイフを一本取りだす。
「美鈴、十秒以内に起きろ。九」
もう一本ナイフを取り出す。ナイフは二本。
「八」
三本目、ナイフを宙に放り上げ、そのままお手玉のように回す。
「七」
四本目、徐々に回すスピードを早くする
「六」
五本目、ナイフが風を切る音を立てながら回る。
「五」
六本、お手玉のスピードはどんどん上がっていく。
「四」
七本
「三」
八本
「二」
九本
「一」
十本。中国、今すぐ起きれば十本で済ましてやろう。
「零」
「~ッ!」
ナイフを一気に八本投擲、四肢に二本ずつナイフが刺さり、立ったまま寝ていた美鈴は血を流しながら地面に倒れる。
「いきなりなn「何を?何って、お仕置きに決まってるだろう。あと、そこ動かなかったらいくら中国といえど、死ぬぞ?」へ?キャーッ!!!」
残り二本のナイフを、トランプと一緒に上に放り投げておいた。トランプが何だったかは忘れたが、ものすごく大きな岩がナイフと一緒に降ってきている。潰れて死んでも恨むな。恨むなら自分の職務怠慢を恨め。
「本当ね。でもさっきあなたが正確に腱を切断したから動こうにも動けないわよ?」
そういえば、そうだったな。
「あ、しまった…最近どうもミスが多い。すまないな美鈴。骨は拾ってやる」
「そ、そんな~!!」
悲鳴を上げる美鈴。うん、なかなかいい悲鳴だ。断末魔には変わらないがな。
「助けてあげなさいよ」
「冗談だ」
トランプが岩に変わるまでの過程を削除。ただのトランプに戻す。今のは流石に危なかった。後コンマ一秒遅れていたら美鈴はスタンプになっていた。
「…大丈夫か?」
「あ、あはは、hahahahahahhahhahahahahhaha「落ち着け」痛いです!何するんですか!?」
「霊力を込めたハリセンで頭を全力で叩いた。それが何か?」
「何か?じゃありません!!ほんっとうに怖かったんですからね!?何世紀も生きてきましたが命の危険を感じたのは初めてですよ!!??もし死んでたらどう責任とってくれるんですか!?もう一度言いますけど怖かったんですよ!?本当に怖かったんですからね!?」
涙目ながらもすごい剣幕でまくし立ててくる中国。よく舌が回るな。
「元はといえばあなたがサボってるのが悪いんじゃない?」
「サボってなどいません!」
「午睡とでも言うつもり?」
「そのとおりです!午睡と居眠りは違うんです!!」
「ほう…お前の考えはよくわかった…」
「わかりましたか?刀弥さんは罰として私をきちんと!名前で!!呼ぶこと!!わかりましたか!?」
「仕事のできない無能な部下が、上司に対して失礼な態度をとった場合、どうなるかわかるよな?」
「私のどこが無能ですか!」
「どこがって…」
ルーミアのほうを向く。ルーミアもこちらに気がついたようで、こちらを向いている。
「そうね。強いて言うなら…」
二人同時に中国のほうを向く。きっと考えていることは一緒だろう。
「「全部」」
「ヒド!」
「さて、ルーミア、行くぞ」
「ええ、そうしましょう」
後ろでブツブツ言ってる中国は放置。ルーミアを館の中に招き入れる。
「ああ、そうだ忘れてた。
ようこそ紅魔館へ、あなたを客人として歓迎いたします」
玄関ホールの中央に立ち、仰々しく礼をする。まともな客は珍しいので、丁重に扱おう。
「刀弥、どうしたのその子?」
「お前が外に出てるとは、珍しいなパチュリー。
少し殺し合いになったが、何とか殺さずに行動不能にできた。それだけ」
「ふーん…あなたが殺し合いね…そんなに強いの?」
ジト目でルーミアを見るパチュリー。目が研究者のそれに変わったな。
「その子、じゃなくてルーミアよ。私にはきちんとした名前があるの」
「実際、表は子供だろう」
「言わないで頂戴。食べるわよ?」
「実行できないことは言うもんじゃない」
「はぁ…」
「後でその子を図書館に連れてきなさい」
「断る。客を実験材料にしようとするな」
「ッチ…仕方ないわね」
わかってくれたようで何より。さて、まずはレミリアに話を通さないといけないな。
「誰かと思えば、宵闇の妖怪か。この館に何の用だ?」
声が聞こえたほうを向くと、階段の上からレミリアが降りてきていた。微妙な威圧感を放っているが、普段のあいつを知っている俺にとっては少し違和感がある。
「レミリア、ちょうどいいところに来た。こいつを客として迎えるが、いいよな?」
「あなたが招いたの?」
「殺し合いの結果とはいえ、怪我をさせて服も汚してしまったからな」
「…まあいいわ。それならあなたが責任を持って監視しておきなさい。いいわね?」
「さすが俺の妻だ」
過程を短縮してレミリアの背後に回り、抱きしめて耳元で囁く。
「ありがとう。愛してるよ」
「~~///!!」
茹蛸のように顔を真っ赤にして固まってしまった。こういうところもかわいいんだよな。
「惚気もいいところね。砂糖を吐きたくなるほど甘ったるい空気だわ」
「さて、服は…咲夜」
「何?」
「ルーミアに服を貸してやってくれ。ついでに服の修繕も頼む」
「いいわよ」
ルーミアの手を取ったと思うと、一瞬で消えた。時間を止めて移動したのだろう。
「さて、俺はどうするか…」
工房に入って実験でもしようかと考えているときに、急に咲夜が現れた。
「あなた、まだここと西棟、あと図書館の掃除が残ってるから、お願い」
「わかった」
まずはこのホールの掃除を済まして、西棟は妖精メイドにやらせて、と。図書館を最後にしよう。
辺りを見回し、妖精メイドを探す。玄関、いない。窓、いない。階段、いた。
「そこの妖精メイド、ちょっと来てくれ」
ふよふよと漂っていた妖精に声をかける。
「あ、はい。何でしょうか」
「ここと図書館の掃除は俺がするから、他の妖精メイドを西棟に回してくれ。図書館にいるのにも伝えておいてくれ」
「はい。わかりました」
能力を使うには霊力が足りないので、箒と雑巾を持って地道に掃除することにする。
「アマノ」
「なんでしょうかご主人様」
「掃除を手伝ってくれ」
「はい。わかりました」
青年掃除中…(書くのが面倒なので省略したわけではございません)
「終わり。お疲れ様、アマノ」
「ご主人様のためならこの程度お安い御用です!へっちゃらです!」
「そうか。それじゃあ西棟の様子を見てきてくれ。終わってないようだったら手伝い。終わっていたら図書館へ回してくれ」
「はい!」
「……少し疲れたな。ちょっとだけ休むか…」
うれしそうな顔で飛んでいくアマノを見送った後、ホールから出て自室へ向かう。改めて咲夜を尊敬する。こんなに広い館を一人で掃除して回ってるんだから。
「まずい、な。ちょっとだけ、じゃ済みそうに…ない……」
そう言って自室のベッドに仰向けに倒れこむ。霊力の枯渇と、無理やりに反応速度を上げたので筋肉の疲労のダブルパンチで眠気がひどい。
(ああ、ナイフ…砥いで…な……い)
なんてどうでもいい事を思いつつ意識は落ちてゆく。
「幻想郷の実力者には夢の中に侵入するのが流行ってるのか?」
「そうじゃないわ。あなたは一度私の世界に入ったでしょう?だから波長が偶然合ったんでしょうね」
「なるほど。だが俺はゆっくりしたいんだ。出ろ」
「そう言われて出られたら苦労はしないわ」
「そうか」
「どうせどちらかが起きるまで出られないんだし、ずっとこのままだと退屈だわ。何か話でもして時間を潰さない?」
「そうだな。そうしよう」
夢とはいわば己の世界。自分ができると思うことなら何でもできる。
「立ち話というのも疲れる。座れ。お茶でも飲みながらゆっくりと話そう」
紅魔館にあるテーブルとイスを、『そこにある』という結果を出して作り出す。
「気が利くわね」
「四人も妻がいるんだ。この程度の気配りができなくては夫失格だ。ところで、お茶はダージリンでいいか?」
「出してもらえるんだから気にしないわ。それでお願い」
「わかった」
紅茶もテーブルやイスと同じようにして出す。
「それじゃ、まずは自己紹介。名前は知ってると思うが黒羽刀弥。能力は『過程と結果を操る程度の能力』と『過程を省き結果を出す程度の能力』お前の四肢を切ったのは後者の能力。
あと周りからは『紅魔の執事』『幻想と現の人』『寺子屋の臨時教師』とかいろいろ言われている」
「私のことは知っているでしょう?名前はルーミア、『闇と光を操る程度の能力』種族は宵闇の妖怪。表とは別であり一緒でもあるわ」
クスクスと微笑みながら言う様子は紫に似ているような気がする。案外紫の親戚だったりしないよな?
「そうね。親戚ではないわ。知り合いではあるけどね」
「考えていることを読むな」
「全部顔に出てたわ」
それにしても、知り合いか。また今度聞いてみるとしよう。
「一つ聞くけど、あなたの能力は人間が持つにしては大きすぎると思わないの?」
「よく言われる。紫曰く、神以上の能力だそうだ。俺はそこまですごいとは思わないがな」
「どの口が言うのかしら。前者の能力は世界の全ての事象を操作できるし、後者は世界のルールから完全に逸脱しているわ。よくそんな事が言えるわね」
「扱うのが人間だから限界がある。まず、燃費がものすごく悪い」
「ただの人間がそんな能力を使い放題だったら世界は終わってるわよ」
「その通りだな。次にあげられるのは、能力使用対象の主語が生物だった場合、使用できない」
「戦闘には全く問題ないんじゃない?」
「妖怪や神様、人外相手に殺さずに勝つのがどれだけ面倒だかわかるか?」
「四肢を切断すればいいだけの話でしょう」
「人間以外だったらそれで問題ないんだが、人間が相手となると出血多量で死ぬ可能性がある」
「人間ってずいぶんと脆いわね」
「脆いからこそ栄えるんじゃないのか?自衛のために」
「……それもそうね」
さて、そろそろ質問のネタも尽きる頃だろう。
「さて、こっちが答えてばかりじゃ不平等だ。こっちの質問にも答えてもらうぞ」
「いいわよ」
「あのリボンは封印だということはわかった。だが、何故封印されてたんだ?」
「悪さをしたからに決まってるでしょう」
悪さ?闇を操る能力で出来ることなんかたかが知れてないか?
「規模にもよるわ。表の私は自分の周りだけだったけど、私は一つの国を闇で包み込むこともできるわ。昔なんとなくでやってみたのよ」
「なるほど。それで、その時間は?」
「半永久的よ」
……太陽信仰の昔の人からすれば、かなりの大事だろうな。なにより、作物が育たない。
「封印された理由はよくわかった。迷惑すぎる」
「迷惑の一言で済ませるだなんて、どれだけ能天気なの?」
「皆既日食みたいなものだろう。または永夜の異変。夜を明けなくする程度なら咲夜にもできる」
「昼を夜にすることはできないでしょう」
「そうだな。だが、お前も同じように時間を止めることはできない」
「確かにその通りよ。それで、あなたはどうなの?」
「昼を夜であるという結果で上書きすればできないこともないが、確実に霊力の枯渇で死ぬな」
霊力の絶対量が圧倒的に足りない。他の力を取り入れれば何とかなるかもしれないが、人間卒業はしたくない。
「フゥ…」
紅茶を飲み、ため息をつく。
「一言で言うと、なんでもありね」
「どうも。ところで紅茶のお代わりはどうかな?」
「あら、淹れてくれるの?」
「お茶菓子もいるなら出すが?」
「お願いするわ」
さっきと同じ要領で淹れたての紅茶と焼きたてのクッキーを出す。
「ありがとう。ところで、妖怪に対して恐れの感情とかはないの?」
「無い」
「そう…今すぐに食べられるとわかっていても?」
闇の翼を広げて脅すようにしゃべるルーミア。だが、本気か嘘かの見分け、もとい聞き分けがつかないわけではない。
「無いな」
「…もう少し危機感を持ったほうがいいわよ?」
「妖怪がかかってきたとしても蹴散らせばいいだけだ。殺すには最高の能力だしな。
うん、我ながらうまく淹れられた」
自画自賛ならぬ自茶自賛だが、うまく淹れられたことは確かだ。
「…あなたと話してると自分が小さく見えてきたわ…」
「身長はほとんど一緒だと思うが?」
「……ハァ…なんでこんなのに負けたのかしら」
「こんなの、か…たしかに俺はそこまで価値のある人間ではないな」
「お茶とお菓子ありがとう。現実で会いましょう」
「そうだな」
ルーミアが消えると同時に、自分の体が薄れていくのを感じる。起きる前兆だ。
意識が完全に覚醒する。
「む…少し寝すぎたな…」
既に朝日が昇っている。アマノはきちんと妖精たちを指揮してくれただろうか…掃除ができていなければ俺がするが…どうだろう。
「アマノ」
「はい、何でしょうご主人様」
…毎度のことだが、壁をすり抜けて入ってくるのはやめてほしい。
「掃除は済んだか?」
「ご主人様が眠っている間に完璧に済ませておきました。妖精メイドたちはよく働いてくれますよ」
「お疲れ様。今日は休んでていいぞ」
「はい。わかりました」
そういうとアマノはまた壁を抜けてどこかへ去っていった。
「今日は、昨日少し休んだ分頑張るか」
「ずいぶんと働き者ね」
アマノと入れ替わるようにしてルーミアが部屋に入ってきた。もちろんきちんと扉を開いてだ。
「平日は休んでるからな」
…ん?…リボンがついてるのに戻ってない?
「一度解けると一ヶ月は効力をなくすの。だからこれから一ヶ月はここでお世話になるわ」
また考えてることを読まれた。
「顔に出てるわ。もう少しポーカーフェイスの練習をしたほうがいいんじゃない?」
「善処する。俺は全くかまわないが、レミリアはなんて言ってた?」
「『ここでまじめに働くならかまわない』と言ってたわ。昨日顔を真っ赤にして気絶してた吸血鬼と同一人物だとは思えない態度だったわね」
「言ってやるな。ああ、そうだ。これからよろしく。で、どこの担当だ?」
「決まってないわ。あなたが決めて頂戴」
なんともいい加減だな……ここで手が足りていないところは…図書館、妖精メイドと俺がやってる。東棟西棟、妖精メイドと咲夜、時々俺。ホール、妖精メイドと俺。たまに咲夜。
門番、中国。庭、中国。
「よし、門番をやってくれ」
「門番ならいると思うんだけど?」
「侵入者を寝ている間に通すような無能よりもお前のほうがよっぽど役に立つと思ってな。もしも中国が何か文句を言ってきたら咲夜か俺に言え」
あの真っ直ぐな性格だから、必ず文句を言ってくるだろうけど。
「…その必要はないわ。私が直接話をつけるから」
「なら殺さない程度でたのむ」
「安心して。トラウマを植えつける程度で済ましてあげるわ」
「立ち直れる範囲だよな?」
「…注文が多いわね」
「あれでも貴重な人材だからな。失うわけにはいかない」
限りなく無能に近いとはいえ、数少ない働き手だ。消えられても困る。
「弾幕ごっこならしてもいい。多少建物に被害が出ても修復するからかまわない」
「子ども扱いしないでくれる?」
「いや、子供扱いはしてない。立派な淑女に対して失礼だろう」
「……まあいいわ。やってあげる。宿と食事のお礼も兼ねてね」
「優秀な働きを期待している。失望させてくれるなよ?」
「少なくとも今の門番よりは役に立ってあげる。じゃ、行ってくるわ」
「ああ、行ってこい」
まあ、大妖怪だし、魔理沙も撃退できるだろう。大体紫と同じくらいの実力を持っているだろうしな。
「さて、今日も仕事仕事。昨日休んだ分しっかりやらないとな」
「一つ忘れてたわ」
出て行ったと思ったらすぐにまた戻ってきた。
(一体なんだ)
「レミリアからの伝言『今日は仕事はしなくてもいいわ。一日好きに過ごしなさい。人里に行ってもいいし、ここでゆっくり休んでてもいいわ』だって、ずいぶんと愛されてるわねあなた」
「ああ、そうだな。嫉妬するか?」
「まさか、それじゃあゆっくりしていってね」
それは本来こっちのセリフだと思うんだが?
まあいい。今日は久々に寺子屋にでも行こう。しばらく行ってなかったし、ちょうどいい。
「あともう一つ。いくら相手と親しいからって、人里の守護者と浮気しちゃダメよ?」
「絶対にしない」
「わかってるわよ。執事長(女誑し)」
「誰が誑しだ」
「あなたが」
「妻以外には手は出さない。さっさと行け。消すぞ」
「はいはい、わかりました」
あんなのがこれから一ヶ月いるのか…頭が痛くなる。
だがまあ有能だから、我慢するか……