再開
幻想郷、三途の川
本来ならば、死者の魂が渡し守によって運ばれる場所。
今日は彼岸にいるある人物、というよりも神様に近い存在に用があって来ている。
「こら、起きろサボり魔」
「う~ん、あと5年……」
「……」
ダメだコイツ…
放っておいてもいいのだが、それでは今日の用事が達成できない。
それは少し困るので、起こすことにする。
護身『スタングレネード』
辺り一帯に爆音と閃光が響く。これで起きなければ彼岸まで飛んでいこう。
「いきなり何するんだい!!」
「サボるのがわるい」
「サボってない!少しの休憩だよ!!」
枕にしていた鎌を片手で振り回しながら抗議してくる死神。
「あいにくサボり魔の言い訳は聞き飽きている。
映姫さまに用事があるから呼ぶか送るかしてくれ」
「呼びましたか?」
居眠り小町をにらんでいると、川の向こうから小さな影がこちらに向かってくるのが見えた
「はい。今日は少し用があってここに来ました。忙しいところすいません」
「かまいません。小町がサボっているせいで裁くはずの魂があまりこちらに来ないので様子を見にきたんです」
「サボってるんじゃなくて少しの休憩ですってば」
「なるほど、仕事をせずに鎌を枕にして眠るのが少しの休憩か。
それは休憩ではなく職務怠慢じゃないのか?」
そこまで言うと勢いよく走り出す小町、逃げる過程を捻じ曲げて映姫さまの前に出現させる。
「小町?」
「あ、あははは……」
「俺の用事もあるので説教は短めでお願いします」
「そのつもりです」
まあ、死にはしないだろう
「審判『ラストジャッジメント』」
「冗談、ですよね?」
どっかで見たなこのシーン。咲夜が美鈴を折檻しているときだったか?
「やりすぎだとは思うが、まあ、日頃の行いが悪い。あきらめろ」
「閻魔が嘘をついてどうするんですか?小町」
「イヤーーーーー!!!!」
……哀れ、死なない程度に収めてくれるとは思うが、八割死んだな。
「それで、用事とは何でしょうか」
審判が終わった後、こちらに振り向いた映姫さまの表情は非常にさっぱりとした笑顔だったということは、心の中にとどめておこう。
「ああ、最近、昔の子供の霊を裁きませんでしたか?」
「……いいえ、それがどうかしましたか?」
「それが、…………(中略)というわけで」
「なるほど、それでしたら残念ながら私の管轄ではありません。
外の世界のヤマの役目ですね」
「そうですか……ありがとうございました。
それと、貴重なお時間を割いてしまって申し訳ありません」
「待ってください」
肩を落として帰ろうとすると、後ろから呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「私から外のヤマに話をつけておきますので、安心してください」
「……ありがとうございます……」
振り向いて深く礼をする。
「頭を上げてください」
「……はい」
「これは閻魔というよりも個人的な依頼に近いのですが、妖怪の山で新しい異変が発生しています」
「巫女の異変解決の手助けをしてほしい、と?」
「行くか行かないかはあなたの自由です」
「……損得は抜きにしても、かわいい女性の頼みを断るようでは男が廃ります。引き受けましょう」
「な!!///わ、わたしは、そんな…か、かわいいなんて……」
「それでは、お願いしますよ」
顔を真っ赤にしている映姫さまは放っておいて、とりあえず妖怪の山へ。
しかし、妖怪の山での異変なんて……天狗か河童が暴れたか?
河童は...妙な機械を創って暴走させたとか……ありそうだな。
「とりあえず、天魔に話を聞こう」
短距離を一瞬で移動する能力使用での移動を止め、長距離飛行用の火と風の魔法に切り替える。ジェット機を思い浮かべてくれればわかりやすいと思う。後ろに火の魔法で爆発を起こし加速、そのまま風の魔法で速度と姿勢を維持。
「天魔!」
天魔の家に駆け込む。天狗が反乱を起こしたのなら、それは止めなければいけない。
「なんじゃ、騒がしい。と思ったらおぬしか、何のようじゃ」
「映姫さまに妖怪の山で異変が起きているから解決の手助けをしてほしいといわれてな、それで文字通り飛んできた」
「そうか。今回の異変は、幻想入りした神社の巫女が山で暴れておってな……」
「ただの人間だったら烏天狗を数人派遣すればそれで解決するだろう。
まさか博麗の巫女じゃあるまいし」
「それがそれに近い力を持っているから問題なんじゃ。
おまけに神社には力のある神までおると来た……」
神?この時代に力のある神の宿っている神社なんて……
『ケロケロ!』
あったなそういえば……しかし、アレの可能性は……
『面白そうだね』
……いや、しかし……他の神社という可能性も……
「すまん、その巫女の特徴を教えてくれ」
「たしか、緑の長髪、博霊の巫女と同じく脇のあいた青の巫女服、現人神。
蛇足だが、射命丸によると胸が大きいらしい」
ああ、決定だな…流石に現人神なんて存在がごろごろいたら日本は人外の巣窟になっているだろう。
「すまん、確実に知り合いだ……」
「ほう、そうだったか。なら早いところ何とかしてくれぬか?」
「そうするつもりだ。どこに神社があるか、教えてくれ」
「山頂付近、大きな柱が立っておるからわかりやすいぞ」
「ありがとう。あいつには俺からきつく言っておく」
他にも必要な情報を教えてもらってから空に舞い上がる。
しばらく空から神社を捜索していると、秋の神様姉妹が叩き落されて地面に落ちていた
「む、魔理沙に霊夢か。相変わらず無茶ばっかりするな」
関係ない奴まで叩き落すなっての。
しかも相手は豊穣の神様と秋を彩る神様なんだから、来年から凶作になったり山が赤くならなかったらどうするつもりだあいつら。
ともかく、早く機嫌でも取らないと大変なことになりかねないし、放っておいたら暴走するし……、さてどっちを優先すべきか……
「はあ……椛と射命丸に期待ってところかな」
どうせ時間稼ぎくらいにしかならないんだろうけど……あの砲撃魔法使いと恐るべき勘を持った巫女のタッグだ。流石に無理だろう。
少し飛ぶと、
「静葉様、穣子様、大丈夫……じゃないか」
薬程度は置いておこう。謝罪の紙と一緒に……この異変が終わったら奉納品でも渡すか
「巫女と魔法使いが迷惑をかけて申し訳ございません、しかし、なんで俺が謝罪をしなければ……」
後で巫女を怒っておくか。もちろん紅白のほうを。
その後しばらく飛ぶと、今度はお雛様が落ちていた。リボンの塊に見えたので一瞬誰かの落し物かと思った。
「あまり近づきたくない相手だが、放っておくわけにも行かないよな……」
まあ、これ以上不幸になることもないだろうし……いいか
「…!」
近づいて介抱しようとすると、弾幕の流れ弾が飛んできて頬をかすった。
「危ないな……」
弾幕がかすったところは切れて、血が流れていた。
介抱するのはやめにして、以前永遠亭から拝借した傷薬一式を置いておく。
「ありがとうございます」
「意識あったんですね」
「この程度では気絶などできません。これでも厄神ですから」
「それにしても、なぜあなたはそこまで私に恐れなく接することができるのですか?人も妖怪も私には寄ってこないのに」
確かにそうだ。だが、いつもお世話になっている相手に恐れを持って接するのはいくら相手が厄神だろうと失礼というものだ。
「不幸には慣れてますし、日頃のお礼です」
軽く会釈して飛び上がる。全く、霊夢に魔理沙は映姫さまのところに連れて行って直々に説教してもらおうか。うん、それがいい。
「誰が誰に説教してもらうって?」
「霊夢が映姫さまに。ついでにお前もしてもらうか?説教フルコース」
後ろを向くと、少し傷を負った魔理沙が箒にまたがって飛んでいた。
「遠慮しとくんだぜ」
「ところで霊夢はどうした?いつもなら一緒に行動してるはずだが」
いつもなら隣にいるはずの霊夢が見当たらない。別行動でもしているのか?
「察しの通りだぜ」
「今はどこにいるかわかるか?
教えてくれれば本をやるが」
肩から下げている鞄に手を入れ、本を数冊ちらつかせる。
「おk」
「話がわかる奴は嫌いじゃない」
「いや、わからないぜ」
「どこで別れたかでもいい」
「それならわかるぜ。えっと、滝だ。滝で別れた」
なるほど、だとしたら急がなきゃな。
東風谷と鉢合わせでもしたら、意見の食い違いで弾幕ごっこという名の殺し合いに発展しかねない
「貴重な情報ありがとう。ほら」
「サンキュー、ありがたく頂戴しとくぜ」
「それじゃ、またな」
「ああ。御武運を、だぜ!」
魔理沙は山を下り、俺は山の頂上を目指す。
「急がないと……嫌な予感がする。
それにしても、お雛様に厄を取ってもらえばよかったな」
ため息をつきながら神社に到着。
どうやら聞こえてくる爆音からすると、もう既に弾幕ごっこを始めているようだ。
「時既に遅しか…。
触らぬ神にたたりなしとも言うし、終わるまでゆっくりしよう」
鳥居の上に腰を掛けたままゆっくり観戦することにする。
しかし、東風谷に霊夢とタメを張れるほどの実力があることにも驚きだ。
「くあ!」
「もらった!霊符『夢想封印』!!」
霊夢の周りに七色の巨大な霊弾が発生し、収束しながら東風谷に向かう。
「…あれはまずいな」
霊弾の過程を捻じ曲げ、着弾地点をずらす。
東風谷に殺到するはずだった霊弾は見当はずれの方向に飛んで行き、不満そうな霊夢がこちらを見ていた。
「ちょっと刀弥さん、何のつもりよ!
弾幕ごっこの邪魔をするのはマナー違反でしょ!!」
「あのな霊夢、弾幕ごっこって言うのはあくまで死人が出ない程度の範囲でやるものだ。
マナー違反はそっちも同じだろう」
「だったらなに!あの妹の弾幕、まともに喰らったら死ぬでしょうが!!」
「それについては心配いらん。今はきちんと威力の調整はさせてある」
妹というのはフランのことだろう。今は普通の威力に落としてあるから弾幕ごっこにも使用可能だ。
「~!!もういいわ、弾幕ごっこを申し込むわ!相手しなさい!!」
「だが断る。面倒だ」
「霊符『夢想封印』!!」
「っ!!」
向かってくる弾幕をとっさにトランプの全力投擲で相殺する。
しかし、両手で投げるにしても次々と放たれる弾幕を相殺しきるには及ばない。
射出用の陣を展開しようとしても、その間に落とされるのが目に見えている。
咲夜のように時を止めて投げれるわけでもないので、一度に放てるトランプは8枚が限界。
結果や過程ををいじって自分だけ避けるのは容易いが、後ろには傷ついた東風谷がいる。
俺だけ避ければ東風谷に弾幕が襲い掛かる。
いちいち弾幕全部の過程を捻じ曲げていたらあっという間に霊力が切れて二人まとめてやられる。
やれやれ、守りながら戦うのがこんなに面倒だとは……。
こんなことになるならアマノをつれてくれば良かった…….
「不利だな。明らかに…っ仕方ない」
トランプの投擲を一時中断、懐から白紙のスペルカードを取り出す。
さっき使ったカードは一枚しかないので、今度は違うのを使う。
『寄せる波と返す波』は霊夢が死にかねないので使えない。
「やれやれ、やっと観念した?」
「まさか、そんな事はしない」
咲夜のように時間を止めて逃げることもできない。
紫のように弾幕を別の空間に逃がすこともできない。
フランのように弾幕を空間ごと破壊することもできない。
「だけど…」
「え!?」
ニヤリと笑って振り返り、東風谷を抱き上げて過程を短縮して地面を蹴る。
直後に地面を無数の弾幕が抉る
「逃げるにはもってこいの能力だ」
「待て!逃げるな!!」
「あほ、逃げるなといわれて逃げない奴がどこにいる」
「じゃあ避けるな!」
んな無茶な。あんな弾幕の集中砲火を受けたら肉片すら残らないぞ。
「あ~もう!なんで当たらないのよ!!」
「逃げてるからな」
さっきから連続で過程(距離)を縮めて逃げまくってるから当たるはずもない。
逃げる先を勘で予想して撃ってくるも、余裕を持って避ける。
追尾性のお札は片手で持ったナイフで切り裂いて落とす。
「ハァ…ハァ…」
「よっと、そろそろ落ち着いたか?」
「かかった!夢符『封魔陣』!!」
「残念無念また来週」
ギリギリのところで一歩下がり、避ける。
さっき基点を置いたのを見逃していないからな。
「っち!」
「秘符『不思議な剣の山』」
「キャ!!」
四本のナイフを飛び上がって逃げるが、ナイフを無数の針に変える。
結界を張って防がれるが、それは完全なおとり。
本命は霊夢の影であり、その影を狙ってナイフを一本投げる。
「な!体が動かない!?」
影にナイフが刺さった瞬間、霊夢の動きがぴたりと止まる。
「影縫いって技らしい。
影に針や刃物を突き刺すことで相手の動きを封じれる優れものだ」
「なんで刀弥さんがそんなことできるのよ……」
「面白そうだったから作ってみたら成功した、それを使っただけ。
で、異変を解決しに来たのはわかってるんだが、ことの経緯を教えてくれないか?」
「いいわよ、今の状態じゃ何もできないし。
そこの気絶してる巫女がうちに『分社になれ』って押しかけてきたの。
それで断りに来た結果、いきなり弾幕ごっこを申し込まれたからそれに答えただけ」
何か文句でも?そう言いたげな視線を向けてくる霊夢。
「なるほど」
「わかったなら放して頂戴」
「だがな、そういうわけにも行かない」
「なんでよ」
「理由は至極単純。やりすぎ。
妖怪たちはいいとしても、厄神様や秋の神様姉妹まで落とすのはよろしくない。
後で映姫さまの説教フルコースをご馳走しよう」
「うげ……」
さて、隠れているお二方にも出てきてもらおうか。
「神奈子様に諏訪子様、ここではここのルールに従っていただきますが、よろしいでしょうか?」
境内の木に隠れているつもりの神奈子様、注連縄が思い切り見えてます。
諏訪子様も、本殿の扉を少しだけ開けてるつもりなんでしょうが、帽子が丸見えです。
「やれやれ、敵わないねえあんたには」
「どうも。霊夢の話からすると、博麗神社を取り込んで信仰を得ようとしてたんだろう?」
「やれやれ、そこまでお見通しかい…そうだよ。そこさえ抑えれば人間だけじゃなく妖怪の信仰も手に入るからね」
……⑨だ。博麗神社に信仰がある?有り得ない。天と地がひっくり返るほど有り得ない話だ。
「残念ながら博麗神社は信仰なんか存在しない。妖怪はもちろん人間にも」
「え??じゃあ、私たちがしたことは……」
「全部無駄だった。
信仰心がほしいなら人里にでも下りて人助けでもしてろ」
「そんな~……」
……その場に沈む神奈子様、哀れだとは思うが、どうするか……。
「まあ、新しく入ってきたからということで今回は大目に見てあげましょう」
「なんで刀弥さんが勝手に決めるのよ……」
「別にいいだろう。反省してるんだし新入りだし、多少のことは大目に見てやってくれ。後で賽銭箱に千円札入れてやるから」
閻魔の説教フルコースは無しにはしないけどな。
「本当!?」
「面白くない嘘はつかない主義でな。わかったらこの場は俺に任せてくれ」
「はいはい。わかったわよ」
そう言って後ろを向き帰るそぶりを見せる。
「……嘘だったら、わかってるわよね?」
と、立ち止まり、底冷えのする声でそう言われた。
「わかってる。わかってるからさっさと帰れ」
「そうね。賽銭箱にお金を入れるのよ、間違えないでね」
「そんなあほなことをする奴がいるかっての……」
さてと、霊夢も帰ったし……
「諏訪子様に加奈子様?」
「ん?なんだい?」
「ケロ?」
「ここのルールは簡単に言えば、『迷惑のかからない程度なら好き勝手してもかまわない』です。
まあ、当然のことながら全て自己責任でお願いします」
簡単にしすぎたかもしれないが、まあいいだろう。
これで問題ないはずだ
「うーん、わかりやすいようなわかりにくいような……」
「まあ、慣れればわかるはずですから……」
苦笑いしながら返答する。こうとしか言いようがないしな。
「ずいぶんといい加減だね」
「まあ、責任者は俺ではなく紫ですから」
「その紫って言うのはだれだい?」
「ああ、そういえばご存知でないのでしたね。
紫、本名は八雲紫。
スキマ妖怪で幻想郷の総責任者みたいなもので、俺の婚約者でもあります
詳しいことが知りたければ『ゆかりんかわいいよ』とでも大声で呼べばくるはずですから。
それと、スペルカードルールについては問題ないようなので省略させていただきますね」
「そんな恥ずかしいこと言えるかい!!」
「ゆかりんかわいいよ、ゆかりんかわいいよ」
……まさか、本当に言うとは、諏訪子様、なんて恐ろしい子…
「呼んだかしら?私眠いんだけど……」
声が聞こえたほうを向くと、スキマから紫が顔だけ出していた。
「呼んだのはこっちの神様。唯単に本当に来るかどうか試しただけだと思う」
「迷惑な話ね。用がないなら帰るわよ?」
扇子で口元を隠しながら話すが、とても眠いらしくまぶたを擦っている。
「いや、特に何もないよ」
「そ。それじゃ帰るわ。刀弥、後はよろしく」
そう言ってすぐにスキマに潜り、その場から姿を消した。
「困ったな……任されても何をどうすればいいのやら」
「とりあえず、早苗を運んでくれないか?」
「ああ、そういえば霊夢にぼこられて気絶してましたね」
そうは言ってもまだ抱えたままだが……さすがにそのまま抱えているのも疲れるので(肉体的にも精神的にも)軽い手当をしてから本殿に運び、慎重に降ろす。
「それにしても、あの巫女は何者だい?
ただの人間にしちゃ馬鹿みたいに強いし、かといって早苗みたく現人神なわけでもない」
「本人曰く、楽園の素敵な巫女らしい。
本性は金にうるさくやたらと実力のある貧乏巫女ですが」
博麗神社に行くたびに賽銭をせびられるのは、あまり感心できることではない。
「まあ、実力は折り紙つきなんですけど、性格がちょっと……」
アレで性格がもう少しよければ、もっと人気も出ると思うんだが、まあ無駄だろう。
「へー…一度弾幕ごっこ願いたいね」
「やめておいたほうがいいと思います。
閻魔だろうが死神だろうが躊躇わずに撃ち落すようなやつですから…….」
本気になったあいつは、恐らく誰にも止められないだろう。
紫でさえも勘で撃ち落すような人外だ。俺が落とせないこともないが、手加減し損ねて殺すことになりかねん。
「不吉なことは考えないようにしよう…」
ため息混じりに呟く。本当にそうなることはまずないだろう。
「そうそう、早苗はあんたに本気でお熱だからさ、いい加減観念してもらっておくれよ」
「あと二年。それでも東風谷の気持ちが変わらなければ考える」
本当は別の相手を探してほしいのだが、こちらに来たからにはそれも難しいだろう。
「はた迷惑な神様だ…」
「お?急に敬語じゃなくなったね」
「いろいろと考えてみた結果、敬意を払うに値しない相手だという結論に行き着いたからな。
まあ、これからは対等な立場ということで頼む」
「……なんだかひどい言われようだね」
「当然だ。今までのことを思い出してみろ。俺に対して何か益のあることをしたか?」
東風谷にみょんな薬を与えて拉致させたり、無理やり人に押し付けるようなことをしたり、迷惑なことしかしていない。
「あはは…」
「まあ、ねぇ?」
「東風谷、いつまで寝てるつもりだ。いい加減に起きろ」
床でいまだに気絶している東風谷に視線を向ける。
傷は全て治療したから、そろそろ起きてもいい頃だ。
「………ん…あれ?」
何度か目を擦って、こちらを穴が空きそうなほど見つめている。
なんだか居心地が悪いな。
「さて、東風谷も起きたし、そろそろ仕事の時間だ。
帰らせてもらう」
「……刀弥、君?」
帰ろうとすると呼び止められた。どこのラブコメだっての。
「そうだ。それ以外の誰に見える」
「あれ!?うそ!な、なんで!?」
「どうした、そんなに慌てて。
まるで幽霊でも見たかの慌てぶりだぞ?」
「早苗、落ち着いて。ほら、深呼吸」
ずいぶんと慌てている東風谷。そういえば東風谷にはこっちのことは話してなかったか。
……数分後……
「刀弥も大変なんですね。いきなり外から連れてこられて…大変だったんじゃないですか?」
「いや、慣れた」
「慣れたって…いくらなんでも早すぎませんか?こっちに来てまだ数日もたっていないんですよね?」
「?俺はずっと前からこっちにいるぞ」
それこそ、こちらに来てもうしばらくたつ。これの前に異変に二つも関わったんだし、こちらでの『普通』にも完全に身に染み付いた。
「え?もう一度言ってくれません?」
「俺はずっと前からこっちにいる」
「……どういうことですか?」
ズイ、と身を乗り出してこちらに質問する東風谷。その表情はとても真剣だ。
「さっきから質問ばかりだな。まあいいだろう、答えてやる。
いつごろだったか、俺が数日ほど学校を無断欠席したことがあっただろう?」
「あれはヤクザの組の潰しあいと聞きましたが?」
阿呆だ。まごう事無き阿呆だ。そんな事が実際にあるわけがない。
「そんなこと実際にあるわけがないだろう。第一、巻き込まれる前に逃げる」
「……言われてみれば、確かに先生の話は少し不自然でしたね」
「少しどころか嘘以外のなにものでもないだろう」
普通あの説明で不自然さを感じない奴がいるか?いない。むしろいたら困る。
「早苗、あんた…」
「やれやれ…」
二柱の神様も同情するような顔で東風谷を見ている。仕方ないといえばそうだろう。あんな説明を信じるだなんて、どれだけ純粋なんだ。子供でももう少し疑うということをするぞ。
「それはともかく、どうしてこちらへ?」
「ん?わけもわからずいきなり連れてこられた」
「……あんたも大変だね…」
「同情するなら金をくれ」
「残念だけど、うちにはまだ賽銭は入ってないよ」
「冗談だ。神様からお金を貰おうなんて考えるほどの守銭奴ではない」
霊夢ならやりそうだがな。
「ところで、その時期からいるとしたら、外とこちらを自由に行き来しているということになりますが、それはどうなんですか?」
「ああ、それについては紫に頼むか自力で突破している」
「…あの結界は外とこちらを完全に遮断しています。突破できるものではありません」
「あのな、誰が破って突破すると言った?」
そんな事をしたら紫に殺されるし、結界を破るのは非常に面倒だ。
「ではどうやって?まさか外界に忘れ去られるだなんて言いませんよね?」
「阿呆。そんな事できるわけがないだろう」
「それは私も気になるね。いったいんな手品を使ったんだい?」
「手品じゃなくて能力な。『過程と結果を操る程度の能力』と『過程をすっ飛ばして結果を得る程度の能力』を使い分けている」
強力無比かつ燃費が悪すぎる。故に弾幕ごっこでは一撃必殺が自然になるので使いにくい。
だが、戦闘以外ではかなり使い勝手のよい能力である。
「あんたがどれだけ規格外かがよくわかったよ。でもそこで一つ質問」
「ん?なんだ諏訪子」
「どうしてそこまで強い力をもっているんだい?特別な家系っていうわけでもないよね?」
「先祖の血?特別といえば特別なのかもしれないな」
ご先祖様が集めたもので完成したあの魔窟。どう考えても人間が集められるようなものではないし、今はなき祖父も、なにもかもがのすごいチート具合だったらしい。
「変わり者の集まりが作った程度の家系ということしかわからない」
小さい頃に聞いた話。どうも黒羽家の子には必ず特殊な能力が備わるらしい。ちなみに、黒羽という姓は父のほうの家系の苗字であるらしい。
父にどのような能力が備わっているかは知らないが、とりあえず奇妙な能力であったとしか言いようがない。何か世界に干渉する能力だったらしいが、うろ覚えだ。
たしか、平行世界に穴を開けるとか言ってたような….
ちなみに母はいたって普通の人間。いわゆる無能力。
なぜか祖父の能力は覚えている。『生命以外を創造する程度の能力』俺が言うのもなんだが、チートもいいところだ。
とりあえず生きているということは、定期的に送られてくる文でなんとなくわかる。七十過ぎなのにいまだにピンピンしているらしい。どっかの樹海でサバイバルな生活を送っているらしい。
「へ~…それで、あんたの能力をちょっとでいいから見せてくれない?」
「説明の後に。『自分が存在する』という結果を結界の内か外かに出すことで自由に行き来できるだけだ」
「「「へ~……」」」
どうやら納得してもらえたらしい。これでわからないのなら説明が面倒なので変えるつもりだった。
「それで、能力の使用例だったな」
「うん。なにを見せてくれるんだい?」
「特に面白いことではないが、こんなのはどうだ?」
鞘に入ったままのナイフに手をかけて、ナイフは抜かずに能力を発動。
「?….!今、何をしたんだ?」
神奈子の前髪が数本パラパラと舞い落ちる。
「だから言っただろ?過程をすっ飛ばして結果を出すのが俺の能力。『斬る』という過程を省いて『斬れた』という結果を出した。わかりやすいだろう?」
斬らずして斬る。哲学的な表現になったが、鞘から刀を抜かなくとも斬れる。つまりはそういうこと。
「ああ。とってもね…しかし、髪は女の命ともいうのに…それをよくもまぁ…」
怒りで握られた拳が震えている。周りに弾幕が配置される。
「髪は元に戻っているはずだが、何か不満だったか?」
「あれ?」
「今度は出した結果を上書きした。次は…」
過程を短縮、そのまま後ろへ一歩。特に力を込めて跳ぶわけでもなく、歩く一歩。
たったそれだけで数メートルの距離を一気に離れる。
「今度は過程を縮めた。いろいろと応用が利く能力だろう?」
「…まあ、それはわかったけど…」
後ろでは何が起きたのかわからないといった表情の東風谷。
「人間が持つにはやっぱり大きすぎるよ、その力」
「使い道さえ間違えなければ大丈夫だ」
「あんたなら、まあその心配はないと思うけど…」
「まあ、身の丈に合うことだけにしか使うつもりはない」
工房で研究するときには能力をフル活用するが、それほど大それたことはしていない。実験の失敗を防ぐために成功した結果を先に作っておいて、それから実験を開始する。
「それじゃ、そろそろ帰る。用があったら紅魔館に来てくれ。寝ている門番には俺の名前を出せば問題なく通れるはずだ。じゃあな」
今度は呼び止められないように過程を縮めて一歩ふみだす。そして、そのまま飛翔。
館に帰ったらまずは図書館の掃除だな。
あとがきという名のお詫び。
この度、更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。原因は作者の体調不良であり、風で寝込んだ結果、このようなことになってしまいました。更新を楽しみにしていてくれていた読者様には、本当に申し訳ありませんでした。