一時の別れ
「皆、今日はかなり重大なお知らせがある」
朝、まだ少しけだるさの残るショートHR。担任の西藤先生が珍しく前に出てそう言った
「東風谷が家の都合で引っ越すことになった」
『えぇ〜〜?!』
クラスの全員が声をあげて叫ぶ。
人気者だったからな、東風谷は。
男子からも女子からも。
それにしても引越しか、おそらく信仰の得られる土地へ移るんだろう。今の時期、外の世界で神様を信じる奴はかなり希少だ。
どこへ行こうとそう変わらないと思うが……
「そういう訳で、今日は東風谷と過ごせる最後の一日だ。いつもより早めに終わるから、しっかりと別れの挨拶をしておくように。以上だ」
「どうして引っ越すの?!」
「どこに行くの?!」
「ごめんなさい、どこにと言われても、すごく遠い場所としか……」
「携帯のアドレス……」
「電波も届かないような田舎だから……」
いきなり人の波に飲まれたか……人気者だから仕方ないか
「あの子ってたしか、現人神よね」
欠伸をしながら授業の準備をしていると、後ろからレミリアが話しかけてきた
「そうだな。大方、神社の神様消滅を防ぐためにどこかへ行くんだろ」
「大変ね。同情するわ」
「あいつが自分で選んだ事だ。俺たちが口を出すべき事ではないさ」
「それもそうね」
他の奴もそのうちもとに戻る。騒ぐのは最初の内だけであって、後になれば名前を覚えているだけの存在になる。
そんなものだ。
「生きている限り、別れは避けられない。それが人であろうと妖怪であろうとも変わらない」
「私達は別れないけどね」
「そうだな。だが、吸血鬼、妖怪、鬼、他のにも果てしない命はあっても、いずれは死ぬ。死なないのは蓬莱人だけ」
おそらく蓬莱人は肉体が劣化しないだけであり、精神が崩壊すれば死ぬ。
肉体的な死ではなく、精神的な死。肉体が滅びないから輪廻の輪から外れ、永遠の時を巡るだけ
「まあ、俺は千年二千年じゃ死ねないよ」
「早くに死なないでね」
「当然だよ」
叶うことなら、皆といつまでも一緒にいたい。
そんな気持ちを込めての返答だった。
……時は流れて放課後
「ん?手紙?」
机の中から教科書等を引き出すと、手紙が一枚床に落ちた。
「……東風谷からか。
『屋上へ出て下さい。
東風谷早苗』」
何の用なのかは大体予想がつくな。
ゆったりとした足取りで屋上へ向かう。
鍵の開いた屋上へのドアを開くと、フェンスを背にした東風谷がこちらによって来た。
「わざわざ来てくれてありがとう。
今日は少しお話があって来たんです」
話、ね。大方今朝話していた引越しについてだろう。
「突然ですが、私は引っ越すことになりました」
「今朝聞いた事だ」
「……もう少しこう、気持ちのこもった言葉を言えないんですか?『行かないでくれ!』とか『君が好きだった!』とかそういうの…」
「いまさら俺にそんな事を期待するか。無理だな。あきらめろ」
「……刀弥君は関心のない人にはとことん冷たいですね」
「悪かったな無愛想で」
「いえ、別に責めているわけではないんですよ?
ただ、もう少し人に優しくできればもっといい人になれそうだと思っただけです」
「だから無理だって、それができるなら昔からやってる」
苦笑いしながら返す言葉は、自分でもわかっている事。
まあ、その内なんとかなるだろう。四人も妻がいるんだし。
「かわいそうな人ですね……」
「そうか?と言うよりもどこが?
俺から見ればお前の方がかわいそうだと思うぞ?」
「どこが、ですか?」
「身勝手な神様に振り回され、日常を手放さければいけなくなった。哀れなやつだ」
哀れみと少しの侮蔑を込めて言い放つ
「私が自分で選んだ道です。それに、現人神である限りいずれは人である事を捨て、日常を捨てなければいけませんでしたから……」
俺は日常を捨てない。こいつは日常を捨てた。つまりは、
「いずれは通る道だった。そういうことか」
「そうです」
……強いな、東風谷は……
俺とは大違いだ
「まあ、お前が選んだ道だ。好きにしろ。その行動が良い『結果』に繋がればいいがな。
それと、餞別だくれてやる」
守護のルーンを刻んだ安物の宝石を投げ渡す
「ありがとう。刀弥君、大事にします」
「俺にできる事はこれだけしかないからな」
「さようなら……もう会う事は無いと思うけど、好きです」
風が吹き、目を閉じる。再び瞼開いた所には、もう東風谷はいなかった
「会えない、という事は無いだろう。人の縁は死別する以外では切れない。いずれまた、どこかで会うだろう」
青空を見上げて呟く。俺の勘が正しければ近いうちに会えるはず。
「その勘は正しいわ」
「紫、いきなり背後から話しかけるのはやめてくれ。心臓に悪い」
「人はお互いに惹かれ合うものよ。私と刀弥のようにね」
紫と俺はたしかに切っても切れない縁で結ばれているが、全員がそうとは限らない
「そんなものか?
それと、少しは人の話を聞いたらどうだ?」
「そんなものよ。早く帰りましょ。アナタ」
「無視か。それと式まではあと一年だ」
「一年くらいいいじゃない。私たちには一年なんて瞬きをする間に過ぎるんだから」
「そんな瞬きをする間で歴史は積み上げられていく。そんな一瞬ですらも大切にするべきだ」
「わかりにくいわね、人間の考えは」
「わかりやすく言えば、楽しい事はたとえ一瞬でも見逃さないようにする。だ」
少し簡単にしすぎたか?
「なかなかいい考え方ね。アナタと過ごす事は一瞬でも貴重な時間。
そう考えれば確かに大切ね」
「わかってくれてうれしいよ」
そう笑い合って、他の妻たちの待つ家へと帰る