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  幻想郷訪問録 作者:黒羽
今回はホラーっぽいです。ですがそこまでは怖くないはずです。あと、少し独自解釈があるかもです
コトリバコ
昔から存在する、怨念のこもった呪い。かなり流行った都市伝説、それが形を持ったものは『普通の』人間にはたやすく脅威となりうる。

 呪いやまじないの類で、数ある中の一つ、『箱』。
箱というのは、何かを封じるという概念が強い。
パンドラの箱がいい例だ。あらゆる災厄を封じ込めたと言われるその箱。それを開いたがためにこの世に災厄が撒き散らされたという話がある。その例に漏れず『箱』というものは非常にたちが悪い。
回りくどい言い方だが、何が言いたいかと言うと、箱というのは何かを入れるという意味が強い。そこから転じて、封じる、閉じ込める。そういったことを暗示することもある。
何を入れるかによってその意味も異なるが伝承の中では何かしら良からぬものを入れていることが多い。中に入ったものが出てこないように…
また、封を開けなくとも詰め込まれたものの質、量が許容量を越えれば即中身があふれ出る。
 話が逸れたな。そろそろ本題に入ろうか。なぜこんな話をしているかと言うと、それは……

「面倒だな、こんなものが学校にあるとは……」

クラスの男子が、物置から掘り出してきたものらしい。それが今俺の目の前にある。
複雑に入り組んだ構造の『箱』、一見一昔前に流行った立体パズルのようにも見える。
それはもうすでに解かれ、中身が出ていた。
その中身、何かヒモのようにも見える。
そう……普通の人にはそう見えるだろう。
だがあいにく俺は『普通』の域から既に飛び出している状態。五感も常人ともずれている。
 視覚では禍々しい瘴気を捉えることができ、嗅覚では普段では絶対にかぐことのない臭いを嗅ぎ取り、聴覚では甲高い悲鳴が常に鳴り響く。味覚では瘴気に満ちた空気の味を理解し、触覚では背中を大量の毛虫が這い回っているかのような感覚。あたりの温度は生ぬるく、非常に不快である。
 恐らくこれは呪い、怨念、憎悪、怒り、嫉妬、そういった負の感情の塊。
 それの媒体と、封じ込めていた箱……

「クラスで女子だけがもう何人も早退したのはこれのせいか……」

 もって来た奴は、恐らく悪気はなかったのだろう。単なる好奇心で分解したのだろう。だが、これは洒落にならない。
これは人が死ぬレベルの『呪い』の塊だ。指向性を持たずただただ周囲に呪いを撒き散らすだけの凶悪な……

 以前、大掃除のときに出てきた呪いのグッズ、それがかわいく見えるほどの、いや、あれとは全く別の方向に働くようだ。
それが『殺す』という方向に働くこと。

 それが観察して出た一つの答え。

 俺はさらに呪いを理解しようとして、能力を行使する。

「悪趣味な……」

 夕焼けで紅く染まった教室で一人呟く。
 能力で媒体が何であるかを理解した『結果』を出す。使用された媒体は非常に悪趣味かつ残虐なもの。

「子供、それも赤ん坊の臓器か……」

 しかもかなりの年数がたっているにもかかわらず、呪いの効力は薄れていない。

「クラスメートの解呪は皆に任せたし、俺は呪いの大本であるこれをなんとかしよう」

こういうのは専門家、パチュリーやアリスに頼みたい所だ。
 まあ、能力なり魔法なりで消し去れば済む話だが、それでは中身にされた子供たちが成仏できない。

「俺は無宗教だし、葬式もしてやれない。かといって見捨てるのも良心が痛む。どうするか……」
「困っているようですね」
「……専門家に頼みたい所だが、その専門家もいない。さて、困った……」

 頭を抱えてうなる。

「あの、無視しないでくれません?」
「中身を無理やり暴走させて『呪い』の部分だけを消すか?だめだな、呪いが広範囲に広がって被害が広がりかねない」
「あの~」
「困った、本当に困った…」
「すいませ~ん!」
「幻想郷に持っていって三途の川に放り込むか?これも成仏できないし……映姫さまに直接渡す?だめだな。お雛様、これもダメ、呪いは専門外だろう。白玉楼、は他の霊魂たちに悪影響を及ぼしかねない。
難しいところだ」

 いろいろと考慮して出てきた答えは、非常にシンプル。

「人のいない場所で、結界を張り能力で呪いだけを閉じ込めて破壊、その後誰かに供養してもらって成仏させる。それ以外に方法はないな」
「無視しないでください!!!」
「ああ、いたのか。すまないな、集中してて気がつかなかった」

 後ろから東風谷が声をかけてきているのに気がついた。ん?

「影響がないと思えば、そういえば神様だったな、東風谷は」
「そうですよ。現人神である私が呪い程度でどうにかなったらそれこそだめでしょう」

 本物の神様である天は呪いにかかったぞ?どれだけ家の魔窟は危険なんだ。

「それにしても……『コトリバコ』ですか……これまた厄介なものを」

東風谷はなにやら神妙な顔で箱とその中身を見つめている。どうやらこれは『コトリバコ』というらしい。

「なるほど、『子』を『取る』『箱』でコトリバコか。でもなんでそれでクラスの女子のほぼ全員が帰ったんだ?」
「子を孕む母体、といえば理解できますね?」
「なるほど、母体ごと呪い殺す……か。ますますもって悪趣味だな」

 能力で理解したつもりだったが、少し認識が甘かったか。
子と最もつながりが深いのは、母親、女性。
これ一つあれば一族郎党根絶やしにできるな。ついでに言えばクラス一つ呪い殺す程度は余裕だろう。

「恐ろしい呪いです。詰め込まれた子の怨念、それは長い年月を経てもそう簡単に薄れるものではありません。
下手をすれば、呪いの目的を見失い、全てに対して憎悪を抱くようになりかねません。そうなれば……」
「溜め込まれた怨念が一気に噴出して形を持つようになり、それが今まで以上に広範囲に広がる。以前本で読んだ」

 紅魔館の図書室で読んだ本、陰陽だの何だの書いてあった本の一つのページを思い出す。

「正解です」

 それはちょうど今のような状態かな?周りに漂っていた瘴気が徐々に形を持ち始めた

「!!!!!早くそれを!!」
「いや、大丈夫だ」

 箱とその中身を空中に放り投げ、その周囲に紫に教えてもらった結界を張る。
 すると、瘴気が形を整え始め、黒い物体があふれ出した。

『中で起きる結果を否定する』ように自己流にアレンジしたものなので、密閉性だけなら紫以上。溢れてきたものをこのまま消滅させればそれで済む話、なのだが……

「ヒッ!」
「……かわいそう、だな……」

 結界の中でもがく、いくつもの赤ん坊が接合し、接合部からは内臓がはみ出て、皮膚は一部剥がれ落ち、筋肉と血管が浮き彫りになり、脈動している。
フランケンシュタインの失敗作。言葉で表現するならそれが一番適切だろう。
本来ならば醜い。その一言で済ませ、心の弱いものならば精神は愚か、魂すら持っていかれそうな、そんな感じがする生物とすら呼べないグロテスクな『物体』。
 結界の中で悲鳴ならぬ悲鳴を上げる『それ』
『それ』は負の感情をそのまま固めて凝縮したようなもの。心の弱い人間ならその場で倒れてしまうようなグロテスクな形のもの。一級のホラー以上の恐怖を感じるもの。皮膚はめくれ、そこから覗く筋肉、体の接合部からはみ出ている腸、苦しみで閉じる事のないまぶた、常に響き渡る断末魔の悲鳴、それを見ても、聞いても、感じても、なぜか沸いてくる感情は嫌悪ではなく哀れみ。
「タスケテ、タスケテ」
怨念の中に聞こえた助けを求める声。哀れみの感情が湧くのはおそらくそれが原因だろう。

 それはどんな事情があったかは知らないが、何も知らぬ間に殺され、輪廻の輪に入ることも許されなかった子供たち。その子供たちの悲しみが心に響いてくる。

「東風谷、結界を一瞬だけ解く。その一瞬で消し飛ばす。だから呪いが広がるのを抑えてくれ」
「無謀です!やめてください!!いくら刀弥君が力のある妖怪や神とつながりがあるとはいえ、この規模の呪いを一人でどうにかするなんて「黙ってやれ」……」

 東風谷はうつむき、何も話さない。

「しないならそれでいい。一人で消す」
「……絶対に、できるんですね?」
「できないことは言わない」

 常に携帯しているトランプに手を伸ばす。その中から一枚のカードを取り出す。

 ジョーカー、どの属性にも属さず、どの属性にもできる。
四種類の記号にはない属性での使用も可能。

ここで使用する属性は『光』、穢れを祓う圧倒的な光。闇を照らしだし、白く染める。

「解」

 結界を解くと同時にトランプにありったけの霊力と神力を込めて投げつける。
それと同時に暖かい光と白い数珠状に連なった弾幕が溢れ、冷たい呪いが光の弾幕に耐え切れずに消えていく。

 その物体も同じく。ただ一つ違うのは、物体の表情が苦痛ではなく、喜び。
 徐々にその姿が薄れ、光の粒となり、完全に消えた。
 そして後に残ったのは、小さな箱と赤ん坊の霊だけ。それもすぐに天へと昇る。

「東風谷、俺には葬式はできない。お前のところの神社で供養してやれ」
「……私いる必要ありませんでしたね。
 まあ、私にはそれくらいしかできませんしね……」
「閻魔には俺から天国に行けるよう言っといてやる。それ以外は任せた」
「呪いにかかった皆様は、私が責任を持って解呪しておいたわ。お疲れ様」

 突如スキマを開いて現れた紫、少し疲れているように見える

「紫、すまないな。慣れないことをさせて」
「他ならぬ夫の頼みですもの、断るなんてありえませんわ」
「帰ったら、そうだな。今夜は一緒に寝ようか」
「ふふふ、この上ない御褒美と言っても過言ではないわね」

 そう言って荷物を持ち、教室から出て家へと帰る。今度幻想郷に言ったら映姫様に頼んでおくか
今回はホラー系にしてみたんですが、相変わらず東方の成分が薄いというかなんというか……。
弾幕は描写が難しいです