不運の主人公 中編
パチュリー…」
髪は長く、声も高い。おまけに胸まであるというひどい仕打ち。後でこうなった原因である小悪魔さんを当社比10倍程度いじってこの怒りを解消しよう。
そうでなければ気がすまない。
「言わなくてもわかるわ、ご愁傷様。
下手に能力で解かないほうがいいわよ。過程と結果、それぞれが複雑に絡まりあって現象を構築しているの。
いろいろな魔法が重ねがけされて偶然その形に留まっただけで、もしも一つでも消し損ねたら」
「…下手をすればもっと嫌な状況になりかねない。そういうことか?」
「正解。まあ、そのうち魔法の均衡が破れて元に戻るだろうから、現状維持が一番ね」
そう本を読みながら返すパチュリー。
「お前の言うそのうちが後数秒後になるか、数日になるか、はたまた数年になるかもしれないから現状維持は嫌だ」
「そうは言っても、性別を変える魔法なんて聞いたことがないから、解呪のしようがないわよ?」
「……だったら工房で検査して構成を解明する」
「新しい魔法の誕生ね。けど、あなたらしくないわね、そんな実用性のない魔法を記録するなんて」
「そうは言ってもパチュリー、明後日は学校だ。そして俺は学生。『学校を女になったから休みます』なんて理解に困るような理由で休むなんてことはできない」
「なら休まずにそのまま行けばいいじゃない」
面白そうに笑うパチュリーだが、こっちはそうするつもりは微塵もない。
放置しておいてもしも学校までに治らなければ休むことになる。
この姿のまま行くだなんて、はっきり言って無理だ。紫に認識の境界をいじってもらったとしても、だ。精神的に耐えられない。
「そのためには少々の無駄も仕方ない」
「残念ね」
「ふざけるな、と言いたいね。ともかく、さっさと解呪してくる」
工房で血液検査すれば今俺にかかっている魔法も全てわかるはず。そうなれば全て能力で安全に解呪できるはずだ。
希少な体験とはいえ、健全?な日本男子である俺が、女の体で過ごすだなんて…はっきり言って地獄だ。
「あらあら、大変そうね。
けど、こんな面白そうなことになっているのに、私を呼ばないなんてひどいじゃない」
工房へと歩き出すと、目の前にスキマが広がり、紫が出てきた。
「俺にとっては不愉快極まりない事態なんだが?」
「私にとっては愉快極まりない自体ね」
「今の言葉はいくら妻とはいえ聞き逃せないな」
「あらそう。だったらどうするの?」
「さすがに怪我をさせるなんてことは出来ないからな、夜にたっぷりと可愛がる」
「…それは勘弁して欲しいわね」
顔を紅くして答える紫、こういうところはかわいいんだがな…もう少し人のことも考えてくれればな……。
「だったら不謹慎な事は言わないでくれ」
「どっちが不謹慎なんだか…」
「何か言ったか?パチュリー」
ボソッと小声で何かを言ったようだが、聞き取れなかった。放っておいても大丈夫だろうが、なんとなく気になった。
「いいえ、なにも」
「そうか、それじゃきっと空耳だな」
「私はそろそろ帰りますわ。それじゃごきげんよう、七曜の魔女さん?」
そう言ってスキマに消える紫、
「一体何しにきたんだか…」
「愛する夫の面白い姿を観察しに来たんじゃない?」
「そうだといいんだが、他意がないとも限らん」
「早く行ったら?私は読書に集中したいんだけど」
「すまない、もう行くよ」
心なしか重くなった体を引きずりながら多少SFチックな工房に向けて歩き出す。
『Touya’s Labo』 パチュリー曰く工房というよりは研究室に近いそうなので、AtelierからLaboに変えた。だが、魔法使いの『研究室』はおかしいので『工房』と呼んでいる。
「それはさておき、『Offenes Schloß《開錠》』
パスコードを言い、電子キーをかざす。すると、一見普通の壁がSFチックな扉に変わり、蒸気が抜けるような音を出して開く。
「最近入ってないからな、少し埃っぽいのも仕方ないか?」
今度河童に頼んで清掃用ロボットでも作ってもらうか?そんなことを呟きながらスキャナをくぐる。
「解析結果が出ました」
「相変わらず仕事が速い。まさに河童さまさまだな」
メイド服でそんな言葉を呟いている女性は、事情を知らない相手から見ればさぞかし滑稽だろう。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
「えっと、体質改変に身体強化、それと七属性の魔法の重ね掛けetc etc…メンド!」
一気に解呪するのは少し骨が折れそうだ。少しずつ、少しずつ。能力での演算を開始する。
感覚で使えないのがこの能力の欠点だ。慣れれば感覚で使えるようになるんだろうが、それまでにどれだけの歳月を必要とするのやら…
「おっと、少し考えがずれてたな。危ない危ない」
少しでも気を抜けば地道に組み上げてきた式が崩壊してしまう。そうなったらひどいことになるのはわかりきっている。
「ふう、疲れた。あとはこの式を保存して、回復してから使用すれば…」
「おお!こんな所にこんなものがあったのか!驚きだぜ!!」
……急いでPCに式を移す。
「お?見ない顔だな、新しくやとわれたメイドか?」
「はあ、できることなら早いところ出て行ってくれないか?」
式を完全に移し終えたところで、振り向く。予想通り泥棒魔法使い、霧雨魔理沙がいた。
「……その口調とその顔は、黒羽か?」
「ご名答、なんでこうなったかはパチュリーに聞いてくれ。説明するのも疲れた」
「しっかし、いつの間にこんな設備が?」
「人の話を聞け」
「質問に答えろ、だぜ」
八卦炉を突きつけられて脅される。
「脅迫か、強制か、どちらにしろ暴れるな。お前の命が危ない」
「は?」
突如警報が鳴り響き、門のルーンがびっしりと書き込まれたシャッターが閉まり、部屋が赤い光で染まった。魔理沙あわてて辺りを見回すと大量の機関銃の銃口が全て彼女に向いていた。
「いくらお前でも本物の銃弾による弾幕、しかもこんな狭い空間内で避けきれるはずもないだろう?」
「そ、そうだな…」
「武装解除武装解除、早くしないと火を噴くぞ?
俺だって自分の工房で血が流れるのを見るのはいやだ」
主に掃除的な意味で
「わかったんだぜ…」
そう言って床に八卦炉を置く魔理沙、すると警報が止み、住も格納。シャッターも開いた。
「それよりも、いつここに工房が出来たか、だったな?
その質問に答えるなら、去年から、だ」
「嘘だろ?何度も私がここに本を借りに入ってきたのに、こんなところなかったぜ!」
「真実だ。俺の隠蔽術式を甘く見るな。
それと、お前は『借りる』じゃなくって『盗む』が正しい」
電子錠とパスがない限りは誰にもわからないようにしてある。認識の『阻害』ではなく、完全な『拒絶』わかるはずもない。
「しかし、なんで気がついたんだ?隠蔽は完全だったはず…」
「見慣れない奴がここに入っていたところを見たんだぜ」
「ふーむ…まだまだ改良の余地ありって事か…あ!こら、そこらにあるものをいじるな!!」
どう改良するかを考えていると、パネルをむちゃくちゃにいじっている魔理沙が目に入った
「絶対開いたら後悔するからやめろ!」
「そう言われると余計に見たくなったぜ!これで、実行っと!」
「…もう遅い、か」
何をやっているかと思うと、俺の秘蔵ファイル、中身は妻たちとの夜の遊び。それの動画だった。
「~~ッ/////!!!!」
あまりのことに硬直している魔理沙。
俺は大慌てでリモコンを取って出力機器の電源を落とす
「…だから言っただろう後悔するからやめろって…」
「うう…よるなケダモノ」
「はあ、確かにそう言われたことは有る。だがな、今のは忠告を聞かなかったお前が悪い」
いやはや、困った。あれは完全にR-20は軽く行ってたしな。精神的なダメージはかなりのものだろう。それにしても何重にもロックを掛けていたはずのものがあっさりと突破されるとは、魔理沙の勘は侮れない。
…しかし、アレを見て勃つはずのものがないというのも少々辛いものがあるな。
「まあ、俺としては早く忘れることをお勧めする」
「そうするぜ…うう…」
「いいもの見せてもらったわ」
工房の扉が開く音がして、振り向いたところには誰もいなかった
「誰だ?」
突然背後に現れた気配に向けて質問を投げかける
「ヒント、私は月のお姫様」
「なるほど、NEETか。お前には少し刺激が強すぎると思うんだが?」
「あらあら、そんなの平気よ。そこのお子様じゃないんだから」
「確かに、何千年と生きてる(ババア)もんな」
「今ものすごく不愉快なことを考えてなかった?」
「まさか、そのようなことは一切ございませんわ」
優雅に一礼して答える
「「…刀弥だとわかってるんだけど、全く違和感がないわ(ぜ)」」
「クックック…我ながら恐ろしい才能だ」
そう笑いながら返す。そのときだった。カメラのシャッターを切る音と共に黒い疾風が吹き抜けていったのは。
「ふむ、『激写!謎の研究室!!』といったところでしょうか。まあ、あのシーンは流石に新聞に載せるのはまずいですし「工房内は機密保持のため撮影禁止だ」きゃ!!」
カメラを一瞬で奪い取り、写真を撮った過程を消す。そうすると、フィルムには不完全な結果だけが残る。すると、写真を撮ってないのに撮ったという矛盾した結果が残る。そうすると世界から矛盾した結果が弾かれて、そのままフィルムは没になる。これ以上無いほどの完全な隠滅だ。
「ああ!何するんですか!!」
「それはこっちのセリフだ。勝手に魔法使いの工房を写してもいいと思っているのか?」
全く、今日は千客万来だ。ん?そういえば、魔理沙以外は客か。
「というわけで、魔理沙、お前は帰れ」
「嫌だぜ」
「...お帰り願えませんか?魔理沙さま」
メイド服の女性(肉体だけ)が男口調というのはちょっと問題があるかもしれないので、口調を変えて優しくお願いする。
「「「気持ち悪い…」」」
「やかましい、俺だって我慢してやってるんだ」
「そういうならやらなきゃいいのに」
「それはともかく、強制排除と自主的撤退、どちらをお望みでしょうか?」
こみ上げる怒りを抑えながら質問する。
「はいはい、わかったんだぜ。帰ればいいんだろう?帰れば」
「賢明な判断ですわ」
「…(かなり違和感がないですね)」
「…(そうね)」
「…(無言で羞恥に顔を真っ赤にして帰宅)」
さて、話している間に大分回復したし、魔理沙も帰ったし、
「2人とも?早く帰ったらどうだ?」
「新聞のねたがないので帰れません」
「えーりんに殺されるから帰れません」
さてさて、困った。この2人、一応客として迎えているのだから、執事長(現在メイド)としては無碍にするわけにも行かない。
「はあ、ともかく、一度工房の外に出てくれ。着替えるから」
「激写、「カメラを壊されたいのならそうするといい」遠慮しときます」
「そこの自宅警備員も」
「わかってるわよ。あなたほど怒らせると怖い人もいないしね」
2人が大人しく工房を出て行ったところで、備え付けの白衣とシャツ、それとズボンに着替える。
「さて、さっさと体にかかった魔法を解かないと」
パネルを叩き、先ほど組んでおいた演算式を視認して、それを元に一気に解いていく
「くうぅぅぅぅ…」
想像以上に負担が大きい。やっぱり式が長いと苦労する。
式能力使用のための演算式を展開すると、体にまとわりつく、幾重にも重なった鎖のような魔法が見えた。
これはもはや魔法よりは呪いに近いかもしれない。
「はあ、終わった~」
それでも何とか集中して体に纏わり付く鎖を丁寧に丁寧に破壊し、数分かけてようやく解呪し終えた。全く、こんな経験は二度としたくないぞ…
「子供に女性に今度は元に、ですか。ころころとよく変わりますね」
外へ出るなりいきなりひどい言い草だ
「さっきも言ったが、好きでやってるわけじゃない。
それに、俺は執事であって断じてメイドや子供ではない」
「そうですか~。ていうか初耳ですよ?」
「私も」
「言ってなかったか?」
「「聞いて(ません)」ないわよ」
「そうか」
軽く返事をして流す。いちいち相手してたら時間が足りない。
「さてと、ワタクシめは屋敷の清掃に当たりますので、どうぞごゆっくりとおくつろぎください」
「白衣でそのセリフはないでしょうに」
「全く持って同感ね」
「ああ、これは失礼」
服の結果を上書きして、白衣から執事服に変える。
「手品?じゃないわね」
「能力でしょうか?」
「射命丸さまは正解です。だからと言って景品等はございませんので悪しからず」
「…似合ってる?」
「かなり似合ってますね。お持ち帰りしたいくらいです」
「射命丸様、そのようなことは困りますのでご遠慮くださいますよう」
「冗談ですよ、冗談」
「目が笑ってないわよ?天狗」
…...酒の肴にもならないようなは無しだ。勘弁してくれ
「それはともかく、客室へ案内いたしますので付いてきてください」
今は執事なので、いつもより丁寧な対応をとる。
「くれぐれも、粗相のないように。少しでも妙な真似をすれば、掃除いたしますゆえご注意ください」
「そんなことわかってるわよ」
「ニートなだけに信用できませんね」
「それは何か関係があるのでしょうか?」
「私はないと思うわ」
「無駄話はこれくらいにして、そろそろ輝夜さまは今日はどうなさるかを決めてください。場合によってはお嬢様に相談しなければなりませんので」
「あ、あれ?私は無視ですか!?」
「無視ね」
「申し訳ございません。紅魔館には鳥かごはございません。そういうわけで宿泊は無理です」
「失礼な執事ですね。天狗はきちんと布団で寝てますよ!」
「これは失礼いたしました」
笑いながら答える。この二人が泊まるのなら今夜はにぎやかになりそうだ。
「さてと、屋敷の清掃も済みましたし、ここからはいつもの口調で当たらせて貰う」
「いきなり変わったわね」
「スイッチのオンオフができないと、社会でも学校でもやっていけないからな」
「あれ?そういえば案内はどうしたんでしょうか」
「自分の今いる場所、確認してみればわかるはずだぞ?」
指を鳴らすと、廊下の景色が歪み、客室に変わった
「客室ですね」
「まごう事無き客室ね。さっきまでは廊下にいたのに」
「ちょっとしたドッキリ。幻を見せてたんだが、気に入らなかったか?」
「イナバの能力はあなたには使えないはずよ?」
「あ~、能力じゃなくて、光の屈折でそう見せてただけ。蜃気楼ってわかるか?」
空気の温度差、密度の差
「なるほど。案外多芸ねあなた」
「妻たちを退屈させないための努力だよ」
「夜のほうでは退屈どころか失神させそうな勢いでしたけどね」
「少し黙れ。撃ち落すぞ?」
久々にジャッカルを引き出す。これを重いと感じないのはやはり俺が規格外になってきている証拠だろう。
「いやはや、勘弁してください。短期は損気ですよ?」
「で、泊まるのか?」
「それでは好意に甘え「なくてもいいぞ。面倒だから是非帰れ」そんな~……」
「ところで私は?半分はあなたのせいでかえれな「お前はまず従者に言うことを聞かせろ」でもね~」
仕方ない、確かに俺の責任もある……のか?
「仕方ない、お前は好きにしろ」
「それじゃ宿泊希望で」
「ならレミリアに許可を貰う必要があるが?」
「それじゃチャチャっと許可を貰ってきてちょうだい」
「下手をすれば、フランの遊び相手になってもらう可能性もあるが?」
「殺し合いなら慣れてるわ」
「いや、フランに怪我を負わした時点でお前を完膚なきまでに殺しつくす」
「それはひどくない?ていうか殺せるの?」
「妻に怪我を負わした相手に制裁を食らわすのは当然だろ?どうやって殺すか?それは轢死焼死溺死失血死窒息死中毒死etc…それと、すり身にして魚のえさもいいな。ああ、かまゆでもありかな?伝承の通り四肢をぶった切って離れ離れにするとか、他に希望があればどうぞ?」
「「……引くわ~……」」
「それだけ溺愛してるって事。つーか天狗、お前はさっさと帰れ」
「はいはい、そうさせてもらいますよー」
「それじゃ輝夜、いくぞ」
「はいはい」
一瞬で消えた射命丸、残ったニート姫を連れてレミリアの部屋へ歩き出す。