Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
オバマ米大統領が「核なき世界」をめざすと宣言した昨年4月のプラハ演説。そして、核軍縮・不拡散について行動計画を含む最終文書を採択した今年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議。核への依存を減[記事全文]
「安いコメ」は、生産者にとってつらい話でも、消費者から見れば喜ばしい。今年産米の価格が例年より大幅に下がる見通しとなってきたことも、まずは消費者本位の発想で受け止めるのが筋ではあるまいか。[記事全文]
オバマ米大統領が「核なき世界」をめざすと宣言した昨年4月のプラハ演説。そして、核軍縮・不拡散について行動計画を含む最終文書を採択した今年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議。核への依存を減らす機運が高まるなかで、日本も積極的に核ゼロに向かうための外交を繰り広げている。
核ゼロを目標とする。
ただ、一足飛びにそこに進めない。そこで移行期戦略として核軍縮、核不拡散、核テロ防止を複合的に展開して「核リスクの低い世界」をまず実現していく。
日豪の呼びかけで、この考えを共有する10カ国が先週、ニューヨークで新たな非核国家グループを立ち上げた。今後、共感する諸国を加えていく。
10カ国のうち、日豪、ドイツ、カナダなど7カ国が米国の同盟国である。その7カ国も賛同した共同声明は、安全保障戦略における核の役割低減に取り組む決意を示した。
最強の核大国である米国が「核のない世界」をめざすには、「核の傘」を提供している同盟国との調整が欠かせない。今後、このグループが核の役割を減らす策を提言し、米国と対話していくことが、「核の傘」のあり方の協議にもつながるだろう。
大幅な核軍縮や、核抑止への過度の依存からの脱却に向けて、重要な突破口ができたことを評価したい。
前原誠司外相はこの会合で、非核国には核を使用しない消極的安全保障や、核の役割を相手の核使用抑止に限定する「唯一の目的」化についても議論を進めたいと語った。核リスクを減らしていく「行動計画」を打ち出すことも提案した。もともと岡田克也外相時代の構想だが、前原外相が受け継ぎ、発展させた。日本発で、核世界を変える外交力を強めていきたい。
国連事務総長主催のジュネーブ軍縮会議(CD)に関する会合でも、日本は新提案を示した。兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)は核軍縮、不拡散の双方に重要な役割を果たすが、議論は低迷したままだ。そこで前原外相は、1年たってもカットオフ条約の交渉開始のめどが立たないのなら、新たな交渉の場を提供する用意があると表明した。
欧米の核保有国はもちろんだが、首尾よく中国、インド、パキスタンをカットオフ条約に組み入れれば、アジアでの核軍拡を防ぐ手立てとなる。それは日本の安全保障にも、アジアの安定にも大きなプラスとなるだろう。
核軍縮は安全保障と相対立するとの考えはもはや、時代にそぐわない。
核軍縮を進めることで安全保障にもプラスを生み出す多角的な外交を推し進める必要がある。世界の先頭に立ってその役割を担っていくのに、日本ほどふさわしい国はない。
「安いコメ」は、生産者にとってつらい話でも、消費者から見れば喜ばしい。今年産米の価格が例年より大幅に下がる見通しとなってきたことも、まずは消費者本位の発想で受け止めるのが筋ではあるまいか。
米価の下落は、コメの過剰が原因だ。すでに値が下がっていた昨年産米の在庫が大量に持ち越されるうえ、今年産のコメの作況が良いため、過剰米はかなり膨らむと見込まれる。
米価下落で農家が採算割れに陥っても、民主党政権が今年から導入した「戸別所得補償制度」があるので、農家は最低限の所得は保証される。ところが、農協(JA)の全国組織である全国農業協同組合中央会(全中)は、政府に米価維持を求めている。
具体的には、農林水産省が来年度から導入を計画している新備蓄制度を前倒し活用し、過剰米を買い上げよというのである。
しかし、全中などの主張には同意しがたい。コメの消費が減っている最大の要因は、人口減と高齢化の進展である。過剰米買い上げで価格維持を図ろうにも、どこかで限界に達するのは目に見えている。過剰米を生む農業の構造問題は、そうしたやり方では解決できない。
そもそも、戸別所得補償制度は米価の変動による「安いコメ」を認めるという発想に立って設けられたのではなかっただろうか。
日本の戦後農政は、長らく減反政策でコメの供給量を調節し、米価を維持した。消費者に高いコメを買ってもらうことで農業収入を下支えしたが、その弊害は大きかった。減反には累計7兆円の財政資金も投じたが農業の足腰は弱くなるばかりで、後継者不足や広大な耕作放棄地も生んだ。
この際、農業を支える仕組みを納税者負担に一本化しつつ、「安いコメ」への道を開くべきだ。そうすることで日本のコメの価格競争力が高まり、農産物の市場開放もしやすくなる。
日本の貿易交渉の最大の弱みだったこの問題を解消して、自由貿易協定を広げることが出来れば、国民全体にとって大きな利益となる。
日本のコメ価格が下がれば、コメ輸出も展望しやすくなる。安全性と食味で定評のある日本のコメは、中国をはじめとするアジアのコメ消費地向けの有望な輸出品となりうる。
現在の戸別所得補償制度には、重大な欠陥がある。いまだに米価維持を前提とする減反政策を続けていることだ。また、所得補償の対象を零細農家も含む全販売農家に広げたことが、大規模生産者への農地集約の障害となっている。
これらの課題を克服し、「安いコメ」でも発展できる農業への扉を開くべきときが訪れている。