[掲載]2010年9月19日
■業界の常識、明快に切り捨て
日本のマスメディアは凋落(ちょうらく)の一途をたどっている。まさに「業界的には先がない」。目先の利益を確保しようと出版社が旬の書き手に群がるのも末期的である。そんな中「内田バブル」を懸念した著者は、進行中の出版企画の“塩漬け”を宣言し、注目を集めた。
本書では巷(ちまた)に流布する「メディア没落論」を一蹴(いっしゅう)。衰退の原因はネットの普及やビジネスモデルではなく、情報を発信する側の“知的劣化”にあると看破している。
血の通った個人の「どうしても言いたいこと」ではなく、誰でも言いそうな「定型句」だけを垂れ流す。読者を“消費者”と見下し、「できるだけ安く、口当たりがよく、知的負荷が少なく、刺激の多い娯楽を求めている」と決めつけて、出版危機の責任を読者に押しつける――。メディアに携わる者としては耳の痛い話ばかりである。
だが、心のどこかで「おかしい」と思っていた“業界の常識”を明快な論理で切り捨てる本書に、溜飲(りゅういん)が下がったのも事実。これまで「青臭い」と鼻で笑っていた本質的な問題に業界人も対峙(たいじ)すべき時が来たのだろう。そうでなければ、流通経路がネットになっても再生は望めないと著者は警告する。
コンテンツと贈与経済の関係など、独自の視点が刺激的。前代未聞の危機を「自分宛(あ)ての贈り物」と捉(とら)え、そこから最大限の価値を引き出す者だけが生き延びるという指摘は、どんな業界にも当てはまる。
著者:内田 樹
出版社:光文社 価格:¥ 777
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