2010年9月25日
40代以上の元男子にとって「七瀬ふたたび」というタイトルには記憶を刺激する特別な響きがある。1979年、筒井康隆の同名SF長編を原作に、多岐川裕美主演で放送されたNHKの少年ドラマが鮮烈な印象を残したからだ。
47歳の小中和哉監督も、当時このドラマにのめり込んでいた元男子の一人である。初の映画化ということもあり、オリジナルへの、さらに原作への愛があふれ出している。CGの質感を嫌って、あえて古めかしい特撮を用いているのも、愛ゆえの選択だろう。
七瀬とはヒロインの名だ。火田七瀬。今回は芦名星が演じる。他人の心を読む超能力を持つ。同じく心が読める少年と念力で物を動かせる外国人とともに北海道の湖畔で暮らしている。ある時、七瀬は国家レベルの巨大組織に命を狙われる。彼らの標的が超能力者全体に及ぶと知った七瀬は、戦うことを決意する。
超能力を扱った名作は数多い。彼らが特殊であるがゆえに周囲から薄気味悪がられ、排除されるという社会性を帯びているからである。
七瀬たちはここでは被差別者の暗喩(あんゆ)として描かれる。差別の風圧を避け、息を潜めて生きているにもかかわらず、権力者は、社会秩序を維持するためだけに、彼らの全滅を図ろうとする。
七瀬たちは常に自問している。「私たちはなぜ生まれたのか」「なぜ超能力が与えられたのか」と。彼らは自らの存在意義を求めてさまよい、最終的にそれを見つける。
同調圧力からの自由と、個人の生きるよりどころ探し。日本が抱える2大テーマである。SFというジャンルは、未来や別世界を舞台にしながら、紛れもなく現代社会に照準を絞る。70年代に原作を発表した筒井の先見性が今改めて光を放つ。10月2日から公開。(石飛徳樹)