漁船を使って挑発するという“自作自演”は、国民の鬱積した不満を外に向けさせようとするがためではないのか。中国はこの領土問題を国民のガス抜きに利用したいのだろう。
最近、中国の報道は連日、市民の焼身自殺を取り上げている。山西省や安徽省で起きた強制立ち退きを原因にした焼身自殺は、政府への強い抵抗を表すものだ。地方都市はまさにこれから「狂った上海不動産」をなぞろうとしており、暴力的な立ち退きが繰り返されている。ネットの奥からも『中国政府は市民の住宅問題を一番に解決しろ!』といった不満が続々と出てくる。住宅、雇用、医療、教育、どれをとっても矛盾だらけで、中国国民の不満は爆発寸前だ。
一方で、上海万博の日本館の行列を見てもわかるように、中国国民の間ではここのところ「親日ムード」が高まっていた。これが今、中国政府にとって都合が悪いものになってきている。
昨今、多くの中国人が日本へ旅行するようになったが、その結果、「日本人は日本鬼子(日本人に対しての憎悪をこめた呼称)なんかではなかったことがわかってきた。つまり、これまでさんざん刷り込まれた「日本人は残虐で悪者だ」という愛国教育は、現実とはかなり異なることがわかってしまったのだ。
「9月18日も中国市民はマスゲームのように動くことはなかった。それはもはや『愛国』では市民を動かせなくなってきていることの証拠。だからこそ『親日』は中国政府にとって都合が悪いものになっている」と上海で日系企業のアドバイザーをするC氏は語る。
そう考えると、今回の報復措置に「訪日旅行の規模縮小」が盛り込まれたことも偶然ではなくなってくる。冒頭で取り上げた宝健日用品有限公司の「1万人のキャンセル」も同じだ。ちなみに同社のHP(http://www.baojian.com/)に貼られた「取消万人赴日旅行団(1万人の訪日旅行ツアーをキャンセル))とうたった2本のバナーは、「愛国・反日」の宣伝効果に一役買っている。
中国政府による一連の「愛国・反日」強化は、大規模な国民の反発も予想される十八大(中国共産党第18回代表大会)を前にした伏線とも読める。国民の視線がこの領土問題に向けられれば、中国政府にとっても願ったり叶ったりだろう。