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[21543] 【ネタ】もしも垣根帝督と御坂美琴が幼馴染だったら(禁書ss)
Name: カンチャナ◆ccf92a2e ID:00d6c168
Date: 2010/08/29 20:31





 はじめに

 たくさんの感想を頂き、作者は大変驚いております。本当にありがとうございました。

 一応トップページに注意点みたいなものやら世界観みたいなものを書いていきます。
 順次書き足していく予定です。ネタバレとかもあるかもしれないので、注意してください。







 題材の通り、『垣根帝督と御坂美琴が幼馴染だったら』禁書の世界はどうなるのか?
 ということを念頭に読んで頂ければ幸いです。


 ただし、作者は原作を読んでいるということで話を書いているので、若干説明が不足しているかもしれもせん。
 もしここ意味不明、というところがあったら言っていただけたら嬉しいです。


 また、このssは「とある魔術の禁書目録」「とある科学の超電磁砲(アニメ、原作含む)」を混ぜた世界観に設定してあります。

 しかし、若干時系列にはズレが生じており、超電磁砲(アニメ)は開始時点で消化しているのに対し、禁書目録は始まったばっかりと色々変更点もあります。


 この他、よくわからないことがあったら、順次書き足していく予定です。よろしくおねがいします。












[21543] プロローグ
Name: カンチャナ◆ccf92a2e ID:00d6c168
Date: 2010/08/29 20:33





「…………でさぁ、アイツいっつも勝負ごまかして逃げんの。すっげえムカツクったらありゃしない……って聞いてるの? 帝督?」


 とある静かな喫茶店。
 垣根帝督は静かに紅茶を傾けながら幼馴染の少女の話に耳を傾けていた。


「ああ、聞いてるよ。ってかおまえな、いちいち喧嘩売ってんじゃねえよ。どんな奴だか知らねえけどな、立場ってのを考えろよお前。おまえ、自分がこの学園都市でどんだけ目立つ存在なのか、知ってんのかコラ」
「なによ…………知名度ってのなら帝督のが上じゃない? それに大丈夫よ。ちゃんと場所とか考えて攻撃してるからさ」
「本当かよ? おまえの事だからところ構わずビリビリしてんじゃねえのか? 第一、強えヤツならここにいるだろうが? この学園都市230万の中のテッペン、第2位の垣根帝督様がよ?」
「第2位じゃテッペンじゃないじゃない? というか、帝督って昔から一緒にいるせいかどうにももう勝負、って感じじゃないのよね。なんだろ……兄弟みたいな感じ?」


 コロコロと変わる表情。
 お嬢様学校に通ってるっていうのにこの態度の悪さ。どうにかならんかねと帝督は頭が痛くなった。


「それにさ……あんたの未元物質(ダークマター)だって私の電撃をあそこまで完全に防ぎきれないわ。あれでレベル0だって言うんだから本当、変なヤツよね」


 ムカツクだの何だの言っておきながら、少し嬉しそうな顔でストローに口をつける幼馴染。
 帝督は、そんな幼馴染の姿を見るのは初めてのことだった。また、そいつの口から他人のことを聞くのもあまりないことだった。


「レベル0が超能力者であるおまえを退ける…………ねぇ………」


 帝督はゆっくりと紅茶を飲み干すと、夕焼けに染まる空を見上げた。


「おもしれえよ、美琴。俺もそのレベル0に、興味ってのが出てきちまったぜ」


 垣根帝督は幼馴染――――御坂美琴を見つめてニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
















 とある魔術と禁書目録~もし垣根帝督と御坂美琴が幼馴染だったら~













 学園都市のレベル5。人口230万人を誇る学園都市にたった7人しかいない超能力者。
 その中でもかえって特異性を見せるのが御坂美琴である。


 彼女の能力はレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)。
 実は一般的にもこの電撃使いという能力はさして珍しいものでもない。レベル5とまではいかなくとも、レベル3クラスならゴロゴロいるのがこの能力である。
 しかし、レベル5にまでなるとそういう訳にはいかない。凡庸さがあるからこそ、レベルを一つ上げるのにそれこそ血を見るような訓練をこなさなくてはならないのだ。


 そもそも、他のレベル5は特別厳しい訓練を経てなった人間ばかりではないのだ。
 第1位の一方通行を始め、第二位垣根帝督、第7位削板軍覇など、先天的に特殊な能力を保持していたものがなっていることのほうが多いのである。
 だからこそ、凡庸な電撃使いなどで第3位に位置する御坂美琴はある意味特別な存在であるといえよう。


 その御坂美琴を片手間であしらう人間がここいらにいるなどとは垣根帝督には信じられなかった。
 ましてやあいてはレベル0の無能力者だという。そんな存在はこの目で見るまでは信じられない。
 そう思った垣根帝督は、とあるビルの屋上から町を眺めていた。美琴を打ちのめした、レベル0をみるために。







「あいつがそうか…………」



 帝督は双眼鏡越しにフと目を細めた。
 ツンツン頭をポリポリかきながらのんびりと歩く高校生。あれこそが、上条当麻…………であるらしい。
 見た目は中背中肉。身長はやや低く、格闘技か何かをやっているような風貌にも見えない。


「……と、見た目は関係ないわな、見た目は。とはいえ、あいつが美琴を簡単にあしらうほどの男にはとても見えないわな。…………俺の『未元物質』もあしらってくれるかな? 上条クンよォ……」


 ククク、と低く笑うが、すぐにその考えを取りやめる。
 美琴じゃあるまいし、戦いを挑むなんてどこの格闘マンガだ。俺の美学に反する。
 彼は双眼鏡から目を離し、ライターを取り出しタバコに火をつけた。


「…………ふぅ。美琴の前じゃ吸えねえからな……。ま、とりあえずあいつが学園都市の暗部に所属してるって訳でもなくて安心したぜ。美琴はすぐに何でも首を突っ込みたがるからな」


 ふぅー、と白い煙を吐き出しタバコの吸殻を靴裏で踏み潰す。
 チラリと時計を見る。この時間なら、美琴は公園の方をうろついているだろう。
 忠告しておくか。無駄とは思うが、痛い目見る前に止めれればその方がいい。
 そんなことを考えている帝督の背後で、爆発が発生した。


「――――なんだ!?」


 爆心地は帝督のいる場所から遥か先。とあるアパートから発生していた。
 帝督は再び双眼鏡を構える。あそこはさっきの上条とかいう奴が住んでいたところのはずである。
 結構大きな爆発だったようで、今も部屋からは火が吹き出ていた。


「オイオイ、ガス爆発でもしたかぁ? ……………ん?」


 帝督が感じたのはわずかな違和感。
 何かがおかしい。爆発か? いや、ガス爆発やら能力による爆発でもああいったふうになる。じゃあ、何がおかしい?
 しばらく現場を眺めていた帝督だが、その違和感は次第に大きくなっていく。


「なんだ……。何がおかしい? あの程度の爆発ならできるやつはゴロゴロいるだろう。いや待て。人か? なぜ誰もアパートから出てこない? それに野次馬すらいない……だと? どうなってやがる?」


 アパート周辺には人影はない。普通、あれだけの騒ぎになれば人も集まるだろうに。


「……能力者か? チッ、面倒だが……未知の能力だ。行くか」


 そう言った帝督の背中から光り輝く6枚の翼が、まるで天使が羽を広げるような形で発生する。
 その翼を羽ばたかせ、帝督は鳥のように空を駆け上がっていった。













・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 ステイル=マグヌスは困惑していた。
 若干14歳で現存するルーン24文字の解析に加え、新たに6文字を加えた天才的な魔術師にしても、目の前の現象について説明することはできなかった。


「バカな…………ボクの『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が……」


 ステイル=マグヌスの必殺ともいえる『魔女狩りの王』が、目の前の少年の右手の一振りにより虚空へと霧散していく。
 降りしきるスプリンクラーの水滴が、彼のマントを濡らしていく。
 ステイル=マグヌスは、2,3歩下がりながらも手のひらに炎を新たに生み出した。


「は、灰は灰に、塵は塵に。吸血殺しの紅十字!!」


 ステイル=マグヌスの誇る摂氏3,000℃を誇る炎の剣。
 それは肉を裂き、骨をも溶かす修羅の一撃。この世に触れて生きていける人間など存在しない。
 しかし、目の前の少年は、


「邪魔だ」


 と一言呟いて右手を振るう。
 ただ、それだけで炎の剣は何事もなかったかのように虚空へと掻き消えていった。


「な、なんなんだ……その手は。なんなんだ……キサマはッ!!」


 黒髪ツンツン頭の少年は拳を固く握りながら、1歩1歩踏みしめるように歩く。
 その姿に脅威を覚え、ステイル=マグヌスは自分でも意識できない程度に後ずさりをする。
 まるで、未知なる物の恐怖に怯えるかのように。


「……あんな小さな女の子を追い掛け回して、血まみれにして……こんな風に俺の家もメチャメチャにしやがって……なんなんだよ、魔術師ってのはよ」
「く、来るな!!」


 ステイル=マグヌスは再び炎を手のひらに生み出し、それを放つ。
 しかし少年はまたも右手を振るうだけでその現象をかき消してしまう。


「インデックス……悪いけど俺は、地獄の底についていくことはできねえよ。だからさ、おまえを地獄の底から……引っ張りあげてやる!!」


 少年は一気に加速する。
 右の拳を痛いくらいに握り締め、一直線に長身の魔術師の下へ。


「おまえが、この子を……インデックスを物のように扱うのなら……そのふざけた幻想をぶち殺すッ!!」


 少年の拳は、ステイル=マグヌスの顔を貫くかのように突き刺さった。













「おい、インデックス!! しっかりしろ!! クソ……病院!!」


 ステイル=マグヌスを打ち破った少年は、血まみれになったシスターの元へ駆け寄った。
 シスターの名はインデックス。彼女が着る白き礼装も、今は血にまみれて赤く染まっていた。


「病院は……ダメだ。こいつIDとか持ってないだろうし、下手したら即拘束されちまう。くそ、どうしたら!」


 頭をかきむしるように抱える少年。
 そこに、一つの足音が響く。


「よう、異邦人でも宇宙人でも見てくれる医者知ってるんだけどそいつのとこ行くか?」


 気がつけば人影が少年の隣にあった。
 少年は見上げる。
 一見チャラついたようなホストのような風貌。少年には見覚えの無い人間であった。


「おっと、そんな顔すんなって上条当麻君。俺はお前の知り合いの知り合いだ。そんなことより、そのシスターさん、そのままだと死ぬぜ? 行くなら早く行こうぜ」


 あくまでも軽く聞こえるその口調に少年――上条当麻は一瞬躊躇したものの、インデックスを抱き上げ頷いた。


「……俺も一緒に行かせてもらう。文句はねえよな?」
「もちろん構わねえぜ。というより、おまえが連れて行かないんなら誰が連れてくんだよ?」


 男は軽薄そうに薄く笑う。


「俺は垣根帝督。よろしくな、上条当麻君よ」





 ―――――科学と魔術が交差するとき、物語は始まる。













[21543] 介入する科学
Name: カンチャナ◆ccf92a2e ID:00d6c168
Date: 2010/08/30 08:48





「ちくしょうが……。どうしてこうなった……」


 とある病室の窓淵に腰掛けた垣根帝督は自分の行動を後悔するように頭を抱えた。


「あ、その顔。まだ私の言うこと信じてないんでしょ? 私は『禁書目録』。10万3000冊の魔道書が私の頭の中にあるって、それで狙われてるんだよって何回も……」
「ちげえよ。第一、魔術だの狙われるだのそんなこたぁどうでもいいんだよ。それよか問題は……」


 帝督がチラリと見つめるその先を、当麻とインデックスも見つめる。
 見つめられた人物――――御坂美琴は不機嫌そうに顔を歪めた。


「なによ。私がいちゃいけないっていうの?」
「いけないも何も、おまえ関係ないだろ? ビリビリ?」
「誰がビリビリですってぇ……!! 私には御坂美琴って名前があるって何度言えば……!!」
「やめろ美琴。ここ病室だぞ。おまえは関係ない、なんて言われてもどうせ首突っ込むんだろ? ったく、俺としたことがドジ踏んじまったぜ……」


 帝督の指摘に、美琴は顔を赤らめながらそっぽを向き口笛なんぞ吹き始めた。
 ったく、こいつは『幻想御手事件』の時といい、『乱雑開放事件』といい、いらんことに首をつっこみたがり過ぎる。
 かといって、のけ者にして放置するような形にしたら勝手に行動するからタチが悪い。


「チッ、乗りかかった船か……。俺まで協力するハメになっちまうとはよ」


 他の二人はともかく、美琴を放っておくという選択肢は帝督にはなかった。
 帝督は再び悔いるように頭を深く抱え込んだのであった。













 「助けてやる」


 そう言ったのは善意からくるものではなく興味本位から。
 美琴の電撃だけでなく、あの発火能力者の炎まで打ち消したその能力に興味があったから。
 そして、帝督が紹介する医者とはおなじみのカエル顔、『冥土返し』。どういう理屈かしらないが、彼は切断された腕すらも一日で治してしまう。
 シスターの傷は放っておけば危険だが、キチンと処置すれば問題のないレベル。
 ここでこの上条当麻君に恩を売り、何らか利用できればいいと軽い思いで差し伸べた救いの手だった。


「病院に運ぶったって救急車か? いいのか? IDなくても?」
「いや、徒歩でいく。連絡はしておくが、さすがにそう何人もの人間に見せる訳にはいかないからな。ついてきな、上条当麻」
「な!? ついて来いったってこの人通りの多い場所を血まみれのシスターさん背負ってか!? 病院に着く前にアンチスキルに通報されちまうよ!!」
「あー、いいからいいから。ついて来い。時間の無駄だ。シスターの傷、致命傷じゃないみたいだけど、血出しすぎても死ぬぞ?」


 ぶっきらぼうに歩き始める帝督の後を、怖々歩く当麻withシスター。
 道の真ん中を歩いているというのに、すれ違う男子高校生も、井戸端会議する女子学生も誰一人としてこちらを気にすらしていなかった。


「………………あいよ、急患なんでよろしくな。それじゃあ後5分で行く」
「なあ、おい。垣根……だったよな? 病院側と連絡ついたのか?」
「ああ。ま、俺はこの手の人間を病院に連れてくこと多いんで常連ってやつだからな」
「なんか、すごいんだな。……それにしても、どうして誰も俺たちのこと気にも留めないんだろうな?」
「ああ、そりゃ俺たちの周りを『未元物質』が囲んでいるからさ」


 帝督は『未元物質』を彼らの周囲に展開し、その外からの人間の目をごまかしていた。
 この『未元物質』で光の角度と反射を調節することで、そこにはあたかも誰も存在していないかのような錯覚を起こさせているのだ。
 カメラでも彼らの姿を確認できない。機械でも、人の目でも彼らを捕捉することは不可能だった。……たった一人の例外を除いて。


「……あれ? これ帝督の『未元物質』? 何でこんなところで展開させてんの?」


 電磁波の流れによりある程度の人の居場所、動きが分かる人間がいる。
 更にその人間は、昔から『未元物質』を見慣れているので驚くことすらせずにその正体を言い当てる。
 その人間、電撃使いの頂点に立つと言われた『超電磁砲』御坂美琴は、彼らの目の前で可愛らしく首を傾けたのであった。













 第2話 介入する科学













「私は、お腹が空いたんだよ!!」


 そんなことを言い出したのは、まだ病み上がりのインデックス。
 朝、昼と病院食が続いたことについに限界が来たらしく、歯をガチガチと噛み合わせて上条当麻に訴える。
 もう怪我の具合は大丈夫とのことなので、外出許可をもらい近くのファミリーレストランにきたのだが……。


「どんだけ食べるのよ、あの子。店長さんらしき人が半泣きになってるわよ?」
「いいじゃねえか。どうせなら完全に泣かせてやれよ。なあ、上条?」
「……………あの、ここの会計ってどうなっているんでしょうかね?」
「そりゃ自分で食べた分は自分で払うのが礼儀でしょ? あ、シスターさんお金持ってないみたいだから彼女の分払うの、アンタだからね」
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 頭を抱えてうずくまる上条を、美琴はニヤニヤといたずらっ子のような笑みで見る。
 帝督はそんな美琴を見るのが初めてで、彼も面白さからフと笑みを零した。


「ねえ、美琴!! この飲み物ってどんだけ飲んでも無料なの!?」
「ああ、ドリンクバーね。無料ってのは違うけど、どれだけ飲んでも値段は変わらないわ。ま、飲めば飲むほどお得ってヤツね」
「そ、それならできる限りたくさん飲むんだよ!!」


 ダダダ、とドリンクコーナーに走っていくインデックス。それをムンクの叫びの人のような顔で見つめる店長らしき人。
 そんなインデックスを見つめながら、美琴はポツリと呟いた。


「なんか、楽しそうね。あの子」
「そうだな。……とても、記憶を失っているようには思えねえな。それにしても記憶喪失……なんか原因でもあんのか?」
「さあな。インデックスが言うには、魔術とかそういった関連のものは覚えているんだけど、他のことは何も覚えていないらしい。自分の名前すら……な。そんな記憶喪失なんてあんのか?」
「記憶の部分的欠如ってやつかしらね。トラウマや脳への外傷的ショック、他にも色々あるけど、追われてるみたいだしショックとかそういうのが妥当じゃないかしら?」
「それにしてもこの科学の街で魔術ときたか。おもしれえよ。今度はその魔術師ってのを捕まえて色々吐かせる必要がありそうだな」


 ククク、と軽薄そうな笑みを浮かべる帝督。
 そこいらのチンピラホストにしか見えないのに、なぜかやたらと迫力がある。


「その笑い方、止めなって何回言わせんのよ? 相変わらずその癖直らないのね」
「おまえもそのビリビリする癖は直した方がいいですよ、と小声で上条さんは言ってみます」
「なんですってぇッ!! 誰が、いつ、どこでビリビリしたって言うのよ!!?」
「い、今ですよ!! 今正に!! 止めてビリビリしないで!!」
「美琴!! なんか飲み物がもうなくなっちゃったんだよ!!」
「お客様方……お願いですから、もう帰ってください…………」


 店長らしき人はもう、完全に泣いていた。













・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 日は沈みかけ、空は澄み渡る蒼から夕空の赤を越え、漆黒の黒へと姿を変えようとしていた。
 ファミレスを追い出された4人は、今後どうするかをもう一度話し合うことにした。


 とりあえず、インデックスの食い散らかした食事代を貧乏学生の上条に払えるわけもなく、帝督から借りたお金を少しでも返すために上条は自宅へと一旦引き返した。
 闇に染まりそうな街を、帝督、美琴、インデックスの3人がゆっくりと歩いていた。


「おい、美琴。おまえ寮に帰らなくていいのか? もうすぐ門限だろ?」
「ゲッ……そうだった。また黒子になんとか誤魔化しておいてもらおっかなぁ……」
「おまえがそれやるたびにアイツ、『お姉様には金輪際、一切近づかないで欲しいですの!!』ってなぜか俺に切れてくるんだけどな。なんとかしろよアイツ。俺のせいじゃねえだろが」
「あら、相変わらず黒子と仲良いのね」
「どこをどう見たらそうなんだよ!? 露払いだか何だか知らねえが顔を合わせれば『お姉さまに近づくな』だ。過ごした期間はアイツより俺のが長いっつうの」


 無駄口叩きながら歩いていると、唐突にインデックスがその歩を止める。
 そしてキョロキョロと辺りを見回すと、突然走り出してしまう。


「ちょっと、インデックス!? どうしたの!?」
「魔術の流れを感じるんだよ!! 美琴と帝督はここにいて! 確かめて来るんだよ!!」


 その小さな身体からは考えられない程の速度で駆けていくインデックス。
 帝督は、めんどくさいと考えつつも美琴と共にインデックスの後を追って駆けていった。














「インデックス!! どこ!?」


 美琴が声を上げるが、反応は返ってこない。
 すでに空は暗くなり、閑散とした静寂と闇が辺りを支配していた。


「…………妙だな」
「……うん。そんなに距離が開いてる訳でもなかったのに見失うなんて……」
「違え。それもあるが、いくらなんでも静か過ぎるだろ。それにこの人通りの少なさ。この時間帯に人っ子一人いねえなんざありえねえだろ」
「えっ? あ……ホントだ」


 今気がついたと言わんばかりに美琴が周囲を見渡した。
 まだ日は暮れたばかりの交差点には、誰一人として他人は存在していなかった。
 帝督はこの現象を見たことがある。あれはそう、上条当麻のマンションであの長身の魔術師が暴れていた時の事だ。
 あれだけの騒ぎでも人は出てこなかった。つまり、今回もあの魔術師とやらが絡んでいる可能性が高い。


「美琴、おまえの能力で探せるか?」
「え、うん……。やってみる」


 パチッと美琴の前髪から火花が走る。
 美琴は絶えず自身から電磁波を周囲に発信していて、反射波を利用したそれはレーダーのような作用を生み出す。
 更に、自身で意識し電磁波を発信させることによりその範囲は拡大し、機械の街である学園都市ではその一区画を覆いつくすことも可能だった。
 その美琴のレーダーが人影を捉える。1…2…3…合計4の人影。
 スッと美琴は闇の向こうを指差して、


「あっち……誰かいる。なんか……もしかして戦ってる?」
「……!! 上条かもしれねえ。魔術師が動き始めたか!? 俺らも行くぞ!!」
「―――――いや、それはできないよ」


 コツ、コツと足音を鳴らして一人の長身の神父が闇から浮かび上がるようにやってきた。
 くわえたタバコを投げ捨てると、その手からは巨大な炎が巻き上がる。


「残念だが、今回は出し惜しみはなしだ。キミ達全員が彼のようにボクの炎を打ち消せるわけではないんだろう?」


 神父の身体から炎が巻き上がる。
 渦のように巻きついた炎はやがて黒ずみを含んだ巨大な人型の塊へと姿を変えていく。


「――――顕現せよ、我が身を喰らえて力と為せ――――『魔女狩りの王』よッ!!」


 現れたのは炎の巨人。その意味『必ず殺す』を身体に秘めた真紅の魔人は二人の前に立ちはだかるようにその身を表す。


「オイオイ、本当にこりゃ科学じゃねえな、こりゃ」
「ホント、バカみたいにでかいわね。『発火能力者』でもこんな現象はできないわね」


 言いながら美琴と帝督は身構える。


「通しはしないさ、ここは――――――」


 魔術師――――ステイル=マグヌスはバッと両手を広げ、


「――――Fortis931、この魔法名の名にかけてッ!!」







 ――――――――科学と魔術が交差するとき、物語は始まる












・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




あとがき

ネタで始まった物語も2話目になりました。
ちょ、ステイルさん即死!! とか言わないで温かく彼を見守ってください。
それではまた。

8/30 少し修正しました。ご指摘感謝です。




[21543] 救われぬ者に救いの手を
Name: カンチャナ◆ccf92a2e E-MAIL ID:00d6c168
Date: 2010/09/01 08:19



 炎の渦に飲み込まれるように学園都市の闇は紅に染まる。
 

 ――――『魔女狩りの王』


 ――その巨大な身体はいかなる攻撃も受け付けず。
 ――その燃え盛る炎はいかなる生物も焼き尽くす。
 ――その巨大な十字架は聖人すらも磔にする断罪の十字架。


 ステイル=マグヌスは無慈悲に命令を下す。
 その巨大な力を。か弱き人間へと向けて。


「『魔女狩りの王』!! なぎ払え!!」


 『魔女狩りの王』はその暴力ともいえる攻撃を行った。
 標的は―――ボケッと突っ立つ垣根帝督。

 
 当たれば骨すら残さずに灰にするその一撃は、なぜか虚空で金縛りにあったかのように止まっていた。


「……!? どうした、『魔女狩りの王』ッ!? なぎ払え!!」
「――――そいつは無理だぜ、魔術師さんよ」


 垣根帝督は薄く笑う。ポケットに手を突っ込んだまま、まるで相手を諭すかのように。


「それにしても、すげえ火力だな。レベル5クラスってところか? ここまでの炎は見たことねえぜ。なあ、魔術師さんよ?」


 垣根が発動させたのは『未元物質』による盾。
 『魔女狩りの王』の攻撃により断続的に消滅する『未元物質』を、垣根は消滅するよりも早いスピードで生み出すことで盾としての役割を保っていた。


「バ、バカな……。『魔女狩りの王』の一撃を防ぐ……だと!? 3,000℃を誇る『魔女狩りの王』の一撃を防ぐ盾などこの世には存在しない!!」


 叫ぶステイルの姿を見て、ようやく帝督はポケットから手を出した。
 そしてククク、といつもの軽薄な笑みを浮かべ、


「確かおまえ、学園都市の人間じゃないんだったよな。じゃあ知らなくても当然か。俺の『未元物質』はこの世には存在しない『なにか』を生み出す能力だ。だからよ――――」


 背中から光り輝く6枚の翼を出現させた。


「おまえのその常識は『未元物質』には通用しねえ」











 第三話 救われぬ者に救いの手を










 上条当麻は血の海の中にいた。
 引き裂かれたように千切れたアスファルトの上で荒い息をしながらそれでも起き上がろうと手に力を込める。


「……どうして、あなたはそこまでするのですか? あなたにはその義理はないはずです」


 冷ややかに言葉を紡ぐのは髪の長い女。
 片足だけ破れたジーンズに胸元でしばった白いTシャツ。そして、自身を上回る長さを誇る長刀をその手に彼女は――――神裂火織は上条に問いかける。


「……義理か。そうだな、義理なんかねえよ。でもな…………」


 上条は立ち上がる。血まみれの右手を握り締め、震える足を無理矢理押さえ込んで。
 

「あいつは……インデックスは笑ってたんだ。たかがファミレスくらいではしゃいで、初めて会った連中でさえ取り込んで……。本当はお前たちと一緒に笑うべきなんじゃねえのかよ!? それを知らせもしないで敵に回って……そんなんであいつは幸せになれんのかよ!?」


 血まみれの身体を引きずるように一歩、また一歩と踏み出していく。
 なぜか気圧されるように後ずさる神裂に向かって。


「もしもお前たちの言うように、記憶を消すことでインデックスが幸せになるのなら俺の出る幕じゃねえよ。だけど現実はどうなんだよ!? 幸せどころか昔の友達に追い掛け回されて切りつけられて、そんな生活のどこに幸せなんてあるんだよ!? お前たちは自分の都合で悪役に回っているだけだ!! そんなヤツらにインデックスを渡すなんて死んでもゴメンだぜ!!」


 上条のその言葉に、神裂はギリッと歯を噛み締める。
 無機質にさえ感じたその表情は一変し、怒りという色にその顔は染まる。
 もう、彼女は気圧されることはなかった。2メートルにも及ぶ七天七刀を構え、


「黙って聞いていれば素人がごちゃごちゃと……!! 私やステイルが、どんな思いで彼女の敵になったのか知らないくせに!! 引き裂かれるような思いを繰り返すことがどんなに辛いか知らない人間が、私の、私たちの苦悩が分かるんですかッ!?」


 上条の目の前から神裂の姿がかき消える。
 ドンッと音がして腹に鞘が突き刺さっているのを見て初めて攻撃されたことを知る。


「がぁッ…………!!」


 あまりの衝撃に身体をくの字に折り曲げた上条のアゴを思いっきり神裂は蹴り上げる。
 上条はくるくるとまるで人形のように宙を舞い、受身を取ることすら許されずに地面に叩きつけられる。
 そして神裂はそのまま鞘を振り下ろす。上条の手に、足に、腹に、頭に。己の何かを吐き出すように。
 それでも―――――


「…………わかんねえよ」


 ――――それでも上条当麻は止まらない。
 乱暴に振り下ろされた鞘を掴み取り、呆然とする神裂にしがみつくようにして立ち上がる。


「自分の気持ちを優先して、それを言い訳にしてアイツを傷つけるやつの言葉なんて、わからねえよ!! それだけの力を持ちながら……どうして……どうしておまえはそんなに無能なんだよ?」


 神裂は乱暴に上条を突き飛ばし、飛ぶように後ろに跳ねた。 
 上条はただ押されただけにもかかわらず地面に倒れふし、もがく。しかしそれでもまだ再び立ち上がる。


「やめて……ください…………もう………」
「やめねえよ。やめられねえ……よ。おまえたちが……おまえたちが……そんな方法でしかインデックスを助けられないというのなら……俺がその幻想を……ぶち壊す…!!」
「もう、やめてくださいッ!!」


 嗚咽を吐き出すような叫びと共に神裂の腕がわずかにブレる。
 ――――『七閃』。一瞬と言われるその間に7つの斬撃を飛ばす神裂の技の内の一つである。
 その斬撃はまるで真空波のように様々な角度から上条を目掛けて襲い掛かり―――――突然その軌道を乱した。


「――――なッ!?」


 『七閃』は上条の身体から弾かれるようにその軌道をずらし、彼の身体に傷一つつけさせない。
 とっさに右手を突き出した上条は、自分に攻撃が来ない事を不思議に思いつつも薄目で周囲を見渡した。


「ちょっと、アンタ。らしくないんじゃないの? そんなにボロボロになってさ?」


 前髪からパチリと火花を散らして。
 御坂美琴はそこに立っていた。














「御坂……?」
「大丈夫……じゃあないみたいね。じっとしてて。後は私たちがやるから」
「待て、御坂。あいつは別に敵じゃあ……」


 上条がその言葉を言うのを遮るように、凛とした神裂の声が響く。


「――ステイルはどうしたのですか?」
「ステイル? ああ、あの魔術師か。あいつなら寝てるぜ。ま、あの程度の下っ端には興味はねえ。……てめえには、色々話聞かせてもらうつもりだ」


 答えたのはいつの間にか美琴の隣に佇む垣根帝督。いつものように軽薄な笑みを浮かべて。


「下っ端……? あのステイルを退けたというのですか?」
「おいおい、まさかあの程度で抑えられると思っていたのか? 魔術師だか何だか知らねえが、レベル5二人相手に一人たぁ随分舐めてくれるじゃねえか?」
「…………レベル5。学園都市が誇る7人の内の二人……ということですか? まさか、関わることになってしまうとは……」
「後悔なら後にしてくれや。ホレ、知ってること洗いざらい吐いてもらおうか?」


 帝督が一歩、また一歩と無防備に神裂に向かって歩みを進める。
 神裂はスッと目を細めると、そのまま七天七刀に手をかけた。


「――――『七閃』ッ!!」


 ゴッ、再び神裂の身体から吹き荒れるような真空波が巻き起こる。――――しかし、


「――――その攻撃は通用しないわよ」


 美琴の身体からバチッと電気が溢れ出す。
 ただそれだけで『七閃』は目標を見失い、あらぬ方向へと方角を変えた。


「鋼糸をまるで鞭のように操っているのね。それも魔術ってやつなの? でも、残念ながら、電撃使いにそんな攻撃は通用しない――わよッ!!」


 美琴の掌から電気が迸る。
 それはまるでレーザーのように神裂へと襲い掛かる。
 文字通り光速の一撃。しかしそれを神裂は横に避けることでかわしてみせる。


「んなっ!? ウソッ!?」


 美琴が驚くことも無理はなかった。なぜならば、美琴の雷撃の槍は防がれたことはあってもかわされたことはなかったのだ。
 光速で迫る電撃をかわすにはそれこそ黒子のような空間移動能力者でもない限り、生身で避けるなんてことは不可能に近いはずだったのだ。
 しかし、神裂の常人とはかけ離れた危険を察する能力と、身体能力がそれを可能とする。
 美琴は再び雷撃の槍を打ち出すが、それも再び神裂はかわしてみせる。


「どうやってるっていうのよ? あれも魔術なの?」
「さあな。ともかく、どうもさっきの魔術師とは格が違うみたいだ。油断するなよ、美琴」
「わかってる!!」


 ギリッと美琴が歯を噛み締める。
 そして手を横なぎにして振るうことで電撃を扇状に発射する。
 広範囲に発生する雷撃。それを避けるのは聖人とも詠われた神裂にも不可能なことだった。


「――――Salvare000!!」


 しかし、神裂は叫ぶと同時に七天七刀を地面に突きたて、それを避雷針の代わりにして美琴の電撃をやりすごす。
 神裂がホンの一瞬安堵した、その瞬間を帝督は見逃さなかった。
 いつの間にか発生させていた『未元物質』の翼が神裂を横殴りするような形で叩きつける。


「……ぐっ!」


たまらず吹き飛ばされる神裂。しかし、まだ余力はあるようで吹き飛ばされながらも鋼糸で七天七刀を回収する。


「て、天使……? そ、そんなまさか…………」
「ま、自分でも似合ってねえのは自覚してる。こいつを見てカッコイイなんて言うセンスが悪い奴は一人しかいなかったからな」


 ピキッ、と美琴の頬が引きつったような気がしたが、帝督は気にしない。
 それよりも浮かべるのはいつもの軽薄な笑み。


「ダメだろ魔術師。見とれてちゃあ。そんな隙だらけだと…………」


 ガクッ、と突然膝崩れを起こしたかのように神裂が崩れ落ちる。


「…………チェックメイトになっちゃうぜ?」


 ククク、と声を出して笑う帝督。
 突然の息苦しさに神裂は理解ができぬように首元を押さえた。


 彼女を襲う息苦しさとは、単純に酸欠である。ただし、空気中の酸素は美琴の能力により電気分解を起こしており、その周囲は帝督の『未元物質』に覆われている。
 帝督は即席の『未元物質』の檻を作り上げ、その中に神裂を閉じ込めてしまったのだ。


「さて、これで終わり……だな。後は適当に縛り上げてあの長身の魔術師も回収して、色々話でも聞かせてもらうと――」
「…………唯閃ッ!!」


 ゴバッと大気が割れる。
 はじけ飛ぶように風は荒れ狂い、アスファルトの路面が風に流され天高く舞い上がる。
 荒れた空気の中、荒い息を繰り返しながら立ち上がる神裂。その手には七天七刀が握り締められていた。


「フゥ……フゥ……。まだ、チェックメイトには早すぎます」
「俺の『未元物質』を切り裂いたっていうのか……? ククク、おもしれえよ。こうなりゃとことんやってやるよ!! あっさり死んじまうなよ魔術師が!!」


 帝督の背中の『未元物質』の翼がバッと広がりキラリと輝いた。
 それを見た神裂は七天七刀を鞘に入れ、居合いの構えを見せて帝督を睨み付ける。
 バチッと火花を散らして美琴はポケットのコインに手を伸ばし、構える。
 もう殺し合いにすら発展しそうな空気の中、一人の男が両手を広げて間に立ちはだかった。


「待ってくれ!! コイツは敵じゃねえんだ!!」


 傷だらけの身体を引きずり上条は叫ぶ。
 そんな上条を見て、まず声を上げたのは美琴だった。


「敵じゃないってアンタ……。アンタ、そこの女にそんな身体にされたんでしょ? 大体、こいつ等がインデックスにしたこと忘れたって言うの?」
「そいつは誤解だったんだ!! だから、両方とももう止めてくれ!! 俺たちがここで戦ったって意味なんかねえんだよ!!」
「…………意味はあります。あなたが私達の話を受け入れない以上、私たちは争う運命にあります。私は絶対に引けない! 偽りかもしれなくても、それでもあの子を護ると誓ったのだから!!」
「なんでそうなるんだよ!? 俺たちがここで争ってもインデックスの記憶なんて戻りゃしねえだろ!? どうしてあいつの味方同士が、争わなきゃならねえんだよ!?」
「あん? ……なんか、今一噛み合ってねえな。オイ、上条。味方同士ってのはどういう――」
「――とうまっ!!」


 帝督の言葉は、息を切らせながら走ってくるインデックスの声に遮られた。
 その声にビクリと反応したのは、呼ばれた上条ではなく神裂のほうだった。


「とうま、美琴、帝督、大丈夫!? …………とうま、酷い怪我なんだよ…………」


 ギロッ、とインデックスの視線に再びビクッと緊張する神裂。
 その敵意のある視線を受け、砕けそうになるような心を隠しきれない。


「インデックス。俺は大丈夫だから、アイツをそんな目で見ないでやってくれ。アイツはおまえの仲間…………いや、友達なんだからさ」
「ち、違います!! 私はあなたの…敵……なんです。だから……友達なんかじゃ……」
「だったらなんでそんな悲しそうな顔するんだよ? おまえ、望んでいたんだろ? 本当は、インデックスと笑って暮らせる未来を。だったら無理なんてしないで、俺たちにも協力させてくれよ」
「で、ですからさっきも言ったとおり、私たちは手を尽くしたと…………」
「じゃあ、俺たち『科学』の出番だろ? 『魔術』でダメでも、『科学』と協力し合えれば奇跡だって生まれるかもしれない。幸い、頼りにできる医者もいる。だから、協力させてくれよ」
「…………とーま?」


 会話についていけないのか、首をかしげるインデックスの頭を笑顔で撫でる上条。
 そしてそのままインデックスの頭を押さえて、


「コイツのために……さ」


 ガシャン、と神裂の手から七天七刀が零れ落ちる。


「おまえの幻想は、俺が必ずぶち壊してやる。だから、もう自分を苦しめるのは止めてくれ」


 ガクッと膝を落とした神裂の目からは溢れんばかりの涙が零れ落ちた。
 顔を俯ける神裂を見て、上条はふう、と安堵の息をはいたのだった。










 ――――――――科学と魔術が交差するとき、物語は始まる















・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あとがき

と、いうわけで、ステイル神裂の魔術師2連戦は終了しました。
え、ステイルとは戦っていない? いやだな、冒頭で戦ってますよ。ハハハ。
いや、それにしてもステイルさんがこんなに人気があるとは思ってませんでした。
本当はもう少し戦闘描写書くつもりだったんですが、上条さんと神裂の戦闘に結構分量取られてしまったのであえなく省略しました。


それでもどうしてもステイルさんの戦いが見たかった、という人はダイジェストでどうぞ。







・ だいじぇすと


 ステイル、イノケンティウスが防がれるのと帝督の天使の羽にびびる
                 ↓
 美琴、そのスキを逃さずに横手に回りこんでの雷撃の槍。
                 ↓
          終  了  で  す  !!  ☆





 いかがだったでしょうか? まあ、2対1だし、拠点防衛型のステイルさんには厳しい戦いだったかもしれませんね。
 しかし、美琴といい帝督といい、実力がよく分からないですね。
 なんかどれくらい強いのかよくわからんです。帝督はともかく、美琴は出番多いのに……。


 ずいぶんあとがき長くなりました。
 最後に、たくさんの感想ありがとうございました。そして同時にゴメンナサイ。
 ステイルさんファンがここまで多いとは思ってもいなかったのです。スイマセン。
 作者氏ねとか言わないで頂けると幸いです。
 それではまた。


9/1 少し修正しました。よろしくです。






[21543] 揺れ動く心
Name: カンチャナ◆ccf92a2e E-MAIL ID:00d6c168
Date: 2010/09/14 06:22


 魔術師たちとの邂逅を経て、新たに上条当麻という怪我人を増やした4人は再び病院へと逆戻り。
 カエル顔の医者には「外出許可して怪我されても困るんだがねえ」と文句を言われたが、怪我をしたのは入院中のインデックスでなく上条なのでただ苦笑いするしかなかった。


 そんな上条の治療も終わり、新たな病室へと足を踏み入れた上条、帝督、美琴、そしてステイルと神裂等5人はベッドで寝ている上条を囲うようにそれぞれ位置していた。
 ちなみにインデックスは隣の病室で爆睡中。何やら魔術師の話はインデックスには聞かせたくないとのことだったので、カエル顔の医者に頼んで寝かしといてもらったのである。
 そんな中、ステイルと神裂は今のインデックスの現状とこれから自分たちが何をしようとしていたのかをポツリポツリと語った。


 ――完全記憶能力。それがインデックスの持つ能力の一つ。
 10万3000冊という膨大な量の魔道書をその脳に記憶することによりそれらの本を保管する。まさに名前の通り、『禁書目録』である。
 しかし、それらの本を記憶した代償は計り知れなかった。


 インデックスは脳の容量の85%を魔道書の記憶に当ててしまっているため、残る15%程度しか機能しないのである。
 つまり、完全記憶能力者であるということが仇となり、彼女の脳は一年程度の物事の記憶しかできない。それを超えると、彼女はパンクして死んでしまうのだ、とステイルは悲痛な表情でそれを言った。
 そんなステイルの言葉を美琴は呆然と聴きながら、


「…………冗談でしょ?」


 と呟いた。
 美琴に寄り添うように立つ帝督も疑問というか相手が何を言っているのか分からないといった表情でステイルを見つめている。


「冗談じゃないさ。……じきに彼女の身体は異変をきたす。時間にして後3日もないだろうさ。こうして話している間にも、彼女の脳は圧迫され続け、壊れようとしている」
「…………私たちは自分の行ってきたことが正しいとは思いません。しかし、それでも彼女が生きていてくれるのなら。そう思って彼女の記憶を消し続けてきました」
「おまえら……………」


 上条が沈痛そうな面持ちで二人を見つめる。
 神裂も、ステイルも辛そうな、しかし自虐的な笑みを浮かべてうつむいた。
 ステイルはコートからタバコを取り出そうとして、院内であることを思いだしチッと舌打ちする。
 そんな二人に再び美琴は言う。


「その…………ゴメン。あんたたちさ、真面目にそれ言ってるの?」
「……どういうことですか?」


 ギリッと歯を噛み締めるように神裂。
 そんな彼女の様子を見て、帝督はいつものようにククク、と軽薄に笑い、


「止めとけ美琴。どうやらこいつら、マジらしいぜ。学園都市じゃあ小学生でも知ってるようなことなんだがなぁ……ククク」
「何がおかしいッ!?」
「笑いたくもなるだろうがよ。手はつくしたとか言ってたから何したのかと思いきや……ククク……アーハッハッハッハッ!!」
「貴様ッ!!」


 ステイルがふところからルーンが刻まれた紙を取り出したのをみて上条は慌てるが、帝督はさして気にした様子もなく笑い、


「教えてやるよ魔術師。完全記憶能力で脳が死ぬなんてことありえねえんだよ」
「何をばかな……。現にインデックスは……」
「ククク。科学も魔術も下っ端が利用されることは変わらねえみたいだな。いっそ親近感が湧いてきたぜ、オイ?」
「な、何を言って――」

 


「テメエら、騙されてるぜ。インデックスの脳が一年でパンクするのは完全記憶能力が原因じゃねえ。何か別のことが原因だ」




 その一言で、ステイルは言葉を失った。
















 第4話 揺れ動く心













「別の事が原因…………?」


 そう言ったのは科学サイドであるはずの上条だった。
 本気で分かってなさそうな上条に美琴は頭をポリポリ掻きつつ、


「あのさ、そもそも知識を記憶するための場所と日常とか感じたものを記憶する場所が別だってことくらい知ってるでしょ? だったらさ、あの人達が言っている事って的外れにも程があるの。どれだけ勉強したって昨日の夕飯くらいは覚えているでしょ? それと同じと考えてくれていいわ」
「それによ、そもそも人の脳がパンクとかありえねえんだよ。人の脳は140年分の記憶を可能にする。つまり、完全記憶能力者でもパンクするなんてことはありえねえんだよ。ま、200年くらい生きてる奴がいれば話は別かもしれねえがな…………」


 つらつらと話す美琴と帝督。神裂やステイルはともかく、上条までもが理解できないように首をかしげる。


「あー、もう!! 魔術師はともかく、なんであんたが分からないのよ!? 学園都市に住んでたら脳の記録術(かいはつ)なんて常識でしょうが!?」
「落ち着け美琴。つかよ、あんたらの理論でいくと完全記憶能力者の寿命ってのは7歳前後ってことになるんだが……意味分かるか?」
「あ、そ、そうか!!」


 ようやく合点がいったように上条が手を叩く。
 神裂とステイルは未だに疑問を顔に抱いたままである。


「仮に完全記憶能力が脳を圧迫するとしよう。15%で一年しか持たないんなら30%で2年。60%でも4年。100%フルに使っても7年足らずで一杯だ。このくらいの算数なら、あんたらでも分かるだろ」


 ククク、と再び軽薄に笑いながら告げる帝督に美琴が苦言を吐く。
 しかしそれでも笑いは収まらず、


「ま、理解できないならしなくていい。結果だけ言うぜ。おまえら、騙されてたんだよ」













・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 神裂は美琴や提督の言ったことを理解できなかった。いや、したくなかったというほうが正しいだろう。
 これまで自分たちが必死に探してきたインデックスを救う方法が、土台から間違いだったと指摘されたような気がして胸がムカムカした。
 それでも、それでもインデックスのために自分が何をすべきで何ができるのか? それを確認するために必死に口を開いた。


「……仮に……です。貴方たちの言うとおりだとしましょう。でしたら、一体どうしたら彼女を助けられるのですか?」
「そんなことは知らねえよ。てめえで考えろよ」
「帝督ッ!!」
「…………チッ。オイ、美琴。おまえ、こいつら信じるってのか? コイツらはインデックスに切りかかり、上条を病院送りにしたんたぜ? 今更勘違いでした、で済ませていいと思ってんのかよ?」


 正直な話、帝督にとってもうこの話の興味は失せていた。
 魔術といったものがあるのも確認したし、この状況下でそれの解析もできないのでこれ以上の発展もない。
 インデックスも上条も彼にとってはどうでもいい人間に過ぎなかった。生きようが死のうが関係なかった。それが、彼にとっての『他人』の認識だった。


 しかし、美琴は違った。
 同じレベル5、幼馴染といった関係でありながら彼女には困っている相手を見過ごすなんて選択肢はなかった。
 たとえ、敵であった人だったとしても。人のために何かをしようとしている人を見過ごすような性格はしていなかった。
 美琴はベッドに腰掛ける上条に聞く。


「……あんたはどう思うの? この人達はただの敵で、私達だけでこれからどうするか考えるの? それとも……」


 美琴が言い切る前に、上条ははっきりと言い切った。


「みんなで協力しよう。一人よりも二人って言うしな。それに、科学だけでは無理でも、魔術があればどうにかなるかもしれないだろ? 垣根もそれでいいか?」


 帝督は上条の方を見ていない。
 それよりも、自分の瞳を見つめる美琴を見ていた。


 ……どうせコイツは、ここまで巻き込まれたなら最後まで付き合うだろう。
 昔から、自分がこうだと決めたら引くことを知らない女だ。今回も、もう決めているんだろう。
 帝督はチッと軽く舌打ちをして、


「とりあえず冥土返しに見てもらえ。脳に異常があるかどうかだけでもあいつならすぐに見つける。それなら一日もかからねえだろ。そして検査の結果がどうでるかでこれからの方針を決める。それでいいか? 神裂さんよ?」


 神裂は「はい」と小さくうなずくことしかできなかった。














・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「相変わらず、笑い方直んないのね」


 病院での話し合いの帰り道。
 美琴と帝督は二人、静かな夜の学園都市の街並みを歩いていた。


「ほっとけよ。ったく、どこまでお人好しなんだよおまえらは。何にも得にもならねえ、ボランティア気分ですかオイ?」
「いいじゃないたまには。あの魔術師さんたちも悪い人じゃなかったみたいだしさ。……あの木山先生みたいにさ。もう一度笑って会えたら幸せじゃない?」
「木山…………あの『幻想御手』の主犯か。おまえ、あんまり事件に首突っ込むな。いつ危険な目にあうかわからねえんだ。今回も、無理に首を突っ込む必要なんてなかったろ?」
「……どうして帝督は口を開けば『首を突っ込むな』かな。私、もうレベル5なんですけど? 危険なんか跳ね返してやるわよ」


 明るく笑う美琴を見て、提督もつられて笑う。
 いつもの軽薄な笑みでなく、年相応の普通の笑顔。
 しかし、その笑顔を引き締めて珍しく真剣な表情で、


「とにかく、あんまり調子に乗るな。いつか痛い目会うぞ。いいな?」


 そう言うと、美琴は少しむくれた顔をして歩き始めてしまった。
 美琴は学園都市の闇をまったく知らないわけではない。しかし、その闇の深さは知らない。
 その闇は油断すれば第2位である垣根帝督すらも飲み込む深遠の闇。
 そんな闇の中に美琴を入れるなんてことを帝督は考えたくもなかった。


「あらあら、お姉さま~❤ こんなところでお会いになるなんて運命…………って何でまたチンピラホストと一緒におられるんですの!?」


 チッと舌打ちをする帝督。
 妙なところで変なのと会ってしまったと後悔する。


「おい美琴。後輩の指導くらいキッチリしやがれ。口悪いぞそいつ」
「んまあぁぁぁぁッ!! お姉さまを呼び捨てにするなと!! あれほど!! 言ったではありませんの!! 早く離れてくださいまし!! シッシッ!!」
「野良犬扱いかよまったく……。おい、美琴。何とかしろ」
「あのさ、黒子。何回も言うけど、帝督と私って幼馴染なんだ。だからさ、仲良くしてよ」
「…………お姉さまがそう言うんでしたら……」
「ま、そういうことだ。ホレ、仲良くしようぜ」
「無理ですの。生理的に受け付けませんの(分かりました。不本意ながら、仲良くさせていただきますわ)」
「一言目から本音の方が出てんじゃねえか。てーか、何でおまえここにいるんだよ? 何時だと思ってんだ?」


 黒子は美琴と帝督に間に入りつつ、微妙に距離をとりながら、


「ジャッジメントのお仕事ですの。なんでも、アスファルトがめくれ上がって道路は傷だらけ、標識も滅茶苦茶、信号機も電気トラブルで故障と散々みたいですの。明日はアンチスキルは眠れないでしょね……ってどうかしましたの? お姉さま?」
「い、いや……何でもない(普通に私達のせいだし)」
「それよりもお姉さま。寮監様への言い訳は考えてありまして? 言っておきますけど、黒子は今日は助けませんことよ?」
「えっ? 何でよ? ジャッジメントの手伝いしてたって事にしてよ!?」
「いーえお姉さま。お姉さまにはそろそろ反省してほしいですの!! いつになってもこのホスト崩れと夜までお遊びになって……。あなたも、私にお姉さまとの仲を認めさせたければ、お姉さまと二人で夜まで遊ぶなんて羨まし……じゃなくて、私と代われ……でもなくて……」


 帝督はため息を吐いた。
 この病的までに美琴を慕う黒子に何回こうやって文句を言われたことか……。
 美琴の後輩だから無碍にもできないし、扱いに困るので頭が痛くなってくる。


「ねえ、黒子。お願い!! ジャッジメントで協力しといたことにしとして!! じゃないと私……まだ死にたくない!!」
「首をコキャッとされたくらいじゃあ死にはしませんの。ホラお姉さま。帰りますわよ」
「死ぬって! それ死ぬって! ……帝督ぅ……」


 ウルウルと涙を浮かべる美琴。
 帝督はハァ、と小さくため息を吐いて、


「オラ白井。コイツで今日のところはジャッジメントにいたことにしといてやれ」


 ポケットから写真を取り出して黒子に手渡した。
 黒子は写真をチラリと見ると流れるような手つきで写真を奪い取りそのまま鞄のなかにテレポートさせ、


「……そういうことでしたら、今日はジャッジメントで協力していた、ということにさせてもらいますの」
「えっ、いいの? ……というか、今の何の写真? ねえ帝と――」
「さ、さあお姉様!! いきますわよ!!」
「ちょ、くろ――」


 美琴が言い終える前に、シュン、と音を残して黒子と美琴はテレポートしていった。


 黒子を大人しくさせるには写真に限る。それも、黒子のコレクションの及ばない範囲。つまり、美琴の中一以前の写真である。
 今日の写真は10歳くらいのころに撮った写真だっただろうか? まだ美琴にアホ毛があったころだからな、と帝督は苦笑する。


 帝督は頻繁に黒子に写真を渡す訳ではない。美琴が本当に困ったとき、そんな時にのみ写真を手渡すのだ。


 帝督は自分は甘いな、と思いつつ、常盤台寮の妙齢の女性を思い出し身震いを起こし、帰路につくのであった。
















 ――――科学と魔術が交差するとき、物語は始まる




・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あとがき

久しぶりの投稿となりました。
なんというかその……もう一巻飛ばしたくなってきました。
自分の中で1巻はあまり展開は変わらないつもりでいます。
提督と美琴を幼馴染にしたのはあの人と戦わせたかったからです。ハイ。


もう気がついたら上条さんが解決してました、にしちゃいたいくらいですね。
この後の解決方法は幻想殺ししか思いつかないし……フウ…………。


そういえば上条さんって本当に科学サイドなんでしょうかね?
もし違ったなら、ようやく20巻くらいまで科学と魔術交差しないんですよね……。


話が逸れましたが、今回はこれくらいで。
後1~2話くらいで一巻分を終えられたらいいなと思っています。それでは。



9/14 第4話修正しました。
   アホなミスばかりで申し訳ない。指摘感謝です。
   次からはこういうアホなミスはなくしていきたいです。








[21543] 終わり その1
Name: カンチャナ◆ccf92a2e E-MAIL ID:00d6c168
Date: 2010/09/25 21:00




 インデックスの脳に特に異常は見られない、医者は簡潔にそれだけを述べた。
 しかし、インデックスの体調は目に見えて悪くなっていく。


 魔術師達の言うとおり、インデックスを蝕む脳の異常は確かに存在する。
 ただ、それが科学では立証することができないだけで。


 医者は言った。
 医療の面から見ると、彼女には異常はない、と。
 脳に影があるわけでもない。骨が変形をきたして圧迫することもない。
 ただ、あるのは微弱な脳波の乱れのみ。それだけで病気ということにはならない程度の微弱な脳波の乱れのみ。


 ステイル=マグヌスは机に拳を落として言う。


「希望を見い出せたと思ったが、やはりこんなものだ」と。


 そんなステイルを見て、笑う男一人。……垣根帝督である。


「他力本願でいきなり被害者面かよ? いいじゃねえか。これからどうするか決まったんだしな? そうだろ、美琴? 上条?」


 話を振られ、得心がいったように頷く美琴によく理解ができない上条。
 薄く笑う帝督に神裂は言う。


「…………インデックスの記憶を消す……ですか?」
「ま、それでもいいけどな。その前にやることがあるだろ?」


 ククク、と笑う帝督を横目に美琴がやや神妙な顔つきで、


「科学的に見てもインデックスの脳に異常はなかった。でも、前にも言ったとおり記憶が脳を圧迫して殺すなんてことはありえない。じゃあ、なんでインデックスの体調が悪くなっているの? それは……」
「……それは、私達『必要悪の協会』の上層部が故意に彼女の脳を圧迫するよう仕向けているから……ですか?」
「うん。確証はないけどね。でも、多分これで正しい。科学で説明できない以上、原因は魔術にある。記憶を消す魔術があるんなら、一年おきに脳を刺激する魔術もあるんじゃないの?」
「…………確かに、そういった魔術はあったと思います。……が、もう時間がありません。それを調べて解決策を考えている間にインデックスは死んでしまいます。それだけは避けなければ――」
「おいおい、探す必要なんてないだろ? おまえらの話が本当なら、解決策は目の前にあるはずだろ?」


 神裂が目を見開く。
 帝督はそんな神裂を気にする様子もなく、ベッドに眠るインデックスを見つめて、


「10万3000冊を保持する……か。なら、証明してもらおうじゃねえか、インデックス。おまえに、その価値があるのかどうかをな」











 第5話 終わり その1













「…………じゃあ、私を襲ってきた魔術師たちは私の友達だったって……そういうこと?」


 少し苦しそうに呼吸をするインデックスは上条にそう告げた。


 あれから皆で話し合った結果、上条たちはとあるホテルへと場所を移し、インデックスにすべての事情を説明することにした。
 事件の中心でありながらあまりにも蚊帳の外だったインデックスは、ようやく自身がなぜ狙われているのかという真実を知る事になった。


 ステイルと神裂は悲痛な面持ちで顔を背けていた。まるで、合わせる顔がないといった風な面持ちで。
 そんな彼らを気にした様子もなく、帝督はインデックスに問いかける。


「悪いが、誤解を解くのは今度にしてくれ。とっとと本題に入るぞ。いいか?」


 その問いかけにインデックスはわずかに頷き、


「……確かに、足枷としての役割を持つ魔術はなくはないんだよ。16世紀に確立された反カトリック的な書物として扱われた魔術標本も――――」
「ああ、そういうのはいらない。結果だけ教えてくれ。具体的には、その魔術がどういったものなのかと、その解き方だな」
「……むぅ。じゃあ、説明を省くと、それくらいの魔術なら腐るほどあるんだよ。別に魔術じゃなくても簡単な霊装でもそれくらいのことはできるんだよ」
「霊装っつうと、あれか? あの『歩く教会』みたいなやつか?」


 上条がそう言うと、インデックスは頬をカァッと赤く染め、


「お、思い出させないで欲しいんだよ!! まったく当麻は…………」


 ブチブチと文句を言いながら指をコネコネといじくりまわした。
 赤くなって俯いてしまったインデックスに再び帝督が言う。


「んで、その解除の仕方は?」
「……それは現物を見ないとなんとも言えないんだよ。さっきも言ったとおり、腐るほどあるからその構築も構造も多種多様なんだよ。でも、そっちの魔術師……ううん、カオリとステイルの話が本当なら……」
「本当なら?」
「外部からの魔術にも影響を受けずに、さらに10万3000冊の魔道書を管理するほどの魔術なら、かなり強力な術式のはずなんだよ。……多分、この術式は被術者……つまり、私の体内に術式が描かれている可能性が高いんだよ」


 その言葉にステイルと神裂は目を見開く。
 ショックを受けつつも、神裂が問う。


「ちょっと待ってください。体内に術式って……それではまるで……」
「うん。『首輪』だよ。もしも10万3000冊を管理する私を管理するなら、このくらい強力な術式を使うしかないんだよ。他にもあるけど、私は今まで自分の身体に術式が刻まれてるなんてこと発見したことなかったんだよ。だから、これが一番可能性が高い」
「……なんだかよくわからねえが、とにかくその魔道書ってのは危険な品物ってことなんだな。んで、その解除方法は?」


 帝督の言葉にインデックスは静かに首を横に振る。


「あることにはあるんだけど……とても複雑だし、解析もかなり時間がかかるし今のこの段階では不可能なんだよ。こういった術式は慎重に解析しないとダミーシステムとかに誤魔化されたりして危険なんだよ」
「解析……ねえ。おい、魔術師サン達よ。アンタラ、解析とやらはできねえのか?」


 軽く言う帝督とは対照的な程に暗くなっているステイルと神裂は小さく首を横に振りうな垂れた。


「残念だが、僕たちは二人とも専門外なんだ。それに、今更外部から応援を頼んでも間に合わない。……すまない、インデックス」
「……なんか謝られても困るかも。でもいいんだよ。誤解したまままた記憶を失うなんて悲しいもんね」


 ニッコリと笑うインデックスにステイルはクシャリと泣きそうな顔になりながら目を背けた。
 まるで自分の運命を享受しているかのようなインデックスの顔に上条はわずかに腹を立てるが、拳を握って俯くだけだった。


 ……拳?


 上条は自分の右手を見る。
 その右手は、普段何の役にも立たない右手。
 しかし、いかなる異能をも無効化する右手。
 その右手はレベル5の雷も、魔術師の炎も、霊装すらも打ち砕いてきた右手だ。
 上条は右手をゆっくりと開いた。もしも、もしもこの右手でこの小さな女の子を救えるのなら――――


「なあ、インデックス。その術式ってのは体内のどこに刻むものなんだ?」


 本当に不便な右手だ。
 赤い糸切るは不幸を呼び寄せるは、普段は本当に役に立たない右手。
 しかしそれでも――――


「えっと……普通は脳に直接刻むか、もしくは喉の奥なんだよ。口内って意外かもしれないけど外界と交流をもつ人のなかでは数少ない臓器で…………」


 ――――それでも、こんな小さな女の子を救えるのなら――――


「…………というわけで、古来から脳と外を結んでいる口内に術式を刻むことは珍しくはないんだよ……って当麻?」


 ――――この右手には、意味がある。


 上条は、迷うことなくインデックスの口の中に右手の人差し指を突っ込んだ。











「……ふぇっ?」


 声を上げたのは口に指を突っ込まれたインデックスだった。
 はじめは何をされたのか分かっていなかったかのように呆然としていたが、口に指を入れられたことを意識し始めると、その顔は真っ赤に染まっていった。


「なななななななっ!?」


 なぜか美琴も顔を真っ赤にして口元を押さえていた。
 その隣では珍しく呆然と口を開く帝督と、唖然と佇む神裂。
 しかしステイルだけはその顔色を憤怒の色に変え、ルーンの紙を取り出し部屋中に貼り付ける。


「……コロスッ!!」


 ステイルがそう告げるのと同時だった。
 上条の耳に、パキンと何かが壊れた音が響いたのは。


 バギン! と鈍い音を立て上条は身体ごと右手を吹き飛ばされる。
 ステイルによる攻撃ではない。まるで、右手を拳銃で撃たれたかのような鋭い痛み。


 上条はたたらを踏みながら後ろに下がり、インデックスの顔を見る。
 ――その顔は、怖いくらい無表情で。恐ろしい程に眼を赤に染めて。血のように赤い魔方陣を、眼の奥に光らせて。


 マズイ、そう思ったのもつかの間、インデックスの眼が妖しく輝くと同時に、爆発でもおかしたかのように上条はステイルを巻き込んで吹き飛ばされた。


「――がぁッ!?」


 ステイルもろとも壁に叩きつけられ、上条は一瞬呼吸ができなくなるほどの衝撃を受ける。
 もしも、ステイルがいなければ壁に頭から叩きつけられ死んでいたかもしれない。上条はステイルに心の中で礼を言う。


「――――防壁を傷つけた魔術の術式を逆算――失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組み上げます」


 機械的にそう告げたインデックスは普段の明るい彼女ではなかった。
 まるで、何かに操られているかのように淡々と声を出す。


「ちょっと、インデックス!?」


 尋常でないインデックスの様子に、美琴も声を荒げるが、インデックスは何の反応も見せない。
 それどころか美琴の存在など無視をするかのように上条のほうにしか意思を向けていない。
 まるで、自身に危険を与える可能性があるのを彼だけだと言わんばかりに。


「『聖ジョージの聖域』を発動、これにより侵入者を破壊します。―――――。―――、」


 インデックスが人の頭では理解できない『何か』を歌う。
 まるで青白いレーザーのような光が、上条に向けて放たれたのであった。














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あとがき

というわけで、次回で一巻相当が終わります。
戦闘シーンあっさり終わる予定です。あんまり原作と変わらないですからね。

次が終わったら、結構変化してしまうので原作好きな人はもしかしたら注意が必要かもしれません。


後、少し駆け足でやってしまったので上条さんが強引過ぎるかもしれません。
「上条さんは紳士だからこんなことしない!」 と思っている方。スイマセン。

ステイルの扱いに腹を立てている人。もっとスイマセン。ちゃんと次の章では活躍する予定です。ハイ。

と、言うわけで今日はここらへんで。それではまた。



追記:なんかおかしな感じになってましたんで修正しました。報告感謝します。


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