1・元カノの美坂君なのだよ。
梨花「へぇー…久瀬にも怖いものってあるんですかー?」
久瀬「……ああ……」
梨花「それって誰なの?ボクに教えてくださーい」
子供の頼みを無碍にできないところが、凡そ外道な心しか持たない久瀬の唯一の良心なのだろう。
そこをまいにつけ込まれるあたりが、三流悪役たる所以なのだろう。
久瀬「……仕方ないな。実は元カノの美坂君なのだよ。凶悪な戦闘力を誇る戦闘民族の上に非常に嫉妬深い。僕が他の女の子と仲良くしようものなら問答無用で抹殺される。その上極度のシスコンで妹以外はどうなろうとしったこっちゃない…妹のためなら世界を滅ぼしかねない―――」
春原「あ、その…後ろ………」
久瀬「!!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
気づいたときには時既に遅し。
久瀬の背後で燃え上がる暗黒闘気……
??「……あなた、そんなに死にたいのかしら?」
久瀬「み、美坂君はなぜそこにいるのだい……?」
香里「さぁ?なんでかしらねぇ……」
穏やかな口調とは裏腹に、目は完全に笑っていない。
黒き炎は勢いを増すばかり……
―――しばらくお待ちください―――
梨花「と、ところで美坂…さん?」
香里「あら、なにかしら?」
闇の炎で黒こげとなった哀れな久瀬をなかったことにし話を続ける梨花。
その判断は至極当然であり、誰も彼女を責めることはできまい。
梨花「ど、どうしてこんなトコにきたのですか?」
香里「ま、久瀬君がまたなんか悪巧みしてそうな気がして…ね」
春原「ひゃあ……なんて健気なんすか……」
香里「勘違いはよくないわね。あなたも消し炭になりたい?」
怒涛の勢いで首を横に振る春原。
久瀬「……相変わらず、都合の悪いことは実力行使なのだな……」
いつの間に復活する久瀬。
次の瞬間には、香里の顔からは笑みすらも消えていた。
香里「……ま、あなたが何を企んでるのかは知らないけど……『諸悪の根源』による『時間圧縮』を食い止めたいんだったら大笑いよ」
久瀬&梨花「「!!!」」
そう、香里は既に久瀬の目的を知っていた。
しかし、その情報入手の方法はいったい何なのであろうか……
香里「まあ、校舎内を怪しい少女がコソコソ何かを調べてたもんだから、とっ捕まえてちょっと『脅したら』、その娘は時空管理局の人間だったらしくて、なにもかもゲロったわよ」
香里の顔には再び余裕の笑みが戻り(無論、目は笑っていない)、事も無げにものをいう。
それはさておきこの事件、『時間』が舞台となっている以上、時空管理局の介入は当然といえば当然である。
おそらく『諸悪の根源』が存在していることは時空管理局も突き止めているであろう。
その少女…時空管理局の人間は、同じく『諸悪の根源』の件に関わっている久瀬の足跡を調査しているところを香里に捕まり『脅された』とみて間違いない。
…しかし、久瀬にとって重要なのは、香里が何故その情報を掴んだか…ではなかった。
久瀬「……なぜ、そこまで知っていて僕を止めようとするのだ」
そう、久瀬が一番知りたかったのは、今更香里が自分たちのやろうとしていることに介入する理由だった。
香里「当然じゃない!なんで無関係のあなたがそんなことするわけ?理解に苦しむわよ。そんなの時空管理局の仕事じゃない!バカじゃないの」
久瀬「……時空管理局のことは僕も知っている。だが、アレでは『諸悪の根源』を突き止めることはできない」
そう、久瀬はある意味では『大きな力』というものには失望しているのだ。
舞(まい)の悲劇、えいえんの世界の存在、ひぐらしのシナリオ、悪夢&絶望のエンディング……
その例の枚挙には暇がなかった。
香里「大丈夫よ。時空管理局はそこまで無能じゃないわ」
しかし、そんな久瀬の心とは裏腹に自信満々の香里。
久瀬「なぜそう言いきれる?」
この久瀬の問いは至極当然であろう。
対する香里の答えは―――
香里「だって、あたしが乗っ取ったから」
―――まさに青天の霹靂であった。
久瀬「の…乗っ取った……って……」
香里「まあ、パチンコで勝ったお金でねっ」
春原&梨花「「(パ、パチンコ……!!?)」」
この二人は、もはや絶句であることは言うまでもない。
……半分冷静の久瀬はこう考える。
パチンコで勝ったところで、そんな一組織を買収できるような大金など稼げるわけがない。
そもそも香里はそこまでギャンブルは強くはない。
大概が熱くなりすぎて、引き際を誤りボロ負けのパターンがほとんどである。
っていうか、そもそも高校生がパチンコはダメだろ……
久瀬がそう考えている途中に、香里はこう付け加える……
香里「ま、そのパチンコで勝ったお金『2,000円』をもって、『ミッドチルダ首都地上本部』の門を堂々とくぐったわ。ま、多少うるさい蟲がいたようだけど、みーんな『おねんね』しちゃったしね」
直訳すると、障壁は堂々と破壊突破し、行動を邪魔する敵はすべて屠った…というところであろう。
香里「ま、あとは『評議会』とやらのモニター越しに『脳みそみたいなの』を壊そうとするだけで簡単。交渉はいとも簡単に成立したわよ」
久瀬「……それを人は『恫喝』というのだよ……」
……そんなことを平然とやる人間は、この女を除けば『範馬親子』ぐらいしかいない。
香里「でも、あなたのまどろっこしい『権謀術数』とやらよりはシンプルで確実だと思うけど?」
久瀬「……はぁ……僕は頭が痛い……」
完全にお手上げ、頭を抱え込む久瀬。
春原「(……は、初めて見たよ…。あの久瀬があんなに翻弄されてるの……)」
梨花「(……あんな彼女じゃ、ほんとーにかわいそーなの……)」
同情はするが決して助けない二人。
……それもまあ、いた仕方のないことであろう。
その後香里は、「とにかく、後は時空管理局がなんとかするから後は全員元の世界へ返しなさい」といい残し、自分は街へ帰っていった。
梨花「かわいそーかわいそーなの」
久瀬「あ、あのねぇ……」
とりあえず久瀬を慰める梨花ではあるが、久瀬としては心境複雑である。
そして……
春原「ま、まあ、ねえ、ほらあの(おっかない)元カノも言ってるんだし、あとはその『じくーかんりきょく』とかに任せようよ」
梨花「ダメなのです!あんな後から割り込んできて、ズーズーしいったらありゃしないのっ!負けちゃダメなの!ふぁいっ!おー!なのです!!」
意見は完全に真っ二つに割れたのであった。
久瀬は結局―――
1・全てを時空管理局に任せ、えいえんの世界へ帰ることにした。
2・まいを信じ、そのまま手がかりを探しに向かった。