暗殺者一家ゾルディック家。その三男として俺は生を受けた。
生まれてからずっと、来る日も来る日も拷問じみた訓練ばかりを繰り返し、人を殺すための技ばかりを教えられた。
俺と同じ年頃の子供が親に甘えているとき、俺は実の母に電撃を浴びせられていた。
日の当たる場所で同年代の子供が友達を増やしているとき、俺は日陰で命を奪い、減らしていた。
ククルーマウンテンを降りた先で子供達が友達とはしゃぎ回っている時、俺は血の海の上で独り立っていた。
自由に、生きたかった。
もう、殺しなんてしたくなかった。
兄貴や親父達に作られた殺すための人形などではなく、俺は俺として生きたかった。
もっと普通に遊んで、友達を作って、笑って過ごしたかった。
だから俺は兄貴とお袋を刺して家を飛び出し、外の世界へと足を踏み入れたんだ。
……けど。
俺は今、そのことを猛烈に後悔していた。
正直、ハンター試験に出たことは完全に失敗だ。
もう、なんていうか……どういうことなの。
大多数の受験生は別にいいんだ。俺から見ればそこまで大したことない連中だし、問題ない。
試験内容も別に問題ない。先頭を走っているモラウとかいうおっさんの後について走るだけだ。
問題は、文字通り頭一つも二つも飛びぬけている4人。
……比喩ではない。本当に身長的な意味で飛びぬけているのだ。
特にあのゴン……さんとかいう奴。
何あの髪の毛。おかしい。
とにかくあんな連中とは関わりたくない。だから俺は一番先頭を走っていたんだ。
先導しているモラウとかいうおっさんも鬱陶しい筋肉をしているが、あの4人よりはまだマシだ。
……だが……。
一番前を走ったのは……正直大失敗だった。
政人達は、互いに対抗心を燃やしていた。
他の受験生など、もはや眼中になし。己の強敵は、この侮れない筋肉を持つ猛者達だ。
たとえ少しであろうとも、この強敵にリードを許してはいけない!
そう思い、政人、ウォーズマン、ウボォーギン、ゴンさんの4人は先頭を奪い合う。
身体と身体をぶつけ合い、一歩も譲らずにトップを奪い合う。
ゴンさんが先頭に出れば、その横をウォーズマンがスクリュー・ドライバーで抜いていく。
かと思えばウボォーギンがウォーズマンを後ろへと放り投げ、その隙に政人が先行する。
筋肉の塊が四人、己の筋肉の誇りにかけてのぶつかり合いだ。
(お前ら俺を取り囲んで戦うんじゃねーよ! 暑苦しいじゃねーか!)
運悪く、4人の丁度中央を走っているキルアにとってはたまったものではない。
飛び散る汗が雨のように彼の頭に降り注ぎ、巨体同士がぶつかる余波だけで何度も体勢を崩す。
(ねえなんなのこれ!? 俺なんか悪いことした!?)
政人が殴る! ゴンさんが蹴る!
ウボォーがタックルし、ウォーズマンが投げる!
4人の超人は巻き込まれてしまった可愛そうなキルアに気付くことなく、デッドヒートを続ける。
「はっ! いいねえ、ゾクゾクしてきたぜ!」
「コーホー!」
ウボォーの拳をウォーズマンが避け、素早く背後に回りこみ、相手の両腕を掴む!
掴んだ腕を後ろへと引き、さらにウボォーの膝の上に自身の足を絡めて、彼の腰の上に股を置くようにしてウボォーの上に立つ!
これぞ伝家の宝刀!
「パロ・スペシャル!」
「う、うおおおお!?」
ウォーズマンの技が決まってウボォーが叫ぶ、その横でゴンさんの蹴りが政人に直撃!
ボ! という盛大な爆音と共に政人が上空へと吹き飛ばされるが、彼はすぐに体勢を立て直して着地した。
「40%では手に負えないか……70%でいくぞッ!」
言うや否や、政人の筋肉がボン! と爆発するように膨れ上がる。
本当はゴンさんの強さを考えれば80%くらい出したいところなのだが、80%は周囲の毒だ。
弱い者は政人の近くにいるだけで消えてしまうのである。
周囲にギリギリ被害を出さず、なんとかゴンさんに対抗できるだけの強さ。
それが70%!
「うおおおおおお!」
「…………!」
政人の大木のような腕と、ゴンさんのこれまた大木のような腕がキルアの頭上で衝突!
ビリビリと空気を振るわせる。
(俺の頭上で戦うなあああ!!)
キルアはもはや生きた心地がしない。
心境的にはゴジラ、モスラ、キングギドラ、デストロイアが戦う街中に取り残された一般人の気分だ。
正直他所でやって欲しい。
そう切に願うが巨人4人はおかまいなしだ。
スクリュー・ドライバーがキルアの頭上を飛んでいく。
ウボォーの蹴りがキルアの横を掠める。
ゴンさんの拳がすぐ後ろで炸裂し、政人の張り手が目の前を横切る。
終わりが見えない怪獣大決戦だ。
(兄貴助けて超助けて)
もはやキルアは、心が折れかけていた。
*
走り続けて数時間。
彼らは濃い霧が出ている湿地帯へと足を踏み入れた。
“詐欺師のねぐら”。
日々多種多様な魔獣や植物、動物が互いを騙しあい、そして喰らいあっている危険地帯だ。
そしてここで一度はぐれてしまえば、戻っては来れない。
そのため、後ろを走っている受験生達は先頭を見失わないようにしなくてはいけない。
とはいえ、彼らは見失うとは微塵も考えていなかったのだ。
それはそうだろう。
あんな遠目でも目立つマッスルをどう見失えというのだ。
そう、思っていた。
だが次の瞬間前を走っていた筋肉の塊がこちらに近づいてきたではないか!
そして見た。
それは前を走っていたあのマッスル四人ではない!
そこにいたのは……キノコ!?
マッスルーム。
その怪物は、一言で言えば手足の生えたキノコだった。
傘のすぐ下に目がついており、竿の部分から太い手足が生えている。
逞しい、肉体だ。
鍛え抜かれた逞しい上腕二等筋! 腹筋! 背筋!
その逞しい肉体美を誇る怪物が次々と出現し、受験生達を取り囲んでいく。
その瞬間、受験生達は死を覚悟した。
見てわかった。このキノコは強い、と。
まとも戦って勝てる相手ではない、と。
はぐれたものは死ぬ。騙された者は死ぬ。ここのルールだ。
後はそのルールに従って食われるのみ。そう、考え諦めた。
ただ一人を除いて。
「……ざけんなよ」
一人の、男の呟き。
小さな、だが力強い言葉だ。
「俺はこんなとこで死ねないんだよ……」
その男の名は、レオリオ。
金のためにハンター試験に受験した男だ。
だが、金のため、というのは建前に過ぎない。
本当の目的は、医者になること。
かつて、彼には親友がいた。
かけがえのない親友だ。
ある日、その親友が病気になった。……決して治せない病気ではなかった。
足りなかったのは、金だ。
莫大な治療費、それを払うことができず、親友は死んでしまった。
彼は、単純だった。
自分に親友を救える力さえあれば、と思った。力を願った。
医者に、なろうと思った。
そして医者になって、親友と同じ病状の子を治療してやりたかった。
そして言うのだ。「金なんかいらねえ」と。
夢のような話だ。
そんな医者になるためには更に見たこともないような大金が必要となる。
結局何をするにも金、金、金だ。
だから彼はこのハンター試験に参加した。金がなくては叶えられない、尊い夢を実現させるために。
「絶対、ハンターになるんだ……!」
諦められない。
こんなわけの分からないキノコなんかに、躓きたくない。
生への執念。折れない心、そして意地。
それが、レオリオをとんでもない行動へと駆り立てた!
「絶対ハンターになったるんじゃあああああ!!」
跳躍!
レオリオは不意をついてマッスルームへと飛びつき……。
マッスルームに噛り付いた!!!
……何故そんなことをしたのか、それはレオリオ本人にもわからない。
だが、なんとなくこれが正しい行動に思えた。
こうしなければいけない、と思えた。
それは、もしかしたら危機に瀕して目覚めた本能かもしれないし、あるいは何かしらの念能力だったのかもしれない。
どちらにせよ、今言えることは一つだけ。
それは、正しい行動だった、ということだ。
マッスルームは元々この世界に生息するキノコではない。
“エリンディル”と呼ばれる、こことは違う世界より迷い込んだ存在だった。
そしてその外見とは裏腹に、その身は美味であり、また特殊な効果を秘めていた。
その効果とは、マッスルームを食した者の筋力を増加させ、ムキムキにすること!!
「う、お、お、おおおおおおおッ!!」
弾け飛ぶ、レオリオのスーツ!
腕は丸太のように太く、腹筋は割れ、背筋は発達し!
足は太くなり、首筋は太くなり、鋼のような筋肉を得る!
「だらっしゃあああ!」
マッスルと化したレオリオはそのパワーを早速発揮し、次々とマッスルーム達を蹴散らしていく。
凄まじい暴れぶり、そして強さだ。
マッスルームがまるで相手にならない!
それを見て、諦めかけていた受験生達の目にも光が宿った。
「そ、そうだ……俺達だって、こんな所で諦めるわけにはいかねえ!」
「その通りだ!」
「生きるぞ! たとえ泥水を啜り、あのキノコを喰らってでも生きてやるぞ!」
立場逆転。
人を喰らいにきたマッスルーム達だが、ここにきて逆に受験生に食われる立場と成り下がった。
次々と受験生達はマッスルームに喰らいつき、逞しい肉体を得ていく。
一人、二人、三人……。
十人、二十人、三十人!
百人!! 二百人!!! 三百人!!!!
なんということだろうか。
あっとういう間に、その場にいたほとんどの受験生が優れた力と筋肉を手に入れ、マッスル化してしまったではないか。
マッスル化せずその場に残っていたのはクラピカと、ポンズを初めとする数少ない女性受験生達、そして先行しているキルアにギタラクル、ハンゾーだけだ。
見渡す限り筋肉の山。
どこを見ても暑苦しい筋肉男。
そのあまりにも恐ろしい光景を見て、クラピカは一言呟いた。
「あ……悪夢だ……」
もう、このハンター試験は駄目かもしれない。
そう、クラピカは心の底から思った。
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/ タ {!!! _ ヽ、
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/ ヽ `、 `ヽ. /炎\ , ‐'` ノ / `j
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YV竺}|  ̄"⌒ヽ `、ヽ. ``Y" r ' 〈 `ヽ /´ ̄ヽ
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γ --‐ ' λ. ; ! `、.` -‐´;`ー イ 〉, ヾニフ / ,-、、
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み ん な で マ ッ ス ル ! ! !
ナイスバディ!(挨拶
クロスオーバーキャラはノリで考えた末、アリアンロッドTRPGからマッスルームを登場させました。
こいつ、結構便利なもので食べるとそのシナリオ中筋力が+2されてムキムキになれるんです。
これだ! と思った私は彼らを早速詐欺師のねぐらに出演させ、受験生達に食べて頂きました。
これで即席量産型マッスルの出来上がり!
さて、これ本当にどうしよう。
あ、ところでこれ、一発ネタじゃなくなってしまったので本板進出を考えてるんですが、果たしてこんな作品が本板に踏み入ってもいいものでしょうか。