「ウエスタン、阪神3-2中日」(25日、鳴尾浜)
今季限りでの引退を表明している阪神・矢野燿大捕手(41)が25日、ウエスタン・中日戦(鳴尾浜)に出場。代打で1安打を放つと、九回には下柳とバッテリーを組み、無失点で試合を締めくくった。515人のファンがつめかけて入場制限がかかったほどの超満員の中で、試合後にセレモニーが行われた。感極まり、涙で目を潤ませながらも、中日と阪神から花束を受け取り、それぞれ5度ずつ胴上げが行われて、涙を流しながらも笑顔で宙を舞った。
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敵味方は関係ない。人波に身を委ねて、矢野が宙を舞った。中日と阪神、それぞれ5度ずつの涙の胴上げ。赤く染まった瞳からは、快晴の青空がかすんで見えた。さまざまな状況と思いが交錯した運命の一日。幸せだった。
「この世界に入れてくれたのは中日で、(中日での)7年がなければ僕はない。中日の選手にも感謝してます」
20年間のプロ野球人生が凝縮されたような、濃密な時間だった。まずは八回1死一塁から代打で打席に立ち、久本から三遊間を破る左前打。「久本も気をつかってくれてね」と笑ったが、4カ月以上実戦から離れていた中での一打。ただ、見せ場はここで終わらない。
自らの安打から勝ち越し点が生まれ、迎えた九回だ。何度も甲子園を沸かせた、下柳とのバッテリーが復活。ずっと待ち望んでいた瞬間だった。
受け止めた18球、一度も首を振らせなかった。2死一、三塁のピンチでも、最後はセサルをフォークで空振り三振に。勝利で締めくくり、マウンド上で下柳と抱き合った。胸に、もう1人の同級生の思いを携えて。
試合前には、金本の激励を受けた。うれしかった。「大変な時に、体調のこともある中で気持ちがありがたい」。リハビリ中の支えでもあった思い‐同級生3人でのお立ち台。夢はかなわなかったが、形は違ってもこの日の3人の気持ちは、一つに重なり合っていた。
セレモニーでは、中日時代に正捕手を務めていた中日・中村バッテリーコーチから花束を受け取った。「中日の時にどうやっても超えられなかった人やから」。ずっと背中を追い続けた。あの悔しさがあって、今の自分がいる。感謝の思いしかない。
「野球人生を幸せに送れた。1軍も大事な時期。機会があればということで、準備はしっかりしておきたい。1軍も自力優勝の可能性があるし」
試合中やセレモニー中、ファンからは歓声が絶え間なく注がれた。節目に再び信じた、1軍の優勝と自身の出場機会。まだラストダンスとは思いたくない。
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